バディファイト×ラブライブ!~鉄の意志、天と花を導いて~   作:巻波 彩灯

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 どうも、巻波です。この度は、完成が間に合わず更新が途絶えてしまった事、誠に申し訳ございませんでした!

 とりあえず、この短編のラストファイトです。大して盛り上がるような仕上がりになっていると思えませんし、バディファイト小説で稀に見る泥仕合と化しています。

 それでも読んでやるぜって方は、本編へどうぞ。では、後書きでまた会いましょう。


第6話:勝利に忠誠を尽くす

「悪しき魂を裁き、この手で導いてみせよう。ルミナイズ、『断罪天裁』」

「言葉などいらない、示すは力のみ。ルミナイズ、『フォルティス・カルディア』」

二人は落ち着いた声音で「オーブン・ザ・フラッグ」と言い、それぞれフラッグを公開する。互いのフラッグは、潮風ではためていた。

「霊界裁判」

 アブハムの手札:4/ゲージ3/ライフ:10/バディ:天霊裁判官 アブハム

 

「デンジャーワールド」

 正成の手札:6/ゲージ2/ライフ:10/バディ:アーマナイト・ドラムバンカー・ドラゴン

 

「先攻は僕がもらうよ」

「好きにしろ」

 素っ気なく返されてもアブハムは気にせず、自分のターンを行動する。

「僕のターン。チャージ&ドロー」

 アブハムの手札:4→3→4/ゲージ:3→4

 

「ライトに〈天霊裁判官 カイン〉を、レフトに〈天霊裁判官 アベル〉をコール」

 アブハムの手札:4→2/レフト:天霊裁判官 アベル/ライト:天霊裁判官 カイン

 レフト:天霊裁判官 アベル/サイズ1/攻2000/防2000/打撃1

 

天霊裁判官 カイン

霊界裁判

種類:モンスター 属性:裁霊/火

サイズ1/攻3000/防2000/打撃2

■君の場に「天霊裁判官 アベル」がいるなら、場のこのカードの打撃力+1!

■[起動]【対抗】“天裁処刑”ゲージ1払ってよい。払ったら、相手の場にいる攻撃力2000以下のモンスター1枚を破壊する。「天裁処刑」は1ターンに1回だけ使える。

「かつては憎悪の対象だった弟とともに、今は手を取り合って使命を全うしている」

 

 両サイドに顔立ちがよく似た青年が二人並び立つ。アベルが緑髪に緑瞳で細身に対して、カインは赤髪に赤瞳で筋肉質かつ大柄だ。そして、剛拳を示すように掌に拳を打ちつける。重々しい響きを轟かせた。

「アベルとカインの効果を発動」

 二人の体をそれぞれ自分達のイメージカラーと同色のオーラが包む。「アベルはカインがいる事で攻撃力と防御力を+2000」アベルの周りに緑のオーラが漂い、舞う風が強さを増していく。「カインはアベルがいる事で打撃力+1」カインは炎のような赤いオーラを纏い、拳から激しい炎を出していた。

 

 アブハムのレフト:アベル/攻2000→4000/防2000→4000

 ライト:カイン/打撃2→3

 

「さらにセンターに〈天霊獣 ハーモニル〉をコール」

 アブハムの手札:2→1/レフト:アベル/センター:天霊獣 ハーモニル/ライト:カイン

 センター:天霊獣 ハーモニル/サイズ0/攻2000/防2000/打撃1

 

 サライとの対戦でも姿を現した白い獣が再び牙を剥く。低い呻り声が響き渡り、相変わらず敵意を体全体から溢れ出していた。

 ハーモニルの様子に正成は可愛くないなと思う。そこまで嫌われるような事ををした覚えはないのだが、ファイト中だから仕方ないのかもしれない。もうちょっと可愛げがあれば良いのに。

「キャスト、〈天霊の閃き〉」

 正成の意中をよそにアブハムは続ける。「ゲージを2枚増やし、手札が0枚になったからカードを2ドロー」ゲージを増やし、手札も枯渇する事なく、枚数を保つ事ができた。

 

 アブハムの手札:1→0→2/ゲージ:4→6/ドロップ(裁霊の種類):0→1

 

「続けてキャスト、〈開廷準備〉。ゲージ1払って、カードを2枚ドロー」

 手札はさらに増える。ゲージもまだ余裕そうに感じられるのは、最初の枚数が多いだけではなく、ここまで消費する事なく増やす一方だったからだろう。それだけ、ゲージの消費が激しいデッキとも見て取れる。

 

 アブハムの手札:2→1→3/ゲージ:6→5/ドロップ(裁霊の種類):1→3

 

開廷準備

霊界裁判

種類:魔法 属性:裁霊

■[使用コスト]ゲージ1払う。

■カードを2枚引く。「開廷準備」は1ターンに1回だけ使える。

「これから裁判を始めます。魂が逃げ出さないように、拘束してくださいね?」

 

「では、アタックフェイズ。カインでアタック」

 指示を受けて、カインは猛烈な勢いで正成へと迫り立てていく。真っ赤に燃える炎を右拳に宿し、大柄な体格とは見合わない程に軽快な動きで肉薄。唸りを上げながら、右拳を叩きつける。

「キャスト、〈豪胆逆怒〉。受けたダメージ分の枚数をゲージに置く」

 正成も真紅のオーラを纏い、飛来した炎の鉄拳を咢の柄で受け止め、弾き返した。受け止めた手に少し痺れを感じるのは、カインの拳がそれだけ重かったという事。生身で受けていたら、内臓を潰され、焼き殺されたところだろう。

 相手のターンになると一瞬も油断できない。大きく息を吐いて、体勢を整える。

 

 正成の手札:6→5/ゲージ:2→5/ライフ:10→7

 

「僕もキャスト、〈御霊の処刑〉。カインが与えたダメージ分の枚数をゲージに置く」

 アブハムも魔法を使い、ゲージを多く増やす。3枚もゲージに置けるのは大きい。これでゲージに困る事はないだろう。

 しかし、序盤からこれだけゲージを溜めるのは、逆に腐る可能性もある。またゲージ消費を抑えるアイテムもあるのは、先程のサライ戦で確認済み。それだけの枚数をどうする気だろうか。

 

 アブハムの手札:3→2/ゲージ:5→8/ドロップ(裁霊の種類):3→4

 

御霊の処刑

霊界裁判

種類:魔法 属性:裁霊/チャージ

■君の場の《裁霊》が相手にダメージを与えた時に使える。

■【対抗】君はその相手に与えたダメージと同じ数値分、君のデッキの上からゲージに置く。

「っで、こいつが今回の処刑対象か?」

 

「ターンエンドだ」

 アブハムの手札:2/ゲージ:8/ライフ:10/レフト:アベル/センター:ハーモニル/ライト:カイン

 

「俺のターンか。ドロー、チャージ&ドロー」

 正成の手札:5→6/ゲージ:5→6

 

 手札を眺める。思考を張り巡らすが、一瞬間だけ。迷いなく行動する。

「まず、〈如意槍 咢〉を装備」

 正成の手札:6→5/正成:如意槍 咢

 正成:如意槍 咢/攻6000/打撃1

 

 元々持っていた咢だが、改めて誇示。血で染まったが如く赤い槍、竜の顎のような穂先、無駄な装飾は一切ない質実剛健な造りが如何にもデンジャーワールドらしい。

 手馴染んだ感触を確かめる。人が扱うにはそれなりに重いが、かつて日本で使われた槍と比べたら軽い方だろう。頑丈そうだという印象を何となく覚えせていた。

「キャスト、〈裂神呼法〉。ゲージ1とライフ1払って、カードを1枚ドロー」

 無造作にカードを引き、「咢を装備しているから、さらにもう1枚引く」覿面にいる相手のモンスターを睨みつけながら、もう一度カードをドローする。突破するには難しくないと思考しながら。

 

 正成の手札:5→6→7/ゲージ:6→5/ライフ:7→6

 

「ライトに〈アーマナイト・イーグル〉をコール」

 装甲を纏った鷹が少しばかり気を沈んだ様子で出てくる。もはや自分の運命が分かっているのだろう。瞳には諦観を表していた。好戦的で勇ましい姿はどこにもない。

 

 正成の手札:7→6/正成:咢/ライト:アーマナイト・イーグル

 ライト:アーマナイト・イーグル/攻4000/防1000/打撃1

 

「〈アーマナイト・アスモダイ〉をレフトにコール」

 遠慮、容赦、慈悲など正成自身の中にないだろうか。「ゲージ1払い、アーマナイト・イーグルをドロップゾーンに置く」特に感情を込めず、淡々と告げた。

 アーマナイト・イーグルは悲鳴すら上げず、諦めたような表情で受け入れ、消失する。代わりにアーマナイト・アスモダイが雄叫びを上げ、半ば狂乱しているかのように暴れながら登場した。

 

 正成の手札:6→5/ゲージ:5→4/正成:咢/レフト:アーマナイト・アスモダイ/ライト:アーマナイト・イーグル→なし

 レフト:アーマナイト・アスモダイ/攻5000/防1000/打撃1

 

「アスモダイの登場時効果で、お前のレフトとライトのモンスターを破壊」

「アベルの“天裁幽閉”を使うよ。ゲージ1払い、アスモダイを手札に戻す」

 互いのモンスターが場からいなくなる。砂塵が舞い上がり、視界を奪う。

 少しだけ眉を(ひそ)め、正成は視界が開けるまで少しだけ待つ。口元には砂を吸い込まないように、腕を前に持ってきて軽く抑えていた。もう少し落ち着いた感じにならないのかと、辟易とした思いを抱えていたのは言うまでもない。

 

 正成の手札:5→6/レフト:アーマナイト・アスモダイ→なし

 アブハムのゲージ:8→7/ドロップ(裁霊の種類):4→6/レフト:アベル 撃破!/ライト:カイン 撃破!

 

「次は〈アーマナイト・ドラムバンカー・ドラゴン〉をライトにバディコール」

 砂塵が落ち着き、眼前の相手が見えるようになる。「ゲージ2払って、デッキの上から1枚をソウルイン」傍らにいたドラムが右手側に飛び移り、「っしゃ! オイラの出番だな!」戦意高々とドリルを回して、ブースターを噴かした。

 再び、砂塵が舞い上がるのだが、ドラムは気にしていない。正成にとって、迷惑極まりないが。

 

 正成の手札:6→5/ゲージ:4→2/ライフ:6→7/正成:咢/ライト:アーマナイト・ドラムバンカー・ドラゴン(ソウル:1)

 ライト:アーマナイト・ドラムバンカー・ドラゴン/サイズ2/攻8000/防2000/打撃2/[貫通]/[ソウルガード]

 

「さらにオイラはマサがアイテムを装備しているから、[移動]を得るぜ!」

 ブースターを自由自在に動かし、左右上下、互い違いに空気や砂浜を焼いていく。どんな場所でも余裕で到達できると示しているかのよう。

 

 ライト:アーマナイト・ドラム/[移動]

 

「レフトに〈アーマナイト・ヘルハウンド〉をコール」

 堅牢そうな装甲を纏い、地獄の番犬が嘯く。瞳には明確な敵意を持って、眼前にいる白い獣を睨みつけていた。

 似たような種類だからだろうか。ハーモニルも対抗心をヘルハウンドに向け、威嚇している。

 何となく公園で起きる犬同士の喧嘩を彷彿させるが、体は人より大きく武器もあるだから、可愛げなどないに等しい。

 

 正成の手札:5→4/正成:咢/レフト:アーマナイト・ヘルハウンド/ライト:アーマナイト・ドラム

 レフト:アーマナイト・ヘルハウンド/サイズ1/攻5000/防6000/打撃1

 

「アタックフェイズ。俺でセンターにアタック」

「おい、マサ! そこはオイラじゃねえのかよ!?」

 咢を握り締め、地面を強く蹴り出そうとした瞬間、ドラムの怒声が響く。

 正成は走り出すのを止めた代わりに、返答しながら咢を投擲。空気を貫き、破裂させながら咢は弾丸の如く迫り立てる。

「そいつで打撃力を下げられたら、与えるダメージが少なくなる」

 サライとの一戦で受けたデバフ。打撃力を下げる能力を持つハーモニルがセンターにいるという事は、確実に攻撃は一度無効化される上に、どちらかのモンスターの打撃力が下げられる。

 相手のセンターにモンスターがいる場合、[貫通]を持っているドラムで攻撃するのが定石だが、事情が異なれば柔軟に変化をする事が必要だ。

 正成は自身の記憶と照らし合わせて、今回の判断は最善だと信じて咢の行方を見つめる。

「禽獣にしては、頭を働かせたな。ハーモニルの効果を発動する」

 アブハムは眉一つ動かさず、宣言する。「ハーモニルをドロップゾーンに置き、ゲージ1払って、このターン中だけライトのモンスターの打撃力を2減らす」ハーモニルは姿を消す。しかし、咢の勢いは止まる事なく、アブハムの元へ一直線だ。

 

 アブハムのゲージ:7→6/センター:ハーモニル→なし

 正成のライト:アーマナイト・ドラム/打撃2→0

 

 豪速で迫る咢をアブハムは微動だにせず、氷塊を目の前に出現させる。分厚い氷塊に突き刺さり、止まる咢。流石に貫き通せなかった。

「返してくれ」

「だったら、次は投げない事だな」

 氷塊が消失し、地面に落ちた咢をアブハムは爪先で蹴り返した。転がり、砂が付く。溶けた箇所から水滴が付いた分もあり、柄に纏わり付く量も尋常ではない。

 転がってきた咢を拾い、正成は柄に付いた砂をある程度払い落す。若干、不快感があるが、支障がある訳ではない。それ以上は気にしないようにした。

「次はヘルハウンドでファイターにアタックだ」

「受ける」

 指示を受けたヘルハウンドは低い呻り声を上げ、アブハムへ向かって疾駆する。そのまま突進し、口を大きく開け噛みつく。乱暴にアブハムの肉塊を噛み砕くように暴れた後、さっさと後退した。口元には血も肉片もない。

 あくまで精巧な立体映像が襲っただけに過ぎない為、アブハムは何事もなく悠然と立っている。

 

 アブハムのライフ:10→9

 

「ターンエンドだ」

 正成の手札:4/ゲージ:2/ライフ:7/正成:咢/レフト:アーマナイト・ヘルハウンド/ライト:アーマナイト・ドラム

 ライト:アーマナイト・ドラム/打撃0→2

 

「僕のターンか。ドロー、チャージ&ドロー」

 アブハムの手札:3→4/ゲージ:6→7

 

 一旦手を止め、アブハムは不敵な笑みを浮かべて、正成を見つめていた。不気味とも呼べる表情で、何を思うのか。

 推し量りきれないし、推し量ろうとも思わないが、翡翠の双眸は静かに言葉を待つ。咢を握り締める力が強くなる。

「カディヴムは、過去に大切な者を失くした者だけに発現すると言われていたな」

 正成は何も答えない。ただじっと見つめているだけ。だが、アブハムは気にせず続けた。「家族、恋人、親友……名前を言えば、教えてやるぞ?」笑みは嘲りを交えている。「死んだ後の運命というヤツをな……」嘲弄している語調で相手の平静さを奪おうとしているのだろう。センセーショナルな話題に動揺しない人間は少ない。

「お前に教える名前などない」

 何事もないような言葉。けれど、語勢は今までよりも強く、場の空気が凍えつきそうなぐらい冷たかった。表情は変わっていないが、正成の体から殺意にも似た気が発せられる。決して、些事(さじ)ではない。だからこそ、簡単に触れられて欲しくない問題だ。

 ただ過去の話をするだけなら、何も気に留めない。けれど、死後の姿で接触できる天霊裁判官達が、切り出すなら話は別。

 時間を進められる事が、カディヴム達にとって最も恐れている事。だから、彼らは「過去に囚われた弱者」と呼ばれる。

「くく、弱者らしい反応だ。本当に進めたくないんだな」

 アブハムは得意げに笑って、言葉を継ぐ。「怖いのだろう? その事実を受け入れる事が」さらに嘲り笑って、碧眼に侮蔑の色を宿す。これだけ揺さぶれば勝てるだろうと見込んでだろうか。

「良いから、進めろ」

「まぁ、そう怒るな。言われなくとも、息の根を止めてやるさ」

 そう言って、アブハムは自分のターンを進める。「まずはレフトに〈天霊獣 ブルース〉をコール」氷を彷彿させるような水色の体毛を持った獣が現れる。ハーモニルと違って、大人しい代わりに虎視眈々と機会を窺う目が剣呑な輝きを帯びていた。

 

 アブハムの手札:4→3/レフト:天霊獣 ブルース

 

天霊獣 ブルース

霊界裁判

種類:モンスター 属性:裁霊/水

サイズ0/攻2000/防3000/打撃1

■[起動]“霊牙・砕”君の場にカード名に「天霊裁判官」を含むモンスターがいるなら、このカードをレストしてよい。レストしたら、そのターン中、相手の場のモンスター全ての攻撃力-5000する。

「天霊獣の起源は、人間や動物、モンスターという噂がある」

 

「さらに僕、〈天霊裁判官 アブハム〉をセンターにバディコール。バディギフトでライフ+1」

 センターへ歩み出るアブハム。金髪碧眼で端正な顔立ち、皺や汚れ一つもないウエストコートが彼の存在感を際立たせる。「ゲージ2払って、デッキの上から2枚をソウルイン」背中から氷で作られた翼が出現し、元来の姿を晒す。

 

 アブハムの手札:3→2/ゲージ:7→5/ライフ:9→10/ドロップ(裁霊の種類):6→8/レフト:ブルース/センター:天霊裁判官 アブハム(ソウル:2)

 

天霊裁判官 アブハム

霊界裁判

種類:モンスター 属性:裁霊

サイズ3/攻4000/防7000/打撃2

■[コールコスト]デッキの上から2枚をソウルに入れ、ゲージ2払う。

■[起動]【対抗】“天裁幽閉”ゲージ2払ってよい。払ったら、相手の場にいる攻撃力2000以下のモンスター全てを相手の手札に戻す。「天裁幽閉」は1ターンに1回だけ使える。

[2回攻撃]/[ソウルガード]

「彼らは元々人間だったと言うが、その噂は定かではない」

 

「待たせたね、愛しき妹よ。〈天霊裁判官 サライ〉をライトにコール」

 右手側に濃紫のドレスを身に纏い、背中に光の翼を生やした銀髪紅眼の美女が並び立つ。「ゲージ1払って、デッキの上から1枚をソウルに入れる」口の端を吊り上げ、不敵に微笑む彼女。瞳の奥には先程のリベンジに燃えているかの如く戦意の炎が揺らめく。

 

 アブハムの手札:2→1/ゲージ:5→4/レフト:ブルース/センター:アブハム/ライト:天霊裁判官 サライ(ソウル:1)

 ライト:天霊裁判官 サライ/サイズ2/攻5000/防2000/打撃3

 

「随分と待ちましたわ、兄様」

 肩にかかった銀髪を払い除け、サライは少し不満げに言葉を吐く。戦意満々とだけあって、待ちくたびれたのだろう。

 ただ目元が厳しいのは、それだけではないようだ。

「ああ、すまない。少し時間をかけてしまったね」

 さっきと打って変わって穏やかな声音で謝るアブハム。妹に対する慈愛の眼差しが向けられていた。

 ここまで温度差があるのは、霊界にいる者としてどうなのだろうかと正成は冷めた目で思う。些か不公平すぎないかと考えながらも、サライを認めると先程の熱線を思い出す。左肩を焼かれた苦い思い出が甦り、ここから面倒な事になると察し、辟易とした気持ちになりかけていた。

「ちょっと待て、そこの女はサイズ的に超過してんだろ!?」

 サライの登場にげんなりとしている正成と別にドラムは驚愕の声を立てる。それもそのはず、サライはサイズ2のモンスターだ。通常ならば、サイズ3のアブハムをドロップゾーンに置かないといけないだろう。

「あら? そこに気にかけてくれるとは光栄ね」

 口角を上げ、胸を張って答える。「私は兄様といる時、サイズが2減るの。だから、今の私はサイズ0のモンスターよ」語気を強めて、自信に満ち溢れたように立つ。整った目鼻立ち、均等が取れたスタイル、瑞々しい白皙から一つの彫刻作品と見間違えてもおかしくないた佇まいだ。

 

 アブハムのライト:サライ/サイズ2→0

 

「それよりも、興味の事があるのよね」

 興味の対象を移して、サライが切り出す。「あなた、何故、その槍にこだわるのかしら?」咢を繊細な指先で示した。

「裁判官は何でも知ってるんだろ?」

「あなた個人のこだわりまで知らないわよ」

「当てにならんな」

 正成は乱暴に切り捨てる。ただ咢について察している事は、流石と言うべきか。さらに握り締める力が強くなっていく。

「それで、どうして赤い槍にこだわるのかしら?」

 繊細な指の腹を顎に添えて、サライは興味深そうに咢を観察する。「他にも武器があるはずでしょうに……それしか具現化できないの?」己の知的好奇心を満たそうとしているが、目に見えて分かった。

「大筋はその通りだ。ただ、これしか意志のあるカードを持っていない」

 納得したのか、サライは流麗な眉を片方上げる。「そう言えば、カティヴムは意志のあるカードでないと具現化できなかったわね」兄と違い、刺々しさはない。知的好奇心が満たされたのか、満足そうに微笑み、頷いた。

「禽獣とこれ以上話すな、サライ。穢れるぞ」

「手遅れよ。私、あの男とファイトしたのだから」

「それより、とっとと進めてくれ」

 兄妹の会話にげんなりとした語調で割って入る正成。時間稼ぎになっている事は確かだろうが、これ以上進行が滞るとストレスでしかない。さっさと決着をつけたい気持ちが体から発していた。

「本当にせっかち男ね」

 前回ファイトした時と変わらない態度の正成に、サライは少し呆れのため息を吐き、アブハムへ目配せする。

 妹から意を受け取ったアブハムは「禽獣は待つ事を知らないのさ。まぁ、そろそろ進めてやる」嘲弄の言葉を紡いでから、次の行動へ移った。

「キャスト、〈天霊の閃き〉。ゲージを2枚増やす」

 女性と見間違う程、麗しく中性的な手でカードを操る。「さらに手札が0枚になったから、カードを2枚ドロー」枯渇した手札が潤い、準備を整えた。

 

 アブハムの手札:1→0→2/ゲージ:4→6

 

「〈裁霊の法書〉をゲージ2払って装備」

 アブハムの手札:2→1/ゲージ:6→4/ドロップ(裁霊の種類):8→9/アブハム:裁霊の法書/レフト:ブルース/センター:アブハム/ライト:サライ

 アブハム:裁霊の法書/攻2000/打撃1

 

 豪勢な装丁を左手に持つアブハムの出で立ちは、絵画の一つのような壮麗で美しい。もし、通常のファイトであれば、観戦客は見惚れていただろう。けれど、観客もいなければ、ファイトも半ば命のやり取りと化している。

 美しさなど気に取られていては、命を落とす要因でしかないのだ。

「ブルースの能力を使う」

 水色の獣は力を溜める。体毛が冷気を帯びて、周囲を凍らせていく。「ブルースをレストして、このターン中、相手の場のモンスター全ての攻撃力を-5000」吠えると同時に冷気が弾け、ドラムやヘルハウンドの装甲が凍てつき、急激な温度変化に耐えきれず破壊される。

 

 正成のレフト:アーマナイト・ヘルハウンド/攻5000→0

 ライト:アーマナイト・ドラム/攻8000→3000

 

「そして、僕の能力を発動。裁霊の法書の能力で払うゲージを1枚減らして、ゲージ1払う」

 アブハムのゲージ:4→3

 

 冷たい風が吹く。春だと言われても嘘だと思えるぐらいに周囲の気温は下がっていくのを感じる。「相手の場にいる攻撃力2000以下のモンスターを手札に戻す」強い冷風が吹き荒れ、体に叩きつけた。

「そのまま手札に戻す」

 正成の手札:4→5/レフト:アーマナイト・ヘルハウンド→なし

 

 幾分か装甲が壊れてパージしているとはいえ、やはり重量はある。それを軽々と持ち上がってしまうという事は、人間なんて簡単に吹き飛ばされるという事。長身かつ筋肉質な正成でも例外はなく、咢を砂浜に突き刺して耐えようとするが、咢ごと遠くに飛ばされた。背中から受ける衝撃で肺から空気が吐き出される。痛みは少ないが、衝撃は尋常ではない。

「マサ!」

「心配するな。余裕だ」

 悠然と立ち上がり、正成は体に付いた砂を払い落とす。「全く人間に優しくない」毒気づくだけの余裕はあり、先程いた場所へと戻った。

「ふん、弱者にしては頑健だな。法書のもう一つの能力を発動する」

 鼻を鳴らしながら、分厚い書架を開き、魔力を注ぎ込む。「僕の能力で相手の場のモンスターを手札に戻したから、僕のライフを+2」彼の体を淡い光が包み込み、疲労やダメージを癒していく。ライフ的には大して減っている訳ではないが。

 

 アブハムのライフ:10→12

 

「まだ終わらないぞ。サライの能力を使う……法書の能力で払うゲージは1枚少なくなる」

 サライが右手に光を集める。そこから熱線が放たれるのは、想像に難くない。「ゲージ1払って、相手の場の防御力2000以下のモンスターを破壊する」熱線が放たれ、ドラムへ一直線に奔っていく。砂浜を焼き焦がし、水分という水分を蒸発させる。

「ソウルガードだ」

 灼熱の光線が傍らを通り過ぎていく。先程、急激に冷やされたドラムの装甲が、超高温に触れた瞬間に弾け飛ぶ。鋼鉄の塊があちらこちらに飛散。実体ではなくて良かったと同時に、この場に観戦者がいなかった事も幸いだと正成は思っていた。ただし、反射的に躱してしまうのだが。

 

 アブハムのゲージ:3→2

 正成のセンター:アーマナイト・ドラム(ソウル:1→0)

 

「アタックフェイズ」

「ドラムをセンターに移動する」

「っしゃ! 任せろ!」

 ドラムはボロボロの装甲を厭わず正成の正面に立つ。装甲は剥がれ、コード類が露出し、オイルは漏れては足元を茶黒く染めていく。それでもにやりと不敵な笑みを浮かべて、炯々(けいけい)と双眸を輝かせていた。

 

 アーマナイト・ドラム/ライト→センター

 

「なら、僕でセンターにアタック」

 アブハムが左手に氷弾を作り出し、獰猛に口の端を吊り上げる。「消えろ、鉄屑」放たれた氷弾は、空気を突き破り、ドラムへと駛走(しそう)。音よりも速い速度で迫り立てていた。

「浅慮だな。天霊裁判官の名が泣くぜ」

 自分の身に危機が迫っているというのに、ドラムからは一切不安や焦りは感じられない。むしろ、闘志を燃やし、瞳の奥に強い光を宿す。後ろにいる相棒が口を開く。

「キャスト、〈闘魂合身〉」

 右手に握られている咢が赤く光り出し、「このターン中、咢の攻撃力をドラムの防御力にプラスし、[反撃]を与える」ドラムへ力を与えるように注ぎ込まれていく。真紅のオーラに身を包まれると、ドラムの筋肉が膨張し、辛うじて動いた機器が息を吹き返したように景気よく稼働する。

 

 正成の手札:5→4

 センター:アーマナイト・ドラム/防2000→8000/[反撃]

 

「攻撃が届かねえのは、残念だけどな!」

 飛来した氷弾をドラムはドリルを高速で回転させ、勢いよく突き出した。氷は飛び散り、空気に触れた事により溶けていき、砂浜を濡らす。ドリルの高音だけが辺りに響き渡っていた。

 端正な顔を歪ませ、アブハムは舌打ち。元の数値ならアブハム一人でも撃破できたが、6000も防御力が跳ねあがると手が届かない。察していなかった訳ではないだろうが、攻撃回数を優先にしたのは仇になったのは確かだ。

 だが、正成自身も楽観視はできないのも明白。恐らく次は連携攻撃でドラムを攻撃するだろう。それを防ぐ手立てはない。

 またこのままの状況が長引けば、ジリ貧の末でこちらが負ける可能性がある。何せ、分厚い壁が目の前に立っているのだから。そんな料簡(りょうけん)を立てながら、正成は覿面(てきめん)を睨みつけていた。

「僕をもう一度スタンドして、今度はサライと連携攻撃だ」

「今度は塵と化しなさい!」

 最初にアブハムがドラムの周囲に冷気を発し、装甲を急激に冷やす。装甲は悲鳴を上げ、ひび割れていく。ドラムの足元も凍らされ、身動きができない状況に。間隙を縫うようにサライが熱線を放ち、真っ直ぐにドラムの元へ奔る。

 ドラムの真後ろにいた正成は、勘だけを頼りに左手側に身を投げ出して転がり、再び服が汚れるのも厭わず躱す。

 熱線はドラムを飲み込んだ後、一筋流れ、遠くの方まで伸びていた。超高熱の光線が消えると、跡形もない焼け跡だけがどれだけの威力だったのかを証明。あの熱線に巻き込まれた場合、想像は容易いだろう。

 

 正成のセンター:アーマナイト・ドラム 撃破!

 

「ターンエンドだ」

 アブハムの手札:1/ゲージ:2/ライフ:12/レフト:ブルース/センター:アブハム/ライト:サライ

 

「ドロー、チャージ&ドロー」

 正成の手札:4→5/ゲージ:2→3

 

 手札を見つめる。枚数的には枯渇している訳ではない。内容も問題ないだろう。だが、このターンに削り切れない可能性があると頭の片隅で考えていた。それでも迷う正成ではないが。

「キャスト、〈超力充填〉。ライフ1払って、ゲージ+3」

 正成の手札:5→4/ゲージ:3→6/ライフ:7→6

 

 ライフを削っていく。自殺行為かと思うが、むしろ減らした方が良い場合がある。残っているライフが条件となる能力がある為、積極的に減らす時もあるのだ。

「続けてキャスト、〈裂神呼法〉。ゲージ1とライフ1払って、カードを1枚ドロー」

 再びライフとゲージを使って、手札を整える。「さらに咢があるから、もう1枚引く」無頓着な手つきでカードを引き、手札を検めた。まだ戦えると推察。翡翠の双眸は真っ直ぐな光を宿して、次の行動を即座に考える。

 

 正成の手札:4→3→5/ゲージ:6→5/ライフ:6→5

 

「レフトに〈アーマナイト・ケルベロス“SD”〉をコール」

 正成の手札:5→4/正成:咢/レフト:アーマナイト・ケルベロス“SD”

 レフト:アーマナイト・ケルベロス“SD”/サイズ0/攻2000/防2000/打撃1

 

 白い毛色に小さい体躯、重武装して立つ三つ首の犬。小さくとも偉容は健在で高らかに吠える姿は、元来の気高く猛々しい出で立ちを表す。同じ白い体毛を持っているハーモニルは麗しいという言葉が似合っていたが、こちらは剛健だと言った方が適切か。

「ライトに〈アーマナイト・ドラムバンカー・ドラゴン〉をコール」

 再び姿を現すドラム。ドリルを回して、ブースターを空気を焼き焦がしては闘志を燃やしている事を示す。「ゲージ2払って、デッキの上から1枚をソウルイン」装甲は元通りになり、左目の義眼は無機質に眼前の天使達を見ていた。赤外線や暗視を駆使しているのだろうか。

 

 正成の手札:4→3/ゲージ:5→3/正成:咢/レフト:ケルベロス“SD”/ライト:アーマナイト・ドラム(ソウル:1)

 

「ケルベロス“SD”の能力を使う。場のケルベロス“SD”をドラムにソウルイン」

 アーマナイト・ケルベロス“SD”は一つ遠吠えを発すると場から消失。代わりにケルベロス“SD”が背負っていたキャノン砲がドラムの両肩に装着される。砲塔を自律して右へ左へと標準を合わせ、砲撃できるように整えていた。

 

 正成のレフト:ケルベロス“SD”/ライト:アーマナイト・ドラム(ソウル:1→2)

 

「キャスト、〈暴連撃〉。このターン中、ドラムに[2回攻撃]を与える」

 正成の手札:3→2

 ライト:アーマナイト・ドラム/[2回攻撃]

 

 ドリルの音が高くなり、回転数が上がっている事を誇示する。駆動音が調子よく響き、ブースターは噴かすだけで砂塵を巻き上げて焼いていく。真紅のオーラを纏ったドラムも「っしゃ、今度こそぶっ飛ばすぜ」低く唸り声ような語勢で闘志を漲らせていた。

「アタックフェイズ。ドラムでセンターにアタック」

「今度はお前が藻屑になる番だぜ」

 ブースター、点火。真紅の弾丸となり、音すら置き去りにするドラムの突進に、天霊の使いであるアブハムも目で追えない。ソニックブームすら生み出す真紅の疾風をどう止めるのだろうか。

「さらにソウルにあるケルベロス“SD”の能力発動」

 追い打ちをかけるように正成が言葉を継ぐ。「ゲージ1払って、お前のレフトにいるモンスターを破壊する」音速の中、砲塔がブルースへ向けて動き、ターゲットをロックオン。轟音を響かせ、砲弾を放った。

「キャスト、〈光の翼〉。ゲージ1払って、次に受けるダメージ0に減らし、ライフを+1」

 攻撃を止める事ができないらしく、ダメージ軽減を発動する。これにより、ドラムが与えるダメージはなくなるが、正成はそれでいいと思っていた。

 場を減らせば、地力が低いカードである裁判官達では突破しづらくなる。防御力の低いドラムだが、ソウルを犠牲にすれば相手の攻撃を防ぐ事ができる為、手数を減らす方を優先にした方が良い。

 視線の先でドラムがドリルを突き出していた。唸りを上げ、迫り立てるドリルの切っ先がアブハムの肉体を触れようとした瞬間、光の翼が阻害し失速させる。

 一方で砲撃した場所は幾度も砂柱が立ち上がり、砂塵が舞う。落ち着いた頃には、水色の獣は消え去ってしまっていた。

 

 正成のゲージ:3→2

 アブハムの手札:1→0/ゲージ:2→1/ライフ:12→13/センター:アブハム(ソウル:2→1)/レフト:ブルース 撃破!

 

「スタンドして、もう一度ドラムでセンターにアタック」

「でりゃぁぁぁー!! もういっぺん喰らいやがれ!!」

 大きく右腕を引き、体に捻りを加え、ドリルを一気に前と繰り出す。空気が貫かれ、破裂音が轟く。ドリルのエンジンが臨界寸前まで稼働し、熱が放出される。真紅のオーラが流星の如く駆け抜け、再度アブハムへと肉薄した。

「さらにケルベロス“SD”の能力を使う。ゲージ1払って、ライトのモンスターを破壊だ」

 キャノン砲はサライへと狙いを定め、再び砲撃。轟音が響き、砂柱が上がっていく。彼女でも平然とはいられないだろう。けれど、構わず叫ぶ声が耳朶を打つ。

「今度はサライの能力を使う。ゲージ1払って、防御力2000以下の相手モンスターを破壊する!」

「兄様をこれ以上傷つけさせないわよ!」

 空隙を縫って、熱線が放たれる。ドラムへ真っ直ぐに奔る熱線。このままでは確実に装甲が溶かされ、ダメージを追うだろうと推察されるが、正成は無情な声を立てた。

「ソウルガードだ。突っ切れ、ドラム!」

「分かっているぜ! ぶっ壊れろ、ドリル・ラム・ブロークン!!」

 灼熱の光線がドラムのブースターを掠め、一つは爆発して火を噴く。推進力を失いながらもドラムは突き進み、ドリルの切っ先をアブハムへ突き出した。不敵に笑う彼の姿は、禽獣そのもの獰猛さと機械の無機質さが掛け合わさった異様な光景。どれだけ壊されても諦めず喰らいつく。

「僕もサライもソウルガード」

 アブハムは一瞬恐れを見出し、「サライの能力で破壊したから、法書の能力でライフ+2」声が震わせていた。底知れぬ闘志に怯えているかのように、碧眼の双眸が揺れる。躱すことが間に合わず、ドリルが肉体を貫れ、さらに動揺が増す。出血や内臓が抉られる訳でないが、与えられた衝撃に驚愕し、肉体が抉られるという体験に心が揺さぶれて声が出ない。何故、僕が恐れている――と言いたげに。

 

 正成のゲージ:2→1/ライト:アーマナイト・ドラム(ソウル:2→1)

 アブハムのライフ:13→15→13/センター:アブハム(ソウル:1→0)/ライト:サライ(ソウル:1→0)

 

 フラフラとした滑空でドラムは定位置に戻る。やり切った表情をしており、「マサ、次だぜ」にやりと笑いかけた。

「よくやった、相棒。次は俺でライトに攻撃する」

 砂浜を強く蹴り出し、疾走する。人間離れした剽悍な動き、並みのモンスターでは追いつけないのは目に見えて分かるだろう。果たして、彼は人間だろうか。そう思わざるを得ないが、サライはきっちりと視認していた。

 どこか怯えている兄と違い、悠然とした態度で臨む彼女は熱線を右手から発する。海の方まで伸びていく灼熱の光線は海上を蒸発させながら奔っていた。

 紫檀の毛先やジャケットが焦げながらも、正成は掻い潜って赤い一筋を閃かせる。放たれた一突きは、確実に相手の生命活動を止めようと顎を開いていた。

 けれど、そう簡単に当たるサライでもない。ドレスを翻し、噛みつかれないように玄妙なステップで躱す。

 それでも顎は追いかける。槍を薙いで、横一文字に赤い一閃を走らせた。花びらように血と濃紫の繊維が舞う。

「ホント、女に優しくない男」

 どこか楽しげで、悲しげな声音。憂いを帯びたサライは、引き裂かれた白皙(はくせき)に触れ、指先に血を絡ませ口付ける。

 無言で睨みつける正成に「最後まで仲良くできそうにないわね」と言い残し、その場から消失した。

 

 アブハムのライト:サライ 撃破!

 

 妹が消えた事により、アブハムは忘我の一瞬を得て、憤怒の表情を浮かべる。冷気はさらに強くなり、氷がまばらにできていく。端正な顔は怒りで歪み、碧眼は殺意に満ち足りていた。

「妹を……よくも……!」

「守れなかったお前が悪い」

 アブハムの殺意を一蹴する正成。「お前が守る手段を持っていなかったのが悪い」さらに容赦ない一言を放つ。正論ではあるのだが、無慈悲に言い放たれては心が傷つくというもの。けれど、同情する余地もないし、ルールに則って行っている以上は仕方のない事。故にアブハムの怒りは理不尽極まりない。

「黙れ、禽獣。血も涙もない獣が何を言う」

「何でも知っているくせに、バディファイトのルールも分からないのか?」

 皮肉に満ちた正成の言葉。シニカルな笑みで返す彼は、悪魔とも見えただろう。いや、悪魔でも言葉を選ぶだろうか。

 ただその一言で確実にアブハムの復讐心に火が灯ったのは、言うまでもない。場の空気が凍てつき、地面も凍り出しては氷の世界を生み出す。殺意に満ち溢れた美しい世界の誕生だ。

「貴様を殺す……!」

「できるなら、やってみろ。ターンエンドだ」

 正成の手札:2/ゲージ:1/ライフ:5/正成:咢/ライト:アーマナイト・ドラム

 ライト:アーマナイト・ドラム/[2回攻撃]→なし

 

「確実に息の根を止める! ドロー、チャージ&ドロー!」

 アブハムの手札:0→1/ゲージ:1→2

 

 殺意を宿し、アブハムは先程の穏やかな相貌とは打って変わって、眼光鋭く睨みつける。霊界としての使命を果たそうとする裁判官ではなく、もはや私怨に心を囚われた一人の青年でしかない。

「キャスト、〈開廷準備〉! ゲージ1払って、カードを2枚ドロー!」

 アブハムの手札:1→0→2/ゲージ:2→1

 

 憎しみが込められた語調。アブハムは復讐しか目に見えていないらしく、冷静さを欠けている。

 聞いているだけで凍りつきそうな声音が耳朶を打つが、正成は眉一つも動かさない。いくら怨嗟をぶつけられようが、動じないし、向けられる筋合いもないからだ。バディファイトをやっている以上は、モンスターが破壊される事など当たり前なのだから、恨みを吐かれても困る。少しだけ哀れみの籠った目でアブハムを見つめていた。

「レフトに〈天霊獣 ブルース〉、ライトに〈天霊獣 ボレロ〉をコール」

 アブハムの手札:2→0/アブハム:裁霊の法書/レフト:ブルース/センター:アブハム/ライト:ボレロ

 ライト:ボレロ/サイズ0/攻3000/防2000/打撃1

 

 氷を彷彿させる水色の獣と炎を連想させる赤色の獣が同時に出現。二匹ともアブハムの影響を受けていてか、敵意通り越して殺意を漲らせ、低い獰猛な唸り声を立てる。

 二匹の様子を見て、正成は飼い主に似なくても良いだろうと内心ツッコミを入れた。形相が形相なだけに可愛げなどなく、ただ牙を剥き出しにして、いつ襲いかかってもおかしくない。平穏な表情は訪れるのだろうか。

「ブルースの能力を発動! ブルースをレストして、お前のモンスターの攻撃力を-5000だ!」

 ブルースが一度嘯くと、再び吹雪が起こる。ドラムのドリルやキャノン砲が凍てつき、稼働を停止。元来の運動性能を発揮できない状態に。だが、ドラムの闘志はそれで消える事はなかった。

 

 正成のライト:アーマナイト・ドラム/攻8000→3000

 

「[反撃]封じか」

 アブハムの行動を見て、正成は独りごちる。ドラムは防御力が低い分、攻撃力が高い。だから、魔法で[反撃]を付与して戦うという手段も取りやすいのだ。

 先程、攻撃が通らなかった事を考えての事だろう。現在、ドラムはソウルがある分、攻撃力に振られたら厄介この上ないのは火を見るよりも明らか。

 それでも必要がない戦術だと考える正成。知識があっても心が読める訳ではないから、察する事はできないかとも思う。

「アタックフェイズだ!」

「ドラムを[移動]させない」

 正成の宣言にアブハムは片眉を上げる。意外だと思ったのだろうか。発する声に負の感情を乗せながら、言葉を紡いだ。

「良いのか? 命綱だぞ?」

「別に問題はない」

 泰然とした態度で正成は答える。「それよりも早く攻撃しろ」調子は依然として冷淡。翡翠の双眸は真っ直ぐに目の前の相手を眺め、奥に闘志を燦然と輝かせていた。

「言われなくとも、ここで殺す! 僕で禽獣にアタックだ!」

「受ける」

 今までよりも圧縮して鋭く生み出された氷弾。アブハムを中心に展開し、彼の腕が振るわれるごとに弾丸の如く飛来する。鋭利な氷弾は空気を突き破り、音すら置き去りしていた。人間の五感では捉えきれないだろう。

 勘だけを頼りに正成は身を投げ出し、砂が衣服に付くのを厭わず転がっていく。彼を追うように次々と氷弾は砂浜に突き刺さる。やがて、正成に疲労が襲い、若干動きを鈍らせた。最後の氷弾だけは躱しきれず、右腕に刺さる。

「マサ!」

「心配するな。これぐらい掠り傷だ」

 突き刺さった氷弾を引き抜き、右腕からは流血。深く傷ではないが、とめどなく血は流れ、デニムジャケットの色を変色させていく。また血は手まで伝い、足元を少量ながらも赤く染めている。

 それでもなお、正成は平静を保ち、アブハムを睨みつけた。次なる攻撃に備えて、体を撓ませる。

 

 正成のライフ:5→3

 

 真っ直ぐな眼差しで射貫く正成の態度が気に入ろないのか、アブハムはさらに苛々しげに語調を強め、宣言した。

「今度こそ、仕留めてやる。もう一度、僕で禽獣にアタック!!」

 もはや獣が吠えているかのような語勢。もう一度、鋭利な氷弾を展開し、敵を殺さんとばかりに飛ばす。とても憎しみの感情が込められたようには思えない美しい氷の弾丸。けれど、生命一つのぐらいは余裕で奪えるという危険性を持っていた。

「キャスト、〈裂帛闘壁〉。攻撃を無効化にして、ライフ+1する」

 あくまでも正成は冷静に対処する。音もなく飛来する弾丸をいくつか避けた後、咢で打ち払う。先程の攻撃で大体の感覚は掴めた為、優れた直感を用いて可能な限り払うという戦法に出たのだ。右腕が痛む中、一つ一つを払い除け、最後の一発も咢の穂先で砕く。無傷でやり過ごす事に成功し、固唾を飲んで見守っていたドラムも安堵のため息をついた。

 

 正成の手札:2→1/ライフ:3→4

 

 このターン中では倒し切る事が不可能と分かって、アブハムは苦虫を噛み潰したような表情で睨めつける。碧眼は怨嗟、憎悪などの感情が渦巻いていた。

 余程、妹が倒された事がショックなのだろうか。妹の方は物凄く悠然としていたが、兄は全く余裕がない。正成はアブハムとサライを鑑みて、思考を巡らす。最初に顔を合わせていた時もそうだが、まだ妹の方が友好的だったと振り返っていた。

「次は、ボレロでファイターにアタック!」

 思索に耽っている正成をよそに、炎のように赤い体毛を持つ獣が疾駆する。正成の喉笛を噛み千切らんとばかりに迫り立て、口を大きく開けていた。

「これは受ける」

 跳躍して襲いかかってきたボレロを躱し、空中で着地の体勢を作っていた獣に対して咢の柄を叩きつける。骨が砕ける感触が手に伝わってきた。脇腹にクリーンヒットしたボレロは砂浜を転がっていく。骨が折れた影響で立ち上がると、血を吐いて地面を赤く染める。さしずめ、折れた骨が内臓に突き刺さったのだろう。気にするつもりも同情するつもりもないが。

 

 正成のライフ:4→3

 

「……ターンエンドだ」

 アブハムの手札:0/ゲージ:1/ライフ:13/アブハム:裁霊の法書/レフト:ブルース/センター:アブハム/ライト:ボレロ

 正成のライト:アーマナイト・ドラム/攻3000→8000

 

 しばし沈黙が流れる。このターンで決めなければ、負ける可能性が高くなるだろう。互いに手札とゲージは枯渇していた。だが、ライフの差は歴然。正成は3点に対し、アブハムは13点もある。絶望的と言っても過言ではない。

 けれど、それで諦めるような人間ではないのが、鉄正成という男だ。翡翠の瞳は、まだ闘志を燃やし続けている。

「ドロー、チャージ&ドロー」

 正成の手札:1→2/ゲージ:1→2

 

 微かに正成の口角が上がった。逆転への一手を見出したに他ならないから。いや、それ以前に危機的状況を楽しんでいるのもあるか。命のやり取りはともかく、滅多にない霊界の者達のファイト。ここまで来て、心躍らない訳がない。

 泥試合とも呼べる一戦かもしれないが、楽しいファイトである事は変わりない。

「何を笑っている?」

 正成が笑っているのを感じ取るが、意図を掴み切れないアブハムは不機嫌そうに訊ねる。これ以上、こちらを不愉快な思いをさせるなとも言いたげだ。だが、気圧される正成でもない。

「ここまで大変な思いはした事なかったと思ってな」

「ふん、直にそんな思いも感じられなくしてやる」

「もう少し楽しんだら、どうだ?」

 珍しく声を弾ませ、楽しげな調子で返す。「下界の人間とファイトできるのは、滅多にないだろう?」正成の相好は僅かに崩れ、普段では見られない柔らかい笑顔を見せていた。

「下界の奴らとファイトする機会など、少ない方が良いに決まっている」

 硬い声音でアブハムは返答。「それよりも、貴様はこのターンで削り切れるのか?」嘲笑を浮かべて、侮蔑の眼差しで正成を見つめる。

 彼の言っている事はもっともだろう。現状では、一気に13点もののライフを減らす手立てはないように見えるのだから。

「安心しろ、俺とドラムなら可能だ」

 短めに吐かれた言葉は自信に満ち溢れた。隣にいるドラムも「オイラ達なら余裕だぜ!」戦意高々と告げる。

 にやりと笑う一人と一匹の姿は、まるで悪魔か獰猛な肉食獣のよう。あながち禽獣というのも間違いではないのかもしれない。他人にどう見られているか頓着しない彼らには関係のない話だが。

「ドラムの能力を使う。ゲージ2払い、手札1枚を捨てて、咢とドラムの打撃力を+3!」

「っしゃ! ここからが本番だぜ!!」

 真紅のオーラを纏ったドラムの筋肉は膨張し、巨木のように太い手足と化す。稼働を止めていたドリルやキャノン砲も動き出し、ブースターも景気良く噴いた。

 そして、真紅のオーラは伝播し、正成の身を包む。右手に持つ咢の穂先が竜の顎そのままように巨大化した。重みは増すが、扱えない程ではない。両手で構え直し、正面を見据えた。

 

 正成の手札:2→1/ゲージ:2→0

 正成:咢/打撃1→4

 ライト:アーマナイト・ドラム/打撃2→5

 

「それだけは足りないぞ?」

 打撃力が増してもなお、アブハムはせせら笑う。彼の言う通り、確かに足りないのは明白。

 けれど、それが分からない正成達でもない。闘志を絶やす事なく燃え続けながら、彼らは言葉を返す。

「これだけで終わると思ってんのかよ?」

「心外だな。ここで止まる俺達じゃない」

 語気を強め、正成は続ける。「キャスト、〈暴連撃〉。このターン中だけ、ドラムに[2回攻撃]を付与する」ドラムが纏う真紅のオーラがさらに濃くなり、ドリルは甲高い音を発して回転数を上げた。

 高速回転する様は、竜巻一つ起こせそうな勢いがある。ブースターを噴かせて、空気を焼き焦がしていく。

 

 正成の手札:1→0

 ライト:アーマナイト・ドラム/[2回攻撃]

 

「あり得ない……」

 状況は一変して、アブハムは焦りや恐れの感情をい表に出した。「負けるのか、この自分が」という声が聞こえてきそうなぐらいに。まさか、10点もの差を一気にひっくり返されるとは思ってもいなかっただろう。

「あり得なくはないさ」

 正成の落ち着いた声音が響く。「これぐらいの事は、俺達にできる」確かな自信を秘めた眼差しが、アブハムを射貫いた。感情に囚われなかった彼だからこそ、掴めた転機だというのだろうか。

「アタックフェイズ。ドラムでセンターにアタックだ」

「ここいらで幕引きだ、天道ども!!」

 ドラムが吼える。一つしかないブースターが凄まじい推進力を生み出し、ドラムを真紅の流星と変貌させた。

 猛烈な勢いそのままに滑空するドラムに迷いはない。体を大きく捻り、ドリルの切っ先が走る。全てを打ち砕かんばかりに甲高く轟きながら、空気を貫いていく。

「くっ!」

 防ぐ手段など持ち合わせてないアブハムは、肉体をドリルに触れないように躱すだけで精一杯。ファイターエリアに後退するだけで、尋常ではない汗が噴き出て流れていく。敗北に対して恐れ戦いていた表情を浮かべ、碧眼が恐怖で揺れる。

 

 アブハムのライフ:13→8/センター:アブハム 撃破!

 

「もう一度、ドラムでアタック!」

「これがオイラのラストアタックだ!」

 突き出したドリルを素早く引き、限界まで力を溜めていく。「ドリル・ラム・ブロークン!!」掛け声と同時に解き放ち、音を突き破って右腕を刺突。ドリルはこれまで以上に多く回り、目の前にいるアブハムの肉や内臓全てを抉ろうとエンジン音を轟かせた。

「くそ、こんなはずじゃ……!」

 避ける気力がないのか、アブハムは立ち尽くすだけ。やがて、ドリルは彼の体を捉え、突き進む。肉や内臓全てを抉って――いくという訳ではないが、それ相応の衝撃を与えていく。ドリルの切っ先が背中から顔を出すまで時間はかからず、破裂するような衝撃だけが彼の体を打つ。空気を吐き出すアブハムの姿に、さっきまでの偉容はなかった。

 

 アブハムのライフ:8→3

 

「行け、マサ!」

「これで終わりだ、俺でトドメだ!」

 ドラムと入れ違いに正成が疾走して肉薄する。咢を振り上げ、穂先を叩きつけるようにアブハムの頭上へ振り下ろした。

 今度は本物の刃が迫り立てていく。流石に直接受けるのは駄目だと判断して、アブハムは大きく回避。砂塵が舞い上がり、元いた場所を押し潰すかの如く、一閃が走る。砂塵に紛れて、アブハムの姿は見受けられないが、ひとまずは決着がついた。――正成の勝利だ。

 

WINNER:鉄正成




 本来はもう少し続けるつもりでしたが、思っていた以上に文字数があったので断念。
 2万字近く書いていたらしく、通りで終わらない訳だと納得しました。

 どう見ても錯乱状態のファイトですが、これがラストファイトです。
 信じられないぐらい低クオリティだったと思いますが、最後まで読んでくださり、ありがとうございます。

 次回、最終回の予定です。公開日については未定です。まだ書いていないので()
 また今回のように文字数的な問題で一旦区切るかもしれません。そんな事は起きないと思いますが、ご了承いただけるとありがたい限りです。

 さらに今回でオリジナルフラッグ〈霊界裁判〉の出番は一旦終了しますが、募集自体は続けます。気が向けば、一案投げてくださると嬉しいです。

 では、この辺りで筆を休めます。感想や活動報告のコメントもお待ちしています。
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