ポケどま!   作:よすぃ

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青眼の白龍

 かつての古城の宝物庫の一般公開エリアは、扉をくぐるとすぐ受付になっていた。私たちは外から中をそっと覗き込む。

 この城を預るジムリーダーのキバナの二つ名である『ドラゴンストーム』の由来である、ガラル王家の双龍の紋章のタペストリーが壁に雄々しく飾られていた。

 

「ニャーの話を聞くニャー! そのダンデは怪しいヤツなんだニャー!」

 

 受付前は何やら騒がしかった。シャケが何やら褐色の男ともめているのか、慌てふためいている。

 

「喋るニャースのほうがどう考えても怪しいだろ。とりあえずこのキバナ様のSNSにアップしとくか」

「話を聞いてくれニャー! そいつをプラントのメインフロアに連れて行っちゃダメなんだニャ!」

 

 シャケは必死の様相で、二人の前に立ちはだかっていた。プラントとは、エネルギープラントのことをいうが、何故そこまで必死になっているのだろうか。

 男たちは気に留めた様子もなく、会話を続けていた。

 

「ダンデはどう思う?」

「カントーニャースか。ワイルドエリアから迷い込んだわけではなさそうだな……めずらしい!」

「そもそもワイルドエリアに喋れるポケモンなんていないぜ、ダンデ」

 

 宝物庫の受付前にいるのは、カイトの相棒のシャケ猫だった。姿を見ないと思っていたら、ひと足早くここに駆けつけていたらしい。

 ニャースと話している肌の浅黒い、背の高い男性はナックルスタジアムのキバナだろう。直接面識はなかったが、雑誌などでよく見かけた。やたらとメディア露出の多い人である。

 そして――あとの一人はダンデだ。

 

「なぜオレがまたいるんだ? カイトの仲間か?」

 

 私たちと一緒にいるダンデは、屋内のダンデを見て疑問を口にした。

 カイトは首を横に振り、仲間ではない旨を示し、ニャーニャー騒いでいるシャケと、キバナたちの間に向かって走り出す。

 

「だれだ!?」

「カイト〜〜! 遅かったニャ〜〜!」

 

 涙を両目にためながら、シャケはカイトの足に抱きついた。

 そんなシャケの頭をそっと撫で、カイトはやたらと良い顔をしていた。ドヤ顔と言ってもよい。

 

「――俺が来るまでよく堪えた。後は任せろ」

 

 そして、カイトは静かにボールを構える。そんなカイトを見て、キバナは首を傾げる。

 

「この仮面男。知り合いか、ダンデ?」

「いや知らないな」

 

 そんな二人に急にカイトは怒った様子で、キバナに向かって、ツバを吐きちらしながら怒鳴りつける。

 

「善良な(ダンデ)と悪い(ダンデ)の区別もつかないなら(ジムリーダー)なんてやめてしまえ!!」

 

「何だよ、悪いダンデって……なんで俺が見も知らぬお前に怒鳴られなきゃなんねえんだ? 何者なんだよ、お前は」

 

 その言葉に、カイトは悲しげにうつむく。

 

「そう、だよな……この世界では初めて会う……しかたないことだ……ふん、何者かだって?」

 

 何者か――その問いが引き金だった。

 突如、シャケが額の小判を光らせ、カイトの横へと飛び入る。

 

「何者なんだと聞かれたら! 答えてあげるが世の情け! 世界の破壊を防ぐため、世界の平和を守るため! 愛と真実の悪を貫く、ラブリーチャーミーな二人組!」

 

 カイトはお決まりどおり、いつの間にか赤い薔薇をくわえている。

 

「怪盗カイト!」

「シャケ猫だニャ!」

「ガラルを駈ける我々ふたりには!」

「ウルトラホール! にゃん」

「未知なる明日が待ってるぜ!!」

「にゃーんてな!」

 

 決まった、というには、どこか憂いを残した表情でカイトはキバナに向き合う。

 

「そこのダンデは君の知る男ではない。君のよく知るダンデは、僕の後ろにいる」

 

 カイトがそう言って、入り口から様子を見ていた私たちを示す。当然、ダンデもこちらにいる。

 それを見て、キバナは「ダンデが二人……!? SNSにアップしないと……」などと呟いていた。

 

「カイト、あの“オレ”は一体だれだ……また変装なのか?」

 

「いいや、ちがうんだ。心構えをしてもらうつもりで僕は変装をして、ここへやってきた。ホントはキバナに僕の変装を見てもらい、後に来るであろうこの場面において、警戒してもらえるようにするつもりだったんだ……タイミングがずれてね。でも、シャケが一仕事してくれたから、間に合った。絶対に、この世界は“終わらせない”」

 

 カイトは、そう言うとボールを投げた。

 出て来たのはジュラルドンである。まるでナックル城の紋様の2対の竜のように、2体のジュラルドンは向かい合う。

 それを見て、キバナが目を見開く。

 

「な、バカな……!? 俺のジュラルドン!?」

 

 慌てて、キバナは自身のボールを投げ、ポケモンを呼び出す。そこにはよく似たポケモンがもう一体出現した。

 私は、マスターに返しそびれていたスカウターをつけ、2体並んだジュラルドンをスキャンした。

 そのステータス、性格、技構成に至るまでが完全に一致しており、その両方の親名はキバナと表記されている。

 

 カイトに繰り出されたジュラルドンは、キバナを見つけると嬉しそうに、しかし消え入りそうな声で吠えた。すぐに哀しそうに俯く。

 

「そうだよな、青眼の白龍(ジュラルドン)。このキバナは君のマスターではない……だけど、その気持ちは痛いほどわかる。さあ……はじめよう。“ 決闘(デュエル)”!!」

 

 そして、カイトはダンデに向き合うと、高らかに宣言した。

 

――――――――――

【補足】「善良な(ダンデ)と悪い(ダンデ)」とは?

 異世界はよく似て異なる世界である。ダンデに限った話ではなく、何かをきっかけに枝分かれしているため、一つのボタンの掛け違えのせいで、同じ人間であっても、その生きてきた道筋は大きく異なるため、まるで別人のようになっていることがある。

 カイトはかつて、別の世界に迷い込んだ際に、そこでシャケ共々、謎の集団に所属していた、よく知る警察官の親友に殺されかけた。

 命からがら逃げた先は行き止まりであった。背後からゆっくりと歩いてくる人物に向かい、傷だらけのシャケを庇おうとしたところ、何者かから、鋭く叱咤される。

 

「生殺与奪の権を 他人に握らせるな! 惨めったらしくうずくまるのはやめろ! そんなことが通用するなら(中略)奪うか奪われるかの時に主導権を握れない弱者が(中略)笑止千万!」

 

 声の主は敵ではなかった。珍しく長い文章を舌も噛まずに言ってのけたのは、サナのマスターによく似た人物“ 遊離(ユウリ)”だった。

 追手の連中をすべて叩きのめしてきた彼女は古代ガラルの王ファラオの魂をその身に宿しており、そして、その付き人として仕えていたのが、その世界のキバナである。

 

 以後、カイトはその異世界の独特の戦い方(ボールではなく、カードに閉じ込めた思念体(ポケモン)を呼び出し使役するカードバトル“ 決闘(デュエル)”)を身に着けながら、親友となったキバナと共に、遊離(ユウリ)を手伝うようになった。

 最終的に志は叶うことはなかった。その世界の破壊を見ながら、現在のこの世界へとカイトは帰還することになる。その世界のキバナのジュラルドンが一緒についてきてしまったため、こちらの世界に来てから、改めてボールでゲットし直し、カイトの手持ちポケモンとなった。亡き親友の形見である。

――――――――――

 

 

 ジュラルドンに対抗し、もう一人のダンデはリザードンを繰り出していた。ワイルドエリアでも見た、色違いのリザードンがその漆黒の鱗を見せつけるかのように対峙し、高く遠吠えをあげる。

 スカウターで確認してみたところ、このリザードンはカイトのジュラルドンより早く、また、炎技の“だいもんじ”を覚えているため、何も道具を持っていないカイトのジュラルドンは打つ手は無さそうだ。

 一旦引くしかないだろう。

 

「――ふはは、真紅眼の黒龍(色違いリザードン)とは笑わせてくれるわ!」

 しかし引かなかった。

「……強がるな。俺の真紅眼の黒龍(色違いリザードン)は性格一致臆病・Sぶっぱ……スピードでは、お前の青眼の白龍(ジュラルドン)を凌駕する。さあどうする?」

「ふっ……誇り高き決闘者として、俺は逃げも隠れもせん! 俺を倒すことができたならば、貴様を“負け犬”から“馬の骨”に昇格してやる!! さあ、見せてみろ! 貴様の真紅眼の黒龍(色違いリザードン)の底力を!!」

 

 不敵な笑みを浮かべたダンデの言葉を正面から受けてなお、カイトは挑発的な態度を崩さなかった。何やら人格が変わったかのような雰囲気すら感じられる。

 

「やばいニャやばいニャ〜〜、カイトの決闘者スイッチがまた入ったニャ〜〜」

 

 何故か絶対的な自信を崩さないカイトの横で、シャケが慌てふためくが、ダンデはそんなカイトに向かい、腕を組み、ニヒルな笑みを浮かべる。

 心なしか背景に、『ドン★』と効果音が表示されているような気がした。実際にはそんなことはないのだけど。

 

「……吠え面かくんじゃないぜ? いけ、真紅眼の黒龍(色違いリザードン)! だいもんじ!!」

 

 悪ダンデは、指先を鋭くジュラルドンに突出す。それが攻撃の狼煙だった。しかし、カイトはジュラルドンを引っ込めることなく、そのまま仁王立ちしている。

 リザードンより放たれた炎の熱線が空気中で形を変え、まるで、古のカントー文字の形を取り、ジュラルドンに襲いかかる。

 

 しかしカイトは動じず、ただ迫りくる炎を不敵に笑いながら、見つめている。

 そしてそれが身近に迫った瞬間、カイトは叫んだ。

 

「トラップ発動! 聖なるバリア――ミラーフォース!」

 ――ミラー何?

「なに!?」

 私の心の声とカイトの発した言葉は同じだが、ニュアンスは全く異なる。

「フフフ、油断したな、ダンデ。こんなこともあろうかと俺は最初のターンに罠トラップを仕掛けておいたのさ」

 

 ミラーフォース? トラップ?? 私も含め、周囲の目が点になっている中、シャケだけが叫ぶ。

 

「やめるニャ〜! ニャーの小判は相手の技をはね返す特性はないニャー!!」

 

 どうやら、ニャースの額の小判が、“聖なるバリアミラーフォース”のようである。完全な“俺ルール”であった。

 カイトは得意気にシャケの首根っこを掴むと、だいもんじの正面に放り投げる。

 どう見てもあの一撃を受けて、シャケが平気なまま済むとは思えなかった。

 

「毎回これだニャ〜〜! そんで、“やにゃかんじ〜〜!”って飛んでいくまでがお決まりなんだニャ〜〜!」

 

 わけのわからないことを叫びながらシャケは、生物の防衛反応で咄嗟に頭部を手で庇う。

 そんな情けないシャケの様子にも関わらず、怯んだ者がいた――悪ダンデである。

 

「くっ、やるな……聖なるバリアミラーフォースで跳ね返された攻撃は通常の2倍! ここで真紅眼の黒龍(色違いリザードン)を失うわけにはいかない……ここで効果発動! 真紅眼の黒龍(色違いリザードン)の性格“臆病”により、攻撃をやめる!」

 

 悪ダンデが叫ぶと、“だいもんじ”の炎は空中でかき消えた。

 私も含め一同は更に目が点になる。またもや“俺ルール”の襲来であった。

 

「ほう。ちょっとは腕のあるようだな……」

 

 カイトは少し見直したとばかりに言う。そして、カイトが攻撃を仕掛けようと技の指示を行うべく口を開こうとした瞬間――

 

「俺のターン!!」

 

 突然、悪ダンデが叫んだ。

 私の隣で、普通のダンデの「いやまだ攻撃してないだろ……」と呟く声が聞こえる。これまた、“俺ルール”であり、どうやら決闘者デュエリストとは人の話を聞かず、自分のルールだけで動いているようであった。

 

「俺はこのターン、真紅眼の黒龍(色違いリザードン)と融合することにするぜ。これにより、プレイヤーのライフポイントを半分削り! 真紅眼の黒龍(色違いリザードン)の攻撃力を2倍にする!!」

 

「なに!? 融合……竜騎士ダンデだと!!」

 

 そう言ってリザードンにまたがる悪ダンデ。

 私たちは一同顔を見合わせる。誰も展開についていけていなかった。もはや意味がわからない。

 

「カイトと言ったな……お前の負けだ! いくぞ、一撃必殺!!」

 

 しかし、カイトは動じなかった。おもむろに叫ぶ。

 

砦を守る龍(ジュラルドン)の特性ライトメタル!! 身を軽くし、敵の攻撃の回避確率35パーセント!!」

 

 その指示を受けたジュラルドンの顔が心なしか、「え? 俺そんな特技あんの?」みたいに驚いていたが、すぐに指示に従い、だいもんじを避ける。

 

「やるな……だいもんじの命中率の低さに加えて、回避率をあげてくるとは――」

 

「俺のターン!」

 カイトは何か言っている最中の悪ダンデを無視し、叫ぶ。

「このターン、俺は青眼の白龍(ジュラルドン)にマジックカードをいくつか使わせてもらおう……これにより、全ステータスが大幅にアップする――気がする」

 

 今たしかに、「気がする」と言っていたように思うが、悪ダンデはカイトの戦略に驚愕を隠しきれずにいた。そもそもマジックカードって何だろうか。

 

「全ステータスだと!?」

「いわば、青眼の白龍(ジュラルドン)の究極形……名付けるならば、青眼の究極龍(ブルーアイズアルティメットドラゴン)!!」

「ブ、ブルーアイズアルティメットドラゴンだと!?」

「このターンで貴様のライフはゼロになる。さあ、誇り高き決闘者(デュエリスト)として果てろ!! 滅びのバーストストリィィィィム!!」

 

 その一撃を受ける前にダンデは、叫んだ。

 

「トラップ発動!! ウルトラホール!! 相手はバトルフェイズに攻撃を行えない! また、これを使用したプレイヤーは、異次元の彼方へと離脱! これにより、この決闘は引き分けとなる!!」

 

 悪ダンデは何やら妙なステッキのようなものを取り出していた。それに見覚えのあったマスターは、私の隣で、「フェアリーステッキ!」と驚きの声をあげている。

 確かにそれは、平行世界の過去のガラルに迷い込んだ私たちをこの世界、この時代に戻してくれた装置によく似ていた。

 

「なん、だと……」

 カイトの攻撃はかき消えた。

「サカキ様に怒鳴られるから本当は使いたくなかったが、ここで俺が捕まるよりはまだマシだ」

「サカキさま!?」

 その名を聞いて驚いたのはシャケだった。

「ああ。レインボーロケット団を束ね、数多の世界を渡り歩く神のような方だ」

 

 神――そのワードで、私はあの列車強奪事件(トレインジャック)のことを思い出していた。あのとき、確かに口々に神というワードが飛び交っていなかっただろうか。

 

「ま、次の目的は神話に出てくる豊穣の王だけどよ。オレたちが神話みたいなもんだぜ? 仲間に入りたかったら、いつでも言いな! レインボーロケット団のしたっぱとして、こき使ってやってもいいぜ?」

 

 悪ダンデの目の前の空間に裂け目ができる。

 何もない空中にひび割れのようなものが入り、みるみる広がっていく。その中は真っ暗で、何も見えない。異様な光景だった。

 

 黒いリザードンを悪ダンデはボールへ戻し、カイトに捨て台詞を吐き捨てる。

 

「……深淵をのぞく時、深淵もまたこちらをのぞいているんだぜ」

 

 私の知識の中にもある、有名な格言のひとつだ。

 怪物と戦う者は、その過程で自分自身も怪物になることのないように気をつけなくてはならない――そういった意味の言葉であるが、それはカイトと闘うために俺ルールを用いたことを指していたのか、それとも別の意味だったのか。

 最後に、こちらの世界のダンデを見て鼻で笑ったことで、わからなくなった。

 

――――――――――

【補足】決闘者(デュエリスト)とは?

 サナたちの居るこの世界にはない、バトルスタイル“ 決闘(デュエル)”を行う者の名称。

 カイトが迷い込んでいた世界で、カードバトルとして、思念体となったモンスターを戦わせる戦士たちを、敬意を込めてそう呼ぶ。

 しかしその世界は、カイトの話では滅んでしまっており、その世界を離れたモンスターは通常のポケモンと同じ扱いになり、ボールに入るようになるという。

 そのため、カイトのような俺ルールは通常この世界では通用しない。悪ダンデがこのバトルスタイルに応じたのは、単なるノリではなく、彼が元いた世界のものだったからである。

 なお、サナたちのこの世界でも、デュエルモンスターズというアニメとカードゲームがカントー地方を中心に流行しており、一つのカード市場を形成しているという。これは、孤児院でマルチバトルをした際にもレオンがこのモノマネをするなどしていることからも理解いただけると思う。

 希少なカードは高額で売買されたり、それを巡って争いが起きる、闇市場に進出したりしていることから、悪ダンデのいる組織と何らかの繋がりがあると思われるが定かではない。

――――――――――

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