バディファイト×ラブライブ!~鉄の意志、天と花を導いて~ 作:巻波 彩灯
「くそっ、逃げ足が速い女だぜ」
ファイトが終わり、小さくなったドラムは毒気づく。義憤で顔が歪んだままだ。やはり、カスミの事が気がかりなのだろう。
正成もドラムに賛同して頷き、「今はそれよりもカスミ達の方だ」彼女らの方へ向かって歩き出す。ファイトが終わった後もカスミは怯えており、花陽に抱かれたまま。花陽はカスミと正成を交互に見て、眉尻を下げて心配そうな表情を浮かべている。凛も花陽の隣に立ち、愁眉を寄せていた。
「大丈夫か?」
「私達は大丈夫です。カスミちゃんが……それに鉄さんも」
「俺の事は良い。優先すべきはカスミの方だ」
正成は花陽の気遣いを一蹴し、片膝を屈してカスミと目を合わせた。「安心しろ、あいつはもういない」真っ直ぐな瞳が、カスミの双眸を射貫く。「もし、奴がもう一度来ても守ってやる」嘘偽りなく告げた言葉。現に守れる力を持っている自分だからこそ、彼女達を守らなければならないという責任感が正成を突き動かしていた。
彼の言葉を聞いたカスミは、少しだけ恐怖心が和らいだのか、強張っていた顔が僅かに緩む。
彼女に訪れた次の感情は、悲しみだ。涙を目尻に溜め、焼け焦げた正成のジャケット、肌が一番露出している左肩に触れる。火傷こそは軽傷だが、自分の為に体を張った結果だと思うといたたまれないのだろう。幼いながらに正成を思いやる。
「心配するな。こんなの大した事ない」
カスミの手を遠慮なく払い除け、正成は立ち上がった。「
「鉄さん……それはあんまりじゃないですか」
花陽はカスミから腕を離し、正成と対面する。「もっと自分の身を大切にしてください!」普段の甘く優しい声音を発している姿が嘘のように思える程、乱暴で強い語気で言い放つ。
流石に予想していなかったのか、正成は目を開いて驚く。と同時に、別におかしな事を一つも言ってないと思うが、どうしてだろうと疑問符を浮かべた。
「カスミちゃんも私も凛ちゃんも凄く心配して……」
今にも泣きそうな思いを堪えているのか、声が震えているものの、「それで怪我までして、カスミちゃんが気にかけているんですよ!」さらに語勢を強めた。
「いや、これは怪我の内に入らないだろ」
彼女の切実な願いを一言でバッサリと吐き捨てる。火傷したとはいえ、軽傷。多少の痛みは走るものの支障はない。ならば、今は放っておいても良いだろうにと。
「入ります! ちょっと罰当たりだけど、手水舎で冷やしますよ!」
無理やりでも手を引いて誘導しようとする花陽。けれど、彼我の比は歴然。筋骨逞しい体格をしている正成を引っ張っていけるはずがない。それでも花陽は意地でも連れて行こうと、体全身を使って動かそうとする。
面倒だと思った正成は振り解こうとした。ただ怪我させる可能性が高い為、できれば周りが止めてくれればと願い、彼女の親友や相棒へ視線を送る。しかし、彼の願いは届く事はなかった。
「凄い……かよちんが強気だにゃ……」
凛は意外と強情な花陽の姿を見て感嘆の言葉を呟き、ドラムに至っては「マサ、その子達の心配はもっともだ。受け入れろ」諦めるように促している。
二人の様子から正成は観念して、花陽に従う事にした。それよりも探るべき真相が目の前にあるというのに。
辟易とした表情で空を仰ぐ。雲は神田明神に訪れる前よりも厚くなり、やがて雨が降った。
雨が降り出した事により、一行は大急ぎで屋根がある所へと駆け込む。ハンカチやタオルなどで水滴を拭き取り、雨が降り止むまで待つ事に。
肉体的な疲れや精神的な疲れの影響か、誰もが無言になり、雨音だけが場を支配していた。
「カスミ、お前に聞きたい事がある」
しばらくした後、沈黙を破ったのは正成の一言。真剣な眼差しでカスミを見つめ、「あの女の事、知っているな?」淡々とした口調で問いかける。
あまりにも容赦のない質問。ドラムは眉を
「知っている」
絞り出すように言葉を続ける。「あの光を見て、全部思い出した」精一杯伝えようとする気持ちが震えた声音から滲み出て、告白をより重たいものとした。あの光とは、恐らくサライが放った熱線の事だろう。
「そうか。なら、全部話せるか?」
「おい、そんな急に話せる訳ねえだろ」
「その通りだな。全く人の意見を聞き入れん奴め」
花陽の傍らにドーン伯爵が姿を現す。「誰もが、お前のように強くないと何度言ったら分かるのだ」刺々しい語調で
「まだ二度目しか言われていないぞ」
「細かい回数など、どうでも良い。大事なのは、お前が人の話を素直に聞く事だ」
「話は聞いている。話せなきゃ、話せないで別に問題ないし、急かした覚えはない」
ハッキリと主張する正成にドーン伯爵はため息を吐く。「どうやら直々に教え込まねばならぬようだな」目つきはさらに鋭くなり、怒気を発していた。一触即発のような雰囲気が漂う中、花陽の一声が間に割って入る。
「カスミちゃんなら、大丈夫だって……」
先程、正成を凄まじい剣幕でまくし立てた人物とは同一人物思えない程、弱々しい声音。「だから、カスミちゃんのお話を聞きましょう?」視線はドーン伯爵の方へ向けられ、優しく伝えた。
こればかりはドーン伯爵も強く言い出せず、喉から出そうになった言葉を飲み込み、首肯する。全員の注目はカスミへと向けられた。
「カスミちゃん、ゆっくりで良いからね?」
花陽の気遣いに「ありがとう。でも、大丈夫」と返し、カスミは改めて正面を見据えた。一拍置いた後、これまでの話を語り出す。
カスミ――もとい、
けれど、運命は残酷なもの。父親に連れられ、
家族に会いたい一心で帰る手段を模索していたが、願い叶わず、誰にも助けられる事なく力尽きてしまった。
死んだ後、見慣れぬ世界にいたと言う。それが霊界、全ての生命が終わりを迎えた先に辿り着く場所。最後の審判を受けるべく死者の魂が集っていたのだ。
まだ子供である架純が現状を理解する事も受け入れる事もできない。とにかく家族に会いたいと脱走し、追いかけられる過程で、サライの熱線が視界に入った。彼女が放った熱線が掠めた影響か、記憶が混濁してしまい、<三角水王 ミセリア>と出会うまでの記憶は曖昧にしか覚えていない。
だから、どうしてミセリアの元へ行けたのかは分からないのだ。また彼が好意的に協力した理由も不明。
確実に言えるのは、ミセリアの力で今こうして肉体を得ている事だけ。それも一日だけという限定付きで。
力を借りて人間界に戻ってきたは良いものの、今いる場所が分からず途方に暮れていた。困り果てていたところを、花陽と凛に声をかけてもらい、今に至る。
架純が語り終えると、再び雨音だけが響く。だが、先程よりも勢いが弱くなっており、止みそうな兆しが見えてきた。
「架純ちゃんは、家族に会いたい?」
開口一番、花陽は甘く優しい声音で訊ねる。話を聞いていれば、答えなどすぐに分かるはずだが、それでも訊ねたのはこれからの目的を確認する為だろう。切実な願いを叶えてあげたいと紫の双眸に強い光が宿っていた。
「うん、会いたい」
「じゃ、決まりにゃ!」
架純の返事を聞いて、凛が元気良く言う。「善は急げにゃ~!」走り出そうとするが、ドラムの声で止められた。
「おいおい、待てよ。ここから家の場所とか分かるのかよ?」
至極当然の疑問。架純がこの周辺に親しんでいたら、問題はない。けれど、そうでない場合だってあるのだ。
それにまだ彼女は小学生。家が近くとも親が許さず、行動範囲を狭められいる可能性だってある。
「ここまで来た事ないから、分からない」
首を横に振り、架純は答えた。これでは探しようもないのではないかと落胆が空気に染み渡っていく。
「打つ手なしじゃねえかよ」
一際、肩を落とすドラム。ほぼ手がかりは消えたに等しい。警察の力を使うという案もあるのだが、全員口に出さないのは先程の出来事があってだろう。だからこそ、何も意見が出ず、時間ばかりが過ぎていく。
「いや、手はまだあるぞ」
今まで口を閉じていた正成が提案する。「
そこに手がかりがあると信じているから。
「何で分かるんだよ? 根拠は?」
胡乱げな様子でドラムが返す。確かな証拠はどこにもない。当てずっぽうで行って徒労で終わった場合は、目も当てられないなのは明白。
「勘だ。いなくなった所から捜すと思ってな」
行方不明になった家族を見てきた経験から、一番多い傾向を挙げる。バディポリスに入隊した当初は、まだ霊災の爪痕が深く、新人だった正成も行方不明者の捜索に参加していた。
大体は最後に別れた場所から捜索が始まる為、もし架純の父親も彼女を捜しているのならば、まずは国府津海岸ではないかと推察。あくまで勘が当たっていればの話だが。
また誰もが口を閉じる。今度はそれしかないのだろうと自分の頭で納得する為だろうか。沈黙は僅かだった
「ここにいるよりかは良いだろう」
落ち着いた声音でドーン伯爵が切り出し、「国府津海岸へ向かおう。時間も残り少ないだろうからな」重々しい響きで国府津海岸へ赴く事を推す。反対の声はなく、全員首肯して歩き出した。
しかし、架純だけは表情を曇らせている。彼女の様子に気付いた正成は、真っ直ぐな眼差しで話しかけた。
「安心しろ、必ず家族の元へ送り届けてやる」
双眸には強い決意を宿らせ、決してブレない光が一筋走る。彼の表情を見て、不安が取り除かれたのか、架純は相好を崩して頷く。
正成は架純の顔が晴れやかになっていくのを見た後、視線を進行方向へ。先程と打って変わって、翡翠の瞳は悲しげに夕焼けの過去を映し出していた。そこにはかつて隣にいた大切な人が――。
誰も彼の心中に気付く事なく歩を進める。雨は止み、少しずつ雲は薄くなっていた。
神田明神から電車と徒歩で
人影を求め、彼らは目を凝らすと、一人の男性の姿が見えた。身長は正成よりも低く、体も細い。着ている服は汚れていないが、少しくたびれている。とても
男性を見た瞬間、架純は大きく目を見開き、目一杯に彼を視界に収めようとする。そして、駆け出した。
「お父さん!」
大声で呼び、男性の元へ駆けつける。正成達は敢えて追わず、彼女の背を見守るだけ。
架純の呼びかけに男性は振り向き、目を合わせ、向かってくる彼女を抱き留めた。目尻に涙を浮かべて、大切そうに架純の事を抱き締めている。恐らく、父親で間違いないだろう。
親子の会話にしばらく眺めていた正成達だが、架純に手招きした事により、輪に入る。
「娘がお世話になったようで……」
「世話したな」
「そこは謙虚に慎めよ」
正成のストレートな返しにドラムがたしなめた。一応、正成なりの冗談のつもりなのだが、彼の無表情な顔と淡々とした語調が合わさって本気か冗談か分かりづらい。ツッコミを入れられても当然だろう。
二人のやり取りに男性はただ苦笑いを浮かべるだけ。反応に困っているのが見て取れる。しかし、気を取り直して「でも」と話を続けた。
「娘とこうして再会できたのは、あなた方のおかげです」
そう言って父親ははにかみ、一礼する。彼が礼の言葉を述べると花陽と凛は
平穏なひと時が流れる海岸。これで無事に目的を果たせたと、誰しもが思っていた。けれど、事は簡単に終わらせてくれない。
雲がまた厚みを帯び、周囲が暗くなっていく。急激に天候が怪しくなってきた事に不審がる全員。外気も冷え、一番薄着である架純が肩を抱えて震える。父親が着ていた上着を架純へかけ、彼女を温めた。
特別軽装ではない花陽も凛も「寒い」と口に出し、自分の上腕を摩る。凛に至っては寒がりなのか、体を震わせていた。
この異常気象に正成は空を見上げて、睨みつける。視線の先で空間を歪み、男女二人が姿を現した。
女性は濃紫のドレスを身に纏い、長い銀髪を靡かせ、血のように赤い瞳が正成達を射貫く。――先程、神田明神で交戦したサライだ。彼女は口の端を不敵に吊り上げ、双眸がリベンジに燃えているように強い光を放つ。
サライの傍らに立つ男性は金髪碧眼で彼女と似た端正な顔立ち、黒のウエストコート姿という出で立ちだ。風が切り揃えられた金髪を撫でていく。やや目尻がタレており、柔和な笑みと合わさって穏やかそうに見える。
「君達が件の問題児かい?」
砂浜に降り立ち、開口一番、男性の声音が響く。男性の周囲から冷たい空気が流れ、急に場が冷えた原因が彼だと判明する。
正成は男性と架純達の間に割って入り、彼女達を庇うように立ち塞がる。眼光は鋭く、男性を威圧するように睨めつけていた。
「何だい、君は?」
「お前と会話する気はない。とっとと消えろ」
「ほう、僕達に対して、そんな物言いをするんだね」
「家族水入らずの間を壊した奴に、それ相応の対応をしているだけだ」
憮然とした態度で対応しつつ、右手に意識を集中させる。もし、万が一の事があれば、力を使わざるを得ない。
武力行使は気が進まないが、手段が選べないのは明白。やると決めたら、遠慮しないだけ。
「兄様、あいつが邪魔した奴ですわ」
男性と正成の会話にサライが加わる。「さっきはよくも邪魔してくれたわね」正成を睨みつけ、敵意を剥き出した。
「女の子を誘拐しようとしたのを止めただけだ」
「そうか、君がサライを……許せないね」
兄様と呼ばれた男性は、話を聞いていく内に整った眉根を寄せ、目つきを鋭くさせる。冷気もさらに強くなり、周りを凍えさせていく。彼の怒気を表しているかのよう。
しかし、正成は眉一つを動かさず、毅然とした態度で言い返した。
「お前の妹、誘拐未遂だぞ? 肉親ならきちんと教育しろ」
「黙れ、禽獣。僕らの事を知りもしない畜生めが」
にこやかな表情から一変し、憤怒の形相を浮かべる男性。「今からお前の魂も直々に裁いてやる」左手に冷気を集め、少しずつ氷弾を作り上げていく。
危険を察知した正成は背後にいる架純の父親を一瞥し、「あんたは邪魔だ」言葉短めだが、突き放すように言った。
最初、何を言われたのか分からなかった父親は、「一体何が……」困惑気味に聞き返す。だが、正成は答えない。
「ここはオイラ達に任せて、逃げろって事だよ」
代わりに答えたのはドラムだった。「花陽達もな」彼女達にも目を向け、避難を促す。ドラム自身も元の背丈に戻し、臨戦態勢に。「伯爵、頼んだぜ」花陽の傍らにいる老紳士にも声をかける。
「言われなくとも」
ドーン伯爵は先に小田親子を避難するように言い、花陽達にも逃げるように伝えた。けれど、花陽は立ち止まり、不安げな様子で正成を見つめる。
「何をしている。お前も邪魔だ」
「でも……」
容赦ない一言を浴びせられても動かないのは、神田明神の事があるからだろうか。「かよちん!」凛が手を引いているが、動こうという気配がしない。
「心配すんなよ。オイラ達は、曲がりなりにもバディポリスなんだぜ?」
「さっきみたいに怪我をしたら……」
「そんな事よりも自分の身を大切にしろ。あの子と約束、したんだろ?」
正成の一言でハッと我に返る花陽。「……鉄さん、信じています」後ろ髪引かれる思いが分かるぐらい心配そうな語調をしていたが、彼女も凛に連れられる形で走っていく。
「逃がすか!」
男性が氷弾を親子に向けて放つ。だが、先に反応したドラムが右腕を振るい、頑丈なドリルの装甲で弾いた。
間隙を縫って、正成は右手から赤い槍――〈如意槍 咢〉を具現化させ、男性へと肉薄。目の前を遮るように熱線が横切り、間一髪のところで後退して躱す。
「その槍……そうか、貴様、“カティヴム”だな?」
柔和な青年の姿はどこかへと消え、口調も強くなり、男性は妹と負けず劣らずに不敵な笑みで話す。「過去に囚われた弱者め」罵詈を浴びせた。
それに対し、正成はただ無言を貫き通すだけ。翡翠の瞳は強靭な意志を示すかのように光を強く宿している。言われる筋合いなどないと訴えかけるように。
「禽獣に言葉は持たないか」
「幼気な女の子に執着している奴なんかに、マサがまともに取り合うと思うか?」
ドラムが口を開く。「お前らに残されている選択肢は二つ」左手を前に出し、二本の指を立てて、「オイラ達に串刺しされるか、諦めて霊界に帰るかのどっちかだ」冷酷な眼差しが彼らを射貫いていた。
「霊界か……貴様らが勝手につけた略称だな。実に不愉快だ」
「そうね、兄様。天霊裁界をそんな風に縮められるなんて、最悪だわ」
「気が短けぇし、細けぇ事ばかり気にする奴らだな」
「それだけ、僕らが誇りを持っているという事だ。覚えおけ、禽獣」
男性が凄んで返すが、ドラムは肩を竦めるだけ。正成と目を合わせると、彼も片眉を上げるだけで特に大きな反応はない。余程、どうでも良い話だからだ。
「っつか、何でお前らがマサの能力について知ってんだよ?」
霊界よりも気になる事があるドラムは質問を投げかける。「カティヴムとか洒落た名前まで付けやがって」からかい半分も含めて、付け足す。
「僕らが知らない事があるとでも?」
流麗な眉を片方だけ上げ、男性は嘲笑う。隣にいるサライもせせら笑っていた。
「私達はありとあらゆる知識を吸収しなくてはいけないのよ」
「だから、禽獣の能力だって知っているのさ」
「機械を通さず、力を具現化する過去に囚われた弱き者達……それがカティヴムだわ」
「くそどうでも良い話だったな。聞いて損したぜ」
自分から訊ねておいて、彼らの返答を一蹴するドラム。辟易とした表情を浮かべて、鬱陶しそうな声音で返す。
「それで、どうするんだ? このまま串刺しになるか?」
ようやく正成が口を開く。あまりにもつまらない話を聞かされて、うんざりしている為、不機嫌そうな語調で言い放つ。
自分の能力について、何かしら新しい知識を得られるかと耳に傾けたは良いものの、既に知っている知識だったからだ。
聞いていく内に体を撓ませ、いつでも動ける状態を作り、その時を待つ。
「直接戦うのも良いが、それでは僕らも酷く消耗してしまう」
「って事は、バディファイトか?」
にやりと笑い、ドラムはドリルのエンジンを噴かす。ドリルは調子良く回転し、甲高い音を発していた。
「ああ、そうだよ。少々、癪だが、カティヴムが相手なら話は別だ」
苦虫を噛み潰したような顔で男性は言う。「サライを傷つけたんだ。貴様にも同じ苦しみを味合わせてやる」怨嗟を吐き出し、負の感情を爆発させた。
「俺の方が大変だったんだけどな」
正成は口の中で呟く。実際、命の危機を何度も晒されていた。ドレスが少し破けたサライより、人間である正成の方が重傷なのは確かだろう。だが、これを言ったところで彼らに伝わる事などない。気持ちを切り替え、正面を見据える。
「二対一か? 霊界の使いも随分と効率の良い手を使うんだな」
「違うな。僕一人の方が効率が良い」
「兄様、力を貸しますわ」
「ああ、僕達兄妹の力を見せつけてやろう」
そう言うとサライはカード化し、男性の手元に収まった。男性は光の球体を呼び出し、サライのカードを中へ入る。
正成もデッキケースのシステムを起動させ、ファイトの準備をした。
「そうだ、言い忘れた事がある」
「何だ?」
「僕の名はアブハム。悪しき魂を裁く天霊裁判官だ」
静かな海岸で人間と天霊が激突する。――互いの信じる正義を押し通す為に。
次回の更新は明日17時の予定です……まだ書き終わっていないので、間に合わない可能性が大きいのは、了承していただけると幸いです。
むしろ、ここまで書き溜めた事を褒めて……。
では、今回はこの辺りで筆を休めます。感想や活動報告のコメントなどお待ちしています。