ポケどま!   作:よすぃ

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絆の深めかた

 キリンという生物のメロンパンと戯れていると、足元に子どもたちが群がっていた。

「お姉ちゃん、メロンパンとばかり遊ばないで、チルマーしようよー!」

 先ほどのチルマー族(と勝手に呼ぶことにする)のレオンという男の子だった。

「チルマしよ。いっぱいしよ」

 ナギサという女の子が混ざっている。その横にはニットという子も居る。ちょうど三人、少女を入れると四人になりマルチバトルの要件が成立する。

「足元は踏まれるから危ないよ?」

 少女は子どもたちにそう言うと、器用にメロンパンの足を支柱に滑り降りた。私も真似をして滑り降りる。キリンという生物はよく知らないが、大人しく賢い雰囲気が漂っていた。

 何をされても怒らず、足元に子どもたちがいることも理解し、踏みつけないようその場に留まってくれている。

 私はその思念を読み取ろうとメロンパンへとテレパシーを送るが、反応はない。動物に対しては意思疎通を図れない。魚や昆虫とは会話できないのと同じか、と納得した。

 この世界には、たとえば、ピカチュウというポケモンがいるが、同時に、似たような生き物でネズミというものが昔は存在していたという。ネズミはポケモンではなく、ボールでは捕らえられないし、ポケモンのようにトレーナーと容易に意思疎通を行えない。根本的に異なる存在なのだ。私たちと彼ら動物は。

 ポケモン研究が進んでもいつどの時点でポケモンが表れたのかは定かではないとされてる。また、ある種が突然表れることもあると。昔、どのポケモン博士だったのかは忘れたが、『ある日突然あらわれる不思議な生き物』だと論文で発表したが、それを示す根拠も乏しく、解明には至っていない。

 しかし正しく、私も最初に居たのは動物だろうと私は考えている。だからこそ、ピカチュウはネズミポケモンなのだ。

 

「ね、チルマーしてあげようか」

『マルチバトル……やったことないけど』

 私の手を少女が引っ張る。その慕われ方から、私はなぜこの年端もいかぬ少女が“聖母”と言われているのかがわかったような気がした。年齢ではなく、その内面なのだ。その優しさ、包容力、すべてがその二つ名に集約されている。

「大丈夫、サナたん。あたしがいっしょだから」

 少女はそう言って、私の持っているリボンを見て『かわいさマスターリボン』を選んでつけてくれた。私のオシャレを覚えていてくれたのだ。

 HOMEの外れに移動すると、開けた原っぱがあった。4人のトレーナーがそこへ並び、くじ引きでペアを決める。様式としてはダブルバトルに似ているが、異なる点は、二人のトレーナーがそれぞれ一体ずつの手持ちを繰り出す点だ。自分のペアのトレーナーがどういう指示をするか分からないし、そのポケモンがどんな技を覚えていてどのような役割を持って育てられているのかもわからない。

 自身の経験と知識、ペアとなるものの思考を読む力が求められる、高度なバトルだ。

「よし……チルマーやろう!」

 少女が元気に声をあげる。改めて、私はバトルフィールドへ立ち、こだわりメガネを掛け直す。

 チルマー族の子どもたちが歓声をあげ、次々、自分のパートナーを繰り出そうとボールを構えた。様々なボールに、それぞれの想いがこもっている。

 そうだ、バトルだ。目が合えばバトル、すきあらばバトル。この世界の挨拶、互いの自己紹介。少女が後で私のことを紹介すると言ったのはこのことだったのだろう。

 私たちポケモンと動物の違い。それは、この独特のコミュニケーションにあるのかもしれなかった。

 

「いけ! かつてアイドルのサナ!」

 リボンをつけると二つ名を名乗ることが許される。気分の問題であるが、少女は嬉しそうだった。ホウエン地方のかわいさコンテストに出たこともあったなあと思い出す。当時の厳しかった訓練を思い出すと同時に、そんなことも忘れてしまっていたことに驚く。

 しかし今は目の前のバトルだ。感傷に浸っている暇はない。

 相手は、ナギサとニットの女の子二人組、こちらの相方はレオン、闘いの火蓋は切って落とされた。

 ナギサはサワムラーを繰り出し、ニットはドヒドイデを繰り出していた。そして、私と……相方は、レオンのセキタンザン。セキタンザンの名前はなぜか『きしゃぽっぽ』だった。子どもらしくて思わず微笑ましい反面、これほどまでの強面にも関わらずそのように名付けられたセキタンザンはどこか切なそうだ。しかし、きしゃぽっぽと名付けられたセキタンザンは、それでも忠実に役目を果たそうと武者震いと共に遠吠えをあげた。

 私は私の務めを果たすのみ――少女の思考が脳裏に伝わってくる。私の培ったポケモンバトルの経験から最適と思われる初手とそれは一致していた。大丈夫、任せて。

「やっちゃって、サワムラー! ねこだまし!」

 最初に動いたのはナギサのサワムラーだった。素早さの高い格闘ポケモンである。サワムラーはそのバネのような足で地を蹴ると、瞬時にしてセキタンザン――暴走機関車に肉薄し、その顔面の前で両手を叩く。ただ叩いたのではなく、そこには“氣”というオーラがこもっており、達人の域まで高めたその“氣”により、暴走機関車(きしゃぽっぽ)は怯んでしまう。

「サオリさんに教えてもらったの。戦場では怯んだ方の負けよ」

 得意気にナギサは微笑む。あのメイドの仕込みであったらしい。悠長に話している間に、私は脳裏に描いていたイメージを具現化する――

「サナたん、トリック!!」

「ドヒドイデ、どくどく!」

 少女の声と同時に、私は掛けていたメガネをニットのドヒドイデに押し付け、代わりにドヒドイデが持っていたアイテムを引き受ける。超能力の一種である。

 私のトリックの直後、ドヒドイデの名前の由縁でもある禍々しい毒液が、暴走機関車(きしゃぽっぽ)に降り掛かった。全身に猛毒を浴びた暴走機関車(きしゃぽっぽ)が苦しげに悲鳴を上げる。

 同時に悲鳴をあげたのはニットだった。その表情は驚きに満ちており、焦った様子で叫ぶ。

「あ……ありのまま今起こった事を話すわ! “ドヒドイデが食べ残しを持っていたと思ったらいつのまにか、こだわりメガネに変わっていた”……な、何を言っているのかわからないと思うけど、私も何をされたのかわからなかった……(略)……もっと恐ろしいものの片鱗を味わったわ……」

「単なるトリックだろ……いくぜ、暴走機関車きしゃぽっぽ、キョダイマックスだ!」

 ツッコミと同時にレオンが叫ぶ。ガラルに来た初見の頃なら動揺したかもしれないが、既にダイマックスを見たことのある私は焦ることはない。

 

――――――――――

【補足】リボンについて

 サナたんがガラル地方にやってきた時点で所有していたリボン数は、36個である。(うちコンテスト関連は内訳40と8、実質82個のリボン所持)その後、ガラルチャンプのリボンは入手したので37個となった。

 コンテストマスターのリボンは下記のとおり。マスターにも関わらず、うつくしさに関しては「当時きれいだった」など、あまり響きがよろしくない。

 ○かっこよさマスターリボン →かつてスターのサナ

 ○うつくしさマスターリボン →とうじきれいだったサナ

 ○かわいさマスターリボン →かつてアイドルのサナ

 ○かしこさマスターリボン →てんさいとよばれたサナ

 ○たくましさマスターリボン →むかしはムキムキのサナ

 ○コンテストスターリボン →でんせつてきスターのサナ

――――――――――

 

「……むっ! ドヒドイデもダイマックスするもん!!」

 ニットの指示で、みるみるうちに巨大化するヒトデ……2体の巨大ポケモンが並んだが、ドヒドイデがそのまま大きくなったのに対し、セキタンザンはその姿に変化がみられた。

 どうやら、ダイマックスとキョダイマックスは原理は同じであるが、特定のポケモンは巨大化した際に少し姿が異なるらしい。

「そのスキに……守って! サワムラー!」

 ナギサのサワムラーが両腕を身体の前に構え、守りの体制に入った。しかし、私は元よりそちらを狙っていない。経験上、放っておきたくないドヒドイデに意識を集中し、主の指示を待つ。

「サナたん、サイコキネシス!! あのでっかいのをやっつけて!」

 一寸たりともずれない阿吽の呼吸で私は動く。トレーナーの意思を知能のあるポケモンは先読みすることができる。従って、本来は技名を聞かずとも、私のようなポケモンは動くことができるのだが、その場合、試合においては有効打とされず、ノーカンとされるため、トレーナーたちは技名を叫ぶ決まりになっている。悲しいかな、この習性が身についたトレーナーは試合ではない野生ポケモンとのバトルでもついつい技名を叫んでしまうのである。

 私のサイコキネシスは巨大化したドヒドイデに向かって放たれ、その巨体にぶつかる。僅かしかダメージを与えないがこれで良い。これは布石なのだ。

 ドヒドイデがセキタンザンに向き直る。

「いけー! 滅びのダイストリーム!! 粉砕ッ、玉砕ッ! 大喝采ッ!!」

 ドヒドイデの巨大な口腔にエネルギーが集まり、周囲の酸素を分解し、水のみを集約させ――セキタンザン(きしゃぽっぽ)に一直線に放たれる。

 相当なダメージに倒れそうになりながらも、きしゃぽっぽは何とか一撃を耐え、その場に踏ん張った。同時に道具の効果だろう、何かが発動し暴走機関車(きしゃぽっぽ)の特攻、素早さ……能力が飛躍的に上がる。

「弱点に保険はかけとかないとね? そしてオマケに、特性の蒸気機関だぜ! もう、暴走は止まらないッ。いけ、キョダイフンセキ!!」

 レオンの掛け声と共に暴走機関車(きしゃぽっぽ)、地面を隆起させる。以前のバトルで巨大化したバンギラスが使っていたダイロックだと思ったが――違う。盛り上がった土壁が倒れるところまでは同じだが、そこからが異なり、倒れた衝撃で土壁が四散し、砕けた岩石が炎を纒った隕石のように一面に散らばった。

 その岩の破片が、ドヒドイデ、サワムラーにそれぞれ弾け飛び、その身体に傷をつける。初めて見る技であったが、周囲に岩が漂ったままであるあたり、ステルスロックのように毎ターン続くのかもしれない。

 しかし、セキタンザン(きしゃぽっぽ)もその横でドヒドイデの猛毒に苦しんでおり、その点ではイーブンである。何も被害を受けていないのは私だけである。その上、今の私は体力を一定数回復させてくれるアイテム“食べ残し”を所有しており、アドバンテージがあった。可能であれば、セキタンザン(きしゃぽっぽ)に渡してあげたいくらいだった。

「あーあ。サワムラーの守る、意味なかったな……」

 守りを解いたサワムラーを見てナギサはため息をつく。読みの一つ一つがポケモンバトルの醍醐味なのだ。無駄に終わる一手もある。

「残念だったなー、ナギサ! 可哀相だからサワムラーは見逃してやる! 続けて、俺のターン! キョダイフンセキでドヒドイデを落とす!!」

 レオンは勝利を確信した様子で、ドヒドイデに攻撃をしかける……が、ドヒドイデはすんでのところでそれを耐えた。

「……な!?」

「育て方が足りないねー? 見逃してもらったサワムラーがいくよ? 飛び膝蹴り!」

 飛び膝蹴りは外れなかった。これが、そのままナギサの勝利宣言という形となり、セキタンザン(きしゃぽっぽ)は暴走を止め絶叫し、そのまま元の大きさへと縮小しボールへと返っていった。

 落ち込むレオンを横目に得意気なナギサであるか、私は双方ともに気にせず、サイコキネシスをその横にいるドヒドイデに向け照準を合わせた。

「サナたん、サイコキネシス!」

 合図と同時にニットのドヒドイデにサイコキネシスの白光が爆ぜた。サイコキネシスを浴びた巨大なドヒドイデはうなだれ、そのまま小さくなっていく。

「あ……ドヒドイデ……」

 ニットが悔しがる。ポケモンバトルは、年齢の関係ない容赦なき世界である。バトルは目まぐるしく進む。先ほどは得意になっていた者が次のターンには沈んでいるというのはよくある話だ。

 退場した者は残された者を応援する。ニットはサワムラーを。レオンは私を。私は負けない自信があった。

 サワムラーがキョダイフンセキの岩石片に身体を傷つけ悲鳴をあげる。

 が、次の瞬間――

「ブレイズキック!!」

「サイコキネシス!!」

 サワムラーの強烈な蹴りが腹部に叩きつけられる。丸太で殴られたような一撃に思わず意識を持っていかれそうになるが、私は歯を食いしばり、サイコキネシスの衝撃をサワムラーへ叩き込む。

 サワムラーはその瞬間力尽き、私は勝利が確定したことを悟った。

「やったね、サナたん」

 最後に立っていたのは私だけだった。

 歓声をあげるレオン、悔しがるニット、それをなだめるナギサ。そして、皆を労う少女……喜怒哀楽がそこに詰まっていた。

 私たちに言葉は要らない。お互いのことをこのバトルでよく知ることができたのだ。

 

「すごかったねー!」

「お前もなかなか強かったぞ!」

「負けたけど楽しい」

 子どもたちがそれぞれ感想を言い合い、笑い合う様子を見ていると、マルチバトルの良さがわかる。

「サナたん、お疲れさま! 楽しかったね」

 少女は労いの言葉をかけてくれた。

「あの子たちさ。親がいないの。この孤児院にいる子どもの中でも特に過酷な道を歩んできて、今ここにいる」

 楽しそうな子どもたちを見て、哀しそうな表情を見せた。

「この星のエネルギーを利用した騒動があって……その一件に加担した研究者たちが死んでいった。その子どもなの、あの子たちは」

 マッシュの言っていた、“ブラックナイト”の裏側の話である。楽しそうに遊ぶ子どもたちにそんな生い立ちがあると誰が想像できるだろう。

「あの子たちに罪は無いのに、親のせいで誰からも引き取ってもらえず見捨てられてたんだよ」

 少女は、ひどいよね、と呟く。

 大量生産され破棄されるポケモンたちと境遇は似ている気がした。人間という種族は……同族であっても平気で切り捨てることができる。世界を跨いだ旅で、私はそれをたくさん見てきた。

 ……私自身も、本当は不要だから、歴代のマスターに交換に出されたのではないか。いずれこの少女もきっと、私を交換に出す日が来るのではないか。そう考えると、さっきのバトルの楽しさも仮染めのものに思えて仕方がない。

「……だから、あたしがあの子たちの帰る場所を守らなきゃ」

 声音に嘘は読み取れなかった。この少女は信じてもいいのかもしれない。この優しさから、人々から“聖母”と呼ばれているのだとと思う。私のことも見捨てずずっと側に居てくれるかもしれない。単なる私の思い過ごしかもしれないが、それは確かな願いであった。

 

――――――――――

【補足】ポケモンデータ

①ナギサのサワムラー

特性:かるわざ

持ち物:ノーマルジュエル

技:ねこだまし、跳び膝蹴り、ブレイズキック、まもる

 

②レオンの巨大セキタンザン(NN;きしゃぽっぽ)

特性:蒸気機関

持ち物:弱点保険

技:まもる、いわなだれ、フレアドライブ、ソーラービーム

 

③ニットのドヒドイデ

特性:ひとでなし

持ち物:食べ残し(ニットの昼ごはんのピーマン)

技:アクアブレイク、ベノムショック、どくどく、自己再生

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