異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません   作:黒月天星

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第百九十五話 一人で守るにあらず

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

『そう。お姉ちゃんの方は一応準備よろしく。エリゼ院長にもよろしく言っといて』

「よろしくって……まあ良いけど」

『うん。標的と合図はこっちの方で……って!? トッキーっ!?』

 

 それを最後に交信は切れ、アーメは困ったようにため息を吐く。

 

「どうしたの? アーメ?」

「院長先生! それが……色々と向こうで問題が起きているようです」

 

 時久達と別れたアーメは、エリゼ院長と共にヒースが向かいそうな場所を伝えた後、教会にて不測の事態に備えて待機していた。

 

 その後ヒース発見との報告を貰い、あとは迎えが来るのを待つのみとなったのに、さっきから姉妹達から伝わってくるのは明らかに荒事の気配ばかり。

 

 そして極めつけは今のシーメからの一報である。仮面の何者かの手によって自分達の友人であるセプトが凶魔化し、その場で暴れまわっているとあっては捨て置けない。

 

「シーメから長距離狙撃の申請が来ました。まだもしもの時の準備との事ですが」

「あの子がそう感じたとなると、そうなる可能性は高いでしょうね。……だけどアーメ。くれぐれもだけど」

「分かっています。()()()()は一日一射だけ。二度は無しですよね。……準備をしてきます」

 

 心配そうに注意をするエリゼ院長に対し、アーメは心配をさせまいと微笑んで歩き出した。

 

 途中自身の部屋によって愛用の物を取り出すと、そのまま階段を駆け上がっていく。目指すは毎日鳴らされる教会の鐘が安置されている場所。正確に言うと、その横に造られた彼女専用の射撃位置。

 

 アーメはそこに立ち、持ってきた物を軽く点検して構える。

 

 

 それは一張りの弓と、特殊な光沢を放つ手袋だった。

 

 

 弓は青を基調にして装飾は少なく、ある意味機能美を追求したともいえるそれだが、唯一の装飾と言える持ち手と両端に備え付けられた魔石がキラリと光る。

 

 手袋をしっかりとはめ、軽く弓を握ってあとはひたすら待つばかり。アーメは同調の加護によって、大まかに伝わるシーメとソーメの場所を把握しながらじっと射撃位置に佇む。そして、

 

『……もしもし。お姉ちゃん?』

 

 連絡が入ったのは少ししてからの事だった。

 

「こちらは準備できたわよ」

 

 言葉少なにアーメは妹へと告げる。それと同時に腕は素早く弓を構え直す。だが、その手には()()()()()()()()()()()()

 

『うん……()()()()()()()。細かい照準はこっちで微調整するから……()()()()()()()()()!」

「魔力、注入」

 

 シーメへの返事代わりに、アーメは自身の魔力を弓に送り込む。その瞬間、青白い光と共に弓の中央から魔力の矢が生み出され、弓に矢をつがえて力強く引き絞る。

 

 アーメは息を整え、自分が狙うべきモノを射るべく心を静めた。その間も魔力は送り込まれ続け、矢の輝きは一層増していく。

 

 その場所は教会から遠く離れ、おまけに今は夜。肉眼では到底標的を見ることも出来ず、狙撃には最悪のコンディション。

 

 送り込む魔力で威力と射程を限界までブーストし、特注の手袋で反動を緩和。それでも身体への負荷を考えると一日一射が限度。失敗は許されない。

 

だが、そこにはシーメ()が居る。シーメの頭上に標的が居るのなら、そこまで届かせるだけで良い。あとはいつものように、シーメの側で誤差を正してくれる。

 

「届け。遥か彼方まで」

 

 自分の全力射撃であっても何とか出来るという妹への全幅の信頼と共に、アーメは魔力を限界まで注ぎ込んだ矢を空に向けて撃ち放ち、それは流れ星のように青白い光となって飛んでいった。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 何だアレっ!? 俺は一瞬空を見て唖然とした。

 

 俺達に落ちてこようとする巨大な影の刃群。そこに更に高い所から落ちてきた青白い流星が直撃したんだ。影の刃はショックでひび割れ、刃同士がぶつかって隙間が出来る。

 

 偶然? いや、そんなことは無い。これこそ多分シーメの言っていた奴だ! つまり次にやるべきことは。

 

「エプリっ! お願いっ!」

「“竜巻(トルネード)”っ!」

 

 空に手を翳して何故か汗を流しているシーメの合図と共に、エプリが今まで溜め込んでいた魔力を解放。目に見えるほどの密度の風が空に向かって吹き上がり、さっき出来た隙間を更に押し広げた。

 

 今だっ!

 

「セプトっ! 俺に掴まれっ!」

「全員あの隙間の辺りに走ってっ!」

 

 弱々しくもしっかり掴まってきたセプトを、ずるりと嫌な音を立てながら思いっきり力を込めて影凶魔から引っ張り出す。

 

 その瞬間制御を完全に失った影の刃が落下を始めるが、もう道筋は出来てんだよ! セプトを背負い、エプリの指定した先目掛けて全速力で走りだした。

 

 ボロボロと空から降ってくる刃の破片。エプリが風で大部分散らしたと言っても完全に消えるまで当たり判定のあるそれを、貯金箱で振り払いながら突き進む。

 

 時折ボジョが触手で手を貸してくれる中、どうにか影の当たらなさそうなポイントに走り込む。すぐ後にエプリとシーメ、そしてさっきまで影の一部と格闘していたボンボーンさんも走り込んでくる。よし。これで一安心。

 

 

 いや待て。ヒースはどこ行った?

 

 

『ギャアアアアッ!?』

「……っ!? あそこを見ろっ!」

「あっ!?」

 

 絶叫が響き渡り、そちらの方に目を向ける。そこには、ズズンと音を立てて倒れ伏すネーダと、侵食していた双剣の魔石部分を砕いて手放させるヒースの姿があった。

 

 見れば服のあちこちは焼け焦げ、盾を着けた左手の指も凍傷になりかけているのか腫れてしまっている。向こうも相当の激戦だったらしい。

 

「ヒース様っ! 早くこっちへっ!」

 

 その場所もまた落ちてくる影の刃の範囲内。シーメの呼びかけにヒースも分かっているとばかりにこちらに駆け寄ろうとして……そのまま自分もがくりと膝を突いた。

 

 はあはあと息を荒げ、剣を杖のようにして何とか立ち上がるがふらついている。

 

「マズいっ!? このままじゃヒースが!?」

「エプリっ! お願いっ! 私さっきの調整で魔力を使っちゃって光壁を出せないっ!」

「……強風っ!」

 

 シーメは魔力切れ。ならばとエプリが風を巻き起こしてヒースをこちらに飛ばそうとするが、

 

「……くっ!? 何をっ!?」

「こいつを置いていけない! 聞かねばならないことが山ほどあるんだ。……もう、あの男に利用されて死ぬ奴を出してたまるかっ!」

 

 何とヒースは、人の姿に戻りつつあるネーダを引っ張っていこうとする。流石のエプリも二人を飛ばすのは大変なのか顔をしかめた。

 

「危ないっ!?」

「ぐっ! 障壁展開っ!」

 

 その時、大きめの影が降り注ぎ、ヒースは無理やり盾に魔力を注いで障壁を作って防ぐ。だが、これではその場から動けない。

 

 そうこうしている内に、最後に特大の奴が落ちてくるのが見えてきた。あれはあの盾でもちょっと防げそうにない。

 

 くそっ! こうなったら、

 

「……ああもうっ! ボンボーンさんっ! 皆をお願いしますっ!」

「お、おいボウズっ!?」

「今度は流石に行かせないよトッキーっ!」

 

 セプトを下ろして急いで走り出そうとしたところ、肩をガシッとシーメに掴まれた。見るとシーメも魔力切れのためかふらついている。

 

「離してくれっ! こうなりゃ俺が向こうまで行ってとっておきの銭投げ(金貨)で影を吹き飛ばす。爆風もこっちはエプリ、向こうではあの盾があればなんとか」

()()()()()()()()()()()()()?」

 

 シーメの真剣なその言葉と、そして今もまだ俺に弱々しい手で掴まっているセプトの手を見て俺はハッと動きを止める。……そうだった。また俺は全部自分だけでやろうとしていた。自分だけで守ろうだなんてことを考えていた。

 

 でも、そうじゃないんだ。何故なら、

 

「……ふっ! 舐められたものね。私が雇い主の意向をこなせないとでも?」

「エプリ……」

 

 エプリが両手をヒース達の方に翳し、いつものように不敵な笑みを浮かべてみせる。

 

「アナタはそこで黙って飛んでくる分を防いでおきなさい。こっちは……私が何とかする!」

 

 

 

 

「…………“二重強風(ダブルハイウィンド)”」

「うおっ!? う、浮いてるっ!?」

 

 強風だけでは二人を飛ばすのは難しい。ならば二つ重ねて使えば良い。

 

 その発想の下、少しの間をおいてより力を増した強風が吹き荒れ、倒れて動かないネーダとふらついているヒースが宙に浮く。

 

 障壁はどうするかと思ったけど、重ね掛けした強風はそれそのものが一種の障壁と変わらないということでヒースから障壁を解除している。

 

「……よし。来なさいっ!」

 

 エプリが少しずつ翳した手を内側に引くような仕草をすると、ヒースとネーダは浮いたままかなりのスピードでこちらに向かってきた。

 

 小さな破片はそのまま風で押しやられ、大きめの破片は、

 

「金よ! 弾けろっ!」

 

 こっちで硬貨を投げつけて逸らしていく。銅貨程度なら爆風も風で届かないし、軌道を逸らすだけなら銅貨数枚でも少しは効き目がある。

 

「良いぞ! その調子だボウズ!」

 

 ボンボーンさんもこちらに飛んでくる小さな破片を拳で打ち払っていく。こちらに来るまであと少し。しかし、降ってくる特大の破片も近くまで迫っていた。

 

 だけど今の調子ならギリギリ間に合う。あとは直撃さえ避けれれば……

 

「あっ!?」

「……ちっ!?」

 

 誰かの叫びとエプリの舌打ちが聞こえる。それは意識のないネーダが破片を回避するはずみで姿勢を崩し、明らかにエプリの風から外れかけたからだった。

 

 ぐらりと傾く身体。この勢いで投げ出されたらダメージも酷いが、それよりなにより上から来る特大の破片でぺちゃんこだ。

 

 そして地面に投げ出されそうになったその時、

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()、そのまま風の流れに引き戻した。

 

 

 二人はそのままの勢いで遂に影の安置に引き込まれ、その数瞬遅れで巨大な影の刃が俺達の周囲に落ちて轟音を響かせる。

 

 巻き起こる粉塵。飛んでくる破片からエプリが風で、ボンボーンさんが拳で、俺は貯金箱を振り回して皆を庇う。

 

 そして大方収まった時、振り返って俺が見たのは、

 

「……はぁ。トキヒサ……言った。必ず皆で……帰るって。だから……死なせないっ!」

 

 そう言って俺に掴まりながら、もう片方の手で地面から影を伸ばすセプトの姿だった。

 

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