異世界出稼ぎ冒険記 一億貯めるまで帰れません   作:黒月天星

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第七十七話 俺がやるべきことは

 

 俺は急いでエプリの元へ向かった。さっきのポーションで傷や体力は何とかなっても()()()()()。多少復調したとはいえ、解毒しない限り不調は続くのだ。そんな状態で長く戦えないはずだ。

 

 クラウンから解毒剤をぶんどっておけばよかったかもしれないが、しかしどれが解毒剤かなんて分からないしな。下手に違う薬を飲ませて悪化したら大変だし……エプリに薬の知識が有ったら見てもらうことになるか。そんなことを考えながら向かったのだが……。

 

「…………ありゃっ!?」

 

 だがそこには、()()()()()()()()()()()()。エプリは近くの岩に寄り掛かって動かず、頭上から月明かりが岩場を照らして幻想的な光景を見せている。こんな状況でなければのんびり眺めていたいのだがそうはいかない。

 

「エプリっ! こっちはひとまず大丈夫だ」

「……影に気を付けてっ! そこから襲いかかってくるわっ!」

 

 俺に気づいたエプリだが、そのままの体勢で地面から……正確に言うと地面に伸びている影から視線を切らさない。影か……そう言えばさっき影が勝手に動いてエプリの攻撃をガードしていたな。つまり影を操る魔法か! しかし、

 

「影ったって…………どこの影だ?」

 

 そこら中岩の影だらけで、どこから来るか分からない。ひとまずエプリの近くへ……。

 

「……っ!? トキヒサ足元っ!」

「なぬっ!?」

 

 その言葉に足元をチラリと見ると、真下の()()()()()()()()()()()()。かと思うと、そのまま槍のようになって突き上がってくるっ!

 

 咄嗟に首を傾けて回避するが、僅かに頬を掠めて血が噴き出す。……もし今エプリの声で気付かなかったら、頬じゃなくて首に直撃してなかったか?

 

 呆然としている俺に向かって影は再度攻撃を仕掛けてきた。だが、

 

「このっ! “風弾”!」

 

 エプリが影に向かって風弾を打ち込み、そのおかげで影は追撃を止める。

 

「トキヒサ。今よ!」

 

 その言葉に呆然としていた俺はハッとして、急いでエプリの近くに転がり込むように走る。どうやら操っている影は俺の影ではなく、俺の影に重なっていた岩場の影だったようで、影はその場で再び元の平面に戻っていた。

 

「あっぶな~っ! これまで異世界を舐めてたつもりは無かったけど、今エプリがいなかったらヤバかったな。ありがとエプリ」

「……私がいたから危ない目に遭ったって言い方も出来るけどね。だけど……これで分かったでしょう? これはかなりマズい状況だって」

 

 確かにな。影があちこちにあるこの場所で、そこらから影が襲ってくるってかなりマズイ状況だ。エプリが何故この場から動かないのかと気になっていたが、体の不調だけでなくこの場所は周りの影から離れていることもあるようだ。これなら警戒する場所は少なくて済む。

 

「この魔法は闇属性の“影造形”と“潜影”。影を操りながら術者も影に潜っているの。影の中にいる間はこちらも攻撃できないから、どうしても動きが後手に回ってしまう」

「成程。……ところでそいつは一体誰なんだ? クラウンの仲間か?」

 

 いきなり襲われては何が何だか分からない。ここは少しでも情報が欲しいところだ。

 

「……私もさっき初めて会ったから詳しくは知らないわ。だけどクラウンが言うには奴の名はセプト。私の後任……らしいわね」

「後任って……つまりアイツの護衛役か? 護衛しきれてないじゃん!」

 

 さっきクラウンの奴にキツ~い一発を食らわせたばかりだぞ。護衛役なら妨害の一つくらいしても良さそうだけどな。……もしエプリだったらここまで簡単にはいかなかったと思う。牢獄で俺がクラウンを殴った時は、イザスタさんが掩護してエプリを妨害してくれたおかげだしな。

 

「……そこの所はまだ連携がなってないようね。仮にも私の後任なら最低限の仕事はこなしてほしいものだけど……どちらかと言うと護衛よりも奇襲や暗殺の方が得意そうね」

 

 それは言えてる。静かに影に潜み、こっそりと至近距離に近づいて影の刃で一撃。どこの始末人だと声を大にして言いたい。……まあ静かに風の刃で相手を仕留めるエプリも結構それっぽいけどな。……もしやそういう意味での後任か? そんなことを考えていたらエプリがこちらをじろりと睨んできた。

 

「……アナタ今失礼なことを考えなかった?」

 

 うおっ! ごめんなさい! これ以上考えないよ! イザスタさんといいエプリといい、俺の知り合う女性は勘が鋭すぎる気がする。これは下手なことを考えることも出来ないぞ。

 

 

 

 

「……とまあお喋りをしては見たものの、乗ってこないわね」

 

 そう。エプリはただお喋りをしていた訳じゃない。さっきからずっとセプトが動くのを待っているのだ。影の中に潜られている間は手が出せない。ならば攻めてくる瞬間にカウンターを決めるしかないのだが。

 

「もうどっか逃げちゃったってことは無いか?」

「……それはないわ。“潜影”には制限があって、()()()()()()()()()()()()()()()()。さっき潜った影は範囲こそそれなりに広いけど、今いるここと同じように周りとは繋がっていないわ。だから逃げるにしても攻撃してくるにしても、必ずあの辺りから動きが有るはず」

 

 エプリはそう言って見張りを続ける。だが、その様子を見ている内に俺は気付いてしまった。

 

「……エプリっ! 顔色がドンドン悪くなってるぞっ!」

「……はあ……はあ。どうやら、セプトが待っているのはこれみたいね」

 

 さっきからエプリが岩に寄り掛かっていたのは、そのままだとまともに立っていられないから。折角回復した体力も、毒のせいでまたどんどん減っていく。

 

「……心配しないで。気分は最悪で目眩がして視界がグラグラするけど……まだ戦えるわ。命に関わるものじゃなくて、単に相手を苦しめるための毒みたいなのは不幸中の幸いね。時間が経てば自然に治るらしいし…………クラウンが相手をいたぶって止めを刺す下衆なのが意外に役に立ったわ」

「それは全然大丈夫に聞こえないんだが」

 

 あののっぽ野郎にもう一発後でぶち込んだ方が良いなこりゃ。つまり散々弱らせてから殺す気だったってことだろ? 結果的には助かったが趣味が悪すぎる。

 

「……はぁ。……セプトは、私が不調で集中が途切れるのを待っている。実際このまま長引けば、相手の魔力切れよりも先にこっちが倒れるのが早そうだしね。だから誘いをかけてセプトを引っ張り出そうとしてたんだけど……」

 

 そう言うエプリの体調は明らかに悪くなっていた。ポーションで落ち着いていた呼吸は再び荒れ出し、今にも崩れ落ちそうなところを意地と根性で支えているっていう感じだ。……このままではたとえ勝ったとしてもマズイ。早く決着をつけないと。

 

「なあ? あとどのくらい魔法が使える?」

「…………体調最悪だからダンジョンで使ったような大技は無理。“風刃”や“風弾”なんかなら威力を抑えればまだそれなりに」

 

 つまり威力を抑えなければそう多くは使えないってことか。……ここに来るまで連戦でじっくり休むことも出来なかったからな。体調不良もあるけど地味にそういうのも溜まっていたみたいだ。となれば……。

 

「エプリ。俺に一つ作戦が有るんだけど……聞いてくれるか?」

「……どのみちこの状態じゃ頭が回らないし、放っておいても状況が悪くなる一方だもの。現状打破できるのなら何でも良いわ。……言ってみて」

「分かった。セプトに聞かれるとまずいからな。……ちょっと耳を貸してくれ」

 

 俺がそう言うと、エプリがこくりと頷いてこちらに耳を近づけてくる。……ってか、自分から言ったのだが近い近いっ! エプリのさらさらとした白髪から良い香りが鼻をくすぐる。柑橘系みたいな香りだ。

 

 ダンジョン内では常に危険が伴っていたので、軽く身体を拭いたり簡単な消臭剤で匂いを抑えていた。しかし実は調査隊の人達の所で一度、ゴッチ隊長との話し合いの前にジューネの提案でそれなりに女性陣は身だしなみを整えている。

 

 エプリは服装を変えるのは嫌がったので、代わりにちょっとした香水を付けることで妥協したのだがその時のものらしい。

 

「…………なに?」

 

 エプリが至近距離からこちらを見つめてくる。毒のせいか瞳が熱っぽく潤んでいるように見えてドキッとする。……え~い落ち着け俺! 平常心だ! 今は非常時だぞ。

 

「な、何でもないですっ!! ……ゴホンっ! で、作戦なんだが」

 

 俺は何とか平常心を保ちながら、思いついたことをエプリに語った。……途中台詞を噛んでしまったことは多少許されると思う。時々細かい内容をエプリから突っ込まれたり、逆にセプトについて細かいことを訊いたりもした。敵を知れば何とやらってどこかの偉い人も言ってたらしいからな。

 

 

 

 

「……作戦は分かったわ」

 

 数分ほどかけて話を終えると、エプリは少し苦しそうに言った。毒で身体がキツイみたいだ。……幸いというか不幸にもというか、セプトは一切こちらに手を出してこなかった。やはりエプリが倒れるのを待っているらしい。

 

「……肝心なのはタイミングね。早すぎたら逃げられてしまうし、遅すぎてもこっちがやられてしまう。そして一度使った手に二度も引っかかるとは思えないから、一回で決めないと手が無くなる」

「ゴメンなエプリ。もっと良い作戦が思いつけばよかったんだが、考えついたのはこれくらいだった。エプリや“相棒”みたくは上手くいかないもんだ」

 

 ああくそっ。自分がバカなのをこんなに恨んだことはあまりない。失敗すれば俺だけではない。エプリもやられてしまうのだ。頭を掻きむしって悩む俺に、

 

「……大丈夫よ。問題ないわ」

 

 エプリはそう言って笑った。毒でまだ身体が辛く、顔色も優れないのに……笑ってみせたのだ。

 

「……この作戦がダメだったらまた別の手を考える。それでもダメなら下手に悩み続けるよりも臨機応変に動いた方が良い。それくらい気楽に構えた方がアナタにはあっているわ。……やってみましょう。仲間兼雇い主様」

 

 …………そうだな。“相棒”も前言ってたじゃないか。“バカは悩んで止まるよりも動いた方がまだマシだ。その方が良くも悪くも状況は変わる”って。俺がやるのは悩むことじゃない。行動することだ。

 

 まあその後で、“後始末が面倒だからあまり勝手に動いては欲しくないが”とも言っていた気もするけどそれは置いておこう。

 

「…………ありがとな。……よっしゃ。じゃあ始めるぞ!」

 

 俺のその言葉を合図に、エプリはさっそく行動を開始した。さあ。影からセプトを引っ張り出してやろうじゃないか。

 




 影使いって結構強キャラのイメージがあるんですよね。ほとんど場所を選ばず使えるし支援能力も高いし……という訳でセプト攻略戦です。

うちのエプリはこんなのだけどヒロインと言えるのか?

  • 一応ヒロインである
  • これはヒロインではない
  • むしろアンリエッタの方が美幼……ヒロイン
  • いやいや大人の魅力でイザスタさんでしょ
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