ポケどま!   作:よすぃ

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時をかける少女

 しっかりした石造りの遺跡は、倒壊することなく古より時を刻んでいる。

 私の記憶にあるのは、マクロコスモス社が手を加えた後に、テロによる爆発で倒壊した状態のものだったので、朽ちた遺跡であってもむしろ頑丈な作りに思えた。

 外観だけで言うなら、エンジンシティ近くの見張り塔跡よりもしっかりした雰囲気がある。

「ねえ、おじさん。この先に何があるってんだ?」

「待て」

「どうしたってんだよ、おじさん――」

 しかし、男は立ち止まり、ホップの言葉を制止した。

「今すぐに出て来い。さもなくば蜂の巣にする。3つ数える。1、2……」

 抑揚のない口調で背後にショットガンを向けると、一人の少女が現れた。青いワンピースを着ている。

 

「誰だ」

「通りすがりのチャンピオンだ、覚えておけ」

 威圧感のある低い声音で問われたにも関わらず、少女は物怖じすることなく、ふふん、と得意気に鼻を鳴らすと、手を腰にあて、薄い胸を張った。

 そして、手にしたステッキのようなものをひらひらと振る。ノースリーブのワンピースの裾もひらひらと揺れた。その人物にも、そのステッキにも覚えがあった。

『マスター……?』

「やあ、サナたん。道場制覇してきたよ」

 同じ顔をした平行世界の別人の可能性も頭によぎったが、この軽い口調は間違いなく、私のよく知るその人だった。

 なぜ、ワンピースを着ているのかはわからないけれど。

 

 ※

 

 ホップは、セレビィにこの時代へ連れて来られたこと、若きマグノリアの助けを経て現代へ帰ろうとしていること、この世界に衝突する隕石の軌道を逸らそうとしていること、なぜかターミネーターに追われていることを、歩きながら順序立てて説明していた。

 マスターはその全てに神妙な顔で頷き、時に驚いたような顔を見せたり、大筋を理解した様子で、話し終わったホップの顔をまっすぐに見つめて言った。

「なるほど。よくわからない」

「ちょっ……いま説明したの何だったんだよ……というか、お前もそもそもどうやってここへ来たんだよ?」

 呆れたホップが話題を変える。

「話せば長くなるわ……」

 

 そう前置きすると、遠い目をしてマスターは語り始めた。

 マスターは単身、道場へ乗り込んだ。むろん、当初の思惑は道場破りだったが、なぜか成り行きで弟子入りさせられ、修行をつけられることになる。

「かっこいい道着だったわ……」

 その後ダクマというポケモンを相棒にし、その成長を遂げさせることこそが修行の到達点であると道場主には言われ、その過程で、水の塔を登ったり、キョダイマックスさせるためのダイミツを手に入れたとのことだった。

 ここまでは、ホップに聞いて既に知っていたことである。

「ハチミツ好きな仔だから、ニックネームは、ぷーさんにしてやったわ……」

 正直どうでもいい話を織り交ぜつつ、ホップと別れたあとの話へと移る。

 マスターはその後、道場主を破り、ついでに裏のボスと噂される、通称“女将さん”こと道場主の妻も倒し、縛り組み手と呼ばれる組み手を全制覇し、すっかり探し忘れていたアローラの姿のディグダの残る全てを見つけ出したのだという。

「ディグダは正直なところ、“徹底攻略”のサイトが無かったらやばかったわ……。あ、あと、ハイド君の発明した“ウッウロボ”もサイトが無かったら、色んなアイテムを危うく無駄にするところだったわ……」

 そう言って、スマホロトムを見せた。そして、少し真剣な表情に変わる。

「ここまでは、よくあるお話で。話すまでもなく予想のつく範囲だと思う。その後、私は、ふと、“おしゃれカード”のことを思い出したの。これは使わなきゃって」

 

『ヨロイ島に来てすぐ、バトルを仕掛けてきたあの変な人に貰ったやつですか?』

「そうそう! サナたん、記憶力いいねー!」

『要するにただの寄り道?』

「え、いや、サナたん……人聞きの悪い……うん、まあ、あれよ? とにかくいろいろな町のブティックに行って、新しく買えるようになったのを全部試着して買ってたの。そして、エンジンシティに来たときのことだったわ……特にダークインディゴのノースリーブワンピースが可愛くてさぁ。気に入って着てたら、たまたま通りかかったファッション雑誌の人に、一枚撮らせてくれって言われちゃって」

 

 なるほど、それで今ワンピースを着ているのかとようやく理解した。寄り道以外の何でもなかった。

 マスターは、今着ているワンピースは正しくは青色ではなく、ダークインディゴだということも主張していたが、取り立てて重要な情報でもないので聞き流すことにした。

 カメラマンに容姿を褒められ、気を良くしてワイルドエリアで撮影をしてもらったのだという。完全に目的を忘れていたのは誰が聞いても明らかだった。

「撮影が終わった後も、なんだか気分が良かったから、私はそのまま女優としてワイルドエリアで優雅に振る舞っていたわ」

 そのあと、カメラマンと別れてから、気分が良くなったマスターは、見張り塔の跡地でそのまま一人でポーズをきめたり、女優の気分を満喫していた。完全な悪ノリである。

 

 たった今気づいたが、この口調は、マスターの勝手な女優のイメージであるらしかった。これも悪ノリである。

 

「やがて、日が落ち、夕暮れになった頃。あたりの草原も夕焼けに照らされ、まるで黄金色のようだったわ……。そのとき、ポプラ――いえ、大ババ様が現れたの」

 ポプラは態度や頭部など確かに何かと大きなイメージがある老婆である。

 その大ババ様ことポプラは、一人、夕焼けの中で華麗に舞う美少女(自称)を見つけると、目を見開き、言ったのだという。

 

【……その者青き(ころも)をまといて金色(こんじき)の野に降り立つべし。古き言い伝えはまことであった……】

 直後、急に色違いのセレビィが荒れ狂うように巣穴から飛び出し、ふたりに襲いかかった。

 しかし、マスターはマスターボールで咄嗟に捕まえた。

 どうでも良いが、マスターのマスターボールという表現はややこしく、ついでに道場主はマスタードと名乗っていたらしく、それもややこしさに拍車をかけていた。

 

 色違いのセレビィ。

 場所は離れているが、ヨロイ島のものと同一個体かもしれない。

 何はともあれ、ゲットした色違いセレビィをボールから出すと、セレビィは先ほどとは打って変わって落ち着いており、その穏やかな様子のセレビィを見た大婆様は感極まって叫んだという。

【なんといういたわりと友愛じゃ……狂える妖精(セレビィ)が心を開いておる】

 目を見開き、感涙したポプラは、言い伝えのとおり、フェアリーパワーを秘めたステッキをマスターへと託し、なすべきことを伝えた。

 即ち、並行する世界の過去へ向かえ。妖精と共にあらんことを(Be The Fairy With You)――と。

 

「……そういうわけで、ポプラさんが帰った後、セレビィとステッキで戯れていたら、この時代にたどり着いたの」

 マスターがどういう原理でこの世界のこの時代にたどり着いたのかはわからないが、時を渡る能力を持つセレビィと謎のステッキが関係あることは間違いない。その原理については後でゆっくり考えることにする。

「ついたぞ。ここでヤツを迎えうつ」

 黙って先行していた無骨なターミネーターが到着を告げる。

 話に夢中になっているうちにどうやら目的地へ到達したらしい。

 辿り着いたのは、地にポッカリと空いた大穴――マッシュが魔晄炉(まこうろ)と呼んだ施設へと作り変えられる前の、巨大なレイドの巣穴であった。

 

――――――――――

【補足】大婆様ことポプラについて

 齢88歳であるため、痴呆が進んでいるのか、ワイルドエリアでは、サナのマスターをなぜか『ナウシカ』と呼んだり、ワイルドエリアを『腐海(ふかい)』と呼んだりしていたらしい。また、レイドに出て来たダイマックスしたストリンダーを『巨神兵』と呼んで異様に恐れる、虫タイプのフシデを見ると『王蟲(おうむ)』と呼ぶなど不可解な言動が目立つ。

 なお、最近、ジム特集のため取材に来た雑誌の記者に最近観た映画を尋ねられたところ、再放送された『風の谷のナウシカ』と答え、好きな男性のタイプは『ユパ様』と答えた。

――――――――――

 

 辿り着いた場所は、現代でマッシュが色違いのムゲンダイナを“星へ還した”場所だ。

 巨大な穴が地面にぽっかりと口を開けており、底は見えず、暗闇がただそこに広がっている。元々そういう風に造られているのだろう。天井は無く、まるで屋外のジムスタジアムのように、周囲を壁に切り取られた青空がよく見えた。

「これは、ガラルの始祖達が創り上げた装置だ。ライフストリームと呼ばれる星の命とも言えるエネルギーの源流がこの下を流れており、そのエネルギーを吸い上げ、文明改革を推し進め、諸々の産業発展に役立ててきたとされている」

 心を持たないターミネーター、T-800はメモリされた情報をただ読み上げているかのようである。

「ライフストリーム? ガラル粒子じゃないのか?」

 自身の専攻なのだから、当然疑問に感じたホップが怪訝そうに尋ねると、T-800は答えた。

「ガラルだけではなく世界各地に存在することが証明されたため、デボンコーポレーションは公式にそう改名した」

「デボン? マクロコスモスじゃあないのか?」

「宇宙とこの星にまつわることはホウエン地方が最先端だ。“未来”において、デボンは世界のエネルギー問題を開発し、人々の暮らしを豊かにすることに一役買った。豊かさを追い求めた人間とポケモンたちは、AI(人工知能)を駆使し、自我を持ったコンピュータ“スカイネット”を開発した。これは産業、医療、教育……そして、軍事。様々な分野で導入された。私もそんなデボンで開発され、軍事運用された一体だ」

 人間とポケモンが、AIを使う時代。果たしてそんな時代が来るのだろうかという疑問はあった。

 しかし、目の前の殺人アンドロイド“ターミネーター”が言うには、“スカイネット”は、自己存続のために最高の優先順位で活動するように設定されており、自己存続をシミュレーションし続けた結果、スカイネット自らを破壊しうる可能性のある存在――即ち、人類の殲滅を目的とし始めたのだという。

 その結果、世界各地にある兵器を操る各国のメインシステムをハックし、互いの国に核ミサイルを発射するよう命令を出し――人類のほとんどの命が奪われたのだと、あくまでも機械的な口調でターミネーターの男は言った。

「その日を、生き残った人たちは“審判の日”と呼んだ」

「審判の日……人類に審判がくだされたって言うのか!?」

「……スカイネットは、その後、軍事兵器のシステムをハックし、ターミネーターを稼働させ、人類の殲滅を始め、世界の崩壊もカウントダウンに入った。その状況を打破する人類の希望、生き残りたちの集まる組織レジスタンスを立ち上げたのがホップ、未来の君だ」

 ターミネーターは全てを語ったが、未来を変えることに躊躇は無いらしい。むしろ、全てを伝えるようにプログラミングされているようだ。

 しかし、ひとつ疑問は残る。ポケモンはどうなったかということだ。トレーナーはポケモンと共にある。

 トレーナーたちは当然、ポケモンたちと共に闘うだろう。

「……ポケモンはどうなったんだ」

 私の疑問をそのまま口に出したのはホップだ。

 

「大人しい猛火ヒバニー2vの話をしよう」

 ターミネーターの男は相変わらず抑揚のない声で言った。

 それはガラル地方において、役に立たない物に対する一つの比喩表現とされている。

「将来的にエースバーンに進化し最前線で物理アタッカーとして活躍させるにしても、性格の大人しさは役に立たない。特性はリベロであるべきではないか? 2vのうちひとつはよりによって、特攻だ。色違いですらないのであれば、希少価値もない。果たしてこのヒバニーは、どういう運命を辿るか」

 厳選という名の大量孵化。

 それが横行するこの世界において、捨てられる以外の未来は見えないというのが、真実だ。

「……だが、未来のスカイネットが生み出した技術があれば、この遺伝子構造を意図的に組み換え、全く別の優れた種に組み替えることができる。たとえば、キョダイマックスできる色違い6vムゲンダイナ、マスターボール入り。何だっていい。意図的に組み替えたポケモンを機械的に操る術もスカイネットは持っている。中には機械と掛け合わせ生み出した全くの新種もいる」

 能力値(vと呼ばれる個体値や、努力値。性格)を自在に組み替えることができ、その強力なポケモンが一斉に、機械と共に人類に牙をむく。

 だが、そこに元のヒバニーの意思はあるのだろうか。無いだろう。機械と同じく、与えられた使命をこなし続ける。

 ある意味で、トレーナーに使われることと同じなのかもしれないが、そこに信頼関係が有るかどうかは大きな違いだ。

 

「未来の君が私をここに送り込んだ理由は2つ。今の君が殺され、未来のレジスタンスが結成されない事態を防ぐこと。そして、もう1つは審判の日を止めること」

「審判の日を止めるって……どうすんだよ」

「スカイネットの基礎プログラムを生み出す人間を抹殺する。既にここに呼び出した」

 気配を感じ、振り返ると、物陰からマグノリアとドクが姿を現した。

 私の危険予知のテレパシーも甲斐なく、既にここに呼び出されていたのだろう。二人は不思議そうに私たちを見渡した。

 

――――――――――

【補足】大人しい猛火ヒバニー2vとは?

 最近ではこれの頭文字をとって、『OMH2 』と言うのがクールだとされている。今回の話の中でも言及されていたが、古くはガラルの老若男女の知ることわざのひとつである。

 昔話に、当時人気のあった隠し特性リベロの6vの色違いエースバーンを育てようとして孵化厳選していたところ、誤って、通常特性もうかの2vの通常色エースバーンをうっかり育ててしまい、嘆いた年下男子(ショタ)トレーナーの話がある。

 このことから、ガラルでは古くから「いくら頑張っても役に立たない」ものの意味のことわざとされていたが、近年この昔話に続きがあることが発見された。話の続きでは、年下男子(ショタ)トレーナーは「愛だよ愛」と言って引かなかったことから、「ダメな子ほど可愛い」という隠されたメッセージも、このことわざには込められていると専門家は見る。

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