あれやこれやと色々あって、僕たちは学園に雑用係として滞在することとなった。そしてこのエリオール寮を拠点とさせてくれるらしい。昔は趣のある古い古屋というオンボロ寮と化していたみたいだ。確かに見た目はオンボロ寮といった感じだが、中はその風貌を微塵も感じさせない綺麗なお屋敷といった感じだ。
それはさておき、今私の目の前には銀髪の美少女がいる。彼女の紫紺の瞳は魅入られるように美しい。
「さて、ユウくん。紹介いたします。エリオール寮、寮長の」
「オマエ、オレ様に氷ぶっ放してきたオンナなんだぞ!!」
グリムが校長の声を遮り、叫んだ。彼女に飛び交かろうとして、
「この子に何かしたら末代まで祟るよ? まぁその場合、君が末代なんだけど」
中性的な高い声が新たに空気を震わせた。
驚きながら僕とグリムは視線をさまよわせた。明らかに少女の声ではない。どこにも、その声を発した人物らしき姿はない。
戸惑い、困惑する僕たち。そして、僕たちに見せつけるように、少女が左手を伸ばす。
上に向けられた掌、その白い指先の上に『それ』はいた。
「あんまり期待を込めて見られると、なんだね。照れちゃう」
そう言ってはにかむように顔を洗ったのは、グリムより小さい、掌に乗るサイズの直立する猫だった。
毛並みは灰色で耳は垂れ、僕の常識で言うならばアメリカンショートヘアという種類の猫が一番近い。鼻の色がピンク色で、妙に尻尾が長いのを除けば。
「パック。」
彼女が猫を嗜めるように呼ぶ。パック。それが猫の名前らしい。
グリムは驚いて固まっている。いや、お前同じようなもんじゃん。
「ふふふ、ボクの名前はパック。エリオール寮の副寮長。大きさ自由で持ち運びに便利。さらにユーモアあふれるトークで退屈な日常を彩ったりしちゃう。ひとりに一匹! 生活のお共に。詳しくは精霊議会に問い合わせてみてね」
器用に指を鳴らしてセールストークをかます猫。いまいち要領を得ない内容だったが、たぶんそういう芸風なのだろうと僕は納得。
「ええと、よろしく?ユウです。」
友好的に差し出した手に、パックが体ごと飛び込んできてダイナミック握手。片方は手で片方は全身なので、傍目から見ると僕がパックを握り潰しているように見える。
モフモフ感に癒されながら、それから僕の視線は傍らの少女へ。
僕とパックのやりとりが面白かったのか、口元に手を当てて、白い頬を紅潮させ、銀髪を揺らしながら少女が笑っている。そんな姿も美しく、どきまぎした。
「――エミリア」
「え……?」
笑い声に続いて伝えられた単語に、僕らは小さな吐息だけを漏らした。
彼女はそんな僕の反応に姿勢を正し、悪戯っぽく笑い、
「私の名前はエミリア。ただのエミリアよ。エリオール寮、寮長の3年生。特待生としてこの学園に滞在してるの。よろしくね、ユウ」
彼女は手を差し出した。
その差し出された白い手を見下ろし、おずおずとその手に触れる。指が細く、掌が小さく、華奢でとても温かい、女の子の手だった。
「よ、よろしくお願いします!!」
僕もまた笑い、固く少女――エミリアの手を握り返したのだった。