バディファイト×ラブライブ!~鉄の意志、天と花を導いて~   作:巻波 彩灯

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 どうも、巻波です。書き溜めを流しているだけで、別に毎日更新ができる筆の速さはございません。

 さて、前回の後書きで虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会のメンバーについて、ちょろっと触れていました。
 触れた分、何か話そうかなという事で、ニジガクメンバーでの推しが誰かなのかをオープンにしようかと思います。くそどうでも良い話ですし、本編早く読みたい方は、そのままスクロールしてください。

 では、推しを発表しましょう。推しは桜坂しずくちゃんです。
 別に隠していた訳ではないのですが、私個人としてはクローズドなところでしか、言ってない事が多いので知らない人も多かったと思います。
 そもそも巻波に興味なんてねえという人がほとんどでしょうけど。

 後、同好会メンバーではないですが、三船栞子ちゃんが好きです。
 というより一番推している気がする……早くグッズ出ねえかな……。

 以上が与太話でした。では、後書きでまた会いましょう。


第3話:しばしの憩い

「楽しかったにゃ~!」

 体を伸ばしながら、凛は率直な感想を述べる。ファイトが始まるまで「自分には無理」と言っていた弱気な姿は霧散し、いつもの快活な彼女だけがそこにあった。

「それは良かったぁ~」

 彼女を誘った花陽も安堵したような表情で吐露。自分から誘った手前、もし楽しんでもらえなかったら、どうしようという心配があったのだろう。それだけに杞憂で終わった事は、喜ばしい。

「それで、カスミは何か思い出したのか?」

 感慨に耽る間もなく正成は質問する。ファイト中、バディファイトをやった事があるかもしれないという事は分かったが、それ以外にも何かないか探らなくては。一刻も早く家族の元へ送り届ける為に。

「バディファイトをやった事ある以外は特に……?」

 質問に対してカスミは首を傾げて考え込む。「誰かに教えてもらって、やっていたと思う」おもむろに口を開くが、まだ明瞭とした記憶はないらしく、「誰なのかは分からないけど……」徐々に言葉尻がしぼんでいく。

「父親や母親の名前は?」

「マサ、矢継ぎ早に言うなって」

 次の質問を容赦なく投げかける正成に、ドラムはたしなめる。「相手はまだ子供だぞ?」体のサイズはSDに戻り、背丈が高い正成を見上げて、「少しは考えてやれって」語勢を強めた。

「考えている」

「皆、お前みたいにすぐに答えが出る訳じゃねえんだよ」

 ドラムはため息を吐き、「悪ぃな。思い出すのは、ゆっくりで良いぞ」穏やかな声音でカスミをなだめる。

 無愛想な相好のまま正成は、このままだと(らち)が明かないなと思いつつ、ドラムや花陽らがカスミに優しく接しているところを眺めていた。このまま警察に出すとしても、保護者の名前が分からないのなら伝えようがない。おまけに苗字だって分からないのだから、手間取る。

 思索を巡らせている内に腹の虫が鳴る音が耳朶を打つ。音の発生源へ目を向けると、花陽が腹を抱えて、赤面していた。

「かよちん、お腹を減ったかにゃ?」

「う、うん……」

 恥ずかしげに頷く花陽。彼女の様子を見て、もうそんな時間だっただろうかと、正成は腕時計を確認する。シルバーバンドのシンプルなデザインが特徴的な腕時計、時計盤の針がもうすぐ昼を迎えようとしていた。

「飯にするか。どこに行く?」

 何となく頭の中ではカフェやお洒落なレストランだろうなと推測する。あくまで今まで付き合いがあった女子のイメージから想像したに過ぎないが。だが、予想外な答えが返ってきた。

「ラーメン屋に行きたいにゃ!」

 凛が元気よく返事する。「元々、かよちんと一緒に行く予定だったラーメン屋があって……」当初の予定について語り、「多分、今なら空いているにゃ」正成に行きたいという念を向けて視線を送った。

「そうか。なら、そこに行こう」

 眉一つ動かさなかった正成だが、内心は少し意外だと感じている。仄かに抱いているイメージだが、女子二人がラーメン屋に行く事は滅多にないだろうなと思っていた。よくよく考えてみれば、彼女達は学生なのだから、ラーメン屋に行く事自体は不思議ではないかと納得する。

 それから一行はラーメン屋へと赴く事にした。

 

 ラーメン屋に到着すると、店は既に開店しており、客の数もまばらだが何人かが席に座って食事を取っている。

 正成達はテーブル席に座り、メニュー表を開いてはそれぞれ食べたいものを選んでいく。

「お冷をどうぞ」

 若い女性の店員に人数分のお冷を出される。その際に正成は灰皿を出してもらえるか訊ねた。未成年がいる中で喫煙するかはどうかと思うが、店内で喫煙している客は幾人かいる為、別に全面禁止にされてはいない様子。

 しかし、女性店員は首を横に振り、「未成年とご来店した方には、喫煙をご遠慮してもらっています」落ち着いた声音で告げる。

「外に喫煙所は?」

「店を出て、右側の路地の裏にあります」

 説明を聞いて、正成は彼女に礼を言い、デニムジャケットの胸ポケットから煙草の箱とジッポライターを取り出した。

 女性店員も「ごゆっくり」と言った後、持ち場へと戻っていく。

「決まったか?」

 視線を少女達の方へ向ける。凛やカスミは決まったようで、メニュー表の写真を指差して伝えた。花陽だけは眉根を寄せて悩んでいる素振りを見せている。

「どうした?」

 正成の問いかけに花陽は口ごもり、どう話して良いか分からないと言った様子で閉口。見かねた凛が「かよちんは、チャーハンを大盛で食べたいのにゃ」彼女の心中を代弁する。

 なるほどと、思った正成は「一人分だけだったら、大盛にできるぞ」さらりと告げた。ドラムが食べる分も払う為、金銭的に余裕がある訳ではないが、学生一人分は払える。余程、食べなければの話だが。

 突然、告げられた希望に花陽は目を輝かせ、「ほ、本当ですか!?」眉尻を上げて切望を向ける。「だ、大丈夫なんですか!?」遠慮がちな彼女らしく、心配して一歩引いた言葉が出てしまう。お金以外にも何か引っかかっているところも見え隠れしている。

「問題はない」

 キッパリと言う正成。むしろ、何を心配しているのだろうかさえ思っている程。無遠慮な彼だからこそ、女子特有の悩みを気付く事ができない。

 それが幸いしたのか、花陽は返答を聞いた後、緩やかな笑みを見せて望み通りのメニューを選んだ。正成も決めたら、店員を呼び出して、各々が決めた料理を注文する。終わった後は、一旦席に立ち、煙草とジッポライターを持って店外へと出た。

 

 店の外に出ると、雲が少し多くなったのか、日光が遮られる事が増えている。朝方はそこまで天気が悪くなかったし、天気予報では快晴だと言われていたのに妙だなと考えつつ、喫煙所へと向かった。

 喫煙所は灰皿が置いてあるだけで後は何もない。座る為のベンチもないのは、少し不親切だなと思うもあるだけでもありがたいかと切り換え、煙草を口に咥える。

 シルバーのメッキで塗装されたジッポライターの蓋を開け、点火。軽やかに火を灯したジッポライターのボディは傷だらけで何年も使い込まれている事が取れる。そのまま火を近づけ、紫煙をくゆらせた。

「っで、俺に何の用だ?」

 虚空に問いかける。傍から見れば、誰もいないのに話しかける滑稽な光景にしか見えない。けれど、程なくして相手は姿を現した。

「ほう、気付いていたのか」

 どこからもなくドーン伯爵が日傘を差して現る。朝と比べて日光は抑えられているが、それでも充分灰になる可能性がある為、念入りに対策をしての事だろう。

 特に驚く様子もなく、正成は「それで用件は?」話を強引に進めていく。せっかちという訳ではないが、無駄な問答は省きたい。だから、すぐに本題へ切り出す。

「ふむ、カスミという少女の事だが……」

 ドーン伯爵も気を立たせず、落ち着いた語調で話した。「彼女から感じる魔力に覚えがある」簡潔に告げられた言葉は、衝撃を与えるには充分。流石の正成も片眉を上げ、興味を向ける。

「魔力? 彼女はモンスターだったのか?」

「いや、違う。魔力は誰かに与えられたものだ」

 強い口調で否定するドーン伯爵。「恐らく、我が同胞、ミセリアのものだろう」彼の口から聞こえてきた憶測に、正成は目を大きく見開く。「ミセリアって、角王のか?」珍しく声に驚嘆を滲ませていた。

 彼の反応を確認し、ドーン伯爵は頷くと「まさしく、〈三角水王 ミセリア〉だ」鋭利な口調はそのままに告げる。

「これは意外だな。だが、どうして、そいつの魔力が?」

「それは吾輩にも分からぬ」

 ドーン伯爵は肩を竦め、首を緩く横に振る。「何の経緯を経て、ミセリアと接触したのかは彼女の口が明かされぬ限りな」諦観にも似た表情で呟く。

「アンタにも分からないなら、これ以上は何とも言えないな」

 進展が望めないと分かったら、正成は興味を失くす。「他はないのか?」口から微かな煙を出し、質問を投げかけた。

「いや、お主に話したい用件はこれだけだ」

 話を切り上げ、ドーン伯爵は踵を返す。「伝え忘れた事があった」肩越しで正成と視線を合わせる。「お主は、もう少し人に寄り添う事を覚えた方が良い」忠告の言葉が耳に届く。

「充分、気は遣っているつもりだぞ?」

「ならば、花陽が遠慮した理由が分かるか?」

「お代の事だろ?」

 正成の即答にドーン伯爵は呆れのため息を吐いた。「それもあるだろうが、年頃の女の子なのだぞ?」棘を含むような語勢で続ける。「気にするところが他にもあるだろうに」こめかみに手を当て、頭を抱える素振りを見せた。

「それはどこなんだ? ハッキリ言えば良いだろ」

「そういう無遠慮なところを、直せと言っているのだ」

 もう一度ため息を吐いた後、ドーン伯爵は二の句を継ぐ。「まぁ、良い。それより言わねばならぬ事がある」目元が厳しくなり、語調もさらに鋭利さを増す。「くれぐれもカスミには、思った事ばかりを言わぬように」重々しくドーン伯爵の声が響いた。

 少しばかり眉根を寄せていく正成は、訝しげに相好を歪める。何を言っているんだと心中を表すように、翡翠の双眸は覿面(てきめん)の老紳士を射貫く。切れ長で吊り上がっている目つきが、鋭さを増していくばかり。

「誰もがお主のように強くない。それだけだ」

 冷たく言い放たれたドーン伯爵の声が耳朶を打つ。そして、視線を正成から外して歩み出し、いつの間にか姿を消した。

 一人残された正成は眉根を開き、落ち着いた表情へと戻る。

「俺だって、強くはないさ」

 静かに呟いた言葉はどこかへと消えていき、口に咥えた煙草を灰皿に押し付けて消火。翡翠の瞳は、どこか悲しげな色を映し出していた。

 

 店内に戻り、花陽達の元へ近寄る。テーブルには既に料理が並べられ、正成が座っていたところにはドラムが着席してラーメンや餃子を頬張っていた。

「おう、随分と長く吸っていたな」

 餃子を放り込んで咀嚼するドラムは、相棒が戻ってきた事に気付くと席を空ける。「じゃ、オイラはカードに戻るわ」軽い調子で正成のデッキケースの方へ。

「もう良いのか?」

「ああ、オイラの分は全部食ったからな」

 ドラムの返答を聞いて、正成は自分の席に着き、水を一口飲む。空になった丼と餃子の皿を下げてもらい、自身が頼んだものと対面する。ある程度、冷めているのだろうが、まだ湯気が立っていた。だが、早く食べないと麺が伸びてしまう。

「食べないの?」

 微動だにしない正成の様子に疑問を感じたカスミが口を開く。彼女の前にはハーフサイズのラーメンとチャーハンが並べられており、チャーハンの方は既に食していた。

「いや、食べるぞ」

「でも、お箸動いていない」

 カスミの指摘に呻く正成。彼に追い打ちをかけるように、さらにカスミは言い続ける。「お腹減ってないの?」心配そうな目で見つめ、「それとも嫌いなの?」心底不安そうな声音で問いかけた。

「いや、腹は減っているし、嫌いな料理は目の前にない」

「じゃあ、何で箸を止める必要があるかにゃ?」

 隣にいる凛も変だと感じたのだろう。話に入っていき、容赦なく質問を投げかける。正直、彼女達の方が情けなんてないのではないかと思ってしまうぐらいだ。

 向かい側にいる花陽が何か察すると恐る恐る訊ねる。「鉄さん……まさか、猫舌?」眼前にいる屈強な男性にまさかそんな弱点がある訳ないと紫の瞳が揺れていた。

「猫舌だ。熱いのは苦手なんだよ」

 押し隠す事もなく正成は披歴する。今朝も熱いコーヒーで舌を火傷したぐらい、熱いものを口に含むのは苦手なのだ。

 バディポリスのエースと呼ばれている男が、まさか熱いものを苦手とするとは思わなかったのだろう。

 花陽は大きく驚愕の声を立てる。「く、鉄さんでも苦手なものがあるんですね」目は大きく見開いたままだ。

「でも、フーフーすれば大丈夫だよね?」

 間髪入れず、カスミが口を挟む。「できないの?」水色の双眸が悪意や害意もなく純粋な優しさで見つめていた。

「できる」

 言葉短めに言って、正成は麺を持ち上げて息を吹きかける。そして、口の中へと入れた……は良いが、思いの外冷めていなかったらしい。「熱っ!」口元を抑えて、仰け反ってしまった。

 意外な正成の一面に、一同は驚嘆した後に笑い出す。眉一つも動かさず、何でもそつなくこなせそうな彼が、熱いもので苦戦している姿は噴飯物だろう。彼もまた一人のに人間である事を感じて、安堵したというのもあるだろうが。

「くそっ、次は負けん」

 この後、正成は何度も舌を火傷させながら、ラーメンやチャーハンを完食した。代償は大きかったと言わざるを得ない。

 

 昼食を取り終え、正成達は街を散策する。何も手がかりがない以上は、行動するしか他はなく、彼女達の行く宛てを頼って歩いていく。

 途中、とあるカードショップに立ち寄る。カードだけでなく、有名ファイターのグッズも販売しており、カードプレイヤーだけではなく一般客も入店していた。

 街頭に並ぶ商品に花陽とカスミが釘付けになり、時折花陽が解説する声が耳朶を打つ。カスミも興味津々に話を聞き、疑問に思った事は何度も口にした。会話は弾み、完全に二人だけの世界となる。

「かよちん、生き生きしているにゃ~」

 少し離れたところで、凛が二人の背を見て呟く。普段の快活そうな表情ではなく、どこか大人びている微笑みを浮かべていた。

 そんな彼女を目の端で見つつ、正成は無言ではしゃぐ少女達を眺めていた。先程の激闘により、ますます閉口せざるを得なくなっている。自業自得だが。

「あんなにバディファイト好きなら、入れば良いのににゃ~」

 独りごちる凛の言葉に正成は興味が湧き、顔を左手側に向ける。残念そうに眉尻を下げる凛の横顔が見えた。どうやら、何か一歩踏み出せない事があるらしい。

「どういう事だ?」

 舌がヒリヒリするのを我慢しながら、正成は開口した。翡翠の瞳は真剣に凛の事を捉えている。

「かよちん、最近できたバディファイト部に入らないって……」

「何でなんだ? あんなに楽しそうにしているのに?」

「自信がないって言って、遠のいて行っちゃうのにゃ~」

 凛から話を聞くと、正成は花陽の元へと歩み寄っていく。大柄な男が幼気な女子高生に詰め寄るところ、とんでもない圧力になっているが、そこまで気が回る程できてない。人との距離の取り方なぞ、知りもしない男なのだから。

 正成の気配に気付いた花陽は「ああ、すみません。か、勝手に盛り上がっちゃって……」謝罪の言葉を述べる。

 しかし、話したい事はそこではない為、「いや、それは別に構わない」丁寧になだめて次の句を紡いだ。

「お前、何でバディファイト部に入らないんだ?」

 あまりにも唐突な質問。すぐに返す事などできるはずもなく、花陽は呆然と見つめるだけ。彼女の隣にいるカスミは頭に疑問符を浮かべ、「どういう事なの?」上目遣いで花陽に問いかける。

「脈絡なさすぎるにゃ」

 後ろから凛がツッコミを入れた。「楽しそうにバディファイトの事を話すのに、何で入らないのかって」足りない言葉を補うように付け足す。あくまでも推測して言っただけにすぎないが、先程の会話の流れを考えると妥当か。

 それでも花陽は答えに窮していた。しばし、口ごもっていた後、彼女はようやく訳を話す。

「自信というか……私なんかで良いのかなって……」

「そんな事を考える必要なんてないだろ」

 一刀両断。正成はバッサリと切り捨てる。「好きな事をするのに、何で自信が必要なんだ?」別に怒っている訳でも不機嫌になっている訳でもないが、冷たい声音は彼女を責め立てていた。

「そ、その通りなんですけど……」

 直球すぎる一言に花陽は眉尻を下げ俯く。涙さえ出そうなぐらい暗い表情をしている。

「私、お姉ちゃんのファイト見たい」

 場の重たい空気を破るようにカスミが言葉を発した。「あの場所で、お姉ちゃんがファイトしているところ、見てみたい」指差した方向は店内のモニター。映し出されていたのは、去年アキバドームで行われた大会の決勝戦の映像だろう。

「カスミちゃん……」

 花陽は顔を上げ、カスミを見つめる。思いも寄らない一言に助けられ、少しだけ表情が明るくなっていた。

「バディファイト部とかチームとか良く分からないけど、お姉ちゃんのファイトなら見たいなって」

 天真爛漫な笑顔を浮かべて、花陽を励ます。花陽は鳩が豆鉄砲を食ったように目をしばたたかせ、意外だと言わんばかりの口調で返した。

「私のファイトを?」

「うん、お姉ちゃん、楽しそうに見ていたから」

 カスミの返答を受け止め、改めて正成と顔を合わせる。「応援してくれている人がいるなら、なおさらだろ」相変わらず冷たい物言いだが、彼なりに励しの言葉を贈ったつもりだ。

 もう一度、沈黙が訪れる。空気は先程より重たくはない。やがて、花陽は決意を口にした。

「私、目指してみるよ。あの場所に、凛ちゃんと一緒にね」

 何気なく巻き込まれた凛だが、「凛もかよちんとなら目指すにゃ!」同意の言葉を述べて、彼女なりの決心を明かす。

「その前に、まずはカスミちゃんの記憶を思い出す手伝いをしないと」

 目の前にある現実へ目を向けて、言葉を続ける。「カスミちゃんのお父さんやお母さん、きっと心配しているだろうから」心情に添って他人を助けようとする意欲が見えた。

「次はどこに行くにゃ~?」

「次はね……」

 少女達が次の目的地へと話し込んでいる中、正成は違うところへ意識を向ける。誰かに見られている……という訳ではないが、人とは違う気配を感じていた。しかし、周りを見渡していてもそれらしき影は見当たらない。気のせいだったのだろうか。

「今日って、こんなに曇っていたか……?」

 ふと空を見上げて、口の中で呟く。いつの間にか曇天の模様になり、辺りが薄暗くなっていた。

 

 花陽の発案で今度は神田明神へ赴く。長い階段を上り、鳥居をくぐり抜けた先に社の姿を認める。

 一見、何の変哲もない神社の光景だが、正成は違和感を覚えていた。人ならざるものが近くにいる気配を感じたというべきか。足を止め、虚空へと言葉を投げかける。

「おい、俺達に用があるなら出てきたらどうだ?」

 いきなり正成が問いかけるものだから、花陽達は驚く。それこそ、何を言っているんだと思っていただろう。だが、彼女達の疑問など露知らず、正成は話し続けた。

「さっきからコソコソ隠れて……出てこないなら、こっちから行くぞ」

「全くせっかちな男ね。女を待てない男なんて、嫌われるわよ?」

 突然、覿面(てきめん)の空間が歪む。一人の女性が歪んだ空間の先から姿を現し、ヒールを鳴らして正成達の前へと歩み寄った。

 艶のある長い銀髪、情熱的な内面を示すような赤い瞳、人離れした端正な顔立ち。均等が取れたスタイルの持ち主である事が濃紫のドレスの上からでも分かるように、女性の出で立ちはまるで芸術作品そのもの。人並み以上の美貌を持つ彼女は、形の良い眉尻を上げ、強気な姿勢で話しかける。

「単刀直入に言うけど、その子を渡してくれないかしら?」

 女性が指差したのはカスミだ。「別に悪い事はしないわ」美しい口の端を上げ、微笑みかける。

 正成はカスミの方を見た。女性から何かを感じたのか、彼女は怯えた顔つきで花陽の後ろに隠れている。やはり女性は人ならざるものだと確信。眉間に皺を寄せて、語気を強めて返す。

「嫌だと言ったら?」

「力づくになるわよね」

 言い終わるか言い終わらないかの間、女性は手の平に光を集める。何をするか察知した正成は、右手に赤い槍を呼び出し、投擲。空気を貫き、弾丸の如き速度で迫っていく。

 猛烈な勢いで迫り来る赤い槍に対し、女性は意識を急激に変えたのにも関わらず、軽やかな動きで躱した。しかし、槍の穂先が白皙を切り裂き、散らばる銀髪の間を通り抜ける。左頬には鮮血が流れ落ち、白皙を染めていく。

 また集中が途切れたせいか、光はあらぬ方向へと発散。花陽達の遥か頭上を奔っていた。

「ドラム、出番だ」

 正成の一声でドラムは元のサイズで出現する。人間の背丈など優に超えているサイボーグドラゴンの姿だ。右手のドリルを唸らせ、赤い影となりて女性の元へ疾走。一閃に迷いはない。

 舌打ちをして女性は再び躱す。しかし、躱した先には正成の左足が頭を狙っていた。躱す間もないと判断し、細い左腕で受け止める。

「ホント、女に優しくない男ね!」

「子供を怖がらせる女には言われたくないな」

 蹴り足を素早く戻し、両手を構える正成は体を撓ませていた。「お前、何者だ?」聞いているだけで、凍えるような声音で訊ねる。体格に恵まれている彼の蹴りを、片腕一本で受けて止められるという事は確実に人ではない。危機感はかなり跳ね上がっていく。

「女性に名前を訊ねるのは失礼ではなくて?」

「そんな事はどうでも良い。早く名乗れ」

「あなた、モテないわよ」

 女性は悠然とした態度で返し、肩に下りた銀髪を指ですかしながら払い除ける。瑞々しい唇は歪み、眉根を寄せて美し相好は次第に憤怒の表情を表していく。赤の双眸は、正成達への敵意が込められていた。

「気にしている程、暇じゃない」

 地面を強く蹴り、正成は疾駆する。大柄な体躯に見合わない程の身軽な動きで肉薄。そして、勢いを利用して右拳が突き出された。

 風を切る音が聞こえる。女性の美しい相貌を砕こうと迫り立てていく。

 しかし、空を切っただけだった。女性は前方へ飛び上がり、ドレスの裾が風で煽られるのも厭わず、正成の右腕を土台に自身の左腕を支柱にしながら後方へと流れる。

 正成は空隙を生み出さぬまま、左足を軸に右足を押し出すようかの如く蹴り出し、彼女の腹部を狙っていく。

 簡単に捉えられまいと女性は嘲笑い、バックステップで後ろ蹴りを避け、距離を大きく取る。

「ここまで強引なら、名乗ってあげても良いわ」

 傍らに刺さっていた赤い槍――〈如意槍 咢〉を引き抜き、持ち主の足元へ投げつけた。軽はずみな音が響き、咢は正成のところへと転がる。

 咢を拾い、穂先を女性へと向ける正成。「なら、とっと言え」顔つきは険しく、目つきも切っ先のように鋭い。

「もう、せっかちね。私の名は、サライ」

 サライと名乗った女性もまた眉間に皺を作り、赤い瞳に剣呑な光を宿していた。「霊界から逃げ出した魂を連れ戻しに来た裁判官よ!」唇の端を不敵に吊り上げ、可憐な目鼻立ちに似つかわしくない獰猛な笑みを浮かべる。

「霊界だと!?」

 ドラムは驚愕し、思わず構えを解いてしまう。「お前、あの世界の奴かよ!?」驚きは引かないまま、声を大きく立てた。

 仰天する相方を一瞥し、正成は「霊界?」と訝しげに口に出すが、「お前が敵である事に変わりないなら、叩き潰すまで」警戒心を保ったまま語勢を強める。

「ちょっと待ちなさい。私もあなたも関係ない人は巻き込みたくないでしょ?」

「だったら、手を引け」

「そうはいかないわ」

 冷たくあしらわれるもサライとて一歩も引けない。「一つ、提案だけど良いかしら?」返答させる間もなく、案を述べた。「バディファイトで決着をつけるのはどう?」彼女の瞳は絶対に負けないという自信に満ち足りている。

「最初からそうしたいなら、そうしろ」

 正成は穂先を下に向け、デッキケースのシステムを起動させた。翡翠の双眸は、いつになく真剣な眼差しで美貌のサライを見つめる。倒すべき相手以外、他ならないという意志が彼の瞳に帯びていく。

 サライもまた傍らに光の球体を呼び出し、ファイトの準備に取り掛かる。余裕と侮蔑が入り混じった笑みを浮かべて。

 鉄の意志と霊界からの使命が、一人の少女を巡ってぶつかり合う――。




 伏線も碌に張れない急展開、しょぼいファイト、薄っぺらい人間ドラマ……揃っちゃいけねえ三拍子を取り揃えた作品、多分私の作品群だけではないだろうか。

 とりあえず、次回ファイト回です。大して期待していないと思いますが、期待しないでいただきたい。文字数だけがかさむしょぼいファイトなので……。

 それはさておき、この作品を書いていて(この作品以前でも)思ったのですが、バディファイトとラブライブのクロスオーバー作品(作品群的な意味でも)で唯一あるキャラクターが出ていないよな~と。

 多分、バディファイトとラブライブのクロスオーバー作品を読んでいる方は何となく察していたかと思います。
 この場で話すべきか話題ではないかもしれないですが、少しだけお話ししたくて触れました。

 ……まぁ、メインが100環境ですからね。これ以上の言葉は留めます。

 今回も長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。
 次回は明日17時に公開予定……になるはずです。何もなければ。

 では、この辺りで筆を休めます。感想や活動報告のコメントもお待ちしております。
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