ゆるふわ系ラブコメ…とは?
七月も、気付けば中旬のある日の事。
イスに座りながら書類と睨めっこするわたしに、ベットでゴロゴロと横になっている結芽ちゃんが声を掛けた。
いつもと特に変わりはないが、少し暇そうな声音で。
「お姉ちゃんって、夢とかある?」
「夢かぁ…。どうだろうね? あるかもしれないしないかもしれない」
「え〜! なにそれ! 教えてよ〜!」
いきなりの質問に、わたしは曖昧な答えしか返せなかった。
暇を潰すための質問が曖昧なものになってしまった結芽ちゃんは、ベットから起きてまで答えを求めに来る。
もしかしたら、単純に興味があっただけかもしれないが、わたしが夢について答える事なんてない。
正直、夢なんて大層なものを持てる人生ではなかった。
幼かった頃ならいざ知らず、結芽ちゃんが病気にかかってからは地獄のような日々が続いた。
優しかった、大好きだった両親は、結芽ちゃんの命が長くないと知ると、当時刀使として多少貰っていたわたしの給料と、自分たちの貯金を銀行から下ろし蒸発。
なんて無責任な両親だと怒り狂った事もあったが、怒り狂っていられる暇ななかった。
流れる時間を無駄にしない為、走り続け、足掻き続け、そしてようやくここに居る。
一時期は合理的且つ利己的な考えをする余り、周囲と良好な関係が築けない時もあったが、結芽ちゃんの為にそれも改善した。
全てが、わたしの中にある全てが、結芽ちゃんを中心に回っていた。
最後に、結芽ちゃんが笑っていれば、わたしはそれで構わなかったから。
……でも、違ったんだ。
打算で作った友達は、いつの間にか本当の友達になっていて。
駒として育てた弟子は、いつの間にか頼りになる愛弟子になっていた。
あの子が一度居なくなった事で、わたしは知ったんだ──わたしは知れたんだ。
目には見えない程に薄い存在なのに、確かにそこにある縁や絆と言ったものを。
だからもし、もし夢を持つなら。
わたしは……
「結芽ちゃんの姉で在り続けたい。それが、わたしの夢」
「なにそれ? お姉ちゃんはお姉ちゃんでしょ? 変わる事なんてあるの?」
「う〜ん、少し難しかったかな?」
揶揄うようにそう言って、わたしはまた書類に目を落とす。
後ろから、「教えて教えて〜!」と結芽ちゃんが言っている声が聞こえたが、わたしはクスクスと笑って聞き流した。
嗚呼、神様。
わたし、他には何も望みませんから……だからどうか、この温かくてなんでもない日々を、終わらせないでください。
◇
お姉ちゃんの夢はわたしのお姉ちゃんで在り続けることらしい。
良く分からないが、そう言う事らしい。
本当に、お姉ちゃんは時々、わたしには分からない難しい事を言う。
大抵そう言う時のお姉ちゃんは、少し遠い目でどこかを眺めて、わたしに気付くと、いつもの温かい笑顔を向けてくれる。
嬉しい……嬉しい筈なのに、昔とは逆の立場になった気分になってしまう。
だって、その時のお姉ちゃんはフワフワしていて、わたしが掴んでなかったら、どこか遠くに行ってしまいそうだから。
怖い、怖い、怖い。
わたしの夢が叶えられなくなるのが怖い。
そうやって、身勝手な怖さに震えてしまう。
何故なら、わたしの夢は……
「そう言えば、結芽ちゃんの夢ってなんなの?」
「へっ? …わ、わたしの夢? ……そ、そんなのもっともっと強くなる事だよ!! あったり前じゃん!」
「ふふっ、結芽ちゃんらしいね」
鈍感で助かった……いや助かってはないか、照れ隠しだって気付いていないのは、良かったけど。
でも、お姉ちゃんにとって「もっともっと強くなる」、ってのを夢として思うのは、わたしらしい…のか。
なんだろう、理解されてないようで理解されてるのが、少しだけ嬉しいけど、同時に悲しくも感じる。
あくまで、強くなるのは夢じゃない、目標だ。
声を大にして本当の夢を言えたら、どれだけ良かっただろう。
それに、もし言えたとしても世間や周りは認めてくれない。
実の姉に恋をしていて付き合いたいなんて、誰も認めてくれる訳がない。
だけど、お姉ちゃんが誰かの大切な人になって欲しくない、わたしだけのお姉ちゃんで居て欲しいんだ。
……呆れるしかない、そう言う意味で、わたしはお姉ちゃんの妹で在り続けたいと思っている。
きっと、この好きと言う想いに蓋をして、ずっと抑え続けていれば幸せに暮らせるし、お姉ちゃんは笑っていてくれる。
わたしに笑顔を向けて、家族として愛してくれる。
それで良いじゃないか?
それで満足じゃないか?
何度自分に問いかけても、返ってくる答えは『嫌だ』、と言う簡素で簡潔なものだけ。
頭では分かってても心は違う。
多分、好きを抑え込んで得た幸せは、チクチクしてずっと痛いままだ。
笑顔はもどかしくて、愛はムズムズする。
年相応に笑うお姉ちゃんをわたしは見たい。
対等な恋人として付き合って、家族のままだったら見られない表情を見せて欲しい。
何時からか芽生えた、家族に向けるべきではない、実の姉に向けるべきではない好きが、時間を掛けて問題を乗り越えて、際限なく膨れ上がってしまった。
最初に振ったのはわたしなのに、自分勝手で嫌な奴だ……本当に。
自嘲気味な笑みが零れないようにわざと咳払いし、書類を読むお姉ちゃんに後ろから抱き着いた。
こんなわたしの気持ちを、お姉ちゃんが知ったらどう思うんだろう。
どうせ、最初は勘違いして、その後に驚いて……それで──
「結芽ちゃん?」
「……なんでもなーい」
「? そっか…もう少し待っててね。すぐに仕事終わらせるから」
まさに今してるような、困った笑顔をわたしに見せるんだろう。
素直には喜んでくれない。
悲しんでもくれない。
でも、わたしの事は傷付けない。
結局はお試しで付き合おうってなって、その後、わたしが真実を知って……はいお終い、だ。
終わりが見えてる恋。
バットエンドが分かりきっている恋。
だと言うのにわたしは、未だ胸に秘められた甘くて温かい恋の炎を、消したくないと──そう思っている。
シスターズプロフィール④「親衛隊(特別警備隊)について」
摘花「寿々花ちゃん以外は知らない人ばかりでしたけど、みんなと居るのは楽しかったですよ。……一番の思い出は、花見ですかね。あの時撮った写真は宝物です」
結芽「家族…みたいな感じかな。わたしが年下だからっておねーさんたちは、お姉ちゃんっぽく振る舞うし。…でも、みんな大好きだよ!花見に行った時はすっごく楽しかったなぁ。…あの時は最後になると思ってたから」
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次回もお楽しみに!
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摘花ちゃん視点の過去話は見たい?それとも日常の話が見たい?……過去編は少し重いかも
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過去話やろ!
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日常一択!