異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません   作:黒月天星

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閑話 掴んだ手がかり

 ◇◆◇◆◇◆◇◆

 

「だからっ! それ以上は知らねえって言ってんだろうがこのカスっ!」

 

 ノービスの衛兵詰め所の一つ。その犯罪者を勾留する場所にて、ネーダは取り調べを受けていた。

 

 数日前にノービスで起きた事件。仮面の男の暗躍によってヒトが凶魔化し、周囲に小さくない被害を与えたこの事件は未だ完全解明には至っていない。

 

 また、同日に起きたテローエ男爵邸大量凶魔化事件も、あれだけの騒動でありながら死亡者0という快挙ではあったもののなかなか進展していない。

 

 だがこの二つの事件は何かしらの関係があると判断され、それぞれの事件に関わった者達を個別に取り調べて真相究明を目指していたのだ。

 

「本当か? お前の雇い主である仮面の男については今言った以上の事は何も知らないと?」

「ああ。俺だってあのクソ野郎をこの手でぶち殺してやりてえ所だけどよ。奴とは依頼主と雇われの身以上の関係じゃなかったからな。深くは知らねえ」

 

 取り調べる衛兵に口汚く喚き散らしながら、ネーダは椅子にふんぞり返る。

 

 といっても態度程その身体は元気ではなく、身体中の怪我もまだ完治とはとても言い難い。あくまで取り調べ可能なまでに回復したというだけだ。

 

 このネーダという男。元々冒険者ギルドに所属していた。ランクはC。ただしそれは素行の悪さなどで昇級が遅れたためもあり、実力だけで言えばBに近いと言われていたという。

 

 だが暴力沙汰が絶えずに遂にギルドから追放処分を受け、今では日雇いの傭兵稼業。と言ってもギルドに所属している訳でもなくフリーの傭兵である。

 

 しかしある時、酒場であの仮面の男に声をかけられ護衛として雇われたという。報酬は金と、自身が使用していたあの双短剣。と言ってもあの双短剣に凶魔化用の魔石が仕込まれていたので、実質実験体としか見られていなかったのだろうが。

 

 だが身になりそうな話はここまで。自身も凶魔化した被害者ではあるが、雇われたとはいえ町の要人の息子を殺そうとした罪は重い。取り調べが終われば罪を償うべく厳しい罰が下されることは間違いない。

 

 それに不貞腐れてかネーダ本人の態度も悪く、取り調べは難航していた。そこへ、

 

「……これはっ!? 都市長様」

「構わん。楽にしてくれ」

「おいおい。取り調べに都市長様直々か? はっ! 涙が出るなぁおい」

 

 アシュを伴って取調室に現れたのは、何か包みのようなものを持ったドレファス都市長だった。聴取中の衛兵に軽く二言三言告げると、衛兵は一度敬礼して部屋を退出する。

 

「何のつもりだぁ? 都市長様よ?」

「いやなに。少し聞きたいことがあってな。こうして直接出向いただけだ。長居するつもりはない」

「俺は……まあ俺も聞きたいことは幾つかあるが、まずは都市長殿に譲るとするさ」

 

 都市長はあくまでも事務的かつ冷静にネーダの体面に腰掛け、アシュはどこか飄々とした態度で傍に佇む。

 

「聞きたいことねぇ。と言っても俺の知ってることはもう全部バラしたぜ。調書読めば分かんだろ」

「確かに仮面の男に関しては調書に目を通させてもらった。出会った酒場から目撃証言を集めてはいるが望み薄だな。しかし私が聞きたいのはそれとは別件でね。……これについてだ」

 

 都市長はそう言うと、包みをネーダにも見えるように机においてゆっくりと開いていく。その中にあったのは、

 

「……これはっ!?」

「そう。お前が使っていた双短剣。レッドムーンとブルーム―ンだ。一応言っておくが、凶魔化用の魔石は既に取り払っている。もう触れた所でよほど手入れを怠らない限り凶魔化はしない」

 

 赤と青。二刀一対の双短剣。以前のような禍々しい黒い魔石はもうなく、今はそれぞれ澄んだ輝きを放っている。

 

 それを目にした時、ネーダの目の色が変わった。普通ならヒトを凶魔化させるような武器などもう安全だと分かっていても手を出しづらいのに、今にも飛びつかんとする様子はどこか危うさを感じさせる。

 

「よこせっ! それは俺のだ。俺が使うにふさわしい道具なんだよっ!」

「違うな。これは押収した品だ。もうお前の物ではない。……だが、お前がちゃんとこちらの質問に答えるのならチャンスくらいは与えよう。()()()()チャンスをな」

「んなこと知ったこっちゃねぇんだよっ!」

 

 ネーダはどこにそんな力が在ったのか、ボロボロの身体で無理やり置かれた双短剣を奪い取る。手錠こそまだ掛けられているが、都市長との距離は僅かに机を隔てるだけ。前使ったように火炎なり氷雪なりを繰り出せば、躱しきるのは至難の業だろう。

 

「ヒャーッハッハッハ! なぁ。おい。ありがとよ都市長様よ。俺の物を返してくれて。……ありがとうついでにもう一度役に立ってもらうぜ。お前を人質に、こんな場所からオサラバしてやるよ」

「短絡的だな。たとえ私を人質にしたところで逃げることは出来ぬだろうに。やめておけ。罪が増えるだけだぞ」

 

 目の前で凶器を向けられているというのに、都市長はまるで慌てる素振りを見せず腰掛けたままだ。横で佇むアシュも静かに状況を見守っている。

 

「うるせえ! 軽く痛い目を見れば黙って言うことを聞くかぁ?」

 

 ネーダは口汚く唾を飛ばしながら剣の切っ先を都市長に向ける。こんな距離でいつものように火炎なり氷雪なりを放てば、直撃すれば場合によっては死亡することもあり得る。

 

 おまけに都市長はこの町において相当上位の重要人物だ。息子であるヒースを害することよりもある意味罪が重い。

 

 だがネーダはそんなことを考えもしていなかった。それだけ余裕がなかったともいえるが。今頭にあるのは、如何にして目の前の男を黙らせるかという事だけ。

 

 そうしてネーダはまず目の前の男を丸焼きにしてやろうとし、

 

「爆ぜろレッド「ブルーム―ン。()()()」」

「なっ!?」

 

 次の瞬間、ネーダの声に被せる形で都市長が放つ言葉と共に、不意に出現した氷の鎖がレッドムーンごとネーダに絡みついて動きを封じる。

 

「なっ……なんでだよっ!? なんで俺が持っているはずのブルーム―ンがお前の指示をっ!?」

「……はぁ。“爆ぜろ”と“凍てつかせろ”の基本能力だけしか知らぬ上、()()()使()()()()()()()私にさえ劣るとは。……良いか? 良く聞くが良い」

 

 都市長はそのまま身を乗り出して、握られていた剣をむしり取ってからネーダの胸倉を掴み上げる。

 

「この双短剣はな、昔行方不明になった()の友人が使っていた剣なんだよっ! これまで扱えていたのはこの剣の力のほんの一部に過ぎん。お前程度の奴がよくもここまで自分がふさわしいなどと言えたものだ。扱えるかどうか挑戦することすらおこがましい。恥を知れっ!」

 

 普段冷静な都市長の瞳に映るのは怒り。消えた友の武器を凶魔化用の魔石に穢され、あまつさえ目の前の奴に良いように使われるという屈辱への憤怒。

 

 その激情を前にネーダもようやく自分が逆鱗に触れたことを理解したのか、何も言えずにそのまま黙っている。

 

「良いからさっさとその剣について知っていることを吐け。お前に渡した時仮面の男は何か言っていなかったか? 少なくともそいつは基本の使い方を知る程度にはその剣に関わりがあったはずだ。少しでも良いから思い出せっ! さもなくば」

「まあまあ。熱くなり過ぎだぜ都市長殿」

 

 だんだんヒートアップしてきた都市長を見かねてか、横からアシュが都市長を抑えるべく口を挟む。

 

「…………ああ。すまないアシュ殿。私としたことが冷静さを欠いていたようだ」

「良いってことですよ。俺も都市長殿がそこまで熱くなるなんて珍しいもの見れましたしね。という訳で、ちょっとだけ都市長殿が頭を冷やすまでの間、俺の質問にも答えてもらおうか」

 

 都市長が気を落ち着かせるため軽く深呼吸をする中、代わりとばかりにアシュが椅子に腰掛ける。

 

「な……何だよ?」

「お前さんと一緒に居た仮面の男。“始まりの夢”に繋がりがあるとかなんとかって話らしいけどさ。そこんとこもう少し詳しく話してくれないか? 例えば……こんな()()()()()()()を持っていたとか」

 

 アシュは自身の二本目の剣。鎖を巻かれ、砂時計を模した錠で封印されているそれをポンポン叩く。

 

 ネーダは氷の鎖で拘束されて寒い筈なのに、額に冷や汗を浮かべていた。何故ならアシュは薄笑いを浮かべているものの、その瞳は全くと言って良い程笑っていない。

 

「なんせ()()()()()()の可能性もあるんでね。放っとく訳にも行かないんだよホント。ちなみにだんまりだったり嘘ついたら……死なない程度に全力で峰打ちするのでよろしく」

 

 相手の嘘を見抜く剣士は、そう言ってにっこりと笑った。

 

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