サナとの闘いを終えた後。
譲渡された管理者権限を用いて、私はこの世界の復興に励んだ。倒壊した建物、津波によりさらわれた建物。一連の騒動で失われた、この世界線に元々存在していた生命は再びこの世に姿を見せることが出来た。
「うおおおお! 野郎ども! 世界の大海原に繰り出すぞ!!」
雄叫びをあげるのは、海賊王を目指すルヒィだった。ルヒィの仲間のヨンジやソロも居て、今回はノエルも船上に見えた。それをやれやれとため息をついて送り出すルリナ。
私は佑奈と、サーナイトのサナと共に、元通りになったバウの灯台からそれを見ていた。バウタウンには秩序が戻りつつあった。
「相変わらず賑やかな海賊一味だね。海賊王になれるんだろうか」
佑奈はそう言って微笑む。
彼らには声を掛けず、私たちはシュートシティへと“空間を飛んだ”。
シュートシティ。
時計台のあるホテル・ロンド・ロゼも健在である。シュートシティは活気に溢れていた。そっと、バトルタワーを覗くと、グリが相変わらずの手口で、レギュレーションマーク(きんのたまの証)を付与している様子が見えた。影にはグラが潜んでおり、ランクマッチバトル帰りのトレーナーに慣れた手口で、きんのたまを押しつける。
その奥ではこの世界のダンデがコサリと何やら打ち合わせしている。断片的に聞き取れたのは、ガラルスタートーナメントがどうということだった。加えて、新たなバトルのレギュレーションルールの検討をしているのかもしれない。ランクマッチバトルでも、いよいよ伝説ポケモンが解禁されるという噂を聞いたことがあるが、その話かもしれなかった。
「もう一人のダンデさんや、おじいちゃんになったホップはダメだったね……悲しいけど、すべてが戻るわけじゃないみたい」
佑奈の言うとおり、異世界から来たダンデや、異世界の未来軸の老ホップやT-800たちは蘇らなかった。私の保有する権限をもってしても、あくまでもこのガラルのある世界線、この時間軸にしか介入することは出来なかったのだ。
『命あるものいつかは終わるもの……それはきっとライフストリームとなって、この星の中で生き続けています』
サナがそう言うと、佑奈は涙をいっぱいにしている。鼻水まで出る始末である。
「そうかなあ……」
『きっとそうですよ、マスター』
「そっか、サナたんが言うならそのとおりだね……」
とても新鮮な気分だった。
私の目の前に居るのは、ガラルチャンピオンとその手持ちのサーナイト。色こそ違えど、私が今まで演じてきた役割。自分自身を第三者の目線で見ているような、そんな不思議な感覚があった。
「待てぇい、ルパーン!」
遠くで聞き覚えのある声が響く。トレンチコートを着込んだ、ゼニガタ・マサルその人である。それに追われるようにして逃げているのは、怪盗ルパンとかつて恐れられた義賊――仮面をつけた男カイトだ。隣にはいつもの相棒、ニャースのシャケも走っている。
「待てと言われて待つ馬鹿はいないにゃん」
「そうさっ、羽ばたき出した僕たちを誰に止める権利などあるのだろうっ!」
時に歌いながら、悪びれる様子もなく逃げる二人、いや、一人と一匹。
「何なんだい、あんたらは……」
通りすがりの老婆が呆れたように言う。その言葉を引き金に、一人と一匹はぴたりと動きを止め、待ってましたとばかりにポーズを決める!
シャケが額の小判を光らせ、カイトの横へと飛び入る。
「何なんだいと聞かれたら! 答えてあげるが世の情け! 世界の破壊を防ぐため、世界の平和を守るため! 愛と真実の悪を貫く、ラブリーチャーミーな二人組!」
カイトはお決まりどおり、いつの間にか赤い薔薇をくわえている。
「怪盗カイト!」
「シャケ猫だニャ!」
「ガラルを駈ける我々ふたりには!」
「ウルトラホール! にゃん」
「未知なる明日が待ってるぜ!!」
「にゃーんてな!」
決まった、というポーズをした瞬間に、カイトはゼニガタに確保されていた。慌てて手錠を外そうとするが時すでに遅し。シャケ共々、ゼニガタに連行されていった。しかしまあ彼らは難なく逃げ出すのだろう。そしてまたゼニガタが追う。それが様式美というものだった。
「よく分からない奴らだね……」
通りがかりの老婆を見ると、よく見知った顔、ポプラだった。
「おばあちゃん?」
思わず私の唇を割って飛び出したが、ポプラはしかめ面をしてみせた。
「乙女を捕まえておばあちゃん呼ばわりとは。なんて失礼な娘だろうね……あたしは永遠の18歳だよ」
そこに佑奈が割って入る。
「ごめんなさい、ポプラさん。ポプラさんがどうしても知っている人に似ていて、お姉ちゃん、つい言っちゃっただけなんです」
ポプラは意外そうな顔をして、私を見つめる。
「おや、あんた。チャンプのお姉ちゃんなのかい。だったら特別に許してあげるよ。あたしがあんたの知る誰に似ているかはわかんないけど、多分そいつはとてもピンクなんだろうね」
言うだけ言うとポプラは踵を返す。
「ガラルチャンピオン・ユウナ。いよいよ、このガラルをまたにかけた新しいバトルが開幕するよ。その名も、“ガラルスタートーナメント”さ! あたしはジムリーダーは引退したがポケモントレーナーは引退しちゃあいない。足りないピンク、あたしがプレゼントしてやるよ」
そして、その背中は遠ざかり、小さくなって行った。ポプラは元アラベスクのジムリーダーとしてのポプラに過ぎず、私の知る芳江おばあちゃんとしてのポプラでは無かった。
「きっと、コウタローやサオリも、特別にプログラムされた部分の記憶は消え去ってると思う。この世界がこの世界として成り立つために必要な範囲で
悲しいけどそれも仕方ないことなのかもしれなかった。シュートシティを出て、空を飛び、ナックルシティ正門前、ワイルドエリアに着いた。アーマーガアタクシーは使っていなかった。文字どおり、空間を“飛んだ”のだ。管理者権限があれば、およそ思うことで出来ないことは無い。
ナックルシティから罵声が聴こえてくる。ふと見上げると、ナックル城の巨大なシンボルによじ登る人影が見えた。その横ではファイアローがピーチクパーチク言っている。
「クレーンが無くても、俺はこの妙なシンボルを超えてみせる!」
『やめろ、落ちるぞ! いや、そもそも神聖な王家の紋章に貴様……!』
クレーンとペルであった。
「おいおいお前ら。早く来いよ、このままだとドラゴンジムのリーダーのこの俺様の方が先に上がっちゃうぜ?」
そして、どうやら、先によじ登っているのは、キバナであるらしい。Poketter(今はナントカマスクという人に経営者が変わり、pXと言うらしい)にアップするために、空に飛ばしたドローンタイプのロトムで撮影しまくっていた。
諦めたペルは悪ノリし始めて、「我はナックルの守護神! 責めるより守る!」などと得意技の“おいかぜ”を二人に対して使っていた。
私はそれを見て、パチンと指を鳴らす。
それに呼応して、この世界の“時”が止まった。
「どうしたの?」
「ん。ちょっと線路を歩いてみたいから」
「そっかー」
佑奈はあえて何も言わなかった。この子は昔からそういうことが出来る子だった。
次の瞬間、また空間を超える。ナックルシティの東に掛かる古い橋の上に私たちは居た。移動速度の設定を意図的に変え、ややスピードをあげ、橋を通る。時を止めたガラル列車の横を私たちは歩いて通り過ぎる。蒸気機関の煙突から立ち込める煤も、時を止めている。
しばらく進むとやがて、線路とは異なる方向に廃線が続いているのに気づいた。
「こっちは旧鉄道跡だよ。ガラル東部には昔、鉄道が南に向けて走っていたんだ。踏切もあってね。あ、あそこか、目的地は!」
佑奈は私のやることに質問はせず、ただ話を合わせながら私に着いてきてくれた。サナも黙って私たちについてきてくれる。
「……幼い手につつんだ。ふるえてるその光を、ここまでたどってきた。時間のふちをさまよい……」
廃線を歩きながら佑奈はなにかの歌を口ずさむ。
「さがしつづけてきたよ。名前さえ知らないけれど。ただひとつの想いをあなたに手渡したくて」
長い廃線に佑奈の澄んだ歌声が響く。
「時は愛も痛みも深く抱きとめ……消してゆくけどわたしは……おぼえている、ずっと……」
これはきっと、物語で言うところのエンディングなのだと思う。歌に合わせて、私たちは廃線となった線路を歩き続けた。
「……あ、あれかな」
佑奈が気づく。
廃線の先にコウタローが“約束の地”と呼んでいた踏切の跡地が見えてきた。ワンオクの解散ライブの最中だ。そこには多くの人々が集まっており、その中心にはストリンダーたちが各々の楽器を持ったまま、静止している。
観客もバンドも止まっており、その中に私は、活き活きした表情のコウタローの姿を見つけた。サングラスも割れて居ないし、外見は変わらないけど、きっと、私のためにコードネームを使用し続けていたことはきっと忘れているだろう。
「佐奈おねえちゃん。ある程度は仕方がないよ。この世界は元々、仮初の形から始まった世界だから」
「全てが嘘っぱちで作り物だってこと? 私にはとてもそうは思えないの……」
ライブ会場を通り過ぎ、旧鉄道をそのまま歩きながら、私たちは会話する。
「実在する人を元にしたAIからスタートしているからね。それぞれの
今は管理者権限で世界中の時間を完全に止め、私と佑奈とサナ以外は動きのない廃線のレールは、どこまでも続いているように見えるけど、いつか終点が来ることも分かっていた。
歩きながらこの世界の成り立ちを話す佑奈は、深く事情を知っていた。元々、私は現実世界では植物人間であり、私の目を覚まさせるために、優秀な医師であり科学者(この場合はエンジニアと呼ぶべきかもしれない)でもある芳江おばあちゃんが創り出した虚無世界、それが今いるこの世界だという。
「ここは思い入れがあるから、動いてなくて助かったや」
佑奈が寂しそうにそうこぼした。
辿り着いたのは、
「未だに信じられないよ。この世界が全てプログラムされたものだなんて……」
私が言うと佑奈は、そうだよね、と微笑む。
「20世紀から今も続く大人気ゲーム、ポケットモンスターを大幅にリメイクして、本当は、仮想現実の世界を冒険するロールプレイングゲームを作る予定だったんだよ。かがくのちからってすげー、だよね」
ここに住まう人たちは、実際に存在する、モニターとして応募したポケモンの根強いファンの有志たちを元にしたAIで構成されているのだという。
それらが独自の成長を遂げていき、今では個々にアイデンティティすら持っていると言っても過言ではない。二十世紀や二十一世紀では考えられなかった技術だ。
しかし、私にも佑奈が少し寂しそうに言った気持ちも理解できた。
今日はこの場に、チルマーことマルチバトルをするために一同が勢揃いしていた。
着ぐるみ少女のハルとメイちゃんがタッグを組んでおり、レオンとニットが対峙している。
それを応援するのはマッシュとナギサ。そして、マグノリアとダイオーキドことドクに、巨大イーブイのモロだった。みんな、楽しそうで、活き活きした様子で時を止めていた。
ふと見ると、サオリも腕を組みながら、子供たちの勇姿を微笑ましく眺めている様子だった。その隣にはヤマダとスズキも何故かいて、ロープでぐるぐる巻きにされていた。きっと、何かやからしたのだろう。
やっぱり、時間を止めて良かったと思う。
きっと皆と喋ると、私は別れを受け入れられない。そんな気がした。
『ふたりとも。本当に行ってしまうのですか』
黙ったままだったサーナイトのサナが問いかける。彼女たちポケモンにもAIが搭載されているが、それは誰かを元にしているわけではない。ゼロからスタートして、いくつもの体験の中で成長し、ここに至っている。しかし、私と一時期、融合していたサナはスタートラインが実在の人間と遜色ないレベルにまで到達していた。
サナに言われて、私は複雑な感情が過ぎる。
「ごめんね。また、あなたをひとりにしてしまう……」
『いいえ……今なら、あなたがずっと私の傍で見守ってくれていて、大切に思っていたことがわかるから、決して辛くはありません』
私が言うと、サナは首を大きく横に振った。
『それに、あなたが去ったときから、また分岐して、あなたの想いを継いだ存在がこの世界には残ることでしょうから』
サナは私たち以上にこの世界の道理を理解していた。
この
そして、一作品クリアすると次のナンバリングへ、と移行することを繰り返した。オーレからホウエン、ホウエンからカントー、カントーからシンオウ、ジョウトへ。私は転生する度に以前の作品の記憶は失い、サナはその都度、黙って通信交換という形でシリーズを越えても私の元へと来てくれていた。サナの持つリボンは次々と増えていく。
しかし、ジョウト地方でカントー地方の主人公と出会ったときに、彼は私ではなく、クリア後に戦える無口な裏ボスに過ぎず、それがサナの中で大きなショックを与えてしまった。
『だから、私は捨てられてしまったと……そう勘違いしてしまったのです』
サナはそう述べた。しかしその後も、サナは与えられた役割の中で、プレイヤーである私の指示にしか従えず、ただ言われるままに冒険し、クリアすると交換に出された。
やがて、ポケシフターと呼ばれる通信機能を経て、サナはイッシュへやって来て。その後も時を経たイッシュ地方を私とサナは共に旅を続けた。
『絶えず、見えざる
サナは語り続ける。
アローラ地方へ辿り着き、そこで、サナはポケモンながらに平行世界の概念を認識し、異なる世界の存在を知った。再び、ホウエン地方にたどり着いたが、そこは以前のホウエン地方とは異なるリメイク作品であり、メガシンカと呼ばれる新たなシステムが存在していた。
その後、再びアローラ地方に行くが、アローラ地方もまた、以前のそれとは似て異なっており、ここでレインボーロケット団のサカキと邂逅することで、いよいよサナは、この世界の外に存在する世界があるという確信を強めて行ったのだった。
「そのちょっと前くらいだろうね。芳江おばあちゃんが亡くなったのは。そこからは、あたしがイギリスから日本の帰国して、佐奈お姉ちゃんの治療を引き継いだ……そして、あたし自身が中に入り込んで、お姉ちゃんを引っ張り出せば良いやと安易に考えちゃったのがタイミング悪かったんだろうなー」
佑奈は海外の大学を卒業し、そこで臨床経験を積んだ優秀な医者だった。芳江おばあちゃんの研究を引き継ぐことになったが、この世界の根幹である“システム・アルセウス”の仕様書は何処にも存在しておらず手探りであった。長くその状況が続き、以前の芳江おばあちゃんの適切で確かな管理を外れた私の精神面は徐々にバランスを崩していき、このままでは二度と覚醒することが無くなってしまう、そう考えた佑奈は荒療治に出ることにした。
自らもこの世界に入り込むことである。アローラ地方が舞台のウルトラサン・ウルトラムーンの次の作品、つまりこのソード・シールドへと先回りしてガラル地方に向かい、同時に新たな見えざる
結果、サーナイトのサナは、佑奈とは逆のルートで現実世界の私の脳へと信号となって伝わり、私の身体を操るに至ったのだった。
『私はイレギュラーに発展を遂げてしまったAIだったのかもしれません。だからこそ、外部の存在に気づくことができたのでしょう』
サナは冷静にそう分析する。
しかし、当時のサナは冷静ではなかった。何度も捨てられてきたのは自分が特別な存在では無いからだと、そう考えたサナは、現実世界側から直接プログラムを書き換え、自身を色違いのサーナイトへと変化させた。そして、色違いのサーナイトのサナとなった彼女は再び、虚無世界へと戻り、この瞬間、アローラの主人公の役割をこなしていた私と混じり合い、そして、入れ替わってしまったのだった。
私は記憶も混濁する中で、ガラル地方に交換に出され――色違いサーナイトとしての私の旅は始まったのだ。
『入れ替わって人間となった後も、私にはサーナイトとしての記憶が残っていました。逆に、あなたの――佐奈としての記憶はほとんど無かった。ただ、外部世界から色々とこの世界へ干渉出来る術だけを知ったような形になったのです。捨てられたという恨みを抱えたまま……』
複雑な表情を浮かべ、俯く。そして、意を決してサナは顔をあげた。
『……色々と話しましたし、悩みましたが、今の会話で改めて思いました。やっぱり、この
サナの語るそれは、映画か何かで見かけるような遠くない未来像である。
悪意ある者がこの先現れないとも限らない。現にサカキや悪ダンデは限定権限を受け取り、現実世界へ干渉する術を学んでいた。いずれ外の世界に乗り出そうという者が現れてもおかしくはないだろう。
たとえば、自在にネットワークを介してありとあらゆるシステムに干渉できるとしたら。それは金融機関のシステムかもしれない、医療機関のカルテ情報かもしれない。また、行政のシステムかもしれない。しかし、もっと恐れるべきは、軍事システム。例えば核兵器ひとつを簡単に操作できてしまうとしたら?
これは、映画ターミネーターでも示唆されていた、スカイネットによる“審判の日”である。核による世界崩壊。それが起きかねないと、サナは述べたのだ。
『それに……ムゲンダイナの形を取っていたウイルスもお陰で今は息を潜めていますが、これにしてもいつ顕在化するかは分かりません。……だから。あなたたちが出たら、ここを閉じてください。この世界を終わらせてください』
そう、悲しいことを告げる。
佑奈は無言で頷き、何か言いかけた私を止める。その手にはリングが握られている。
それはポケットモンスターの“主人公”としての彼女を愛したひとりの男の想いがこもっている。だからこそ、あえて佑奈はホップに会わなかった。
『さあ、
「サナたん。今まで本当にありがとう。楽しかったよ」
そして、どれだけの容量が入るのか分からないことで定評のあるリュックを開け、前もって、ザシアンとザマゼンタから分離させていた、“ロトのつるぎ”と“千年の盾”を取り出し、サナに受け渡す。右手に剣を左手に盾を装備した緑のサーナイトに、佑奈はサナの“マスター”として指示を出す。
「サナたん……キョダイマックス! そして、メガシンカ!!」
親トレーナーである佑奈の言葉に呼応して、サナはみるみるその姿を大きくする。続け様に、佑奈は私に言う。
「佐奈おねえちゃん。システム・アルセウスに命じてほしい。ガラルの豊穣の王だけが持つという特性をサナたんに……」
私は言われるがままに、サナにその特性を付与した。サナの特性トレースが“人馬一体”へと変化する。これは、豊穣の王バドレックスの固有特性だった。
巨大化したサナは、同じく巨大化したアルセウスへと跨り、その両手に剣と盾を構えるた。身体には青いオーラが宿り、肉眼でも見ることが出来た。サーナイトの緑の頭部がまるで冠のようにも見える。
全てを切り裂く剣を右手に、全てを守り抜く盾を左手に、神秘の青の鎧をまとった、緑の王冠を頂く存在。それは、ガラル神話にある、白馬にまたがる唯一無二の王の姿そのものであった。
構えた瞬間、世界の理が、法則が乱れ始めたことを比喩しているように、上空に暗雲が立ち込め、そこに嵐が渦巻く。
▼じょうくうの あらしが いきおいを つよめている!
最強の剣。
最強の盾。
矛盾するふたつの神器を持ち、サナは静かに目を閉じる。
▼さらに あらしが いきおいを つよめている!!
サナはそのまま静かに目を伏せる。緑の王冠、青の
▼あらしに たえるのは もう げんかいだ……!
いよいよ終わりが見えてきた。サナは意を決して――最強の剣を最強の盾にぶつけた。
全てを切り裂く剣は、全てを斬れなければいけない。全てから守る盾は、全てを防げなければならない。
相反する属性はお互いに干渉し、その矛盾を解消するために膨大なエネルギーとなって、私たちを包み込んだ。
システム・アルセウスによって構築された完璧な世界の環に綻びが生じ、マックスレイドバトルの終わりのように、私と佑奈のふたりは嵐の中へと放り込まれていく。この嵐こそが、この世界の出口。現実世界に続く道だった。
それを見上げる緑のサーナイトは静かに微笑み、その口元が言葉を紡いだ。
『さ・よ・う・な・ら』
サナは、「またね」とは言わなかった。
――さようなら。と確かにサナは言った。
またね、はまた会うための約束の言葉だ。口にしたのは、今までのように再会を誓う約束の言葉ではなかった。二度と会えないという別れの言葉。もう会うことの出来ない私たちだからこそ、サナは受け入れ、さよならを告げた。
やがて私の意識はホワイトアウトしていき、最後にテキストが脳裏に浮かんだ。
▼ゆうなと さなは せかいのそとに ふきとばされてしまった……
ずっと眠っていたように思う。長い長い夢を見ていた。白い天井が見え、隣に気配がして顔を左に向ける。長年使っていなかった筋肉が軋むような感覚があった。
なんとか左に向くと、同じようにこちらを見ている佑奈と目が合った。
「おかえり」
「……ただいま」
目と目が合っても、ポケモンバトルにはならない。
そう。この時たしかに、私たちとサナの長い長い旅路は終ったのだった。