俺は貯金箱を構えながら、宝箱の乗っている台座にじりじりと近づいていく。一応近づくだけで罠が作動する可能性も考えて、一歩一歩ゆっくりと慎重にだ。そうして宝箱にギリギリ手の届く所まで近づいた時、
「…………んっ?」
台座の周りだけ床の色が微妙に異なっている。よく見ないと気が付かないくらいの違いだし、普通は宝箱や台座の方に目がいって分からない。これはどういう事だ?
「…………待てよ。そういうことか。となると……エプリっ!」
「何?」
「多分床にも何か仕掛けがある。壁と床、両方に注意してくれ!」
これはおそらくダンジョンのお約束である落とし穴だ。問題はどのタイミングで作動するか。
上に乗ったら作動するタイプなら乗らなければ心配ない。実際あと一歩でも踏み込んだら乗ってしまうが、ここからでも十分換金は可能だ。又は宝箱に触れたり開けたりしたタイミングの場合。それも触らずに換金するので心配ない。最悪なのはもう一つの可能性。
エプリは何も言わずにこくりと頷く。俺はそれを確認すると、再び宝箱に向き直る。これから宝箱を換金したとして、起こりうるパターンを何通りか頭の中で考え、一つ一つに対してどう動くかを考える。こういう先読みとかは“相棒”にはかなわないが、足りない分はダンジョンの知識と想像力でカバーしようじゃないの。
「これから三つ数えたら換金する。終わったらすぐ出口に向かって階段を駆け上がるからな。ジューネも全力で走れよっ!」
「分かってますとも!」
微妙にジューネの声が震えているように聞こえたが、それは武者震いのほうだと信じたい。俺はもう一度宝箱に貯金箱の光を当て、あとは表示されたボタンを押すだけで換金できる用意をする。
「じゃあ行くぞ! ……三、二、一、換金っ!」
俺は言葉と同時にボタンを押す。その瞬間、宝箱はフッと消え去った。さて、ここで最初の問題だ。宝箱は換金できたが中身の買取不可だった“何か”はどうなるのか? 答えは……
「おっと!?」
俺は空中に放り出されたその“何か”を咄嗟にキャッチする。……それは拳大のサイズの石だった。全体的に丸みを帯びてはいるが、所々デコボコしていてまんまるとはとても言い難い。色は反対側がうっすらと見えるくらいには透明度の高い青色だ。魔石にしてはデカいな。それに何というか少し違う気がする。うまくは言えないのだがこう…………質というか。
ビー。ビー。ビー。
俺が一瞬その石に見とれていた間に、事は一気に進行する。突如として部屋中に、耳障りな警報音が響き渡ったのだ。どうやら考えていた最後の可能性が的中したらしい。宝箱が
「……おわっと!?」
突如として床が揺れだし、台座の周りから順にヒビが入り始めた。これは落とし穴と言うよりは…………マズイっ!
「全員走れえぇっ!」
俺はそう力の限り叫ぶと、石を素早く服のポケットにしまい込んで一目散に階段に向かって駆けだした。ややごつごつして痛いが、換金できないのでは仕方がない。その僅か一秒後、台座の部分
やっぱりかっ! 台座の周りだけ違う色だったことからこの可能性は考えていたが、まさかほんとにやるか普通!? これでは下手したら護るべき宝物だって落っこちるんだぞ!!
そんなことを考えながらも、俺は先に走っていたエプリ、ジューネ達と一緒に階段を駆け上がる。チラリと後ろを振り向くと、どんどん床の崩落が進んで遂には階段も下から順に崩れ始めていた。それと同時に反応のあった五か所の壁がスライドし、中から何かが大量に飛び出してくる。アレは……。
「……っ!? 気を付けて。ボーンバットの群れよっ!」
エプリが珍しく焦ったような声を出す。その名の通り全身骨だけの蝙蝠みたいなやつが、凄まじい勢いで部屋になだれ込んできた。
大きさは羽(骨だけど)を広げておよそ十五センチ行くか行かないかというところ。あまり大きくもなく、大して怖そうでもないと思えるのは一匹だけならの話。同じような骨蝙蝠が何十と群れを成して襲い掛かってくるのはホラー映画さながらである。
…………今更だが、俺の仕掛けた網はあんまり効いていないようだ。一応何体かは引っかかっているのだが、元々小柄な上に骨だから大半が身体を折りたたんで網の目を潜り抜けてしまうのだ。ちくしょうっ! スケルトン軍団でも出るかと思ったら骨違いだった。俺のなけなしの千デン返せっ!
「急げっ! もたもたしてると追いつかれるぞっ!」
「分かって、ますよ。はぁっ。はぁっ」
俺達はひたすら上に向かって走る。しかし道のりは長く依然として出口は見えない。体力面では俺はまだまだ行けそうだし、エプリも少しは余裕がある。しかし問題はもう一人だ。
ジューネも顔を真っ赤にして必死に走っているが、息も荒く今にも足が止まりそうだ。無理もないか。階段を下りる時だって疲れていたものな。
順番もジューネが遅れだしたことで、先頭にエプリ、真ん中に俺、最後尾がジューネになっている。エプリもペースを落としてジューネに合わせようとするが、落としすぎると階段の崩落に追いつかれる可能性があるのでなかなかうまくいかない。
そして、空中からは俺達のところまで追いついてきたボーンバット達が襲い掛かってくる。これは中々に嫌らしい罠だ。時間が経てば経つほど崩落は進み、もたもたしていたら崩落に巻き込まれる。かと言って走ることだけに集中しようにもボーンバットが行く手を阻む。向こうは飛んでるからいくら床が崩れても関係ないしな。
「このっ!」
俺は飛びかかってきたボーンバット一体を貯金箱で叩き落す。ガシャっと音を立てて穴に落ちていくボーンバット。サイズも小さいし骨だけだから、一撃当てればそれだけで倒せる。しかしとにかく数が多い。一体倒したところでまだまだドンドン壁の開いた部分から飛び出してくる。目算だが、もうざっと百は出ているのではないだろうか?
「きゃあっ!?」
「ジューネっ!」
悲鳴を聞いて後ろを振り向くと、どこから声を出しているのかキイキイと泣き声らしきものをあげながら、ボーンバット数体がジューネに襲い掛かっている。ジューネは手で振り払おうとするが、ひらりひらりと避けながら噛みつこうとするボーンバット達。助けに行こうにも、俺の方にも追いついてきたボーンバットが纏わりつく。このままでは……。そう思った時、
「風よ。巻き起これ。“
救いの声はすぐ近くから聞こえてきた。その瞬間、吹き抜けとなっているフロア中央に強烈な風が吹き荒れる。その風は今にも襲い掛かろうとしていたボーンバット達のバランスを崩し、次々と落下させていく。この風は……エプリの風魔法か。
「そこを動かないでっ!」
エプリはジューネに半ば怒鳴りつけるように言う。ジューネは反射的に見をすくめ、一時的に動きが止まる。そこを狙って残ったボーンバットが襲い掛かるが、
「“
エプリの放つ圧縮された風の弾が、飛びかかろうとしたボーンバットを一体ずつ撃ち落としていく。そしてジューネの周りにいたボーンバットが全て撃退されると、エプリがジューネの近くに駆け寄っていく。
「……大丈夫? 怪我はない?」
「えっ。えぇ。大丈夫です。ありがとうございます。助かりました」
「礼は要らないわ。……仕事でやっているだけだから」
ジューネがお礼を言うと、エプリはただ淡々とした態度で応える。しかしフードに隠れて表情が見えないが、どことなく嬉しそうな気がするのは気のせいだろうか? 意外に微笑ましい風景なのだが、
「それは良いんだけど…………こっちも何とかしてくれても良いんじゃないかい?」
そう。こっちに纏わりついているボーンバットはまだ健在だったりする。加護のおかげか噛みつかれてもたいして痛くないのだが、こう何体もくっつかれていると動きづらいしたまったものではない。早く何とかしてくれよっ!
「…………いざとなったらジューネを優先して護れと言ったのはアナタではなかった?」
うぐっ! 確かにそれを言われると弱い。一度言ったことを曲げる訳にもいかないしな。……えぇ~い仕方がない。やってやろうじゃないの!
「このっ! いい加減離れろっ!」
俺は貯金箱を振り回し、纏わりついてくるボーンバット達を何とか振りほどく。振りほどいた順に倒していき、何とか全て撃退する。
はぁはぁと息を整える俺に対して、エプリは一言「遅かったわね。“強風”でまだボーンバット達が混乱している今のうちに行くわよ」と告げて再び階段を上り始める。ジューネも一休みしたから元気になったのか、さっきよりも幾分軽やかにエプリに続く。
……おかしいな? いくら何でも軽やかすぎ……あれ!? よく見たらジューネの服が不自然に風ではためいている。そうか。エプリの風魔法で追い風を作っているな。これなら少しはスピードも上がるし、身体にかかる負担も軽くなるってってことか。
「なるほどなるほど……って! 感心してる場合じゃなかった。お~い! 俺を置いていくなっ!」
一人納得している内に、階段の崩れる音がドンドン近づいてくる。ボーンバット達も体勢を立て直しつつあるようだ。急がないとな。俺も二人の後を追って再び走り始めた。しかし俺にもかけてくれないかねその風魔法。そうしたらもっと楽なのだが。
トレジャーハント物って崩壊する遺跡からの脱出が結構お約束ですよね!
うちのエプリはこんなのだけどヒロインと言えるのか?
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一応ヒロインである
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これはヒロインではない
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むしろアンリエッタの方が美幼……ヒロイン
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いやいや大人の魅力でイザスタさんでしょ