ポケどま!   作:よすぃ

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ダブル・ダイマックス

 ワイルドエリアに隣接し、線路は通っていた。その線路に佇むように、グラはワイルドエリアを眺める。

 

「広大な自然、後ろには海。爽やかな光景だね。おじさんはそう思うよ。こんなに開放感が溢れると、つい出したくなっちゃうよね――きんのたまを」

 グラは不敵な微笑を浮かべる。

「今回、おじさんのボールは2つあるよ。なにせ、おじさんの玉だからね。だから、ダブルバトルといこうね」

 

「ダブルバトル……あ!」

 マスターと私は思い出した。

 ドッジボールの際にカバンとボールを預かり、そのまま忘れてきていたのだ。取りに戻るべきかもしれないが、その間にこの男はどこかに逃げてしまわないだろうか。

 

「……待たせたな!」

「な、何者だね?」

 どこからともなく声が聞こえ、グラは周囲を見渡した。

 

「何だかんだと聞かれたら……答えてあげるが世の情け。世界の破壊を防ぐため、世界の平和を守るため……愛と真実の悪を貫く、ラブリーチャーミーな二人組……」

 

 居た。列車の屋根の上である。

 赤い薔薇をくわえたカイトと、額の小判を撫でるニャースのシャケだ。

 カイトは仮面に、ハット帽、タキシード。いつもの怪盗スタイルである。動きにくそうなその格好でよく潜入したものだと感心する。

 

「怪盗カイト!」

「シャケ猫だニャ!」

 名乗りをあげ、オーバーな動きで、視線を集める。

「ガラルを駈ける我々ふたりには!」

「ウルトラホール! にゃん」

「未知なる明日が待ってるぜ!!」

「にゃーんてな!」

 息ぴったりに叫ぶと、カイトとシャケは列車の屋根から飛び降りた。

 今の決めポーズ及び決めゼリフが何かわからないが、相当練習をしていたのだろう。噛むこともなければ、タイミングがずれることもなかった。

 

「ふっ……キマったな。シャケ猫」

「カイトもなかなかやるニャ。でも、ニャンだろう。二人でやると何だか物足りないニャン。実際にはそんなことやったことにゃいけど、遠い夢の中で、二人組とニャーと、ソーナンスでこんなことをやったことあるような気がするニャ……」

「シャケ猫。今はそんなことを言っている場合ではないぞ。そのダブルバトル、僕たちもガラルチャンプに助太刀しよう」

 

 そして、身構えるカイトとシャケ。面子は揃った。

 満足げに頷くと、グラはボールをワイルドエリアに向かって投げた。投げる瞬間、ふと耳鳴りがした気がして、私は頭を抑える。微かな違和感があった。何かがこの世界の理に干渉したような歪さが私の第六感に囁きかける。

 

 投げられた2つのボールが巨大化していく。そして、姿を見せたのは2体の色違いのタマタマである。いずれもダイマックスしており、相当な大きさになっていた。

 

「おかしい……2体同時にダイマックスできるなんて……」

 カイトが疑問を口にする。

「うふふ……どうだい、待ちかねただろう、おじさんの金のタマタマだよ……」

 しかし、グラは不敵に笑うのみであった。

 

「カイト、考えているヒマは無いよ! サナたん、お願い!」

 マスターは私に闘いの開始を告げ、私は同時にワイルドエリアにテレポートした。

「いけ、シャケ! 君に決めた!」

 シャケ猫は器用に跳躍しながら、私の隣へと降り立った。

 私とシャケが対峙するは、とても大きな……金色のタマタマ。それも、2体だ。どう考えてもアンバランスなこの光景は見たことがなかった。

 

「どうだい、大きいだろう。おじさんの金のタマタマは……しかも2つだよ。なにせ、おじさんのきんのたまだからね……」

 ――ダブルバトルは開始された。

 初手の行動が重要である。私の計算では、ムーンフォースでタマタマを一撃で落とせるはずだった。恐らく私の読みどおりであれば、持ち物は2体とも“きんのたま”だ。

 マスターを振り返ると、力強く頷いた。初手は決まった。後は行動に移すのみ――!

 

「サナたん、ムーンフォース!」

 2体のうち、向かって右側に狙いを定める。

 しかし、私より先に動いたのはシャケだった。カイトの意思を読み、俊敏に地を蹴り、右側のタマタマに飛び掛かる。

「シャケ、ねこだまし!」

 猫が放つ“ねこだまし”が、タマタマを襲う。カイトは怯む効果を狙ったようだが――

 ダメージを受け、タマタマは僅かに体力を削られるがその場に平然としており、すぐさまその身を守った。“ダイウォール”だ。どんな攻撃であっても防ぐ、究極の盾。

 

「……何……だと……」

 タマタマが怯まなかったことに驚くカイト。ダイマックスした相手とあまり戦い慣れていないようだった。

 マルチバトルは相方のトレーナーとの意思疎通が取りにくい。だからこそ起きるケアレスミス。

 だが、私の初手も空振りだ。ダイウォールの体制に入っているタマタマに、既に私のムーンフォースは向かっており、呆気なく防がれた。

 

 その隣で、もう1体のタマタマの身体が光を集め始める。この光景には既視感があった。が、予測は全くしていなかった。ダイマックスした相手がダイマックス技以外を使用するなんて――。

「だいばくはつ!?」

 マスターが驚きの声をあげた瞬間、爆ぜた。金のタマタマの中身が周囲に飛び散り、爆発のエネルギーが一帯に大ダメージを与える。今回のタマタマは以前よりも弾け方が激しく、攻撃特化の育て方をされていると確信する。が、時はすでに遅い。

 

 全てがスローに見えた。

 シャケが金のタマタマだった粘液やタマゴの殻を全身に受けながら、吹き飛び、ドロドロになったまま地面に倒れ伏す。

 そして、私も同じく、金のタマタマだったモノを全身に浴び、吹き飛ばされる。唯一平然としているのはダイウォール状態のもう一体のタマタマである。

 地面に倒れながら私は、“死”を覚悟する。

 

「ふふ……おじさん、いっぱい出ちゃったよ……」

 遠くにグラの満足気な声が聞こえる。

「シャケ!?」

「サナたん!!」

 カイトやマスターの声が聞こえる。

 このまま倒れているわけにはいかない……私は何とか立ち上がることに成功する。

 

「タマタマがイッたというのに……、なぜ立っていられるんだい!?」

「気合いよ……気合いだけで、サナたんは立っているの……!」

 驚きの声をあげるグラに、マスターはドヤ顔で、何かの格闘技のコーチのようなセリフを言う。

 答えはわかっていた。

 サオリに巻いてもらった、額の“ムゲンバンダナ”が切れて地面に落ちていく。やはり、ただの“きあいのたすき”だったが、今はそれに救われた。

 

 次のターン、ダイウォールを再度繰り出すタマタマ。かろうじて成功し、私のムーンフォースは呆気なく防がれる。

「おじさん、1ターンでも長く金のタマタマを見せられたら本望だよ……」

 グラは恍惚とした笑みを浮べている。バトルで勝つつもりは、これっぽっちもない様子だった。彼の勝利、目的は別のところにある。

 

 私も自分の勝利を理解していた。素早さで上回るのは私であり、ムーンフォースさえ当てれば全てが終わる。

「この闘い……次で終わりであるな!!」

 スズキの甲高い声が響いた。

 いつの間に駆けつけたのか、私は視界の隅に、サオリが居るのに気づいた。その両隣にはヤマダとスズキも居る。

 

「サナたん?」

『イエス、マスター……!』

 空が薄暗くなり、満月が浮かぶ。その月の光を集め、エネルギーとして放つ。

 

「こ、これは……!? 日出ずる国で有名な美少女アニメの……! あの伝説の“月に代わってお仕置き”ではござらんか!! あのサーナイト、よもや只者では無いと思っていたが……」

 

 いちいち解説がうるさい。

 私はマスターの指示を読み取り、攻撃の体制へ入る。

 

「サナたん、ムーンフォース!!」

 そして、満月のエネルギーがタマタマヘ向かう。

 

「キターーーーー!!」

「さすがサナたん! われわれにできないことを平然とやってのける(以下略)」

 相変わらずうるさい観客ふたりは無視する。

 

 月の光に照らされ、金のタマタマの巨大な体が艶やかにきらびかる。タマタマは一撃で落ち、ボールの中へ戻っていった。

「ふう……」

 グラが熱い吐息をこぼした。

 負けたにも関わらず、相変わらず清々しい、何か大きなことをやり遂げたような顔をしたグラは、どこか幸せそうであった。心なしか、「我が生涯に一片の悔いなし」という台詞が聞こえてきそうな、偉業を遂げたもの特有の雰囲気がそこにはあったのだ――。

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