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物置通りにてヒースと合流した俺達は、迎えが来るまでまだ時間があるという事で、これまでの経緯を話してもらうことにした。
純粋にヒースがどうしてこんなことをしたのかも気になっていたし、話していれば逃げないだろうという打算も少しある。
ちなみに場所はボンボーン達の居た倉庫の前だ。中には椅子ぐらいあるだろうし入りたかったのだけど、ボンボーンが言うには今夜いっぱい使いの者以外を追い払う事も仕事の内だそうで、中に入ることはさせられないとのことだった。
「そうか。ならば仕方ないな」
「……? あんだけ詰め寄っていたにしちゃあ随分と素直じゃねえか」
それを聞いたヒースの言葉に、ボンボーンがどこか拍子抜けしたような顔で言う。
確かに、何を探しているかは知らないけど、こんな時間まで探していたにしてはあっさり引き下がるもんだ。また乱闘になったらどうしたものかと思っていたので少しホッとする。
「その使いの者が来た時点で仕事は終わるのだろう? ならそれまで待ってからなら文句はあるまい? まあその時には僕に先に迎えが来ているだろうが、引継ぎはしておくのでその者に調べさせればいい」
「……ケッ! それなら良いけどよ。じゃあ俺達は中に戻るが……ついてくんじゃねえぞ!」
そう言うとボンボーンは、縛られて転がっていた男二人を引き摺って倉庫の中に戻っていった。嫌っているとは言え二人を連れて行くというのが意外に真面目だ。
これは余談だけど、中に入ってすぐに小さな椅子がいくつか飛んできた。さっきからボンボーンの評価が最初に比べてうなぎ上り何ですけど! ……ただ一人分足らない所に微妙に私怨を感じるな。
「さて、ではまず何から話すとするか」
「何からと言っても……ひとまず最初から話してくれよ。こっちは全然分かんないんだから」
「そうだよねぇ。私なんかさっきヒース様のことを聞かされたばっかりで、もっと何が何やら分かんない状況だし」
当然のように椅子をぶんどっていったヒースに対し、一人だけそこらの大きな石に腰かけているからちょっと痛い。さっそく自分の椅子を差し出そうとしたセプトを何とか宥めながら、ちょっとだけ恨み節も込めて訊ねる。
……シーメならそこまで良心は痛まなさそうだけど、ちゃっかり二番目に椅子を確保してたもんな。
「良いだろう。事の起こりは二か月ほど前、僕がとある事情により調査隊副隊長を退くきっかけになった時だ」
そう言えばジューネがそんなようなことを言っていたな。調査隊時代に何かミスをして、それが元で副隊長を一時的に退いているって。
「ちなみに何やって副隊長をクビに?」
「クビじゃないっ! 一時的に退いているだけだ。……ラニーを待たせているからな」
確かに、ラニーさんはヒースに対していつ戻ってきても良いというスタンスをずっと通していたな。あくまで兼任だから、仮にヒースが戻ったらすぐに副隊長の座を譲れるわけか。
「なるほど……じゃあ早く戻ってやれよ。ラニーさんの口ぶりだと戻れるんだろ? 今自分でも一時的にって言ったしな」
「言われなくてもすぐ戻るさ。今やっていることが済んだらな。……話が逸れた。続けるぞ。まず最初に、調査隊とは言っても常にダンジョンの調査のみをしている訳ではない。むしろそれ以外のことをしている時間の方が多い。正式名称は父上の私兵という意味も込めて、都市長直属特別総合調査隊といったところか。長いので大抵調査隊の呼び名で済ませるがな」
「凄そう。とっても」
セプトが珍しくポロリと口から出るくらいに、なんか一気に凄い名称になったな。こっちだと何でも調べる集団みたくなった。
……こっちの方がカッコよく感じるのはあれかな。漢字を多く使っているとカッコよく感じるからかね?
「調査隊は対人、対モンスター等様々な状況に対応できるよう訓練を受けているため、場合によっては衛兵や常備軍に協力することもある。そしてあの時は、町の治安維持のため衛兵と合同で事に当たっていた時だった」
そこでヒースは少しだけ遠い目をする。当時のことを思い出しているみたいだ。
「当時この町で、富裕層を標的とした組織的な強盗事件が多発していた。犯行の手口としては、数人から数十人で家に押し入り、家人を拘束して金目の物を根こそぎ奪っていくという悪質なものだ」
「あっ! それなら私もちょっと聞いたことがある! 逃げ方が不思議だって衛兵さんの噂になってた。私達が巡回している場所からは離れていたから直接は知らないけどね」
「不思議? なんのこっちゃ?」
手口が凶悪とか残虐とかはよく聞かれるけど、逃げ方が不思議というのはあんまり聞いたことが無い。
「妙なことに、奴らは逃走中にしばらくすると突然フッと消えるのだ。まるで霧か風にでもなったかのようにな」
「消えるって言うと……普通に考えたら転移系の術者か道具持ちが居たんじゃないか?」
「そうだな。だが魔法に反応する探知機なども用意していたが、まるで反応がなく操作は難航した。当初は衛兵だけで調べていたのだが、手口の凶悪さや不明さ。被害額が相当なものになったこと。富裕層から早く解決しろと圧がかかったことなどから、調査隊と合同で捜査するという事になった」
なんだか刑事ドラマかミステリーっぽい話になってきたな。異世界でそれはあんまり似合わない気がするけど。
「その後協力して調べていくうちに、その犯罪集団の恐るべきやり方が明らかになった。奴らが突然消えた理由は、考えてみれば実に単純なものだった。……トンネルだ」
「トンネル? まさか逃走先に抜け穴でも掘っていたとか?」
「そうだ。だが非常に厄介なことに、
聞いた瞬間割と良くあるネタで肩透かしを食らった感じだったが、魔法無しの手作業となると話が変わってくる。
この世界では魔法が、特にこういう場合は土魔法があるから工事自体は結構楽だ。
しかしその代わり、人力でとなると逆に大幅に効率が悪くなる。魔法があるから育たない技術という奴だ。それなのに全て手作業となると相当に苦労する。
「違法奴隷を大量に集めることで、無理やり目的地までのトンネルを掘らせていたんだ。作業環境は劣悪で、どれだけ犠牲になったか今も正確には分かっていない」
その言葉に、セプトが軽く自身の首輪を撫でて反応する。何か思うところでもあるのかもしれない。
しかし違法奴隷って……ただ穴掘るだけなら奴隷以外でも良いだろうに。元々仕事が全て終わったら口封じするつもりとかだったら実に胸糞悪い話だ。
「ご丁寧に一度使い終わった後は、内側から完全に封鎖して外から分からなくするという念の入りようでな。結局このことが分かったのは、そいつらがある家を襲撃していた時に、丁度近くを見回っていた俺を含めた調査隊員が駆けつけたためだった。偶然抜け穴に入る所を見なければまだ捜査は行き詰まっていただろう」
「でも、偶然だろうと事件が解決できたんなら良いんじゃないか?」
「全部解決できたのならな。……だけど話はそう上手くはいかなかった。トンネルを逆に辿り、奴らの本拠地に突入したまでは良かったのだが、その際に最後のあがきか奴らの首魁は仕掛けていた罠を作動させたんだ。トンネルと本拠地の一部ごと俺達を生き埋めにしようとな」
「……つまり最後の手段の自爆スイッチみたいなもんか?」
俺の脳裏にドクロのマークのスイッチが浮かび上がる。悪の組織には自爆スイッチはお約束だよな。これも一種のロマンだ。……実際にやられたらシャレにならないけど。
「何とか調査隊と衛兵達に死者は出なかったが、本拠地の崩落の際に怪我人が多数。相手の側も崩落で死者が出る酷い結果になった。肝心の首魁も盗難品の一部を持ってそのどさくさで逃走。今も見つかっていない」
「…………そっか」
ヒースはどこか辛そうな顔をしていた。シーメやセプトも息を呑んでいる。思ったより悲惨な内容に、俺もどう言葉をかけたものか分からない。
「トンネルを塞がれる前にと慌てて突入の指示を出したのは僕だ。結果として奴らの多くを捕らえることは出来たが、こちらにも多くの怪我人を出してしまった。それに盗難品も全てを取り戻せたわけではない。……誰かが責任を取らないといけなかった」
「それでヒースが副隊長を辞めることになったのか」
「だから辞めたんじゃない。……本来なら辞めるべきだったのだろうが、父上やゴッチ、ラニーたちの口添えもあって一時的に任を解かれただけだ。実質は謹慎処分のようなもの……気を遣われたんだろうな」
それを言うならヒースだけが責任を取る必要なんてない。そう言おうとしたが、ヒースの目を見ると下手な慰めは逆効果になりそうだった。
「そうして僕は屋敷に連れ戻され、謹慎が解けるまで講義と鍛錬の日々を送ることとなった。……そこの話はすでにお前達には話したな?」
「えっと……自分が数度受けただけで大体理解できてしまう講義なんかやっても意味がない。それなら外へ出てラニーさんと一緒に行く店を見繕った方が有意義だ。って話だったかな?」
以前ラーメン屋で聞かされたこと。今回はシーメもいるので大雑把にそのことを意訳すると、大体合っているという風にヒースは頷いた。シーメもなるほどと納得が言ったように手を打つ。
「でも結局、今までの話と夜中まで出歩いて何かを探していたこととどう繋がるんだ?」
「そうだな。これまでのことは、これから話すことのために前提として知っておくことというもので、ここからが本題だ」
ようやくか。その言葉を聞いて俺も背筋を正す。……石に座ってるからちょっと痛いけど我慢だ。
「結論から言うと、あの倉庫の中には
そう言ったヒースの目に一瞬見えたのは、抑えようと思っても抑えきれない激情だった。
そろそろ本編のストックが大分減ってきたので、しばらく補充のためお休みしたいと思います。
次回は来月初旬辺りを予定しています。読者の方々にはご迷惑をお掛けいたします。