セブンスドラゴン2020 episode GAD 作:綾田宗
<章=Chapter1.5 生き残り SKY and others>
Phase1 生き残り
何億何兆の星々が煌めく宇宙空間のような場所。シュウは再びこの世界へと呼び立てられていた。
ーー初めの帝竜を退けたか。戦う力に目覚めた、と言った所か……ーー
頭に直接伝わるような不思議な声には、最早シュウは慣れ始めていた。
「あなたは一体誰なの? 姿を見せなさいよ!」
シュウは、どこまでも続く宙(そら)に向かって叫んだ。しかし、答えは帰って来ず、謎の声は一方的に話すだけであった。
ーー次なる帝竜は、雷鳴の竜。果たして来る悲劇に耐えられようか? 汝の選択で救われる生命が増えようーー
「……帝竜はまだいると言うのね……」
また沢山の犠牲を出しうる戦いが待っている事実に、シュウは辛い気持ちになった。
ーーだが、帝竜の前に、汝に敵対するヒトの存在がある。それらに遅れを取らぬ事だーー
「敵対するヒトって、どういうこと!?」
ーー汝の運命は動き出している。逃げること能わず、ただその力を以て戦うべし……ーー
謎の声は遠くなり、やがて聞こえなくなった。
「……一体どういうことなのよ……」
シュウは理解しきれなかった。
※※※
チロチロという音を聞き、シュウは目を覚ました。
「ゆ、め……?」
シュウは目覚め、殺風景な天井が目に入ってきた。
チロチロ音は尚も続いた。
『コール十三班』
音の発生源は、部屋に取り付けられたターミナルからするものだった。
眠い眼を擦りながら、シュウはベッドから出て、ターミナルまで歩いた。
『やっと起きたのですね』
ターミナルからの声は、ミイナのものだった。
「あー、おはよー、ミイナ」
『おはよー、じゃありません。ナビを目覚まし時計代わりにしないでください』
「あはは、ごめんごめん……」
『それよりも急いでください。会議の時間はとっくに過ぎていますからね』
「ふえ、会議……?」
『まさか忘れたのですか? 今後のドラゴン対策に向けて、政府の人も交えて会議を行う手筈だったではありませんか』
寝ぼけた状態のシュウの脳裏に、ありありと記憶が甦ってきた。
「いっけない! リアン、トウジ君!
遅刻よ!」
『二人なら既に会議室に来ています。遅刻しているのは、あなただけです、シュウ』
「そ、そんな!? なんで起こしてくれなかったのよ!」
『だから私が目覚まし時計代わりになったんです。分かったのなら早く会議室に来てください』
シュウは、急ぎ身支度を整え、会議室へ向かうのだった。
「遅れてすみません!」
シュウは会議室へと駆け込んだ。
会議室ではイヌヅカ総理を始めとする政府の重役。ナツメとキリノ、ミロク、ミイナのムラクモ機関の人間。そしてトウジとリアンが座していた。
「おはようございます、シュウ君。三十六分の遅刻ですが、まあいいでしょう」
キリノは言った。
「すまんな、四季。一応起こしはしたんだがな」
「シュウちゃんってば、ちっとも起きないんだもん」
トウジとリアンは、シュウを起こそうとしていた。しかし、いくら揺り起こしても、大声を出してもシュウは起きなかった。そうこうしているうちに会議の時間となり、二人は仕方なしにシュウを置いていったのだった。
「もう、今回だけよ?」
ナツメが続いた。
「本当にすみませんでした……」
「もういいわ。早く席に着きなさい。キリノ、アメリカとの衛星通信はもう少しで始まるのよね?」
会議の始まる一時間前にアメリカから通信が入っていた。
「ええ、まもなく来ると思うのですが」
「通信、入りました!」
マカベ国防長官が告げた。
「僕が繋げます。衛星通信による国家会談を開始します」
キリノは通信を受け、会談の準備を進めた。
会議室の大型モニターにアメリカホワイトハウスの一室が映し出された。
「おはよう、日本は今朝だったね?」
モニターに映った先に姿を表した、恰幅のよい大統領が挨拶した。傍らには金髪で、古風な騎士服を身に纏い、腰には細剣を差した女性が控えていた。
ーーあの女、どこかで……ーー
ナツメだけは大統領ではなく、側近に目をやった。
「ジャック・ミュラー大統領!」
「久しぶりだ、イヌヅカ総理。まずはこの竜災害の中、こうして再会できた事を喜ぼう」
「世界は今どうなっているのですか!?」
「少し落ち着きたまえ、イヌヅカ総理。少しずつ説明するよ」
ミュラーは一息つくと、状況説明を始めた。
現状、世界の主要国はドラゴンの支配下となり、連絡がつかない状態であった。
唯一EUとだけは連絡が取れたが、EUも崩壊寸前であった。
「何とか生き残る事ができた我々だが、戦力は拮抗している。予断を許さない状況が続いている」
ミュラーは話を終えた。
「では、アメリカの戦力を日本に! 援軍を要請します!」
イヌヅカ総理は嘆願する。
「それはできない、イヌヅカ総理。我々の母国を守るのに手一杯なのだよ」
ミュラーの答えは非であった。
「そんな、では昨年締結した条約は!?」
「イヌヅカ総理。事は今やそのような次元ではないのだよ」
ミュラーの答えは変わらなかった。
「運がよければまた相見えよう。では」
通信は切られた。
「何ということだ! 日本の少ない戦力だけでは、とてもドラゴンに対抗するなど不可能に近いというのに!」
イヌヅカ総理は頭を抱えた。
「イヌヅカ総理」
ナツメが呼び掛けた。
「ドラゴンは、普通の人間ではとても敵わない事は分かっていますね? しかし、ムラクモ機関は別です。ドラゴンと戦えるのは彼女らS級能力者のみ……」
ナツメは、シュウに目配せした。
「そこで総理、お願いがございます。目下の目標を達成するためにも、全権を我々ムラクモ機関に委譲してはいただけないでしょうか?」
状況はもう、政府の人間でどうにかできるものではなかった。故にイヌヅカ総理の答えは一つしかなかった。
「……分かった。我々政界の人間ではなにもできない。君たちの足手まといにしかならないだろう。都庁の全権は君たちに譲渡しよう。好きにしてくれたまえ」
「英断、心より感謝しますわ」
「では我々は出ていこう。君たちの会議の邪魔にならぬようにな」
イヌヅカ総理は、仲間の議員を連れて会議室をあとにした。
「さて、会議の続きをしましょう」
イヌヅカ総理らが出たあと、ナツメは会議の進行をした。
「キリノ」
「はい、ナツメさん」
ナツメは、キリノに発言権を渡した。
「ドラゴン討伐という目下の目標達成のため、するべき大きな仕事がふたつあります」
二つの大仕事、それはドラゴンという地球外生命体に対抗するための研究室の拡充、情報管理のためのムラクモ本部の新設であった。
「今ガトウは動けないわ。なのでこの大仕事は十三班、あなたたちに行ってもらいます」
シュウたち十三班に求められる任務は、渋谷へと赴き、ドラゴンを倒してDzを集める事だった。
「それから、もう一つ。ダンジョン化した渋谷で生き残りを探してちょうだい」
もう既に地球上では何億もの人間が死んでいる。今更生き残りなどいるのかと三人は疑問に思った。
「ナツメ、生き残りを探すにしても、ドラゴン討伐を優先させてもらうぞ。二兎を追う者は一兎をも得ずだ」
トウジは言った。
「もちろんドラゴンは優先すべきだわ。けれど現状生き残っている者は必ず何かの力を持ってるわ。必ずね」
逃げ遅れた一般人は死んでいようものであろうが、まだ生き残る者は何らかの能力を持つ者に違いがなかった。
「だから今回だけは二兎を追ってほしいの」
ナツメからの願いは、過酷なものとなりうるものだった。
いくら帝竜を倒した経験のある十三班であっても、日を跨いで力を付けているドラゴンを相手取るのは過酷な戦いになるに違いなかった。
「大丈夫よ。ドラゴンも力を付けているけれど、あなたたちだって、帝竜を倒して実力は確実に付けているわ。怖がる事はないわ」
ナツメは、十三班以上に自信に満ちていた。
「頼んだわよ、三人とも」
十三班に選択の余地はなかった。
「ああ、出発の前に建築班のミヤ君の所へ行ってくれますか? 十三班」
キリノが言った。
「恐らく、いや、確実にお世話になる人だ。一言挨拶した方がいい」
「分かったわ、その人はどこに?」
「都庁のエントランスで事務作業をしているはずです」
「了解。行きましょう、二人とも」
シュウたちはエントランスに向かった。
エントランスに行くと、窓口が設営されており、そこでパソコンを打っている女性がいた。
「お忙しいところ失礼します」
シュウが声をかけると、スーツ姿の女性が、パソコンから目を離してシュウの方を向いた。
「ああ、君たちが十三班か」
女性は言うと、デスクから離れ、シュウたちへと近付いた。
「一応初めまして、だな。私は
「そんな、都庁を取り返せたのはみんなのおかげですよ」
「謙遜することじゃないぞ。君たちが帝竜を倒してくれたおかげで狭いシェルター生活から解放され、この広い環境で仕事ができているのだからな」
ミヤは、十三班に深く感謝していた。
「だが、まだ都庁はお世辞にも人が快適に過ごせる環境ではない。まだ立ち入ることすらままならない状態の階ばかりだ。そこで君たち十三班にお願いがある。ドラゴンを倒し手に入れたDzは、私の所に持ってきてほしい」
「Dzをミヤさんの所に、ですか?」
「そうだ。私が厳重な管理をする。避難民の暮らす階層、開発班の装備拡充などいくらあっても足りないくらいだ」
事実、帝竜から手に入れたDzは、必要最低限の改修で使いきってしまった。
「私の厳重な管理のもと、適切な改修を行なっていく。だから頼んだぞ十三班……」
「第一小隊整列!」
十三班がミヤからの説明を受けていると、エントランス中に響くような大きな声がした。
「地下道へ向かうぞ! ムラクモに遅れを取るな!」
声の主はリンであった。
「ドラゴンには敵わぬがあの士気、負けてはいられないな十三班」
十三班は、自衛隊から強い対抗意識を持たれていた。
「ではドラゴン退治、武運を祈っているぞ」
十三班の新たな戦いが、始まろうとしていた。
※※※
「こ、これは……!?」
三人は、しばらく絶句してしまった。
ポイント四二八に当たる渋谷センター街が、巨大なイバラに貫かれ、鉄筋コンクリートから養分を吸い取って咲いた花の咲き乱れる異世界になっていたのだ。
「これが渋谷だと? 木々、草花が乱れているではないか」
「まるでジャングルだね。迷っちゃいそう」
トウジとリアンがそれぞれ驚きを見せた。
『コール十三班』
そろそろ聞き慣れてきた声が、三人の籠手からした。
『ポイント四二八にたどり着いたようですね。これから先も私がシュウたちのナビを務めます。よろしくお願いいたします』
ミイナが丁寧に挨拶した。
『今回は私も作戦に参加するわ。まだガトウは動けない。ドラゴンとの戦いにまだ完全に慣れていないあなたたちだけでは危険が伴うでしょうからね』
ナツメもサポーターとして作戦に参加するようだった。
『今右方向は、何者かが立てたバリケードの撤去作業で通れません。十三班には左方面、道玄坂方面を目指していただきます』
『了解した。樹海のような場所だ。ナビを頼りにしているぞ』
トウジが言うと、通信は切られた。
十三班は、ミイナのナビ通り、樹海と化した道玄坂を目指した。
「ねーねー、シュウちゃん、トウジくん」
リアンが二人に声をかけた。
「どうかしたか、本宮?」
「うん、ドラゴンが来てからもう一ヶ月もたつよね? 地下シェルターに逃げ込めた人たちだけが、日本の生き残りだと思ったけど、これ以上生き残りなんているのかなぁ?」
リアンの言う通り、地球にドラゴンが来襲してから一ヶ月の時が経っている。 ドラゴンとフロワロにより、何億の人間が死んでいた。
普通に考えれば、生き残りなどという存在はあり得ないものだった。
「本宮、確かにお前の言う通りだ。だが、ナツメの言葉を借りれば、何らかの能力のある者ならば生きていられる確率は高い」
トウジはシュウを見た。
「四季、お前ならばどう考える?」
「え、私?」
シュウは、不意の質問に少し驚いてしまった。
「そうね……」
シュウは、生き残りの存在の有無を考えてみた。
リアンの言うように、ドラゴン来襲から経った日数を考えてみれば、生き残りの存在は絶望的である。
しかし、トウジの言葉を借りれば、自分たちのように何らかの能力を持っていれば、ドラゴンに勝てないにしてもマモノとは戦える。そこで生存率は上がると思われる。
「私は……」
シュウが答えを出そうとした瞬間、その言葉はトウジに遮られた。
「二人とも、招かれざる客人のお出ましだ!」
少し離れた先に、真っ赤な体躯をしたドラゴンが歩いていた。
「トウジくん、しずかに。相手はまだ気づいてないみたいだよ」
リアンは、ナイフを抜き放ちながら言った。
「あれは……確か都庁にもいたドラゴンだな」
トウジの言う通り、真っ赤で、手が翼のようになっているドラゴンであり、識別名をサラマンドラといった。
「火の効き目が薄いやつだ。俺の攻撃では分が悪い。四季、本宮、悪いが討伐を頼む」
「まっかせてよ! わたし一人でたおしちゃうから!」
リアンは言うと、ドラゴンへと駆けていった。
「後ろからぶすっといくよ!」
リアンは毒をナイフに纏わせ、がら空きのドラゴンの背中に突き刺した。
不意打ちは見事に決まり、一瞬にして毒がドラゴンの全身に回り、やがてドラゴンは地に伏した。
「あれ? 一撃でたおれちゃった……」
リアンは一人で、それも一太刀でドラゴンを倒してしまった。リアン自身拍子抜けしてしまう結果であった。
「本宮!」
トウジとシュウは、リアンに駆け寄った。
「あっ、トウジくん。このドラゴンこんなに弱かったっけ?」
「帝竜を倒して戦闘レベルが上がっていたのだろう。そう驚くことはない」
トウジは言った。
「それよりも新種のドラゴン反応があるらしい。ミイナ、説明を」
籠手にミイナの姿が映った。
「はい、渋谷道玄坂付近に未確認のドラゴン反応がありました。識別名をケミカルドラグといいます」
新種のドラゴンの姿は、玉に乗ったトカゲのようなもので、毒攻撃を得意とするドラゴンであった。
「十一時の方向、ドラゴン反応があります。新種のドラゴンと思われます。心して討伐をお願いします。オーヴァ」
ミイナとの通信は切れた。
「毒が得意なら、わたしの技じゃうまく戦えないかも」
毒を得意とする相手では、毒に耐性があると思われた。同じく毒を使うリアンでは分が悪い相手と考えられた。
「次は俺と四季であたる。本宮は休んでいていいぞ」
「えー、そんなの悪いよ。ドラゴンとの戦いは全員の力がひつようなのに」
「大丈夫だ。またサラマンドラが現れたらお前に任せるからな。よし、行くぞ四季」
「うん、トウジ君」
シュウとトウジは、ミイナのナビ通りの方向へ駆けた。
ドラゴンは、思った以上に近くにいた。
「ん、ちょっとあれって!?」
ドラゴンに近付き、シュウは気が付いた。
生き残りと思われる人がドラゴンと対峙していた。
「生き残りか!? しかし、救助しようにも距離が……!」
シュウたちが急いで駆けつけても、生き残りはドラゴンの餌食となりそうだった。
「トウジ君、ここから魔法でドラゴンに攻撃できない?」
「できんことはないが、倒すほどの威力はこの距離では出せんぞ」
「それでいいわ。あいつの気をそらせれば十分よ。それからリアン!」
「なに? シュウちゃん」
「ここから全力で走ってあの人の所まで行ける?」
生き残りとドラゴンの距離は、およそ百五十メートルほどであった。
「任せてよシュウちゃん! ここからなら、五秒でいけるよ」
「頼もしいわね。それじゃあ作戦はこうよ!」
シュウの考えた作戦は、トウジの魔法でドラゴンの気をシュウとトウジに向け、交戦している隙にリアンが生き残りの所へ駆けていくという、単純ながらも全員の力を合わせる重要性のある作戦であった。
「そうと決まったら行くわよトウジ君!」
「ああ! 炎よ燃やしつくせ!」
トウジは、炎の玉をドラゴンに向けて放った。だが、思った通り炎はドラゴンの鱗を焼きつくすまでには至らなかった。
しかし、ドラゴンの気をシュウたちに向けることはできた。一つ目の策は成った。
新たな獲物の出現と見たドラゴンは、シュウたちに向かってきた。
「リアン!」
シュウは十分にドラゴンを引き付けたのを確認すると、リアンの名を叫んだ。
「任せて、シュウちゃん!」
リアンは、持ち前の俊足を発揮し、生き残りの元へ駆け寄った。
「大丈夫? もう大丈夫だよ」
「……うう……あんたらは、一体……?」
「説明は後。まずはあのドラゴンから身を隠さなきゃ」
リアンは、生き残りと共に、潜伏のスキルを使った。
ーー後はまかせたよ、二人ともーー
リアンは、ドラゴンと対峙するシュウたちを見守るのだった。
シュウは、一太刀目をドラゴンに放った。
「袈裟斬り!」
シュウの渾身の一撃であったが、ドラゴンの乗る玉に防御されてしまった。
ドラゴンは反撃に移った。口を開きヘドロの息を吹いた。
「まずい! 四季、下がれ!」
あまりに咄嗟の反撃であり、シュウはかわしきれなかった。
「四季!」
「なに、これ……? 目がぐるぐるする……」
シュウは、ドラゴンの毒攻撃により、激しい目眩に見舞われた。
立っているのがやっとの状態のシュウに向けて、ドラゴンは全体重をかけた体当たりをしてきた。
「四季、そこを動かずに耐えてくれ!」
トウジは魔法を使った。
「デコイを展開する!」
シュウは、障壁に包まれた。障壁によってドラゴンの体当たりを弾くことに成功する。
「魔力を弾丸に、マナバレット!」
トウジは、自らの勢いによって体勢を崩したドラゴンに追撃を放った。
攻撃は見事に命中し、ドラゴンを大きく吹き飛ばした。
「今が好機だ!」
トウジは、ホルスターから注射器を取り出し、シュウの所へ駆け寄った。
「四季、今血清を打ってやる」
トウジは、シュウの腕に注射を打った。
解毒の注射はすぐに効き目を表し、シュウの視界も元に戻った。
「……ありがとう、トウジ君」
「礼には及ばない。それよりも……」
トウジは、自らが吹き飛ばしたドラゴンを見た。
若干のダメージは見られるものの、倒すには至っていなかった。
「毒を持っている上にあの丈夫さ。厄介な事この上ないな……」
体勢を立て直しているドラゴンを見て、トウジは舌打ちした。
「トウジ君、私に考えがあるわ」
「四季、考えとは一体?」
「二人がかりで一気に倒すのよ」
「そうは言うが、俺の魔法ではわずかなダメージしか与えられんし、四季も近付けばまた毒を受けるかもしれんぞ?」
「剣と魔法、合わせればどうかしら?」
シュウの考えは、全く新しい攻撃手段であった。
「トウジ君の魔法、私の剣撃を合わせるのよ。トウジ君が先に魔法を撃って、私がその後に続くわ!」
「そんな事が本当にできるのか?」
「やってみなければ分からないわ。トウジ君、誘導よろしく!」
シュウは構え、トウジが動くのを待った。そうこうしている内にドラゴンは完全に体勢を立て直し、シュウらに攻撃しようとしていた。
「四季……分かった。お前の策に乗ろう、魔法を発動すればいいのだな?」
「それでいいわ。ドラゴンが来る、早く魔法を!」
「よし、灼熱よ、焼き焦がせ!」
トウジは、炎の魔法を発動した。燃え上がる炎がドラゴンの所へ炎上していく。
「行くわよ!」
シュウは、トウジの放った炎の後を追うように走った。
トウジの炎はドラゴンにダメージを与えた。しかし、倒しきるには至らない。
「これで……!」
シュウは、渦巻く炎を自らの刀に纏わせた。
「倒れろ!」
シュウは、炎を込めた刀で真一文字にドラゴンを斬った。
トウジの炎の魔法とシュウの機転を効かせた攻撃により、ドラゴンは倒れた。
「やった、上手く行ったわ!」
シュウは、策が成功した事を喜んだ。
ーー四季……ーー
対するトウジは、シュウの指示能力に静かに驚いていた。
十三班のリーダーを務める自らと比べ ると、圧倒的に指揮が上手かった。
「……って、喜んでる場合じゃないわね」
シュウとトウジは、リアンの元に駆け寄った。
「リアン、その人の様子は?」
『それは私が調べます』
ミイナから通信が来た。
「できるの? ならやってちょうだい」
シュウが返答した。
『了解。メディカルスキャン、起動』
スキャニングはすぐに終わった。
「どう? ミイナ」
『肋間の骨折二ヵ所、皮膚の裂傷が十五ヵ所ですが、命に別状はありません』
命に別状はない、と言われ、シュウは胸を撫で下ろした。
「よかった。ちゃんと救えたんだ……!」
これまで幾人の犠牲を見てきたシュウにとって、傷だらけではあるが、人の命を救えた事が、シュウは何より嬉しかった。
「まさか本当に生き残りがいたとはな……」
ドラゴンの支配下に置かれた地球上に、それも一月以上時間が過ぎているのに、 劣悪な環境で生き残っている人間がいることに、トウジは驚きを隠せなかった。
「まったくその通りだよ、トウジくん。で、どうするのこの人?」
ドラゴンに襲われていた男は、命に別状はないとは言え、まともに動く事はできない状態である。ここから連れ出すには難しい事だった。
「連れていこうにも、この人といっしょじゃあまともに戦えないよ」
リアンの言う通り、手負いの男を連れては、戦いに支障が出る事が目に見えていた。マモノとの戦いならいざ知らず、ドラゴンとの戦いになれば守りきれる余裕がなかった。
「大丈夫だ。こんな時の為に用意してる物がある」
トウジは、背負っていた物入れから、なにやら組立式の機械のような物を取り出した。
「なにそれ?」
リアンは訊ねる。
「脱出キットだ」
トウジは答えた。
「脱出、キット?」
シュウも頭に疑問符を浮かべる。
「うむ。説明しよう」
トウジは説明を始めた。
ダンジョン化した都庁の時にも使われた、脱出ポイントの異次元移動を可能にするのがトウジの出した脱出キットである。
今の東京では、あらゆる場所がダンジョン化しており、同時に異次元が発生する異世界になっていた。
異世界となり、マモノ、ドラゴンといった異生物の蔓延る危険な世界となった東京は、同時にオーバーテクノロジーを持つ場所になった。
そのオーバーテクノロジーというのが、異次元移動能力、いわゆるテレポートする事であった。
特定のポイントとポイント同士を繋いでいるのが転送ポイントであり、異次元移動を可能にしている。触れれば一瞬にして繋がった場所に移動できる。
「そんな便利なものがあったんだね」
「うむ、便利なのは間違いないが、このキットには弱点がある」
脱出キットは、特定のポイント外から半ば無理矢理アクセスするので、一度使えば機能停止し、そのまま壊れてしまうのである。
「キットは使い捨てだが、開発班で量産することができている。少ない資材で作ることができるからな」
言いながらトウジは、脱出キットを組み立てた。
「百聞は一見に如かず、だ。実際に使ってみるとしよう。ミイナ」
トウジはミイナを通信を飛ばした。
『はい。ポイント三百二十、渋谷道玄坂、チューニングオーケーです』
「よし、おいお前、腕は動くな? この機械に触れるんだ」
「ごほ……そんな事をしてどうなるんだ……?」
苦しみながら、生き残りの男は訊ねてきた。
「都庁の医療班の所まで行ける。さあ、どこでもいい、機械に触れるんだ」
生き残りの男は、疑ってなかなか手を触れようとしなかった。
「大丈夫だ、悪いようにはならん。キットに触れろ」
それでも男は触れようとしなかった。
「仕方がない、強制送還だ。悪く思うな……」
「なにを……!?」
トウジは男の腕を取り、脱出キットに触れさせた。その瞬間男の体が光に包まれ、キットに吸い込まれていった。
男の体が完全に消えると、脱出キットの光っていた部分がひび割れ、光を失った。
「ミイナ、要救助者を転送した。そちらの様子は?」
『転送成功です。医療班の所へ送られました』
「よし……!」
「すっごい、ほんとうに人を一瞬で運べるなんて……!」
リアンは驚いていた。
「でも機械は壊れちゃったね。もう使う事はできないの?」
「四季、さっきも言った通りだ。一度使用した脱出キットは壊れて二度と使えなくなる。まあ多少勿体ないがな……」
トウジは、壊れた脱出キットを完全に破壊した。
「さあ、ここにいても仕方ない。この調子だとまだ生き残りがいそうだ。隈無く探すぞ」
『コール十三班』
突然ミイナの通信が入った。
「どうした、ミイナ?」
『そこから十二時の方角に、ドラゴンとは違った生体反応を感知しました。恐らく生き残りです』
「それは本当、ミイナ!?」
シュウが驚きつつ訊ねた。
『本当です。ですが悪いことに、その付近にドラゴン反応もあります。襲われかけているのかもしれません。急ぎましょう!』
シュウたちに躊躇っている時間はなかった。
「行くわよ二人とも!」
「ああ」
「うん!」
三人は一斉に反応のある所へと駆けた。
少し駆けた先に、ミイナが感知したと思われる場所へとたどり着いた。
「あれって!?」
「ケミカルドラグ……それと生き残りか!?」
ドラゴンが、生き残りに襲いかからんとしていた。
「い、いや……来ないで……!」
襲われていたのは、看護師の格好をした女であった。
「四季、本宮、さっきの戦術で行くぞ!」
「オッケー、トウジ君。誘導よろしく!」
「まっかせてー!」
リアンが駆けていくのを確認し、トウジは、揺動の魔法を放った。
「燃え尽きろ!」
炎の魔法はドラゴンの頭に当たった。しかし、ダメージはほとんど見られない。
ダメージは薄いが、ドラゴンの気を引くことに成功した。
ーーよし!ーー
「四季! 合わせていくぞ!」
「うん、行くわよ!」
トウジが炎を放ち、それを追うようにシュウは駆けた。
「燃え尽きて倒れろ!」
シュウは、トウジの炎を刀に纏い、右斬り上げでドラゴンに斬りかかった。
今回の作戦も上手く行き、生き残りをドラゴンから救うことができた。
「リアン! その人の様子は!?」
シュウとトウジが駆け寄り、シュウが訊ねた。
「大きな怪我は無いみたいだけど、ミイナちゃん!」
『はい、メディカルスキャンを開始します』
スキャンの結果はすぐに出た。
『軽い裂傷が一部、骨折はなし。身体には大きな異常は見られません』
女は、ドラゴンに襲われていたというのに、ほとんど無傷であった。
「あたし、助かった、の……?」
女は誰にともなく訊ねた。
「うん、もう大丈夫よ。怖かったよね?」
シュウは、女の後ろに回り、両肩をさわった。
「……ひっく……ぐすっ……」
女は、緊張の糸が途切れ泣き出してしまった。
「大丈夫、怖くなーい、怖くなーい……」
シュウは、女の肩を擦りながら落ち着かせた。
数分間女は泣き続けたが、やがて落ち着きを取り戻した。
「ぐす……ごめんなさいね、あたしの方がお姉さんなのに、こんなに泣いちゃってて」
「気にしないで、悪いのは全部ドラゴンなんだから!」
シュウは、努めて強気に振る舞っていた。
「ところで、あなたは何て言うの?」
「あら、ごめんなさい。名前、言ってなかったね。あたしは
ユキは名乗った。
「ユキ、ね。私はシュウ、四季秋って言うの。よろしくね」
シュウも名乗った。
「トウジ君、例のあれは準備できてる?」
シュウは、脱出キットが完成しているか訊ねた。
「無論だ。もうすぐにでも都庁まで飛ばせるぞ」
トウジは答えた。
「ありがとうトウジ君」
「ユキ、彼が用意した機械に触れて。そうすれば一瞬で都庁まで行けるわ」
ユキはやはり、すぐに脱出キットに触れなかった。
「都庁は安全なの?」
「最初はこの樹海のように、ドラゴンやマモノが練り歩く場所だったが、今はいない。帝竜を倒したからな」
トウジが答えた。
「てい、りゅう……?」
「話すと長いから皆まで言わんが、ドラゴンの親玉みたいな存在だと思ってくれ……」
トウジは、脱出キットを持ち上げ、ユキに差し出した。
「恐れることはない、このキットに触れろ。ここよりよっぽど安全な場所に行けるぞ」
ユキは尚も悩んだが、ついに触れる覚悟を決めた。
「……分かったわ。あたしがここにいても足手まといだろうし、本当に安全な場所に行けるなら……」
ユキは、意を決して脱出キットに触れた。ユキは光に包まれ脱出キットに吸い込まれた。
「ミイナ、転送状況はどうだ?」
トウジは確認を取る。
『問題ありません。無事都庁へ転送されました』
これにより、二人目の生き残りを救助することに成功した。
「了解だミイナ。ふむ、この分だとまだまだ生き残りはいるやもしれんな」
トウジは予測する。
「先を急ぐぞ二人とも。またドラゴンに襲われている生き残りが救助を待っている」
三人は、互いに頷き合い、その場を後にしようした。
『お待ちください。この先二百メートル直進した先に、ドラゴンではない生体反応があります』
ミイナが三人を引き止めた。
「なんだってミイナ!? また生き残りか!?」
トウジは驚いて訊ねた。
『いえ、反応が生き残りしては弱くなく、むしろ強いくらいなのです。マモノの相手なら勝てそうなほどの力を持っています』
ミイナの示す反応の正体は、能力者に近かった。
「それほどの者が……分かった、急いで向かうぞ二人とも!」
Phase2 SKY
三人は走り出した。三人とっては二百メートルなど数秒で到達できる距離であった。
二百メートル先にいたの金髪の男女一組であった。
男女二人は、地べたに座り込んで煙草を吸いながら、大きな声でなにやら談笑していた。
「お前たちか? 反応のあった人間とは」
トウジは訊ねた。
「ああん?」
男の方が、トウジを睨むように見た。見た目にはどこにも異常は無いようだった。
「きゃはっ!」
女の方は何故か十三班を見て笑った。
「今日の獲物はっけーん!」
睨んでいた男も喜色を浮かべた。
「獲物、だと?」
トウジには、女の言っている意味が分からなかった。
「おい白髪野郎、お前色々持ってそうだなぁ? 体中にそんなホルスターつけまくっててよう?」
「まあまあグチ。獲物は三匹もいるんだから、ゆっくり楽しませてもらおうよ!」
「そうだなイノ。ありがたくいただこうか」
男の方はグチ、女の方はイノという名前のようだった。
「それじゃあー、食べ物とー、お酒とー、タバコとー、持ってるものとりあえず出してみ?」
「
二人のやっている事は、古典的なカツアゲ行為だった。
「こんな時にカツアゲなんて……」
シュウは呆れた。
「まったくだ、四季。お前たち、素直に出すとでも思っているのか?」
「ねえねえ、それ以前にさ、お酒もタバコもやっちゃいけない歳じゃない? 二人とも」
リアンは諭すように訊ねた。
グチは大きく笑った。
「ぎゃはは! 今時歳なんかかんけーねーし、出さねぇんなら、無理矢理にでも出してもらうだけだし!」
「んー? ねえグチ、アイツらの腕にあるのって」
イノは籠手に気が付いた。
「まさか、ムラクモ機関のガントレットか? つーことはこいつらムラクモか? ダッセエ腕章もしてるしよ」
イノとグチは一瞬顔を見合わせると、先ほど以上の喜色を浮かべた。
「しゃー! そんじゃあカツアゲ止めて普通にボコっぺ!」
「
ついさっきまでカツアゲをしていた二人が、突然戦いをすることにした。
「あんたたち、今は人間同士で争ってる場合じゃあ……」
シュウは、なんとかこの場を穏便に済ませる事ができないかと思い、戦いは避けようとした。
「シュウちゃん、もうムリだよ。相手は戦うことしか考えてないよ」
リアンはナイフを抜き放った。
「末端の者がS級能力者に勝てると本気で思っているのか? まあいい、ここは戦いで解決するとするか」
トウジも身構えた。
「ふんっ!」
グチは空間に剣を出現させた。
「あれは……末端の者の力ではないな……」
トウジは、グチのやったことを見て、彼が異能力を持っていると判断した。
「へへ! ビビったか?」
「逆だ、少しばかり本気を出しても大丈夫だと思っただけだ」
トウジは煽り返した。
「ムカつく白髪野郎だ! 思い知らせてやるよ!」
トウジとグチの戦いは始まった。
トウジとグチの隣で、リアンとイノが睨み合っていた。
「どうしたのかな? 戦うつもりなら早く武器を出したら?」
イノはケタケタと笑った。
「武器なんて野蛮なもの、あたしが使うわけ無いじゃん。バカなの?」
イノは言うと、腕組みしたまま右手指一本を立てた。
「まあ、しいて言うならこれがあたしの武器かな?」
イノは念じると、指先から熱量を持った球体を出した。
「ファイアボール!」
イノは、リアンに向けて熱球体を放った。
「っ!?」
リアンは、とっさに防御した。
「へー、防げるなんてなかなかやるじゃん?」
イノは、これほどならば防がれるであろうと思い、驚いた様子を見せていなかった。
「これは魔法……トウジくんの能力とおなじ……」
イノが使用したのは、トウジの得意とする魔法と良く似ていた。
「すっかり怖じ気づいちゃったかな? ならすぐ楽にしたげるよ!」
イノは、先ほどと同じように念じた。
「ファイアボール!」
熱量を持った球体が、再びリアンに襲いかかった。
「アハハ! 燃えちゃえー!」
球体が迫っても、リアンは一歩たりともその場を動かなかった。
「あまいよ!」
球体がリアンの寸前まで迫った時、リアンはナイフを振るい、球体を斬った。
「ウソ……!? あたしの最大の攻撃が……!」
今度は本気で驚くイノであった。
リアンは、一瞬にしてイノに近寄り、ナイフの切っ先を向けた。
「ちちち、ちょっとタンマ!?」
イノは腰を抜かし、その場に尻餅をついた。
「うおー! いってぇー!」
イノの近くにグチが地を転げて倒れ、叫んだ。
「グチ!?」
「この程度か? 拍子抜けだな……」
トウジは、リアンと並ぶように立った。
「二人とも、やっぱり喧嘩は良くないって。二人ともS級能力者なんだし、うっかり死なせたら大変だよ!」
シュウは、トウジたちとグチたちの間に立って、戦いを止めさせようとした。
「くっそー! こんなのは認められねぇ! 今日朝飯食ってねぇからやられたんだ!」
グチは精一杯の負け惜しみをする。
「そ、そうよ、お昼も食べてないし、たまたま調子が悪かっただけよ!」
イノも負け惜しみをした。
「そういうことだ! 今回だけは見逃してやる。SKYを舐めんじゃねぇぞ!」
グチは、腰を抜かしたイノに肩を貸し、そそくさと撤退していった。
「なんだったんだ、あいつら?」
トウジは呆気にとられていた。
『SKYと言っていましたね。いったい何者なんでしょうか? このダンジョン化した渋谷で生き残りから金品をせしめているだなんて』
ミイナは言った。
「わたしたち能力者とそこそこの勝負ができるなんて。ただの生き残りじゃなさそうだね」
「本宮もそう思うか。戦ってみて分かったが、小型のドラゴンとなら善戦できそうな力を持っていた。ただの不良集団とは思えん……」
グチとイノそれぞれを相手取った二人は、彼らの力が特殊なものに感じた。
「……ここで気を揉んでいても仕方ない先を急ぐと……」
トウジが言いかけたところで、不意にガタガタと音がした。
「なんだ? 今音がしたが……」
「まさかドラゴン!?」
シュウは警戒した。
「いや、違うよシュウちゃん。ドラゴンの気配がないもの」
「じゃあ一体……?」
三人が話し合っていると、再び音がした。
「あっちから聞こえたね」
リアンは音のした方向を捉えた。しかし、その方向を見ても何もいなかった。
「うん?」
「どうした、四季」
シュウは何やら視線を感じていた。
「何だか見られている気が……」
視線を感じたのは、音がした先であった。その先にあるのは、ドラゴンの力によって巨大化した木の根である。
シュウはより注意深く視線の先を見た。
良く見るとそこには、ごみ箱があった。
「四季……?」
シュウは警戒しつつも、ごみ箱に近付いていった。
ーーごみ箱……?ーー
シュウはごみ箱の蓋に手をやった。
開くとそこには、なんと人がいた。
「きゃあああ!」
「うわあああ!」
シュウは、驚きのあまり悲鳴を上げてしまった。同時にごみ箱の中にいた髭面の男も叫んだ。
「どうした、四季!?」
「シュウちゃん!?」
トウジとリアンも、ごみ箱へと駆け寄った。
ごみ箱の中の男は、逃走を図ろうとしたが、ごみ箱から出るのに失敗し、ごみ箱ごと地を転げた。
「ひいいい! ワタシは何も持ってないヨ!」
男は独特の訛りで命乞いをする。
「おカネも食べ物もない、あるとすればこのごみ箱くらい! ワタシはゴミにまみれたゴミ男だヨ!」
ごみ箱に隠れていた男は、激臭を放っていた。
「うっ、クサ……!」
リアンは思わず顔を背ける。
「このクサさ、剣道の小手よりひどい!」
シュウも鼻をつまんだ。
「落ち着け。何も引剥をしようと言うつもりではない」
トウジが臭いに耐えながら言うと、隠れていた男はひとまず落ち着き、三人の顔を順繰りに見回した。
「キミたち、SKYの仲間じゃないのかイ?」
「違う、俺たちはムラクモ機関の者だ。お前たち生き残りを捜している」
「ムラクモ機関って、都市伝説で語られるやつだヨネ?」
男の耳にもムラクモ機関の噂は届いていた。
「ああ、都市伝説ではなく実在する組織だ」
トウジは答えた。
「都市伝説じゃなく実在して、生き残り捜ししてるって事は、ワタシ助かったんだネ!?」
「あ、ああ……」
トウジは男に手を取られ、不快な臭いに顔をしかめた。
「ドラゴンだったら、このごみ箱に隠れてやり過ごせていたんだけど、SKYに見つけられるのが怖かったヨ」
男の言うSKYとは、渋谷を根城とする不良集団であり、集りやカツアゲと、好き勝手している若者の集まりであった。
それだけ聞けばただの不良集団かと思われたが、妙な能力を持つ若者によって構成されていた。
「ワタシとしては、彼らの特殊な能力には興味があるんだけど、それで近寄るのはさすがに怖すぎるヨ……」
男はシュウたちを見回した。
「このドラゴンの闊歩する中、大した怪我をしていない、ワタシはキミたちにも興味がわいたヨ」
男は、飽くなき異能力への興味に浸っていた。
「能力についてはあとだ。まずはお前を救助する」
トウジは脱出キットを組み立てた。
「ん、それはなんなんだネ?」
「触れれば都庁まで一瞬にして移動できる装置だ」
「ああ、それじゃワタシは助かったんだネ! さようなら、九十リットルの隠れ家!」
「さあ、キットに触れて都庁に行ってシャワーを浴びろ。臭すぎるからな」
「はは、ごみ箱にずっと隠れてたからネ。しかし、シャワーまであるなんて、都庁はこの世の天国だネ」
「早く行け、ドラゴンが来んうちにな」
「うん、分かっているヨ。ドラゴンに食われて本物の天国にはまだ行きたくないからネ」
男は、脱出キットに触れた。キットに触れた瞬間、男の体が光に包まれ、キットに吸い込まれていった。
『ええ! あの人ここに来るんですか!?』
激臭を放つ男が向かってくることに、ミイナは嫌悪の驚きを見せた。
『消臭剤を用意するわよ、ナビ。一番効くやつをね』
ナツメも嫌悪感を示していた。
「……さて、ドラゴン退治に戻ろう。約束のDzはまだ集まっていないからな……」
本来の目的に戻ろうとした三人だったが、不意に籠手から警報が鳴った。
「何事だ!?」
「ドラゴン反応みたいよ、トウジ君!」
「ここからそう遠くないよ。急ごう!」
『コール十三班、反応はドラゴンのものだけではありません』
ミイナの通信が入った。
「ひょっとして、生き残り!?」
シュウが訊ねた。
『恐らくは。生体反応は二つあるのですが、そのうち一つは常人の反応ではありません』
「どういうことだ?」
トウジは思い付かなかった。
「行けば分かるよ、きっとね。ミイナ、その反応があるのはどっち?」
『そこから二時の方向に反応があります。急ぎましょう!』
「オッケー、走るよ二人とも!」
シュウを先頭に三人は駆けていった。
Phase3 新たな能力者
間もなくたどり着いた先には人が二人、ドラゴンが一体が睨み合っていた。
「見つけたぞ!」
「大変! ドラゴンが! 急いで加勢するわよ!」
「ちょっと待って、ふたりとも。なんだか様子がへんだよ」
リアンがシュウたちを引き止めた。
良く見ると、人二人はどちらも女性であり、内一人がドラゴンと対峙していた。
「もうダメ! 私たちこのまま死んじゃうんだわ!」
ナース服姿の女が、目の前に迫る死の予感に恐怖していた。
対してドラゴンを目の前にする、サイドテールが特徴的な女は、余裕すらも窺えた。
「ナミさん。ここは私に任せて逃げてください」
「で、でも相手はドラゴン。逃げきれないわ」
「時間稼ぎならできますから。大丈夫、さっきおにぎり食べたんで戦えます!」
こう言うサイドテールの女であったが、勝てる可能性はかなり低く感じていた。
四足歩行で、頭に角を持つ牡牛のようなドラゴンであり、唸りを上げながら地を蹴っていた。
ーーこいつ、全然隙がない……ーー
少しでも動きを見せれば、一気に近寄られ、その角で突き貫かされそうだった。
ドラゴンの方も、どういうわけか仕掛けて来ず、女を威嚇するだけである。
ーーあのドラゴンには分かってるのかな。私に不思議な力が宿ってるってーー
女の能力は、柔よく剛を制す、返し技に特化した能力である。そのため実戦においては、当身で相手の攻撃を誘い、返し技を食らわすというものだった。
ーー仕方ないね。逃げられない以上戦うしかない……ーー
女は半身に構え、ドラゴンに向かった。そして呼吸をととのえ、力が充実した瞬間、女は右手で渾身の当身を打った。
「えーい!」
渾身の一撃であったが、ドラゴンの硬い皮膚にはダメージがあまりなかった。
ーー当身が無理なら技で……!ーー
女は、ドラゴンの腹に向かってスライディングをしてドラゴンの下に潜り込み、前足に当身を打って前身を崩れさせ、ドラゴンの腹を蹴り上げた。
「必殺巴投げ!」
女の投げ技が効いた。ドラゴンは地を転げた。
ドラゴンは地面に転がったまま起き上がれずにいたが、やがて立ち上がり、再び地面を蹴り始めた。
ーー技も今一つか。さて、どうしよう?ーー
戦況は芳しくなかった。ドラゴンの突進攻撃を食らえば無事では済まないであろうと言う時だった。
「やあぁ! ぶった斬ったる!」
シュウが先頭に駆け抜け、袈裟斬りを放った。
打撃ではダメージの薄かったドラゴンの皮膚であったが、斬撃でなら切り裂くことができ、ドラゴン特有の虹色の血を噴き上がらせた。
「大丈夫か!?」
トウジは、女をドラゴンから庇うように立った。
「あなたたちは?」
「話はあとだ。彼女が戦ってくれる、少し離れた場所に行くぞ」
トウジは、女の手を握り、戦線から離脱した。
「トウジくん! こっちの看護師さんも無事だよ!」
リアンは、ナミを保護していた。
「よくやった、本宮。後は……」
トウジは、血を流すドラゴンと対峙するシュウを見る。
「四季! これで焼き斬ってやれ!」
トウジは、炎の魔法をシュウに向けて放った。
シュウは、刀身を上げ、トウジの魔法を受け取った。
「ありがとう、トウジ君! はあああ……!」
シュウは、炎を纏う刀でドラゴンを斬りつけた。
「焼き尽くす!」
斬撃と炎によって、ドラゴンは深傷を負った。最早勝負は決したようなものである。
しかし、ドラゴンはまだ倒れていなかった。
「なんてしぶとい……!」
シュウは舌打ちした。
やられるばかりのドラゴンではなかった。
深傷を負いながらも立ち上がり、地面を蹴って突進の構えを取っていた。
やがてドラゴンは、シュウに向かって突進した。その速度は見た目以上であり、ドラゴンの双角がシュウを貫かんとしていた。
ーーこれは、避けられそうにないわね……!ーー
回避は不能と見たシュウは、防御を固める事にした。
防御に徹するシュウとは逆に、ドラゴンへと飛びかかる影があった。
「ストップ!」
リアンがナイフに麻痺毒を仕込み、ドラゴンの頸椎に突き立てていた。
毒は、瞬く間にドラゴンの体に回り、そのまま動かなくなった。
「シュウちゃん、いまだよ!」
シュウに止めを刺させようとリアンは叫んだ。
「ありがとう、リアン!」
シュウは防御を解き、切っ先をドラゴンに向けた。
「これで終わりよ!」
シュウは、ドラゴンの額に向けて突きを放った。
全身麻痺に陥ったところで頭に刺突を受け、さすがのドラゴンも生きてはいられなかった。
「よし……!」
「やったね! シュウちゃん!」
「二人のお陰だよ」
シュウたちのチームワークの勝利に、三人は喜びあった。
「あの……」
先ほどまでドラゴンと戦っていた女が、おずおずと三人に話しかけてきた。
「ありがとうございました。私一人じゃ多分無理でした」
女は、自らに不思議な力が宿っていると知りながら、謙遜して言った。
「あ、私、
女、アオイは自己紹介をした。
『この反応、ミイナ、スキャンをお願い』
『了解しました。スキャニングを開始します』
スキャンの結果はすぐに出た。
『声紋と光彩が九十九パーセント一致。第七十四回ムラクモ選抜試験の候補者です。タイプデストロイヤーのS級能力者です』
『やっぱり。生体反応が常人を超えていたからまさかと思ったけど……』
ナツメは、少し驚いていた。
『ですが、試験を連絡なしに欠席しています。はたして役に立つのでしょうか?』
『S級能力者なら、一人で凡人百人ぶんの力を持っているわ。仲間にしない手はないわ』
シュウは通信を聞いていて、自らの力の大きさに驚いた。
「凡人百人分……」
「よし、できたぞ」
シュウたちが通信を交えて話している間に、トウジはあるものを用意していた。
「できたって、それって脱出キット?」
リアンが訊ねた。
「察しがいいな、その通りだ、本宮」
トウジが何度か、脱出キットを作っているのをリアンは見ていたが、今回はできが違っていた。
カラーコーンの小型版といった、比較的単純な作りなのが脱出キットであったが、今作られたのは小さな塔といった出来ばえであった。
「俺たちS級能力者にも対応した特別機種だ。ダンジョンから一瞬で帰還するために持っていたが、二組用意しておいてよかった」
生き残りの中にまさか能力者がいようとは、トウジは思っていなかったが、このような事もあろうかとトウジは特別版の脱出キットを余分に持っていた。
「雨瀬と言ったな? すぐにこのキットを使って都庁まで行くんだ。何せドラゴンと戦ったんだ。医者に診てもらった方がいい」
「腕の通信ができる機械、脱出キットとかいう不思議なキット。ムラクモ機関は本当に存在していたんですね」
アオイが選抜試験を連絡もなしにすっぽかしたのは、その存在を疑ったためだった。
「でも大丈夫です。私、昔から体だけは丈夫なんです」
「そう言うな。S級能力者とて人間だ。小さな傷が命に関わることも今の東京ではあり得ることだ。そこの看護師と共に都庁へ避難するんだ」
アオイは、トウジの言うことを受け入れた。
「分かりました。私が大丈夫でもナミさんは完全に平気じゃないですからね」
アオイは、トウジが組み立てた塔を指さした。
「それで、それをどうすれば都庁まで行けるんですか?」
「どこでもいい、キットに触れろ。一度起動してしまったら壊れてしまうから、二人手を繋いで触るんだ」
「分かりました、やってみますね。ナミさん、手を貸してください」
「……本当にそんなにうまく行くの?」
ナミは疑っていた。
「疑う気持ちは分かるが、言う通りにすれば大丈夫だ。とりあえず雨瀬と手を繋げ。引き剥がされないようにしっかりとな」
ナミはまだ疑念と緊張感から、動くことができなかった。
「ナミさん、きっと大丈夫ですよ。私がいますから!」
アオイは、笑いかけてナミの緊張を解こうとした。
「うん、そうだね。このままじゃ、私がワガママ言ってるだけね……この密林にいるよりマシになるなら!」
ナミは、アオイの手を握った。
「よし。えっと、この機械に触れればいいんですよね?」
アオイは、トウジに確認をとった。
「そうだ。どこでもいいから触れれば、都庁にひとっ飛びだ。まあ、本当に飛ぶわけではないがな」
「よーし、行きますよ!」
アオイは、脱出キットに触れた。
触れた瞬間、アオイとナミの体が光り始めた。
「うわわ!? 体が! 眩しい……!」
アオイの驚く声は、ナミと同時に光に包まれるとかき消えた。
アオイとナミだった光は塔に吸い込まれていった。
「コールミイナ。今二人の女を転送した。問題なく都庁に行ったか?」
『少々錯乱していますが、二人とも無事です』
アオイというS級能力者を、トウジが建てた塔の脱出キットで救い出すことができた。もちろん、看護師のナミも助けられた。
十三班に課せられた生き残り探しは順調に進んでいた。並びにDzもこれまでの戦いで集まっていた。
「頃合いだな。四季、本宮、俺たちも一度都庁に帰還するぞ。目的はだいたい果たされた」
「待って、トウジ君。すごく大きな力を感じる……」
トウジらが帰投しようとすると、シュウが、こちらに近付いてくるなにかを感じ取った。
「何っ! まさかドラゴンか!?」
籠手にドラゴン反応はなかった。となるは近付いてくる存在は人かマモノと考えられた。
近付いてくる何かはすぐにその正体を現した。
「へぇ、そこのドラゴンを倒したんだ」
猫耳風パーカーを着こなし、眼鏡をかけた少女が、十三班の誰にともなく言った。
「……そいつは俺たちでも倒すのに苦労する奴だ。それを倒すとはやるな」
色黒で、筋骨逞しい糸目気味の青年が十三班を称賛した。
「有明、天堂。生きていたのか!」
「あの二人、トウジくんの知り合いなの?」
リアンが訊ねた。
「ああ、話せば長くなるから今は割愛するが、ムラクモ機関と深い関係がある人物だ」
「べーっだ! ムラクモ機関なんか大嫌いだよ!」
有明と呼ばれた少女は舌を出した。
「ムラクモ機関には、ある意味世話なったからな……」
天堂と呼ばれた青年は、感情が疎く、本心が分かりづらいが静かに、一種の怒りの感情を醸し出していた。
トウジと一組の男女は、再会を喜ぶ事もなく、すぐに本題に入った。
「カツアゲの事はすまなかった。完全にこちらの統制ミスだ。今うちの大将が叱責しているところだ」
「ダイゴ、そんなやつらに謝ることないのに」
少女はダイゴの言葉に差し挟んだ。
「ネコ、非を認める事は大切なことだ。ここは俺たちが悪い、謝ってしかるべきだ」
ダイゴは、少女をネコと呼び、彼女と違って詫びの意思を示していた。
「ダイゴは甘いんだよ。いくら非があっても謝らない、それがSKYの掟ってもんでしょ!」
「そんな掟はないぞ、ネコ。SKYをただの不良集団にするつもりか?」
ダイゴは嗜める。
「ふん! でも気になるところね、ムラクモの力は、さ……」
ネコは、シュウたちの力に興味を持った。
「トウジは分かるけど、そこの二人、大して強そうには見えないけど、どうなんだろう?」
十三班が戦ったイノとグチは、特殊な力を持つ、SKYの中でも上を行く人物であった。
「セーラー服の子、ちょーっと訊きたいんだけど、イノとグチと戦ってみてどうだった?」
シュウは訊ねられた。
「苦戦した? それともラクショーだった?」
答えは考えるまでもなかった。
「私は直接戦ったわけじゃないけど、見た感じ弱かったわ、残念ながらね」
ネコは、やはりと言った具合に笑った。
「その答え、イノとグチが手抜きしたわけじゃなさそうね」
「ネコ、もういいだろう。部外者を問い詰める必要はない。しかし、お前たち、ひとつ忠告しておく。次に渋谷に来るような事があれば容赦はしない」
ダイゴは言うと、行くぞネコ、とその場から退いていった。
「あ、待ってよダイゴー!」
ダイゴとネコは去っていった。
「あの二人、わたしの直感だけど強そうだったね。もしかしてS級能力者だったりするのかな?」
リアンは訊ねた。
「はっきりとは言えん。だが、あの二人は常人とは違って、ドラゴンと戦えるほどの力を持っているやも知れん」
トウジの回答は、彼にしては珍しく、非常に歯切れの悪いものだった。
「……とにかく、奴らの事も気になるだろうが、今は任務を優先するぞ。都庁に帰還だ」
十三班の三人は、トウジの建てた塔型の特別な脱出キットを使い、都庁へと帰還するのだった。
Phase4 SKYとムラクモ
渋谷から帰投した十三班は、都庁エントランスのミヤの元に渋谷で集めたDzを渡していた。
「うむ、これだけあれば改修は可能だ。よくやったぞ、十三班」
ミヤの褒めの言葉に、くすぐったさを感じながらシュウは訊ねた。
「改修にはどれくらいの時間がかかるんですか?」
「一日とかからんよ。ここに残っている作業員はAプラス級の能力者だ。普通の人間の十倍の作業効率を発揮するだろう」
シュウは当然のごとく驚いた。
「一日とかからんと言ったが、改修が終わるまでは、まずまずの時間があるからな。次の任務まで自室で休んでいてはどうだ?」
「そうさせてもらおう。今日はマナパワーを使いすぎたからな……」
トウジは、言いながら欠伸を噛み殺した。
「ふわぁ、わたしも疲れたよ。お腹もすいたし、もう休みたいよ」
リアンも疲れを露にしていた。
二人が疲労を明らかにしている中で、シュウだけはまだそれほど疲れていなかった。
「私はまだ平気です! 何かできることはありませんか?」
シュウは言った。
「私に言われてもだな、建築の仕事は専門外だろう?」
「戦うだけの力じゃありません! だから何でも言いつけてください!」
「オウ、ユー何でもヤッテくれるのネェ?」
不意にシュウの後ろから、片言気味の声がした。
声のした方向を見ると、浮世離れした姿の女が立っていた。
褐色の肌でさらしを胸に巻き、その上にベストを羽織っている。
異国情緒な首飾りを着け、両腕にはブレスレットをいくつか嵌め、銀色の髪をツインテールに結んでいた。
突然、明らかな外国人の登場に、三人は言葉を失っていた。
「……えーっと、どちら様でしょうか?」
シュウがおずおずと訊ねた。
「アイムチェロン、
浮世離れした姿の女は、チェロンと名乗った。
「チェロン、帰ったのか」
ミヤが言った。ミヤの様子を見るに、チェロンとは知り合いのようだった。
「ミヤのオカゲでだいぶグレートなオフィスがデキそうダヨ」
チェロンは上機嫌であった。
「お前たちにも紹介しておこう。彼女は世界救済会という組織のトップで、都庁を活動拠点としている」
ミヤが説明した。
「世界救済会……?」
シュウは、それがどんなものなのか、まるで思い付かなかった。
「ドラゴン来襲でトーキョーはメチャクチャ。でもそんなジョーキョーでも生きているヒトがいる。ヒトが集まる都庁ではイロンナヨーボーも集まる。それを何とかするのがワタシの役目ネェ」
チェロンの説明によると、世界救済会とは、都庁で起こる様々な問題を解決していく組織であった。
「ミヤのオカゲでできたのは、ズバリクエストオフィス! 都庁中のコマリゴト、リクエストイロイロ集まるバショネ」
「それってつまり、人助けのためのオフィスですか?」
シュウは訊ねた。
「ユーアーライト! 世のタメヒトのタメ働く、これがワタシのクエストオフィスよ」
チェロンは答えた。
「それからもう、サシアタッテの依頼があるヨ。ピルケースを失くしたマダムがいて、探してきてホシイみたいなんダヨ」
女性が都庁に移動した後に、常備薬を入れたピルケースを紛失したらしかった。
「かわいそう。よーし、私が見つけてきてあげるよ!」
シュウはクエストを受けることにした。
「グレイト! 困ったヒトを放って置けないヒーロー登場ってカンジ?」
「……それで、どこで落としたとか情報はないの?」
「地下シェルターから都庁にくるマデに失くしたらしいヨ。ダカラ、地下シェルターが怪しいかも?」
ピルケースの在処は、新宿御苑の地下シェルターにあると思われた。
帝竜ウォークライを倒し、都庁を奪還した折に、シェルターに逃げ延びていた一般人たちは一人残らず都庁へと移動していた。
ムラクモ機関の人間、及び自衛隊を除く一般人は、シェルターから移動したら都庁を出ることを許されていなかった。
今失せ物をした女性も当然一般人で、シェルターに戻ることはできない。ここでムラクモ機関の人間であるシュウの出番となる。
「分かったわ。地下シェルターね! そうと決まれば行くわよ!」
「ちょっと待て」
トウジが引き止めた。
「どうしたのトウジ君?」
「なにやら妙な女の頼みを受けるつもりのようだが、十三班のリーダーとして許可できんな」
「そんな、どうして? 困ってる人がいるんだよ? さっきも言ったけど、私たちの力は戦うためだけのものじゃないって」
「言いたい事は分かるが、今のところ俺たちしかドラゴンに対応できない。要らぬ体力は消費すべきじゃない」
トウジは、チェロンのクエストが、ドラゴンに繋がりがある可能性を危惧していた。
「本宮はどうだ? この女のクエストとやらを受けるべきだと思うか?」
「わたしもパスかなぁ。疲れたし……」
リアンもクエストに乗り気ではなかった。
「そんなリアンまで……こうなったら私一人で行くわ」
「リーダー権限で、それこそ許可できん」
トウジは引き下がらなかった。
「リーダー権限なんて、そんなの無いよ。困ってる人がいるんだから。もう私は行く!」
「あ、待て四季!」
シュウは、トウジが止めるのを聞かず、エントランスホールを駆け出してしまった。
「あの、ソーリーね。ワタシのせいでケンカになってしまって」
チェロンは詫びた。
「古菅と言ったか。お前は悪くない、悪いのは班の統率が取れない俺自身だ……」
トウジは、チェロンを責めず、自らを責めた。
「そう? ならワタシはここでクエストを出し続けるヨ。トーソツが取れるようになるマデ気長に待ってるヨ。疲れてるところ話を聞いてくれてアリガトネ」
チェロンは、カウンターの奥へと引っ込んで行った。
「どうするトウジくん。シュウちゃんを追う?」
「いや、たかが失せ物探しだ。四季一人でもなんとかなるだろう。俺たちは部屋に戻って休むぞ」
トウジとリアンは、十三班自室に戻ることにした。
その後シュウは、地下シェルターから頼まれていたピルケースを見つけ出し、クエストは成功に終わったのだった。
※※※
「SKY討伐を命じます」
改修が終わり、新しくなったムラクモ本部にて作戦会議が行われ、そこでナツメから出た言葉だった。
「ちょっと待てナツメ。今は人間同士で争っている場合じゃないだろう?」
トウジはナツメの提案に、断固反対した。
「私も反対です。人と戦うなんてできません!」
シュウも反対の意を示した。
「あなたたちの言いたい事は分かります。けれどもSKYに渋谷を牛耳られていては、作戦の邪魔になると考えられる。後顧の憂いを潰すには、彼らを討伐するしかない」
ナツメは言った。
ナツメがSKY討伐という過激な作戦を下したのには理由があった。
SKYは、皆ムラクモ機関を嫌っており、メンバーは大なり小なりムラクモ機関に憎しみを持っていた。
憎しみを持ったSKYのメンバーが、この竜災害に乗じてムラクモ機関を害する可能性があった。
ドラゴンを相手にしながら、SKYも相手にしなければならない、そうした事態を想定してナツメはSKY討伐を命じたのだった。
「災いのもとは先んじて刈り取っておくべきよ。気持ちは分からなくはないけど、これがベストの選択なの。改めて総長命令よ、SKY討伐を命じます」
シュウたちがこれ以上異をとなえる間もなく、会議は終了した。
会議から間もなくして、シュウたち十三班は再び渋谷へと赴いていた。
「ねえ、トウジ君」
シュウは呼びかけた。
「どうかしたか、四季?」
「ナツメさんは、ああ言ってたけど、本当にこれがベストの方法なのかな?」
シュウはまだ、ナツメの任に迷いを見せていた。他に方法が、戦わなくて済む方法はないかと思っていた。
「ムラクモ機関とSKYには、大きな軋轢がある。ナツメが過激な策を弄するのは無理のない事だ」
ナツメが討伐任務を出した理由は、トウジには分かっている事だった。
「SKYの面々は、元はムラクモ機関にいた人間だ。ただしどこかの班に属していた訳ではない。実験のため機関に置かれていたモルモットだった」
能力開発のモルモットだった現在のSKYは、日々非人道的実験を受けていた。
トウジはそれを幾度となく見せられていた。
「ナツメにとって、ムラクモ機関から逃げていったSKYは目の上のたんこぶだ。さぞ憎らしい事だろう。それを力のない自分では打ち払えないから、俺たちに任命したのだろう。正直なところ、この任務に正義はあるのか、決めあぐねている」
「二人とも、一体なにを迷っているの?」
リアンは言った。
「SKYが降りかかる火の粉なら、払わなきゃいけないでしょ? 人間同士で争ったところで、たかが人が数人死ぬくらいじゃない。ドラゴン討伐に比べたら楽な任務だよ」
リアンの言葉は、ナツメ以上にトゲのあるものだった。
「リアン、それ本気で言ってるの?」
シュウは問うた。
「本気も本気だよ。これも命令ならしたかないよ」
リアンは、元は暗殺者であるから、シュウとは覚悟が違っていた。
「命令なら人の命も奪っても良いと言うの!?」
シュウはつい怒鳴ってしまった。
「落ち着け四季、本宮も言葉が過ぎるぞ」
トウジは、二人の間に割って入った。
「シュウちゃん、何を怒っているのか分からないけど、これだけは言える。戦いの場で迷うことは、死につながるよ」
リアンの言葉は、普段と違って重みがあった。これから先に待ち構えている人間同士の殺し合いに覚悟を持っているからこその重みであった。
「おっと、ここから先は通さないぜ
?」
反目し合う十三班の前に、少年が二人、姿を現した。いかにもSKYの人間と分かる、チャラチャラした姿をしていた。
「オレたち二人に出会っちまったのが運の尽きだったな!」
少年たちは、空間に刀を出現させた。
『あれは異能力! 十三班、あれがSKYの人間です』
ミイナから通信が入った。
「そうらしいな、風体からは想像できんが、あんな能力を見せられては信じざるを得んな」
「ミッションスタートだよ、シュウちゃん。話し合いじゃ解決できないことは分かるよね?」
リアンはナイフを取り出した。
「やむを得ん……!」
トウジも戦闘態勢になった。
「二人とも、まだ戦わなくても……!」
『シュウ、気持ちは分かりますが、総長からの命令は、SKYを殲滅することです戦闘態勢を取ってください』
トウジとリアンに引き続き、ミイナにまで言われても、シュウは戦う意思を持てなかった。
「二対二か。むこうのセーラー服はビビって戦えねぇようだしな」
「ギャハハ! その腰にあるものはお飾りか!?」
SKYの少年二人はシュウを煽った。
「お前たちの相手は俺とこの女だ。後ろの女の手を下すまでもない」
「おーおー、ずいぶんと自信満々じゃねぇか! やっちまおうぜアキラ!」
「おう、タオ!」
アキラとタオ、トウジとリアンの戦いが始まろうとしていた。
「待って!」
始まりかけた戦いに待ったをかけたのはシュウであった。
「私も戦うわ」
シュウは、加賀清光を抜いた。
「四季!?」
突然の事に、トウジは大きく驚いてしまった。
「ただしリアンは戦いから身を引いて。私とトウジ君が戦うわ」
「どうしてわたしが?」
「リアンの能力は毒を纏ったナイフを振るうものでしょう? 確実に相手を殺す事になるわ。そうなったら彼らのリーダー格を聞き出せなくなる。だからリアンには戦いから離脱して欲しいのよ」
シュウの言葉は言い得て妙だった。
「わ、わかったよシュウちゃん……」
リアンはナイフを仕舞い、後方へ下がっていった。
リアンが退いていくのを確認すると、シュウはタオとアキラの方を向いた。
「これでだいぶ公平な勝負になるわね」
明らかな手加減をされた気がして、タオとアキラは怒った。
「調子に乗ってんじゃねぇぞ! やっちまうぞタオ!」
「おう、アキラ!」
タオとアキラは、刀を構えた。
「その素人剣術がどこまで通用するかしらね!?」
シュウは挑発した。
「ぶった斬ってやる!」
挑発に乗ったタオが、シュウに斬りかかってきた。
シュウは、前横に体捌きし、足を前に出した。
「おわっ!?」
タオは前のめりになっていたため、シュウの足をかわせず、そのまま前方に転んでしまった。
倒れて死に体になったタオに、シュウは刀の切っ先を向けた。
「ひっ! お助け……!?」
タオは、非常に情けない声を上げた。
「トウジ君!」
「任せておけ!」
トウジはアキラに向き、手をかざした。
「魔力を弾丸に、マナバレット!」
トウジの使った魔法は、相手を殺さない無属性の魔法であった。
「ぐほぉっ!」
アキラは鳩尾に魔法弾をまともに受け、その場に崩れ落ちた。
勝負はあっけなく終わった。シュウとトウジの圧勝である。
「どうしたの? もう終わりかしら?」
シュウは、タオに突き付けた切っ先を更に近づけた。
「ひいぃ! 終わりだ終わり、お前の勝ちだ!」
「ゴホッ! クッソー、グチの野郎フカシやがって! どこが弱い奴らだ!」
「負けを認めたなら訊きたい事があるわ。あなたたちのリーダー格はどこにいるのかしら?」
「この先の、しし、渋谷西にアジトがある。そこにタケハヤがいる!」
タオは、タケハヤという人物がリーダー格であると白状した。
「タケハヤ……」
シュウは口にした。その隙を見て、タオは起きてアキラの所に駆け出した。
「おい、立てるか!?」
タオは、アキラに肩を貸した。
「テメェら覚えてやがれよ!」
タオは逃げ出していった。
「待て!」
「追いかけよう、二人とも!」
三人は追いかけた。
手負いのアキラが一緒のタオであったが、逃げ足が速く、三人はまかれてしまった。
「くそ、まかれたか」
「でもあいつらのアジトはこの先なんだよね? 急ぐ必要はないんじゃないかな?」
リアンは言った。
「だが、ゆっくりもしていられない。これは急務だからな」
トウジは言う。
「待って二人とも。あそこにいるのって……」
シュウは、見覚えのある影の存在を見つけた。
「イノとグチじゃないかしら?」
「イノにグチ? はて、そんな奴らいたか?」
トウジは覚えていなかった。
「わたしは覚えてるよ。すんごく弱かったからね」
「あいつら、アジトの門番をしているようね……」
あと少しでSKYのリーダー格のいる場所にたどり着けるというのに、多少の邪魔が入りそうだった。
「どうする? このまま近付けば戦いは避けられないと思うよ?」
リアンは言った。
「かと言って別に入り口があるとは思えんが……」
トウジの言う通り、忍び込める所はないと思われた。
「仕方ないわ、ここは正面突破よ。ただし手加減はして、ね」
人と戦うのが嫌なシュウにしては、大胆な提案だった。
「行くわよ二人とも!」
シュウが先陣を切った。その後にトウジとリアンが続く。
イノとグチの所にたどり着くのはあっという間であった。
「また会ったわね、イノにグチ!」
啖呵を切ったのはシュウである。
「あぁ? お前らは……ムラクモの!?」
「ムラクモですって!?」
二人は驚きを見せた。
「どうしたの、なにを驚いているの?」
リアンが訊ねた。
「驚いてなんかいねぇ、ずっと待ってたんだよ。お前らが来るのをな」
グチはニヤリと笑った。
「あれからタイヘンだったんだからね? タケハヤには怒られるし、みんなに笑われるし……」
イノは、屈辱を思い出しながら言った。
「きっとお前らなら、ここに来るのを踏んで見張り役をやっていたのさ」
「自ら見張り役を買って出るなんて、目的は何?」
シュウは訊ねた。
「決まってんだろ。お前らにリベンジするためだよ!」
グチは刀を空間に出現させた。
「言っておくが、この前みたいになると思うなよ。今日はしっかり朝飯を食ってきたからな!」
グチは構えた。
「食事の有無で、戦力の差が縮むと本当に思っているのか?」
トウジが言った。
「もちろんトレーニングも欠かさなかったわ」
イノは言った。
「トレーニングしても、わたしたちと君たちには越えられない壁があるとおもうんだけど」
リアンが挑発的に言った。
「御託はもういらねぇ! さっさと始めるぞ! 行くぞイノ!」
「オーケーグチ。今度こそ分からせてやろうじゃないの!」
イノとグチは戦いを始めた。
そして息つく間もなく勝敗は決まった。十三班の圧勝である。
「いってぇぇぇぇ! 何だこれは、てんで歯が立たないじゃねぇかよ!?」
「いったぁ! もう、ネイルが割れちゃったじゃない! 女の子に手加減無しなんてマジ最低!」
「……これでもかなり手加減したんだけど」
戦ったのはシュウ一人であった。と言うよりも残り二人の出る幕がなかった。
「くっそー! お前のその力何だってんだよ!? もうオレたちの完敗だ! 降参だ!」
「いや、それはあり得ないでしょ。一度も勝てなくて終わりだなんて」
グチは降参の意を示したが、イノはまだ戦う意思があるようだった。
「なら、もう少しだけ続けてみようか?」
シュウは、不敵な笑みを浮かべて再戦を迫った。
「いーや、この勝負はお預けよ。トレーニングを積みに積んで力をつけたら戦うわ!」
イノは、グチとは対称的にまだリベンジをするつもりだった。
「タケハヤに会うんならこの先のアジトだ。言っとくが、タケハヤはマジでつえぇ。戦おうなんて無茶はしないことだぜ……」
イノとグチは道を開けた。
ーー四季、いつの間にそれほどの力を……?ーー
トウジはシュウの成長に、密かに驚いていた。
相手はS級に満たない、精々Aプラス級程度の相手であったが、手加減をしても相手を悶絶させた。
シュウの全力はいかほどか、考えるトウジであった。
シュウたちは、SKYのアジトに足を踏み入れた。アジト内部はドラム缶や廃車などの入り乱れる、まさに不良の溜まり場といった場所であった。
男も女も金髪であり、服も気崩しており、アジトに溜まっている者は皆不良少年、少女の様相を成していた。
「あァ?」
少年の一人が、招かれざる客人である十三班に気が付いた。
「誰だオメーら?」
「ここをSKYのアジトだって、分かってて来たの?」
「だとしたらトンでもねぇバカたちだぜ!」
次々に他の不良たちも十三班に気付いていった。
「お前たちに用はない。リーダー格を呼んでもらおう」
トウジは、不良の軍勢を恐れる事なく訊ねた。
「ハァ? ギャハハハハ! 素直に出すと思ってんのか? ギャハハ!」
「身ぐるみ剥いじまえ! 二人の女はお楽しみだ!」
不良たちはナイフを取り出し、三人に襲い掛かろうとした。
「よせ、お前たちの敵う相手ではない……」
アジトの奥から、筋骨逞しい、タトゥーをした大男がネコミミパーカーを着た眼鏡の少女を伴って姿を現した。
「ダイゴにネコ、何で止めるんだよ?」
「言った通りだ。お前たちでは勝てん、どう転んでもな」
「相手はムラクモのS級能力者だからね。あたしらじゃないと勝負にならないんだから」
それよりも、と大男、ダイゴが切り出した。
「あれほど警告したのに来てしまったか、ムラクモ十三班」
「天堂、有明、今は人同士で戦っている場合ではない。おとなしく投降してくれないか? 悪いようにはせん」
トウジは停戦を促した。
「キャハ! そんなの聞くわけ無いじゃん!」
やはりと言うべきか、ネコは投降を突っ返した。
「トウジ、ネコの言う通りだ。投降などしない。それに言ったはずだ。次会う時は容赦はしないとな」
ダイゴは身構えた。
「そー言うこと。おとなしく帰らないんなら、ちょーっと痛い目にあわせてあげるから!」
ネコは、両手にマナパワーを纏わせた。最早戦いはもう避けられないものとなっていた。
「三人まとめてかかってくるがいい。返り討ちにしてくれる……!」
「トウジ君、本当は嫌だけど、もう戦うしかないよ!」
シュウは刀を抜いた。
「シュウちゃんの言う通りだよ。やるしかない!」
リアンも武器を取り出した。
「準備はいいな? ではこちらから行くぞ!」
ダイゴは肩をいからせ、トウジに向けて体当たりした。
「くっ、デコイを展開する!」
トウジはとっさに、防御障壁を作った。
「薄っぺらい障壁だな……!」
ダイゴは、そのまま全力でトウジにぶつかった。ダイゴの力に耐えきれず、障壁はパリン、と音を立てて砕け散ってしまった。
「燃え尽きろ!」
トウジは炎で応戦した。
「ふん」
ダイゴは、その巨体からは想像できない身軽さを見せた。後方に宙返りして、トウジの炎をかわしたのだ。
「ダイゴー、そのまま伏せて!」
ネコは、ダイゴを巻き添えにしないように叫んだ。
「攻めてくよー!」
ネコは空中に、指先で何かを描くような動きを見せた。すると、ネコのマナパワーの宿った手から冷気が発生した。
「凍っちゃいな!」
冷気は氷へと変化し、槍のような刃になってシュウたちに襲い掛かった。
「ふん、氷には炎だ!」
トウジは、炎の魔法を発動した。
氷と炎がぶつかり合った。炎は氷を溶かし、蒸発させていく。
「そんな小さな炎で、あたしの氷を溶かしきれると思ってるー?」
「……これは、くっ……!?」
溶かしたはずの氷が、ネコの出すマナパワーで再凍結し、氷の槍がトウジを圧していた。
「下がれ! 二人とも、この氷には圧し勝てん! 巻き添え食わないように離れてくれ!」
「そんな、トウジ君は!?」
「デコイで何とか凌ぐ! 早く離れるんだ!」
「シュウちゃん、トウジくんの言う通りだよ。このままここにいたら、三人仲良く串刺しだよ!」
リアンは、シュウの手を取り後方に走り出した。
「ああちょっと、リアン! ……トウジくーん!」
シュウが叫ぶ中、トウジは氷の槍に包まれた。
ネコのマナパワーが切れると、地面から生えたような氷の槍が、力を失って全て倒れた。
その中央部に、凍傷を負ったトウジが、腕をクロスさせながら立っていた。
「へえー、やるじゃん? あたしの魔法を受けて立っていられるなんてさ」
いや、とネコは言葉を変えた。
「もう虫の息だね」
「ぐっ、くく……!」
トウジは膝を付いた。
「トウジくん、大丈夫……じゃないよね?」
「……軽い凍傷を負っただけだ。大したことではない」
トウジが、やせ我慢をしているのは明らかであった。
「許さない……」
静かな怒りを見せながら、シュウは剣先をSKYの二人に向けた。
「よくもトウジ君を!」
シュウは怒りから、一時身体能力を増加するエグゾーストを発動させた。
青白いオーラを立ち上らせながら、倍以上のスピードで一気にネコへと迫った。
ネコは、反撃は間に合わないと踏み、トウジのようなマナパワーをデコイにする魔法を使った。
「叩き斬る!」
シュウは、デコイをものともせずに一刀のもと斬り伏せた。
「逃がさない!」
デコイを容易く壊され、ひとまず距離を置こうとしたネコに、シュウは追撃を放った。
ーー何、コイツ、逃げられない!ーー
ネコは追い込まれてしまった。
「消えなさい!」
シュウは、止めの一撃を振るった。
「させんぞ!」
ダイゴが間に入り、シュウの刃を常人を超えた筋骨で受け止めた。
「ダイゴ! ありがとう」
「ネコ、あれをやるぞ。一気に決める……!」
ネコは、マナパワーを冷気に変換し、それをダイゴの拳へと送った。
「ダイゴ、それでぶん殴っちゃって!」
ダイゴの右腕は氷の刃となった。
「受け止めて見せる!」
シュウは、防御の構えを取った。
鉄の刃と氷の刃がぶつかり合い、辺りにパキーン、というかん高い音が辺りに響き渡った。
ーーバカな、これを本当に受け止めただと……!?ーー
ダイゴは、攻撃を防がれた事に驚きながら下がった。
「さあ、続けましょう……!」
未だ漂う冷気の中、シュウは再び切っ先をダイゴに向けた。
お互い間合いの外であり、迂闊に動けばどちらかがやられる、膠着状態になっていた。
「よーう」
シュウとダイゴが睨みあった状態の中、間延びした声がした。
二人が声がした方向を見ると、ジャケットを腕まくりし、黒と灰色の縦縞のインナーを着て、首に巻いた青色のロングマフラーが特徴的な男が、女を連れてシュウたちに手を振っていた。
「面白そうな事してンじゃねェか? オレも混ぜてくれや」
男の連れる女も相当変わった様相をしていた。
タイトなズボンに、純白のポンチョを身に纏い、青く長い髪をしていた。
「タケハヤ、帰ってきたのか」
ダイゴが言った。
「おーう、アイテルの用事はすンだからなァ。それよりこいつァどんな状況だァ?」
タケハヤは、連れの女をアイテルと呼んだ。
「ムラクモが来たんだよ!」
ネコが答えた。
「ムラクモ、ねェ……何にせよろくでもない目的で来たンだろ。オレらを殲滅させろ、とかな」
タケハヤは、半笑いで言った。
「……須佐」
トウジが呼んだ。
「おう、トウジじゃねェか。どうしたその怪我? 凍傷か。ネコの魔法が当たったてとこか」
「言い訳をするようだが、これはナツメの下した命令だ。俺たちに敵意はない。ここは大人しく投降してくれないか?」
ハハハ、とタケハヤは笑った。
「おもしれェ冗談だな。素直に聞き入れると本気で思ってんのか?」
「……頼む俺たちは戦いたくないんだ」
タケハヤは、これ以上は話しにならないと考え、話し相手を変えた。
「おい、そこのセーラー服。お前もムラクモだろ? いけ好かねェバァさん言うこと聞いててなンともねェのか?」
タケハヤは、シュウに声をかけた。
「あなたは、ムラクモを憎んでいるの?」
「質問に質問で返すンじゃねェよ。まあ、一応言っておく。憎しみどころじゃねェ、憎悪だ。オレだけじゃねェ、ここにいる全員が憎ンでるぜ?」
タケハヤは、気だるそうにあくびをした。
「……喋り疲れたぜ。まあ、あのババアに何を言われて動いてるか知らねェが手を退いた方がいい。今日の所は見逃すが、次会った時もババアの指示に従っていたら、容赦しねェ、いいな?」
タケハヤはアイテルを連れてアジトから出て、自室にしている雑居ビルへと向かっていった。
「あ! 待ってよタケハヤ!」
ネコも後を追った。
「運が良かったなムラクモ、タケハヤの気分が戦いに向いていなかったからな。お前たちも早々に立ち去るがいい」
ダイゴは一言残しアジトを後にした。
ダイゴがいなくなると、アジトはもぬけの殻となった。
『コール十三班』
ミイナからの通信が入った。
『SKY討伐任務は失敗に終わってしまいましたね。これから先どうするのか、対策を立てねばなりません。一度都庁に帰還を……』
ミイナが言い終わる前に、籠手からブザーが鳴った。
「何!?」
シュウは、驚き叫んだ。
『救難信号です! これは、自衛隊から……!?』
Phase5 憂いの救難信号
自衛隊は、ドラゴン対策として、滅茶苦茶になった地下道を舗装する役割を担っていた。
五丁目駅付近で瓦礫や横転した電車を撤去する作業を行っていた所、小型のドラゴンが出現した。
交戦した自衛隊であったが、やはりドラゴン相手では手も足も出ず、隊員は散り散りになってしまった。
地下も帝竜の巣食うダンジョン化しており、横洞ができていた。
数名の隊員が、その横洞に追いやられ、連絡も取れなくなってしまった。
誰がいつ死んでもおかしくない状況に置かれた時、隊員のイコマがムラクモへと救難信号を送ったのだった。
「何故勝手に救難信号を出した!?」
リンが、イコマに向けて怒鳴った。
「今の自衛隊を束ねるのはアタシだ。そのアタシを差し置いて、しかもムラクモ機関に送るとは……!?」
リンの言葉は、急な痛みに遮られた。
「無理をするな、リン。肋骨がやられているんだ。騒ぐと悪化するぞ」
「こんなものはどうでもいい……うくっ!」
「リン、今の俺たちは機材もろくにない上に、『アイツ』とドラゴンが現れて皆とはぐれてしまった。この上はムラクモ機関に助けを求めるしか無かったんだ」
リンは、イコマにこの上なく諭され、何も言えなくなっていた。
ーーどうしてアタシはこうなんだ……!ーー
ふと、辺りが少し明るくなった。地下道への入り口が開かれたのだ。
「助けに来たぞ!」
ガトウが真っ先に地下へと下りてきた。その次にシュウたち十三班、アオイ十班が続いた。
十三班のリーダー、トウジは先のSKYとの戦いで傷を負い、ガトウがトウジの代わりとなっていた。
「ああ、ガトウさん! 体はもういいんですか?」
イコマは訊ねた。
「おう、怪我もぼちぼち良くなってきたンでな、リハビリがてら来てやったぜ」
ガトウはニヤリと笑った。
「それより状況説明を頼めるか? オレらに救難信号を送ったンだ。相当ヤバイ事になってンだろ?」
「はい、実は……」
イコマは、リンが負傷し、三人の隊員とはぐれた上、ドラゴンが出現している現状を話した。
「そりゃあヤバイどころの話じゃねェじゃねェか! 急がねェと死人が出るぞ!」
事態は深刻であった。
「よし、ここは手分けしていくぞ。アオイ、お前は十三班を手伝え、シュウ、トウジのいない今リーダーをできンのはお前だ」
「私が、ですか!?」
シュウは驚いた。
「あァ、リアンも文句ねェだろ?」
「ないです。わたしは誰かに指示するのとか、できないと思いますから」
「てな訳だ。大人しくオレの言うこと聞いとけ」
シュウは、半ば強引にリーダーにされた。
「十三班を手伝うって、具体的には何をすればいいですか?」
アオイは訊ねた。
「ドラゴンとの戦いもしてもらうが、一番ははぐれた隊員の搬送だ。恐らく大なり小なり怪我はしているだろうからな」
「分かりました。それで、ガトウさんはどうするんですか?」
「オレか? オレは先陣を切る。オレが邪魔であろうドラゴンやマモノを退治する。仕留め損ねた奴らはお前たちに任せたぜ」
ガトウはリンたちを見た。
「お前たちはここを守っててくれ。ここが唯一の出口だ。退路は任せたぜ!」
言うとガトウは左腕の籠手を操作した。
「ミロク、ミイナ! お前たちのナビも重要だ。ミロクはオレを、ミイナは変わらず十三班を頼む。だが、トウジがいない。いつもより慎重なナビを頼ンだぞ!」
『了解だ』
『了解しました』
ナビ二人の返事を聞くと、ガトウは刀を抜いた。
「よし! 作戦開始だ! 行くぜェお前ら!」
ガトウは作戦通り、先鋒を引き受けて駆けていった。
「ガトウさん、すごーい……ってぼーっとしてちゃダメだよね。行こうシュウちゃん、アオイちゃん」
リアンもナイフを持って戦いの準備をした。
「シュウ先輩、行きましょう! 大丈夫、先輩ならできますよ!」
アオイに励まされ、シュウはリーダーをする覚悟を決めた。
「分かったわ、行きましょう! 二人とも、私に付いてきて!」
三人はガトウの後を追った。
ガトウの通った後には、マモノの死骸が転がっていた。マモノ程度の相手なら瞬殺できるほどに、ガトウの状態は良くなっていた。
「ちっ、ちょこまかと……! シュウ、すまねェ、そっちに一匹ドラゴンが行っちまった」
早速シュウの指揮能力が試される事となった。
ガトウが取り逃がしたドラゴンは、素早いが小さいドラゴンであった。
『コール十三班』
ミイナの通信が入る。
『今あなたたちが対峙しているドラゴンは、識別名リトルドラグ。小さいですが爪と牙が鋭く、その上速さがあります。懐に入り込まれないように戦ってください』
ミイナの通信が切れた瞬間、ドラゴンは何やら狙いを定めていた。
「あいつ、何かする気ね。飛び込んでくるかもしれない、二人とも、気をつけて」
シュウが思った通り、ドラゴンはシュウめがけて襲いかかって来た。
「くっ!」
シュウは刀を振るったが、いとも容易くかわされてしまった。
「しまっ……!?」
ドラゴンはシュウに纏わり付き、牙を立てて噛りついてきた。
シュウは、向かってくる牙を何とかかわしていたが、纏われ付かれていては、反撃の手が出せなかった。
「離れなさいよ……!」
シュウは抜き身の刃を噛みつかせ、上下左右に振り回して拘束を逃れようとするものの、ドラゴンは刃を離さなかった。
ーーこのままじゃ埒が明かないわ……はっ、そうだわ!ーー
「リアン!」
シュウはリアンを呼んだ。
「私がコイツを押さえておくわ。動けない間に毒のナイフでコイツを刺して!」
シュウは、ドラゴンが離れていかないように、両前足を掴んだ。
「まかせてよ、シュウちゃん!」
リアンは言うと、ナイフに毒を纏わせた。そして持ち前の目にも止まらぬ速さでシュウとドラゴンに接近した。
「ぶすっと行くよ!」
リアンは、ドラゴンの背中にナイフを突き立てた。
リアンの刺突は、ドラゴンの急所に的中し、一瞬にして全身に毒が回った。
毒で死んだドラゴンは、力を失って噛みついていたシュウの刀から地面に落ちた。
そしてDzのみを残して肉体は霧散した。
「さすがね、リアン」
「そんなことないよ。シュウちゃんの指示がよかっただけだよ」
リアンは、シュウの指揮力を称賛した。
「うーん、それならここは二人の力が合わさって上手く行ったと言うことで」
シュウはDzを回収した。
「急ぎましょう。ガトウさんに限って無いとは思うけど、苦戦してるかもしれないから」
「私もそう思います。先輩方、ガトウさんを追いかけましょう!」
アオイが言うと、三人はガトウを追った。
ダンジョン化した横洞は、かなり入り組んでおり、地面に穿たれた大穴を通って進まなくてはならない箇所もあった。
まるでモグラになったような気分になりながら、シュウたちは穴を通って行った。
行く手を阻むマモノは早々に退治しつつ進んでいると、ガトウと負傷した自衛隊を見つけた。
「ガトウさん!」
アオイが真っ先にガトウの元へ駆け寄った。
「おう、お前らも来たか」
ガトウは、フィールドスキルという特別な技で、負傷した自衛隊の治癒を行っていた。
「やっぱ思った通りだ。この隊員は怪我してたぜ。フィールドスキルで治る範疇だが、こりゃもっと先の隊員は重傷かもしれねェな。アオイ、脱出キットは持っていたよなァ?」
「はい、ガトウさんが持っておけ、って言ってたのでちゃんと持ってきましたよ。十五セット」
「ホントにそんなに持ってきたのか。五セットもありゃ十分だったンだがな。まあいい、組み立ててこの隊員を都庁に送ってくれや」
アオイは、脱出キットを組み立て、負傷した隊員を転送した。
「よし、これで後は二人だな。次も同じように、オレが先導する。ドラゴンを倒しつつな!」
ガトウは、ミロクのナビでドラゴン反応を確認し、刀を抜いて走り出した。
ガトウが先行し、その後を十三班が追う、という戦法はこの後も効果てきめんであり、シュウたちはマモノもドラゴンも確実に倒して行った。
穴だらけの自然のトンネルにもだんだんと慣れていき、一同は横洞のダンジョンを踏襲しつつあった。
一同が進んでいく内に、もう一人の負傷者が発見された。
負傷した自衛隊は傷が浅く、意識が残っており、話を聞くことができた。
彼によると、瓦礫の撤去作業中に『アイツ』が姿を見せたのだという。
それは、ドラゴンをも可愛く思えるほどの巨体を持つもので、その巨体を以て地下道を這い回り、このダンジョンを作り上げたのだった。
這い回るものから逃げようとも逃げられず、この横洞ダンジョンに逃げ込んでしまったが、運良く『アイツ』からは逃れることができたとのことだった。
「その傷でよく話してくれた。感謝するぜ。アオイ、キットの準備だ」
「はいはーい!」
アオイは、脱出キットを組み立てた。
負傷した隊員は、都庁へと送還された。
「しかし、『アイツ』っつうヤツの事が気になるな。どうにもキナ臭ェ。おい、ミロク、そんなヤツの反応はねェか?」
『探ってみたけどそんな反応はなかったよ。ただし全く無い訳じゃない、かすかにそんな反応らしきものならある。こいつは可能性の一つだが、休眠中なんじゃないか?』
ガトウの籠手から、ミロクは通信を飛ばした。
「休眠中って事はまた暴れだす可能性があるって事だよな? こいつは更に急がねェと行けねェな! ミロク、自衛隊のヤツあと一人、反応はねェか!?」
『それなら私が感知しています。ここから九時の方向、生体反応があります』
ミイナがシュウの籠手から通信した。
「九時の方向……こっちか! よく見つけてくれたな!」
『いえ、ですが同時にドラゴン反応もあります。反応の二者は近いです。戦闘になっている可能性があります』
ドラゴン反応は強いものである。戦いになっていては、自衛隊員の命が危なかった。
『さっきまでのリトルドラグとは力の差が上です。急ぎましょう!』
「おう! 強ェドラゴンが相手ならますます急がねェとな! 行くぞお前ら!」
ガトウたちは、ミイナの示す九時の方向目指して駆け出した。
※※※
鍾乳石が肩の部分と頭にある、灰色の巨体を持つドラゴンと戦闘服を身に纏い、アサルトライフル構える自衛隊員が睨みあっていた。
隊員は、ドラゴンの攻撃の間合いから離れた位置で銃を構え発砲しようとしていた。
「こんなところで死んでたまるかよ! 食らいやがれ、ドラゴン野郎!」
隊員は、引き金を引いた。
連発される銃弾がドラゴンに向けて発射されるが、ドラゴンの岩のような皮膚には傷一つ付けられなかった。
やがて、弾薬が無くなった。隊員に残された武器はナイフしかなくなり、銃弾の通用しないドラゴンに通用するはずがなかった。
「くっそー!」
隊員は自棄になり、銃とナイフ両方を地面に叩きつけた。
次の瞬間、ドラゴンは尻尾で隊員をなぎ払った。ドラゴンの強力な尻尾攻撃で、隊員は岩壁に強かに叩きつけられた。
「ぐっ、ゲホゲホ……!」
隊員は、肺に残っていた空気全てを抜き出された。そして、そのまま岩壁をずり落ちて、地に仰向けに倒れた。
「……い、いてえ……! 何だよこりゃあ……」
隊員にはまだ息が残っていた。装甲服を着ていたおかげで、背面を打撲する程度で済んでいた。
しかし、打撲で済んだといっても、痛みは強く、体をほとんど動かせなかった。
「ちっきしょー! あいてて……こんなとこで人知れず殉職かぁ! もっとカッコよく死にたかったぜー!」
叫んでは痛みに喘ぎながら、隊員は最期を覚悟した叫びをあげた。
「こっちだ!」
不意に、男の声がした。そしてざっざっ、と何人かの足音がした。
「なンとか間に合ったみてェだな。アオイ! ひとまず手当てしてやンな」
「もちろんです、ガトウさん!」
アオイは隊員のそばに座り、膝枕をした。
「大丈夫ですか? もう安心ですよ」
「は、はは……こりゃあ天使が迎えに来たか? ああ、なんて可愛い天使だ……!」
「うーん、少し混乱しているみたいですね。安定剤を打っておきましょう」
アオイが隊員に安定剤を打っている間に、十三班が追い付いた。
「ガトウさん!」
「来たか、シュウ、リアン!」
隊員を襲ったドラゴンのいる場所に、ムラクモの人間全員揃った。
『識別名グラナロドン。ガトウと十三班が追っていたドラゴンに間違いありません!』
ミイナは言った。
「そうか、でかしたぞ、ミイナ。しかしでけェドラゴンだな帝竜ほどじゃないが、こいつァ苦戦しそうだな。シュウ、リアン。ここはオレたち全員で戦うぞ!」
「了解です!」
シュウは刀を抜いた。
「さくっと終わらせましょう!」
リアンはナイフを持った。
「よし、オレが先に出てヤツの気を引く! お前らには追撃を頼む!」
言うとガトウは、ドラゴンに向かって走り出した。
「うおー! 食らいやがれェ!」
ガトウは、大きくジャンプし、ドラゴンの頭蓋を割りにかかった。
しかし、頑丈な岩のようなドラゴンの頭に刃が弾かれてしまった。
「チッ! やっぱり通用しねェか」
ガトウは、手に痺れを感じながら舌打ちした。
「真向勝負でダメなら搦め手です! わたしの毒でじわじわ体力を削ります!」
ガトウの後追いは、リアンが引き受けた。
「この一撃はかくし味だよ!」
リアンは、弧を描くようにナイフを、ドラゴンの首を狙って振るった。
しかし、ドラゴンの皮膚に阻まれ、体内に毒を与えることができなかった。
「くっ、ナイフがふかく入らない……!」
「リアン、代わって、次は私が行く!」
シュウは、正眼の構えをとって、ドラゴンへと迫った。
「斬撃が駄目なら突きよ! 急所を狙う!」
シュウは一つの踏み込みから三つの突きを放った。
「風穴あけるわよ!」
シュウは、ドラゴンの皮膚が比較的薄い部分を狙った。
ようやくドラゴンにダメージを与えることができ、その体勢を崩させる事ができた。
「ほォ、三段突きとは驚いたな。まるで新撰組一番隊組長だな!」
「見よう見まねでやってみたんです。お祖父ちゃんが新撰組のファンで、よく技を真似てましたから」
二人が話している間に、ドラゴンは立ち直った。
「……でも、まだ技が完成していませんね。三段突きで仕留めるには修行が足りないようです」
シュウは構え直した。
今度はドラゴンが仕掛ける番だった。
その場で暴れるように地面に衝撃を与えた。
辺りに地震をもたらしたが、その地震でダメージを与えるものではなかった。
「あのドラゴン、一体何をして……?」
パキパキと、辺りに音が鳴り、同時に砂埃が降ってきた。
「こいつァ!? まずいぞ、その場に伏せろ!」
ガトウがドラゴンの目的をいち早く察知し、地面に伏せた。
シュウとリアンも、ガトウの意図を知りかねたが、言う通りに伏せた。
そしてすぐに、ガトウが察知したものの正体が分かる事になる。
がらがら音を立てて、辺り一帯に岩が落ちてきた。
ドラゴンのした事、それは辺り一帯に地震を起こし、落盤を招いてシュウたちを圧死させる事だった。
「うおおおお!」
落盤の中、ガトウの叫び声と落石の音が響いた。
「ガトウさん、先輩!」
隊員の保護に徹していたアオイは、離れた所にいたため落盤に巻き込まれる事はなかった。
やがて全ての現象は終息した。
岩や土塊の降り積もった中、ガトウら三人の姿が見られなかった。
「皆さん、そんな……」
アオイは、三人が死んでしまったと思ってしまった。
しかし、すぐにそのような事は起きていないと分かる。
パキっと音を立て、土塊の山から手が伸び出た。土塊を払いのけて、ガトウは頭を出した。
それに続き、シュウとリアンも岩の隙間から頭を見せた。
「うう……はっ! 二人とも大丈夫!?」
「あはは……ふつうの人ならぺしゃんこだね」
「……こいつァさすがに死ぬかと思ったな」
全員大した怪我をしていなかった。
味を占めたのか、ドラゴンには余裕のある表情が浮かんでいた。
「あのドラゴン野郎、なめやがって! もう勝ったつもりでいやがるな」
「……反撃と行きましょうか」
シュウは土塊と岩の山から這い出て地面に着地すると、再び刀を構えた。
「おいシュウ、一人で行くつもりか!?」
「今度こそ急所を捉えて見せますよ、ガトウさん……」
シュウの目は、何かを悟ったような目をしていた。
シュウはふと、目を閉じると一気に開いた。
「エグゾースト発動!」
シュウの全身から青白いオーラが立ち上った。
エグゾーストを発動したことで、普段では見えないものが見えるようになった。すなわち、ドラゴンの弱点部分を見て取れるようになったのである。
ドラゴンの弱点、それは腹部にあった。外郭は岩の鎧に包まれ、剣も銃も通さなかったが、腹部は薄かった。
「行くわよ!」
エグゾーストの効果で、スピードもかなり上がっていた。目にも止まらぬ速さで一気に間合いを詰め、ドラゴンの腹部に滑り込んだ。
「食らいなさい!」
そして突きを放ち、そのまま刃は抜かず、真一文字に斬り抜けた。
突きと斬撃を同時に、しかも急所に受けたことでさしものドラゴンでも耐えきれなかった。
ドラゴンは、特有の虹色の血を噴き、倒れた。同時にシュウのエグゾーストも切れた。
「やるじゃねェか、シュウ!」
ガトウとリアンが駆け寄ってきた。
「エグゾーストをあんなに使いこなせるなんて、すごいよ!」
リアンは称賛した。
「エグゾーストを使わないと勝てないと思ったからね。しばらく使えなくなっちゃうけど、あのドラゴンほどの大物はもう出てこないでしょ」
「いや、まだ油断はできねェぞ? 自衛隊員たちが言ってた『アイツ』の存在を忘れちゃいねェよな?」
ガトウは言った。
「忘れてないですよ。さすがに疲れましたし、この穴だらけの横洞を作れるほどの存在なら苦戦を強いられるでしょう。救護者も無事に見つかりましたし、ここは急いでリンさんの所へ行きましょう」
シュウは言った。
「それがいいね。アオイちゃん、自衛隊の人大丈夫そう?」
「私を天使だなんて言うほど混乱していましたが、先輩方が戦っている間に脱出キットで都庁に送っておきました!」
「でかしたぞアオイ! 人命救助要員としてお前を連れてきてよかったぜ」
「これではぐれた自衛隊さんは皆無事に都庁へ送れましたね。リンさんに報告しましょう」
シュウたちは横洞エリアから抜け出した。
横洞を抜けると、出入口付近にリンとイコマが待っていた。
シュウは、はぐれた隊員全員救助したことを告げた。
「そうか、ありがとう。死人が出なくて本当に良かった。ほら、リンもお礼くらい言ったらどうだ?」
リンは、十三班たちに背中を向け言い放った。
「ふん、手柄をくれてやっただけだ!」
「リン!」
不意に、十三班たちの籠手からブザー音が鳴った。
「何!?」
『コール十三班! 帝竜反応です! ものすごいスピードでこちらに近付いて来ています!』
「あれは……間違いない『アイツ』だ!」
イコマが叫んだ。
『戦力比較は帝竜の方が圧倒的です! 十三班でも倒せません! ここは何としても逃げてください!』
「逃げるぞ!」
ガトウが言うと、その場の全員が退却を始めた。
地下道の出入口までは約百メートルといった所であるが、帝竜はすさまじい速さで迫ってくる。
『ダメです! 追い付かれます!』
ここにいる全員は絶体絶命の危機に陥っていた。
どうにか出入口までたどり着く事ができたが、梯子を上る必要があるため、上っている間に帝竜の餌食になるかと思われた。
しかし、梯子の直前で帝竜は動きを止めた。
「止まった……?」
シュウは、地下道の出入口に射し込む太陽光を見た。
「もしかして、光を苦手にしているんじゃ?」
「こいつァ僥倖だ! このまま逃げンぞ!」
シュウたちは動けない帝竜を前に急いで外へと逃げるのだった。
※※※
自衛隊の救難信号により、救助に向かったシュウたちだったが、死者一人出さずに救助に成功した。
イコマによると、リンが十三班にきつく当たってしまうのは、自衛隊の隊長格に急に抜擢され、自信がなく空回りしてしまっているとのことだった。
リンの代わりにイコマが十三班らに詫びた。
絶体絶命の危機に被われたその日の夜、シュウは自室のベッドに座っていた。
帝竜に殺されかけたが、SKYの事を思い出していた。
ムラクモ機関に憎悪を示すメンバーの言葉は、ムラクモ機関こそ悪であると言っているようなものだった。
ムラクモ機関の人間になって日の浅いシュウは、よく分からなくなってしまっていた。
ふと、十三班自室のドアがノックされた。
「はーい、どうぞー」
シュウが返事をすると、扉が開けられた。現れたのはキリノである。
「やあ、こんなに夜遅くに訪ねてすまない。君たちのヴァイタルチェックをするようにナツメさんに頼まれたのでね」
「君たちって、リアンとトウジ君は今部屋にいないわよ?」
「それについては心配ご無用、ついさっき二人のチェックは済ませてきたからね。君が最後だよ」
それからね、とキリノは言葉を続けた。
「君はSKYと対峙してどう思った? 僕たちムラクモ機関の方が間違ってると思ったんじゃないかな?」
シュウは、心を読まれているのかと思ってしまった。
「……正直なところ分からないわ。彼らがただの不良集団ではない事は分かる。彼らのリーダー、タケハヤと言ったかしら、彼のナツメ総長への憎しみ具合がすごかった。一体何があってこんな事に……?」
キリノは語らなかった。
今はこれ以上の事は知らない方がよさそうだと思ったからだった。
「シュウ君、今はただ、SKYはムラクモの敵だとだけ考えてくれ。同じ人間同士戦うのは辛いだろうが、堪えてくれ。僕に言えるのはこれくらいだ」
言い終えるとキリノは、ヴァイタルチェックのキットを物入れから取り出した。
「さあ、君も今日大変な一日だったろう? チェックを終えたらすぐに寝るんだ」
キリノのヴァイタルチェックは、お世辞にも上手いとは言えなかった。採血しようとするものの、血管を何度も外された。
シュウのヴァイタルは、SKYとドラゴンと戦ったあとにも限らず、全く異常がなかった。
ヴァイタルチェックが終わると、キリノは早々と立ち去っていった。
やがてシュウは、眠るのだった。
都庁にいる人々が寝静まった中、新調された研究室でコンピューターをいじる者がいた。
「あと二つ、サンプルが必要……」
謎の研究は、夜更けまで続くのだった。
どうも、作者の綾田です。
セブンスドラゴン小説はこれで三巻目ですが、今回は帝竜と戦ってないにも関わらず長編となってしまいました。(書くの大変だった……(*_*))
今回はSKYの面々を相手にしましたが、彼らはメンバーが多いので、全員を把握できてないです。ゲーム中には戦わないSKYのモブキャラにも名前がついていて、彼らもしっかり登場させようと思いましたが、そうすると更に長くなりそうだったので止めました(T-T)
まだまだ長くなりそうな本編ですが、次からはずっと放置していた作品と決着を付けようと思いますので、次回更新はまた半年後以上になるかもしれません(ToT)(本作を楽しみにしている方、申し訳ないです……)
では今回はここまでとさせていただきます。最後までお読みいただき、ありがとうございました。