異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません   作:黒月天星

53 / 272
第四十三話 赤い砂時計

「よし。ここらへんで休憩にするか。丁度良さそうな部屋もあるしな」

「さ、賛成です」

 

 先頭を行くアシュさんの言葉に、全身汗だくの俺は一も二もなく頷く。バルガスを連れて俺達がダンジョンの脱出を試みてから、もう午後の七時をまわっていた。

 

 隊列は先頭にアシュさん。次にエプリが時々周囲を調べながら続く。その後を護衛対象であるジューネ。本人曰く戦闘能力はあまり無いそうなので、隊列の中央に入っている。その後ろを俺がバルガスの乗った荷車を引っ張りながら続き、荷車にはヌーボ(触手)が同乗する。

 

 本来なら弱っているバルガスも隊列の中央に入れたいところだが、荷車は手押し式ではなくひもで引っ張るタイプなので、必然的に俺も前衛ということになってしまう。それでは後ろから奇襲を受けた時に真っ先に狙われるのはバルガスとジューネだ。

 

 二人同時に守り切るのは流石に難しいので、せめて一人にしなければマズイ。戦闘能力のないジューネと弱っているが冒険者のバルガス。どちらを優先して守るかと言えばジューネだ。という訳で俺がジューネの後ろに付き、バルガスの荷馬車にはヌーボ(触手)が同乗することで後ろからの奇襲を防ぐという算段だ。

 

 結局、地図のすり合わせをしたりバルガスから話を聞いたりで、俺達が出発したのは昼前。その後一度小休止を取り、ジューネの意向とバルガスを早く安全な場所に送るということから、今まで休まずに進み続けて数時間。いかにスケルトンとの戦いを避けながら進んでいるとは言え、各自の疲労はかなり高まっていた。

 

「……そうね。そろそろ休息が必要な頃合いかしら」

 

 すました顔でエプリもそう言っているが、実際相当消耗しているようだ。ある程度進む度に周囲の状況を探り、スケルトン達を避けて出口へのルートを把握するのは高い集中を必要とするのだから当然だ。その証拠に、出発した時に比べて僅かに息が上がっている。

 

「………………は、い」

 

 ジューネに至っては息も絶え絶えだ。足はガクガクと生まれたての小鹿のように震え、目は微妙に虚ろになっている。考えてみれば、どんな理屈かは知らないが明らかに自分よりも重量のあるビックサイズのリュックサックを担いでいるのだ。こんな強行軍をして、身体に負担のかからないわけがない。

 

 バルガスに関しては言うに及ばず。ということで、ほぼ全員一致でここで本格的な休息をとることになった。

 

 

 

 

 通路の途中には所々に部屋が設置されている。部屋の大きさはまちまちだが、今いる部屋はそこそこ広めでテニスコートぐらいのものだ。……考えてみれば、こういったダンジョンの設計は誰がしているのだろうか? 物語だとダンジョンマスターがお約束だが……今は考えても仕方ないか。

 

 部屋の内部を確認すると、手早くこの部屋に繋がる通路に警戒用の仕掛けをするエプリとアシュさん。そして周囲の安全を確保すると、今度は休憩のための準備をする。俺達も疲れてはいたが、ここで準備をしっかりとしておかないと安心して休めないので気合を入れてやっておく。

 

 全て終わった時、アシュさん以外は全員ヘロヘロになっていた。エプリでさえも壁に寄り掛かって息を整えていたのだから相当なものだ。そのまま夕食の用意をし、交代で通路の方を見張りながら食べる。

 

「えっと、現在位置は大体この辺りですね」

 

 夕食を食べながら、ジューネが手製の地図の一部を指し示す。俺とエプリが作ったものとは別の、ジューネとアシュさんがここに来るまでに書いたものだという。それに依ると、今の場所はこのダンジョンの地下二階。俺達が最初に跳ばされたのが地下三階で、先ほど階段を一つ上がったので間違っていない。

 

「ここまで予定に近いペースで進めています。バルガスさんを連れているのでもう少しかかるかと思っていましたが、予想以上にエプリさんの探査能力のおかげで助かっています」

 

 ジューネが言うには、スケルトンと遭遇しないことで大分時間が短縮されているという。アシュさんなら戦闘時間はほとんどないが、それでも時間が全くかからない訳ではない。それに行きは道を少しずつ探しながら進む状態だったので、今は多少スケルトンを避けて道を逸れてもエプリの能力で相当短縮されたという。

 

「この調子なら、早ければ明日の夜中頃にはダンジョンを抜けられる予定です。まあ今日のような強行軍を連続で続けるのは難しいので、実際はもう少し遅く明後日の朝頃になるかと思います」

 

 明後日の朝か。ダンジョンは好きだしロマンだけど、今は怪我人が居るからな。なるべく早く脱出できるならそれに越したことはないか。

 

「……無理な行軍は長続きしないもの。少し余裕を持った予定は必要ね」

 

 エプリはそう言って千切ったパンを口に放り込む。失った体力を補おうとするかのように食べる。とにかく食べる。…………食いすぎじゃないかってぐらい食べる。

 

 あのパンはかなり噛み応えがあるから一つだけでかなり腹持ちが良いはずなのに、もう五つ目に突入している。このまま大食いキャラで定着しそうな勢いだ。

 

 

 

 

「ところで、バルガスさんの具合はどうですか?」

「あぁ。さっきまた眠ったとこだ。やはり凶魔になっていた時の疲労が今頃になって来たらしい」

 

 移動中も時折話を聞いてみたのだが、思い出したことは特にはなかった。だが、どうやら誰かに襲われたのは今から三日前のことらしい。つまり襲われた時点で凶魔化していたとすると、昨日俺達と戦った時には二日目だったことになる。

 

 凶魔化なんて明らかに身体に悪そうなものを二日もしていたのだから、身体への負担は相当なものだったろう。……というか本当に良く人に戻れたな。最悪あの時もう戻れないことも覚悟していたんだけどな。

 

「それにしてもヒトの凶魔化とは。とんでもないことを考える人がいるものですね。上手く使えばかなりの利益を産み出せそうな話ですが、私個人としてはどうにもやろうとは思えません」

 

 最初に利益のことを挙げる点は何とも商人らしいが、凶魔化自体には反対の意思を示すジューネ。俺もあんな怪物になるのは嫌だ。明らかに理性がぶっ飛んでいたしな。……仮面〇イダーやスパイ〇ーマン的な怪物(ヒーロー)には少し憧れるけど。

 

「……そう言えば、魔石を取り出したことでバルガスさんは元に戻ったんですよね? つまりその魔石を再び人体に打ち込んだら……」

「そりゃあ再び凶魔化を…………って!! 大事じゃないかそれ!! アシュさん。至急あの魔石を誰も触れないようにガッチガチに梱包してですね」

「それなら多分大丈夫だと思うぞ」

 

 慌てまくる俺の言葉に、通路を見張っていたアシュさんが落ち着いた様子で言う。その手には今話題に出たばかりの魔石が握られている。

 

「今のこれからは魔力はほとんど感じられない。仮に凶魔化に大量の魔力が必要だと考えれば、多分この中に溜まっていた分は、バルガスを凶魔化させた時にあらかた使っちまったんだろうな。これなら普通の魔石と変わらんよ」

「……確かに魔力はほとんど感じられないわ。だけど魔力が必要だというのはあくまでも推測。その魔石自体が特殊だという可能性も残っているんじゃない?」

 

 アシュさんの言葉にエプリが冷静に反論する。確かに魔石自体が特殊だったらまたヤバいことになりかねないもんな。だけどエプリよ。せめてパンを手から離して言った方がより説得力があると思うぞ。

 

「それもそうだな。じゃあ大丈夫だと思うが念の為、これは最初のトキヒサの言うとおりにガッチガチに梱包して俺が預かっておこう。……それなら少しは安心だろ?」

 

 アシュさんはあっさりと自分の意見を曲げてエプリに合わせた。どうやら最初からそう言われることは織り込み済みだったらしい。

 

 ジューネが取り出した厚手の布。包んだ物の魔力を漏れないようにするらしいそれに魔石を包み、その上からさらに何重にも縛ってちょっとしたサイズになったものを懐に入れるアシュさん。

 

「これで良しっと。ここから出たら、近くの町に行ってちょっと調べてもらった方が良いな。そうじゃないと売るに売れない」

 

 売る気はあるんだ!? この世界の人はたくましいな。

 

「勿論危険があると判断されたら売らないさ。その場合は然るべきところに預けるかその場でぶっ壊す。ちょいともったいないが、うっかり誰かが使ったりしたらことだものな」

 

 アシュさんはそう言ってニカっと笑う。……う~む。やっぱりアシュさんって誰かに似ているんだよな。それも比較的最近会った人の誰かに。誰だったかなぁ。

 

「アシュ。儲け話になりそうでしたら私にも噛ませてくださいよ。値上げ交渉ならお任せです。その場合儲けた分の一部は山分けですが」

「分かってるって。その時は頼りにしてるぜ。雇い主様よ」

 

 そうして和気藹々と金儲けの相談をする二人。エプリは何か思うところがあるのか、二人の方をじっと見ている。……と言ってもフードを被りっぱなしなので、正確な目線は分からないのだが。

 

 俺も二人が話しているところを見ていて……ふとアシュさんが腰から提げている刀に注目した。やっぱり刀はロマンだと思う。

 

 しかし二本提げてはいるが、両方とも同じ左側に差しているのは何故だろうか? 二刀流にするなら個人的には両側に一本ずつのイメージがあるし、大刀と小刀という感じでもない。というか片方には、何故か鍔の所に鎖がグルグルに巻かれて抜けないようになっている。

 

 そしてその鎖には赤い砂時計を模したような錠前が…………うんっ!? ()()()()()? そこで俺は、イザスタさんもそんなようなネックレスを着けていたことを思い出す。

 

「ああ。そっか。イザスタさんに似てたんだ。雰囲気とか」

 

 俺がそうポツリと呟いた瞬間、ジューネと話していたアシュさんがまるでリモコンの一時停止ボタンを押されたかのごとくビタッと動きを止め、そのまま錆びついたかのようにゆっくりとこちらを振り向く。何故か顔中に冷や汗を浮かべながら。…………これ確実に何かあるな。




 エプリ大食いキャラ疑惑。あと、お揃いの物って連帯感が湧きますよね。

うちのエプリはこんなのだけどヒロインと言えるのか?

  • 一応ヒロインである
  • これはヒロインではない
  • むしろアンリエッタの方が美幼……ヒロイン
  • いやいや大人の魅力でイザスタさんでしょ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。