ポケどま!   作:よすぃ

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時の最果て

 亜空間を漂う中、白昼夢にいるような感覚があった。意識が飛び飛びになりながら、いつまで流れるのかと思うこの思考は誰のものだろう。

 上も下も、右も左もない中、空間の中にレイドの柱が見えた。キリンリキが居る。その姿はすぐにぶれ、キリンに変わる。キリンに導かれるように私は空間を移動していく。

 

 視界が開け、暗闇の中に舗装された小さな公園のような場所にたどり着く。公園の敷地内は街灯でうっすらと照らされている。

 

「おーい」

 

 何やら初老の男性の声が聞こえ、そちらを見ると、街灯にもたれかかるように、トレンチコートの老人が杖をついて立っている。

 そこで遠目に気にかかり、よく見てみると、杖ではなく、鞘に収められた剣のようである。柄にはナックルシティの古城の外観によく似た鳥が翼を広げたようなシンボルがあしらわれている。

 

 老人の他に人の気配はないと思ったが、振り返ると、ポプラが居た。

 

「ふむ、ここは“時の最果て“だね」

 

 私だけではなく、ポプラも一緒に迷い込んでいた。

 

『ここの場所を知っているんですか?』

 

「ああ、何度か来たことがある。ちょっと前までは“反転世界”なんて言われてたようだがね。今は見てのとおり一部しか残ってない。変な老人と変な生き物がいるだけの、つまんない場所さ」

 

 記憶の隅っこに、時の旅人が迷い込む、時間や空間に縛られない場所があるというおとぎ話をかろうじて思い出す。

 そんなことさえ一瞬で言ってのけるポプラの博識に感心する。

 

『前々から思ってたんですが、なぜ、ポプラさんはそんなに色々なことに詳しいのですか?』

 

「それだけ、世界を見てきただけさ……あたしは、単なる脇役だったが、いつの間にか色々知っちまっただけにすぎないさ」

 

 話していて私は、ポプラと私しかここにたどり着いていないことに気づく。

 

「ああ、あんたとあたしだけだよ。あのグレて悪の道に走った坊やは、どっかに迷い込んだね。まあ、その他の残りの面々は元の世界に残ったようだ」

 

 スパークやブランシェ、あの世界のサオリたちもあの場に残ったことは理解していた。しかし、別れを唐突に突きつけられたようで、寂しさと切なさが入り交じる。

 

「あの世界はなかなか特殊で、際どいバランスの上に成り立ってる。理を大きく外れた世界はだいたい、創造主の定めた因果律によって、正常と想定される範囲に修正されるのが、世の常らしい。滅び方は様々だけどね。あたしも、いくつか世界の終わりを見届けた」

 

 ポプラは切なそうに遠くを見つける。

 

「だから、あの世界はそっとしとかないといけない。あたしたちが干渉したことで、創造主の定めた禁忌に触れたら、滅びの道をたどっちまう可能性もある。もしかしたら、それが今回の騒動だったかもしれないしね……いずれにしても、あの世界にゃ戻ることはできないよ」

 

 二度と会えない。

 その現実は残酷だった。「またね」とか「今度は」とかは、もう無いのだ。にわかに信じられない内容を、しかし、何故か私は不思議と事実と受け止めていた。

 

「あのサオリのことが特に気になるんだね」

 

『はい。私の知る世界の彼女とは違って、弱くて、脆くて、危なかしくて……』

 

「だけど、強さを見出したね。あんたのあげたベレー帽。あれはきっと、あの子の道しるべとなるはずさ」

 

 マスターから預けられた帽子を、また貸しする形になってしまった。会えないのなら、事実上、彼女に委ねたようなものだ。

 しかし、きっと許してくれるはずだ。ひとりの少女の道を示せたのだから。

 

『そうだといいのですが……』

 

 声にした瞬間だった。空間移動の影響か、不安定になっていたこの世界の床がぐにゃりと歪んだかと思うと、底が抜けた。真っ暗闇の中に、私とポプラは落ちていく。私たちは二人揃ってまた亜空間に放り出された。

 

――――――――――

【補足】時の最果てとは?

 全ての時代に通じていてどの時代にも属さない時空を越えた謎の場所。同じくどこかの時代から迷い込んだ“時の賢者”を自称する老人と、同じく“闘いの神”を自称するスペッキオという生き物が居る。

 時の賢者を自称する老人は、何時の時代、何処の場所にも属さない謎の場所で、異世界の勇者のものといわれる剣を拾ったものの、鞘から抜くことが出来ず、そのまま杖がわりに使っているという伝説を持つ。あまり誰も来てくれないので、誰か現れるとつい呼んでしまいたくなるのか口癖は「おーい」である。

 一方、自称・闘いの神のスペッキオは人によって、姿が違って見えるという特性を持つ。その人の強さに応じて姿を変える。スペッキオの姿は6段階に分かれており、どのような猛者であっても大体が5段階目のカイリキーで大体打ち止めとなるらしいが、強さを超えた境地に達した者には6段階目の姿を見せるという。決め台詞は「おめー、オレどう見える?」であり、強そうか弱そうかの2択で尋ねてくる。いずれの回答にも、「そうか。オレの姿、おめーの強さ。おめーが強ければ強そうに 弱ければ弱そうに見える。ん? おめーら、持ってるな。心の力を……」などとそれっぽい返しをしながら、闘いを挑んでくる。結局は闘いを求めており、謎の存在であるが、ポケモンバトルの根幹にある、戦闘を臨むマサラ人の習性や、闘いを渇望するポケモンそのものの本能的と何らかの関係があるのかもしれないと言われている。

――――――――――

 

 時空の流れに身を任せ、私たちは時間を駆け抜け、空間を超えていく。

 時空のの道。歪んだ時と空間を抜ける。

 酩酊した脳で、それでもどこかに進んでいるのだと本能的に感じていた。

 瞬間、視界が開け、一瞬目を閉じ、やがて眼を開く。

 両の腕の感覚を確かめる。足の裏に大地の感触がある。胸の輝石が大気に揺れ、眼は光を捉えた。

 

「あ」

 

 年端もいかぬ人間の少女が私を見ていた。私のよく知る顔だ。

 

「帰って来れたみたいだね」

 

 ポプラの声で周囲を見渡す。洞窟のようであるが、開けた広間に居た。土壁にはサイコキネシスで応戦した戦闘の跡がある。

 私とポプラを囲むのは見知った顔ぶれである。戻って来れたのだ。

 

「サナたん……!」

 

 声を掛けてきたのは、ガラルのマスターだ。そして、その後ろにはマッシュとコサリが居る。どうやらここは、カンムリ雪原にあるダイマックス巣穴のようだった。

 

「サナさん、覚えてますか。サカキと闘い、時空の穴に落ちたことを。あの後、ファイアローになったペルが貴方の主人たちをここに連れてきました。その際、近くに来ていたポプラさんも合流したのです」

 

 コサリが説明してくれた内容で、ここを離れるに至った経緯を思い出そうと記憶を辿る。あの平行世界に行く前、確かに私はここにコサリと共に居た。そしてサカキと共に時空の狭間に飲み込まれたのだ。

 

「“聖母”のカバンの中に、なんかカイトが使ってたディケイドライバーっつーのがあったんだけどよ、この婆さんならそれで今まで行ったことある世界なら行けるって言うもんだから任せてみたんだ」

 

 相変わらずのエースバーンの格好をしたマッシュは、ニット帽の角度を直しながら、斜に構えた姿勢だ。物事をしっかりと冷静に分析しているが、それを隠そうとしているのは明らかだ。ぶっきらぼうなのも相変わらずだった。

 

「あたしも目印が無けりゃ難しかったがね。転移に耐え切れず、ディケイドライバーも壊れちまったしね……。あんたがあっちで、現在地を示してくれたろ。だから、行けたんだよ」

 

 ポプラはマッシュの言葉を補足した。

 あの世界でキリン、キリンリキを軸に時空の道が繋がったのだろう。キリンという存在にどのような意味があるのか、あの世界に行けない今、知る由はない。

 

「サナたん。あたし、カンムリ雪原の奥深くで、豊穣の王と呼ばれるポケモンを見つけたよ。ついさっき、お姉ちゃんに渡したんだけどね」

 

 マスターの口から出るワードに、私は身を固くした。お姉ちゃん、と確かにマスターは言った。

 その一言で、私の脳裏に様々な記憶のピースがはめ込まれていく。

 

「サナたん。無事でホントに良かった……心配してたんだよ」

 

 パズルのピースはまだいくつか失われている。その半分も解けてはいない。最後にサナっちと目が合った影響なのか、亜空間をさ迷った影響かはわからないが、まだ全てを思い出せないでいた。

 しかし、確実に思い出せたことがある。今までの旅の、それぞれのマスターとの記憶。そして、私がラルトスとして生まれてからキルリア、サーナイトに至るまでの出自。そうだった。

 

「サナたん、おかえり――」

 

 差し伸べられた手を私は振り切った。

 そして走り出す。何事かマスターが声を掛けたが、それすら無視した。聞こえない。聞いてはいけない。私は、私は。

 

 私はサナ。青い色のサーナイト。サナという名を貰ってからずっと旅を続けてきた。

 だけど。

 私は、生まれたときは緑だった。緑のラルトスで。オーレ地方で悪の組織シャドーに捕獲されダークポケモンとして操られるようになった後も、私は緑のラルトスで。進化しても緑のキルリアで。それから先も緑のサーナイトだった。

 緑の手でカントーのマスターの手を握り、ジョウトのマスターを緑の身体で守った。緑の身で、ホウエン、シンオウを旅し、イッシュ、カロスと旅を続けてきた。

 だが、いつの間にか私は青いサーナイトになっていた。私は生まれながらの色違いサーナイトでは無かった。

 

 私は生まれたときから青いラルトスだと思い込んでいた。サイコメトリーの能力に加え、色違いの希少さからシャドーに目をつけられたと思い込んでいた。色違いの私はメガシンカしたとき、黒のドレスのような形態になったと思い込んでいた。実際には図鑑で見ただけだった。本当の私はただのサーナイトだった。

 いつから? まるで最初から色違いだと刷り込まれていた。記憶すら上塗りされた作り物だった。

 

 ガラル地方に来て。バトルタワーでレギュレーションマークを付与もしてもらった。首筋の星型のマークがその証拠だ。

 しかし、それには何の保証もない。このジャッジは完璧ではないと、判定員のグリも述べていたではないか。私がその例だ。機械と人の目をすり抜けた<ruby><rb>不自然な</rb><rp>(</rp><rt>チート</rt><rp>)</rp></ruby>ポケモン。身勝手に生み出され、歪さ故に世界を揺るがす因子と成りうる脅威。いつか星に還る存在。

 未来からきたターミネーターが使役していたフリーザーは、どろりと溶けて消えた。その生命が尽きることを予知したセレビィは自ら惑星の一部へと還っていった。

 私も彼らと同じく創られた存在だ。私は真実を知ってしまった。

 

 私はすべてを捨て、走り出した。

 誰の声にも耳を傾けなかった。見せられる顔も、返す言葉もない。この世の何からも離れるしかない。生きることさえも捨てて逃げたい。

 世界の何処にも――否、何処の世界にも私の居場所など無いのだから。




【Season10】時空を超えて――完。
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