今回は
姉妹で使っても有り余るくらい広い部屋で、わたしとお姉ちゃんは過ごしている。
ここは、お姉ちゃんとわたしに宛てがわれた、刀剣類管理局本部の元応接室の一つ。
元が、応接室と言う事もあって、家具は一通り揃っているし、簡易キッチンまで着いている。
右半分がわたし、左半分がお姉ちゃん。
初見の人でも見分ける方法がある…それは、部屋の綺麗さ。
正直、わたしは片付けがあまり得意じゃない。
お姉ちゃんに手伝ってもらって何とか…と言ったレベル。
勿論だが、一人で片付けがまともに終わった事はない。
片付けをしてる時に懐かしい漫画やアルバム、お気に入りだったオモチャやぬいぐるみを見つけては、遊びまくっているからだ。
お陰で、わたしが使う右半分はお世辞でも綺麗とは言えない。
ベット周りにはいちご大福ネコのグッズが散乱としている。
反対に、お姉ちゃんが使う左半分は、整然としている。
頭を使うのは苦手なので分からないが、なんでも効率を重視しているらしく、よく使う物はベットや机の近くに、使わない物は端の方に追いやる事で、上手く整理している…と言っていた。
取り敢えず言える事は、わたしのお姉ちゃんは凄い!
と言う事だけだ。
そんなお姉ちゃんは今、真ん中にあるイスに座り、一通の手紙を読んでいた。
因みに、お姉ちゃんは左側のイスに座っていて、反対側にもテーブルを挟んで同じイスがある。
「……ふぅ」
「そのお手紙、誰から?」
「ん? これの事? お手紙って言うより、ファンレター…かな?」
「ファンレター?」
わたしがそう聞き返すと、お姉ちゃんはコクリと頷いた。
ファンレター…か、お姉ちゃんがそれを貰うのは全く可笑しい事じゃない。
何故なら、お姉ちゃんはいつもいつも頑張っているから。
誰だって応援したくなるし、好きになる。
真剣な表情の時のお姉ちゃんを見て、応援したくならない人や、好きにならない人は、頭が可笑しいとしか言えない。
だって、あんなに凛々しくてキリッとした顔付きなのに、人を見る目は優しいんだよ?
自分が出来ないことをやってくれる人に、尊敬の念をちゃんと持っている、人格者の中の人格者、善人の中の善人だよ?
そんなお姉ちゃんを、応援したり好きになれない人を、わたしは理解できない。
だからこそ、わたしはそのファンレターを書いた人に興味が湧いた。
大好きなお姉ちゃんをしっかりと見てくれている、嬉しい事実。
お姉ちゃんを奪おうとするなら敵だが、そんな事をしなければ良き同士としてやっていける。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん? わたしにも、そのファンレター見せてよ〜!」
「えぇ〜…それはちょっと恥ずかしいかな? …ごめん、結芽ちゃん。お姉ちゃん、この後、真庭本部長に呼ばれてるから指令室に行くね? 結芽ちゃんはどうする?」
「今日は任務もないしなぁ〜…。部屋でゴロゴロしてる」
「分かった。なるべく早く帰ってくるから、良い子で待っててね」
「うん!」
優しく頭を撫でた後、お姉ちゃんは手紙──もといファンレターを、余程見られたくなかったのか、小型金庫に入れて出て行った。
…よく、テレビや漫画で見るけど、「開けるな」とか「見るな」って念押しされると、やりたくなるよね。
心理学の番組で言ってた名前は、かり…かり…カリラギュ効果? *1だったっけ?
まぁ、そんなのはどうでもいい。
「ファンレター! ファンレター!」
テンション高めに声を上げて、わたしは小型金庫のパスワードを解除する。
いい加減、なんのパスワードでも、わたしの誕生日を入れるのはやめた方がいい。
それじゃ、防犯機能の意味ないから。
鼻歌交じりに、ファンレターを取り出し、中身を見る。
書かれていた文章は──
『貴女のことが好きです』
たった一言。
その、たった一言で、わたしの中にあった熱が急激に冷めていく。
奪われる。
このままだと、お姉ちゃんが奪われる。
わたしの、わたしだけのお姉ちゃんじゃなくなる。
そんなの……許せないっ!
許せるわけがないっ!
誰にも、奪わせない。
お姉ちゃんの隣はわたしの場所だ、わたしだけが許された場所だ!!
お姉ちゃんの一番はわたしだ、わたしだけがそこに居て良いんだ!!
「…行かなきゃ」
さっき外に出たのは、きっとファンレターの皮を被ったラブレターの、返事をするためだ。
場所なんて分からない。
分からないけど、お姉ちゃんが何処にいるかなら分かる。
本当は、この施設内で刀使の力を使うのは、暗黙の了解で禁止されているがそんなの関係ない。
御刀を持つ事で研ぎ澄まされる五感を使い、場所を割り出す。
匂いは…微かに残っている。
写シを張り、迅移を使って匂いを追い、そして着いた先に、二人は居た。
ラブレターを書いた相手は、優しそうな雰囲気が漂うカッコイイ男性。
イケメンと呼ばれる部類に入る人で、不覚にも一瞬、お姉ちゃんとは美男美女カップルとしてお似合いだと…そう思ってしまった。
捨てられる……そんな事はありえないが、付き合い始めて時間が経てば、自然とわたしは一番じゃなくなる。
嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!!
そんなの……嫌だよ……
邪魔なんてしたくなかった、けどわたしは、いつの間にか走り出して、お姉ちゃんの背中を抱き締めた。
「きゃっ! …ゆ、結芽ちゃん!? どうしてここに……」
「つ、燕さんの妹さんですか?」
「え、えぇ。ごめんなさい。…結芽ちゃんもごめんね。後で、ちゃんと──」
「…お姉ちゃんの一番はわたしだもんっ! だから、お付き合いなんて……しちゃヤダ!」
言葉を遮るように、わたしは叫んだ。
それを聞いたお姉ちゃんは、笑って言った。
「大丈夫」、と。
丁寧に、お姉ちゃんは交際を断り、その場を離れた。
廊下を少し歩くと、ソファと自販機のある休憩スペースでわたしたちは立ち止まる。
……わたしは嘘をついた理由を、聞くことにした。
「なんで、嘘ついたの?」
「…結芽ちゃんが機嫌悪くしちゃうかなぁって思って」
「嘘つかれる方がヤダ。……嘘つくお姉ちゃん、嫌い」
「えぇ!? ひ、酷いよ〜! お、お願いだから機嫌直して? お姉ちゃん何でもするよ? ハグ、ハグがいい?」
そう言って、わたしの機嫌を直そうと、お姉ちゃんは抱き締めてくる。
柔らかく太っていない筈なのにモチモチな体。
温かい抱擁に顔が蕩けそうになるが、ここで許してはダメだ。
わたしがどれだけ不安だったか……それを思い知らせなくちゃ!
「……ふーん」
「こ、これでもダメなの!? なに、お姉ちゃんは何すればいいの? わたし、結芽ちゃんに嫌われたままだと、お仕事に支障が出るんだけど!!」
「へぇ〜、お仕事の為…なんだ」
「うぅぅ、ち、違うよ! 結芽ちゃんに嫌われてると、なんにも力が入んなくなっちゃうの! それに、わたし自身、結芽ちゃんに嫌われてるのがやなの!」
「…じゃあ、チューしてよ。頬っぺとおデコは禁止ね?」
「……わ、分かりました」
一瞬、躊躇うように言葉を詰まらせたお姉ちゃんだったが、少し頬を赤くして了承した。
目を瞑って、お姉ちゃんのチューを待つ。
少しづつ流れていく時間の中、そっと、柔らかい感触が唇に伝わる。
目を開けると、顔を真っ赤にしたお姉ちゃんがそこに居た。
意地悪したくなったわたしは、揶揄うようにこう言った。
「次やる時は、あんまり待たせないでね? …待たされ過ぎると、お姉ちゃんの事、好きになれないかも…?」
「ぜ、善処させていただきます……」
クスクスと笑いながら、わたしはルンルン気分で、スキップで廊下を進む。
それを追い掛けるように、お姉ちゃんはわたしの隣に並んだ。
横を見ると、大好きな人が居る、それはとても大切な事。
聞きたくない疑問ではあるが、これは聞かなきゃいけない。
ねぇ、お姉ちゃんはどうするつもりだったの?
「もし、あそこで結芽ちゃんが来なかったら?」
「うん。わたしが止めて欲しいって駄々…こねなかったら、どう答えてたのかなって」
「断ってたよ。わたしには妹が居るからって。……シスコンだからね、わたし」
「…そっか…そっかぁ。うん、わたしも、もし告白されたらそう言う!!」
「ふふっ。そしたら、わたしたちシスコン姉妹だね」
「だねー!」
二人で笑って、部屋に戻る。
揃って笑い合う時間は幸せな一時、これからもずっと、こうしていたいと思った。
◇
ラブレター事件から数日。
驚く事に、結芽ちゃんにもラブレターが届いた。
字体から見るに、男性な事は間違いない。
結芽ちゃんを好きになるのは、見る目があると褒めて上げたいが、一言言おう。
『犯罪』だと。
この刀剣類管理局本部に居る男性の殆どは、成人済みの大人だ。
若くても二十代前半、下手をすれば三十代から四十代の人も居る。
わたしの世界一──いや、宇宙一可愛い妹、結芽ちゃんは十三歳。
この子を好きになるのはしょうがない。
なにせ、刀使の才能もあって可愛くて、可愛くて可愛くて可愛いのだ。
好きにならない人がいるなら、それは精神が壊れた狂人か、女性に興味を持てない方々だろう。
だけど、犯罪なものは犯罪だ。
わたしがしっかりと
「わたしが断りに行くから、結芽ちゃんは待ってて。場所は書いてある?」
「断りに行くにしても、わたしが行った方がいいじゃない?」
「ダメよ。世の中には無理矢理押し倒してくる、怖〜い人だって居るんだから。無闇矢鱈に刀使の力を使うのもあれだし、
「お姉ちゃんがそう言うなら…」
言質を貰うことに成功したわたしは、結芽ちゃんに約束の場所を教えて貰い移動する。
念の為、腰に御刀──山鳥毛一文字を下げて行く。
使うつもりも予定もないが、威嚇や牽制にはなるし、刀使として基本は常時身に付けるものだからだ。
……まぁ、わたしはあまり戦場に出ない故に、腰に下げることも偶にしかないが。
すれ違う人に会釈をしながら、ようやく辿り着いた先には、先日わたしにラブレターを送って来た人と同じ人が居た。
交際をしないで良かったと、心の底から思った瞬間である。
「え? つ、燕さん!? い、妹さんを呼んだつもりなんだけど…」
「ごめんなさい。結芽ちゃん、お付き合いとかはまだ、よく分からないって。代わりにわたしが断りを入れに来たの」
「そ、そっか。あ、ありがとう」
「いいえ、こちらこそ」
結芽ちゃんを好いてくれる人に、悪い気分はしない……けど、あの子に手は出させない。
挙動不審な彼に一歩づつ近付き、壁際まで追い込む。
そして、逃げ道をなくすように、壁に手を付き耳元で囁くように言った。
「あの子に手を出したら……許さないから」
「は、はぃぃぃ!!」
「言い返事だわ。それじゃ」
完璧な作り笑顔を貼り付け、彼に軽く手を振って、部屋へと戻る。
長い廊下は退屈だが、結芽ちゃんの下へ帰る為だと思うと全く苦ではない。
お帰り、と笑顔で迎える可愛い妹に、ただいまと返すと、わたしは
わたしと結芽ちゃんの為だけにある空間に、異性など必要ない。
次回もお楽しみに!
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摘花ちゃん視点の過去話は見たい?それとも日常の話が見たい?……過去編は少し重いかも
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過去話やろ!
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日常一択!