燕シスターズ   作:しぃ君

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 皆さんのお陰で評価バーに色が着きました、UAも1000を超えました!やったぜ!
 遅ればせながら、意外に優秀な球磨さん、椿桜さん、高橋実さん、☆9評価ありがとうございます。

 ぼるてるさんに、ケチャップの伝道師さんも、☆6並びに☆5評価ありがとうございます。

 …今回のお話には人を選ぶ内容があります。(未成年の喫煙描写や飲酒示唆)
 それでも良いと言う方のみ、見て行ってください!



ダメなんかじゃない

 ふと気が付くと、わたしはある書類を手に持ったまま、重いため息を吐いていた。

 

 

「お姉ちゃん? 顔色悪いけど…もしかして、また無理してる?」

 

「…ううん、大丈夫。気にしないでいいよ」

 

 

 こちらを心配そうに見つめていた結芽ちゃんに大丈夫だと返すと、それ以上は追求して来なかった。

 …どうやら顔色も良くなかったらしい。

 

 

 自然と、また出そうになるため息を抑えて、もう一度書類に目を通す。

『年の瀬の大災厄』から早数ヶ月、荒魂の出現頻度は増えに増え、それに比例するように刀使の出撃や遠征の頻度も増えている。

 刀剣類管理局本部に駐在するような刀使は、優秀な者ばかりなので、出撃や遠征の頻度は伍箇伝に通っている刀使より多い。

 

 

 その分、肉体的にも精神的にも疲労が強く、休暇は出しているものの、完璧にそれが取れることはない。

 先日のわたしが倒れた件も、組織として重く受け止めたらしく、仕事の効率化を進めているが……簡単にはいかないだろう。

 

 

 次は誰が倒れるか分からない。

 もし、わたしを含めた、弟子兼部下の二人以上が倒れた場合……作戦指揮と立案は他の者にも回される可能性がある。

 あの子たちなら、わたしと同じように死傷者を限りなく0に出来るだろうが、もし他の者にも回ったら? 

 

 

 …勿論、信用していない訳じゃないが、確率は上がる。

 戦線に出る者が、安心して戦えるようにするのがわたしの仕事だ。

 それが出来なかったら、わたしの価値は…一体なんだ? 

 

 

 グルグルと頭を回る、ネガティブな考え。

 答えも出ないし、考えが消える事もない。

 どうしようもなくなって、わたしは一度外に出る事にした。

 

 

「結芽ちゃん。わたし、少し中庭に行って、外の空気でも吸ってくるね」

 

「…ん。分かった〜」

 

 

 間の抜けた声を背に受けながら、わたしは部屋を出る。

 小さな箱のような物を持って。

 

 ◇

 

 中庭に出ると、わたしの他に人影は見えなかった。

 今はまだ夕暮れ前、殆どの者が仕事中なのだから、当たり前と言えば当たり前。

 わたしは、持ってきていた模様の入った小さな箱から、一本のタバコとライターを取り出す。

 

 

 少しだけ風が吹いていたので、ライターの火が消えないように手でガードし、口に咥えていたタバコに火を付ける。

 火を付け終えたら、ライターの役目は終了。

 タバコを吸い、煙を少しだけ口に含み、その後は、咥えていたタバコを、昔見た父さんの真似をするように、人差し指と中指で挟み口から離す。

 

 

 口からタバコを離したら、今度は空気を吸って煙を肺に送り込み、間を置いてから、口から垂れ流すように煙を吐き出した。

 …態々、座りながら喫煙出来るように、ベンチの近くに公園で見る大きな灰皿を置いてくれるのは、素直に有り難い。

 

 

 吸い終わった分の灰を灰皿に落とし、また一服。

 最初は苦さや臭さを感じていたが、何時の間にか慣れてしまった。

 …元々、お偉いさんと会う時は、良くタバコを吸われる方が居るので、受動喫煙には慣れがあったがそれとはまだ違う感覚だ。

 

 

 吸い始めてまだ数ヶ月。

 …丁度、『年の瀬の大災厄』が終わってすぐだ。

 あの時も、わたしは精神的に追い詰められていて、逃げ道としてタバコを吸い始めた。

 

 

 何度か注意はされたが、辞める気にはなれない。

 頻繁に吸うわけじゃないし、別に逃げ道に使ったって良いじゃないか…そんな考えさえ持っていた。

 

 

 先程まであったネガティブな思考は何処かに消え去り、わたしは頭を空っぽにして煙と戯れる。

 だけど、そんな時間も長くは続かない。

 何処からともなく現れた寿々花ちゃんが、わたしの持っていた──いや、吸っていたタバコを力任せにひったくり、火を消して灰皿に押し込んだんだ。

 

 

 冷ややかな軽蔑な目を、わたしに向けているのが見なくても分かる。

 自嘲気味に笑いながら、彼女に顔を向けた。

 

 

「酷いなぁ、寿々花ちゃん。まだ、吸ってからそんな経ってないんだよ? 世の中にはタバコ休憩と言うものが──」

 

「そんなの知っていますわ。ですがそれは、未成年の貴女には通用されません。簡単な事ではなくて?」

 

「……本当に、やだなぁ」

 

 

 寿々花ちゃんにバレたのは痛手も痛手。

 ……まぁ、結芽ちゃんにバレた時が一番の痛手で絶望だが、それはそれ。

 結構鋭いからなぁ、寿々花ちゃん。

 

 

 多分、わたしがそこそこ吸ってる人だって、間違いなく気付いてるよね。

 諦める以外の選択肢は──無い。

 正直、本当の事を言った方が、情状酌量の余地を与えてくれるかもしれない。

 

 

 そんな考えに至ったわたしは、結局、全てを話した。

 精神的に参った時の逃げ道として喫煙をしていた事と、今は何があって喫煙していたのか…を。

 話に相槌を打つ彼女は、呆れたような悲しいような、そんな曖昧な苦い表情でわたしを見つめる。

 

 

 …まだ、なにか隠しているんだろ? 

 そう言わんばかりの視線だった。

 

 

「…タバコを始める前は、真庭本部長にアルコール類を勧められたの。適度なアルコールは頭の回転を良くしてくれるし、少し飲みすぎても良い意味でネガティブな思考を忘れさせてくれるから…って」

 

「悪質な詐欺の勧誘ですわ。…もしかして、摘花さん?」

 

「そのもしかしてだよ。わたし、依存しやすいタイプだったのかな? 段々お酒に溺れていって、三日もしない内に飲み過ぎで急性アル中起こして病院に搬送された。……真夜中で良かったよ、結芽ちゃんを起きてたらなんて言われてたか」

 

 

 依存しやすいタイプ。

 …いや、と言うよりは、依存することでしか、自分の存在を確立できない人間なのかもしれない。

 アルコールやニコチンに依存しなくても、わたしは結芽ちゃん()に依存している。

 その証拠が、あの子が死んでからの虚無の期間だ。

 

 

 ヤバイ薬に手を出さないまともな思考が残っていて良かった。

 そんなのにもし、手を出したら……

 考えるだけでゾッとする。

 廃人になって一生戻ってこられなくなるのは確定事項だ。

 

 

 冗談混じりに話すわたしを、寿々花ちゃんは未だに曖昧な表情で見つめている。

 今は、どちらかと言うと、呆れの感情が強い…かな。

 

 

「……結芽ちゃんには──」

 

「言わないで? ですか? どれだけ都合の良い、お花畑な頭をしていらっしゃるのかしら。とても知将とは思えません。…それに、結芽の事を想うなら思い切って全てを話して、受け止めて貰うべきです」

 

「………………」

 

「摘花さんがあの子に、笑って幸せに生きて欲しいなら、貴女は長く生きなければいけません。何故なら、あの子の笑顔には、あの子の幸せには、貴方が笑顔で幸せであることが必要だからです」

 

「…………ありがとね、寿々花ちゃん。これ捨てといて貰っていいかな?」

 

「えぇ、喜んで」

 

 

 お嬢様らしい気品の溢れる笑を零す彼女に、わたしは残ったタバコとライターが入った模様入りの小さな箱を渡す。

 …もう、必要のない物だ。

 

 

 それに依存しなくても、わたしは等身大のあの子に全力で依存すれば良い。

 それだけの、話なのだ。

 姉として失格かもしれない…けど、しょうがないじゃないか。

 

 

 あんな事を言われて、結芽ちゃんに依存しないなんて…わたしには出来ない。

 だって、今の話が本当なら、結芽ちゃんもわたしに依存していると言うことでしょ? 

 

 

 共依存…良くはないが、たった二人の家族で姉妹なんだから、大目に見て欲しい。

 動き出した足を止めないように、わたしは走って部屋に戻った。

 

 ◇

 

 お姉ちゃんが出て行って、二十分ほどが経った。

 外の空気を吸ってくると言った割には随分と遅い。

 …可能性は低いけど、また面倒な仕事を押し付けられたんじゃないかと、わたしが心配していると、突然部屋のドアが開かれ、額に大粒の汗をかいたお姉ちゃんが現れた。

 

 

「ど、どうしたのお姉ちゃん!?」

 

「結芽ちゃん! …わたし…わたしね…言わなきゃいけないことがあるの!」

 

「と、取り敢えず落ち着いて話してよ。ちゃんと聞くから…」

 

「う、うん。ごめんね。…実は──」

 

 

 聞かされた話は、あまり良い話ではなかった。

 飲酒に喫煙をしていた事や、精神的に追い詰められていてそれに走った事。

 全部聞き終えたわたしは、少しだけ悩んで、お姉ちゃんにこう言った。

 

 

「…お姉ちゃん、屈んで」

 

「えっ? …分かった」

 

 

 何かを覚悟したかのように、お姉ちゃんは目を瞑る。

 別に酷いことなんてする訳ないのに……

 わたしは苦笑しながらも、屈んだお姉ちゃんの頭を、自分の胸に当てるように抱きしめた。

 そして、お姉ちゃんの耳元で、『悪くないよ』と『頑張ったね』と言い続ける。

 

 

 いつもそう言ってくれたから、今度はわたしが言う番だ。

 次第に、お姉ちゃんから嗚咽が漏れ始め、涙が溢れ出ていく。

 一頻り泣いたあと、お姉ちゃんは眠ってしまった。

 時刻はまだ夕暮れ時。

 

 

 寝るには早いが、起こすのは可哀想だ。

 常日頃から鍛えていて良かったと、今日ばかりは思った。

 すやすやと眠るお姉ちゃんをお姫様抱っこの要領で持ち上げてベットまで運ぶ。

 

 

 軽い。

 流石に小柄なわたしよりかは重いと思うが、それにしても軽い。

 柔らかい体付きからは想像もできない軽さに少しだけ驚き、悲しくなった。

 

 

 あぁ、いつもこんな弱い体で、誰かの為に戦っているんだと思うと、本当に悲しくなった。

 場所は違う、やる事も違う、けどお姉ちゃんだって誰かの為に戦っている、一番戦いたくない──自分と戦っている。

 

 

「いつもありがとう、お姉ちゃん」

 

 

 きっと、お姉ちゃんは自分をダメな姉だと卑下するだろうが、そんな事ないし、そんな事誰にも言わせない。

 わたしのお姉ちゃんは最高のお姉ちゃんだ。

 世界で一番カッコよくて、世界で一番弱い、わたしの自慢の…お姉ちゃんだ。

 




 主人公簡易プロフィール

名前:燕 摘花
容姿:結芽と同じく桜色の髪を伸ばしポニーテールでまとめている。瞳の色も同じく碧眼であり、カッコイイとも可愛いとも言える顔立ち。モデル体型であり出る所は出て、引っ込むところは引っ込んでいる。
所属:綾小路武芸学舎(籍だけ)
年齢:18歳
誕生日:4月26日
身長:170cmくらい
血液型:B型
好きなもの・こと:結芽・家事全般
御刀:山鳥毛一文字
流派:天然理心流

摘花ちゃん視点の過去話は見たい?それとも日常の話が見たい?……過去編は少し重いかも

  • 過去話やろ!
  • 日常一択!

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