……ちょっと待ってくれよ。俺が今ヒースから聞いた話をざっと整理するとだ。
大体二か月ほど前、まだヒースが副隊長としてブイブイ言わせていた頃、この町で金持ちばかりを狙った大規模な強盗事件が多発していた。そいつらの手口は、家の人を拘束して金目の物を根こそぎぶんどるという悪質なもの。
しかも逃げる時に影も形もなく消えるという手際からなかなか衛兵だけでは犯人を捕まえられず、都市長直属の調査隊(正式名称はやたら長いので割愛)に声が掛かりヒース達も調査に乗り出す。
消えた手口が手作業によるトンネルという事が分かり、ヒースの指揮の下トンネルを逆に辿って本拠地に乗り込むが、敵のボスが自爆スイッチを作動させたことによりトンネルと敵の本拠地が崩落。
調査隊に死者こそ出なかったものの怪我人多数。強盗側も死者が出た上に、結局敵のボスは盗難品の一部を持って逃げおおせるという結果に終わった。
強盗の大半を捕らえることは出来たものの、ボスには逃げられ盗難品も全ては戻らずじまい。怪我人も多数出たことから、ヒースが責任を取って副隊長を一時的に辞する形に。それからはしばらく屋敷で謹慎の日々。
そして最近夜中に出歩いて何かを探していたのは、どうやら目の前にある倉庫だという。この倉庫の中には、封鎖されていないトンネルの残りがある可能性が高い。
ヒースはそのトンネルを足掛かりに、今もこれを使っている何者かと、以前逃げた敵のボスを捕まえようとしているという。
「…………っと、こんな感じで良いか?」
「ああ。大雑把にだがそれで合ってる」
長い話だからな、時折こうやって確認をとらないと訳が分からなくなるんだ。
「え~っと、私は途中参加だからまだよく分からないんですけど、どうしてそのトンネルの残りがあるってことが分かったんですか? 捕まえた強盗達の残りが口を割ったとか?」
「いいや。捕らえた奴らは自分達の使っていた分しか把握していなかった。トンネルを掘らされた違法奴隷も大半がその時に死亡。助かった奴隷も全体を把握している訳ではなく、唯一判明した分も急いで駆けつけた時には崩落していた。全体を把握していたのはおそらく敵の首魁一人だ」
シーメの言葉にヒースはそう返した。情報は知っている人が多ければ多いほど洩れやすくなる。おそらくその点を考えてのことだろう。手を回される前にトンネルを崩落させておくのは何とも周到だ。
「まだ残っているトンネルの存在を知ったのは、謹慎中に僕が個人的に懇意にしている情報屋からの連絡があったからだ。似た手口の事件がまた起きたとな」
情報屋ねぇ。……もしかしてキリじゃないだろうな? 俺の頭にあのもふもふに目がない情報屋が浮かび上がる。
「規模こそ大分小さいものだったが、手口はほぼ同じものだ。……以前の戦いで向こうも組織が半壊したからな。あまり大規模な動きは出来ないと見える」
そりゃあ本拠地を自爆させるなんてことをやった訳だしな。仮に
「それから俺は情報屋と協力し、出来る限り町中に存在するトンネルを探した。そしてこれまでの事件の傾向から幾つかの場所の候補を絞り込んだ。だがそれ以上は直接現地で調べないと分からないし、見つけても下手に突入すれば以前のように崩落させられる恐れがある。なら後は……使う瞬間を狙うしかない」
「つまり出口の候補で待ち伏せして、入るなり出るなりしたところを捕まえるつもりだったと? それなら何で都市長さんに言わなかったんだよ!」
「今の僕は一応謹慎中だ。父上の兵を借りる訳にはいかない。個人的に付き合いのある調査隊は現在ダンジョンを調査中で動けない。おまけに、下手に大勢で動けば察知されてまた雲隠れされる可能性が有った。……動くなら気付かれないように少人数でだ」
下手な所で真面目なんだからまったくもう。都市長さんならそういう隠密系の人の心当たりくらいあるだろうにな。
「じゃあこれまで講義を抜け出していたのは」
「場所を探すためと、候補の場所で張り込みをするためだ。これまでの事件は全て夜に起きていた。だから現行犯で捕らえるなら夜に動くしかなかった」
「……なんともまあ人が聞いたら呆れるぞそれ。……で? その候補の一つがここらへんなのか?」
「ああ。これまでの候補は全て空振りだった。残る候補はここともう一つだけだ。もう一つの方はやや可能性が低めだったので、個人的に信用できる者を向かわせた。……出来れば情報屋にも張り込みに協力させたかったが、急に仕事が入ったとかで数日前から町を離れていてな」
やっぱりそれキリの気がするな。指輪の情報探しでこの前出かけてたし。かち合っちゃったわけか。
「そして本命のここはおそらくこの倉庫群のどれかだと当たりを付けていたが、わざわざ今日限定の見張りまで居るとなるとあの倉庫でまず間違いない」
この場合壮大な陽動ってことも一応考えられるが、陽動は相手が気付いていることを逆手に取るやり方だ。ヒースはどうやら完全に独自に動いているようだし、こちらが調べていることに気づくのは難しい。
見張り、それも今日のみの短時間という事は、今日何かやらかす可能性が高い。それこそトンネルがあるとしたら使うほどの何かを。
「……大体話は分かったよ。だけどやっぱり危ないことは良くないからさ。迎えが来たら素直に帰ろうぜ。……都市長さんも何だかんだ心配してるみたいだしさ。あとはその迎えに来た人に引き継いでもらおう」
何故か「ご主人様がそれを言うの?」って視線がセプトから来ている気がするが気にしない。
「それは事ここまで来たら仕方ないな。どのみち候補はここを合わせてあと二つ。おそらく今日事態は動く。それが僕が見張っている間か、引継ぎが来てからの違いだ。……僕としては自分でケリを着けたいところだがね」
「……分かった。じゃあそれまではこっちも張り込みに付き合うよ。相手が何人で来るかは知らないけど、そんなに多くはないだろうしな。それにどのみちエプリ達もこっちに向かってるし」
このくらいの人数なら気付かれたりもしないだろ。……まあさっきの乱闘はノーカンってことで。わざわざ見張りを置いたってことは、自分の手が回らないからって考えられるしな。
「私も付き合いますよ~っ! どうせお姉ちゃんもソーメも来るまでまだ間があるし、町の平和を守るのが『華のノービスシスターズ』の仕事ですから」
「私も、付き合う」
「お前達…………ふっ! 良いだろう。付き合わせてやる」
ヒースは一瞬呆けたような顔をして、そのまま少しだけ表情を和らげた。
「……ただし一つ条件がある」
「何だよヒース。条件って?」
「単純な話だ。……名前は呼び捨てではなくさんか様を付けろ」
あっ! そこはこだわるのね。
「ハフ……ハフ。やはり張り込みにはあの店の餃子が一番だ」
「ホントに気に入ってたんだなその餃子」
俺達は張り込みという事で、明かりを抑えて目当ての倉庫から少し離れた別の倉庫の陰に陣取っていた。張り込み中に腹ごしらえを始めるヒース。……やはりあの店の餃子かい。器も全く同じだぞ。
「私も今日食べたんですけど、この餃子美味しいですよね! 肉汁もタップリで」
「そうだろうそうだろう。あの店はラーメン以外も美味い。……少々匂いがきついのだけが難点だな」
確かに餃子って匂いがきついよなあ。そう考えると張り込みに不向きじゃないか? 熱々なのは助かるけど。
「………………」
「…………くっ!? 分かった。一つだけ分けてやるからそう見つめるな。ほらっ!」
「ありがとう。……どうぞ
「あ~。俺は良いからセプトが食べな」
セプトの凝視に負けて餃子を手渡すヒース。だがセプトが俺に渡そうとするので丁重に断った。
いくら何でも小学生くらいの子から餃子を恵んでもらうっていうのは外聞が悪すぎる。なので代わりに以前換金しておいたパンを取り出して摘まむ。
「ほう。空間収納系の能力か。便利なものだ」
「そこまで便利でもないんだけどなヒース……さん。それにしても、まだ迎えが来ないな」
「そうだね。お姉ちゃんはともかく、ソーメはエプリ達と一緒にクラウドシープで動いてるはずだから、そんなに時間はかからないと思うんだけど……ちょっと待ってて」
そう言ってシーメは目を閉じると動きを止める。加護で他の二人と連絡を取っているのだろう。今の内にちょっと聞いておくか。
「そう言えばヒース……さん。ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「何だ?」
「さっきボンボーンさんと話している時、雇い主に何か心当たりがあるみたいなこと言ってたよな? それって誰なんだ?」
つまりはその雇い主はトンネルのことを知っている。そしてトンネルのことを知っているならヒースの追っている組織のボスとも繋がりがあるはずだ。勿論ボス本人という可能性もある。
その相手に当たりが付いているなら何故直接乗り込まないのか。そういったことも含めて訊いてみたら、ヒースはどこか困ったような顔をした。
「……あくまで可能性という話だ。仮に当たっていたとしても証拠がない。直接問いただしても言い逃れられるだろう。それに多少政治的な話にもなってくる。軽々には話せないな」
「つまりそれだけ大物ってことか」
「そういうことだ。……まあこの件が片付いたら、父上に報告して背後関係を調べてもらえば」
ガターンっ!
その言葉と共に、大きな何かが倒れるような音が目当ての倉庫から聞こえてきた。俺達は一気に警戒度を上げる。そして、
「くそがっ!」
突如倉庫の扉が中から破られ、誰かが転がるように飛び出してくる。あれは……ボンボーンだ。さっきの二人を引きずっていて、見れば全員身体のあちこちから血を流している。俺達との乱闘の傷じゃないぞ!?
「ボンボーンさ」
「待てっ! まだ中に誰かいる」
急いで駆け寄ろうとしたら、突如ヒースに肩を掴まれた。そして大きな音を立てないよう静かにそう囁く。……そんなことを言っても酷い怪我だ。早く手当てしないと。
「分かってる。……だがせめて相手の出方を伺いたい。もう少しだけ待て」
「…………分かった。だけどこれ以上ボンボーンさんがやられるようなことになったら飛び出すぞ。……セプト。掩護を頼めるか?」
「大丈夫。出来る」
セプトの返事と共に、僅かな明かりで照らされた影が一気に蠢き始めた。シーメも連絡が終わったようで、緊張した面持ちで向こうの様子を伺っている。
「……出てくるぞ」
ヒースの言葉に俺達は倉庫を注視する。ボンボーンが内側から開けた穴。そこから出てきたのは、
『やれやれ。先ほどの取引のように有意義な時間はおくれそうにないな』
白い仮面を被り、妙な声をした謎の男だった。……誰だあれ?
如何だったでしょうか?
さて次回からですが、私用によりこれまでのようなペースでの投稿が難しく、次からは三日に一度から四日に一度に投稿頻度を遅らせたく思います。
一応最新話は小説家になろうの方で一足先に掲載しておりますので、どうしても早く続きが読みたいという読者の方はそちらに赴いていただければ幸いです。
読者の方々にはご迷惑をお掛けいたします。