冠の雪原のステーションから出てそのまま直進すると、その洞穴はある。研究者により、マックスダイ巣穴と名付けられたそれは、外の入口からは想像がつかないほど奥深い。
雪の降る雪原から洞穴に入った私は、マスターから預けられた帽子を被り直した。洞穴内に居た何人かのトレーナーから好奇の視線を感じる。
恐らくすべからく猛者だろうと思う。巣穴に名付けられた安直なネーミングは、私たちポケモンがワイルドエリアなどで体現できるダイマックスから取られている。
この洞穴の奥は、酸素にガラル粒子が多く含まれており、そのため、入ったポケモンはことごとくダイマックスしてしまう。腕に自信のあるトレーナーたちは、この洞穴の入口で、特別な調整を加えられたポケモンをレンタルし、洞穴の最奥部に潜むヌシを目指すのだ。
それを『ダイマックスアドベンチャー』と名付けたのは、あのネーミングセンスのないマッシュであるらしい。ここを仕切るエーテル財団との共同事業を立ち上げたマッシュは直感でそう名付けた。ちなみに、私のマスターは更にネーミングセンスがなく、それを略して『ダイベン』と言っていた。情けなくて涙が出そうである。
「ポケモンだけでこんな所に来たら危ないわ」
トレーナーではない、白衣を着た研究員らしい女性が声を掛けてきた。初めてここに来た時、マスターにダイマックスアドベンチャーの説明をしてくれた女性だ。
「でも、ボールの外に居て今何もないなら、平気かもしれないね。一応、数値の計測しとくね」
研究員の女性は何やら私の指先をクリップのようなもので挟んだ。クリップからはコードが伸びており、その先は大きな機器に繋がっている。
彼女が言うには、普通のポケモンが奥に入るとガラル粒子の影響を受け、自我を失って暴れ出してしまうらしい。
一部のポケモンは体内のガラル粒子の量が少なく、ダイマックスするだけで済むらしく、その確認を済ませたポケモンだけをレンタルでここでは貸し出しているのだという。
「あなたは、サナさん?」
『そういうあなたは、フジ・コサリ?』
研究員の影に隠れて見えなかったが、そこに居たのはダンデの秘書を務めるコサリだ。
ガラル粒子を計測されている私に彼女は近寄ってきた。
『何故ここに?』
「ここはエーテル財団の管轄なの。私はリーグ委員会に身を置いているけど、本職はエーテル財団の一員よ」
アローラというワードを耳にした瞬間、かつて、前のマスターとアローラを旅した記憶がよみがえる。
アローラ地方にエーテルパラダイスという基地を構え、傷ついたポケモンの保護を目的として財団は活動していた。また、ポケモンの保護を行うだけではなく、ポケモンの治療や生態調査、保護施設の運営なども行っており、ウルトラビーストについて研究、調査していた――しかし、一方でその暗部もあり、一部の幹部や職員は私利私欲のため、悪事に手を染めていたことを覚えている。
ただ、アローラのマスターの名を思い出すことはどうしても出来なかった。
『目的はレインボーロケット団のサカキですね』
「何でもお見通しなのね。そのとおりよ。実はバトルタワーで盗みが起きてね……貴重なポケモンが被害にあったのよ」
コサリは今日はいつもの制服ではなく、身体にフィットしたラバースーツを着ていた。まるで何かのスパイのような、闇に溶け込める格好をした彼女は艶かしい美しさがあった。
背にはショルダーバッグを背負っており、中にはボールなどが入っているらしく、それなりの容量があった。
「犯人の目撃情報を追うと、ここにたどり着いたの。どうやら、普通は入ってはいけないこの洞穴の奥に進んでいったようね……」
『この奥は何なのですか? 何故エーテル財団が?』
「元々、ここのムゲンダイエナジー……ああ、ここではガラル粒子と言われていたわね。その数値が閾値を超えてるということが判明して、我々エーテル財団が来たの。アローラに出来たのと同じ、異世界への入口……ウルトラホールの可能性も視野に入れて、調査を進めていたのだけど、洞穴が入り組んでいて、思うように進んでいなかったわ」
そこでマッシュと出会い、彼の案が「トレーナーを調査に使ってはどうか」という内容だった。当初は所有ポケモンがガラル粒子の影響を受けて、ダイマックスした挙句暴れ狂うという事故もあったが、一定の条件下でダイマックスしたも自我を保つことが出来る事例も観測されており、結果、どのポケモンもガラル粒子を体内に含んではいるが、その量には個体差があることが判明した。
元から少数、あるいはガラル粒子を分解、中和する措置を講じたポケモンのみ、洞穴の奥に入っていくことができるようになって、今の形に至る。
『それで、ウルトラホールは発見したのですか?』
「まだなのよ。調査は結局なかなか思うように進まなくてね。単なる娯楽施設になってるわ。名前も原因かしら。著作権も心配だし……」
そう言ってコサリはチラシを見せた。
そこにはキャッチコピーが描かれている。
――つかもうぜ! MONSTERBALL!
――世界でいっとースリルな秘密!
――さがそうぜ! MONSTERBALL!
――世界でいっとーユカイな奇跡!
――この世はでっかい宝島!
――そうさ今こそダイマックスアドベンチャー!
なんだか摩訶不思議な、七つの龍の玉を探しに行きそうな、そんな文面だった。
『ダイマックスアドベンチャーについては何となく察しました。肝心のサカキは本当にこの奥に居るのですか?』
「研究員が止めても無視して中に入った男が居たそうだわ。サカキで間違いないでしょう。止めた研究員は、ミュウツーの念力で壁に叩きつけられ重傷。かろうじて聞き出せた情報は、黒のスーツに、胸にはカラフルなRの文字があって、顔はニュースに出ていたカントーの暴力団の首領だった――バトルタワーの窃盗犯の特徴とピッタリ合う。こんなところね」
コサリは会っていないとのことだが、間違いは無さそうだ。その暴力性に外見。手持ちポケモンのミュウツー。これらをサカキ以外と結びつけることの方が難しい。
「フジさん。このサーナイトのガラル粒子の数値は、ゼロに限りなく近いです!」
会話に割って入ったのは先程から私のデータを取っていた女性研究員である。
『そう。エラーじゃないのね?』
「その可能性も踏まえて何度か計測し直したのですが、何度やってもゼロです」
『予想したとおりね』
フジ・コサリには遠縁に同姓の著名な博士がいると聞いたことがある。彼女もまた何らかの知識を身につけていたのだろうが――
「サナさんも、私と同じ。別の世界から来たのだから、そうなるわね。あなたも私も、ガラル粒子の存在しない世界の出身よ」
以前、バトルタワーでコサリは自らの出自を教えてくれた。彼女もまた私と同じく、別の世界からの来訪者なのである。この世界とは異なる、平行世界の。
しかし私はダイマックスをしたことがある。そうなると、ガラル粒子の影響を受けていないというのは妙だが、そこまで考えて思い当たった。
『なるほど……大気中のガラル粒子は体内に一時的にたまるから、ダイマックスは出来るというわけですね』
「ご明察ね。だとすれば、私とあなたなら、この奥に進んでいける。最深部に向かったであろうサカキの元へ」
コサリは、洞穴の深奥を睨みつけた。
この深奥の先に何があるというのだろうか。サカキは何故そこに向かったのか。ウルトラホールの先にある、ウルトラビーストの類が目的だろうか。
また、視野に入れておかないといけないことはもう一つある。この奥に入っていたということはサカキもまた私やコサリと同じ条件であるということ。
『この世界の出身のペルは待っていて欲しい。ガラル粒子の影響を受けると思うから』
私はハイパーボールを投げ、ペルを呼び出した。久々のシャバの空気にペルは深呼吸してみせる。
「御意。我が主には、貴様がこの奥に向かったことを伝えにいこう。そして褒美をもらうつもりだ」
ペルは褒美のポフィンの味を想像したのか、舌なめずりをする。完全に飼い慣らされている。
「私の手持ちポケモンは一体だけなのだけど、基本的にはいざというときには役に立たないと思っていて欲しいわ。使いどころの難しい、変わりものなの。だからサナさん。あなただけが頼りよ。よろしくね、相棒」
コサリと私はマックスダイ巣穴という洞穴に、向かい歩く。暗くてよく見えないのは一瞬ですぐに、薄らと明るんできた。空気中のガラル粒子が光っているのだ。
「不思議な光だわ。原理がまだまだ解明されていない」
コサリが歩きながら言う。その後しばらくの無言。思い切って聞いてみることにした。
『あの』
「何かしら」
『コサリさんはこの世界に来る前のこと覚えているようなこと言ってましたよね』
「貴方は忘れてしまっているのよね」
コサリは何とも言えない、哀しそうな顔をしてみせた。
「不安でしょ。私もそうだったからわかる。最初の頃はね、何も覚えてなかったの。だけど、あるとき、思い出したのよ」
『きっかけはあったのですか?』
「私の場合はこの世界で、祖父と会ったことがきっかけよ。以前の世界の祖父と全く変わらない祖父が居たの。フジっていうちょっと有名な人よ」
話を聞くに、この世界においては、コサリに該当する人物は居ないのだという。
しかし、この世界で初対面であったはずのフジ博士は、コサリという存在に血縁に近い何かを感じたのだという。コサリの話を聞いた瞬間、頭では理解できないが、感情の部分を揺さぶられる何かがフジ博士の中にはあったのだという。
そして、孫の居ないはずのフジ博士は、コサリを孫として受け入れた。それは、世界線を超えた絆なのかもしれない。
「あれは……」
話しながらコサリの目が一点を捉える。洞穴内の壁が損傷している。何か大きな力で抉られたように、綺麗に土壁部分が削ぎ落とされていた。
『エスパータイプの技のようですね』
恐らくはサイコキネシスの類か。同じエスパータイプを有する私には理解できた。
「もう少し進んでみましょう」
何度となく道を進み、曲がり、ガラル粒子が薄暗く照らす洞穴を私とコサリは歩き続けた。
要所に戦闘の後と見られる損壊が見られたが、ポケモンの姿は見当たらなかった。ゲットされたか、逃げ出したのだろう。
『分かれ道がたくさんありますが、どの道を通ったか覚えているのですか?』
「とりあえず右手の法則よ。ずっと右手を壁につけて歩き続けるの。そうしたら、行き止まりに着いたら自然と元の道に戻り、次の分かれ道にいくでしょ。長い長い時間はかかるけど、暗闇でも絶対に出口にたどり着ける秘訣よ」
コサリは博識だった。その法則に従い歩き続けること小一時間――私たちは広場に抜けた。
そこには、地に伏した大型のポケモンと、それを見下ろすように立っている男とミュウツーがいる。
ポケモンはアローラ地方でも見た覚えがある。ジガルデだ。カロスでは伝説にカテゴライズされる。この洞穴でも最強に分類されるほどの強ポケモンだろう。
ただ、私の知るジガルデとは色が異なっており、私と同じ色違いポケモンであるだろうと推測した。
「おやおや、お客人か。だが一足遅かったようだ。私がこの巣穴のヌシを倒してしまったからな」
広場に佇む黒スーツの男。
今まで戦闘の後のあった場所のいずれもやや広い空間であったが、ここはそれよりも更に大きい。
冠の雪原に来てすぐ、ピオニーを追って、ここに来た時、マスターは一番奥の一際ひらけた広場で色違いスイクンをゲットしたと言っていた。この場所こそが、マックスダイ巣穴の最深部で間違いない。
「ここで何を?」
「色違いポケモンをオシャボでゲットをすれば高く売れる……特にマックスダイ巣穴産は高値で取引される。それをただ捕まえていただけだ」
そう言って、男――サカキは、サファリボールを投げる。
瞬間、世界が揺らめくような感覚に襲われる。私は軽いめまいを覚え、目を閉じる。次に目を開けた瞬間、ジガルデの姿はなく、代わりにサファリボールだけが転がっていた。
不自然なまでの一発ゲット。
「中でもジガルデの色違いは特に高い」
サファリボールを拾うと、それをスーツのポケットに放り込む。ポケットにおさまったはずのボールだが、ポケットにその球体の膨らみはない。それもまた不思議だった。
「君はサナだな。少し様子が違うようだが、その気配、間違いない。この世界のガラルチャンプのポケモンにして、あの世界のアローラチャンプのポケモン。久しぶりだな」
サカキは饒舌だった。しかし、悪ダンデのような小物感は無く、巨悪の頂点の、圧倒的強者の余裕がそうさせるのだろう。
『貴方はあの時、私と会ったレインボーロケット団のサカキなんですね』
以前、夢として、失われた記憶の底から引き出された、アローラでのワンシーン。
アローラのエーテルパラダイスを占拠したレインボーロケット団を率いた悪の首領との会話が思い出される。
あのとき、サカキは言った。
「またな」
確かにそう言った。だからこそ、これは、この再会は仕組まれたものだ。
『サカキ。貴方の目的は何ですか』
単なるポケモン売買というわけでは無いだろうという予感があった。
「世界征服とでも言っておいたほうが良いか?」
しかしサカキは口角を上げ、ニヒルに笑ってみせ、何やらスーツの背広のポケットの中から手品のように棒を取り出す。マスターが「フェアリーステッキ」と呼んでいたものと同じ形状をしている。
それを手にすると、サカキは私たちを睨みつけた。
「世界は幾つもある。そんなものの一つや二つ征服したからといってどうだと言うのだ。もっと単純明快だ。私はただ強くなりたいのだ。そのために、君には土台になってもらおう」
厳つい男には不似合いな、魔法少女の使いそうなデザインのフェアリーステッキをサカキは振るう。
瞬間、何も無い空間に丸い穴が開く。
「時間と空間の無い世界に送り込んでやろう」
サカキはステッキを片手に、空いた左手で色違いの神々――ディアルガ、パルキア、ギラティナを次々と繰り出す。
「特別だ。さらに上位の神の姿を見せてやろう。アルセウス!」
真紅のボールから金色のアルセウスが呼び出される。
「これは神の真似事をしていた、ある素体を元に作り出したものでな……異なる世界線では“えいがかんアルセウス”と呼ばれる存在だ。時の咆哮、亜空切断、シャドーダイブを扱える」
それを見たコサリのいつも動じない、整った顔が歪む。
「バトルタワーのタイプヌルはどこにやったの」
眉間に皺を寄せ、問い詰めるコサリに、サカキは冷たく言い放った。
「君のような勘のいいガキは嫌いだよ――なんてな。察しの通り、バトルタワーに居たタイプヌルをシルヴァディに進化させ、それをベースとして生み出した創造神だ。あのまま放置されるより良いだろう?」
マスターが「S0がほしいがリセマラが面倒」という理由で放置していたタイプヌルだと、私は瞬時に察する。初めてコサリに会った時に、風景の一部として見かけたことを思い出した。それが、目の前に金色の神として立ちはだかっている。
「あれはエーテル財団が保有していたタイプヌルの最後の一体……身勝手に生み出された哀れなポケモンよ。せめて、正しい心を持った、強く優しい人の元に引き取ってほしかった」
コサリの目には涙が滲んでいる。
「元は創造神を真似て作ったのだろう? 丁度良かったじゃないか。こうして、神になれたのだ。私に感謝してほしいものだ……さて、お喋りはこの程度にしておこう。ディアルガ、パルキア、ギラティナ!!」
呼応するようにディアルガが時の彷徨をあげ、時を狂わせる。パルキアは亜空切断で空間を切りさく。ギラティナは、私をシャドーダイブで共切り裂かれた時空の裂け目へ引き込もうとする。
何とか踏ん張る。
「――サカきききききききききききききき――」
コサリが叫んでいるようだが何を口にしているか理解ができない。宇宙の法則が乱れる。
「ふはははは! アルセウス、時の咆哮をあげろ! 亜空を切断せよ! 破れた世界に飛び込むがいい!! ふははははは!」
サカキは狂ったように笑う。世界が破れていく。空間の裂け目が辺りのものを吸い込み始める。近くに居た私はそれでもその場に留まるべく、頭の中にある技を発動させようとするが、時間と空間の概念が狂っているせいか、上手く形にならない。
瞬間、目の前のアルセウスが動きを止めた。そして、徐々にその体躯を大きくしていく――ダイマックスだ。
かつてシルヴァディだったそれは巨大化した身で、技を放った。三体の神々へと。
『ビシャーン!!』
『グギュグバァッ!!』
『ぱるぱるぅ!!』
神々の悲鳴が聞こえた。
ギラティナは時の咆哮、ディアルガは亜空切断を受け、パルキアはシャドーダイブのダメージを受けていた。
ダメージ計算すら意味が無い、世界の理を外れた一方的な蹂躙が続く。ダイマックスした色違いアルセウスは、三体の神を完膚なきまでに叩きのめすと、その顎をサカキと私の居る方へ向けた。
瞬間。どろり、とアルセウスの身体が溶け始める。
「ふっ、所詮は出来損ないか。ミュウツー!」
だが遅い。
溶けつつあるも仮にも神である。アルセウスの方が早く、さばきのつぶてでミュウツーを打ち倒し、その攻撃はそのままサカキに向かう。
サカキはひらりと身をかわし、かろうじてスーツの端を焦がすに至っただけで済むが、風圧を受け、サカキは私の隣に無様に転がった。そのポケットが破損し、その中身が散らばる。
ガラクタのようなもの、何かの木の実のようなもの。様々なものが、良くもこれだけ入っていたものだ。
「くっ」
サカキは地面に転がり、苦悶の表情を浮かべる。なすすべも無く、空間にあいた穴に引き摺りこまれていく。
それでもサカキは悪あがきだろう、地に伏した衝撃で手から離れたフェアリーステッキを取ろうと手指を伸ばすが届かない。
「しまった――」
サカキはそのまま、空間の裂け目に飲み込まれていった。私ももう限界である。足の力を失い、そのまま空間に引き込まれていく。
『ドドギュウウーン!!』
何かの効果音かと思ったが、アルセウスの咆哮であった。どろどろと溶けて、もはや原型を留めていない。もはや自我を失い、目的すら無くなっているそれは、ただ闘争本能のままに私にその攻撃の意思を向ける。
「させない!」
コサリが叫び、ボールからメタモンを繰り出した。何の変哲もないモンスターボールに入った色違いでも無いそれは、しかし普通ではなく、“かわりもの”だった。
メタモンはすぐにその特性の能力によって変化し、溶ける前のアルセウスに化ける。
「さばきのつぶて!」
メタモンのさばきのつぶては、アルセウスだったそれを霧散させる。神の模倣品は散り、マックスダイ巣穴のガラル粒子の中に溶けていく。それを見て私は、きっと星に還ることができたのだろうと、そんな風なことを思った。この身を襲う危機の中、私はそこに救いのようなものを確かに感じられたのだ。
しかし、今度は起き上がったディアルガ、パルキア、ギラティナが私を取り囲む。三体がそれぞれ雄叫びをあげると、空間の裂け目に吸い込む力が増した。
そして転がっていたミュウツーまでが起き上がろうとする。
「サナさん!」
コサリはどこからとも無くボールを投げる。紫にMの文字がやけに似合わないダサいデザインのボールを。
次々にマスターボールを投げ、その度にミュウツー、ディアルガ、パルキア、ギラティナは光の筋と共に吸い込まれていく。何度か申し訳なさそうに揺れて、カチッと音が鳴る。交換などでは忌避される紫にMのデザインが今はやけに輝いて見えた。
サカキが次元の狭間に消えた今、彼らは野生のポケモンとして認識されていた。だからこそ、それをコサリが瞬時に捕らえて見せることができた。見事な勝利である。
しかし、限界だった。
地に力を込めて立っていた私の足はずるりと滑りバランスを崩す。反動で、私の頭の帽子が、マスターからもらった緑のベレー帽が空間の裂け目に吸い込まれる。
帽子に気を取られた瞬間、地面に倒れ、私はそのまま空間の裂け目に向けて引きずられてしまう。抗う力もなかった。
「サナさん!!」
コサリが手を伸ばしたが、届かない。私も手を伸ばす――が、サカキのポケットからこぼれ落ちた妙な木の実を掴んだだけだった。
そのまま私は空間の裂け目に吸い込まれていく。これがウルトラホールなのだろう。天も地もない、東も西も、過去も未来もない、この世の道理から外れたそこへ落ちてゆく。
世界が暗転し、私の意識は白く。時に黒く。混濁する。困惑する。
やがてブラックアウト。意識を完全に手放し、やがて私は考えるのをやめた。
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【補足】摩訶不思議なアドベンチャーとは?
――つかもうぜ! MONSTERBALL!
――世界でいっとースリルな秘密!
――さがそうぜ! MONSTERBALL!
――世界でいっとーユカイな奇跡!
――この世はでっかい宝島!
――そうさ今こそダイマックスアドベンチャー!
このやたらテンションの高いフレーズは、大人気アニメ『モンスターボール』の主題歌である。幼少期の悟空が、願いを叶えてくれるという神龍(レックウザ)を呼び出すために必要なドラゴンボールを捜し求め、世界を旅する冒険活劇である
その続編『モンスターボールZ』では、悟空がマサヤ人だったことが判明し、物語はより広い世界へ広がっていく。なお、スーパーマサヤ人が出て来たあたりから、登場人物の強さがインフレし始め、最後は収拾つかなくなるほど皆強くなり、序盤では強かったはずのキャラが「アイツは置いてきた。修行はしたがハッキリ言ってこの戦いにはついてこれそうもない」と切り捨てられるなど、容赦の無さが目立つシーンもあった。世代が変わっても語り継がれる漢たちのバイブルである。
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