協調ブロック幕間の物語   作:兵部省の小役人

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エプレボリ伯の帰還1940

「ふぅ‥‥今日もいい天気じゃなぁ、太陽神ソレンの恵みを受けた果物が良く育つじゃろて」

 うん、と背中を伸ばす。これまで軍中枢への道を駆けあがり、情報部部長に中将人事局長と裏方の統括を務めるまでに至った。

 もう過ぎ去り過去の事だ、俗世の権力の事は忘れよう。

ジャムで伯爵家も建て直し、宗教も社会に根付きつつある。適度に政党に献金をして過度に右にも左にも振れず、安定した世界を作っていけば‥‥

 

「ほほほ、あれほど遮二無二動き回っていた時よりもこうしている方が、

もしかしたならば何もかもがうまく儂の目論見通りに転がるのではあるまいか?」

 

 などと云ったのが間違いだったか、彼の平穏を自動車が目の前でドリフトをかまし、切り裂いた。

「失礼します!」「官邸の方から来ました!」

 

「ほ‥‥?首相用ジャムの納品についてなら会社のほうに‥‥」

 この国で一番ジャムを貪っている人が今の首相である。お得意様兼広告塔である。

きっとそのことだ、そうであってくれ、それにしては殺気立ってる気もするが気のせいだと思いたい。

 

「首相と副首相が急ぎお会いしたいとのことです!

今からご同行願ってよろしいでしょうか!よろしいですね!」

 

「‥‥えぇ?」

 

「えぇ言質ヨシ!」「任意ヨシ!」「合意ヨシ!!確保!!」

 黒服二人ががっしりと両脇を抱えて車に放り込んだ。

「えっ‥‥何事じゃぁぁぁ!!」

「‥‥え~と」

 宇宙の深淵を見た猫のような表情のまま固まっているエプレポリ伯を見てビョークルンド首相はどうしましょう、と頬を掻いた。

「首相、時間がありません。本題に入りましょう」

 五十路絡みの温厚そうな顏たちの聖職者のような雰囲気をまとった男性が声をかけた。

 

「そうですね、え~とエプレボリ伯。よろしいでしょうか」

 

「ほっ?あぁこれは首相閣下に副首相閣下」

 

「単刀直入に申し上げます。貴方に国防省参与か内閣安全保障参与として働いてほしいのです」

 ふぅ、とため息をつく。予想の範囲ではあった。

「御二人とも、儂は自分でいうのもなんじゃが政治屋将軍の一人じゃった。

ホールリンはまぁ孫がおかしなことをやっておるだけじゃがリッケルトは今も健在、儂を担いでも面倒ごとが起きるだけじゃて」

 

「そうはいかないのですよ、36年から国防省が大変なことになっているのは御存知でしょう?、とりわけ陸軍がもうノルウェー以下といいますか‥‥」

 首相は頬をつらせながらちらり、と横の副首相兼国防大臣に視線を送る。

 聖職者として来るべき全体主義とキリスト教世界の対決としての世界大戦を予見し、科学技術者として航空機、原子力の発展を唱える「アブラハムの啓典盟約党」の党首でもある。

 

「我々としても困るのです、空軍の技術開発が命題で際限ない陸軍、海軍の拡張は人的資源の面からも反対していますが、フィンランドの動向次第では陸軍がメインになります。三軍のうち、空軍にこそ技術的な飛躍が期待されますが、だからといって機能不全になるのは論外です。

当事者である伯には今更でしょうが、前政権では4年間、政治的に主要なポストの将官、将官に内定している佐官を徹底して排除しました。

ノルウェー進駐で功績を上げたものを穴埋めにしていますが‥‥」

 行政面でのノウハウがある人間が枯渇している、ということだ。

 

「育てようにも教えられる人がほぼいないんですよ、イェルハルド閣下は軍の浄化という点では素晴らしい仕事をなさった」

 問題は組織の中枢が丸々いなくなったことですが、と首相は肩をすくめた。

 警察庁から憲兵まで巧みに使いこなし、徹底して病巣を取り除いたようだ、少なくともスウェーデン軍においては。

「人材育成にもかかわる人事と情報管理から再建したいと思うのです。他の分野はそれに付随して改善するでしょう」

 

「現在戦略単位の処理がノルウェー進駐時の泥縄をどうにか体系化してる状況ですがね」

「なんで戦争をしてないのに末期戦状態なのでしょうね」

 乾いた笑いが官邸に響く。

 

「つまりですね、組織を建て直すために制服組からの知見を持ったベテランが必要なのです。兵站や戦略の面では自動車化を進める事と並行で新たにノウハウを作っていくことが――時間はかかるでしょうが、やむを得ますまい」

 

「伯にはそれを支える人事、政策部門の管理の体制強化、情報組織の再建、教育制度の見直しそしれそれらの再体系化をお願いしたいのです」

 

 それは即ちほぼ全部では?エプレボリは訝しんだ。

 

「あぁそうですね、こちらから出せるものは‥‥給与はまぁ次官級に準ずるとして、後は‥‥そうですねぇ、議会政治家として我々が提供できるものは、どうでしょうか?」

 

 

「我々の党は教会が支持基盤ですので」

 

「ふむ、ここにいない彼らは対外政策は一致していますがハイ・ミドル重視の政党ですが――中道右派政党ですし彼らに相談して――」

「いえ、お待ちください。私から少々‥‥」

 首相は眉をひそめるが、副首相が何やら耳打ちすると微笑を浮かべた。

「あぁなるほど‥‥いいでしょう、乗りますよ。パルメ君には私から説得しましょう」

 

「協調ブロック総裁として、公認の推薦を受け付けます」

 

「ほほう」

 成程、隣の盟約党首殿も中々の狸のようだ、とエプレポリ伯は自然と笑みを浮かべた。

 そしてそれを即座に採用した首相も同じく。 

「そうですね、農水部会のポストでいかがでしょうか?」

 完全に食品企業グループ扱いである事に一瞬違和感を感じなかったがいや待て待て、とかつての部下達の顔を思い浮かべる。

「むむ‥‥国防部会もつけてどうですじゃ」

 

「では将校の復役は原則として認めない、というのを条件に」

 イェルハルド粛軍で追い出された者達を軍中枢に戻す事を認めない、という事だ。 

「‥‥ほほ、いいでしょう」

 手綱を着けられることは想定していた。であるならば議会に送り込むだけでも十分だ。

 

「では契約成立という事でできるだけ早いうちに――そうですね今週中に」

 

「首相、大臣!緊急事態です!」

 補佐官らしき男が息を切らせて駆け込んできた。

「なにごとですか!」

 

「フィンランドがイギリスに宣戦を布告しました!」

 

「‥‥‥」「‥‥‥」

 政権首脳の二人は視線を交わし、頷き合った。

「今から宜しくお願いします、伯」

 

 

 

 

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