ポケどま!   作:よすぃ

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ダンデライオン

「勝った勝った!」

 喜ぶニットを見て、「そんなのアリかよ……」と、レオンは呆れ顔だった。

「――有りか無しか。それでいうと、有りよりの無しだな!」

 空が曇ったような気がして、見上げると、リザードンが舞い降りてきた。

 背から颯爽と飛び降りたのは、前チャンピオンのダンデ。

 黄金色の瞳が、陽を反射する。

「もちろん、ランクマッチバトルでは無しだ。バトルタワーでもな。ルールに則っていない。だが、そうでなければ……無しではないとオレは思うぜ!」

 よくわからないことを言うダンデだが、それをレオンは呆然と見つめていた。その瞳は心なしか、憧れに輝いているように見えた。

「これは仲間バトル! 身内で楽しくやるもんだろう? だったら、何だっていいじゃないか! お互いが納得していれば好きにしたって!」

 ダンデはそう言って、ニットのマイルールを肯定した。

「好きにしてもいい……?」

 レオンが恐る恐る口にする。それがニットの振舞いを指しているわけでは無いことは明らかだ。口調に戸惑いと歓喜が入り交じる。

「ああ。少なくとも、ここのみんなの顔を見るとそこまで気にしてないように見えるぜ! その場その場で楽しさを見出し、ゼンリョクでそれを楽しんでいる。オレにはそう見えた!」

 ダンデは前チャンピオンだ。

 その地位をマスターに譲った後も、その根強いファンは多い。レオンもそのうちのひとりであるらしい。

 そんなレオンに、ダンデは駆け寄り、しゃがんで目線を合わせる。

 レオンの小さな肩に大きな手を乗せ、呼びかける。

 

「なあ、少年。名前は何と言う?」

「レ、レオンです……」

「ほう。オレと同じだな……」

「何がですか?」

 瞬間、ダンデは立ち上がると、オーバーなジェスチャーでマントをはためかせる。

百獣の王(ライオン)さ!」

 頭の中で考える。

 レオン、LEON……異国の言葉でライオンを意味する。

 ん……なるほど。ダンデライオンか。

 

「強くなれ、少年。そして、オレとポケモンバトルしよう。バトルタワーの頂点で待ってるぜ」

 そう言うと、レオンの頭をごつごつとした手で、優しく撫でた。

 彼のわざとらしいまでのパフォーマンスは、彼にしかできないだろう。彼は観衆の望むチャンピオンを演じているのではないか。そう思わせるような雰囲気がある。

 そして今もきっとそうだ。

 ――だが突っ込みたいことがある。

 ダンダライオンは、たんぽぽだ。

 

 ダンデはマスターに用事があったらしく、マスターを誘って洋館の中に入っていった。

 立ち去るダンデの背中をレオンは憧れの眼差しで見つめていた。

 その隣ではメイちゃんも目を輝かせ、「ポケモンってすごい!」と飛び跳ねている。

 

 そんな様子を満足そうに見ているのは、ナギサとニットだ。

 小声でひそひそと話している。私はその会話をエスパー能力で読み取った。

「まさかたまたまダンデさんが来るなんてね、かなり良いタイミングだったね」

「もうこれでレオンも大丈夫かな」

「大丈夫だろ。俺にはよくわかんねえけど、何か吹っ切れたような顔してたぜ」

 そこにマッシュも会話に交じる。

「ところでニット。なんでイーブイの名前が“ハル”なんだ……?」

 ずっと聞きたかったのだろう。めちゃくちゃ不自然なタイミングでマッシュは切り出した。

「おしえなーい」

「は!? 教えろよ!!」

「こわーい!」

 マッシュが叫ぶと、わざとらしく悲鳴をあげてニットが逃げていく。

 それを追いかけるマッシュは、背負った罪から少し解放されたような、そんな雰囲気さえ感じる。

 

 ――ここのみんなの顔を見るとそこまで気にしてないように見えるぜ

 

 先程のダンデの言葉が脳裏に蘇る。なるほど、そのとおりだと感じた。

 はしゃぐ皆を置いて、私は、ダンデと孤児院(ホーム)の中へ入っていくマスターの背中を追った。

 

 ※

 

 孤児院(ホーム)の2階、ステーションの見えるカウンターに、ダンデとマスターは陣取っていた。

 ちょっと前にシャケも居たはずだが、シャケの姿は見当たらなかった。おそらくは、地下のカイトのところに面会に行ったのだろう。

「ヨロイ島にこうやって、空路ができるとはな。年を取るはずだ」

 ダンデは感慨深そうに窓の外を眺めていた。

 そこからはアーマーガアタクシーに乗り、まだ見ぬヨロイ島を目指すトレーナー達が行き交っていた。

「ねえダンデさん」

「なんだ、チャンプ」

「レオンに色々と言ってたけど、たぶん、あの子……ダンデさんより強いよ」

 マスターが指摘すると、ダンデは一瞬呆気に取られ、すぐに豪快に笑った。

「ハハハ! 人は見た目によらないもんだな! 確かに、ランクマッチバトルなんかは、化け物じみたトレーナーで溢れかえってる。君でも勝てるかどうか怪しいようなレベルの猛者がな」

 ランクマッチバトル――ガラルのポケモンバトルを管理する委員会により行われている、遠隔バトルシステムである。

 目が見えない場所にいる相手とも闘えるというから驚きだ。

 噂ではガラルだけではなく世界中、いや、別の世界とも繋がって、ポケモンバトルができると言われているくらいだ。

 

「今回はそのランクマッチバトルの仕様変更について伝えに来たんだ。前に、君たちがリボンをコンプリートしようとしているって、話してただろう? あのとき、ランクマッチバトルには他の地方からやって来たポケモンは参加できないって説明したが……委員会の決議を経て、参加可能となった。レギュレーションマークってのを付与するちょっとした手続きが必要だが、無料だし簡単だ!」

 つまり、ガラル地方の最後のリボンを取得できるということだ。

「やったね、サナたん!」

「おっと、当然だがリボンを得られるのはランクマッチバトルに参加して、マスターボール級に勝ってからだぜ!」

 喜ぶマスターに、ダンデは笑って釘を刺した。

「しかし、さっきのバトル……あれはちょっとな。今回の一件もだが、ランクマッチバトルも使用するポケモンが偏りすぎる。一部には“厨ポケ”と揶揄する連中もいる。特に今回のトゲキッスは酷かった。ランクマッチバトルで、何体か使用禁止にしなければならないな。トゲキッス、エースバーン、ドラパルト……」

 そして、ダンデは何体かポケモンの名をあげる。

「誰が見ても納得感のある、ランクマッチバトルの使用頻度の多い上位10位以内を禁止する議案を、オレは委員会に提出することに決めたぜ! まず過半数は得られるだろう。今あげたやつらをランクマッチバトルで使用できるのは、今のうちだぜ、チャンプ!」

 急げ、と豪快に笑うと、ダンデは走り去っていった。

 マスターと私はただただ呆然とお互いを見つめ合った。しかし、ひとまずは次の目的は決まったのだ。

 目指せ、リボンコンプ!

 

――――――――――

【補足】禁止ポケモンとは?

 ダンデは今回禁止ポケモンをその場で思いついたように述べているが、実は構想は少し前からあった。

 カントー地方で有名なデュエルモンスターズというカードゲームがあり、昔は猛威を奮っていたサンダーボルト、頻繁に使われ、誰もがデッキに入れていた強欲な壺などのカードが禁止カードとなったことを知り、ダンデはこれをランクマッチバトルに流用してはどうかと考えるようになった。

 今回のマルチバトルを見て、2体並ぶトゲキッスを見て、「だめだこれ早くなんとかしないと」と決意を固くした。結果、2020年9月・10月のランクマッチバトルのシーズン6では、7月のシーズンでシングルとダブル上位10位以内のポケモン、計16体が使用禁止になった。

 

 なお、今回のマルチバトルで使われたポケモンは次の通り。

 

○マスター

①【コラショ】エースバーン@いのちのたま 特性もうか

 AS252 ようき(元おとなしい)

 火炎ボール とびひざげり ふいうち とびはねる

②【カミーユ】トゲキッス@アッキの実 特性てんのめぐみ

 CS252 おくびょう

 エアスラッシュ マジカルフレイム わるだくみ あさのひざし

 

○ナギサ

①【ドラちゃん】ドラパルト@弱点保険 特性すりぬけ

 HA252 いじっぱり

 アクロバット だいもんじ ドラゴンアロー ゴーストダイブ

②【アムロ】トゲキッス@こだわりスカーフ 特性てんのめぐみ

 CS252 おくびょう

 エアスラッシュ 火炎放射 マジカルシャイン トリック

 

○ニット

①【ララァ・スン】ラランテス@突撃チョッキ 特性あまのじゃく

 HA252  ゆうかん

 ばかぢから、リーフストーム、きゅうけつ、どくづき

②【ハル】イーブイ@気合のたすき 特性てきおうりょく

 AS252 いじっぱり

 じたばた あくび でんこうせっか こらえる

 

○マッシュ

①【マシュマロ】トゲデマル@チイラの実 特性がんじょう 

 AS252 ようき

 アイアンヘッド ほっぺすりすり きしかいせい びりびりちくちく

②【レタスデス】レパルダス@ノーマルジュエル 特性かるわざ

 CS252 おくびょう

 あくのはどう ねこだまし くさむすび 嫉妬の炎

 

――――――――――

 

 ※

 

 楽しかったバトルも終わり、夜はあっという間にふけた。

 禁止ポケモンの件をダンデから聞き、マスターはランクマッチバトルに挑戦し、マスターランクリボンを取ることに決めた。すぐにでも旅立つつもりだ。

 マッシュは昨夜のうちにひっそり去っていた。アウトローな彼らしい去り方だが、多分その胸中は今までとは少し違うだろう。

 マルチバトルのときの彼の様子を見ているとそう思えたのだ。

 

 孤児院(ホーム)の玄関には、マスターを見送ろうと皆が集まってくれている。

 サオリ、ダイオーキド、マルチバトルをした、ニットやナギサ、そしてレオン。あと、他の子どもたち。

 ……私には気がかりがあった。

 メイちゃんだ。朝旅立つことを昨夜じっくりと説明したのだが、納得していない。

「おねぇちゃんのばかぁ!」

 今もそう言うと、レオンの後ろに隠れてしまったままである。

 私はそんなレオンと向き合う格好でしゃがみ、後ろのメイちゃんに声をかける。

『また必ず来るから。みんなと仲良くしてね』

 そう伝えると、顔を覗かせたメイちゃんは涙を浮かべ、勢いよく抱きついてきた。

「ぜったいだよ! メイ、待ってるね!」

 そう言うメイちゃんの横で、レオンは、だいじょうぶ、という感じに頷いてみせた。

 そこに、駅のホームの隅でふさぎ込んでいた様子は少しも残っていない。

 あのマルチバトルと、ダンデのお陰で吹っ切れたようだ。

「君たちを見送るのは二度目じゃな」

 ダイオーキドはそう言うと、悪趣味なサングラスを外し、ニカッと笑った。

 その顔は、あの時代のドクよりも老けていたが、目の輝きは若い頃そのままだった。

 ダイオーキドは、昨夜カイトは過去を振り切り、シャケと旅立っていったと教えてくれた。

 ただ、もしかしたら、また何かに少し影響されているのかもしれない、とも。

 私もマスターもそれを目撃したわけではないが、ダイオーキドによると、カイトは妙なマスクを被っており、「だいじょうぶだ……おれは しょうきにもどった!」と、やたらとジャンプしていたらしい。

 しかし、前ほどの錯乱した様子も無かったので、ダイオーキドの見守りのもと旅立ったとか。

「平行世界はあまりにもこの世界と似ておる。そのため、そこに行った者は、すぐにその世界の道理に馴染んでしまう。そして、それが“普通”になってしまう。またここに戻ってきたときに、わずかな差異は、大きなギャップとなって見える。そのときに、頭がついていかないんじゃよ。人間とは思いのほか繊細な生き物だからな……」

 私たちポケモンでさえ、“世界を超える”ときの影響は大きい。

 今まで使えていた技を思い出せなかったり、できていたこと――たとえば、メガシンカができなくなっていたりする。

「しかし、戻ったこの世界もやっぱり似ておる。じゃから、個人差こそあれ、やっぱりすぐ戻るんじゃよ。カイトのことも心配せんでいいわい」

 レオンもそうなのだろう。

 良かったと心から思う。子どものあんな顔は見たくはない。

「時間旅行、平行世界。それが容易に出来るようになっておる。本来ありえないことではあるが……もしかすれば、あのとき、私たちが隕石を回避したことが、すべての始まりだったやもしれんが……まあ確信はないよ」

 ダイオーキドはそう言ったが、彼の視点からみた物語は多分そうなのだろうが、私の見聞きしてきたものからすれば、それは違うと思う。

 私の記憶はまだまだぼやけている。

 けれど、今回また思い出したことがあった。

 きっかけは、駅のホームでサカキを見たことだ。

 私は、過去にアローラ地方に二度渡っている。一度目と二度目は限りなく似ていたが、今考えると平行世界だったように思う。

 一度目の冒険をなぞるように、二度目のアローラ地方を旅し、そして――サカキと再会した。 

 かつてカントーをその支配下にせんと暗躍していたロケット団の首領は、世界線を超え、様々な地方の悪の頂点であるトレーナーを集めた。

 彼らは、かつての悪の組織を冠して、こう称した。

 ――レインボーロケット団、と。

 

「難しいことはわかんないけど、とりあえず、頑張っておいでよ」

 腕を組んで黙り込んだダイオーキドを置いて、霊長類最強の女サオリは、エールを送る。

 そうだ。

 私たちはこれから、世界の垣根を超えたツワモノたちの集うランクマッチバトルに挑む。決して一筋縄ではいかないだろう。

 もしかしたら、そこにサカキもいるかもしれない。

 そう思うと、気を緩めてはいられなかった。

 

 マスターは強く頷き、華麗に一回転すると、その手を高く頭上に掲げた。ダンデから受け継いだチャンピオンタイムのポーズだ。

「行ってくるよ、みんな! またね!」

 そして、走り出す。

 私もメイちゃんに目をやり、そして、名残惜しさを振り切り、マスターの背中を追いかける。

 またね――やっぱり良い言葉だと思った。

 さよならでも、バイバイでもない。また出会うための約束の言葉。

“またね”

 マスターの背中を追いかけながら、そう私は心の中でつぶやいた。

 

――――――――――

【補足】「おれは しょうきにもどった!」とは?

 かつて、日出ずる国で流行した「最後の物語〜第4章〜」の登場人物の台詞である。

主人公の親友である彼は、主人公の恋人に密かに思いを寄せていたが、その嫉妬心につけこまれ、敵に操られてしまった。

 そして、このセリフが出るのだが、実は全然正気に戻っておらず、またも主人公を裏切るのであった。本当に正気に戻った後も、主人公たちのパーティの中では、初期から何の成長も見られず、できることはジャンプのみで、パーティでも浮いた存在であった。

 ある意味で信念を曲げないという見方もできるが、基本的には損な役回りしかない哀れなキャラでもある。

 なお、彼の名前は竜騎士カインと言い、オーレ地方(米国)での当該作品の名称は『ファイナルファンタジーⅣ』である。

――――――――――




【Season7】混沌の世界――完。
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