異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません   作:黒月天星

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第三十一話 勢い任せのプロポーズ(に似た説得)

「……殺す前に喋りなさい。ここはどこ?」

 

 エプリは俺の顔を指差しながら聞いてくる。……そうか! エプリは気を失っていたからここまでの経緯が分からないんだ。

 

「ええと、そのぅ。俺もここがどこだか分からなくてだねぇ」

「“風弾”」

「あだっ!?」

 

 正直に分からないと言ったら、エプリの指先から何か飛んできて俺の額に直撃する。例えるなら昔父さんにくらったデコピンくらい痛い。“相棒”のデコピンに比べればどうってことはないけどな。あれは本気で痛かった。

 

「……やはり頑丈ね。並のヒトなら額が割れて血が噴き出す程度の威力があるのだけど、少し赤くなっただけか」

 

 なぬっ!? 今のってそんな威力があったの!? というかそんなもんを人の頭にぶつけてきたのかコイツは!! 俺は内心怒りを覚えつつも、ここは我慢とじっとこらえる。

 

「……どこだか分からないってことはないでしょう? また誤魔化したり答えられなかったら打ち込むわ。どうせ死ぬなら痛いより痛くない方が良いと思うけど。……素直に喋ることね」

「だから本当なんだってっ! あれからお前が気絶した後にだな……」

 

 俺はエプリが気を失った後のことをかいつまんで説明した。もちろんアンリエッタのことは伏せたが。

 

 部屋は俺の周囲を旋回し続けている光球と、床に置かれたまま燃えているなんちゃって松明があるのでそれなりに明るい。こんな中で話をしていると何故かキャンプファイヤーをしている気分になるな。

 

 ……何故か時々風弾が飛んできて、顔面に直撃するのは理不尽だと思う。俺は全て正直に話しているというのに。そしてここに来て、さっき魔法の実験をしていたところにエプリが起きて俺を拘束したという所で話を終わる。

 

 

 

 

「…………話は分かったわ。オマエが嘘をついているかどうかは別にして、ここがダンジョンだということは間違いなさそうね」

 

 エプリが倒したスケルトンから核を引き抜きながら言う。俺が話をしている途中、部屋から伸びている通路の一方からスケルトンがやってきて襲ってきたのだ。

 

 俺は戦いになればエプリも拘束を解いてスケルトンに集中するかと思ったのだが、エプリは片手間でスケルトンを撃退してしまう。これはスケルトンが弱いというよりは、エプリが相当な実力者であることが大きい気がする。

 

「こういう核はダンジョンのモンスターしか持っていない。だからここがダンジョンだというのは信じる。……しかし参ったわね。今はあの時から丸一日経っているというのは本当?」

「多分間違いない。腕時計で確認したら日付が一日過ぎていた。まあこれはお前が信じてくれることが前提だけどな」

 

 エプリは腕時計を一度チラッと見て訝しげな顔をする。といっても顔の大半はフードで見えないのだが。話の途中、これはいつでも時間が分かる道具だと説明したら興味なさげな態度を取られた。信じていないのかもしれない。

 

「……クラウンからの連絡は無し……か。やはりダンジョンまでは空属性でも届かないようね」

 

 エプリは懐から何かを取り出して確認するとそう言った。俺のケースみたいな通信機器だろうか?

 

「……ふぅ。これでは依頼は不完全ね。どちらにせよ半金は貰っているからその分は良いとして、やはり一度合流が必要ね」

「ちょい待ちっ! 半金ってどういう事だ?」

 

 妙な単語を聞いた気がして聞き返す。

 

「…………言っていなかったわね。私は傭兵なの」

 

 傭兵。つまり雇われて戦う人のことである。俺の脳裏に身の丈よりデカい鉄塊みたいな剣を振り回す男のイメージがよぎる。それと目の前の少女を比べて考えて見ると…………うん。どうにも傭兵と言うのが似合わない。

 

「……似合わないなって顔をしているわね。……まあ良いわ。話は大体聞き終わったし、あとは…………分かるわよね?」

 

 エプリはそう言うと、手のひらをこちらに向けて精神を集中し始めた。げっ! 殺すってマジだったの? 情報を引き出すためのブラフとかじゃなくて?

 

「ま、待った待った。殺されるのは困るんだって。それに何で顔を見ただけで殺されなくちゃならないんだ? 顔を見た奴を殺すんだったら、俺意外にもあの場にいた全員が見ているはずだ。何で俺だけを目の敵にする?」

「顔を見た()()? 違うな。それだけなら脅しをかけて口止めすればいい。実際最初は必ずしも殺すつもりはなかった。だが、オマエは私に許せないことをした」

 

 エプリの声がだんだん凄みを帯びてくる。気の弱い人なら聞くだけで震えあがるような威圧感だ。気のせいか喋り方も少し変わっている気がする。

 

「……もしやあれか。戦いの中でもみ合いになって変な感じになったことか? 確かにあの体勢は傍から見たら酷かったもんな」

「……それもある。けれど、それは戦いの中でのこと。私の身体を押さえつけて無力化しようというのはまだ納得できた。だが…………アレは許すことが出来ない」

 

 えっ!? うっかりセクハラ紛いの体勢になっちゃった件でもないと。すると一体? 俺はエプリとはあそこで初めて会ったはずだしな。

 

「………………本当に分からないのか? あんなことを言っておいて」

 

 俺が考え込んでいると、エプリがしびれを切らしたのかヒントになるようなことを言ってきた。言っておいてということは、俺がエプリの逆鱗に触れるようなことを何か言ったってことになる。しかし何か気に障るようなことを言っただろうか? …………ダメだ。思い出せない。

 

「…………だと言ってきただろう」

「……えっ!? 何だって?」

 

 今一瞬エプリが言った言葉。だが、どうしてそれでこうなるのか分からず、何か聞き間違ったのかともう一度問い返す。

 

「…………()()()と言ってきただろうっ!! この私にっ!!」

 

 遂にエプリは絞り出すようにその言葉を叫んだ。……そういえば言ったなぁ。最初にフードが取れた時に確かに。だっていきなりどこの妖精だと言える感じの美少女が出てきたんだぞ。見とれてつい言ってしまっても仕方ないと思うんだが。

 

「いや確かに言ったけども、それで何で殺されなきゃなんないの? 普通に褒めただけだって」

「この私が綺麗だと…………ふっ。この私がかっ!?」

 

 そこでエプリは、何を思ったのかフードをとって素顔をさらした。雪のような白髪に輝くルビーのような緋色の瞳。可愛い系というより綺麗系の顔立ち。…………うん。やっぱり綺麗だ。俺的には百点満点中で九十五点をあげたい。

 

 ……残り五点はその表情の分で減点だな。だってエプリの今の表情は…………とても悲しく痛々しいと思えるものだったから。

 

「この髪と瞳の色を見ろっ! この身の忌まわしい出自が一目で分かる。それを褒めるだと? そんなことあり得ない。あり得る訳がないっ!! ならばこれは嘘だ。私をあざ笑うための虚言に違いない。…………許せるものか。そんなことは。絶対にっ!!」

 

 エプリは動けない俺の胸倉を掴んで吠えた。その言葉は刺々しく、それでいて切なさを感じさせるものだ。……俺はどうやら彼女の地雷を踏んでしまったらしい。何かは分からないが、トラウマかコンプレックスの深いところを。

 

「もう一回言うぞ。……綺麗だ」

「なにっ!?」

 

 エプリが殺気を飛ばしてくる。ここはなるべく相手を落ち着かせながら話を進めていくところだ。だが、今の彼女には適当な丸め込みは通用しない。それなら話は簡単だ。俺の気持ちを正直に話すこと。今できるのはそれだけなのだから。

 

「俺は誤魔化すことはよくやるけど嘘はあまり吐かない。その俺の見立てでは、お前は綺麗だよ。ここまでの美少女はほとんどいないと思う」

「っ!? この期に及んでまだそんなことを」

「あぁ。何度でも言ってやる。お前は綺麗だ。美人だよ。そこに嘘は吐けない。いきなり人を殺そうとするし、拷問手馴れてるし、おっかないけど…………綺麗だよ」

 

 エプリはそれを聞いて、俺から手を離して少しだけ考えるそぶりを見せた。そして、

 

「………………本当か? 本当にそう思っているのか?」

「本当だとも」

 

 即答だ。生き残りたいから言うんじゃない。本当にそう思ったから言うのだ。もっと安全で甘い言葉を囁くべきだったのかもしれないが、俺にはこんな言葉しか思いつかなかった。

 

 

 

 

「……………………お前は変わっているな」

 

 こちらを見たエプリは、少しだけさっきより落ち着いて見えた。さっきはいつ爆発してもおかしくない爆弾みたいな様相を呈していたが、今は刺激しなければ爆発しない程度には安全になった気がする。……例えとしては自分でもよく分からないが。

 

「元いた世界でも言われたよ。主に“相棒”に」

 

 俺がそう言って返すと、エプリは少しだけ顔色を変えた。

 

「元いた世界? …………まさかお前『勇者』か?」

「……自分じゃそうは思わないけど、まあ別の世界から来たという意味であれば『勇者』だな」

「…………成程ね。そういうことか」

 

 そこでフッと身体を拘束していた風が消えた。そのままずり落ちるが、よいしょっと声をあげて立ち上がる。ずっと押さえつけられていたもんだから身体があちこち痛い。

 

「拘束を解いたってことは、もう戦う気はないってことで良いのか?」

「……まあね。ひとまずは殺す気はなくなったわ。()()()が別の世界のヒトなら……()()()()()()()()()()()()

 

 そう言ってエプリは再びフードを被る。口調も元に戻っている。だが一瞬見えたその横顔は、まだどこか切なさを感じさせるものだった。

 

 

 

 

「ところで、さっきの言葉は愛の告白とでもとればいいのかしら?」

「さっきのって……あっ!?」

 

 確かに勢いに任せて綺麗だとか美人だとか言ってしまった。この部分だけ見れば口説いているようにも見える。いくら非常事態だったとはいえ俺はなんてことを~。

 

 気恥ずかしさでゴロゴロ床を転げまわる俺。それをエプリの奴は、冗談よなんて言って笑っていた。おのれ。覚えてろよっ!




 フラグが立ちました。……何のとは言いませんが。
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