異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません   作:黒月天星

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閑話 名を得たスライムの近況報告

 

 ◇◆◇◆◇◆

 

 ワタシの名はボジョ。ケーブスライムだ。

 

 先日我がマスターであるトキヒサは、またもや凶魔化案件とかいう厄ネタにぶちあたり怪我を負った。本人的にはそれほどでもないと言っているが、

 

「だから、もう身体は大丈夫なんだってイテッ!?」

「どの口で大丈夫だというのかしら? ……良いからさっさと横になることね」

「そうっすよセンパイ。折角都市長さんが医療費やらなにやら全部持ってくれるって言うんすから、お言葉に甘えてのんびりすると良いっす! あっ!? あと菓子を出すからお小遣いちょうだいっす!」

「お前なぁ。怪我人って思うんなら金をせびるなよ。……まあ出すけどさ。俺にもくれよ」

 

 現在トキヒサは無理やりベッドに寝かしつけられ、その周りでエプリとツグミががっちり見張るという鉄壁の構図が出来ていた。

 

 元々クラウンとの一件の怪我が治りかけの所に今回の怪我。おまけに毒の靄によるダメージ。

 

 エリゼ院長による精密検査の結果、見かけよりも深刻なダメージを受けていると診断を受け、こうして都市長の屋敷で療養することとなった。

 

 本来ならエリゼ院長の教会の方が良いのだが、どうやらあの日都市長の関わった場所でも凶魔化案件があったようで部屋の空きがないらしく断念。

 

 他の療養所でも良かったのだが、トキヒサは休むだけなら別にここで良いということで残ることに。

 

 セプトは流石に重症であるという事で教会で預かってもらっている。あちらはあちらで這ってでもトキヒサの所に行こうとしてシスター達を困らせているらしい。

 

 ふむ。近況を語った所でそろそろ行くとしよう。ワタシはトキヒサの服の中から出てのそのそと部屋の外に向かう。

 

「あれ? ボジョはお出かけか? 行ってらっしゃい! ……と言う訳で俺も一緒に」

「だからダメっす!」

「おとなしくしてなさい」

 

 二人共。トキヒサをしっかり押さえつけておいてほしい。少なくともここに居る限りは危険な目には遭わないだろうから。

 

 

 

 

 さて。ここ数日だが、ワタシはこうして毎日屋敷を周るのが日課だ。

 

「やあ。こんにちはボジョ」

「ボジョちゃん! 今日もつやつやね!」

 

 屋敷の使用人達とはもうすっかり顔馴染みだ。最初はモンスターという事で驚かれていたが、こうしてきちんと挨拶を返していく内に大分打ち解けてきた。

 

 やはり都市長の手によって、ワタシがトキヒサにきちんとテイムされていると周囲に認知されているのは大きい。……何故かトキヒサ本人だけが知らないようだが。

 

 こうしてすれ違う者達に軽く触手を上げて挨拶しながら、ワタシはまず厨房に向かう。

 

「おっ! 来たな! じゃあ今日も頼むよ」

 

 料理人達が忙しく仕込みなどに動く中、めざとくワタシを見つけた一人が奥から大きな木箱を運んできた。ワタシは以前の取り決め通り、早速その箱の中身に覆い被さった。

 

 箱の中には大量の野菜くずや魚の骨、小さすぎる獣肉等のいわゆる生ごみが大量に詰まっている。

 

 生物は生きている以上食事が必要。そして調理する際にはどうしてもそういう物が出る。処理するのにも地味に手間がかかり、料理人達も微妙に困っていた。

 

 そこにワタシは目を付けた。なにせワタシはケーブスライム。()()()()()()()()のは得意技だ。

 

 数分後。

 

「おおっ! あれだけあった生ごみが見事にさっぱりと! いやあありがとう。これでごみを捨てに行く手間が省ける」

 

 そう言って料理人が仕事に戻ろうとしたので、ワタシは素早く触手を伸ばして引き留める。そして手早く持っている紙にペンで文字を書き、目の前に突き付けてやる。

 

「おっと。忘れる所だった。“お代”ね。……ほらっ! お疲れ様。明日も頼むよ」

 

 よろしい。ワタシは手渡された食料を受け取ると、“また明日”と書いてそこを後にした。

 

 このように、最近は屋敷中のちょっとした手伝いをして小遣いを稼ぐのが日課だ。

 

 

 

 

「ありがとうねボジョちゃん。その棚の上踏み台がないと届かなかったの!」

 

 ある時は触手を伸ばしてメイドの手の届かぬ所にはたきを掛け、

 

「助かるよボジョ。今日は屋敷に届く荷物が多くてね」

 

 またある時は使用人の荷物の仕分けを手伝い、

 

「ぬわあぁっ!? また負けた。……もう一回だ」

 

 薬師の休憩中にカードゲームの相手を務めたりもし、

 

「スリスリ……スリスリ……ああ。なんて気持ち良い撫で心地。もうずうっとこうしていたアウチッ!?」

 

 時折何故か湧いてくるワタシに触れたい輩に触らせてやったりもした。勿論あまりに長い奴には触手ビンタを食らわせてやったが。

 

 それぞれ料金は銅貨一枚か何かしらの食べ物で手を打っている。ちょっとした手伝いで、小遣い稼ぎの他に栄養補給も兼ねているのでそこまで吹っ掛けることもない。……最後のだけは銀貨を要求したのに素直に払うのは何とも言えないが。

 

 さらに言えば、使用人達もテイムされたモンスターが仕事を手伝うという物珍しさからか、ちょくちょく手伝いを頼んでくるので一回の料金が少なくとも問題はない。

 

 そうやって毎日数回の仕事をこなし、ワタシは集めた食べ物や硬貨を袋に詰めて部屋へと戻る。

 

「お帰り。今日も()()は楽しかったか? ……羨ましいぞボジョ」

「恨めしそうな声を出さない。嫌ならさっさと怪我を治すことね」

「そうっすよポリポリ……ボジョくんもラムネ食べるっすか?」

 

 頂こう。ワタシはツグミからラムネとかいう菓子を受け取り吸収する。……小さい割に栄養はそこそこか。

 

 トキヒサにはあくまでこの事は散歩と伝えている。エプリには気づかれているが、特に教える気はなさそうだ。ツグミはいまいちどちらか分からないが。

 

 “トキヒサというヒト種を守れ”。今もイザスタ様からの命令は健在であり、ワタシは当初肉体的にトキヒサを守れという意味だと判断した。なら常日頃から離れずにいれば済む話だと。

 

 しかし、先日の戦いで少しその考えを改めるようになった。

 

 あの仮面の男に放たれた土槍は、ワタシだけの力で防ぎきることは出来なかった。トキヒサ本人の頑強さ、及びエプリが事前に贈っていた装備の力も大きい。

 

 そしてトキヒサは少し出歩くだけで厄介事を引き付ける。あの時のような事がまた起きないとも限らない。

 

 つまり、()()()()()()何かしらの準備をしなければトキヒサを守り切れなくなる可能性がある。

 

 トキヒサが安全なこの屋敷に居る今が好機。

 

 幸いジューネの勉強会に一緒に参加したことで、簡単な文字のやり取りならワタシも出来るようになった。自らを成長させる栄養を摂取しつつ、いざという時の為に硬貨を溜めておく。

 

 ニュルッ!

 

「おわっ!? 急に服の中に入ってくるなよボジョ! ……何か前より少し重くなったか?」

 

 ふむ。トキヒサがそう感じる程度には質量が増大しているようで何より。この調子ならもうしばらくすれば()()()()に行けるだろう。

 

 ポンポン。

 

「何だ? どうしたよ? 急に頭を撫でてきて。普段のお返しか?」

 

 まあそんな所だ。まだ文字を書くのも完全ではないし、こうやって触手で撫でる方が簡単に気持ちを伝えられる時もある。

 

 どうか、準備が整うまでもう少しだけ待っていてほしい。トキヒサ(マスター)

 

 

 

 今度こそ、絶対にワタシが守り切って見せるから。




 大変申し訳ありません。前話の引きでそれっぽい事を書いておきながら、大分間が空いてしまいました。

 まあこんな感じでぼちぼち書いていきますので、次の話も気長にお待ちいただければ幸いです。
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