愚直な軌跡   作:ネオニューンゴ

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 感想、評価を頂きありがとうございます。待っていて下さる方がいるとは思わず温かい言葉を頂き執筆意欲が湧いてきたので久しぶりに短いスパンでの投稿をさせて頂きたいと思います。
それと私事ではありますがようやく創の軌跡をクリアしました、感想はと致しましては「まだ終わらないやろな~」「まだ終わらんよな……」「え?これで終わり?」といった感じでございました。ネタバレ……でもないかもしれませんがスウィン、ナーディアが切り離され作者も本人達同様少なくないダメージを受けました。
 前書きが長くなりましたが閃Ⅰは特別実習を終えて次の章という展開ですがここまでのお話が三章と思って頂けると幸いです、それではどうぞ。


第十九話 暗転と暗雲

リィンside

 

 俺達は集落に顔を一度顔を出し急いで荷物をまとめると早足でゼンダー門へと向かっていた。本当ならばガイウスとアリサに家族との別れの挨拶をする時間を作りたかったが級友の安否がが気になっていたためそれどころではなかった。ミリアムがハイメを運ぶ際ハイメの腕や足は変な方向に曲がっていなかったので恐らく骨を折られたという可能性は低いがそれでも思い出すのは痛々しいハイメの姿だった。

 

(クソッ俺は前回の実習から何も学んでいないじゃないか!あの力を使えばもしかしたら……ハイメは助かっていたかもしれないのに!)

 

 他のメンバーの表情を見渡すが皆下を向き悔しそうに歯を食いしばっていた。皆自分自身を攻めているのだろう、暗い空気が漂うが今のリィンにそれを払拭する言葉は見つからなかった。ただ今はハイメの無事を祈りながらひたすらに馬を走らせる。魔獣を無視して一目散にゼンダー門へと向かっている筈なのにやけに遠く感じる、実習当初はこの雄大な大地に心を奪われたが今この時だけはノルドの雄大さが煩わしくて仕方がなかった。

 そんな永遠にも感じる時間も終わりが来て、ゼンダー門に着き中に入るとゼクス、ミリアムが待っていた。アリサがゼクスの言葉を待たず疑問を投げ掛ける。

 

「ハイメは大丈夫なんですか!」

 

 失礼だとアリサを嗜める者は誰一人としていなかった。ハイメの安否、その一点だけが知りたかったからだ。

 

「結論から言うと彼は無事だ、命の別状もなければ骨も折っていない、外傷ほど体の中に傷は負っていない」

 

 とりあえずハイメが大きな負傷を負っていないという事実が確認出来て一同は胸を撫で下ろす。いくら一目で分かる程酷い外食が無かったとしてももしかしたら後遺症のある負傷を体の内側にしているかもしれないという恐怖感だけは拭えなかったのでとりあえずは一安心だ。

 

「多分アイツがそういう風に手加減してハイメをなぶったんだろうね」

 

 ミリアムの言葉に一同は息を呑む。自分達が対峙したあの男はそんな芸当が出来る程強い相手だったという事実を改めて確認させられる。だからこそそんな男の正体が一同気になってしまう。

 そんなⅦ組メンバーの心中を察したしようにゼクスは重く口を開く。

 

「彼女から聞いた話で奴の素性は知れている、帝国で指名手配されておりその手から10年近く掻い潜ってきた男、名はエドモンド=ディスカー、通称エンドと呼ばれている」

 

「暴力沙汰は当たり前、殺人、強姦、強盗なんでもござれの犯罪のエキスパートみたいな奴だよ、過去奴の餌食になった帝国の兵士や遊撃士も少なくない」

 

「そんな……凶悪な奴だったのか……」

 

「あぁ、気分次第で平気で殺人を起こす犯罪者だ、まさかノルド高原に居たとは……クソッ!」

 

 ゼクスは悔しさを込めて力任せに壁を殴る、凶悪な犯罪者が自分の管轄する地域に潜伏しておりこうもしてやられ捕まえるどころかその足取りまでつかめなかったのだ、軍人としての彼が自分を許せないのだろう。その心中は察するあまりだった。そんなゼクスに気圧されながらエマが遠慮がちに口を開く。

 

「あの……申し訳ないんですけどハイメさんの顔を見る事は出来ますか?」

 

「中将、出来れば俺からもお願いしたい、アイツが無事かどうかこの目で確かめたいんだ」

 

「あぁ……すまんそうだった、彼は手当てを終えてぐっすりと眠っているよ、今案内の兵士を寄越す」

 

 案内の兵士を待つ間の時間は非常に長く感じたが、その間にリィン達はもう一つの疑問を解消しておかなければいけなかった。そうミリアムの素性についてだ、リィンがその事を問い掛けるがミリアムはうっとした顔をしてわざとらしく視線を泳がせる。

 

「いやーオジサンの許可がないとちょっとね~」

 

 どうやらミリアムの素性は教えてもらえないらしい。今の言葉からミリアムの上に立つ人間がいるらしくその人の命令で軍とは違った形で独自に動いている事が推察出来るが今の状態ではそれくらいしか頭が回らなかった。そうこうしているうちに案内役の兵士が現れハイメが治療を受けている医務室へと通される。ゼクスの言うとおり重症という訳ではなさそうだが呼吸は荒く、体の至る所に包帯が巻かれ肌から覗かせる多数の擦り傷や内出血で変色した肌を見るととても痛々しかった。ハイメが怪我をする事は珍しくない、リィンはハイメが前回の実習でも心身共に大きな傷を負い悔しい思いをしたのを今でも昨日のように覚えている。ハイメは自分が傷つく度に自分が未熟なせいで傷を負うと言うが今回ばかりは違う。恐らく誰がEと対峙してもこうなっただろう、言葉にすればハイメが飛び起きて怒りそうだがそれでも……

 

(俺が……本来なら俺がそうなっていたかもしれないのに……クソッ!俺がお前の代わりになってあげられてたら……)

 

 リィンはそう思わずにはいられなかった。前回……いや入学してからというもののハイメという人間は傷付き過ぎているとリィンは感じている。それでもクラスの移籍という形で一度は折れかけたハイメが勇気を出して踏みとどまったというのにその次の実習の結果がこれではあんまりではないか。ハイメ自身どう感じていたのかは分からないがEに会うまで誰が見てもハイメはお世辞抜きで今回の特別実習では獅子奮迅の活躍をしていた、あと少しだったのだ、今回の実習を終えハイメは自信を取り戻し、本当の意味で自分もⅦ組の一員である事を認めてくれていたのかもしれないのに……これではまた彼は自分の殻に閉じ籠ってしまうのではないか?リィンはそんな不安を漠然と感じていた。そしてその不安は他のメンバーも少なからず抱えていたのだろう、ベッドで眠るハイメに誰一人として声を掛ける事が出来ずにいた。結局一同はハイメに何も言う事が出来ず苦い思いを残しながら三回目の特別実習を終えるのだった。

 貨物列車に揺られトリスタの街へと戻り休日を挟んで登校日となる。朝のSHRで空席のハイメについて改めてサラが説明する。B班の実習で起きてしまった事、そしてそれはどうしようもなかった事が淡々とサラの口から紡がれていく。その声は震えており何もリィン達だけが悔しい思いをしている訳ではなく送り出したサラも相当に悔しいのだろう。改めて言葉にされて聞くと悔しさが込み上げてくるB班一同はサラの話を誰一人として顔を上げて聞く事は出来なかった。リィンがちらりと周りを見渡すとA班の者のリアクションは様々なものだったが何も言えなかった。SHRが終了するとマキアスが席を立ち鬼気迫る表情でリィンの元へとやってくる。

 

「どういう事なんだ」

 

「……」

 

 リィンはマキアスの問いに答えるどころか視線をマキアスから外してしまう、言いたくない……言える訳がない、それがリィンの偽りのない気持ちだった。マキアスからしたらリィンの態度が面白くなかったのだろう、リィンの胸ぐらを掴み無理やりリィンを立たせ再度質問を投げ掛ける。

 

「僕はどういう事なんだと聞いているんだリィン!」

 

「ちょっマキアス!」

 

 事態を察したエリオットが慌ててマキアスを諌めに来るがマキアスの怒りは収まりそうもない。リィンはそんなマキアスに言い返す事なくこれは当然の報いだとどこかマキアスの怒りを受け入れている節があった。

 

「答えてくれリィン!君が付いていながらどうしてこうなってしまったんだ!」

 

「……すまない」

 

「シュバルツァーを離せマキアス=レーグニッツ」

 

「マキアス、一旦落ち着いてくれ」

 

 流石に事態を見過ごせなかったなのかユーシスとガイウスが2人の間に割って入る。マキアスはなおもリィンに食い下がるがユーシスとガイウスが改めてマキアスに事情を事細かに説明する。マキアスも心の中では今回の事態はどうしようもなかったのだろうと、たまたまハイメが負傷する形になったがそれが誰になっていてもおかしくはなかったと分かってはいたようだ、分かってはいたが感情に抑えがきかなかったのだろう、マキアスはバツの悪そうな表情をして明後日の方向を向く。

 

「……すまない感情的になりすぎた、これではただの八つ当たりだ……少し落ち着いてくる」

 

 今回はマキアスが真っ先に爆発したが少なからずラウラも思う事があったのだろう、失礼すると一言残し彼女も教室を後にする。リィンはその後ろ姿を見て肩を落とす、そんなリィンを心配したのかリィンの周りに人が集まり男性陣がフォローに入る。

 

「大丈夫リィン?」

 

「気を落とすな……と俺も言える立場ではないな、正直今回の事は自分の中でもまだ整理がついていない」

 

 

「奴も感情の収まりがつかなかったのだろう、奴もそこまで阿呆ではない、少しすれば落ち着くだろう」

 

 そんな言葉を受けてもリィンの気持ちは晴れず作り笑いをするがすぐにアリサとエマに見抜かれてしまう。そんな痛々しいリィンの姿を見かねてかエマの後ろからひょっこりとフィーが顔を出す。

 

「こんな事言っても意味ないかもしれないけど……エンドと対峙して皆の命があるだけかなり幸運な事だよ、猟兵時代アイツに潰された猟兵団も少なくないって団長言ってたし……」

 

「そうだよな……そうなんだよな……」

 

 リィンはやりきれない気持ちを抱きながらふと教室の窓から空を見上げる、傷付き倒れた自分のクラスメイトは今どうしているのだろうと……叶う事ならば今すぐ元気な姿を見せて欲しいと、自覚はしているが自分勝手願いを込めながら……。

 

sideハイメ

 

「うっ……また知らない天井だ……先月もこんなだったな」

 

 目を見開き眼前に広がる白い天井に既視感を覚えながらハイメは自分の四肢の無事を確認する。包帯は巻いてあるがギプスはしていないし痛むが力は入るし動かせる。Eからあれだけの攻撃をくらい無事なのはEが遊んでいたからなのかそれとも今は遠い故郷にいる母が強い体に産んでくれたからなのかと考えながら痛む体を起こす。士官学院に入学して以降何かと傷が絶えなかったハイメは体の痛みに慣れてきてしまっているようでそんな自分に苦笑する。

 

「それにしても……はぁ……またやってしまったな……」

 

 思い起こすのはEとの戦闘……いや戦闘と呼ぶには程遠い言うなればEの言うとおりゲーム、そこで自分は仲間のため戦い自分の誇りである武術すらもかなぐり捨てたがEには届かなかった。努力をし、誇りを捨てそれでもなお天才と呼ばれる者には遠く及ばない、もう何度目になるか分からないがそれでも自分の非力さを呪わずにはいられない。本当ならば今自分の命はない、そんな戦いで誇りを仲間をそして自分すらも貶められた完全なる敗北、そしてフラッシュバックするEの顔、圧倒的なまでの暴力。

 

「うっ……おええええええ」

 

 Eの顔を思い出す体中のと痛みがぶり返し全身に悪寒を感じ思わず胃液を吐き出してしまう。嫌な汗が全身から吹き出す。手は震え膝は笑っていた。心の中は恐怖一色で埋め尽くさる。こんな状態でどんな顔をして皆に会えばいいのか、ハイメは涙を流しながらこんな体たらくの自分を笑うしかなかったのだった。

 

sideアリサ

 

 あの一件から数日の時が過ぎてあの後マキアスはリィンに謝ったけどどこかギクシャクとした空気がⅦ組の中に流れていたわ。私自身まだ割り切れていないけどそんな事はお構いなしに時間は過ぎていき今日サラ教官から遂にハイメが復帰するとの知らせがあった。病院を退院し午後の授業から復帰するとの事で私は彼が戻ってくる事で今の空気が変わると思うと内心ホッとしていた。彼がどんな傷を負っているか考えもせずに……。

 彼は昼休みに教室に顔を出した、私を含めた前回ノルド組のメンバーを皮切りに次々とハイメに声を掛けるといつも通り彼は困ったような顔をしていた、その真意すら私達は気がつけなかった。いいえ、気付きたくなかったのかもしれない、きっと私以外もハイメが来る事でまたいつも通りの日常に戻ると思っていたのでしょうね。午後からの授業はサラ教官の授業で問題は起きたわ。

 

「ハイメ!そなたどうしたというのだ!」

 

「……すまないラウラ……自分は……」

 

 ラウラの言葉に膝を着きながら力なく答えるハイメ、ようやくⅦ組全員が揃ったという事で実習での成長を各々認識するという事で私達は様々な組み合わせで模擬戦を行うことにした。そしてその初戦、組み合わせは私とハイメ、マキアスとユーシス対するはラウラ、フィー、エリオット、リィンと戦う事になった。ハイメはラウラと対峙したんだけど……彼の様子がおかしいのは誰の目から見ても明らかだった。私は……いいえ、きっと私以外の皆もそう思っていると思うのだけれどハイメは粘り強いという印象を持っている、それがあっさりとラウラに敗れたの。最初は復帰してすぐだし怪我の影響もあるのかと思ったけれども彼からはいつも感じる執念とか気迫……言ってしまえば闘志のような物が見えなかったわ。きっと対峙していたラウラはすぐに彼の異変に気付いたんでしょうね、周りの制止する声を振り切って何度もハイメに向かっていったわ、そして間もなくしてハイメは片膝を着き肩で息をし始める。そんなハイメの姿にラウラは今まで見たことのないような、ひょっとしたら学院で一番感情をむき出しにした瞬間かもしれないそれ程に驚愕した表情をしていた。

 

「自分はやはり……もう武人として死んでしまったのかもしれない、怖いんだ戦うのが……闘志よりどうしても恐怖という感情が先に来てしまう、見てくれほら体が震えて……情けない」

 

 一瞬私達は彼が何を言っているのか分からなかった。どんな苦境に立たされ挫折し絶望し傷付いても立ち上がる、そんな彼がここまで弱々しく……いえ私は一度彼の崩れた所を見ているけれど……それでも彼は立ち上がったのに……まるで目の前で震えているハイメがハイメでないような、そんな風にすら思えてしまう。ラウラの手から大剣が滑り落ちカランと乾いた音がグラウンドに鳴り響く。そんな私達を見かねてかサラ教官がハイメへと声を掛ける。

 

「そう……ハイメ……貴方」

 

「すみません教官、このままでは皆に迷惑を掛けてしまうので早退させて頂きます、失礼します」

 

 そう言ってトボトボとグラウンドを離れる彼を私達は黙って見送る他なかった。心なしか彼の背中は小さく弱々しく見えた。ハイメが戻ってくればきっとⅦ組はいつも通りの日常に戻れる、そんな夢みたいな……私達の身勝手な希望はたった今打ち砕かれた。そしてその影響は少なからず他の皆にも影響し……

 

「くっ……」

 

「リィンまで……」

 

 リィンすらも不調に追い込まれてしまう。こうしてⅦ組はクラスを引っ張る形で導いたリィン、そして押し上げる形で支えてきたハイメの二人の不調、Ⅶ組の未来に暗雲が立ち込めているのは確かだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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