吹き荒れる暴風。そして響き渡る轟音。あまりの暴風に、俺は両腕で顔を庇いながら前傾姿勢になって踏ん張る。まさかここまで凄いとは、もしこれを牢獄での戦いで使われていたらエライことになっていたぞ。
“大竜巻”は触れるスケルトン達をことごとくバラバラに吹き飛ばしながら階段を吹き荒れ、そのままの勢いで階段沿いに上部へ突き進んでいく。だが、
「マズイっ! 崩れるぞ!」
予想通りと言うか何というか、“大竜巻”の威力に階段や壁が耐えきれず、全体的に少しずつだがボロボロと崩壊が始まった。俺達がいる通路にも小石サイズの破片が落ちてくる。邪魔なスケルトンは一掃できたがこれでは……。
「エプリがあんな物凄い技を使うからだぞ! いくら何でも階段まで壊すのはやりすぎだ。これじゃあこっちも通れない!」
「……問題ないわ。ジューネはしっかり掴まっていて…………飛ぶわよ!」
飛ぶ? 飛ぶって一体? 一瞬理解に苦しんでいると、エプリはなんとジューネと一緒に階段から穴に向かってジャンプした。わぁバカ!? 何やってんだ!? 俺は慌てて通路の淵に駆け寄る。すると、
「“強風”」
その言葉と共に、落下するエプリとジューネの周りに風が巻き起こり、そのまま空中に浮いたのだ。それだけでなく、ボロボロと崩れ落ちてくる階段の破片が彼女たちに当たる直前で軌道が逸れていく。どうやら風で直撃を避けているようだ。
「このままジューネを連れて出口まで最短距離で上がるわ」
「何だよ! 飛べるなら最初から言えよ! 焦って損した。それに最初から飛んでいけばこんなに苦労しなくても良かったのに」
俺は文句を言う。一瞬本気で焦ったんだからな!
「……飛べると言っても長時間は無理だし、
エプリは淡々と説明する。理由は分かったけど、次からは先に言っておいてほしい。心臓に悪い。
「……エプリさん」
ジューネが掴まったままの状態で呼びかける。両手でがっしりと掴まっているので今は大丈夫そうだが、あまり長くはもちそうにない。よく見たら腕がプルプルしている。
「分かってる。……それじゃあ私達は先に行くから、アナタは自力で追ってきて」
「自力でって、一緒に連れて行ってくれないのか? こんな瓦礫が降ってくる中を一人で行けっての?」
さっきから微妙に小さい瓦礫が頭にコンコンと当たっているのだ。今はまだ小さい破片程度だが、もっとデカいのが降ってきたらかなり危ない。
「……一度に飛べるのは二人が限度よ。それ以上になると不安定になるし、風による落下物避けもうまく働かなくなるわ。それでも良い?」
そこでちょっと想像してみる。俺が一緒に掴まって出口まで行こうとすると…………うん。降ってきた瓦礫に頭をぶつけて落っこちる様子が簡単に浮かんでくる。それに俺だけならまだたんこぶが出来るだけで済むかもしれないが、エプリやジューネに当たったらたんこぶではすみそうにない。
「仕方ないか。それじゃあ先にジューネを頼む。俺は何とかついていくから」
「分かったわ。……ジューネを送ったらすぐ戻るから、それまで頑張って」
そう言うとエプリはジューネを連れて、ふわりと吹き抜けになっている部分を昇っていった。最短距離だし結構速度もあるので、これなら一、二分くらいで出口に到着しそうだ。……よし。あとは俺だけだな。俺は瓦礫の降り注ぐ階段を、崩落しないように慎重に走っていった。
「はぁ。はぁ」
俺は一人階段を駆け上がる。エプリの大竜巻から僅かに生き残ったスケルトン達は、降りかかる瓦礫を避けることが出来ずにさらにその数を減らしていた。スケルトン達が出てきていた壁の穴も、瓦礫で塞がれていたので増援の心配はない。
床が瓦礫でデコボコしているためまともに動けるものが少なく、俺を攻撃する余裕のなさそうな奴はそのまま放置して先へ進む。いちいち戦っていたら崩落に巻き込まれかねないからな。
「とりゃあっ」
それでも立ちふさがってきた一体に貯金箱を叩きつける。武器を持つ腕を破壊し、倒したかどうかなんて確認もせず、そのまま横をすり抜けて先へ進む。今は時間が惜しいんだってば。襲ってくんな! 俺は目の前に落ちてきたやや大きめの瓦礫を避けながら心の中で呟く。
走りながら時折出口の位置を確認する。瓦礫やスケルトンの妨害のせいで進みは遅いがもう少しだ。あと階段を壁沿いに三周くらいすれば辿り着く。……ほら見えてきた。遠目だが人影が出口にいるのが見える。おっ! エプリも空中を飛んでこちらに向かってくるな。
「………………よ!!」
一人だからか、ジューネを連れていた時よりも凄い速さでこちらに向かってくる。そんなに急がなくてももうすぐ到着するってのに。何か叫んでいるようだけど…………何だろうな?
「…………急いでっ! 後ろよっ!!」
ようやく聞き取れる距離まで来た時、エプリの緊迫した声が響いた。後ろ? 後ろって…………。俺はハッとして走りながら後ろを振り返る。すると、
「キイキイ。キイキイ。キイキイキイキイ……」
「なっ!?」
おびただしい数のボーンバットの群れが、降り注ぐ瓦礫もものともせずにこちらに向かっていたのだ。
「“
エプリがこちらに向かいながら風の刃を放つ。だが、それによって数体が切り裂かれ、他にも瓦礫によってそれなりの数が墜落していくのにも関わらず、その集団の勢いはまるで弱まることが無い。
「う、うおおおおおっ!」
もう少しだというのに、あんなのと戦っていられるかい! 俺は力を振り絞って階段を駆け上がっていく。しかしどうしても空中と言う最短距離を向かってくるボーンバット達の方が速い。あと出口まで一回り半というところで、俺は遂に追いつかれてしまった。
「このっ! 離れろっての!」
体中にこの骨蝙蝠たちが纏わりつき、俺の身体に牙を突き立てようとする。必死に振り払おうとするが、はらってもはらっても襲ってきてキリがない。そして、
「離れ…………えっ!?」
急に身体に浮遊感がやってきた。それがボーンバット達に気を取られている内に、
「う、うわああああぁっ!?」
俺は必死に手を伸ばして何かに掴まろうとするが、全身にボーンバット達が纏わりついていてまともに動かすことが出来ない。そのまま落ちればコイツらもただでは済まないというのに、そんなことはお構いなしにしがみついてくる。おまけにそこはもはや空中だ。掴むものなど何もない。
一番下の床まではどれだけの距離が有るか。元々それなりに距離があったことに加え、今は床が崩落したことによってさらにその下まで続いている。このまま落ちたらいくら何でも助かるとは思えない。このボーンバット達をクッション代わりにするという事も考えたが、骨しかないのでクッションには向かない気がする。固そうだ。
どうする? どうするどうする? 穴に向かって落ちていく中、頭の中がグルグルして考えがまとまらない。マズイ。自分でも軽いパニックを起こしかけているのが分かる。いったいどうしたら……。
「………………諦めないでっ!」
「……!?」
ふと上を見ると、エプリがほとんど落ちているのではないかというスピード。いや。すでに自由落下中の俺に追いついてくるのだからそれよりも速くこちらに向かってきていた。さっきジューネにも使っていた風属性の応用らしい。
「“風弾”」
エプリは落下しながらも的確に、俺に纏わりついているボーンバット達を撃ち落としていく。そして右腕の部分のボーンバットを全て撃ち落とすと、
「手を伸ばしてっ!」
自身もこちらに向かって手を伸ばしながら叫ぶ。俺も自由になった右腕を必死になってエプリの方に伸ばす。互いの距離は残り約三メートルほど。エプリも風を操って少しずつ近づいているのだが、なかなか最後の差が詰められない。
「……っ! エプリっ! 危ないっ!」
「……なっ!?」
俺に纏わりついていた奴らだけではなかったのだろう。落ちていく途中に、何体ものボーンバットが今度はエプリに襲い掛かる。エプリは迫りくる相手を次々と仕留めていくが、内一体がエプリの攻撃をギリギリ回避して顔面を掠めていった。
被っていたフードが取れ、露わになった素顔には額から一筋の血が流れている。今の一撃で額を切ったらしい。エプリはそんな自分の傷を、まるで意にも介さずにこちらに突き進んでくる。だが、今の妨害で俺との距離が開いてしまった。もう大分下まで落ちている。まもなく宝箱が有った場所に到達するだろう。時間がない。
「……くっ! 加速が足らないわね」
だが、エプリは悔しそうに言いながらもまだ諦めていない。それどころか、さらに速度を上げて俺に追いつこうとしている。……そうだよな。まだ諦めるには早いよな。何か方法が有るはずだ。俺は頭をフル回転させてどうすれば良いか考える。すると、
「…………あれは!?」
落下する俺の目に、思わぬものが飛び込んできた。
書いているうちに、これって普通男女の立ち位置逆じゃない? って思ってしまいました。……しょうがないじゃないか時久だもの。
うちのエプリはこんなのだけどヒロインと言えるのか?
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一応ヒロインである
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これはヒロインではない
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むしろアンリエッタの方が美幼……ヒロイン
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いやいや大人の魅力でイザスタさんでしょ