愚直な軌跡   作:ネオニューンゴ

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第二話 地下迷宮

 生徒達が女性教師に連れられてやって来たのは、校舎の教室ではなく学校の敷地内の外れにある古い建物だった。

こんな所でオリエンテーションとは穏やかではなさそうだとハイメは考えてしまう。ちらりと周りの様子を伺うと黒髪の男子生徒とメガネをかけた男子生徒、それとオレンジ色の男子生徒も不安そうな表情をしている。

 

(というより他の者は何故動揺していないのだろうか?)

 

 ハイメがそんな事を思っていると先導していた女性教師は自分達の方を向くとパンと手を叩き視線を集めた。

 

「それじゃあこれから特科Ⅶ組の特別オリエンテーリングをはじめるわよ!まずは自己紹介ね私が担任のサラ=バレスタインよ、今日から君達Ⅶ組の担任を勤めさせてもらうわ、よろしくお願いするわね!」

 

 笑顔でウインクまでしてらっしゃるがこちらはそれどころではない。

 Ⅶ組?おかしい、ハイメはこの学院は全部でⅤクラスだったと記憶している。

それに入学式の様子をみるかぎりⅥ組は存在しなかったはずだ、やはりこの制服と何か関係があるのだろうか?

ここはやはり聞くべきか?それとも初日で目立つような事は避けるべきか?と迷っているとサラ教官は話を続けた。

 

「まあなんでⅦ組?と思ってる人は多いだろうから先に言っいゃうわね、なんとこのクラスは身分関係なく集められた特別なクラスなのよ特科クラスⅦ組は」

 

 身分関係なく?それこそ意味が分からない、平民と貴族の生徒を一緒のクラスにするメリットなどありうるのだろうか。それともこのクラスになった生徒は何か共通点でもあるというのか?なら尚更自分がここにいる意味が分からない、そんな特別なクラスに自分などが配属されるわけながない、とさらに混乱するハイメ、しかしハイメの混乱させる事態が起こる。

 

「身分関係なくだって?冗談じゃない!貴族風情と一緒のクラスでやっていけというのですか!」

 

 声の上がった方に視線を向けると緑色の髪をした男子生徒が意見していた。この状況でクラス分けに異議を申し立てるとは中々肝の据わった人間らしい。

 するとこの意見に金髪の男子生徒が鼻を鳴らす。緑色の髪をした生徒は食ってかかるが、金髪の生徒は気にも止めていないといった感じでこう続けた。

 

「別に、平民風情が騒がしいと思っただけだ」

 

 これでは売り言葉に買い言葉だ、二人は言い合いを初めてしまった。一瞬にして場の雰囲気は悪くなる、学院だってこんな状況が起きるのは遅かれ早かれ起こりうるのは分かっているだろう。

 

(この空気どうにかならないだろうか?)

 

 と、この場にいた大多数の人間は思っただろう。見かねた教官がパン、パンと二回手を叩き二人の言い合いを止めさせる。

 

「はいはい二人ともそこまで、時間がないから止めなさい、文句なら後で聞くわ、そろそろオリエンテーションを始めないと不味いのよね」

 

 やっとオリエンテーションが始まるようだとハイメは胸を撫で下ろす。ふと、黒髪の男子生徒が教官に質問をした。

 

「もしかして……門で預けた荷物と関係が?」

 

「あら、いい勘してるわね」

 

 と教官はにこやかに言いながら下がり一つの柱に手をつけた、ハイメはサラのその行動に違和感と嫌な予感を同時に覚える。

 

(いや、待ておかしい何故下がる必要がある?説明なら元の位置でもできるはずだ)

 

「それじゃあさっそく始めましょうか♪」

 

 瞬間、視界から教官が消えた。

 唐突に床に穴が出来てハイメ達の体は重力に従い下へと落ちていく。どうやらハイメが一番早く落ちているらしい、上からは悲鳴や叫び声が聴こえてくる。など他人事のように思っているとゴンと鈍い音が響く、どうやら着地には成功したようだが遅れて自分の足に痺れと痛みが襲ってくる。

 

「ッ」

 

 なんとか足に力を入れて立つが、まだ痛みはあるし、痺れも残っている。辺りを見回すとここはどうやら広間となっているようだ。

 だがこの位置にいると後続の下敷きになってしまうかもしれないと思い少し離れて近くの壁にもたれ掛かる。予想通り次々と生徒達が降りてきたようだ。よく見るとその中には黒髪の男子生徒が金髪の女子生徒の胸に顔を埋めている姿も見受けられる。

 

(初日から中々のチャレンジャーだな)

 

 状況を理解したのか金髪の女子は頬を羞恥の色に染め、黒髪の男子に平手打ちを食らわせていた。そんなハプニングもあったがⅦ組の生徒全員が旧校舎の地下とも呼べる場所に揃った事になる。ふいに制服の内ポケットにしまっていた『導力器』が鳴り始めた。

 この『導力器』は入学証明書と共に学院から送られて来たもので、絶対に学院に来る際は忘れないようにと手紙にも書いてあった。ボタンを押すと教官の声が聞こえてくる、どうやら通信機能もついているらしい。

 

「全員無事みたいね」

 

 約1名お世辞にも無事とは言えない生徒はいるが黙っておくべきだろうとハイメは思い口を噤む。

 それから教官からこの導力器について説明があったが一度聞いただけでは全て覚えられず、とりあえずはこの導力器は第五世代代型戦術オーブメント『ARCUS』と言い、ラインフォルト社とエプスタイン財団が協力して開発した物らしい。オーブメントとは導力魔法の使用や所持者の身体能力を上げる事の出来る便利アイテムといったところだろうか。それを今までの物より戦術特化にした代物らしいが導力器に詳しくはないハイメはその程度の解釈しかできなかった。

 

 

 

「さてまずは目の前に10台の台座があるでしょ?そこに校門で預かった皆の荷物があるはずよ」

 

 確かに広間には10台の台座があるが、ハイメは校門で荷物など預けてはいない。なので自分の所と思わしき台座に小さな箱しか乗っていなかった。

 

(しまったな、何か忘れ物でもさてしまっただろうか)

 

 だがハイメの心配は杞憂だったようで各々が取り出した荷物を見て何故自分だけ荷物がないか確信できた。取り出されたのは剣、銃、杖、槍と武器になるものだった。とりあえず教官の指示通り箱の中に入っていた黒いクオーツを嵌め込む。

 すると一人だけ武器を持ってないのが心配だったのかさっき女子生徒の胸に顔を埋めていた黒髪の男子がハイメに声を掛けてきた。

 

「君は武器がないようだが大丈夫か?」

 

「ん、ああ大丈夫だ、自分は武器を持っている」

 

「?すまない見当たらないんだが」

 

「ハハハ……見せた方が早いか」

 

 そう言うとハイメは黒髪の生徒から距離を取り回し蹴りをしてみせる。瞬間ビュンと鋭い音がして黒髪の生徒の顔の前をハイメの足が通り抜けた。

 

「これで分かって貰えただろうか?」

 

「あ、あぁ良く分かったよ」

 

「心配してくれ感謝する」

 

 少し黒髪の生徒の表情がひきつっていて、ハイメは少し悪い事をしたなと軽く反省した。しかし自分の心配をしてくれるとは黒髪の生徒は中々にイイヤツなのかもしれない。ふとハイメが視線を感じると、青い髪の女子生徒がこちらに視線を向けていたがハイメは気付かないフリをした、後で何か言われるかもしれないがこの場で言われるよりはマシだろう。

 そして全員がそれぞれの得物を持ったようなので教官から続きの指示が入る。

 

「準備はできたみたいね、それじゃあ特科Ⅶ組特別オリエンテーションをはじめるわよ♪する事は簡単この部屋から先はちょっとしたダンジョンになっているから各自ゴールまで来てちょうだい、無事ゴールできれば元の一階まで戻って来れるわ」

 

(それだけなら何故武器を持たせる必要がある?まさか魔獣が出てくるわけでもないだろうに)

 

「あっこのダンジョン魔獣も出てくるから頑張ってね、それじゃあ健闘を祈って待ってるわよ♪なんだったらほっぺにチューもしてあげるわよ?」

 

(なに?)

 

 ハイメは生まれてこのかた戦った事のある魔獣など『飛び猫』や『畑あらし』くらいしかいない、一人でゴールまで行けるか不安になってきたがクラスメイトはどんどん先へと進んで行ってしまう。どうしたものかと悩んでいるとさっきの黒髪の男子生徒が声を掛けてきた。

 

「なあ、君もしよかったら俺達と共に行動しないか」

 

「いいのか?」

 

 ハイメからすれば願ってもない提案だ、やはりこの男子生徒はイイ人なのだろう。黒髪の生徒の後ろには導力杖を持ったオレンジ色の髪の男子生徒と槍を持った褐色の男子生徒もいる。どうやら彼らもこの黒髪の生徒と行動を共にするらしい。自分も含め四人もいればかなり安心だ。

これは選択の余地などないだろう、まずは自己紹介をさるべきだろう。

 

「自分はハイメ=コバルトだ、迷惑をかけるかもしれないがよろしく頼む」

 

「っと自己紹介がまだだったな俺はリィン=シュバルツァーだ」

 

「僕はエリオット=クレイグだよ、よろしくね」

 

「俺はガイウス=ウォーゼルだよろしく頼む」

 

 黒髪がリィン、オレンジ色の髪がエリオット、褐色の人がガイウスと言うらしい。これから二年間学院で共に学ぶ人間だ、名前はしっかりと覚えておこうとハイメは心に決める。

 それから四人で行動するに当たりそれぞれの役割を決める事にした、リィンとハイメはアタッカーとして前衛、エリオットは導力魔法でのサポートに徹するらしいため後衛、ガイウスはエリオットを狙う敵や前衛である自分たちのフォローを買って出てくれたため中衛となった。

 扉の先へと進むと入り組んだ石造りの迷宮が眼前へと広がる、まるでおとぎ話等に出てきそうな迷宮に感嘆し魔獣を警戒しながら足を進める。少し歩くと道の向こうに四匹の飛び猫が姿を現した。即座に、四人は先程決めた陣形へとなる。

 

「よし!それじゃあ打ち合わせ通りにいくぞ三人とも!」

 

「了解した、自分は左の側の二匹を相手する、リィンは右を頼む!」

 

「傷ついたら僕に言って!回復のアーツを使うから!」

 

「なら俺は力を貯めた奴を優先的に狙おう」

 

 ハイメは左側の飛び猫二匹のちょうど中間地点へと走り自らが得意とする技の一つを放つ。

 

「受けてもらうぞ!攻めの型一番『震脚』!!」

 

 ハイメは自分の足で強く床を践む、すると飛び猫二匹は振動にビックリしたのか体を硬直させる、ハイメはその隙を逃がさず手前の一匹めがけて蹴りを繰り出す。体を硬直させた飛び猫は避けることなど出来るはずもなくハイメの蹴りを喰らう。3発ほどで飛び猫は力なく泣き倒れた。後ろの飛び猫は力を貯めようとしていたがガイウスが攻撃してダメージを稼いでくれている。

 

「今だハイメ!」

 

「助かる!」

 

 走った勢いを付け蹴りを入れるともう一体の飛び猫も地に倒れた。

 リィン達の方を見るとちょうどリィンが最後の一匹を切り伏せていた。

 

「終わったな、お疲れ三人共」

 

 リィンのその一言で緊張の糸が切れる、四人ならばなんとかこの迷宮も突破出きるかもしれないとハイメは思い、先程自分のフォローをしてくれたガイウスに礼を言う。

 

「ガイウス助かった、感謝する」

 

「いや、ハイメが魔獣を硬直させてくれたから俺もやりやすかったのでな、ところで最初に放ったあの技は?」

 

「ああ、俺も気になったんだがハイメは武術をやっていたのか?」

 

 リィンとエリオットも気になったのかこちらに集まってくる。

 どうやら三人は武器を使わない自分の技に興味があるらしい。

 

「今の技は『振脚』といって足場に振動を与えて、敵を怯ませたり、動きを鈍くする技なんだ、武術はあまり名は知られていないようだが自分は『鳴神流』という東方の武術を3年程習っていた、半端者で実力は無いが」

 

 三人はハイメの武術の話に思っていたよりも食い付き、迷宮を進みながらそれぞれの故郷の話を交えて進んだ。

 魔獣との遭遇率も高い訳ではなく数も一気に自分達の人数より多くは出現しないため、何とか進む事はできた。

 少し開けた場所が見えてきたため一息入れる。

 やはりと言うべきかここまで戦闘続きできたため多少の疲労はある。

 だからだろう、心に緩みが出来てしまい魔獣の奇襲に気づくのが遅れてしまったのは。

 

「エリオット危ない!」

 

 リィンの声がしてエリオットの方を見ると魔獣がエリオットを後ろから襲おうとしていた、座り込んでいたエリオットは反応が遅れて防御のために導力杖を構える事もできない。

 

(迷っている暇はない!)

 

 ハイメは幸いエリオットの近くで休んでおり、座り込んでもいなかったため、その場から駆け出し魔獣とエリオットの間に割って入る。しかし咄嗟の出来事に防御する間もなくハイメは魔獣の攻撃をモロに食らってしまう。

 いくら一匹一匹の攻撃力が高くはないといえそれをモロに受けたハイメは地に足を着けてうずくまってしまう。

 

 

「「「ハイメ!」」」

 

 三人の声がして前を見ると魔獣が追撃をしようとしている。

 ダメージの抜けないハイメの動きは鈍く防御の構えもとれていない。

 反射的に目を瞑り歯を食いしばる事しかできないハイメが攻撃が来ると思った瞬間一つの銃声が響いた、恐る恐る目を開けると魔獣は後ろからの怯んでおり、好機とばかりにリィンとガイウスが攻撃を浴びせ魔獣は倒れた。

 

「キミ達大丈夫か!?」

 

 緑色の髪をした生徒がこちらに走ってくる、彼はハイメが攻撃を受けたのが自分が助けるのが遅かった事に責任を感じているのか申し訳なさそうな表情を浮かべておりリィンとガイウスは大丈夫かと心配してくれた。エリオットは謝りながら回復のアーツをかけてくれている。

 

「すまない、防御できなかったがエリオットのアーツのおかげで大分楽になったよ、君も助けてくれてありがとう、良ければ名前を聞いてもいいだろうか?」

 

「そうか自己紹介もまだだったな僕はマキアス=レーグニッツだ」

 

「レーグニッツというと知事の?」

 

「……ああ、僕の父だ」

 

 帝都知事の息子か、聞けばエリオットの父親も軍事関係の偉い人らしいが、このクラスは豪華なメンバーでも集めたのだろうか、あの金髪の男子生徒は貴族らしいがまさか今度は四大名門の息子とかでない事を祈るばかりだとハイメは考えているとマキアスが微妙な表情をして口を開いた。

 

「すまない、これだけは聞いておきたいんだが君達の中に貴族はいるのだろうか?」

 

「自分はまごうことなき平民だ」

 

 エリオットとガイウスも身分的には平民に当たるらしい、リィンだけは高貴な血は流れていないと言葉を濁してはいたのが気になったが。マキアスはこの中に貴族がいない事が分かったからか、ふぅと一息つき先ほどの言い合いをしていた事を謝って来た。場の雰囲気を悪くしたのは事実であるがここまで誠実に謝られると許さないという選択肢はないだろう、これから共に学ぶ仲間なのだからなるべくわだかまりはないようにしたい、全員が同じ気持ちだったのかマキアスを咎める者はいなかった。

 マキアスもリィンに誘われ行動を共にする事となり、マキアスは銃を使うのでガイウスと同じ中衛にいてもらう事となった。

 五人になれば魔獣戦も随分と楽になり、随分この迷宮も進む事が出来たと思われる。

 

「そろそろ半分くらいまで来ててもいいよな」

 

「ああ僕もそう思いたいが、あの教官の仕掛けだから分からないな」

 

「あれ?あそこにいるのは・・・・・・」

 

 エリオットが指をさした先にはマキアスと言い合いをしていた貴族の生徒か、向こうもこちらに気づいたのかこちらに歩いて来た。

 そうなれば当然言い合いがまた始まってしまいリィンがなだめようとしているが二人は聞く耳を持たない。

 やがて二人はそれぞれ別の道へと歩いていってしまい、リィンは困ったなとつぶやき頭を抱えてしまった。

 

(しょうがないか・・・・・・)

 

「自分がマキアスを追いかけよう、リィン達は彼を頼む」

 

「いいのか?ハイメ?」

 

「どちらかを放っておくわけにもいかないだろう、それじゃあ頼んだぞ」

 

「気をつけて、ハイメに風の導きがあらんことを」

 

「後で合流しよう、ハイメ」

 

 三人と別れてハイメはマキアスが進んだ道へと急いだ。

 自分一人でマキアスを追う事にしたはいいが魔獣が群れを成して襲い掛かってきたらひとたまりもない変な見栄をはってしまったと若干の後悔をしながら足を進める。

 

 

 

 幸いハイメは足がそこそこ速く程なくしてマキアスの後ろ姿を見つける事ができた。が、どうやらマキアスは魔獣の群れと戦っているらしくどうやら苦戦しているようだ。

 

(三匹以上……くっ、やるしかないか!)

 

 やはりエリオットかガイウスに付いてきてもらうべきだったと再度後悔しつつマキアスを助けるべく群れの中の一匹へ不意打ちを仕掛ける。マキアスがダメージを与えていた事もあってか最初の一匹は一撃で沈んだが、所詮は不意打ち今度はハイメが魔獣に囲まれてしまう。

 こうなればハイメは防御に徹する事しかできずただひたすら攻撃を受ける。

 

(だがこれでマキアスへの注意は全てこちらに向かっている、ならば)

 

 マキアスの方を見るとマキアスはアーツの駆動を行っていた、どうやらこちらの意図を理解してくれたらしい。

 

「よし!ハイメ避けてくれ≪アースランス≫」

 

 マキアスの合図と同時にハイメは横に飛び、ハイメに攻撃を加えていた魔獣は固まっていたためマキアスのアーツにより一掃される。

 

(助かった)

 

 マキアスが範囲攻撃の手段を持っているかは半ば賭けに近かったが、どうやら賭けには勝ったようだと安堵する。

 もしマキアスがこの状況を打破出来る範囲攻撃を持っていなければハイメはかなりの痛手を負っていただろう。

 

「すまない!大丈夫か!」

 

 マキアスが慌ててこちらに駆け寄ってくるが、大丈夫と言う余裕もこちらにはない。

 本来ハイメの戦い方は震脚で自分に有利な状況を作り出し、その隙に攻めるといったスタンスで真向勝負や多対一に自らなんの策も無く飛び込んで行き通用する程の実力は持ち合わせていない。

 マキアスが『ティアの薬』をくれるとの事なのでありがたく使わせてもらう。

 薬を飲むと痛みは和らぎ少しではあるが気分も楽になった。

 

「本当に済まない、キミが来てくれなければ僕は・・・・・」

 

「イヤ、本当に来て良かったよ、マキアスも怪我はないか?」

 

 マキアスは何度も謝りこちらが気にするなと言っても謝り続けた。

 やがて落ち着いたのか最後に頭を下げてきた。

 こちらもこうも謝られるとどうしたものかと、思案する。

 

(あまりこういうのは好きではないが・・・・・・仕方ない)

 

「あー、なら今度珈琲でも奢って欲しい、それで今回の件は手打ちといこう」

 

「ああッ是非奢らせてくれッ」

 

 何はともあれこれで一件落着で、こんな場所でなければ一息つきたいがまだここは迷宮の途中だ。

 あまりゆっくりしていると他のクラスメイトを待たせてしまう、できればそれは避けたかったのでマキアスは心配してくれたが迷宮を進んでいった。

 それからは特に誰にも会うことなく、迷宮を進み、思っていたよりは進んでいたのかそんなに時間を取られずゴールと思しき部屋の前へと到着した。先からは剣戟の音やアーツを駆動するエリオットの声が聞こえてくる。

 

(少しは休ませてほしいんだがな・・・・・・)

 

 マキアスと顔を見合わせるとどうやら同じ事を思っていたらしい、苦笑しつつ仲間が戦っているであろう最後の部屋へ向かった。

 

「『紅葉切り』!」

 

 部屋へと入るとちょうどリィンがちょうど魔獣に最後の一太刀を浴びせているところだった。

ここの主であろう魔獣は床に倒れ伏し、反応は見られない。

 ハイメ達はどうやら来るのが少し遅かったらしく、女子の方も全員揃っているようだ。

 リィンはこちらに気が付いたのか表情を綻ばせ、手を振っている。

 ハイメはバツの悪そうな表情をしつつリィンの元へと向かった。

 

「済まない、来るのが遅かったようだ」

 

「いや、二人でここまで来たんだろう?しょうがないさ」

 

 エリオットやガイウスも駆け寄って来る、女子の方もこちらに来た。

 女子の方には自己紹介してなかったので名乗ろうとしたが、銀色の髪をした女子がピクンと反応した。

 

「気をつけて、アイツまだ生きてる・・・・・・」

 

 その言葉を皮切りに全員は一斉に魔獣が立ち上がっていた。

 よく見ればあの魔獣は石の守護者《ガーゴイル》ではないだろうか?

 確か昔本で読んだ事がある、なら倒す方法は・・・・・・

 

「リィン!確か奴を完全に倒すには首を落とさなければいけなかった筈だ!」

 

「本当か!?なら俺が・・・・・・」

 

「いやリィン、そなたは戦ったばかりで疲弊しているだろう、その役目私が引き受けよう」

 

 大剣を持った青髪の女子が止めの役を買って出た。

 

(確かに彼女の持っている大剣ならばうってつけだろうが・・・・・・女性の力で大丈夫か?)

 

 迷っている時間を敵は与えてくれないらしい、リィンの指示で全員がそれぞれガーゴイルを囲むように位置につく。するとARCUSが突然淡い光を放つ、それと同時に自分以外のクラスメイトがどう動くか頭に流れ込んでくる。

だが・・・・・・

 

(待て、これでは頭がぐちゃぐちゃに・・・・・・)

 

 ハイメが呆けている間に他のクラスメイトは次々と攻撃を加えていき、先程止め役を買って出た彼女が大剣を振り下ろしガーゴイルの首を落としていた。

 その様子をハイメはただ見ている事しかできなかった。

 

(なんてザマだ・・・・・・自分だけがあの状況で動けなかった)

 

 ハイメは自責の念で押しつぶされそうになる。

 ハイメ以外のクラスメイトはARCUSについて語りあったり、互いを称賛し合っている。

 穴があったら入りたいとはこの事だろう、学院生活初日の最後で大失態を犯したハイメは俯き小さなため息を吐く。

サラ教官が奥の階段からやって来て何やらARCUSの説明しているようだが全く頭に入って来ない。

 

「・・・・・・バルト、ハイメ・コバルト!あなたはどうするの!」

 

「えっ?」

 

 顔上げるとサラ教官とクラスメイト全員の視線がハイメに集中していた。

 ハイメは急速に頭を回転させるが、全く話を聞いていなかったためいくら考えても意味を成さない。

 ここは正直に謝る事をハイメは選択した。

 

「すいません、話を聞いていませんでした・・・・・・」

 

 サラは大きな溜息を吐く。

 ハイメは申し訳なさそうに頭を下げる、他のクラスメイトはどんな顔をして今の自分を見ているのか、想像するだけで逃げ出しそうになるが自分が重ねた失敗なので逃げる訳にはいかない。

 

「ここは士官学院よ、自分の失敗を反省するのはいいけど教官の話を聞いていなかったのはいただけないわ」

 

「はい、すみませんでした」

 

「ならもう一度聞くわ、ハイメ・コバルト!あなたはこの特科Ⅶクラスに参加する意思はある?このクラスは他のクラスと違ってかなり厳しいカリキュラムが組まれているわ、参加意思がないなら元々の配属先のクラスに行く事もできるわよ?」

 

その言葉にハイメはすぐに返答する事が出来ない。たった今大きな過ちを犯してしまいどんな顔で参加すると言えばいいのか?それでも己を鍛えに来たのだどうせやるならば厳しい環境に身を置き自分の限界を確かめたいという気持ちもあった、結局ハイメが強く思ったのは後者だった。

 

「いえ、ハイメ・コバルト謹んで特科Ⅶクラス参加させていただきます」

 

「よろしい!これで全員参加ね、ようこそ!トールズ士官学院・特科クラスⅦ組へ、ビシバシ鍛えてあげるから、楽しみにしてなさい!」

 

 こうして特科Ⅶクラスは発足された。ハイメの激動の一年が幕を開ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




作者の戦術リンクの解釈はあくまでこれがあれば誰でも連携が上手く出来るようになるねという便利機能ではなくこれがあれば連携がしやすいよねというあくまで補助的な役割だと思っています。なので適正がある=使えるには直結しないんじゃないかなぁと思い、ましてやあれだけの人数ならそら混乱してもしょうがないんじゃないかと思いこういった結末にさせて頂きました。
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