異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません   作:黒月天星

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 うっかり予約時間を昨日のつもりが一日間違えていました。

 お待ちいただいていた読者の方々にはご迷惑をおかけいたします。


第百七十五話 喰らえっ! 皆に心配かけた分!

 急にこの場に現れたヒースは、男二人が倒れている状況をチラリと見ると、軽くため息をついてボンボーンに向き直った。

 

「……さて、仲間がやられたわけだが、お前は敵討ちでもするのか? 僕としても聞きたいことは有るが、去るのならそこで倒れている奴らに聞くので追わないが」

「はんっ! 仲間なんて言えるほどの仲じゃねえよ。ただの金で雇われただけのごろつき同士さ。それに、どうせ気に入らねえからぶちのめしてやろうとしてたとこだ。その点については手間が省けて逆にありがてぇくらいだな。……だがよ」

 

 ボンボーンはそこで言葉を区切ると、拳を握りしめてヒースに向けて構えを取る。その姿に逃げるなんて意思は少しも感じられない。

 

()()()()気に入らねえんだ。去るなら追わないなんてその上から目線の態度がよぉ! ……都市長の息子だからって良い気になってんじゃねえぞ」

「……僕をドレファス都市長の息子だと知って向かってくるならそれでもいい。武器があるなら出すがいいさ。そちらだけ素手では不公平だろう」

「その態度が上から目線だって言ってんだろうがっ! 舐めてんじゃあねぇぞ」

 

 都市長の息子と呼ばれて一瞬顔をしかめたヒースだが、すぐに落ち着いた様子で剣を抜きはらって構える。

 

 ボンボーンも声こそ怒っているが、無手で構えたまま油断なく軽くステップを踏んでいる。というかヒース普通に顔バレしてるじゃん!

 

「……行くぞ!」

「来いやあぁっ!」

 

 そうして二人が今にもぶつかり合おうとする瞬間、

 

「いい加減にしろこのバカっ!」

 

 俺が横から割って入ってヒースの頭にチョップを叩き込んだ。ヒースは頭を押さえて目を白黒させている。そんなに強くは殴っていないつもりなんだけどな。

 

「なっ!? 何をするんだ!?」

「うるさいってのっ! いきなり現れて、こっちを無視してバトルを始めんじゃないの! そもそもお前を探してこんなとこまで来たんだからな!!」

「そ、それはだな……大体お前達が何やら絡まれているようだったから割って入って助けたのであって」

「言い訳無用だこの野郎! セプトっ! 一発コイツにかましてやれ。ここに居ない人たちの分も含めてな」

「分かった。皆の分。まとめて」

 

 俺の合図とともに、セプトの影が大きく盛り上がっていくつもの形に枝分かれする。剣のような影、ハンマーのような影、槍のような影など様々だ。

 

 ……何故かハリセンみたいな形の影もある。以前俺が何の気も無しに非殺傷武器として教えた奴だ! 他の武器に比べてなんか違和感があるな。

 

「あんまりやりすぎないでねセプトちゃん。流石にそれ全部当たったらいくらヒース様でもケガするから」

「ケガで済むかあぁっ! ま、待て! 早まるな。話せば分か……うわあああっ!?」

 

 シーメのどこか面白がった言葉を尻目に、夜空にヒースの叫び声が響き渡った。皆に心配かけた罰だ。甘んじて受けてもらおう。

 

 ……ちなみに余談だが、色々セプトが食らわせたが直撃したのはハリセンだけだったりする。アシュさんとの鍛錬はしっかり役に立っていたようだ。

 

「……ちっ! なんか白けちまったな」

 

 ボンボーンもどこかやる気が削がれた感じで拳を下ろした。何とか尊い犠牲(ヒース)一人で平和的に済んで何よりだよ。

 

 

 

 

「この度は……誠に申し訳ありませんでした」

「私も、ごめんなさい」

「知らぬこととは言え私も色々言っちゃったからね。すみませんでした」

 

 俺達は深々とボンボーンに対して頭を下げる。そもそも横から茶々を入れてきた二人が居なくても、こっちの件はまだ片付いていないのだ。

 

 それとさっきぶっ倒れた男達は、ヒースが何か聞きたいことがあるというので暴れないよう縛って寝かせてある。

 

 久々に以前エプリから教わった、紐が無くても相手の着ている衣服などで拘束する方法が役に立ったな。

 

「他の二人の分も俺が引き受けますので、気が済むまで殴ってください。……出来ればそんなに痛くない感じだと助かりますが」

「奴隷の失敗を主人が被るなんて、ダメ。殴られるのは、私」

「それはダメだってセプト。あのボンボーンさんのぶっとい腕を見ろよ! あんなので殴られたらえらいことになるぞ」

 

 セプトがそう言って進み出るが、美少女がみすみす殴られるのを見過ごしたと有っては目覚めが悪すぎる。それぐらいならこっちが殴られた方がまだマシだい!

 

「トッキーが引き受けてくれるっていうのなら、私は遠慮なくお願いしちゃおうかなぁ。ほらっ! 私ってか弱い女の子だし」

「なんかそう言われると引き受ける気持ちが揺らぐけどな!」

 

 今にして思うけど、シーメって大葉と同じタイプな気がしてきた。どこかふざけるのを自然にやっているって感じで。

 

 見たところアーメやソーメとも性格は大分違うけど、姉妹だからと言って一纏めにしちゃいけないってことだな。

 

「もう良いっての! さっき俺は見逃すって言ったろ? そこの都市長の息子にはイラッて来たが、おめえ達が散々やってたのを見たらやる気が削がれちまった。俺の気が変わらないうちにさっさと帰んな」

「ボンボーンさん……ありがとうございます」

 

 顔に似合わずもっとも話が分かるのはこのボンボーンだったらしい。俺は再び深く頭を下げた。

 

「……という訳だから、ほらっ! 早いところ屋敷に帰るぞヒース。なんでこんな時間までぶらついてたのかは知らないけど、皆心配してたんだからな」

「そうですよヒース様。今お姉ちゃんやソーメにも連絡しました。じきに迎えが来ますからね」

 

 俺とシーメはそうヒースに呼びかけた。後はヒースを連れて帰ればこの一件は落着だ。だというのに、

 

「……悪いがまだ帰るつもりは無い。探しているものがあるんでな。それが済むまで待て。……あと毎回言っているが、気安く呼ぶんじゃない。名前に様かさんを付けろ」

「なっ!? なんでだよヒース!? そもそもこんな夜更けに何を探すって言うんだ?」

 

 名前云々は華麗にスルーする。だけど、ヒースが何かを探しているっていうのはエプリの推測した通りだ。ここまで来たらそれを聞いておかなくては。

 

 ヒースは何も言わずにボンボーンの所に歩いていき、何かを話しかけている。……って無視かよっ!

 

「へっ? 俺達が何であの建物に居たか? そんなの金貰って雇われていたからだ。今夜いっぱい使いの奴が来るまで()()()()()良いっていう美味い話でな。誰にってのは口止めされてるから言えねえが」

「だろうな。……まあおおよその見当は付いているが」

「こらっ! 無視するなよヒース!」

 

 ヒースはボンボーンと話し終えたが、俺が話しかけても返事もしない。おのれこの野郎……もしかして。

 

「ヒース……さん。一体どういうことか説明してくれないですか?」

「……良いだろう。先ほどの暴力はまあこちらにも非が有ったし、これで水に流そうじゃないか。これからもその態度と敬意を忘れなければ問題はない」

 

 ヒースはふふんと軽く笑みを浮かべてそんな事を言った。ちくしょうこの野郎! さっきチョップをかましたことを根に持ってたよ! 毎回ちゃんとさんって付けないとダメかね?

 

「ちなみにセプトも同じ扱いだったり? さっきのハリセンの恨みとか」

「まあさっきのはそれなりに痛かったが」

 

 ヒースはハリセンではたかれた個所を軽くさする。他のに比べれば安全とは言え、凄まじい勢いではたかれたから赤くなっている。

 

「だからと言ってこんな子供に責を問うほど僕は狭量では無いのでね。……その分この子の主人だというお前にはきつく当たるが」

「自分から主人って名乗ったことはないけれど、それはどうもありがとよっ! ……それで結局何を探してるんだ? せめてそれくらい話してくれてもいいだろ? 皆を心配させた分ってことでさ」

「お前に話す義理があると」

「お願い。教えて?」

 

 ばっさりとすげなく断ろうとしたヒースだが、セプトがまた無表情な瞳でお願いすると軽く後退る。以前のことや今日のこともあって、どうやら苦手意識が芽生えているのかもしれない。

 

「…………分かった。話す。話すからじっと見つめないでくれ。……まず先に訊ねたい。お前達は僕の行動についてどこまで知っている? 偶然でこんな所まで来るという事はないだろう?」

 

 ヒースはどこか諦めたようにそう言うと、目つきを鋭くしてこちらを見た。それは半ば睨みつけるようで、明らかにこちらを警戒している。そんなに警戒しなくても良いんだけどな。

 

「こっちもはっきりとヒースがここに来るって分かってたわけじゃないよ。足取りを追っては来たけど、ここに来たのは本当に半分くらいは偶然だ」

 

 俺はヒースにこれまでの経緯、ラーメン屋の主人から話を聞いたことや、今日ヒースらしき人影を見かけたことなどを照らし合わせ、ヒースの行動を推測して追いかけてきたことを説明した。

 

 ヒースはふむふむと頷きながら話を聞き、話し終わるとどこか呆れたような驚いたような顔をする。

 

「多少当てずっぽうではあるが、よくここまで僕の行動が予測できたものだ。……あのエプリという女性は何者だ? 以前少しだけ食事の際に彼女の所作を見たが、あれはかなりしっかりとしたマナーを学んでいないと出来ない所作だった。今回の件も踏まえると、そこらの庶民ではなく高い教養を持った者だ」

「そこは俺だって知りたいね。……っと、今はそのことはどうだっていいんだよ。大体そんなことがあって、俺達はここまでヒースを探しに来たって訳だ」

「……なるほど。では細かい理由などはまるで知らないのだな?」

「だからそれを聞かせてくれって言ってるの!」

 

 ヒースの言葉に少しだけこちらも声を荒げる。ボンボーンじゃないけど確かにイラっとするな。するとヒースは俯いて少し考えていたが、意を決したように顔を上げた。

 

「……ふむ。ではこちらも簡単に説明しよう。先に結論だけ言うならば……僕はその建物の中に有る物に用がある。まだ確認していないのでおそらくという話だがな」

 

 ヒースはボンボーン達が居た建物を指差した。あの中にいったい何があるっていうのだろうか?

 




 異世界にハリセンが伝来しました。……すぐ廃れそうですが。

 次回からしばらく視点が変わります。
 
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