ポケどま!   作:よすぃ

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線路は続くよ何処までも

 ガラル収容所脱獄事件――センセーショナルな見出しがメディアを賑わせ、ガラル警察も原因究明と再発防止に追われることだろうと思う。

 最新のセキュリティ、訓練を受けた刑務官とそのポケモン……百パーセント脱出不可能と言われた難攻不落の要塞が呆気なく破られたのだ。

 

 警官たちが飛び散ったタマタマの処理にあたり、鑑識や鼻の効くポケモンなどが現場検証に当たっている。

 何よりも皆を困らせたのは……膨大な数の“きんのたま”と“でかいきんのたま”だ。どうやら今回のバトルはレイドバトルの扱いであったようで、バトル終了後に、通常のレイドと同様にアイテムが残されたのだが、その結果がこれだ。

 

「カイト、ニャーたちは大金持ちニャー!」

「あいつらに匿ってもらうのにも、手土産ができる! さすがに無償は気が引けていたからね」

「ありすぎるくらいニャー!」

 

 一人と一匹は両手に一つずつ“きんのたま”を持ち、大喜びで踊り狂っていた。

 それもそのはず。これらを売り払えば、かなりまとまったお金に代わるからだ。

 

「サナたん……これ、権利はやっぱりあたしたちにもあるんだよね? 何個あるのかなあ」

 

『きんのたま×999、でかいきんのたま×999ですね。厳密に言えば参加したトレーナの人数分なので、更にその2倍です』

 

「うへえ、ありがた迷惑……」

 

 さっきから、きんのたまに埋もれたカイトが大金持ちだとしきりにはしゃいでいる。シャケ猫もげんきのかたまりですっかり復活しており、元気にニャハニャハと笑っていた。

 

「しかし、何なんだろうね。一人のトレーナーが2体同時にダイマックスさせたこととか、このありえない量のレイド報酬とか……どう考えてもおかしいことだらけだよね」

 

 グラに真相を聴く前に、ガラル警察が到着し、その身柄を拘束してしまったために、真相は聞けずにいた。

 私たちは大量のきんのたまを前に、ひとまずは現状が落ち着き、グラと面会できるのを待つことにした。

 

 タマゴ臭い……全身から硫黄のような悪臭がするような気がして、警官から貰った毛布で何度も拭うが、心なしか取れない。

 必死に拭き取っていると、目の前にトレンチコートを着込んだ刑事が現れ、マスターに敬礼する。

 

「お初にお目に懸かります、チャンピオン殿。私は国際警察(インターポール)のマサル・ゼニガタと申す者です。少し、お尋ねしても良いですかな?」

 

 ゼニガタと名乗る男は、警察手帳を開き、身分証明となる顔写真ページを開いた。手帳の外見だけではなく中身も確認させるあたり、礼儀はしっかりしているようだ。

「はい! 何でも聞いてくださいな!」

 マスターは事情聴取にワクワクしている様子だ。目が輝いている。

「今回の事件……乗り合わせた列車がたまたま事件に巻き込まれたとのことですが……」

「たまたま……? タマタマ……ああ……」

 先ほどとは打って変わって、途中からため息に変わる。

 タマゴまみれの私たちはお互いそのことを思い出す。ある程度は毛布をもらい拭き取っているが、カピカピとした感じは拭えない。早くシャワーを浴びたかった。

 

「申し訳ない……配慮が足らず。悲惨な事件でしたな……心中お察しします」

 ゼニガタは表情を暗くする。

 タマタマが私たちに植え付けたトラウマは大きかった。

「では、こちらが把握していることをお話するので、合っているかどうか返答いただけますかな」

 一方的なところが刑事という職業柄なのだろう。ゼニガタは返答を聞かずに質問を始めた。

 

「列車に乗っていたところ、いきなり、囚人たちが各車両に現れ……気付かぬうちに列車が占拠されていたということで聞いてます。潜入時に扉が蹴破られるような音を聞いたり、もしくは、予め忍び込んでいた可能性はありませんかな?」

 

 囚人たちはグラも含め、小汚い縞模様のつなぎ服だった。あれだけの囚人が予め乗っていれば、必ず気づいたはずだ。

 途中から乗り込んだ可能性についてはどうか。

 エンジンシティを出発し、トンネルに入るときまで何もなかった。少なくともトンネルを出た後になるが、それでも不自然な気配は感じなかった。

 マスターも同意見で、それをそのまま伝えていた。考えれば、突然その場に現れたとしか思えない、不自然さがあった。

 

「やはり、そうですな……ガラル収容所の場所をご存知かな?」

「確か、離島?」

 

「そう。難攻不落の要塞と言われており、島そのものが囚人たちを服役させる施設になっているのです。ちょうど、ここから西の海の向こうですな……オマケにあれだけの人数が脱走したのが、この騒動の始まるほんの少し前。仮に、空を飛ぶポケモンを使ったとしても、ありえますかな? 奴らが嘘をついてないとすれば……テレポートの類としか思えませぬな」

 

 その単語が出て、私はもしかしたら自分が疑われているのではないかという可能性を危惧した。しかし、そのような大人数を一気に移動させるような能力は私には無い。

 

「おっと、失礼。そこのサーナイトのお嬢様のことではないですよ。たとえば、ここではない地方で、そのような能力を持つ伝説ポケモンがいると聞いたこともあるものでね……伝説の存在であれば、何があってもおかしくはないでしょう?」

 

 私は、記憶の中のポケモン図鑑をめくってみる。

 色々いるかもしれないが……シンオウ地方のギラティナだろうか。反転世界という異なる次元へ導くとされている。そこでは時間と空間を超越しており、そこに行き、こちらの世界へ戻ったとすればどうか。

 私はそのことに真っ先に思い至った。

 

「ま、それはわからんですがな……あと、話は変わりますが、列車からダブルバトルを見ていた乗客の証言ですが、グラという男はダイマックスを同時に2体でやったそうですな? 本官も通常ありえないという認識でありますが、ポケモン知識豊富なチャンプの見解を聞かせていただきたい」

 

「ありえないバトルだったと、あたしは思います」

 マスターはダブルバトルの詳細を話した。そして、周囲に散らばる黄金色に輝く大量の球体のことも説明するが、ゼニガタは首を傾げるばかりだった。

 

「グラなら……さっきのおじさんなら何か知っているのでは?」

「ううむ。あの男も実は、その他大勢の囚人たちと同じに過ぎんのですよ。囚人たちは皆一様に、口を揃えて、“神”を名乗る男が導いたと言うんですよ。以前からの顔見知りではなく、今回、突然ガラル収容所に現れ、自分たちを一瞬にして、この列車の中へ送ったと……」

「目的は……?」

 

「世界の再構築(レボリューション)、と言っていたようですが、囚人の誰も深くは理解しとらんですな。世界征服の類、テロ行為のようなもんだとは思いますがな。不思議なことがもうひとつ……その“神”の顔を覚えてる者が誰もおらんのですよ。囚人たちが隠してるわけでもなく、記憶からすっぽり抜け落ちてるような感じだそうで……」

 ところで、とゼニガタは周囲を見渡した。

「……列車を制圧し取り返したのは、あなたと、そこの何やら特殊訓練を受けていそうな女性と、もう一人、男がいましたな?」

「カイトかな? さっきまでいたんだけど……いなくなっちゃったみたい」

 見渡すと、カイトもシャケ猫も姿を消していた。

 逃げたのだ、と何となく察した。周囲の黄金の輝きの量に変化がなさそうなので、慌てて、両手の“きんのたま”を持って逃げたに違いなかった。その証拠に私の超能力で読み取ってみると、きんのたまの数が4個減っていた。カイトが2個、シャケが2個。そう、2個である。なにせ、きんのたまだから。

 

「いない……? 彼も実は窃盗の容疑で捕まっていたんですよ。怪盗カイト、強欲な富豪から盗んだ金を貧しき者に与える義賊。界隈ではちょっと有名でしてな。しかし、誰もその顔を知らない……変装の名人なんですよ」

 

 ゼニガタが言わんとすることを理解した。誰も顔を覚えていない“神”と、誰も素顔を知らないと言われる“怪盗”を関連付けようとしているのだ。

 

「たぶん違うと思います。義賊のような人の手口と今回のこれはあまりにも違うし、何より奪還に協力してくれてる。あとは……ガラルチャンピオンのあたしの勘です」

 

 付け加えると私の勘もである。

 確かに犯行を隠すために被害者に混ざるという手口も世の中にはある。

 

「チャンプ!!」

 若い男の刑事がひとり駆けてくる。

「グラの取り調べが終わりましたが、このまま収容所にいち早く送ることになってしまい、必要であれば後日また話されますか? ……え、あれ、ゼニガタ警部、何故ここに? 先ほど、あちらでお会いしたような……」

「ばかもの!!」

 ゼニガタは大声で若い刑事を怒鳴りつけた。

「そいつがルパン……いや、カイトだ! 追えー!」 

 そして、ゼニガタはどこかへ走り去っていき、残された私たちはとりあえず、顔を見合わせた。

「……え、えっと、後日またグラとの面会を希望されますか?」

 若い刑事は困ったように問いかける。

「いや、もういいです……聞いた感じでは黒幕では無いみたいだし、“神”と名乗る謎の男の正体も覚えてないってことなんでしょ?」

 当初は何らかの関連性があると考え、面会を希望していたのだが、先程のゼニガタの話からするとあまり関係は無さそうだ。

 

「……まったくもって、チャンプのおっしゃる通りであります。誰もやはり、何も覚えてないのです。ただ、何者かが手引きしたことは皆覚えているのですが、目的を聴いても、囚人によって言っていることがばらばらで、しかも抽象的すぎて的を射ない感じなんですよね」

 

「……とりあえず、あのおじさんとはもう会いたくないから、面会には行かないよ……二度と出て来れないよう、セキュリティだけ強化しておいてね」

 

 ちょうど財源は目の前に大量にある。

 マスターは、“きんのたま”と“でかいきんのたま”を全額寄付し、ガラル収容所の強化と、ワイルドエリアの保全活動、ガラル鉄道遅延への損害賠償補填に当てるよう依頼し、停車したままの列車へ向かった。

 

 線路はワイルドエリアからは普通では上がれないようにできていたが、ガラル警察の人たちのポケモンが手助けしてくれて、高台の上にあがれた。

 そこからはワイルドエリアと海が一望できた。海の向こうに島が見える。それがガラル収容所だった。島は断崖絶壁になっているようで、とても生身の人間の力だけでは抜け出せるとは思えない。

 

 脇目に列車に乗り込むと、直に発車するとのことであった。

 

「気をつけてね」

 窓の外から声が掛かった。 

「あ、サオリさん。このままワイルドエリアを抜けて帰るの?」 

「私はここから歩いて帰って、またメイドに戻ることにするわ」

 車窓の外……若干、線路内に立ち入る形ではあるが、走行には支障のない位置でサオリは見送りに来てくれていた。

 このままお別れだと言う。私は、きあいのタスキの礼を言った。あれがなければ、レイドバトルで勝利をおさめることは出来なかった。感謝のほかない。

「いいのよ、サナちゃん。……その子のこと、お願いね。あと、困ったらまた呼ぶのよ。いつでも駆けつけるからね」

 そう言ってマスターに微笑みかけるサオリが、あの潜入のプロと同じ人物とは思えなかった。人は見かけによらないものだと実感する。

 

【間もなく、出発します。次の停車駅は、ブラッシータウンです】

 車内アナウンスが入り、出発を告げる汽笛が鳴り響く。

 緩やかに列車は動き出す。窓の外のサオリが大きく手を振った。

 

「またね!」と、サオリが言う。

「またね!」と、マスターが返す。

 私も――またね、と大きく手を振った。

 別れの言葉ではなかった。またいつか会うための約束だ。 

 すぐにその姿は消える。景色もみるみるうちに変わっていき、列車は走る。敷かれたレールの上をひたすらに真っ直ぐに。

 旅にハプニングは付きものであるが、すぐに軌道修正される。初めから目的地は決まっているのだ。いつかはそこにたどり着く。

 だから。

 今はもう少し、ゆっくりこのガラル鉄道の旅を楽しむこととしよう。心なしかタマゴくさい車内で、それでも私はこの旅が楽しかった。

 

――――――――――

【補足】怪盗ルパンについて。

 怪盗カイトは、少し前まで『ルパン』と呼ばれており、国際警察(インターポール)のゼニガタ警部とは犬猿の仲である。最近では彼を『ルパン』と呼ぶ者はほとんどいなくなったが、それには理由がある。

 かつて、カイトは、ニンフィアやドヒドイデなど受けループと呼ばれるポケモンばかりを使用するため、ガラル警察からは鬱陶しがられており、ついたあだ名は『受けループ・マン』だったが、いつしかそれが訛って、『受けルパン』と呼ばれるようになったのがルパンの二つ名の始まりである。

 しかし、いつからかニャースを連れ回すようになってから、そういったことは無くなり、ちょろちょろ逃げ回る作戦を得意とするようになった。その後は単に語呂の良さから『怪盗カイト』と呼ばれるようになったという。

――――――――――




【Season4】ガラル鉄道の旅――完。
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