燕シスターズ   作:しぃ君

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 タグでは週一投稿って言ったけど、ネタが思い付いたらポンポン上げるかもしれない。

 今回は燕結芽(お姉ちゃんガチ恋勢の妹)VS燕摘花(度を超えた家族愛が狂気になった姉)の話です。


告白相手はしっかりと選ぼう

 姉妹で使っても有り余るくらい広い部屋で、わたしとお姉ちゃんは過ごしている。

 ここは、お姉ちゃんとわたしに宛てがわれた、刀剣類管理局本部の元応接室の一つ。

 元が、応接室と言う事もあって、家具は一通り揃っているし、簡易キッチンまで着いている。

 

 

 右半分がわたし、左半分がお姉ちゃん。

 

 

 初見の人でも見分ける方法がある…それは、部屋の綺麗さ。

 正直、わたしは片付けがあまり得意じゃない。

 お姉ちゃんに手伝ってもらって何とか…と言ったレベル。

 勿論だが、一人で片付けがまともに終わった事はない。

 

 

 片付けをしてる時に懐かしい漫画やアルバム、お気に入りだったオモチャやぬいぐるみを見つけては、遊びまくっているからだ。

 お陰で、わたしが使う右半分はお世辞でも綺麗とは言えない。

 

 

 ベット周りにはいちご大福ネコのグッズが散乱としている。

 反対に、お姉ちゃんが使う左半分は、整然としている。

 頭を使うのは苦手なので分からないが、なんでも効率を重視しているらしく、よく使う物はベットや机の近くに、使わない物は端の方に追いやる事で、上手く整理している…と言っていた。

 

 

 取り敢えず言える事は、わたしのお姉ちゃんは凄い! 

 と言う事だけだ。

 

 

 そんなお姉ちゃんは今、真ん中にあるイスに座り、一通の手紙を読んでいた。

 因みに、お姉ちゃんは左側のイスに座っていて、反対側にもテーブルを挟んで同じイスがある。

 

 

「……ふぅ」

 

「そのお手紙、誰から?」

 

「ん? これの事? お手紙って言うより、ファンレター…かな?」

 

「ファンレター?」

 

 

 わたしがそう聞き返すと、お姉ちゃんはコクリと頷いた。

 ファンレター…か、お姉ちゃんがそれを貰うのは全く可笑しい事じゃない。

 何故なら、お姉ちゃんはいつもいつも頑張っているから。

 誰だって応援したくなるし、好きになる。

 

 

 真剣な表情の時のお姉ちゃんを見て、応援したくならない人や、好きにならない人は、頭が可笑しいとしか言えない。

 

 

 だって、あんなに凛々しくてキリッとした顔付きなのに、人を見る目は優しいんだよ? 

 自分が出来ないことをやってくれる人に、尊敬の念をちゃんと持っている、人格者の中の人格者、善人の中の善人だよ? 

 

 

 そんなお姉ちゃんを、応援したり好きになれない人を、わたしは理解できない。

 だからこそ、わたしはそのファンレターを書いた人に興味が湧いた。

 大好きなお姉ちゃんをしっかりと見てくれている、嬉しい事実。

 お姉ちゃんを奪おうとするなら敵だが、そんな事をしなければ良き同士としてやっていける。

 

 

「ねぇねぇ、お姉ちゃん? わたしにも、そのファンレター見せてよ〜!」

 

「えぇ〜…それはちょっと恥ずかしいかな? …ごめん、結芽ちゃん。お姉ちゃん、この後、真庭本部長に呼ばれてるから指令室に行くね? 結芽ちゃんはどうする?」

 

「今日は任務もないしなぁ〜…。部屋でゴロゴロしてる」

 

「分かった。なるべく早く帰ってくるから、良い子で待っててね」

 

「うん!」

 

 

 優しく頭を撫でた後、お姉ちゃんは手紙──もといファンレターを、余程見られたくなかったのか、小型金庫に入れて出て行った。

 …よく、テレビや漫画で見るけど、「開けるな」とか「見るな」って念押しされると、やりたくなるよね。

 

 

 心理学の番組で言ってた名前は、かり…かり…カリラギュ効果? *1だったっけ? 

 まぁ、そんなのはどうでもいい。

 

 

「ファンレター! ファンレター!」

 

 

 テンション高めに声を上げて、わたしは小型金庫のパスワードを解除する。

 いい加減、なんのパスワードでも、わたしの誕生日を入れるのはやめた方がいい。

 それじゃ、防犯機能の意味ないから。

 

 

 鼻歌交じりに、ファンレターを取り出し、中身を見る。

 書かれていた文章は──

 

 

『貴女のことが好きです』

 

 

 たった一言。

 その、たった一言で、わたしの中にあった熱が急激に冷めていく。

 

 

 奪われる。

 このままだと、お姉ちゃんが奪われる。

 わたしの、わたしだけのお姉ちゃんじゃなくなる。

 

 

 そんなの……許せないっ! 

 許せるわけがないっ! 

 誰にも、奪わせない。

 

 

 お姉ちゃんの隣はわたしの場所だ、わたしだけが許された場所だ!! 

 お姉ちゃんの一番はわたしだ、わたしだけがそこに居て良いんだ!! 

 

 

「…行かなきゃ」

 

 

 さっき外に出たのは、きっとファンレターの皮を被ったラブレターの、返事をするためだ。

 場所なんて分からない。

 分からないけど、お姉ちゃんが何処にいるかなら分かる。

 

 

 本当は、この施設内で刀使の力を使うのは、暗黙の了解で禁止されているがそんなの関係ない。

 御刀を持つ事で研ぎ澄まされる五感を使い、場所を割り出す。

 匂いは…微かに残っている。

 

 

 写シを張り、迅移を使って匂いを追い、そして着いた先に、二人は居た。

 ラブレターを書いた相手は、優しそうな雰囲気が漂うカッコイイ男性。

 イケメンと呼ばれる部類に入る人で、不覚にも一瞬、お姉ちゃんとは美男美女カップルとしてお似合いだと…そう思ってしまった。

 

 

 捨てられる……そんな事はありえないが、付き合い始めて時間が経てば、自然とわたしは一番じゃなくなる。

 嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!! 

 そんなの……嫌だよ……

 

 

 邪魔なんてしたくなかった、けどわたしは、いつの間にか走り出して、お姉ちゃんの背中を抱き締めた。

 

 

「きゃっ! …ゆ、結芽ちゃん!? どうしてここに……」

 

「つ、燕さんの妹さんですか?」

 

「え、えぇ。ごめんなさい。…結芽ちゃんもごめんね。後で、ちゃんと──」

 

「…お姉ちゃんの一番はわたしだもんっ! だから、お付き合いなんて……しちゃヤダ!」

 

 

 言葉を遮るように、わたしは叫んだ。

 それを聞いたお姉ちゃんは、笑って言った。

「大丈夫」、と。

 

 

 丁寧に、お姉ちゃんは交際を断り、その場を離れた。

 廊下を少し歩くと、ソファと自販機のある休憩スペースでわたしたちは立ち止まる。

 

 

 ……わたしは嘘をついた理由を、聞くことにした。

 

 

「なんで、嘘ついたの?」

 

「…結芽ちゃんが機嫌悪くしちゃうかなぁって思って」

 

「嘘つかれる方がヤダ。……嘘つくお姉ちゃん、嫌い」

 

「えぇ!? ひ、酷いよ〜! お、お願いだから機嫌直して? お姉ちゃん何でもするよ? ハグ、ハグがいい?」

 

 

 そう言って、わたしの機嫌を直そうと、お姉ちゃんは抱き締めてくる。

 柔らかく太っていない筈なのにモチモチな体。

 温かい抱擁に顔が蕩けそうになるが、ここで許してはダメだ。

 わたしがどれだけ不安だったか……それを思い知らせなくちゃ! 

 

 

「……ふーん」

 

「こ、これでもダメなの!? なに、お姉ちゃんは何すればいいの? わたし、結芽ちゃんに嫌われたままだと、お仕事に支障が出るんだけど!!」

 

「へぇ〜、お仕事の為…なんだ」

 

「うぅぅ、ち、違うよ! 結芽ちゃんに嫌われてると、なんにも力が入んなくなっちゃうの! それに、わたし自身、結芽ちゃんに嫌われてるのがやなの!」

 

「…じゃあ、チューしてよ。頬っぺとおデコは禁止ね?」

 

「……わ、分かりました」

 

 

 一瞬、躊躇うように言葉を詰まらせたお姉ちゃんだったが、少し頬を赤くして了承した。

 目を瞑って、お姉ちゃんのチューを待つ。

 少しづつ流れていく時間の中、そっと、柔らかい感触が唇に伝わる。

 

 

 目を開けると、顔を真っ赤にしたお姉ちゃんがそこに居た。

 意地悪したくなったわたしは、揶揄うようにこう言った。

 

 

「次やる時は、あんまり待たせないでね? …待たされ過ぎると、お姉ちゃんの事、好きになれないかも…?」

 

「ぜ、善処させていただきます……」

 

 

 クスクスと笑いながら、わたしはルンルン気分で、スキップで廊下を進む。

 それを追い掛けるように、お姉ちゃんはわたしの隣に並んだ。

 横を見ると、大好きな人が居る、それはとても大切な事。

 

 

 聞きたくない疑問ではあるが、これは聞かなきゃいけない。

 ねぇ、お姉ちゃんはどうするつもりだったの? 

 

 

「もし、あそこで結芽ちゃんが来なかったら?」

 

「うん。わたしが止めて欲しいって駄々…こねなかったら、どう答えてたのかなって」

 

「断ってたよ。わたしには妹が居るからって。……シスコンだからね、わたし」

 

「…そっか…そっかぁ。うん、わたしも、もし告白されたらそう言う!!」

 

「ふふっ。そしたら、わたしたちシスコン姉妹だね」

 

「だねー!」

 

 

 二人で笑って、部屋に戻る。

 揃って笑い合う時間は幸せな一時、これからもずっと、こうしていたいと思った。

 

 ◇

 

 ラブレター事件から数日。

 驚く事に、結芽ちゃんにもラブレターが届いた。

 字体から見るに、男性な事は間違いない。

 

 

 結芽ちゃんを好きになるのは、見る目があると褒めて上げたいが、一言言おう。

『犯罪』だと。

 この刀剣類管理局本部に居る男性の殆どは、成人済みの大人だ。

 若くても二十代前半、下手をすれば三十代から四十代の人も居る。

 

 

 わたしの世界一──いや、宇宙一可愛い妹、結芽ちゃんは十三歳。

 この子を好きになるのはしょうがない。

 なにせ、刀使の才能もあって可愛くて、可愛くて可愛くて可愛いのだ。

 好きにならない人がいるなら、それは精神が壊れた狂人か、女性に興味を持てない方々だろう。

 

 

 だけど、犯罪なものは犯罪だ。

 わたしがしっかりと()()しなければ。

 

 

「わたしが断りに行くから、結芽ちゃんは待ってて。場所は書いてある?」

 

「断りに行くにしても、わたしが行った方がいいじゃない?」

 

「ダメよ。世の中には無理矢理押し倒してくる、怖〜い人だって居るんだから。無闇矢鱈に刀使の力を使うのもあれだし、範囲外(ロリじゃない)のわたしが行った方が良いの。…分かってくれる?」

 

「お姉ちゃんがそう言うなら…」

 

 

 言質を貰うことに成功したわたしは、結芽ちゃんに約束の場所を教えて貰い移動する。

 念の為、腰に御刀──山鳥毛一文字を下げて行く。

 使うつもりも予定もないが、威嚇や牽制にはなるし、刀使として基本は常時身に付けるものだからだ。

 

 

 ……まぁ、わたしはあまり戦場に出ない故に、腰に下げることも偶にしかないが。

 すれ違う人に会釈をしながら、ようやく辿り着いた先には、先日わたしにラブレターを送って来た人と同じ人が居た。

 

 

 交際をしないで良かったと、心の底から思った瞬間である。

 

 

「え? つ、燕さん!? い、妹さんを呼んだつもりなんだけど…」

 

「ごめんなさい。結芽ちゃん、お付き合いとかはまだ、よく分からないって。代わりにわたしが断りを入れに来たの」

 

「そ、そっか。あ、ありがとう」

 

「いいえ、こちらこそ」

 

 

 結芽ちゃんを好いてくれる人に、悪い気分はしない……けど、あの子に手は出させない。

 挙動不審な彼に一歩づつ近付き、壁際まで追い込む。

 そして、逃げ道をなくすように、壁に手を付き耳元で囁くように言った。

 

 

「あの子に手を出したら……許さないから

 

「は、はぃぃぃ!!」

 

「言い返事だわ。それじゃ」

 

 

 完璧な作り笑顔を貼り付け、彼に軽く手を振って、部屋へと戻る。

 長い廊下は退屈だが、結芽ちゃんの下へ帰る為だと思うと全く苦ではない。

 

 

 お帰り、と笑顔で迎える可愛い妹に、ただいまと返すと、わたしは自室(聖域)のドアを閉め、鍵を掛けた。

 

 

 わたしと結芽ちゃんの為だけにある空間に、異性など必要ない。

*1
カリギュラ効果である




 次回もお楽しみに!

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摘花ちゃん視点の過去話は見たい?それとも日常の話が見たい?……過去編は少し重いかも

  • 過去話やろ!
  • 日常一択!

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