調査隊のダンジョンからの帰路は、特に大したトラブルもなくとてもスムーズに進んだ。マコアの制御下にないモンスターはほとんど出ることもなく、出たとしても一体や二体の少人数。その程度ではピンチに陥るはずもなく、マコアの先導によって道に迷う事もなく、あっさりと入り口近くまで辿り着いた。
「見送りはここまでで大丈夫です。マコア殿はそちらにお返しします」
ゴッチ隊長はマコアの入った袋を同伴していたスケルトンに手渡す。ちなみに今はここにいるスケルトンは五体だけだ。あんまり大人数で固まっているのも効率が悪いので、スケルトン達にはダンジョン内に散らばってもらっている。野良のモンスターを探してはマコアの所に引っ張ってくるという。
『……おや? すんなり返してくれるの? ここにいるスケルトンは五体だけだから、強行突破ぐらい簡単だと思うけど?』
「同盟者を試すつもりならやめた方が良いと思いますよ。
ゴッチ隊長のその言葉にエプリの方を伺うと、エプリは「本当よ。近くに大量のスケルトンの反応があるわ」とこっそり答える。なんとっ! いつの間にか包囲されていたらしい。もし欲に駆られてゴッチ隊長達が裏切ろうものなら、即座にスケルトン達がここになだれ込んでくるといったところか。
「一日で信用なされるのは難しいとは思いますが、その点はこれからの行動を見て信用していただくしかありません。しかしこれだけは言えます。一度同盟を結んだ以上、我ら調査隊はマコア殿が先に裏切らない限りは裏切りません。これは私がいない間の隊員全員に言えることです」
ゴッチ隊長はハッキリと自信をもってそう断言した。自分だけではなく、自分以外の隊員たちも裏切ることはないと。それに周りの調査隊の人達も神妙な顔で応える。マコアは黙ってその言葉を聞き、何か感じ入ることがあったのかピカピカと小さく点滅する。
『……今包囲していたスケルトン達を下がらせたよ。確かに同盟者に対してやることではなかったよね。……ごめんなさい』
「あっ! いえいえ。疑うのも仕方のないことです。だからこそ信じてもらえるように行動するだけですよ」
心なしか少し落ち込んだ様子で素直に謝るマコア。……そういえばマコアって少し子供っぽいところがあるよな。話し方とか。もしかしたら、対人経験が少ないからその点にも影響があるのかもしれない。ゴッチ隊長もそう感じたのか慌ててフォローを入れる。
……どうしよう? どうにも俺の中でゴッチ隊長の姿が、落ち込ませちゃった子供を慰める優しいお兄さんっていう風に見える。
『うん。じゃあここで一度お別れだね。……それと、トキヒサもここを出たらすぐ出発するの?』
「……ああ。一度拠点に戻って出発の用意をしてからだけどな。急いでこれを何とかしないといけないから」
気を取り直したマコアの言葉に、俺は服の上から件の指輪と羽が入っている箱をポンッと叩く。これの話を知っているのは、ここには俺やエプリを除くとマコアとゴッチ隊長だけだ。調査隊の人達のノリなら言っても問題ないとは思うが、心配してそれが元で動きが鈍ったりしたらマズいからな。
『君にはとても助けられた。ボクを宝箱から出した次の日、あのまま外に持ち出しても良かったのにそうしなかった。夢の中で少し話しただけの間柄なのにね。……正直に言うと、あの時とても不安だったんだ』
「不安?」
『そう。突然マスターが殺されて……訳も分からないままダンジョンを乗っ取られて、それであの宝箱の中に押し込まれた。壊されることも、外に持ち出されることも覚悟していたつもりだった。だけど閉じ込められるのは予想してなかったから。……外の様子も分からないし、力の大部分も戦いの中で使っちゃったから無くなっていたし、これからどうなるんだろうって思ってた。トキヒサと初めて会ったのはそんな時だったよ』
マコアの言葉に、俺だけでなくゴッチ隊長や調査隊の人達、エプリまでも聞き入っている様子だった。それほどまでにその言葉には、紛れもないマコアの正直な気持ちがこもっていると感じたからだと思う。少なくとも俺はそうだ。
『突然周りの宝箱がフッと消えて、外に放り出されて。気がついたら見知らぬ誰かの手に渡っていた時は……ちょっと怖かったかな。……おまけにボクやマスターの造りかけだった部屋に幾つも妙な仕掛けがされていたしね。でも、そこでスケルトンやボーンバットを倒していったから、少しだけ力が戻ってトキヒサに話しかけることが出来るようになった。ボクは少し複雑な気持ちだったけどね』
そりゃまあ自分のダンジョンで暴れている奴がいるけど、暴れているおかげで自分の力が戻っていくって言うのは複雑だろうな。怒れば良いのか喜べば良いのか。
『そこでボクは思ったんだ。少しずつ力が戻ってはいたけれど、それでも今のままではどうにもならない。外に持ち出されたらもうこのダンジョンに戻ることは出来ない。ならばいっそのこと、今ここのダンジョンに起きていることを話してしまおう。それが元でこのダンジョンが踏破されるかもしれないけど、あいつらにこのままダンジョンを勝手にされるのよりはまだマシかなって』
「マコア……」
『…………不安だった。こっちの言葉に耳を貸さない可能性の方が高かったし、あいつらと同じようにダンジョンを乗っ取ろうとするんじゃないかって疑念もあった。だけど今のボクに出来るのは、話しかけることしかなかった。それで…………夢の中でトキヒサにこれまであったことを全部話した』
そこからは俺も憶えている。最初は信じられないような話ばかりで話半分だったな。だけど、マコアが少なくとも必死に話しているという事は伝わってきたから、最後まで話を聞くことにしたんだっけかな。
『全部話し終えた後、どこかボクは自棄になっていたと思う。もうこのまま外へ持ち出されても仕方ない。もうボクにはこれ以上何もできないんだから。……だけどトキヒサはこう言ったよね。“そっか。じゃあ
……そう言えばそんなことも言ったな。俺としては少しでもアピールポイントを作っておけば何かしら役に立つんじゃないかって思っただけなんだけど、マコアの方はもっと深刻な話だったらしい。
『こうして今少しだけど力を取り戻せたのも、外のヒト達と一時的にとは言え同盟を結べたのも、全部トキヒサ、君のおかげなんだ。宝箱からボクを取り出したのが他の誰であっても、ボクはここにはいなかったと思う。だから……だから、本当にありがとう』
マコアの言葉と共に、部屋にいたスケルトン達が一斉に俺に向けて頭を下げる。
「別に良いって。こっちもその方が良いと思ってやっただけなんだから。それに肝心なところで一旦ここを離れるし」
『ここまでやってくれただけで充分だよ!』
そうかな? 俺がやったことと言ったら、宝箱から取り出して話をして、他の皆を説得しただけだ。それくらい俺じゃなくても出来そうなもんだけどな。
「……少しよろしいですか?」
俺がそんなことを考えていると、ゴッチ隊長と調査隊の人達がマコアに向けて近づいていく。なんか今の話でおかしなところでもあっただろうか?
『……何かな?』
「…………マコア殿。改めて宣言させていただきます。私達はマコア殿と共に戦うと」
「そうだぜ。俺達をガンガン頼ってくれていいからな」
よく見たら隊長達の瞳が潤んでいる。調査隊の人の中には本気で涙してる人もチラホラだ。今の話が彼らの琴線に触れたらしい。何故か急に好感度が上がったことでマコアも困惑気味だ。
『えっ!? 何々急に?』
「実を言いますと、私達は今の今までマコア殿のことを心の何処かで信用しきれていませんでした。結局はダンジョンコア。ヒトのように話が出来るけれど、何を考えているか分からないと。しかし、今のお二人の会話を聞いて考えを改めました」
「……ダンジョンコアでも不安に思ったり、相手に心から礼を言えるってことが分かったからな」
「苦労してきたんだなぁおい。安心しろよ。俺達も協力するぜ」
どうやらマコアの気持ちを込めた言葉が調査隊の人達の信用を得たらしい。これまではどこか一歩引いたような態度だったのだが、一気に軟化した。
……と言うより軟化しすぎな気がする。一部の人はスケルトンにまで親しく接しているぐらいの変わりようだ。……いや、これまでは気を張っていただけで、どちらかと言えばこっちがこの人達の素なのかもしれない。
『何だかよく分からないけど、信用してくれるのは助かるよ』
自分でもよく分かっていないようだが、マコアは少しだけ嬉しそうにそう言った。……隊長がしばらくいなくなったら同盟が崩壊するんじゃないかと不安だったけど、これなら問題なさそうだ。
「じゃあ、俺達は行くよ。早いところ色々とやることを終わらせてまた来るからな。その時には何か土産でも持ってくるけど……何が良い?」
『別に物は要らないよ。じゃあ外の世界の話でも聞かせて』
「分かった。土産話をたくさん用意してくるよ。……またな」
「私も報告が済み次第戻りますからね」
こうして一気に信頼度が上がった調査隊一行は、明日の簡単なダンジョンでの探索予定をマコアと話した後、別れ際に約束をしてダンジョンの入口から外へ出た。外には数名の馬番と、各自で乗ってきていた馬たちが待っている。
腕時計を確認すると時刻は六時前。外はもう夜のとばりが落ち始め、これ以上時間が経つと移動に差し障る程になるという。調査隊の人達がそれぞれの馬の確認のため、数分ほど時間を取る。
「では急いで拠点に帰還します。それぞれ周囲の警戒を怠らずに。はあっ!」
全員の確認が終わり、ゴッチ隊長の合図で順番に出発していく調査隊の人達。俺も来た時と同じように調査隊の一人に一緒に乗せてもらう。
っと、エプリは何処だ? きょろきょろと見回すと、入口の近くの岩陰で何かゴソゴソとやっている。もう出発だってのに何をしているんだ? 俺は小走りにエプリに駆け寄る。
「…………っ!?」
エプリは何かに集中していたらしく、俺が大分近づいてからやっと気がついたようだった。その手には何か持っている。あれは……。
「…………何?」
「そろそろ行くぞ。一緒に乗ってくれる人が待ってるんだから早くしないとな」
「……分かったわ。今行く」
エプリは何かを懐にしまい込むと、俺と一緒に待たせている人の所に向かう。だけど俺の意識は、さっきまでエプリが持っていたものに向かっていた。
あれには見覚えがある。あれは…………以前エプリがクラウンと連絡を取ろうとしていた時に持っていたものだ。それを今取り出していたってことは……。
「……もうなのか? エプリ」
俺達の契約の終わりは、目前に迫っていた。
マコアと調査隊の絆が深まりました。元々調査隊は体育会系のノリの人が多いからこそですね。
うちのエプリはこんなのだけどヒロインと言えるのか?
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一応ヒロインである
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これはヒロインではない
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むしろアンリエッタの方が美幼……ヒロイン
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いやいや大人の魅力でイザスタさんでしょ