異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません   作:黒月天星

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第百七十三話 名前の一致と人違い

「…………あっ! うんうん……今着いた。そっちは…………分かった。引き続きよろしくね」

「シーメ。向こうはどうだって?」

「先に着いて探しているけどまだ見つかってないって。まあ簡単に見つかれば苦労はないんだけどね」

 

 シーメは額に手を当ててむむむっと連絡をしていたようだが、こちらが声をかけると首を横に振って答えた。エプリなら居たらすぐに見つけられそうだし、もしかしたら向こうには居ないのかもしれない。

 

 

 

 

 結局俺達は二手に別れてヒースの居そうな場所を探すことにした。俺、シーメ、セプトの班と、エプリ、ソーメ、大葉の班だ。

 

 このメンバーの理由だが、まずシーメとソーメは加護の関係上連絡係としてそれぞれの班に別れる必要がある。次に、俺と大葉が一緒に居ても荒事になった場合足手まといになる可能性が高い。そのためここも分けなくてはいけない。

 

 そこまでは良かったのだが、最後にエプリとセプトがどっちが俺の方に付くかで少し揉めた。どちらも自分が俺の方に付くと言って譲らなかったのだ。……俺ってそこまで心配されそうな感じに見えるのかね?

 

 最終的にエプリが一時的に離れるという事でしぶしぶ妥協した。

 

 これはエプリしかこの中で雲羊を操れないこと。それと風を読むことで人の気配を探ることが出来ることから、即行で片方の場所を探した後すぐに合流できるという点からだ。

 

「……なるべく早く探して合流するから、私が居ない間無茶をしないように。特に自分から荒事に首を突っ込むことの無いように。……良いわね?」

「大丈夫大丈夫! そうそう厄介なことは起こらないって! ……多分」

 

 ヒースが何を探しているのか分からないので、その点だけ不安だという意味で多分と匂わせると、エプリは一つ大きなため息をついて「……その多分がアナタが言うと非常に怖いの」と返してきた。心配性だな。

 

「いや……センパイのこれまでの武勇伝を聞くと、そういう反応も全然間違いじゃないと思うっすよ?」

「うん。すっごく心配」

 

 何故か大葉が困ったような顔で俺を見て、セプトはぎゅっと俺の服の裾を掴む。気のせいか服の中に居るボジョも同感とばかりもぞもぞ動いている。いやそれは大葉もどっこいどっこいだろっ!

 

 

 

 

 とまあこんな感じのことがあって二手に別れ、俺達はやっと目的の場所に到着した。……けっこう歩きで来るのは大変だったと言っておこう。幸いセプトもシーメも疲れはなさそうだけどな。

 

 ここら辺はどうやら倉庫街のような場所らしい。建物はそこら中に建っているのだが、どれも画一的な造りで窓なんかがほとんど見当たらない。

 

 おまけにほとんどの建物の扉が外側からしっかり施錠されているようで、明らかに住居としては不適格だ。

 

 そんな建物ばっかりで普通の店はまるで見当たらない。まあ考えてみれば、人があまり来ない所に店を建てても仕方がないという事なのかもしれないけどな。

 

「確かにエプリの言った条件に当てはまっている場所だけど……どういった場所なんだろうな?」

「ここらは通称物置通りって言ってね、確かテローエ男爵って貴族様が管理してるって前お姉ちゃんから聞いたよ。なんでも、金を払うと一時的に物を預かってくれるんだって。……話によると後ろ暗い物なんかも結構あるってさ」

 

 ……なんか日本でも見たことあるなそんなの。異世界でも物の保管場所に困る人は居るらしい。

 

 でも管理しているのが貴族なら下手に手を出す人はそうそういないだろうし、商売としてはよく考えられているのかもしれない。

 

 そこでふと気になったが、このノービスには何人の貴族が居るのだろうか? この前ヌッタ子爵にも会ったばかりだし、詳しくは聞かなかったけどドレファス都市長だって立場上貴族であるはずだ。

 

 領地やら何やら貴族というと特権持ちのイメージがあるが、そんなのが沢山いたら町を運営するのも大変なんじゃないだろうか? ことわざにも「船頭多くして船山に上る」なんてものがあるしな。

 

 これまではセプトのこととか金稼ぎとかいろいろ忙しくて考える間もなかったが、折角貴族とかも普通に居る世界に来たんだ。そこらへんもまとめてその内誰かに聞いてみたいな。

 

「トキヒサ。大丈夫?」

「……えっ!? あぁ。大丈夫だ。ちょっと考え事をしてただけ」

「何してんのトッキー? ヒース様を探すんでしょ? おいてくよ」

 

 気が付くと、いつの間にかセプトは心配そうにこちらを見ていて、シーメは既に建物の一つを外側から見て回っている。時々耳を澄ませて中の様子を探ってもいるな。

 

 考え事はあとあと。まずはヒースを探さないとな。俺は軽く頬をパチンと叩き、シーメを追って捜索に加わった。

 

 

 

 

 そうしてさあ探すぞとやる気を出したのは良いものの、間の悪いことに月が分厚い雲で隠れ始めた。

 

 空に三つ浮かぶ月の内、二つまでが完全に雲に覆われ残る一つも陰り始めている。ただでさえ暗いのに、月明かりも無くなったら余計探しづらい。幸先が悪いな。

 

 俺とシーメは“光球”を再び出し直し、セプトも明かりとしてカンテラをしっかり持つ。特にセプトは魔法の関係上、光源の有無がかなり重要だ。そのまま建物群をあてどなくぶらつきながら探していく。

 

 だが、視界が悪いとはいえ他にも探すにはまだ手はある。こんな人気のない所だから、誰かいたらそれは高い確率でヒースに違いない。住宅も近くにないのなら大きな音を出したって問題はないだろう。という訳で、

 

「ヒース様~。どこですか~」

「ヒースや~い! 近くに居るならさっさと出てこ~い! こらっ! 聞いてんのか良いとこのボンボ~ン」

「ボンボ~ン」

「何そのボンボ~ンって? 聞いたことないんだけど?」

 

 そこら中に響くよう声を張り上げて探していると、シーメが不思議な顔をして聞いてきた。この辺りじゃ言わないのかね?

 

「ああ。ボンボンってのは俺の故郷で、金持ちの親に甘やかされて育った奴のことをそう言うんだ。ヒースってもろにそんな感じだろ?」

「ちょっ!? いくら何でもそれはちょっと不敬じゃない? 確かに愛情はたっぷり注がれてると思うけど」

 

 ……まああれでも都市長さんの息子だし、大抵の人に様付けされてるんだから偉いんだろうな。そんな相手にこんな事言ったら確かに不敬と言われてもおかしくない。だが、

 

「良いんだよこれくらい。ヒース一人のためにどれだけの人が心配して動いてくれてるかって話だよ。むしろガツンと言ってやんなきゃ分かんないんだって」

 

 そう言うと、何故かセプトが無言でこちらを見ている。……何となく俺が言うなって言われてる気がするけど、そこは気がつかないフリでいこう。

 

「……そうだね。言われてみればトッキーの言う通りかもしんない。まあこんな状況だし、最悪あとでエリゼ院長にとりなしてもらえば悪ノリで許してもらえるか。そうと決まれば……ヒース様~。ボンボン様~。居るなら早く出てきてくださいよ~! 出てこないと以前エリゼ院長から聞いた恥ずかしい話をペラペラ喋っちゃいますよ~!」

 

 シーメは少し俺の言葉を聞いて考えたかと思うと、にんまりと少し楽しげな感じでそう声を張り上げた。おぉ……これはヒドイ。いくら人気が無いからってそこまでやるか。

 

 一応話し方からそれなりに敬っているのは感じていたが、それとは別に日頃言いたいことの一つや二つ溜まっていたらしい。良い機会だからどさくさで言ってやろうって感じだ。

 

「ヒースのボンボンや~い。……なんか楽しくなってきたな。アシュさんにぶっ飛ばされまくっているボンボンや~い」

「ボンボ~ン。ボンボ~ン」

「ボンボ~ンのヒース様の恥ずかしい秘密その一~! 実は小さい頃、うちの教会に遊びに来た時にうっかりお漏らししたことがある~っ! その二~! その時にこっそり部屋の壁に描いた落書きがまだバレてないと思ってる~っ! ちなみに内容は『らにーだいすき』。その頃から甘酸っぱいですよ~!」

「……シーメ。武士の情けでそこまでにしといてやってくれ。流石にちょっとかわいそうになってきた」

 

 そんな感じで俺達は、ヒースをおちょくるような言葉を敢えて選んで呼びかけ続けた。そして遂に、

 

「ボンボ~ン」

「ボンボ~ン!」

「ボンボボ~ンのボ~ン!」

「やかましいわこの野郎っ!!」

 

 おっ! 俺達以外の反応があった! そこら中をぶらつきながら呼びかけ続けた甲斐があったな。

 

 建物の一つの中から、明かりらしきものを持っている誰かがのしのしと歩いてくるのがぼんやりと見える。

 

 この建物は他の物とは違い、扉が施錠されていないようだ。そうして出てきた人物に対し、俺はようやくかとばかりに声をかける。

 

「やっと見つけたぞヒー……って、誰だあんたは?」

 

 そこに居たのはヒースとは似ても似つかぬ姿。見るからにガラの悪そうな、ガタイの良い男だ。

 

 わざわざまくられた袖から見えるムキムキの腕は古傷だらけで、いかにも荒事に慣れてますって言わんばかりだ。いやホントに誰?

 

「散々今の今まで無茶苦茶言いやがっただろうがっ! このボンボーン様によぉっ!」

「えっ!? あんたボンボーンって名前なのっ!?」

「そうだよ悪いかっ! さっきから黙って聞いていれば、ぶっ飛ばされただのお漏らしだのと何言ってやがんだこのチビが!」

 

 その男、ボンボ~ンは凄まじい剣幕で詰め寄ってくる。チビと言われると一瞬ムカッとしたが、向こうの言っていることが本当なら悪いのはこっちだ。

 

 まさかこんな人気のない場所に、丁度ボンボーンなんて珍しい名前の人が居るなんて思わなかった。

 

 どうしたものかとシーメとセプトの方をチラリと見たら、なんと素早く二人は俺から距離を取っていた。……セプトの方はこっちに来ようとしているようだが、シーメが肩に手を置いてさりげなく止めているようだ。

 

 この薄情者と言いたいところだけど、下手にセプトが来たら状況が悪くなる可能性もあるのであながち間違っていない。しかし、

 

「おい。どうしたよ!」

「なんだなんだそのガキ共は?」

 

 さらなる厄介ごとが現れた。建物の中からまた他の人が二人やってきたのだ。しかも二人共ボンボーンに負けず劣らずガラが悪そうな顔してるし。

 

 ごめんエプリ。俺は荒事に首を突っ込むつもりはないんだけど、向こうからガンガンやってくるみたいだ。

 




 なんか知らない内に自分の秘密が暴露されているヒースでした。こういう時自分の子供の頃を知っている相手が口が軽いと恐ろしいものです。
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