間桐先輩の2度目の恋   作:ローランゲート・ぺろぺろ丸

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『最後の慎二』


「よう、おつかれ。もういいのか?」

「あぁ、願いは叶ったし。今度こそ終わりだよ。」

「そうかい。ま、お前が言うなら構わないけど。」

「それで、僕は最後に何を奪われるんだよ?ま、全てくれてやるって言ったけどさ。」

「あぁ、それはなーーーーーー」



「………アレ?いつの間に寝てたんだ僕は?つか、なんか桜から届いていたような…。ん?電話?」

『あ!やっと繋がりました!なんで電話にでてくれないんですか慎二先輩っ!?」

「なんだよ、朝っぱらからうるさいなぁ。」

『今日は一緒に出かけましょうって約束してたじゃないですかっ!もう約束の時間から1時間も経ってるんですよ!?』

「あー、そうなの?てか、別に少し遅れてもいいじゃん。デートじゃないんだから。なに、僕の事好きなの?」

『は、はぁっ!?そんなわけないでしょ!?は、早く来てくださいよねっ!罰ゲーム用意してるんでっ!』

「あ、おい罰ゲームって…切りやがった。全く、忙しないやつだよな。」


間桐慎二の冒険譚 終わり



間桐先輩救済

赤崎篠辺は悩んでいた。

最近、会社の先輩の態度がどこか余所余所しいのだ。

 

赤崎は高校卒業し、すぐに就職した青年である。

決して学がないわけでは無いが、特に目標といえるものも無かったので、進学しようとは思わなかった。

 

しかし、はじめての社会への第一歩。

赤崎は生まれて初めての衝撃を心に受けた。

 

 

「はじめまして。今日から貴方の教育係になりました、間桐桜です。よろしくね。」

 

 

陳腐な言葉を使うが運命だと思った。

その柔らかな笑顔に心を奪われたのだ。

思わず見惚れてしまい、慌ただしく自己紹介を返したのを覚えている。

こうして、間桐先輩と赤崎後輩の関係が始まった

 

間桐先輩はとてもすごい女性であった。

周りからも信頼され、指示も的確であり、指導もうまかった。

一目惚れから始まり、共に仕事していくうちに更に惹かれた。

毎日彼女と一緒にいれる事は、赤崎にとってとても幸運な事だった。

 

 

だからこそ、恩返しがしたかった。

赤崎後輩が間桐先輩から貰ったモノを、少しでも返したかった。出来れば、この想いも伝えたい。が、それは凄く恥ずかしい。

恋慕の情はもちろんある。それと同じくらい彼女を尊敬しているからこそ、感謝を伝えたかった。

 

だから、彼は会社の人たちに相談したのだ。

相談を受けたのは前田玉藻と倉内音炉だった。

倉内はプレゼント作戦を提案し、前田はそれを渡せる場として飲み会を提案した。

 

倉内と共に買い物に行く日取りを決め、後日に飲み会を予定した。

 

 

前田は間桐先輩を飲み会に誘い、計画は完璧かに思われた。しかし、3人は大きな見落としをしていた。

 

間桐先輩も、赤崎後輩に好意を寄せていたということだ。

 

前田としては、ちょっとしたいたずら心で情報を漏らしたが、まさかその日に尾行を行うほどに赤崎に執着しているとは思っても無かった。間桐先輩は赤崎後輩に対して、弟を想う姉のような感情を抱いているくらいにしか考えていなかった。

 

そして、倉内も同様だった。

倉内からしても赤崎後輩は可愛い後輩だ。何事も懸命に学ぼうとするその姿勢はとても好感が持てる。もっとも、恋愛的な感情ではなかったのだが。

 

倉内は性格上、楽しめるものは楽しむタイプだ。だからこそ、今回の買い物も友人と一緒にいるかのような感覚で楽しんだ。

側から見て、それは紛れもなくデートだと思われるなど考えてもいない。

それを、プレゼント作戦のターゲットが見ているなど思ってもいない。

尚且つ、間桐先輩が赤崎後輩を好きだなんて想定外であった。

 

そうしたすれ違いの結果、間桐先輩は飲み会当日に体調を崩したとして来なかった。

赤崎後輩は未成年なため、カルピスをチビチビと飲んで見るからに落ち込んでいた。

倉内はポカンとしており、前田は『もしかして』なんてちょっと嫌な予感が頭をよぎった。

数合わせとして呼ばれていた瀬田空(セタ クウ)はなんのこっちゃわからなかったので、妙な3人に事情を確認した。

 

そして、大きなため息をついた。

 

瀬田は男性社員の中ではみんなの兄貴のように慕われている。

赤崎後輩の指導係には、間桐先輩か瀬田のどちらかがとの声が上がっていた。

とりあえず、初日に交互に指導しようという手筈になっていたのだが、その後すぐに間桐先輩が『私がやります。』と引き受けたのだ。

 

その辺りから、間桐先輩が赤崎後輩を想っている事を誰よりも早く察知した瀬田は、それなりの距離で赤崎と接する事にした。

 

それくらいには人を見る目がある瀬田からして、赤崎後輩が相談した相手が相手だ。

トラブルメーカーの倉内と、恋バナ大好きでお節介のきらいがある前田。

両者とも善意での行為なので、なんとも言えないのがもどかしい。

 

とにかく、ジメジメしてても仕方ないため瀬田は声を張った。その合図を察した前田がすかさずそれに乗り、よくわからないけど楽しもうと倉内も便乗した。

まだちょっと落ち込んでる赤崎後輩を、瀬田が肩を組んで引き寄せる。とにかく、赤崎後輩を振り回して気を紛らわせたのだ。

 

 

しかし、以降間桐先輩から赤崎後輩に絡む事が少なくなった。確かに、赤崎後輩が入社してから半年は過ぎている。基本的な事は教えたので、深く関わる必要がないのは事実ではある。

しかし、それでも楽しく談笑していた以前を思うと、あまりにま露骨に距離を置いていた。

赤崎後輩はなんかもう若干泣きそうになっている。瀬田はその度に赤崎後輩をフォローしていたりした。

 

一方、間桐先輩は彼女なりに思い悩んでいた。

確かに、間桐先輩も赤崎後輩に一目惚れしていたが、何時ものメスとしての本能ではなく、1人の女性として生涯を共にしたいと思えたのが、あのデート現場を見てからなのだ。

 

間桐先輩の頭の中では、既に赤崎後輩と倉内は付き合っている。まさか、自分の為に贈り物を選んでいたなんて思ってもいない。そもそも、あの光景でそれはない。

 

そんなわけで、彼女は彼女なりに赤崎後輩との距離を一定に保とうとしているが、その度に心が軋む音がした。

何故かわからないが、あの時。

 

自分がまだ後輩だった頃。自分の恋する先輩と、姉が結婚するとわかった時。

あの時も悲しかった。しかしそれよりも、なんといえばいいのだろうか。

 

安心感があったのだ。

つまり、ホッとした。

 

悔しいし認めるのは癪であるが、あの何処か無鉄砲なあの先輩の手綱を握れるのは、自分の姉くらいだろう。

だからこそ、間桐後輩だった自分は、表面上だけでも納得できたのだ。

 

 

もちろん表面上なだけあって、酒が入り防波堤が崩れた途端呪いが溢れ出したのだが。

 

 

そんな過去の出来事が、間桐先輩の心を締め付ける。

 

 

彼が好きだ。しかし、私は彼を幸せに出来るか?

 

彼と歩きたい。しかし、私に幸せになる権利はあるのか?

 

彼と重なりたい。しかし、汚れた私にその資格はないんじゃないか?

 

 

赤崎後輩を想うたび、間桐先輩の中で黒いものが溢れそうになる。

最近では家に帰ると、苦しくて涙が出てきた。

赤崎後輩に会いたいのに、会いたくない。

自分を知ってほしい。でも、知られたくない。

もう心の中はぐちゃぐちゃになっていた。

 

 

赤崎後輩も、日が経つにつれ見るからに元気が無くなっていく。嫌われちゃったのかな?なんて言葉が頭をよぎった。

その度に、ため息が漏れてしまう。

もう、自分でもどうしていいかわからなかったのだ。

今日も、碌に話も出来ないまま間桐先輩は帰ってしまった。

 

 

「よう。」

 

 

そんな赤崎後輩に、瀬田が声をかけた。

瀬田からしても、今の赤崎後輩は見てられないほど凹んでいる。

ぶっちゃけると、いい加減面倒になってきたのだ。

瀬田から見れば、両者とも好き合ってるのにあーだこーだと悩み過ぎなのである。

 

そんなわけで、強硬手段に出る事にした。

 

 

「お前さん、いつまで悩んでんだ?」

 

「…あの。その…。僕は、えっと……。」

 

「あーもうめんどくせぇ。いいか赤崎。お前は男だろが。男なら、さっさと立て。んで、そのモヤモヤしたもん全部伝えてこい。」

 

「そ、そんな簡単にいくわけないじゃないですかっ。もし、嫌われちゃってたらと思うと…っ。」

 

「そん時はそん時だ。俺が良い店に連れて行ってやる。でもな、立ち止まってちゃ何も始まらねぇ。惚れた女くらい、お前の力でモノにしろ。」

 

 

お前は、アイツが好きなんだろうが。

 

 

赤崎後輩の目が見開かれる。その瞳から、雫が溢れそうになっている。

そうだ。何を悩んでいたんだろうか。

赤崎後輩の心に火が灯る。小さな火は、やがて体を動かすために大きくなっていく。

 

 

彼女が好きだ。なら俯く暇はない。

 

彼女と歩きたい。なら足を動かせ。

 

彼女と重なりたい。恥ずかしいけど。

 

 

袖で目を擦り、赤崎後輩は立ち上がった。

瀬田に目を合わせ、深く頭を下げる。

そして立ち上がると、鞄を掴み会社を出て行く。

 

そんな赤崎後輩の背中を、瀬田は微笑ましい目で見ていた。

 

 

 

間桐先輩は家までの帰路を歩く。

その心は、今の空模様のように雲がかっている。

もう、どうして良いのかすらわからない。どうしたいのかも、わからなかった。

 

ポツ、ポツと雨音が聞こえた。

雨音は次第に大きくなり、とうとう大雨になってしまう。

そういえば、傘持ってきてなかったな。

そんな思考がよぎるも、すぐにどうでもよくなってしまう。

いっそのこと、この雨と一緒にこの心のモヤも流されてしまえばいいのに。

 

そんなできもしないことを考えている自分に、呆れたような笑みが零れた。

 

 

 

「ーーーーぃーー!まーーせんーーーー!」

 

 

雨の中で、何かが聞こえた気がした。

しかし、雨粒の音は大きく、それを遮断してしまう。

 

 

「まどーーせーーーー間桐ーーんぱい!ーー」

 

 

だんだんと大きくなるそれに、また笑みが溢れる。どうやら、幻聴を聞くほどには心が病んでいるらしい。全く酷いものだ。

彼がいるわけない。だから、これは幻聴なんだ。

そう、自分に言い聞かせーーー

 

 

「間桐先輩!!」

 

 

出来なかった。後ろから、誰かが声をかけてきた。

いるはずないのに、そんなわけないのに。

 

少しだけ、視線を後ろに向ける。

 

 

いた。

 

 

ずっと走ってきたのだろうか。

手を膝の上にのせ、肩で息をしている。

傘もささずにここまできたのだろう。スーツもびちゃびちゃになっていた。

 

「ど、どうしたの赤崎君?」

 

自分でも酷いと言えるほど、ヒビ割れたような声がでた。顔を見られたくなくて、すぐに視線を前に戻した。

嬉しかったが、苦しかった。

間桐先輩は決して鈍感ではない。

こんなになるまで自分を追ってきてくれたのだ。

もしかしたら、彼はそうなのかもしれない。

 

 

「ま、間桐、先輩。俺っ!俺、間桐先輩に言わなきゃならない事が、あるっ、んですっ!」

 

 

期待が心の中で高まる。しかし、今の間桐先輩の心はかつての頃のように弱っている。

その純粋な気持ちに応えられるほど、彼女は自分の汚れを許してはいない。

やめて欲しかった。聞きたくなかった。知りたくなかった。やめて、言わないで。

 

 

「それ、明日にお願いできない?ほら、雨も降ってるし。」

 

 

「今、じゃなきゃ!ダメなん「ヤメてッ!!」

 

 

赤崎後輩の言葉が止まる。

それは言葉を遮られたからではない。

 

 

泣いていたのだ、間桐先輩が。

 

 

この大雨の中、自分と同じように傘もささずにずぶ濡れの彼女の目に、涙を見たのだ。

 

あぁ、なんと情けないことか。

自分は、好きになった女性を泣かせるダメな男なのか。

でも、もう止まれない。男なら。

 

だって、彼女が好きだから。

 

 

こちらに体こそ向けたが、俯いて顔の見えない彼女に近づく。

彼女はそれに気づき、後退りしようとして足を絡ませてしまう。

 

バランスを崩し、仰向けに倒れようとする彼女の手を、彼はしっかりと掴んだ。

 

 

「先輩。」

 

「や、やめて…っ。」

 

「先輩、好きです。」

 

嬉しい。

 

「わ、わたしはっ…!」

 

「僕はっ、先輩が好きなんですっ!!」

 

嬉しいっ。

 

「だ、って…っ私は汚れて「そんな事ないっ!」

 

「先輩は!ちっとも汚れてなんかない!いつも優しくて、料理が上手くて、色んなこと知ってて!!そんな優しい先輩が、汚れてるわけない!」

 

「違うのっ!本当の私は根暗でっ、誰かに依存する事しか出来なくてっ!今も、昔の恋を引き摺ってるようなっ…!私は…っ!」

 

 

間桐桜と赤崎篠辺の目が重なる。

間桐桜は今にも壊れそうな淀んだ目をしていた。

赤崎篠辺はその闇を取り払うかのように澄んだ目をしていた。

 

間桐桜の言葉に赤崎篠辺が返答する。

ただ、その闇を吹き飛ばすために。

 

 

「僕は、先輩の昔の事なんて知らないっ。どんな辛い事があったのかとか、昔好きだった人の事とか、何にもしらない。けど、そうだけど!

 

 

僕は、貴女と一緒に生きたいんです!!

 

 

「っ…!!」

 

「苦しかったことなんて、忘れさせてあげますっ。悲しい思い出も、楽しかった過去に変えます!どうすればいいのかなんてっ、まだ全然わかんないけどっ!」

 

 

「僕が絶対、貴女を幸せにしますっ!」

 

 

 

それは、純粋故の叫びだった。

好きな人を助けたい。好きな人を守りたい。好きな人を、幸せにしたい。

 

その想いはーーー間桐桜の心にも届いた。

繋がれていない手で涙を拭う。嬉しくて、嬉しくて。止まらない涙をぬぐい続ける。

 

声が出ない。返事を返さなければならないのに、言葉を伝えようとするたびに胸がつかえる。

その苦しさすら幸せに感じるほどに、間桐桜は嬉しかった。

 

「間桐先輩…間桐 桜さん。

 

 

僕と、付き合ってください。

 

 

 

「っ…!…は…はいっ……!!」

 

 

 

赤崎篠辺が間桐桜を抱き寄せた。赤崎篠辺の胸の中で、間桐桜は声を上げて泣いた。

あの時とは違う。幸せの涙を。

 

 

 

これは、陽だまりのような心を持つ赤崎篠辺が、極寒の過去に囚われた間桐桜を救う物語である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おまけ『今日の桜』

 

 

 

「あぅぁぅあーっ!ど、どうしようっ!?いい勢いで告白してOKもらっちゃったけど、そのままびしょ濡れだからって桜先輩の家に招待されちゃったっ!し、しかもなんで僕ベッドに腰掛けてるのっ!?こ、これはアレかな?も、もう男を見せないといけないよねっ!?き、緊張するっ。桜先輩シャワー浴びてくるって言ってたけど、い、いつまでかかるんだろうか。うぅー。心臓がドキドキするよう。」

 

 

 

 

「お待たせ、篠辺君。」

 

「い、いえっ。全然待ってなぁぁぁぁぁ!?」

 

 

「あら、どうしたの?」

「せ、先輩っ!?なななんなんですかその格好!!?」

「え、コレ?

 

 

 

逆バニーだけど?」

 

「そ、そんな破廉恥ですなカッコってあるんですかっ!?」

「あ、ごめんなさい篠辺君♡私もう我慢できないから♡♡♡」

「ひゃうっ!?い、いきなり押し倒され…っ!?」

「もう会社には連絡してるから、明日は2人とも休みますって♡今から日曜日までの三日間、いっぱい愛し合おうね♡♡任せて、妄想の中で沢山練習したから大丈夫だよ♡♡篠辺きゅんの全部お姉さんが綺麗にしてあげるねっ♡♡♡あ、ちょっと怯えた顔ウサギみたいで可愛い♡♡怯えないでっ♡篠辺きゅんの告白のせいでもうお姉さん収まらないからっ♡♡♡絶対赤ちゃん作るから覚悟してねっ♡♡♡♡一生私にしか欲情できないようにしてやるからなオラっ♡♡♡♡♡」

「ま、まってくだしゃングゥッ♡♡!!?!?」

 

 

 

 

 

おわり♡




お疲れ様でした。

これにて、『間桐先輩の2度目の恋』は完結となります。

色々と伏線的なモノを詰め込んだりしたつもりなのですが、説明もなんだか面倒なのでしないです。

後、慎二はあの後罰ゲームで麻婆たべて(味覚が)死にました。

皆さまご愛読、ありがとうございます。
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