愚直な軌跡   作:ネオニューンゴ

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 時が経つのは早いものでもう前回の投稿から1ヶ月以上経つんですね……ふと友人と軌跡について話す機会がありどのキャラを使ってるっていう話になって作者はリィンとクロウ、ユーシスとガイウスと話したらお前それどうやってクリアしてんの?と聞かれました、作者はPTを決める際はとにかく好きなキャラで固めているのですが皆様は何を基準に決めていますか?


第十七話 ミリアム

 特別実習3日目

 

 翌朝、ハイメ達は夜遅くまで話し込んでいたが割りと早く目が覚める。ウォーゼル家で朝食を頂き、食後のハーブティーを頂きながらこれからどうするかを話し合う。

 

「といっても今日は課題はないのか」

 

「今日くらいは家族水入らずって事でゆっくり話でもしたらどうだ?」

 

「そんな悪いわよ……」

 

 そうは言いながらもアリサもグエンと話したい気持ちはあるようで迷っていると集落に泊まっていたらしいグエンと長老、記者がウォーゼル宅を訪れ何かがあった事を伺わせる。長老の話によるとどうやら昨夜に帝国軍の監視塔と共和国の基地が各々砲撃にされされたらしい。

 

「そんな……馬鹿な」

 

「馬鹿な、両方を襲撃だと?なんのために……」

 

 すると集落の外がざわつき始める。何事かと思い外へ出ると帝国軍人が集落に来ており住民はゼンダー門へ避難するよう指示を出していた。どうやら自分達が思っていた以上に事態は緊迫しているらしく、帝国軍人の表情からもそれが見てとれる。ここまでの事態になると流石に自分達の判断で実習を続行するかの判断が難しくなると結論付けたハイメはある提案をする。

 

「皆、流石にこれは学院なりゼクス中将なりに指示を仰ぐべきではないか?」

 

「確かに、いたずらに動くのも得策ではないな」

 

「えぇ、状況も良く分かっていないですし一先ずゼンダー門に向かうべきですね」

 

「アリサ、ガイウスすまない……家族が心配だとは思うが」

 

「そう心配するな、事態が事態だ迅速に行動するべきだろう」

 

「お祖父様も集落の人と行動を共にするみたいだし、とにかく急ぎましょう」

 

 記者も同行する事になり一同はゼンダー門へと馬を走らせる。

集落を出ると蒼い空には両軍の物と思われる飛行空挺がせわしなく飛び交っており、より一層事態の深刻さが伺える。静かだった高原の空気はどこか張りつめたような緊張感に包まれていた。

 ゼンダー門に戻ると兵士達が忙しなく動きまわっており、装甲車部隊までもが出撃準備を進めている、これから戦闘が起こることを予感させるには十分過ぎた。親切な兵士が状況を教えてくれ帝国側の被害は死傷者も出ており生き延びた者も重態らしい。話を聞き終えると馬で偵察に出ていたゼクス中将が丁度戻ってきたようでハイメ達の所までやってくる。

 

「無事なようでなによりだ諸君、それとこのような事態になってしまいすまないだが君達が思っている以上に事は進んでいる、実習を続けさせる訳には……」

 

 ゼクスもこんな形で実習を終わらせるのは本意ではないのだろう、申し訳なさそうにしている。ハイメも妥当な判断だと思ったがこれに待ったをかけたのがガイウスであった。

 

「中将お願いします、俺達に今回の件を調べさせて下さい」

 

「いやしかしだな……」

 

 自分の故郷の危機になにもしないという事が耐えられないのだろう。ガイウスの瞳にはいつにも増して強い意志が宿っていた。そんなガイウスをリィンが後押しするように口を開く。

 

「これも実習の範囲内だと思います、お願いします中将!」

 

「確かに、自分達は軍人でもありませんが民間人でもありません、動くには最適かと」

 

 ゼクスは顎に手をやり考えこみ仕方ないといった感じで時計に目をやり口を開く。

 

「現在10時か……わかった15時までは許可しよう」

 

「ありがとうございます!」

 

「して、どうしてお互い砲撃等という事態に?」

 

「ええ、お互い動機があるとも思えませんし」

 

 ユーシスとエマが問うとゼクスは厳しい表情をする。どうやら事態の究明は難航しているようで確かな事は帝国側からは砲撃を仕掛けていないという事だった。そうすると第三者の犯行という可能性も浮上し始める。とにもかくにもまずは現場を調べないと始まらないためハイメ達は帝国軍監視塔へと向かう。その途中ガイウスが皆に礼を言う。なんでも今回の件強く志願したのはガイウスが士官学院に入学した動機にも関連するようだ。ガイウス自身自分の故郷であるノルド高原を愛しており、日曜学校の授業やゼクスから本を借りて過去にあった大国間での戦争に翻弄され滅びた民族について学ぶ機会があった。確かに今の状況はそれが起こりうる状況であり、ノルド高原は立地的にも周囲は山に囲まれ現在は戦略的価値もあまりない土地だが科学は常に進歩している。導力の台頭で飛行船や装甲列車など様々な乗り物等も開発されており少し前と比べるとかなり交通も進歩してきている。ならばこの地が戦いの炎に包まれ、ノルドの民がそれらの民と同じ結末を辿る可能性も無いとは言いきれない。

 

「だから俺はもっと外の事を知らなければいけないと思ったんだ、故郷を守るために……」

 

 ガイウスの言葉に感じ入る一同は改めて絶対にこのノルドで戦闘は起こさせないという気持ちを新たにし監視塔へと急ぐのだった。監視塔に着くと11時をまわっており、共和国軍の監視を続ける兵士から許可を貰い現場の調査を始める。分かったことは導力式の砲台を用いた事、そして放たれた方向が不審である事だった。

 

「これは自分でも違和感を覚える……共和国軍が行ったには不審な点が多いな……」

 

「えぇ……発射された距離を計算して大体の発射位置を特定します、ユーシスさん手伝ってもらってもいいですか?」

 

「分かった、任せてくれ」

 

 ユーシスとエマが計算をしておおまかに発射された距離を割り出しそちらの方へと向かう事にした。高原の一点、茂みと倒木に覆われた場所に巧妙に砲台が設置された後が残っている。

 

「どうやら当たりみたいだな」

 

「えぇ周辺を調べましょう」

 

 さらに調べるとアリサが使われていたのはラインフォルト社製の砲台であり座標を合わせて自動的に監視塔を攻撃するよう仕掛けが組まれているようだった。こんな偽装を仕掛けている時点で共和国が砲撃をした可能性はかなり薄まってくる。他に何か証拠になるような物はないか、また別の可能性を模索しながら一同は考え込んでいるとガイウスがふと空を見上げ険しい表情をする。

 

「ガイウス、どうしたんだ?」

 

「あれを……」

 

 ガイウスに促され空を見ると白い飛行物体が飛んでいるのが目に飛び込んでくる。

 

「あれは先月の実習の?」

 

「確か奴を見掛けた少し後にオーロックス砦に何者かが侵入した……と」

 

「怪しさ満点ね」

 

「今回の件に無関係と結論付けるには難しいな……皆追いかけよう!」

 

 徒歩だと追跡するには厳しいが幸いこちらには馬があるため追跡はそう難しい事じゃない。目の利くガイウスが先導し謎の白い飛行物体を追いかける一同。飛行物体の速度も中々早かったが一同はどうにか見失わず追跡を続け、高原の高台になっている所までやってくる。

 

「追い付いたぞ!」

 

「あれれ~?シカンガクインの人達だ~」

 

 白い物体から特殊な素材で出来ているであろうスーツを身に纏った小柄な少女が降りてくる。間延びし、この場には似つかわしくない緊張感の欠けた口調にハイメは一瞬この子は関係ないのでは?と思ってしまう。しかし他のメンバーは臨戦態勢に移行している。

 

「ここで何をしている?貴様今回の両軍への襲撃に無関係という事はあるまい」

 

「返答次第ではただでは済まさないぞ」

 

「うーんボク一人じゃ荷が重そうだったし……この際だから手伝って貰おうかな」

 

「何を訳の分からない事を……」

 

「まぁその前に実力を把握しておかなきゃね、ガーちゃん!」

 

 事情は分からないがどうやら少女もやる気らしく白い物体が起動する。その姿は実技テストでサラが使う戦術殻に酷似している。ますます少女の怪しさは増すばかりだが何はともあれここは戦うしかないようだ。

 

「仲間がいるかもしれない、アリサとエマ、ユーシスも周りを警戒してくれ!コイツは俺とガイウスとハイメでやる!」

 

「任せて!」

 

「御武運を」

 

「しくじるなよ!」

 

「さぁ知っていることを教えて貰うぞ!」

 

 先手はガイウスが取り槍を構えながら少女へと突貫していく。

彼女を守るように白い物体は立ちはだかり質量を活かした攻撃で槍ごとガイウスを吹き飛ばす。

 

「アハハ残念~」

 

 少女の表情は余裕余裕そうでこちらを挑発するように手をクイクイと動かす。

 

「リィン、挟撃するぞ」

 

「任せてくれ!」

 

 リィンとハイメはリンクを繋ぎ左右から揺さぶりをかけつつ攻撃を仕掛ける。リィンが袈裟斬りを放つが簡単に防御されガイウスと同じように吹き飛ばされ、続いてハイメが膝蹴りを仕掛けるもあっさりと回避されてしまう。

 

「今度はボクの番だよ」

 

 そう言うと吹き飛んだリィンとの距離を詰め白い物体は重い拳をリィンに浴びせる。何とか太刀で攻撃をいなすリィンだが体を浮かされ攻撃を喰らってしまう。

 

「ぐっ……重い!」

 

 ガイウスとハイメが慌ててリィンのフォローに入り攻撃を肩替わりするが状況は劣勢に追い込まれていた。そんなハイメ達に業を煮やしたユーシスが戦闘に参加するべく突剣を抜き放つ。

 

「何をやっている!二人とも援護を!」

 

 ユーシスはアリサとエマに援護を頼みつつ前に出るがそれを簡単にさせてくれる相手ではなかった。

 

「甘い甘い♪」

 

 白い物体はエネルギーのビームを放ちユーシスを近づけず、なおかつアリサ、エマにもダメージを与える。アリサが苦し紛れに矢を放つが白い物体はそれをものともしない。

 

「硬いわね!」

 

「アーツでいきましょうアリサさん!」

 

「させないよ!」

 

 二人がアーツ主体の戦術に切り替えたと見るや接近を試みる。それに気づいた男性組は二人を死守しようと攻撃を仕掛けるが……やはりというべきか白い物体はそれをものともしない。

 

「ぐあっ……!」

 

「パワーが違いすぎる……!」

 

 まずはユーシスとリィンが張り付くが一瞬で突破を許してしまう。続いてガイウスが槍を振るいプレッシャーを掛けに行く。

 

「思い通りにはさせんぞ!」

 

「はい外れ~」 

 

 見た目の割に機動力も悪くないらしくガイウスの槍は空しく空を切る。それでも必死に攻撃を続け少しでも距離を稼がせまいと善戦するガイウスに少女は鬱陶しそうにする。

 

「も~いい加減に……!」

 

「俺ばかり気にしていいのかな?」

 

 ガイウスの不適な笑みに少女は一瞬ブラフィかとミリアムは思うがその考えはすぐに吹き飛ぶ。

 

「とったぞ!」

 

 剛龍招来をしたハイメが飛び蹴りを放つ、すかさず拳を放ちハイメを吹き飛ばそうとするが少女の顔は驚愕に染まる。なんと白い物体の拳とハイメの蹴りが拮抗していたのだ。ハイメを吹き飛ばすつもりだった少女からしたらたまったものではない。

 

「ウソ!?ガーちゃんとまともに打ち合えるの!?」

 

「ラウラならば素で押し負けないのだろうが、剛龍招来を使えば自分でも力負けはしない!うおおおおお!」

 

 雄叫びを上げ気合いでそのままハイメは力勝負で押しきりここで初めて白い物体に大きな隙が生じる。

 

「流石です!ハイメさん!」

 

「さぁくらいなさい!」

 

 そのタイミングで丁度エマとアリサがアーツの駆動を終えアーツをぶつける。とっさに白い物体を前に出し少女はダメージを減らす事には成功するが……

 

「これで……!」

 

「終わりだ!」

 

 復帰したユーシスとリィンが少女にそれぞれ剣をかざすと少女は苦笑いしながら降参の意思を示すように両手を上げる。しかしユーシスとリィンは気を抜かず少女に質問をする。

 

「いや~シカンガクインの人達も中々やるねぇ」

 

「呆けるな!貴様自分の状況が分かっているのか!」

 

「さぁ知っている事を話して貰うぞ」

 

「分かった、分かったからそんな殺気立たないでよ~」

 

 二人の……というよりはユーシスの剣幕と言葉は発さないが鋭い目で見るガイウスの気迫に少女も流石に不味いと思ったのだろう、たんまたんまと言いながら口を開き始める。

 

「まずは自己紹介からだね、僕はミリアム=オライオン、こっちの大きいのは《アガートラム》のガーちゃんだよ可愛いでしょ~?」

 

「ほう、言い残す事はそれだけか?」

 

「ま、待て待てユーシス!君も!何か知っているならば早く話してくれ!君自身のために!」

 

 額に青筋を浮かべたユーシスが剣を振るおうとするのをハイメが何とかなだめ、その間にリィン達は少女から事情を聞き出すことに成功する。彼女の話では今回の襲撃の実行犯と思われる武装した男達が複数高原の北東辺りに潜伏しているという。彼女の話を照合するとガイウス曰く確かにその地域には潜伏するにはもってこいの昔使われていたという石切場があるらしい。これ以上有力な手掛かりを見つける事は難しいと判断した一同は少女を信じる事にする。

 

「本来ならばゼクス中将に連絡すべきなのだろうが……」

 

「時間が許してくれなさそうですね」

 

「一度集落に戻って長老に連絡を頼もう、それならは時間も間に合う筈だ」 

 

 ミリアムの使うアガートラムが実技テストに使われている戦術殻に似ているとかそもそも何故このような場所にいるのか?等疑問は尽きないが今はそれすら聞く時間も惜しかった。ミリアムはアガートラムを消しユーシスの馬に乗り込む。

 

「よ~しそれじゃあ出発しんこ~!」

 

「待て、何故貴様が俺の後ろに乗るんだ」

 

「固い事言わない言わない♪」

 

「時間が惜しい、行こう!」

 

 ユーシスが恨めしそうにしていたが全員気付かないふりをして集落へと馬を急がせる。集落へ着く頃には12時を回っており、集落はいくつかの住居が畳まれていたが長老曰くギリギリまで避難は遅らせるとの事。ゼクスへの連絡を長老に頼み、一同は北東へと馬を進める。高原北東の崖、巨像があった場所からさらに北上した場所にある谷間へと一同は到着する。ガイウス曰くここ周辺には悪しき精霊が巨像に閉じ込められているという言い伝えがあるためノルドの民は滅多に立ち入らない場所だという。再度ミリアムに犯人について確認すると重火器を武装した複数人の男達で彼女曰く帝国軍、共和国軍も両者にらみ合いが続いているためこちらに兵を割くのは難しいのではなないかとの事。

 

「俺達だけでやるしかないか」

 

「不安はあるが……」

 

「今さらここで退くわけにもいかないわよ」

 

「そうですね、お世話になった集落の皆さんのためにも!」

 

「そうだな、自分達の力を出しきればいける筈だ」

 

「それじゃ行こっか!」

 

「オイ、何故貴様が仕切っている!?」

 

 若干緊張感に欠けるものの石切場へと足を踏み入れる一同。中に入ると薄暗くどこか空気が重い感じの印象を受けるハイメ、途中大きな岩で道が塞がれていだがミリアムとアガートラムの力で岩を粉砕して進んでいく。犯人達はどうやらザイルのような物を用いて移動しているらしくその痕跡が各箇所に残されている。石切場自体はそんなに広い訳でもなく程なくして上層の最奥まで到達する事が出来る。広間になっている所から声が聞こえてきたため一同は岩陰に身を隠し話に注意深く目と耳を傾ける。話の内容的に武装した男達は眼鏡をかけた男に雇われたらしく男達は眼鏡の男に撤退を進言するが眼鏡の男は「両軍が開戦するまでは駄目だ」も譲らないようだ。今の言葉で彼等が今回の両軍襲撃の犯人である事は確実なものとなった、各々頷き合いリィン、ガイウスを先頭に突入をする。

 

「そうはさせん!」

 

「お前らの思い通りにはいかない!」

 

「貴様らは……士官学院の……よくもまぁ嗅ぎ付けてきたものだ」

 

「ほう俺達を知っている様子だな、ならば話は早い」

 

「おとなしく出頭して貰うわよ」

 

「抵抗はしないほうがいいと思いますが」

 

「喜べ貴様ら、ボーナスがやって来たぞ……始末しろ」  

 

 眼鏡の男が命令すると武装した4人の男達が眼鏡の男を守るように立ちはだかる。人数では有利をとれているが相手は戦闘のプロ、決して楽観出来る状況ではなかった。

 

「トールズ士官学院Ⅶ組B班、行くぞ!」

 

 リィンの号令が合図となり戦いの火蓋は切って落とされる。リィン、ユーシスが敵二人とつばぜり合いになるがハイメ、ガイウスがその間にダメージを稼いでいく。四人を蜂の巣にしようと後衛の二人がアサルトライフルを構えるがミリアムがそれを阻止すべく動く。

 

「ガーちゃん!いくよ!」

 

「続くわよ!」

 

「はい!」

 

 アーガトラムがビームを放ち敵は回避行動を強要される。それに続くようにエマ、アリサも攻撃を放ち敵後衛組の援護を封じる事に成功する。一方前衛組の戦いはリィンとハイメ、ユーシスとガイウスとで各々対応をしていた。

 

「リィン!」

 

「任せろ!」

 

 対人戦を得意とするハイメと連携の上手いリィンの動きに敵は翻弄され思うように戦闘を進めさせない。一同は戦闘力も経験も彼等には劣るがARCUSという唯一無二の武器を使い連携だけは圧倒的に優勢にたっていた。しかし相手もプロ、学生風情に負けるわけいかないと奮起する。

 

「チッこのガキ!俺の動きを読んでやがる……でもなぁ!」

 

 ハイメは足運びや挙動で動きを読み立ち回るがそんな事はお構い無しと言わんばかりに剣を振るい遂にハイメを捉える。

 

「クッ!」

 

「死ねやぁ!」

 

 大きく回避をすることで致命傷は避ける事が出来たが頬から血が流れてくるのを感じるハイメ。リィンがすぐにフォローに入るがリィンも正面からの切り合いでは歯が立たず後退を余儀なくされる。

 

(くっ、サラ教官とアンゼリカ先輩に言われた通りだ、奴を仕留めるにはもう一歩踏み込まなければ……やれるか?いややってみせる!)

 

 なおもリィンに追撃を仕掛けようとする敵に対しハイメは決死の覚悟で肉薄していく。敵は待っていましたと言わんばかりにハイメの方に向き直り剣を振るう。

 

(恐れるな……ギリギリまで引き付け……今だ!)

 

 剣に合わせてハイメは拳を突き出し剣の腹を殴り軌道をずらす事に成功する。そのまま即座に攻撃態勢に移り三段蹴りを相手の顔、胸、腹と命中させ敵の意識を刈り取る事に成功する。

 

「そっちはどう手伝おっか~?」

 

「貴様の手は借りん!」

 

 既に女性陣は後衛二人を沈めておりユーシス、ガイウスも戦闘を終えたようだ。その様子を眼鏡の男は忌々しそうにミリアムの方を見つめながらブツブツと呟いている。

 

「チッ使えん奴等だ、しかしあのチビ……まさか鉄血の?ならばここまでだな」

 

「ボクを知ってるの?」

 

 眼鏡の男が銀色のホイッスルのような物を鳴らすとギチギチと薄気味悪い音が辺りに鳴り響く。天井に影が出来たと思うと巨大な銀色の蜘蛛が落下してくる。どうやらこの石切場のヌシのような存在のようだ。

 

「うえ~気持ち悪い~」

 

「言ってる場合か!」

 

「それでは諸君さらばだ」

 

 眼鏡の男はワイヤーを使い亀裂の入った部分から脱出してしまうがそれを悔やんでいる場合ではなかった。

 

「くっ逃がす訳には……!」

 

「リィン、ハイメ!奴を追ってくれ、今なら間に合うかもしれない!」

 

「でも!」

 

「しかし!」

 

「僕もいるから大丈夫だよ!」

 

「議論してる暇はないぞ、行け!」

 

「ここは任せてください、早く!」

 

 後ろ髪を引かれる思いだがリィンとハイメはガイウスの判断に従い眼鏡の男の追撃に入る。石切場を抜けると眼鏡の男の姿を捉える事が出来た。

 

「待て!」

 

「逃がしはせんぞ!」

 

「チッ、追ってきたか……それに招かれざる客人もいるようだな」

 

 眼鏡の男が視線を横に向けると赤髪の青年が岩陰から姿を表す。

 

「バレてたか……士官学院の二人、俺はレクター=アランドール、帝国軍情報局の特務大尉、まぁ味方だソイツ、ギデオンを拘束するから手伝ってくれ」

 

 思わぬ援軍を得て完全に状況は有利となった……筈だが眼鏡の男ギデオンは焦るどころか余裕そうにしていた。不審に思う三人だがその理由はすぐに理解出来た。

 

「チッ、おいギデオン何最後にヘマこいてんだよカスが!あぁ?」

 

「来たか《E》」

 

 血のような髪色をドレッドヘアーにした長身の男が頭を掻きながらレクターの後ろからやってくる。ギデオンが余裕を崩さなかったのはこの男の存在があったからなのだろう。 ハイメとリィンはその男から放たれるプレッシャーに思わず後退りしてしまう。そんな2人の様子をEと呼ばれる男は愉快そうに見つめるのだった。

 

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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