愚直な軌跡   作:ネオニューンゴ

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 今回のお話は人によっては「いや……ちょっと……」というお話かもしれません。ある意味少しキャラ崩壊かなぁと思いつつも投稿させて頂きます。


第二十二話 ほんの少しの亀裂

 アンゼリカとの鍛練を終えシャワーで汗を流して食堂へ行くとそこには重苦しい空気が流れていた。食堂にはエリオット、ガイウス、エマ……と何故か撃沈しているユーシスとマキアスの姿が目に飛び込んでくる。ハイメはどうしたのかと事情を比較的冷静なガイウスに聞く。

 

「どうしたんだガイウス? 一体何が?」

 

「あぁ……今から30分程前の話なんだが……」

 

 side ガイウス

 

 その日は珍しく第3学生寮の食堂にハイメ以外のメンバーが集まっていた。どういう偶然かは分からないが夕食を摂る時間が殆ど被ったらしい。俺はエリオットと委員長とフィーと話しながら夕食を食べていたんだがそこで事は起こったんだ。といってもここ最近では珍しくもないフィーとラウラの小さないざこざだったんだがその時は珍しくユーシスとマキアスが仲裁を買って出た。……が二人の努力は虚しく結果としては火に油を注ぐ事になってしまった、いつもならリィンとアリサが率先して止めに入るんだが二人はまた珍しくこの事態を静観していた……というよりはこの事態が目に入らない程何かを考え込んでいたようでな、どこか上の空だったのは二人の表情を見てすぐに分かったんだ。とはいえこのままという訳にはいかないと俺とエリオットと委員長で何とか場を収めようとしたんだが……

 

「いい加減にしてくれ!」

 

 そこでリィンが声を荒げたんだ。普段そんな様子を見せないリィンに皆は一様に驚いたさ……すぐにリィンもハッとした表情をしていたが出したものの引っ込みがつかなかったんだろう。さらに口論は激化していった。

 

「これは私とフィーの問題だ!」

 

「そっちが一方的に突っかかってきてるだけだけど」

 

「それで周りが迷惑しているんだ! もう二人だけの問題じゃない筈だ!」

 

「リィン! そんな頭ごなしに言っても!」

 

「マキアスじゃ事態を終息させられないじゃないか!」

 

「シュバルツァー! 貴様……! 流石に今のは言い過ぎではないのか!?」

 

 ここで静観していたアリサまで参戦してきてもう歯止めが効かなくなってな……

 

「何よ! リィンを責めるのは少し違うんじゃないかしら!?」

 

「ふーんアリサはリィンの肩を持つんだ?」

 

「何よその言い方」

 

「今の発言はそう捉えられても仕方ないと思うが?」

 

「皆さん落ち着いて下さい!」

 

「冷静になるんだ、皆今日はおかしいぞ」

 

 そこから先は正直あまり思い出したくない、それくらいの罵声が飛び交っていたよ……結局ラウラ、フィー、リィン、アリサの四人が食堂を飛び出して今に至るという訳だ……

 

 ガイウスsideout 

 

 ガイウスの話を聞き終えたハイメは絶句する。全員で自分のことを謀っていたと言われる方がまだ信じられるが残念ながらその可能性は限りなく低そうだ。自分が居てどうにかなったとはとても思えないがそれでもその場に居なかった事をハイメは深く後悔する。しかし後悔ばかりはしていられない、特別実習の日程も近く、何より実技テストがすぐそこに控えているのだ。これが理由で戦術リンクが使えない事態となれば目もあてられない。

 

「正直ハイメには居て欲しかったよ……僕も何がなんだか分からなくて……」

 

「今のハイメさんにあまり負担は掛けたくありませんがこればかりは流石に……」

 

 エリオットとエマも今までハイメが見たことが無い程に落胆している。その表情が事の壮絶さを物語っていた。沈んでいたマキアスとユーシスも口を開く。

 

「すまないハイメ……僕達がもっと冷静でいられたら……」

 

「悔しいがレーグニッツに同感だ……」

 

「二人とも……」

 

 正直に言えばハイメもまだ頭が混乱していて事態が飲み込めていないがそれでも二人なりに頑張ったのだろう事が言葉の節から伺える。ハイメはいくら自分に余裕がないといってもこの事態を放っておく訳にはいかないと即座に結論付ける。

 

「分かった、今回の事は自分にも下駄を預けて欲しい、根拠も自信もないがそれでも今の状態は絶対に良くない、まずは……ラウラの所へ行こうと思う」

 

 ハイメは四人の中で比較的自分で折り合いがつけられそうなラウラと話す事を選択する。彼女の事だからきっと少し切欠さえあればこの問題も乗り越えられるだろう。

 

「すみませんハイメさん、私はフィーちゃんの所へ行ってみようと思います」

 

「俺はリィンの所へ行ってみよう、エリオット一緒に来てくれるか?」

 

「うん、ボクも出来ることがあるなら頑張るよ!」

 

「なら僕達はアリサ君の所だな」

 

「あぁ……コバルト、これ以上借りは作らんぞ」

 

 各々行動方針が決まったので動き出す。ハイメはラウラに会うべく学生寮三階のラウラの部屋の前へとやってくる。コンコンと軽くノックしするとしばらくして扉がガチャリと音を鳴らしながら開き部屋の中からラウラが顔を覗かせる。

 

「や、やぁラウラ……少しいいか?」

 

 我ながらなんとぎこちないのだろう……と思うが今は落ち込んでいる暇はない。ラウラもハイメが自分の元へとやって来た理由を察したようでハイメを部屋へと招き入れる。

 

「……分かった、入ってくれ私も少し誰かと話したい気分だった、適当に腰掛けて欲しい、お茶を出そう少し待っていてくれ」

 

 ラウラの部屋は青を貴重とした落ち着いた部屋であり、どちらかといえば女子らしい部屋というよりは機能美に赴きを置いた部屋だったが何より目を引いたのは大量の手紙が保管された箱だった。ハイメはあまり人の部屋をジロジロと見るのは良くないと思い椅子に腰掛け閉眼する。

 

「待たせた……ハイメ、そんなに気を遣わなくてもそなたが私の部屋を邪な目で見るとは思っていない」

 

「いや、その、そうだな」

 

 ハイメが瞳を開けるとティーセットを両手に持ったラウラが可笑しそうにハイメを見ていた。ハイメが顔を赤くしているとラウラは慣れた手つきでティーカップにお茶を注ぐと不思議な香りが鼻をくすぐる。

 

「実家から先日送られてきた茶葉なのだが、私の故郷レグラムはスパイスが特産品でな、それを使用した茶葉だから慣れない味かもしれないが是非飲んでみて欲しい」

 

 ラウラに促されハイメはティーカップに口をつける。最初は香りが強く独特という印象だったが香りが鼻をスーッと突き抜けスッキリとした味わいで気が付けばハイメのティーカップの中身は空になっていた。

 

「美味しい」

 

「うん、気に入って貰えてなによりだ……それでただ茶を飲みにきたという訳ではないのだろう?」

 

 話をしに来た筈の自分の方が本題を振られるとは少し情けないなと思いながらハイメは慎重に言葉を選び口を開く。

 

「そう……だな、ガイウスから聞いたよ、その……食堂であった事を」

 

「情けない話だ、特別実習の前だというのに私はまだフィーの事が割りきれていない、私自身自分がこんなに小さい人間だと思っていなかったよ……全く自分が嫌になる」

 

 そう言葉を紡ぐラウラの顔は悔しさ半分、情けなさ半分といった表情をしている。ハイメはラウラの言葉に顔には出さないがかなり衝撃を受けていた、ハイメからすればラウラは完璧超人……は言い過ぎかもしれないがそれに近い印象を持ち合わせている。周りからの信頼も厚く、文武両道、そして何より他者を思いやる気持ちも強く何より誠実で真っ直ぐだ。そんな彼女だからこそそういった人間とは真反対の位置に属する猟兵であった過去を持つフィーの事をどうしても許容出来ないのかもしれない。もしかしたらハイメはラウラという少女を自分のフィルターを通して見ていたに過ぎなかったのかもしれない。もっと言ってしまえば、ラウラにはそうあって欲しい……とそれがラウラだからそうさせるのかそれともアルゼイドという家名がそうさせるのかはハイメ自身分かっていないが今ハイメの目の前に居るのは自分の心と折り合いがつかず人間関係に苦しんでいるラウラという少女だった。

 ラウラだから大丈夫、ラウラなら自分で乗り越えられるのでは? 自分はその切欠を作りに来ただけ? ここに来る前にそんな風に考えていた自分を殴ってやりたい衝動にハイメは駆られる。

 

「すまないラウラ……正直に言って自分は君の事を、なんというか自分の都合の良いいようにしか見ていなかったのかもしれない、今回もラウラならきっと大丈夫だろうとなんの根拠もないまま来てしまった」

 

「……多分私も心のどこかでそうあろうとしていたのかもしれないな……それが自身の問題に直面すればこのような醜態を晒してしまうとは……情けないよ」

 

「情けない……か、それでもいいんじゃないか?」

 

 ハイメの言葉にラウラはいつの間にか下を向いていた顔を上げる。ハイメはそんなラウラを真っ直ぐに見つめ真剣に言葉を続ける。

 

「その、少なくとも学生であるうちはそれでもいいんじゃないだろうか? 自分なんてそれこそ多くの失敗をしているし……情けなさでいったらそれこそ自分の右にでる者はいないよ、きっとこれからもハイメ=コバルトは情けない姿を晒し続けるし失敗もする、それでも自分はⅦ組の一員でいたいと強く思ってるよ、だから……というのも変な話だがラウラも気負い過ぎる必要はないと思う」

 

「フフッ、まさかそなたに言われるとはな」

 

「うあっ……それは、その、口が裂けても自分に頼ってくれとは言えないし……むしろ普段から迷惑を掛けるのは自分の方だし……ううむ、何と言うかだな……あぁもう! 我ながら情けない……」

 

 ハイメは自分でも何が言いたいのか分からず、また伝えたい事があった筈なのにそれを言葉にするのも難しくテンパってしまうがそんなハイメの様子をラウラは可笑しそうに見ていた。

 

「そうだな、私も少し肩の力を抜く事を覚えよう……それとこれからは私も情けない姿を晒してしまうかもしれないが、そなたはそんな私でも受け入れてくれるか?」

 

 言葉だけ聞けば何か勘違いをしてしまいそうなセリフにハイメはドキッとさせられる。彼女の容姿や仕草、普段とのギャップもそうさせる一因なのだろう、ハイメは視線を泳がせながらやがて頼りなくゆっくりと頷く。

 

「それでは私からも一言、もっとそなたは私を頼れ、男の友情というものもあるかもしれないが私の事は全然頼ってくれないではないか」

 

「いやっ……それは……その……ハイ」

 

「フフッ肯定したな?」

 

 ハイメはラウラに今すぐにでもロストマスタークオーツの事、もう一人の自分の事を話したい衝動に駆られるが……先日見た夢の事を思いだし止める事にした。自分はラウラの話を聞きに来たのに彼女の負担を増やしてしまっては本末転倒だろう。ラウラの事は信用している、それでも話せないのは自分が弱く、矮小な人間だからだろう。

 

「そ、それじゃあ……自分はそろそろお暇させてもらうよ、お休みラウラ」

 

「あぁありがとうハイメ、フィーとは必ず折り合いをつけるよ、すぐには難しいかもしれないが必ず……な」

 

 ラウラの顔を見てとりあえず大丈夫だろうと結論付けたハイメはラウラの部屋を後にして一度食堂へと戻る。すると食堂にはエマが暗い面持ちで佇んでいたのだがハイメの姿を目にすると目を潤ませて謝ってくる。

 

「す、すみませんハイメさん! 私フィーちゃんを見つけられなくて、それで……」

 

「そ。そうだったのか、まぁフィーの行動は予測出来ないからな……」

 

 時計を見ると時刻は8時を回っている、流石に寮の外には出ていないとは思うがフィーに限って言えばそうとも言いきれないのが何とも難しいところだ。ハイメはもしかしたら食堂に来るかもしれないからと言ってエマを残しもう一度寮内を見て回る事にする。二階へ続く階段を上り終えふと自分の部屋の方を見ると部屋のドアが開いている。まさかと思い部屋の中に入るとそこにはフィーが自分の部屋のようにくつろいでいた。彼女はハイメが部屋に入ってきた事に気付くと顔を上げ何事もないように声を掛けてくる。

 

「遅かったね」

 

 何でここにいるのか、そもそも異性の部屋に入るのは十代の女子としてどうなのか? と言いたい事は尽きなかったが……ハイメは諦めたように肩を落とす。そもそもフィーにとってそんな事は些細な事だろう。戸棚を開けて茶菓子と学生館で買ったトマトジュースを取り出す。

 

「やった、私それ好きなんだ」

 

 フィーはいつもと変わらぬ調子で出されたトマトジュースに口をつける。ハイメはそんなフィーを尻目にどうやって話を切り出そうかと考えているとトマトジュースを飲み終えたフィーが口元を拭きながら声を掛けてくる。

 

「気にならないの? 私が何でここにいるとか」

 

「いや、気にならないの訳ではないんだが」

 

「ラウラの部屋にハイメが入ってくのが見えたから」

 

 予想の斜め上をいく理由にハイメは困惑した表情を隠せない、というかそんな理由でエマが苦労していたかと思うと不憫でならなかったので一応釘を刺しておく。

 

「エマが探していたぞ? 後でキチンと謝っておけよ?」

 

「そっか、それは悪い事しちゃったね」

 

 本当にそう思っているのか? と疑問には思ったがフィーの眉が下がっているので恐らく本当に反省しているのだろう。しかし改めて考えてみるとフィーは何故自分がラウラの部屋に入っていたから自分の部屋へ来たのだろうか? と首を傾げる……が特に思い浮かぶ事も無かったのでその考えを頭の隅へと追いやる事にする。何にせよフィーが自らアプローチを掛けてきてくれたのだからハイメとしては幾分か話しやすい。

 

「それで、ラウラとは上手くいっていないみたいだな」

 

「うっ……別に私は何とも思ってないよ」

 

 ハイメがラウラとの事を切り出すとフィーは眉を潜める、珍しく動揺しているようでトマトジュースを注いでいた手が僅かに震えていた。何だか今日はラウラといいフィーといい普段とは違った二人を発見出来たなとハイメが思っているとフィーに変な顔と指摘を受けたため即座に表情を真剣な物に作り替える。

 

「まぁ上手くいくに越したことはないけど合わないなら仕方ないかなって」

 

「自分は意外とラウラとフィーは気が合う気がするがな」

 

「気がするだけでしょ、それに向こうから避けられてるなら私がどうこう出来る事じゃないかなって」

 

 フィーは口ではそう言いながら茶菓子を口へと放り込むが表情を見る限りでは決して本心ではないのだろうと察せられる。確かにフィーの言うとおりどちらかと言えばラウラ側の側面が大きいが、ハイメもフィーと同じような体験、有り体言えば試験前に似たような体験をしており、尚且つその際は自分は受け身に回ったためフィーに対してなんと言えば良いか思いつかないというのが正直なところだ。

 

「うーむ、自分もあまり偉そうには言えないし、でもフィーがもしこのままでは良くないと思ったら自分から動いてみるのも一つの手だとは思うぞ」

 

「ハイメがそれ言っちゃうんだ」

 

「……自覚はしている」

 

「ま、いいんだけどね、私は私の思ったように行動してみるよ……ありがと」

 

 最後に小さくお礼を言ってフィーはハイメの部屋を出ていく。こらなら自分が改めて話す必要性は少なかったのではないかと思うがフィーと話すのも久々だったため貴重な経験だったとハイメは思うことにした。そういえばリィンとアリサはどうなったのだろうかと思い再び食堂へと降りるとそこには先程のエマと似たような佇まいをしている男性四人の姿があった。エマが必死にフォローしているようだがその効果もどうやら薄いようだ。

 

「い、委員長とりあえずフィーとは話せたよ」

 

「ハイメさん、お疲れ様です……ええっとどうしましょうこれ?」

 

 ハイメは四人の姿を見て途方に暮れる。実はアリサとリィンにはハイメもあまり会いたくないというのが本音だったりする。アリサは前回の実習で不甲斐ない姿を晒して見せているし何より意識し過ぎてまともに話せる自信がない、リィンは先日の旧校舎での事を聞かれそうでどうしても話が切り出しにくかった……のだが……

 

「四人とも、顔を上げてくれ」

 

 ハイメに促されようやく四人は顔を上げる。ガイウスまで暗い表情をしているのだからラウラやフィー以上にリィンとアリサは難敵だったのだろう。そう考えると自分が行ってもしょうがないのでは? とチラリと考えるがどうやらそれは許してくれそうになさそうだ。

 

「ご、ゴメンハイメ……僕……」

 

「言うなエリオット、俺達では力不足だったのだ」

 

「すまないハイメ、これでは副委員長失格だ」

 

「何故女子とはああも難しい生き物なのだ」

 

「わ、分かった……でも今日はもう遅いから明日以降自分がリィンとアリサとも話してみよう、今日はこれで解散だ」

 

 問題を先送りにしている感は否めないがハイメとしても二人と話すのはそれなりに心の準備が必要だ。トボドボと歩く五人を見送りハイメはそういえばまだ夕食を食べていなかった事を思いだし腹の虫が鳴く。

 

「……はぁ、茶菓子ではやはり足りんか……もう遅いから明日の朝多めに食べよう」

 

 ガックリと項垂れながら自室へ戻りベッドへ潜り込むハイメだったがどうにも上手く寝れそうにない。寝返りを何度もうち、目を瞑って心を無にしようとするがその努力は虚しく腹は減るし妙に頭は冴えるしでどうにも眠れそうになかった。ハイメは大きくため息を吐きベッドから起き上がる。

 

「仕方がない……夜風にでも当たって気を紛らわそう」

 

 夜風に当たりながら明日はどうやってリィンとアリサに話そうか考えようとハイメは階段を上がっていく。この後ハイメは素直に寝なかった事を後悔する事になる、それは屋上の扉を開けてまず目に飛び込んできた光景があまりにも衝撃的過ぎたからだ。まさか自分以外にも人がいるとは思わなかったハイメは扉を開けて固まる事になる。

 

「あっ」

 

「「あっ」」

 

 こればかりはタイミングが悪い、それに尽きるだろう。まさか屋上でリィンとアリサが抱き合っているとは夢にも思わなかった。三人は微動だにせずまずハイメが思ったことは空気が固まるとはこういう事なんだなと少し見当違いな事を考えていた。とはいえいつまでもこのままという訳にはいかないので一言。

 

「お邪魔しました」

 

 そう言って屋上の扉を閉めて逃げるように自室へと戻っていく。後ろからはリィンとアリサの声が聞こえてきたが気付かないフリをして自室へと戻り鍵を閉めベッドへと潜り込む。二人が部屋まで来ることを危惧していたが幸か不幸かその心配は杞憂で終わる。布団の中でホッと一息吐いたハイメは自分が失恋したという事実にあまりショックを受けていない事実に少し驚く。

 

「まぁ最初から叶うとは思っていなかったしな……ノルド高原でチェックメイトみたいなものだった」

 

 今気付くか、後で気付くかの違いだっただろう、ハイメの見立てではあの二人がそういう関係になるのも時間の問題だとは思っていた。

 

「それにリィンとそういう関係にならなくてもだから自分が彼女の隣に居れたかと言われればありえないしな」

 

(おーおー可愛そうに、オレが慰めてやろうか?)

 

 今まで出てこなかった癖にこういう時はもう一人の自分が出てくるが憎らしく思うがハイメは一人悲しく呟く。

 

「この想いは自分の胸の中にしまっておこう、片想いもバレなければ相手に迷惑は掛からない筈だ……」

 

(強がんなよ、涙出てるぜ)

 

「うるさい、今日……だけ、だ」 

 

 そう言うとハイメは暑さも気にせず掛け布団を頭からかぶり枕に顔を埋める。いくら仕方がない、最初から叶わないと分かっていても出てくる涙を止める術をハイメは持ち合わせていない。枕を濡らし、涙も枯れる頃にはハイメは静かに寝息をたてているのだった。

 

 

 

 

 

 

 




 心に余裕のないリィンさん回からのハイメカウンセラー回からのハイメ失恋回でした。恐らくこの時期のリィンは鬼の力をを発揮しエリゼとも一悶着あり心に余裕のない時期だったと作者は推察しています。そして今作品ではハイメとも気まずい関係になりつつあり……という事で。リィンが余裕がない時にクラスメイトのいざこざがあったらどうなるんだろうと想像しながら書いた話になります。人間関係問題でいつもはフォローに回るリィンさんがアリサにフォローされる、そこをハイメが見て失恋という形ですね。賛否両論はありそうですが元々ハイメには劇的な失恋、玉砕をさせるつもりはなく「あーまぁ失恋っていってもこんな感じだよね」とありふれた失恋をさせるつもりでした。

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