異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません   作:黒月天星

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 注意! 途中視点変更があります。


第百九十七話 この温かさがある限り

 ◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 途中で別行動していた大葉を拾い、息も絶え絶えなセプトを連れて雲羊をひた走らせることしばらく。俺達はエリゼさんのいる教会に辿り着いた。

 

 もう夜も遅く、この世界の人は当然として元の世界の人も眠りにつくだろう時間。だというのに、

 

「待っていたわ。事情は大まかに分かっているから、早くセプトちゃんをこちらに」

 

 エリゼさんはしっかりと起きて準備していてくれた。おそらくエリゼさんの隣に居るアーメが同調の加護で伝えておいたのだろう。この一刻を争う状況では非常に助かる。

 

 しかしセプトの様子を一目見て、エリゼさんの顔色が変わる。

 

「これは……怪我もそうだけど魔石がここまで侵食するなんてっ!? アーメっ! 手伝ってちょうだい。シーメも疲れてるでしょうけど」

「もうやってるよ院長先生! 残してきたソーメ経由で都市長様のとこの薬師に連絡してこっちに回してもらってる。だけど他にも怪我人が沢山が居てこっちにはそんなに割けないって」

 

 シーメも疲れた顔をしながら目を閉じて集中している。そう言えば雲羊に乗った中でソーメの姿が見えなかった。セプトの事で気が動転していたとは言え気が付かないなんてな。

 

「分かったわ。ならこっちはこっちで何とかするから、余裕が出来たらこっちに回してと伝えて。あとトキヒサ君。申し訳ないのだけど、セプトちゃんを処置室に連れて行くのを手伝ってくれない?」

「はいっ! セプト……もう少しの辛抱だぞ」

「……うん」

 

 エリゼさんに連れられ、セプトを背負って以前も入った地下の凶魔関係専用の部屋まで向かい、そこのベッドに寝かせる。事前に準備していたようで、部屋には既に治療道具らしきものが設置されている。

 

「これで良し。ではここからは私達の仕事。アーメ以外の皆さんは退出してちょうだい。シーメは引き続き連絡役を」

「エリゼさん。俺はそういう心得はないですけど、やれることは何かありませんか?」

「トキヒサさん……」

「……気持ちは嬉しいけど、今トキヒサ君に出来ることは無いわ。それに、アナタや他の皆さんもあちこち怪我をしているじゃない。一番重症なセプトちゃんから先に治療するけど、それが終わるまで部屋の外で待っていて」

 

 何かセプトのために出来ることは無いかと尋ねてみるが、エリゼさんはゆっくりと首を横に振る。

 

 確かに、俺は重症でこそないけど身体のあちらこちらに打撲や影による切り傷。ヒースは手に火傷や軽い凍傷。エプリも切り傷が結構あるし、シーメは傷こそほぼないけど魔力切れでフラフラだ。大葉は……特に問題なさそうだけど。

 

 セプト以外は皆してボロボロ。エリゼさんの言葉に、本当に俺は周りが見えていなかったのだと感じる。

 

「トキ……ヒサ」

「セプトっ!? 大丈夫か?」

「……うん。私……大丈夫だから。心配……しないで」

 

 セプトはいつものように無表情ながらも、必死に俺に向けてうっすらと微笑みかける。明らかに痛みを我慢しているのに、時々洩れそうな苦痛の声を必死に我慢して。

 

 俺はそんなセプトの姿を見て、それ以上何も言えなかった。

 

 

 

 

「は~い。それじゃあ一列に並んで。まずは一番ヤバそうなヒース様からね。……うわっ!? 両手共にボロボロじゃないですか!? よくここまで我慢してましたね」

「確かに痛いが、これくらいならアシュ先生の鍛錬の方がキツイな。それとお前から借りた盾が無くてはもっと傷は深かっただろう。感謝する」

 

 部屋から退出した俺達は、一階に上がって一人ずつシーメに診察及び応急処置をしてもらう。残りは長椅子に座って待機だ。

 

 自分も疲れているというのに「今は私魔力無いんで、魔法でパパっと治すなんてことは出来ないからね! 苦~いお薬や痛~いお薬を使うけど我慢してよ!」と笑いながら、手際よく怪我の度合いを確認していくシーメ。

 

 今回の事で一番見方が変わったのはシーメかもしれないな。

 

 途中自分で応急処置を済ませようとするエプリを何とか宥めすかして治療し、特に怪我はないけどついでに診察してほしいっすという大葉を追い払い、最後に俺も打撲した所に包帯を巻いてもらって終了となった。我ながら頑丈な身体でこういう時助かる。

 

 だけど、

 

「セプト……まだかかりそうかな」

「そうだね。正直どれだけ時間がかかるか分からない」

 

 部屋の外の面子が全員終わったというのに、部屋の中の治療はまるで終わる様子が見えなかった。他の薬師の増援が来る気配もなく、どんどん不安が募っていく。

 

 身体の傷もそこそこ痛いけど、身近な人が目の前で傷つくのは精神的に来る。俺も……そんな思いを他の人にさせていたのだろうか?

 

 今回の件。ヒースを探しに出たことを後悔はしていない。だけど、それに他の皆を巻き込んで怪我をさせてしまった。もしかしたらセプトも目の前で俺がやられたことがきっかけで、

 

「……トキヒサ。顔を上げなさい」

「エプリ?」

 

 座って俯いたまま悩んでいると、エプリから急に声をかけられた。そしてその言葉通り顔を上げると、

 

「……“風弾”」

「あたっ!? 何すんのエプリ!?」

「うわっ!? やっぱ痛そ~っす」

 

 突然額に衝撃が走り慌てて押さえる。そこには指を伸ばしていつものように風弾を撃ち込むエプリの姿があった。大葉もこちらを見て自分も額を押さえている。もしかしたら大葉も食らったことがあるのかもな。

 

「……どうせその顔だと、自分のせいでこんなことになったとでも思っていたんでしょう? ……自惚れないでくれる?」

 

 エプリは一度大きく息を吐くと、敢えて俺を見下ろすように立つ。

 

「私は私の意思で、護衛としてトキヒサに付き従った。アナタが巻き込んだのではなく、自分の意思で巻き込まれに行ったの。……多分セプトもそうね。何でもかんでも自分のせいだと勝手に思って、勝手に悲劇の主人公ぶらないで。面倒だから」

「エプリ……」

 

 見上げると見えるフードの奥。エプリの赤い瞳が静かにこちらを見つめている。言葉そのものは辛辣だけど、その声音はどこか優しいものだった。そしてそのまま手を開いて差し出してくる。

 

「……分かったのなら、俯かずに顔を上げることね。そしてやれることをやりなさい。怪我を治すことに専念するなり、これからの事を考えるなり、少なくともそこで項垂れているよりはマシでしょう」

「……ああ。ああ! そうだな」

 

 確かにこのままでは特に何も変わらない。何でも良いから自分に出来ることをやらないとな。俺は足に無理やり力を入れて立ち上がる。

 

「う~む。やっぱエプリさんってセンパイのこと」

「これはセプトちゃん分が悪いかもねぇ」

「ある意味分かりやすいなこの二人も」

 

 なんか俺とエプリを見て皆がひそひそ話をしているが、

 

「……あと、今回の事も契約料に加えておくから。全部終わったらきちんと払ってもらうわね」

 

 これだよ全く。良い奴だし良いことも言ってるんだけどあくまで仕事として何だよなぁ。……まあ良いけどねっ! 俺今割と懐に余裕あるしっ!

 

 そうして頭の中で出費やら何やらを計算していると、地下からアーメが少し慌てた様子で上がってきた。

 

「シーメっ! ちょっと来てくれる? セプトちゃんの容体が」

「えっ!? セプトに何かあったのかっ!?」

 

 その言葉に俺は居ても立ってもいられずアーメに駆け寄った。頼むから無事でいてくれよセプトっ!

 

 

 

 

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 私は真っ暗な世界の中に居た。目の前にはさっきまで散々私に囁き続けていた()()がぼんやりと浮かんでいる。

 

 何かは酷く弱っているようだったけど、それから伝わってくる言葉は今も変わらない。

 

 壊せ。打ち砕け。食らいつけ。殺せ。ここに居る全員を。周囲にある全てを。全部。全部。

 

 何かは私に絶え間なく囁いて、少しでも操ろうと弱った身体で私に手を伸ばす。

 

 その強烈な意思。さっきまでの私なら、もしくはトキヒサと出会う前の私なら、素直に身を委ねていたかもしれない。でも、

 

 

「……()()()()

 

 

 私の言葉に一瞬だけ何かは囁きを弱める。

 

「もう私はあなたに従ったりしない。もうあなたに操らせたりしない。もう……あなたに委ねてトキヒサを、私のご主人様を傷つけたりなんかしないっ!」

 

 私は叫ぶように何かに詰め寄り、その度に何かの囁き声が小さくなっていく。

 

 さっき私を暗闇から引き戻してくれたあの手。そして()()()()()()()()()()()()この温かさを、私はもう忘れない。

 

「私の中に居るのなら……あなたが私の言うことを聞いてっ! ……()()()()()()()()!」

 

 その瞬間、何かはそのままフッと姿を消した。だけど、何となく感じ取れる。見えなくなっただけで、何かはまだ確実にここに居る。だけど、

 

 

 

「……プトっ! セプトっ!」

「…………んっ!」

 

 気が付いたら、私はどこかのベッドに横になっていた。

 

 目の前に居るのは私のご主人様(トキヒサ)。そして、その温かい手はしっかりと私の手を握りしめてくれている。

 

「無事かセプトっ! ……良かった。急にまた魔石が光り出したって聞いて慌てて飛んできたんだ。大丈夫か?」

 

 そう。この人が手を握っていてくれる限り、何かがまた囁いてきても大丈夫。

 

 

「うん。ありがとう。ご主人様(トキヒサ)!」

 

 

 私はどこか満たされるような気持ちで、トキヒサに笑いかけた。

 

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