セブンスドラゴン2020 episode GAD   作:綾田宗

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人類の反撃

Chapter1 the Warcry

 

 Phase1 謎の声

 

 鎧を纏ったような姿の深紅のドラゴンが、数多の配下を引き連れ、都庁屋上へと下り立った。

 交戦するトウジとリアンであったが、力の差は歴然であり、二人はあえなく敗れてしまう。

「う、ううう……!」

「し、四季、お前だけでも、身を、隠せ……!」

 二人が地に伏してしまった瞬間、シュウは、全身がすくんで動けなかった。

ーー私も戦わなきゃ……でも、あの二人でも敵わない相手に、私が……ーー

 シュウは、完全に戦慄していた。どうあがいても目の前の敵には勝てない。やがてやって来るであろう死の予感に、体を震わせるしかできなかった。

ーー……何をしているーー

 恐怖に包まれたシュウの心に、ふと声が届いた。

 その声は、シュウの反応を待つことなく続ける。

ーー汝は『狩る者』。この星を幾億もの遠き宇宙より来る侵略者から救う力を持つ存在。抗う力は備わっているーー

「うっ!? くうう……!」

 次の瞬間、シュウは全身に熱を帯びた。

ーー戦え。抗え。そして全ての侵略者、『竜』を狩り尽くすのだーー

 シュウは、この声を聞いたのを最後に、自我を失った。その後、シュウは圧倒的な力を以て深紅のドラゴンと戦い、その片腕を弾き飛ばす深傷を負わせた。

 その後、シュウは意識を失い、倒れたのだった。

 次にシュウが気が付いたのは、どこまでも広がり、星々の瞬く宇宙空間のような所だった。

 足下には地面らしいものもなく、そこにも星がいくつも煌めいている。

 シュウは、まさしく宇宙空間に放り出されたような状態となっていた。

「ここは……何? まさか私、死んで……!?」

 どこからともなく、シュウに声が伝わった。

ーー汝は、未だ死なず……ーー

「誰!? どこにいるの!」

 シュウは立ち上がり、辺りを見渡した。しかし、どこまでも広がり続ける宇宙に、億兆の星が瞬くだけの風景がいつまでも続くだけである。

ーー汝は『狩る者』。星の守護者……ーー

 どこからともなく聞こえる声は続ける。

ーー汝、戦いより逃れること能わず。これは宿命であるーー

「戦いから逃げられない、って一体何を言ってるの!? 私はどうなるのよ!」

ーー運命は既に動いている。理解せよ。汝が戦わねば、この星は宇宙の塵と消えようーー

「星が、消える……?」

ーーこの星の命運は、汝の決断に委ねられる。ゆめゆめ選択を誤らぬことだーー

 シュウは、不意に目眩を感じた。

ーー目覚めの時は近い。汝の選択に星の全てが決まる……ーー

 これを最後に、シュウに届く声は止んだ。それとほぼ同時であった。シュウの意識が遠のき、その場に倒れたのは。

 

 Phase2 くすぶる生命

 

 体と心が、ずっと遠くにあるような感じが、次第に覚めゆく意識とともにはっきりしていく。

 シュウは、ゆっくりと目を開けた。真っ白で、無機質な天井が真っ先に目に入ってくる。

「……ここは?」

 鈍い目眩を振り払いながら、シュウは自身が寝ていたベッドから体を起こした。

 辺りには、同じようなベッドがいくつも並んでいた。入院患者の使うそれに違いなかったが、この場所は病院にしては、あまりにも閉鎖的な空間であった。

「……う、うう……」

 ふと、同室のベッドに横たわる、負傷した自衛隊員がうわ言を言った。

「ドラゴンが……ドラゴンが来る……!」

 自衛隊員の青年の傷は広範囲に渡っており、全身に巻かれた包帯の隙間から垣間見れる傷は、ひどくただれた火傷であった。

 シュウは、見たこともないほどの火傷を負った自衛隊員を見て竦んでしまった。

 不意に、部屋の外から警報音が鳴り響いた。続けざまに数名の人が駆けていくような足音がする。

 何事かと思ったシュウは、部屋から出ていった。

 部屋の外は、まるで突貫工事で造り上げられたような武骨な風景であった。

 警報音は相変わらず鳴っていた。警報器は廊下にあり、その音量は倍以上に感じられた。

「一番隊はシェルター入口まで先行しろ。二番隊は後方支援だ。ドラゴン一匹、いや、アリンコ一匹通すんじゃねェぞ!」

 指示を受けた自衛隊員たちは、素早くシェルターから出ていった。

 シュウは、自衛隊の動きに、何が起きているのかと、呆けてしまっていた。

「あン? なっ、お前、シュウじゃねェか!?」

 自衛隊に指示を出していたのはガトウであった。呆けてしまっていたシュウは呼ばれた事にすぐに気づけなかった。

「……ガトウさん?」

 ひどく驚いていたガトウに、シュウは確認を取る。

「目ェ覚ましたのか!? だったら話がある。一旦医務室に戻れ」

 ガトウに言われ、シュウはガトウと共に医務室へと戻る。

 互いに向き合えるベッドに、二人は腰を下ろした。

「体はもういいのか?」

「はい、寝起きで少し眠いくらいですけど」

「一晩寝たくらいの感じか。普通眠気が残る程度じゃあすまねェぞ。一体お前の体はどうなってやがる……」

「それよりもガトウさん。一体何が起こっているんですか?」

「そうだな、さてどこから話したもンか。訊いて驚くンじゃねェぞ。世界はドラゴンの支配下になっちまった……」

 ガトウによると、シュウは一ヶ月間ずっと眠っていたとの事だった。

 シュウの眠っていた間に、日本、いや全世界がドラゴンの襲撃を受け、最早地球は滅亡の危機に瀕していた。

「一ヶ月、お前が寝ている間世の中はすっかり様変わりしちまった。外じゃ何億人死ンだか分からねェ。選抜試験の日に、あちこちに咲いてた花の毒とドラゴンそのものにな……」

 ドラゴンの支配下に咲くフロワロには、一輪で何十万人もの人を殺傷する猛毒があった。

 しかし、全ての人間が殺されるわけではなく、十万人中百人ほどがフロワロに耐性ができ、今でもシェルターで避難生活をおくっている。

「この新宿御苑地下シェルターにもドラゴンの奴らが進行してきやがるようになった。ここがいつまで保つか、時間の問題だ」

 シュウは、全てを一度に理解できず、閉口してしまっていた

「悪りィな。こんな突拍子もないこと、急に信じろったって無理だよな。そんな顔になるのも仕方のねえこった」

 シュウは、まるで夢を見ている気持ちだった。

「……今までの話、全部本当なんですね?」

「あァ、全て事実だ、残念な事にな。お先真っ暗てやつだ」

 このままドラゴンに震えつつ食糧がなくなるまでいるか、ドラゴンにシェルターを破られ、その牙にかかるか。残された人類にできることがあるとは思われなかった。

「ただしだ。この状況でなンにもできねェかっつったら、まあ、できることが

ないわけじゃねェ」

 ガトウの言うできる事とは、ドラゴンとの徹底抗戦であった。自衛隊、ムラクモ機関との共闘でドラゴンに挑み、人類の居場所を奪い返すのである。しかし、勝算はかなり低くもあった。

「ドラゴンと戦うなンて死に急ぐ真似をしたくねェなら、それもいい。食糧が尽きるまで寝て過ごすのもシュウの自由だ」

「私の……自由……?」

「あン? オレか? オレはそんなのはゴメンだ。いつまでもドラゴンどもにいいツラさせておくつもりはねェ」

 ガトウは、ベッドから立ち上がった。

「あァそうだ。トウジとリアンだが、一ヶ月前、お前が寝てた頃に回復して作戦に参加してる」

「二人は無事なんですか!?」

 二人の安否は、シュウの知りたいことの一つであった。

「あァ。トウジはまあ、当たり前だが、リアンも作戦に参加してる」

 二人は一月前にシェルターに運び込まれたが、すぐに回復してドラゴン討伐作戦にあたっていた。

「リアンは、戦うことを自分で選んだんですか?」

「あァそうさ。選抜試験の時に見てたから分かるだろうが、リアンは能力者だ。だからか、ドラゴンを倒す事に同意したんだ」

 ドラゴンと対峙して戦いになるのはS級能力者のみである。リアンにはその力があった。

 シュウにも戦えるだけの能力があった。しかし、すぐに決心する事はできなかった。

「私が行っても、足手まといにならないでしょうか?」

「何言ってやがる。お前、トウジたちとでかい親玉級のドラゴン、通称帝竜と戦ってた時すげェ力を発揮したそうじゃねェか。自信持てよ」

 シュウは、自信など持てるはずがなかった。帝竜と戦った時何故か意識が曖昧になり、自分の力で戦った記憶がはっきりしていなかったのだ。

「……と、オレとしたことが喋りすぎたか。死を待つか、戦うか。決めるのはシュウ次第だ。じゃあな」

 ガトウは、医務室を去っていった。

 シュウは、ベッドの上に座ったまま考えた。

ーーこんな時、お祖父ちゃんなら何て言うかな……?ーー

 鬼教官と恐れられたシュウの祖父は、何事にも白黒つけないといけない人であった。鬼と恐れられながら、正義感もとても強い人であった。

 彼は戦いの道に進むのを厭わない人物であっただろう。

ーー戦う力……本当に私にあるなら……ーー

 シュウはまた、意識が朧気になった。

「うっ……!」

 シュウの脳裏に声にならない言葉が流れた。

ーー戦いの時はやってきた。最早逃げる道はない……ただその身を以て竜を狩れーー

 言葉が消えると、シュウの意識はもとに戻った。

「戦いの時……」

 ふと、医務室のドアが強く開けられた。更に負傷した自衛隊員が運び込まれたのだ。

 遠目からでも分かるほどの大怪我をしているようだった

「ドラゴンが……つよ、過ぎる……!」

 苦しそうにうわ言を言う自衛隊員を見て、シュウは決意した。

ーードラゴンを倒せば、これ以上怪我人は増えないーー

 脳裏に浮かんだ言葉よりも、実際に怪我をしている人を見ることで、シュウの気持ちはドラゴン退治に向いたのである。

ーー絶対にこれ以上人を苦しめない!ーー

 シュウの決意が固まった瞬間であった。

 

 Phase3 反撃の狼煙

 

 場所は新宿御苑の地下シェルター。その最奥には外部と通信のできる作戦指令室がある。

 ここにはイヌヅカ総理ら政界の人間、自衛隊の上層部、そしてムラクモ機関が集まる、人類最後の拠点と言っても過言ではない。

 事態は政界の人間にはどうすることもできず、既に指令の権限はムラクモ機関に一任されていた。

 自衛隊の仕切りもムラクモ機関の手にあり、ドラゴン駆逐の全てはムラクモ機関に託されていた。

 今もまた、各方面の人々がこの作戦指令室に集まり、次の作戦を立てる会議を行っていた。

「四季シュウ。まずは勇気のある決断、ありがとう」

 会議の司会進行を務めていたのは、ナツメであった。その補助には研究員のキリノがあたっていた。

「ヴァイタルチェックも問題ありません。一ヶ月寝ていたのが嘘みたいですよ」

 キリノが言う。

「俺からも礼を言うぞ、四季。本宮と二人ではドラゴンと戦うのに限界を感じていたところだからな」

「ちょっと、それってわたしが役に立たないってこと? トウジ君」

 リアンは口を尖らせた。

「二人では、と言っただけだ。戦力が増えるのは今の状況を鑑みるにありがたい事だからな」

「ちょっと二人とも……!」

 なにやら言い争いになりそうな二人に、シュウが差し挟んだ。

「……お話しを続けてもいいかしら」

 ナツメが状況を収めた。

 全員が黙し、ナツメに視線を向けると、ナツメは話を始めた。

「今のところ作戦は七〇%進んでいるわ。自衛隊とムラクモ機関の共同戦線でね。ここまで来たらドラゴンとの直接戦闘も逃れられなくなるわ。そうなったらガトウやあなたたちS級能力者の力が不可欠になる。必ずね」

 ガトウやナガレ、シュウたち三人がドラゴンに直接対決できるS級能力者である。一人でも欠けては戦いは辛いものとなる。

「ちょっと待ってくンねェか、ナツメ嬢」

 ガトウが差し挟んだ。

「いくらドラゴンと戦える頭数が増えたって言っても、こいつらを帝竜戦につれてくのは無理があると思うぞ」

「もちろん、帝竜の所まで行ってもらうつもりはないわ。三人にはガトウたちをサポートする役割にあたってもらうわ」

 それから、とナツメは、今までずっとモニターの前でキーボードを叩く二人を向いた。

「ナビ、都庁の現状はどうなってるかしら?」

「ナツメ総長の言う通りだ。作戦遂行率七十一%。マモノはほとんど倒せている」

 黒いインナーを身につけ、大きな袖口がまるで翼のような、一風変わった姿の中性的な少年が答えた。

「ですがドラゴンの数は減っていません。このまま手をこまねいていては、またこちらが不利になります」

 少年とほとんど同じ格好をした少女が続けた。

 この二人はよく似ており、兄妹かと思われた。

「Nav.3.6はガトウ隊の支援を、Nav.3.7はトウジ率いる十三班をお願い」

 ナツメは言った。

「了解」

「了解しました」

 二人のナビは立ち上がり、それぞれ担当する部隊に礼をした。

「Nav.3.7。実戦経験の浅い者たちが二人もいるが、安心しろ。俺もサポートする……」

「ねえねえ、さっきからその呼び方、物を扱うみたいで可哀想だよ。せっかく二人ともかわいい見た目してるのにさ」

 リアンが割って入ってきた。

「別にオレは気にならないけどな」

 少年の方のナビが答える。

「私たちはナビです。道具扱いされて然るべき存在です。呼び方など適当で良いのです」

 少女の方のナビも答えた。

「そんなぁ、二人ともノリが悪いなぁ」

 リアンは残念そうにシュウを見た。

「シュウちゃんもそう思わない?」

「私は……」

 シュウは考える。二人の姿形は可愛らしさに、武骨な名前など浮かばなかった。しかし、その辺にもいそうな名前も似合わない気がした。

「Nav.3.6、三六……みろく……Nav.3.7、みーな、はっ!」

 シュウは思い付いた。

「男の子の方はミロク、女の子はミイナって言うのはどうかな!?」

「ミロク君にミイナちゃん。いいよ、いいよシュウちゃん」

 リアンは賛同した。

「ミロク、ねぇ。まあいいよ、好きに呼んでくれ」

 ミロクは、名付けられても淡白な態度のままであった。

「ミイナ……これが私の名前……」

 対するミイナは、満更でもないようだった。

「素敵な名前を貰ってよかったわね、ミロク、ミイナ」

 ナツメは言った。

「さて、お喋りはここまでよ。ガトウは先行しているナガレと合流後帝竜への道を切り開いて。十三班は別にやって貰うことがあります」

 十三班の任務は資材集めであった。ただし、資材集めと言っても、ドラゴンを相手にしなければならない、十分危険の伴うものだった。

「いきなりドラゴンと対峙する任務になるけど、あなたたちにはドラゴン相手でも戦える力がある。バックアップはナビにやって貰うから、安心して」

 ナツメは言った。

 十三班の役目、それはドラゴンの屍体から溢れ出る血の中に存在する魔石、Dz(ディーゼット)を集めることだった。

 これは宝石の原石のような非常に不思議な石であり、加工すれば、あらゆるものになりうる、まさに魔法の媒体である。

「さあ、作戦開始よ。ガトウ隊十班にはミロクが、トウジ隊十三班はミイナがナビゲーションしてくれるわ」

 それぞれナビの担当が決まると、ミイナはシュウたちに小さく礼をした。

「ふつつか者ですが、ナビはしっかりやらせて貰います。よろしくお願いします」

「そう畏まるな、ナビ……ミイナ。俺がいれば容易い任務だ」

 トウジとリアンは、既にドラゴン退治の経験があった。任務の遂行になんら支障がなかった。

 しかし、シュウだけがドラゴンと対峙したことがなかった。その為シュウは不安だった。

「どうした四季? 顔色が悪いぞ」

「あ、いや、私はトウジ君のようにドラゴンを退治したことがないから、少し怖くて……」

「こわがる事なんかないよ、シュウちゃん。意外となんとかなるもんだよ?」

 リアンも戦闘経験があった。人間相手のナイフ使いでもドラゴンに通じたとのことだった。

「シュウ、お前はあの四季教官の孫だ。本当はすげェ力持ってンだろ?」

 ガトウもシュウを励ました。

「……そうでしょうか?」

 シュウは、自分から戦いの道を選んでおきながら怖じ気づく自分が情けなく思えてきた。

 シュウは、もう後戻りできる場所にはいなかった。戦いに身を置いて生きるか死ぬかの戦場に行くしかなかった。

ーーこんな所、お祖父ちゃんに見られたら怒られちゃうよねーー

 恐怖心を残しながらも、シュウは今度こそ決めた。

「分かりました。行きましょう」

 ガトウ、トウジ、そしてリアンにそれぞれ目配せすると、皆笑い返してくれた。

 シュウにとって、戦いの火蓋が切って落とされんとしていた。

 

 Phase4 『逆サ都庁』

 

 奪還対象となっている都庁は、ドラゴンの勢力下に置かれ、ダンジョンと化していた。

「これって!?」

 シュウ以外の者は、作戦で訪れているため驚く様子はなかったが、シュウは初めて見る異界になった都庁に驚きを隠せなかった。

「驚いただろう? 都庁の周辺全部まっ逆さまになっているんだ」

 トウジが言うように、大地が天に、空が地になっていた。

 天に地面がどこまでも広がっているような感覚を覚え、地には暗黒の空が気の遠くなるほどの広さをたたえ、日蝕の明かりだけがこの都庁を照らしていた。

「行くぞ、中の重力は元のままだ。漆黒の空に落ちることはない、臆せず進め」

 トウジが先行した。

「大丈夫だよ、行こ?」

 リアンが後に続いた。

 シュウは、これまでに見たことのない風景に、足が竦んでしまっていた。

 それでも勇気を出し、二人の後を追った。

 二人に続いてやって来た都庁の内部は、トウジの言う通り重力は変わっていなかったが、都庁そのものの天井を歩かなければならず、座りの悪さを感じずにはいられなかった。

 都庁に入ると、トウジは左腕にはめた機械仕掛けの籠手を操作し始めた。

「こちら十三班。本部応答願う」

 籠手に向かって話しかけると、籠手のモニターパネルが光り出し、ミイナの姿が浮かび上がった。

『こちら本部。都庁に到達したようですね』

「これから先はどこへ向かえばいい? ナビを頼む」

『ここから先上に……いえ、下に向かってください。都庁十階に今回の目的のドラゴンがいます。そのドラゴンの討伐、並びにDzの回収が今回の作戦行動になります』

「了解した。速やかに目的地にゆく。オーヴァ」

 トウジは通信を切った。

「聞こえていたと思うが、この都庁の十階が俺たちの目的地だ。敵はドラゴンのみではない。マモノも討伐対象だ。ぬかるなよ、四季、本宮」

 トウジは、二人に注意喚起する。

「いやー、今日もすごいね。何度来ても鳥肌が立っちゃうよ」

 リアンは言う。

「シュウちゃんもそうじゃない?」

「……こんな所本当に大丈夫? 突然大穴が空いてあの真っ暗な空にまっ逆さまなんて事はない?」

 シュウは不安の局地にいた。

「重力は感じてるように元のままだ。急ぐぞ」

 トウジはぶっきらぼうに言うと、回廊の天井を歩いていった。

 シュウは、天井という抜ける可能性の高い物の上を行くのに、恐怖心があった。

「四季、本宮! 敵だ。マモノが現れたぞ!」

 回廊を進んでいると、マモノが三体出現した。

 ラビという兎のマモノとエアーグラスという大きな蝶のマモノ、そしてマモノ化したオオツノシカである。

「戦力に大差はない。四季、お前はあの兎と戦え。リハビリには丁度いい相手だ」

「ええ!? こんな所で戦うの!?」

 戦力は勝り、負けるはずのない相手であったが、場所に怯えていたシュウは戦いにも恐れをなした。

「もたもたするな。早く戦え! いらん怪我をするぞ。俺はシカを殺る!」

「じゃあ、わたしは蝶々をやっつけるね」

 トウジがオオツノシカを、リアンがエアーグラスと相手取る事になり、シュウはラビとの戦いから逃れられなくなった。

ーー……怖いけどやらなきゃーー

 シュウは、帯びていた刀、加賀清光を抜いた。

 抜刀したシュウを見て、ラビは戦意をあらわにした。

 ラビは、持ち前の素早い動きでシュウに迫ってきた。そして鉄をも穿つ前歯を突き立てんとした。

「……えいっ!」

 勝敗は一瞬であった。

 シュウは、向かってくるラビの動きに合わせて突きを放っていた。

 突きは迷いなくラビの小さな額を穿ち脳を貫いていた。

 シュウの強力な突きで、生命力を失ったラビは霧散した。

「あ、あれ……?」

 倒した本人であるシュウが一番倒した事が信じられない様子であった。

「やるじゃんシュウちゃん!」

 既に毒の刃でエアーグラスを倒しているリアンが駆け寄ってきた。

「燃え尽きろ!」

 トウジも魔法の炎でオオツノシカを倒した。

 三人の手によってマモノは全滅した。

「戦いにすらならなかったな」

 トウジは言った。

「まぁ、もう慣れちゃったからね、マモノの相手は」

 リアンも余裕を見せる。

「あれ……こんなもんだったかしら?」

ーー四季、やはりお前は……ーー

 シュウ同様、驚かずにいられなかったのはトウジであった。

 負けるはずのない相手をあてがったつもりであったが、シュウはたった一撃でマモノを仕留めてしまった。リハビリなど最早不要だと思われた。

「体が動くわね。これならドラゴンとも戦えるかも」

 シュウが自信を持ち始めた時だった。

「油断は禁物だぞ、四季。今の戦力では、俺たち三人束になってようやく互角の戦いになる。ドラゴンとはそういう相手だ」

「心配しすぎだよ、トウジ君。きゆうってやつだよ」

「杞憂で済めばいいが……やはり分からん相手に変わりはない。要心して進むべきだ」

「そろそろ先に行かない? 二人とも」

 シュウは言った。

「二人の言い分は分かるわ。未知の力があるドラゴンには注意しなきゃだし、きっと倒せる相手だと自信を持つことも大事。ここで気をもんでいても仕方ないわ」

 シュウは、リーダーシップを発揮した。

 十三班のリーダーはトウジであるが、物事を慎重に進めるトウジのリーダーシップと違うものを、シュウは発揮したのだった。

「……そうだな。四季の言うのももっともだ。進むぞ!」

 シュウのリーダーシップを感じながら、トウジは先を急ぐ事にした。

「うん、行きましょ」

「わあ、二人とも待ってよぉ!」

 シュウたちは、逆さの廊下を進んでいくのだった。

「そう言えば四季、この環境には慣れたのか?」

「えっ? あれ……忘れてたわ」

 シュウは、恐怖心を感じなくなっていた。

「忘れた、だと? あれほど恐れていたというのに?」

「トウジ君の言う通り、慣れれば何ともなかったね」

 トウジは、シュウの適応力の高さに驚くしかなかった。訓練を積んだ自衛隊でも恐れをなす者が多かったというのに、シュウは歩き、マモノとの戦いの内に順応していたのである。

「どうしたの、トウジ君?」

 呆けてしまったトウジの顔を、シュウは覗き込んだ。

「ああいや、気にしないでくれ。さあ先を急ごう」

 マモノはその都度退治しながら、シュウたちは進んだ。戦う度に手応えを感じ、レベルアップしている実感を得ていった。

 そうして進んでいる内に、シュウたちは都庁の十階、今回の作戦行動の場所へたどり着いた。

 ピロピロ、とトウジの籠手が鳴った。

「こちら十三班」

 本部との通信だった。

『こちら本部。目的地に到着したようですね。このフロアに三体のドラゴンの反応があります。ドラゴンの戦力はマモノとは桁違いです。全員、個々の力を過信せず、三人の力を合わせて戦ってください』

「了解した。して、ドラゴンの反応は?」

『そこから二時の方向、一匹のドラゴン反応があります。休眠中なのか、そこに止まって動きがありません。戦うなら今がチャンスです』

「全て了解した。これよりドラゴン討伐を開始する。オーヴァ」

 トウジは通信を切った。

「四季、本宮。これからドラゴンとの戦いとなる。本宮は多少慣れているだろうが四季は初めてだ。俺たちが先導する、付いてきてくれ」

 いよいよドラゴンとの戦いになり、シュウは不安が募った。

ーー私にできるのかな……?ーー

 マモノとの戦いには慣れてきた。しかし、ドラゴンは深紅のドラゴンを相手取った時以来である。しかも記憶も曖昧である。不安になるのも仕方なかった。

 ミイナのナビどおりの方向にドラゴンはいた。

「静かに」

 トウジは小声で、それでもシュウとリアンには聞こえる声音で言った。

「あれを見ろ、ドラゴンだ」

「前にも見たやつだね。ドラゴハンマードって言ったっけ?」

 リアンは、以前に退治したドラゴンを覚えていた。

 頭部が金槌のようになっている恐竜のような姿をしたドラゴンである。

 ミイナの言っていたように、敵は眠っていた。バックアタックで奇襲を仕掛けるのがドラゴンとの戦いの基礎であり、

今が最大の好機であった。

「よし、四季、ファーストアタックはお前に任せる」

 突然の提案に、シュウは驚き目が白黒してしまった。

「なんで私が!? 私初めてなんだよ!」

 シュウはつい、大きな声を出してしまった。はっ、となってドラゴンを見た。

 ドラゴンはまだ眠っていた。一同はひとまず安心する。

「四季、この三人の中で攻撃力が一番あるのはお前だ。ファーストアタックで大打撃を与え、俺たちが後に続く。これがドラゴン退治の基本だ」

 理屈は分かるものの、やはりシュウは恐怖心が勝っていた。

「四季、いつ奴も目覚めんとも知れん。覚悟を決めてくれ」

「……分かったわ。私にしかできないのよね? なら、やったろうじゃない!」

 シュウは、刀を抜いて、眠るドラゴンの背部を狙った。

「くらいなさい!」

 シュウは、ドラゴンの背中を袈裟に斬った。刃は狂いなくドラゴンを斬り付けた。

 斬られたドラゴンは、背中から虹色の血を噴き上げ、痛みの咆哮を上げた。バックアタック並びファーストアタックは成功した。

「よし、奇襲は成功だ、後に続くぞ本宮!」

「オッケー!」

 リアンは、マナを猛毒に変えてナイフに纏わせドラゴンに向かった。

「ぶすっといくよ!」

 ナイフは迷いなくドラゴンの心臓付近を貫いた。

「止めは俺が刺す!」

 トウジは、魔力を集中させマナを炎に変えた。

「燃え尽きろ!」

 炎がドラゴンを逆巻いた。

 背中に大きな斬激を受け、心臓付近に猛毒を与えられ、さらに炎に巻かれ、ドラゴンは事切れていた。

 ドラゴンの頭から輝く物体が転がった。

「Dzだ。回収するぞ」

 頭部がハンマーになっているドラゴンらしく、そこから Dzが取れた。

 トウジは、Dzを拾い上げた。

「四季、お前のおかげで労せず回収できた。礼を言うぞ」

「そんなお礼なんて。奇襲が上手く行ったのはドラゴンが寝てたおかげだし、大して役には立ってないよ」

 作戦の立役者と言えるシュウは、謙遜するのだった。

「そう謙遜するな、四季。ほら、これがお前のおかげで手に入ったDzだ」

 自信をつけさせようと、トウジはDzをシュウに差し出した。

「へえ、これがDz。ドラゴンの一部なんて言うもんだからもっとグロテスクなのを想像してたけど、まるで宝石みたいね」

 シュウの言う通り、Dzはまるで宝石のような輝きを放っていた。

 この宝石のような物体は、あらゆるものになる力がある。鉄や木材、貴金属と言うように有機物、無機物問わず変質する力があった。

 トウジは、専用のホルダーにDzを仕舞った。

「残る目標Dzは二つだ。この階にいる二匹を狩るぞ」

 トウジが言うと同時に、籠手が通信を受けて通知音が鳴った。

「こちら十三班」

『こちら本部です。どうやら一つ目のDzを手に入れられたようですね』

「偶然が重なって大した事なく手に入れられたようなものだ。それでミイナ、何かあったのだろう?」

『はい、少々厄介な事態になりました。残る二匹のドラゴン反応は二匹近接しているのです』

 ドラゴンは、近くで戦う気配に敏感であり、近接して存在していては、戦いに乱入してくることは確実である。

 ミイナからの通信から鑑みるに、ドラゴンを二体同時に相手しなければならなかった。

『一匹でも辛い戦いなのに、二匹一度に相手するのは自殺行為です。危険を感じたら迷わず撤退してください』

 忠告するミイナであったが、トウジの答えは否であった。

「いや、大丈夫だ。俺に策がある。ドラゴンの位置はどこだ?」

『正気ですか、複数のマモノを相手するのとは段違いなのですよ』

 忠告を続けるミイナであったが、トウジはよっぽど策に自信があるのか、引かなかった。

「退路は確保してある、万が一策が失敗しても退くことはできる。ドラゴンの位置を教えてくれ」

『……仕方がありませんね。危険が迫ったら絶対に逃げてくださいね。そこから十時の方向に二体のドラゴン反応があります』

 ミイナはついに根負けし、ドラゴン反応の位置を教えた。

「了解した。これよりドラゴン討伐を開始する。二人とも行くぞ」

 シュウとリアンはトウジに付いていく。

「ねートウジ君、策があるなんて言ってたけど、それってどんなの?」

 リアンが訊ねた。

「マナと力の強制解放だ。っと言った所で分かるまい。実際に見せてやろう、ドラゴン討伐でな」

 トウジは多くを語らなかった。

 やがてドラゴンの居場所にたどり着いた。ミイナのナビ通り、ドラゴンが二体居すわっていた。

「本当に二匹もいるじゃない。本当に勝てるの?」

 シュウは言った。

「二匹ともドラゴハンマードか。問題ない、勝てる」

 トウジは一歩進み、言った。

「これなら楽勝だ。二人は見ていてくれ。俺が見せたい策をな」

 やがてトウジは、ドラゴンの視界に入った。

「ゆくぞドラゴンども! 覚悟しろ!」

 トウジは言うと、全身の力を体の中心に込める。

「はああああ……! いくぞ、『エグゾースト』!」

 一連の行動の後、トウジの体から青白い炎のようなオーラが立ち上った。

 トウジは単身、二体のドラゴンに向かっていった。

「燃え尽きろ!」

 トウジが放った炎は、これまでよりも威力があり、回りも速くなっていた。温度も軽く千度を超え、青い炎と化していた。

 しかし、これほどまでに強化した炎でもドラゴンはまだ死に至ることはなかった。

 ドラゴンもやられるばかりでなく、反撃に出た。

 金槌のような頭を振り下ろす攻撃がトウジに襲いかかった。

「遅い!」

 トウジは難なく、後方へ宙返りをして避けた。

 大振りの攻撃を空かされ、隙をさらすドラゴンに、トウジは素早くドラゴンの口に手をかざした。

「爆ぜろ!」

 トウジは、ドラゴンの口の中に爆発を起こした。爆発はドラゴンの歯を吹き飛ばし、脳をも焼き尽くした。

 爆発を原因とし、ドラゴンは事切れた。

「次は貴様だ!」

 今度の相手も同じドラゴンであり、トウジは一気に戦いを終わらせようとした。

「はあああ……!」

 トウジは、残った力を全て込め、青白い炎にして撃ち出した。

「灼熱よ焼き焦がせ!」

 トウジの手から、炎が渦巻いた。

 ドラゴンは焼かれ、地面に崩れ落ちた。

 ドラゴン二体は、トウジの手によって倒れた。

「作戦成功だ。雑作もない」

 トウジの纏っていたオーラが消えた。

「っと、丁度時間切れか」

 シュウとリアンの二人は、驚きの中にいた。

「すごい……」

「トウジ君、一体何をしていたの? あの身のこなしに攻撃力。普通じゃないわ……」

「あれか。あれは『エグゾースト』という一時だけ全身を強化する術だ」

 トウジは倒したドラゴンからDzを回収しながら説明を始めた。

 ドラゴンと相対できるS級能力者のみに使える、身体と精神の両方を一時的に強化できる能力が『エグゾースト』である。

 能力者が『エグゾースト』状態でいられる時間は個人差があり、能力者の強さが上なほど時間は長くなるが、一度に大きな力を発すると時間は自ずと短くなる。

 そのような強力な身体強化である『エグゾースト』であるが、連続使用はできない側面もあった。

 いかに急いで再使用しようとしても、三十分の間の時間が必要であった。

「お前たちも能力者だ。まだ俺のようには行かぬだろうが、使うことはできる」

 トウジはDzを回収し、話も一通り終わらせた。

「すごーい! わたしにもできるんだ。どうやってやるのー?」

 リアンは、未知の力の使い方を嬉々として訊ねた。

「体に全力を込めるんだ。大体胸の真ん中辺りだな」

「よーし! ちょっとやってみよー!」

 リアンは、言われたように、両肘を自らの肋間に付けると、体に力を込めた。

「むーん……!」

 しかし、トウジのようには行かず、オーラは発生しない。

「むむーん!」

 リアン込めた力は次第に溢れだし、オーラが僅かに発生し始めた。

「む、むーん……」

 しかし、リアンの力が先に落ちていき、オーラは萎み始め、やがて消えていった。

「トウジくーん。これってものすごく難しくない?」

 リアンは脱力して両膝を地面に付いた。

「言っただろう、今は俺ほどには使えぬとな。戦闘を繰り返してようやく使えるものだ。焦る必要はない」

「はああー!」

 トウジが言い終わると、突然気合いの入った叫び声がした。

 叫びの主はシュウであり、『エグゾースト』を試したようだった。

 シュウの全身がオーラで纏われ、さらに火の粉のような光が舞っていた。

「へえ、これが『エグゾースト』。確かにすごい力を感じるわね」

ーー今は難しいはずの『エグゾースト』を容易く……!?ーー

 トウジは驚きで声が出なかった。それもそのはずであり、シュウの『エグゾースト』はトウジのものと圧倒的な差があったからである。

「シュウちゃんすごーい! こんなに難しいのにあっさりできちゃうなんて」

 リアンも驚きの声を上げた。

「トウジ君の真似してやってみたら偶然できただけよ。……ってもう終わっちゃった」

 シュウの変身は解けた。

 一連の出来事を見ていたトウジは、それが偶然の産物ではないと分かっていた。

 トウジのものとは圧倒的に、あらゆるものが上回っていた。

 攻撃力は倍どころか十倍にも達し、スピードも同じくらいの差があった。

 唯一勝る点は持続力であったが、これも戦いを繰り返せば、比例して時間も伸びようものと思われた。

 トウジは確信した。

ーー四季、目覚めたばかりでその力、最早疑いようもない。お前こそがドラゴンを屠る最強の戦士だ……!ーー

 

 Phase5 帝竜ウォークライ

 

 シュウたち三人は、都庁に赴き、ドラゴンの死体から取れるDzを三つ集めるという任務を遂行し、新宿御苑のシェルターへと帰還した。

 シュウたちを待っていたのは、ムラクモ四班、通称開発班であった。

「うむ、確かにDz三つ受け取った。すぐに手配しよう」

 開発班班長である初老の男、上地昭吉(わじしょうきち)が、Dzを手にした。

「ケイマ、レイミ。さっそく開発に取りかかるぞ」

「おう、爺さん! 久し振りに腕が鳴るぜ!」

「レイミのかわいい子達がまた作れて嬉しいです!」

 張り切った少年はそばかすが特徴的な駒形慶馬(こまがたけいま)、エプロンドレス姿のメイドのような格好をしているのは林藤玲美(りんどうれいみ)と言った。

「できたぞ」

 ワジは、ものの数分であるものを完成させた。

「これって、トウジ君の着けてる籠手ですよね?」

「シュウと言ったな、その通りだ。ムラクモ機関に属する者は皆着ける必要のあるガントレットだ」

 ワジの言うように、仲間との通信を主におこなう機能の付いた籠手(ガントレット)であった。

「機能性はムラクモ機関の所属先によって変わる。お前たちのは最先端の性能だが、動力は一緒でDzだ。お前たちの持ってきてくれたもので完成した。型はできていたが動力がなかったのでな。助かったぞ三人とも」

 ワジは、籠手をシュウとリアンに渡した。

「さっそく着けてみてくれ。サイズが合わなければ調節する」

 シュウとリアンは籠手をはめてみた。

「これはいいですね。ぴったりですよ」

 シュウは、籠手を着けるとしげしげ見回した。

「いかにも特殊部隊ってかんじだね。この機械はなんだろう?」

 籠手には、コンピューターが内蔵されており、タッチパッドとミニキーボードが取り付けられていた。

「問題なく着けられたようだな。ではパスワードを設定してくれ」

「えっ、パスワードですか?」

「忘れそう。誕生日でもいいかな?」

 二人は言われたようにする。

「初期設定はこれだけだ。あとは内蔵のアプリを使って好きなように使ってくれ。さしあたっては通信機能はどうだ? アプリの中にムラクモ機関全員の連絡先が登録されている……」

 ワジが説明している途中に、チロチロとシュウの籠手が鳴った。

 シュウは、タッチパネルに浮かぶ応答の表示を押した。

『よう、シュウ。見事Dzを集めて籠手を貰ったようだな』

 通信先の相手はガトウであった。

「ガトウさん、どうして私に通信を?」

『ワジのおっさんから教わらなかったか? 籠手にムラクモ全員の連絡先が入っているってな。初期設定が済ンだようだからお前の籠手に通信したンだよ』

 それよりも、っとガトウは話題を変えた。

『都庁の攻略もそろそろ九割がた進ンだ。てなワケでオレとナガレで帝竜とランデブーと行く。お前たちには自衛隊のバックアップを受けて、ドラゴン退治をしてほしい。退路を作っておいてほしいンだ』

「ですがガトウさん。都庁にいた自衛隊の方々を見ましたが、すでに装備が限界になってましたよ。これじゃあ私たちのバックアップも難しいんじゃあ……」

『安心しろよ。ムラクモ機関の技術力をなめて貰っちゃあ困るぜ』

「よーしできたぜ!」

「レイミの最高傑作の完成です!」

 ガトウが言うが早いか、ケイマとレイミの声がした。

 二人の完成させたもの、それは自衛隊の兵装であった。アサルトライフル数丁に手榴弾百発分が造られていた。『分かっただろう? そンじゃオレは行くぜ。バックアップは頼んだぜ、シュウ!』

 ガトウとの通信は切れた。

    ※※※

 十三班は、開発班の造り上げた兵装を持って再び逆さまの都庁へとやって来た。

『コール十三班』

 到着と同時にトウジの籠手が鳴り、ミイナとの通信が行われた。

「こちら十三班。どうしたミイナ?」

『これから先の目的地をお知らせします。都庁の十一階に前線で戦う自衛隊員が待機しています。十三班にはそこを目指してほしいのです』

「心得た。すぐに向かう」

『それからもう一つ報告があります。今から都庁を進んでいては時間の無駄です。なのであるものをご用意しました。都庁の入り口まで向かってください』

 三人は、怪訝な気持ちになりながらも、ミイナの指示通り都庁の入り口へと歩いた。

「これって……!」

 シュウに続いて二人も驚きを見せた。

 都庁の入り口にあったもの、それは緑に輝く菱形の物体であった。

『驚きましたか? それは脱出ポイントと言って、触れればここから新宿御苑の地下シェルターへ脱出することも、指定の脱出ポイントに瞬間移動もできる優れものなのですよ』

 まさに魔法のような性能をした菱形であった。

「それじゃあ、それを使えば一気に都庁の奥に行けるってこと?」

 シュウが訊ねた。

『可能です。現在都庁の十一階にアクセスしています。私に言っていただければアクセスポイントを変えることができます』

「ならばすぐに向かうぞ四季、本宮」

『待ってください、トウジ。現在十一階に大きなドラゴン反応があります。十分な準備をしてから向かうことを推奨します』

「準備か。回復薬は十分だ。俺たちのヴァイタルにも異常はない。問題はないと思うぞ」

『それならば良いのですが、無理は禁物です。危険を感じたらすぐに退却してくださいね』

「分かっている。さて、この装置だが触れればよいのだな」

 トウジは進み、都庁入り口の脱出ポイントに手をかざした。すると次の瞬間、トウジは光に包まれ、脱出ポイントに吸い込まれていった。

「本当に消えた!?」

 シュウは驚いてしまった。

「わあ、何だか面白そー! 次はわたしが行くね!」

 リアンは臆することなく、脱出ポイントに触れた。トウジと同様光に包まれその姿を消した。

 残るはシュウのみであった。未知の力によって人を飛ばす物体に少し恐れを抱いていた。

『シュウ、二人は間違いなく私の指定したポイントに行きました。恐れることはないですよ』

 ミイナは、シュウの心中を察して言葉をかけた。

「……そうよね、私も早く行かなきゃ。ありがとうミイナ、気遣ってくれて」

 シュウは、心を決めて脱出ポイントに歩み寄った。

 シュウは、すーっ、と呼吸を深くして、脱出ポイントに触れた。

 少し眩しい光を感じながら、全身に温かさも感じつつ、シュウは光に包まれ、脱出ポイントに吸い込まれ、消えていった。

 次に気がついた時、シュウは都庁の中にいた。

 先に脱出ポイントに触れた二人もそこにいた。

「四季も来たか。空間転移、それも人体に影響もないとは。どれほどの技術力で可能にしているのだ?」

「そんなことよりトウジ君、あれがミイナちゃんの言ってたドラゴンじゃないかな?」

 リアンの指す方向にいたのは、赤い鱗をしており、手は無く、代わりに翼を持っていて、青い牙が特徴的なドラゴンであった。

『コール十三班。そこから十二時の方向、ドラゴン反応を感知しました。分類名はサラマンドラです』

「サラマンドラ……差し詰め炎の精霊サラマンダーから取ったところか?」

 トウジは言った。

「気をつけて、二人とも! ドラゴンに気づかれたわよ!」

 シュウは刀を抜いた。

 ドラゴンは、ドタドタとシュウたちに駆け寄っていた。

「燃え尽きろ!」

 トウジは、魔法で炎を放った。ドラゴンの足止めはできたものの、まるでダメージを受けてはいなかった。

「やはり効かぬか……!」

「私が行くわ!」

 シュウは、ドラゴンへと一気に間合いを詰め、跳び上がってドラゴンを袈裟に斬った。

「なんて固さ……!?」

 シュウは手に痺れを感じた。

 このドラゴン相手では、力ずくでの戦いは通じないものと思われた。

「どいて、力じゃダメなら小細工だよ!」

 リアンが素早い動きでドラゴンへと迫ると、組み付いてドラゴンの肋間付近にナイフを突き立てた。

「隠し味だよ」

 守りの薄い肋間を攻められ、ドラゴンは咆哮を上げた。

「えい!」

 リアンは、降り際にドラゴンの顔面を両足で蹴り、宙返りしながら後ろに下がった。

 リアンの小細工の正体は、間もなく明らかになった。

「ドラゴンの動きが……!?」

「鈍くなった……!?」

 リアンは、ドラゴンに毒を与えていた。

ーーさすがドラゴン。毒で一撃とまではいかないみたいだねーー

 リアンは、手応えを感じていたが、ドラゴンを倒すまでには行かなかったことに納得ができなかった。

「シュウちゃん!」

 止めを刺そうにも、トウジの炎は効かず、リアン自らの武器では致命傷を与えられないと悟り、リアンはシュウに呼び掛けた。

「止めを刺して! いくらドラゴンの鱗が固くても、毒で弱ったいまなら急所を突けるはずだよ!」

 こうしている内にも、ドラゴンの毒は全身に回り、腐敗が始まっていた。

「分かったわ!」

 シュウは、八相構えから切っ先をドラゴンへ向けた。

「行くわよ」

 シュウは、ドラゴンへと駆け寄り、間合いに入ると切っ先をドラゴンに向けて手を伸ばした。

「突き貫く!」

 シュウは、ドラゴンの腹部に突きを放った。

 シュウが切っ先を抜くと、ドラゴンは特有の虹色の血を噴き上げ倒れた。

「やった、うまく行ったわ! リアン、あなたのおかげよ」

「いやいや、シュウちゃんの力だよ」

「謙遜するな本宮、お前たち二人の力と知略の勝利だ」

 トウジは、倒れたドラゴンからDzを回収しながら言った。

「それよりも許せよ。俺は戦いにまるで役立っていなかった。炎の効かないドラゴンがいようとは思わなかった」

「トウジ君……」

「炎の勢いに油断していた。これからはマナパワーを十分に使えるようにならんとな」

 トウジは反省していた。

「さて、邪魔なドラゴンは消え去った。先を急ぐぞ二人とも」

 トウジは気を取り直し、シュウたちを先に連れて行った。

 先ほどドラゴンが立っていた先は、破られた壁があった。更に先へと進むと、目が飛び出そうな風景が広がっていた。

 下に日食があり、フロワロの花弁が舞い散り、都庁の破壊された瓦礫の浮かぶとてつもなくおぞましい道が広がっていた。

「これが進むべき道なのか……!?」

 トウジは、籠手のレーダー機能を使って確認した。

 レーダーの指す先に自衛隊の反応があった。道は他にない。つまりこれが正しい道であった。

「でも不思議だよ。体がすごく軽い、お空も飛べそうなくらいにね」

 リアンは言った。

 ここはドラゴンによるダンジョン化が強く現れており、重力さえもほとんど無であった。

 リアンはその場でぴょんぴょん跳んでみた。

「やっぱりだね。本気でジャンプすれば、浮いてる建物を伝って先にす進めるんじゃないかな?」

「そんな事が可能なのか?」

 トウジは半信半疑であった。

「けど先に進むにはここを行かないとダメなんでしょ? 大丈夫、行ける、行けるよ! おっ先ー!」

 リアンは、先陣を切ってその場からジャンプしてしまった。

「リアン!?」

「本宮!?」

 シュウとトウジは同時に驚きの声を上げた。

 リアンの体は、そのまま日食が照らす空へとまっ逆さまになると思われた。

 しかし、二人が思うような事にはならず、リアンは吸い込まれるように外壁に足をつけた。

「ほら、大丈夫だったでしょー!?」

 リアンは、跳んだ先から手を振っていた。

「なんと危険な事を……」

「見ているこっちがヒヤヒヤするわね……」

 シュウとトウジは言った。

「ほらぁ、大丈夫だから、二人も早くおいでよー」

 リアンは変わらず手を振っていた。

 道がこれしか無い以上、二人も行かざるを得なかった。しかし、日食の照る遠い地面を見ると、吸い込まれるような感じがして二の足を踏んでしまう。

「ええい、ままよ! ここを越えずして先へ進めないならば……!」

「えっ!? トウジ君!」

 トウジは、助走をつけて足場を跳んだ。トウジの体は逆さまの空に落ちることなく、リアンのいる浮遊する外壁へと立った。

「……本当に平気だとは、帝竜の作るダンジョンはまさしく面妖だな」

 トウジは、自分が跳んだ足場へと向き直った。

「四季、何も恐れることはない。ただ真っ直ぐに跳べば大丈夫だ」

 トウジなりのアドバイスであった。

「そんなこと言ったって……」

 吸い込まれそうな漆黒の空は、見まいと思っても、嫌でも目に入ってしまう。

「シュウちゃん、下を見ないで前だけ見れば怖くないよ!」

 リアンは言う。

「四季ともあろう者が臆病風に吹かれているはずが無いだろう? 勇気を出せ!」

 向こう側では、二人がシュウを応援していた。

「……分かったわ……」

 シュウは身構えた。

「行ったろうじゃない……!」

 これ以上不様な姿を見られたくはなかった。

「二人とも待たせたわね、今行くわよ」

 シュウはその場で跳ねてみる。確かにリアンの言うように、空も飛べそうなくらい体が軽かった。

 シュウは、勢いをつけてその場からジャンプしようと地を蹴った。

「って、ええー!?」

「四季!?」

「シュウちゃん!?」

 シュウの体は逆さまの空へと高く舞い上がった。重力のほとんどない空間で、真下に力を加えたために、反作用で空へ向かってしまったのだ。

 数秒が経ってからシュウは逆さまの空から下りてきた。そしてトウジらの所まで着地した。

「し、死ぬかと思った……」

 シュウは冷や汗をかいていた。

「大丈夫か、四季? 今のは下へのクトルを強くかけてしまったからこうなってしまったのだ。斜めにベクトルをかけなければならん」

「跳ぶというより走り幅跳びする感じだと思えば大丈夫だよ」

 二人はそれぞれアドバイスした。

「さあ、先を急ぐぞ」

「待って、まだ心の準備が!」

「大丈夫、走り幅跳びするつもりだよ」

「ふえー……」

 シュウは行かざるを得なくなった。

 その後、建物の外壁という道なき道を進む十三班であったが、やがて目的地へとたどり着いた。

「なれるとあんな道も悪くないね!」

 リアンは、終始あの道のりに恐れを抱くことはなかった。

「ねえ、帰りもあれを進むの?」

 シュウは逆に、恐れおののいていた。

「自衛隊に頼めば脱出ポイントを作って貰えるはずだが、班を分けて貰えるかどうか。うん?」

 トウジは何かに気が付いた。

「どうしたの、トウジ君?」

「あそこにいるの赤髪の女は堂島凛(どうじまりん)と言って、その隣にいる背の高い男は生駒正義(いこままさよし)だ。拠点が近くでよかった。装備品を渡して脱出ポイントを作って貰い、シェルターまで帰還できるぞ」

 善は急げ、とトウジは自衛隊の二人に接触した。

「待たせたな、堂島、生駒。兵装を一通り揃えて持ってきた。受け取ってくれ」

「これは……!?」

 驚いたのはリンである。

「アサルトライフル十五丁に手榴弾百発分とは、これはありがたい。前線で戦う仲間は、すっかりくたびれた装備で戦っているからな。これで巻き返せる!」

 イコマは喜色を浮かべていた。

「またムラクモの世話になった……」

 対するリンは顔に暗い影を落とした。

「リン、トウジたちは危険を冒してここまで来てくれたんだ。その言いぐさは無いんじゃないか?」

 イコマは諭すように言った。

「本来なら国民を助けるのは、私たち自衛隊だ。それなのに見てみろ、人を助けるのさえムラクモ機関がやっている。私たちの存在意義が無いじゃないか!」

 リンは、今の自衛隊の役目に情けなさを感じていた。

「リン……」

 イコマは、リンの気持ちは分かっていた。しかし、それをムラクモ機関にぶつけるのは違うと思っていた。

「私たちの力じゃ、せいぜいマモノを倒すのがやっとだ。ドラゴンには傷一つつけられない。これでは私たちは役立たず……!」

 不意に、リンの籠手からブザーが鳴った。

「何事だ!?」

 リンは驚きの中通信を受けた。

『ドラゴンが最前線に……! 死傷者多数。援軍を要請されたし!』

「なんだと!? 分かった、今行く! 前線を下げて耐えるんだ」

『それは駄目よ堂島リン』

 通信に割って入ってきたのはナツメであった。

「ムラクモの総長、駄目とはどういう事だ!?」

『今の最前線ではドラゴンとの戦闘が行われている。自衛隊では勝ち目のない相手よ、いくら援軍を送ったところで死体が増えるだけ。この事はあなた自身がよく分かっているはず』

 リンは、まるで心が読まれている感じがしていた。

 既に死傷者は、今出ている自衛隊の半数以上に迫っている。相手がドラゴンである以上、これ以上隊員を送っても犬死にさせるも同然であった。

『今行くべきなのは十三班、あなたたちでしかドラゴンは倒せない。堂島リン、あなたたち自衛隊には待機を言い渡します』

 ナツメの通信は切られた。

 リンは、悔しさのあまりに震えていた。

「リンさん……」

 シュウは、いたたまれない気持ちになっていた。

「堂島、悔やまれるのは分かるが、ナツメの言う通りだ。仲間の救援には俺たちが行く。ここは生駒と一緒に退路の確保をしていてくれ」

 トウジは言うと、シュウとリアンを連れて先へ進んでいった。

ーー長官、私はどうすれば宜しいのでしょうーー

 悔しさで震えながら、リンは殉職した上官に心の中で訊ねるのだった。

    ※※※

 自衛隊に後方支援を頼み、シュウたちは逆さまの都庁を進んだ。

 救援要請のあった十二階までやってくると、そこは目を覆いたくなる風景が広がっていた。

「くっ、間に合わなかったか……!」

 トウジは歯噛みした。

 トウジらの来た場所は、自衛隊の死体の転がる死屍累々の地獄絵図が広がっていた。

 ドラゴンに食われたか、自衛隊の死体の山は欠損しているものがほとんどで、内臓が露出しているものもあった。

「ひい!」

 あまりの惨状に、思わず頭を抱えてしまうシュウ。

『……ガレ……!』

 頭を抱えた為、籠手が耳元に近づき通信らしきものが聞き取れた。

「待って、何か聞こえる……」

 シュウは、籠手が偶然に傍受した通信に耳を向けた。

『が、ガトウさん。オレは、もう、無理で……す』

『ナガレ! 諦めンじゃねェ! 気を確かに持て!』

 この先の屋上にて、帝竜と戦うガトウ隊の言葉だった。戦況は芳しくないのが明らかだった。

「これは、ガトウの声か?」

 トウジの籠手もガトウの通信を傍受し、ノイズまみれのガトウの声がかろうじて聞き取れた。

「早くいかなきゃ、ガトウさんまずいんじゃない!?」

 リアンも通信を傍受した。

『こ、の、ド……ゴ、野、郎! ナ……レの仇は……!』

 通信は途絶え始めた。ガトウの言葉も途切れてきたが、状況がどのようになっているか、三人は分かった。

「作戦変更、ガトウ隊への救援に向かう!」

 トウジは言った。シュウとリアンの二人も異議なく頷いた。

「そうと決まったら急ぎましょう。ガトウさんを助けなきゃ!」

 シュウは、先陣を切って駆け出した。

ーー戦いの時は来た……ーー

 不意に、シュウの脳裏にどこからともなく声がした。

「なに……?」

 先陣を切って走り出したというのに、シュウは急に足を止めたため、二人も止まってしまった。

「どうした四季?」

「なんか声がしたような気がするんだけど……」

「俺は何も言ってないぞ」

「わたしも言ってないよ」

 空耳か幻聴か、どちらかは分かりかねるが、シュウには確かに聞こえた。

ーー迷ってる場合じゃないわね。ガトウさんたちを助けなきゃーー

「ごめんね、二人とも、変なこと言っちゃって。急ぎましょう!」

 三人は再び駆け出すのだった。

    ※※※

 シュウたちが駆けつけた場所は屋上であった。

 逆さまの空には日蝕が煌々と照っていた。

 フロワロが咲き乱れ、その中心に片腕を失い更に体中が傷だらけの帝竜がいた。

「ガトウさん!」

「なっ!? おめェらどうして来た!?」

 ガトウもすっかり傷だらけとなり、これ以上の戦いは不可能だと思われた。

 ガトウの傍らに、口から血を出した状態のナガレが倒れていた。

「流! 流ー!」

 トウジが呼びかけるものの、ナガレは既に息絶えていた。

「よくも流を、絶対に許さんぞウォークライ!」

 トウジは怒りに燃えた。

 帝竜ウォークライは、ガトウとナガレ、自衛隊の攻撃によって傷だらけであり、後ひと押しというところまで弱っていた。

「チャンスだよ。ここまで弱った状態なら、わたしたちの力でも倒せるよ!」

 リアンはナイフを抜いた。

「ガトウさん、後は私たちが戦います。ガトウさんはナガレさんの遺体を守っていてください!」

 シュウもガトウの前に立ち、刀を抜いた。

「止せ、シュウ! ナガレの仇はオレが取る!」

「そんな体じゃもう戦えませんよ。もう誰も死なせない。信じてください、私たちの力を!」

 行くよ、っとシュウが告げると、トウジとリアンはシュウに続いた。

 シュウらと帝竜ウォークライの激戦の火蓋が、切って落とされんとしていた。

 真っ先に仕掛けたのはスピードのあるリアンであった。

「そこっ!」

 リアンはナイフを振るった。急所を狙った一撃は、例え相手がドラゴンであっても有効打であった。

「マナパワーを弾丸に変換、くらえマナバレット!」

 次に仕掛けたのはトウジである。

 帝竜ウォークライは、炎に抵抗力を持っている事を知っていたトウジは、純粋な魔力を弾丸に変えて撃ち出した。

 魔力の弾丸はウォークライをふらつかせた。

「はああああ!」

 気合いを込めて、シュウが三手目を仕掛ける。

「ぶった斬ったる!」

 シュウがやったのは、ジャンプからの袈裟斬りである。

 一月前に戦った時には装甲が固かったウォークライであるが、ガトウらとの戦いですっかりぼろぼろになっており、シュウの一撃は大打撃を与えるものになっていた。

 いける。三人はそう思った。このまま押せば確実に倒せると実感していた。しかし、実際はそう簡単ではなかった。

 ウォークライはやられるばかりではなく、反撃に転じる。

 ウォークライは逆さまの空を仰ぎ、咆哮を上げた。

 それはただの咆哮ではなかった。

「ぐっ、なんだ、これは……!?」

「体が、痺れて……!」

 ウォークライの咆哮は、電流を放つ効果があり、まともに聞くと麻痺する効力があった。

「リアン、トウジ君、大丈夫!?」

 シュウだけは麻痺を逃れていた。

「四季は無事、か。よかった、俺の、ホルスターに、パラエルが入って、いる。取り、出して打ってくれ……!」

 シュウは、言われるままに、トウジの制服のホルスターから注射器を取り出した。

「これって注射器じゃない。こんなの使えないわ」

 医者でも看護師でもないシュウは、彼らのように確実に注射を打つことなどできるはずがないと思った。

「どこでも、構わない、打ってくれ」

 シュウは、まだ躊躇っていた。しかし、ウォークライがまだ生きてる以上、迷ってる場合ではなかった。

「……分かったわ、注射を打つわ。痛かったらごめんね!」

 シュウは、トウジの腕を取り、袖を捲って肘の関節に注射を打った。

「うう……!」

 トウジから小さな呻き声がした。

「ご、ごめんね! 痛かったよね!?」

「……構わん、体中が痺れていたからな。多少の痛みなどどうと言う事はない」

 トウジは、すんなりと体を起こした。

「本宮にも打ってやらんとな」

 トウジは、パラエルの入った注射器をリアンの腕に打った。

「いた……くない……?」

 体が麻痺していたリアンは、それほど痛みを感じなかった。

「奴の咆哮には気を付けんとな」

 ウォークライは更に傷付いている。攻めるには絶好の機会であったが、体を麻痺させる攻撃がある以上、同じ轍を踏む可能性があった。

「目には目を、麻痺なら麻痺で攻めるよ!」

 リアンは、ナイフ片手にウォークライに攻めかかった。

 駆けてくる敵を返り討ちにしようと、ウォークライは爪でリアンを引き裂こうとした。

「遅いよ!」

 リアンは、爪が来るのを掻い潜って、麻痺毒を仕込んだナイフをウォークライに突き立てた。

 毒は一瞬にしてウォークライの体に回り、ウォークライの半身を麻痺させた。

「今だよ二人とも! あのドラゴンは満足に動けない、チャンスだよ!」

「言われるまでもない、よくやったぞ本宮! 先に行くぞ四季」

 トウジは前線へと立ち、精神集中を始めた。

「はあああ……!」

 トウジは、精神力が最も充実した瞬間、マナを弾丸に変えて撃ち出した。

「マナバレット!」

 弾丸は見事ウォークライに当たり、ウォークライの装甲を更に砕いた。

「よし、四季、止めをさせ! あそこまで弱った状態ならば、四季の一撃で倒せる!」

 最早迷う事などなかった。

「了解よ、これで終わらせるわ!」

 片腕を失い、ガトウらとの激戦により重傷を負い、更にリアンの毒を食らったウォークライは、地面をなめていた。

「覚悟なさい!」

 シュウが止めの一撃を放とうとした瞬間、ウォークライは僅かに顔をあげ、息を大きく吸い込んだ。

「まずい!」

 トウジは、この攻撃に覚えがあった。渦巻く灼熱の火の玉を吹くウォークライの必殺技である。

「四季、すぐに下がるんだ!」

 トウジは叫ぶものの、ウォークライはすでに火の玉を出した後だった。

「万事休すか……!?」

 シュウは炎に巻かれ、焼死すると思われた。

「やああああ!」

 シュウは、炎に巻かれる前にエグゾーストを発し、防御力を大きく上げた。

ーーそうか、あのエグゾーストがあったか!ーー

 シュウのエグゾーストは何故か効果が大きく出た。エグゾースト状態ならば、ドラゴンの攻撃にも抵抗力を発揮することができる。

 シュウは、灼熱の火の玉を寸前のところで、刀の切っ先で受け止めた。そしてそれを逆さまの空へと弾いた。

 シュウは、エグゾースト状態のままウォークライへと斬りかかった。

「これで倒れろ! やあああ……!」

 シュウは、大技を透かされ、最早動くことができなくなったウォークライに向け、大きな跳躍から勢いを付けて止めの袈裟斬りを放った。

「グアアアア……!」

 シュウの渾身の一撃を受け、ウォークライは断末魔の叫びを上げた。

 ウォークライは死んだ。

 帝竜を倒したことにより、その支配下に咲くフロワロも生命力を失い、散っていく。その風景は、まるで死した帝竜を葬送しているかのようだった。

「……勝った、の、私たち」

 シュウは、自らがウォークライに引導を渡した事が信じられなかった。

「帝竜の生体反応停止。俺たちの勝ちだ」

 トウジは、この激戦の終焉を告げた。

「やったよ、シュウちゃん! わたしたち勝ったよ!」

 リアンは、シュウの腕に絡み付いた。

「おめェら、まさか帝竜をやっちまうなンてな。よくやったぞ」

 ガトウも十三班の勝利に称賛した。

 ふと、ピロピロとトウジの籠手が鳴った。

「こちら十三班」

『情報支援班、ミイナです。まずは帝竜討伐おめでとうございます。ナツメ総長からもお話しがあるそうです』

 通信が切り替わり、 籠手のディスプレイからナツメの顔が映った。

『よくやったわ、トウジ……いえ、十三班の皆』

 ナツメは一言十三班に労いの言葉を告げた。

『早速だけど、帝竜の体の一部を検体として持ってきてちょうだい。Dzの回収も忘れないこと』

 ナツメは、言いたいことだけ言って通信を切ってしまった。

「ナツメの奴め、検体の大切さは分かるが、どこを持ってきていけばいいのか、言い忘れてるぞ……」

 再びトウジの籠手が鳴った。

『ミイナです』

「ミイナか、帝竜のどこを切れば検体になるか分かるか?」

『はい、ご説明いたします。鋼鉄の翼に未だ帝竜反応を感知できます。翼の一部分を採取していただければよろしいかと』

「分かった、翼だな? 四季、奴の翼を切り裂いてくれ。本宮は俺と一緒に散らばったDzを集めるぞ」

 シュウたちは持ち場に付き、それぞれ必要なものを採取した。

「よし、必要なものはこんなものだな。さっさと帰還するとし……」

 突如として、逆さまの都庁が激しく揺れ始めた。

「一体何だ、この揺れは!?」

「都庁が壊れそうだよ!」

「見て、あれ!」

 逆さまの都庁を照らしていた日蝕が、ひび割れ、やがて完全に散ってしまった。

 日蝕がなくなると、揺れは更に強くなった。

「どうなっている……!?」

 日蝕がなくなった空間を中心に、次元に渦が巻いている。

 次元の渦は都庁を吸い込んでいた。

 吸引と同時に、渦は都庁を縦に回転させている。

「おめェら、こいつァやばい! 早く都庁の中に入って、どこでもいいからふン掴め! このままここにいたら異次元に吹っ飛ばされンぞ!」

 ガトウは言うが早いか、ナガレの亡骸を抱え、都庁の内部へ戻っていった。

「ガトウの言うことは本当だ。都庁を吸い込むような力、抗いようがない。急ぐぞ!」

 トウジが言うと、二人は頷き、三人で都庁に入った。

 都庁内部もまるで、大嵐の中を進む船のような揺れ方をしていた。

 とても立っていることなどできず、どこかに掴まっていないと簡単に吹き飛ばされそうだった。

 揺れはやがて収まった。するとシュウたちのいた天井は元通りとなり、三人がいたのは都庁の床であった。

 変化はそれだけではなかった。

 都庁の至るところに咲いていたフロワロは全てなくなっていた。

 そして窓からは黄昏が照っていた。

「どうなった、の……?」

 シュウは誰にともなく話した。

「よっと、うーん、籠手を調べてみたけれど、敵対反応はないよ?」

 リアンは言った。

「おめェらよくやったぞ」

 ガトウが言う。

「都庁をドラゴンから奪い返したンだ。オレたち人間の拠点をな!」

 都庁には、マモノもドラゴンもフロワロもない。完全にダンジョン化する前の姿に戻っていた。

 その後、新宿御苑の地下シェルターに逃げ込んでいた人々も都庁へと移り住んだ。

 そして、都庁奪還の立役者たるムラクモ十三班を労う宴が開かれた。

 それは、ドラゴン来襲前と比べると慎ましやかなものであったが、老いも若きも心の底から楽しんだ。

 人々の力によって、ドラゴンとの戦いの爪跡が残る都庁は改修され、シェルターに比べれば心地よい住み家となった。

 ここから人類の反撃が始まろうとしていた。

 そんなお祝いムードの都庁にて、秘密裏に、ある者が研究室にて一人、研究に没頭していた。

 その者はパソコンに向かい、忙しそうにタイピングをしていた。画面に映るのは様々なグラフであり、DCという円グラフが一際目を引いた。

「……あと二つ、ドラゴンクロニクルを完成させるには必要……」

 謎の研究は続けられるのだった。




 どうも、作者の綾田です。
 ナナドラ小説は約二年ぶりの投稿となりました。ゲーム本編では二〇二一年にとっくにドラゴンを狩り尽くしているというのに、私の時間軸ではまだドラゴンとの戦いが始まったばかりです。遅筆ですね、これ以上ないくらいに。
 さて、今回の作品を振り返ってみると、ゲームでは超序盤ながら、いきなりプレイヤーを殺しにかかってくる上、オープニングで戦っている場面と、記憶に残っている人も多いであろう帝竜ウォークライとの戦いです。
 ウォークライの強さは、手負いになっていなくても油断すれば全滅トラウマボスではないでしょうか? ナナドラ二〇二〇では、体感的に敵からの麻痺が通りやすい感じがするので、ヒーラーが麻痺したら詰み、なんて事が起こりやすかった気がします。
 まだまだストーリーは始まったばかりですが、これからも読んでいただければ有り難いです。アッと驚く展開を用意しています。
 それではまた次回お会いしましょう。
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