愚直な軌跡   作:ネオニューンゴ

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 ハイメの進退が決まる回です。ヘイムダル編は構想はあるけどそれを文章化するのが難しいって感じで次の更新はちょっと空きそうです。


第二十三話 覚悟の実技テスト

 七曜歴1207年 7月20日

 

 翌日ハイメは日の出と共に目を覚ます。鏡に写る自分の姿はボサボサの寝癖に腫れぼったい目ととても人前に出れる姿ではなかった。流石に日の出とはいえ夏季のため時間はかなり早く幸いⅦ組メンバーはまだ誰も起きていないようなので急いで顔を洗い寝癖を直してからかなり早めの朝食を摂る事にする。流石にシャロンさんも起きていないだろうと予想していたが既に食事の準備に取り掛かっており流石にハイメはその場で呆けてしまった。

 

「おはようございますハイメ様、今日は随分とお早いのですね、朝食は申し訳ありませんがもう少々お待ち下さい」

 

「え、えぇ……お構い無く」

 

 シャロンはそう言い残すとキッチンの方へと下がっていく。いつもこんなに早くから自分達の朝食を用意してくれているのかと改めてハイメはキッチンにいるシャロンに感謝しつつテーブルに置かれている朝刊を手に取る。様々な記事が記されているがハイメの頭の中にあるのは昨日のアリサとリィンの屋上での事、そしてその二人に今日話さなければいけないという事実が重くのし掛かり頭が痛くなってくる。

 

(よりによって何でこのタイミングで二人の逢い引きの場面に遭遇してしまうのか……はぁ、つくづくツイてない)

 

「ご気分が優れないようですねハイメ様、よろしければこちらをお飲みになってください、少しは落ち着かれるかと……」

 

 いつの間にかハイメの後ろに立っていたシャロンはそう言うとハーブティーの入ったティーカップをテーブルの上に置く。こういった気遣いも出来るのだから流石本職のメイドさんだけあるなぁとハイメは感心しながらシャロンにお礼を言う。 

 シャロンは微笑みながらペコリと一礼して失礼しますと言って再度キッチンへと戻っていく。

 

(もしかしてシャロンさんには全部バレて……いる訳ないか、被害妄想ここに極まれりだな)

 

 ハーブティーを一口煽り独特な風味と香りが気分を落ち着かせてくれる。程なくしてシャロンがお粥を運んできてくれる。

 

「僭越ながらハイメ様は少し気分が優れない様子ですので消化が良いものがよろしいかと……」

 

「そ、そこまでして頂けるなんて……ありがとうございます」

 

 出されたお粥は香草と野菜で味付けされた物であり食欲のないハイメの喉をスルスルと通っていく。その後食器を片付けかなり早い時間ではあるが学生寮を出る。まだ用務員位しかいない人気の無い学院は少し新鮮だった。流石にこの時間から校舎は開いておらず学生館も開いてはいるがじきに生徒達が集まるだろう。今のハイメにとっては居心地の良い場所とはいえないためどうにか人気の無い場所を探していると旧校舎の前へとやってくる。先日あんな事があったばかりで少し気は引けるが結局一人になるならここ以上の場所は無いと結論付け入り口付近の木に背中を預けて座り込む。朝の日差しを浴びながら本でも読んで時間を潰す事にする。そうしているといつの間にか学院は喧騒に包まれ気温も上がりハイメのいる木陰もじわじわと太陽の光が当たり始めたためワイシャツのボタンを緩める。

 ハイメは予鈴ギリギリまで粘りその後足取り重くⅦ組の教室へと向かう。約二名からの視線が痛いほど突き刺さるが間もなくしてサラが教師へと入ってきてSHRの後授業が始まる。ハイメは黒板に書かれた内容を板書しながらこのまま先送りにし続ける訳にはいかない。昼休みに二人と話そうと流石に腹を決める。そうと決まれば流れる時間は早くあっという間に昼休みとなる。ハイメは即座に席を立ち上がりリィンとアリサに声を掛ける。

 

「二人ともちょっといいか?」

 

 リィンとアリサは肩をびくりと震わせハイメの方を苦笑いしながら振り向く。昨日の食堂に集まった面々も遂に動いたか……と期待半分、心配半分といった視線をハイメに集めており事情の飲み込めないラウラとフィーは顔を見合わせて気まずい空気になっていた。

 

「どうだ? 話しながら昼食を食べないか?」

 

「うっ……そうね、そうよね」

 

「このままという訳にはいかないもんな、いいよ行こう」

 

 三人は学生館で昼食を購入し中庭の隅へとやってくる。この場所ならば逆に周りの生徒の談笑の声ににかき消され余程近くにいなければ話の内容は漏れないだろう。ハイメはハァーと深く息を吐き覚悟を決めて口を開く。

 

「自分から言うのもとても変な話だとは思うんだが……とりあえず二人とも一旦自分思うところはあるだろうが置いておいて昨日の事だけに話を限定しよう」

 

「食堂であった事か……」

 

「屋上の事ね」

 

「いや、どっちもだが一番は昨日の食堂の事だ」

 

 リィンは改めて真剣な顔つきになる、自分でもやってしまったと反省している部分が少なからずあるのだろう。

 

「すまない、あのときは色々思い詰めてて……それでついカッとなってしまって」

 

 十中八九旧校舎での出来事について考えていたのだろうがハイメは一応確認をとることにする。

 

「やっぱり旧校舎での事か?」

 

「あぁ……」

 

 という事は少なからずハイメにも責任が有る訳となってくる。するとハイメも途端にリィンの事を攻めづらくなる、自意識過剰でなければ明らかにハイメもリィンの考え事に一役買ってしまっているからだ。

 

「旧校舎の事って何よ? 私だけ置いてきぼり?」

 

「い、いや……ちょっとそれは……まぁ色々あったんだ、なぁリィン?」

 

「あぁ、すまないアリサ今回ばかりは少し話すのに勇気がいるんだ」

 

「絶対に聞かせてもらうわよ」

 

 アリサにジト目で睨まれ二人とも萎縮してしまう、リィンもハイメもアリサには頭が上がらないようだ。

 

「と、とにかくだ、リィンもアリサもそして自分もだが今は来る特別実習に向けて集中しよう! それと! ああいう事をする時はもっと場所を選んでくれ! それと良い雰囲気なのに邪魔して悪かった、すまない!」

 

「ちょっ! あれは……」

 

「いや、ハイメの言うとおりだ……すまない、昨日屋上ではその話をしてたんだ、後で皆にも謝っておくよ」

 

 実は密かに、1%くらいの確率で自分の見間違いでないかと淡い期待をしたいたが否定しなかったという事は……つまりそういう事だろう。今この瞬間ハイメの失恋は確定的になったが自分から特別実習に集中しようと言った手前悲しみに暮れる暇など無い。ハイメは自分でもかなり強引だと思うが話を纏めその場を後にしようとする。

 

「ちょ、ちょっと!? お昼ご飯一緒に食べるんじゃないの?」

 

「いや、流石に自分もそのくらいのデリカシーはある」

 

「待ってくれハイメ! 別にアリサと俺はそんな関係じゃ……!」

 

「そっ、そうよ! リィンの言うとおりだわ!」

 

 リィンは焦りながら、アリサは気丈な表情を作ろうとしているみたいだが言葉にするのも苦しいのだろうか、眉が下がっているのが見てとれる。ハイメとしては本音を言えばこれ以上二人と一緒にいると自分がどうにかなりそうなので出来れば早々にこの場を立ち去りたい。なおも二人に引き留められたが休み時間が残っているうちにとりあえず話がついた事を報告もしたかったハイメは少々無理を通してⅦ組の教室へと戻っていく。

 教室に戻るとハイメとリィンを除いた男性陣が待ち構えておりハイメの報告を聞くとホッと胸を撫で下ろしていた。

 

「ありがとうハイメ、ごめんね、ハイメも大変なのに」

 

「そうだハイメ! 明日の実技テストは大丈夫なのか!?」

 

「今の様子を見ている限りでは心配はなさそうだが」

 

「しかし俺が言うのも変な話だがよく立ち直れたな」

 

「うっ……まぁ色々とあってな、ハハ……」

 

 確かにエリオットの指摘通り色んな意味で今一番問題を抱えているのはハイメなのだがハイメ自身はもう既に覚悟を決めたのだ、だから自分が自分でいるうちは精一杯トールズ士官学院特科クラスⅦ組のハイメ=コバルトでいようと。

 

(そうだ……もしかしたら皆とこうして話すのももしかしたらこれで最後になるかもしれない……なら悔いは残さない)

 

「ハイメ……どう……」

 

 ガイウスは何かを言いかけたがそこで予鈴がなりハイメは自分の席へと戻っていく。ガイウスは何故だかハイメがどこか遠くへ行ってしまうようなそんな感覚を覚えるも、そんな事ある筈がないと自分に言い聞かせ次の授業の準備を始めるのだった。

 

 放課後 キナジウム内修練場

 

「でぇぇぇい!」

 

 ハイメはサラと明日に向けての総仕上げキナジウムの修練場で行っていた。サラはハイメが以前の……いや、それ以上の闘志を燃やしている事に最初はかなり驚いていたがそれでもこれならば明日の実技テストは合格出来ると確かな手応えを感じていた。

 ハイメの闘志はそのまま攻撃の重さとなって的確にサラの防御を抜こうとしてくるがサラもまだまだハイメには負けていられない。重い攻撃ながらもいなしていきハイメな意識が薄い所を突きながら攻撃を加えていく。

 

(たった数日で彼の中で何が変わったかは分からないけど、何かあったんでしょうね、男の顔をしてるわよハイメ!)

 

 サラも思わず何度か力を入れて反撃する事もありハイメは膝を着き呼吸を整える。

 

「ぜぇっぜっ……ハァ、どう、ですか……教官」

 

「合格点よハイメ、最後に一つ、絶対に明日は合格しなさい! 私のクラスからリタイアなんて許さないわよ!」

 

「りょ、了解です! 今日までご指導ありがとうございました!」

 

 ハイメは改めて自分のために貴重な時間を割いて訓練に付き合ってくれたサラにお礼を言う。サラとしては自分の教え子の訓練を見るのは当たり前なのだがこうも礼儀正しいと思わずクスリと小さく笑ってしまう。

 

「お礼は明日の合格と次の実習の結果よ! それじゃあまた明日ね!」

 

「はい! 失礼します!」

 

 そう言い残しハイメは修練場を後にする。その後ろ姿を見てサラは目を細める。

 

(アンタはやれば出来るんだから、もっと自分に期待しなさい、足りない所もあるけど足りすぎてる所もあるんだから)

 

 実技テスト当日

 

 学院長であるヴァンダイクが見守る中実技テストは着々と進んでいく。今回の実技テストは2vs2そして3vs3のⅦ組メンバー同士の戦闘形式となった。内訳としてはまず最初の2vs2はリィン&アリサペアとラウラ&フィーペアの戦いとなるがこの戦いは対照的だった。ARCUSの戦術リンクの機能をフル活用しチームとして戦うリィン&アリサに対してラウラ&フィーは個の力で押していく戦法をとったのだが結果としてはリィン&アリサの圧勝という形に終わる。Ⅶ組最強格の二人をもってしても個の力では群には勝てないという事が嫌でも分からされる試合だった、ハイメも見てて少し歯痒い物を感じたがラウラとフィーも最後の方は懸命、ぎこちないながらもにお互いにフォローしあう場面も見れたのでこれからといったところだろう。そして迎える3vs3、サラのチーム分けの発表をハイメは今か今かと待っている。今日はやれる、やらなければないらないのだ……嫌でもハイメは体に力が入る。

 

「次、エリオット、ユーシス、ガイウス! ハイメ、マキアス、エマの組み合わせで行くわよ!」

 

「いよいよか……負けられないな」

 

「精一杯こちらもフォローする、ボク達の連携を見せてやろう!」

 

「お二人共気合い十分ですね、私も全力でいきます」

 

 こちらがやや後衛よりの編成に対して相手は前衛、中衛、後衛とはっきり分かれておりバランスの良いチームだ。こちらは後衛の二人をいかに活かせるか、つまり前衛を務めるハイメの力量によって左右される。状況によってはガイウスとユーシスの二人を相手しなければいけない。両チームは各々得物を構え戦闘態勢に移行する。

 

「見せて貰うぞハイメ=コバルトや、お主の資質を……それでは両者……はじめい!」

 

 ヴァンダイクの開始の合図がグラウンドに響き渡り両者は動く。ハイメが前進するとそれに合わせるようにガイウスが立ちはだかる。

 

「手加減はしない、全力で臨ませて貰うぞハイメ」

 

「勿論だ、出し惜しみはしない! 剛龍生来!」

 

 計らずして先月のリベンジマッチとなるこの戦い、先手を取ったのはハイメだった。最初から剛龍生来を使用しガイウスの鋭い突きをいなしながら張り付き自分の間合いで勝負を仕掛ける。槍を使うガイウスはこれを嫌い距離を取ろうとするがスピードの上がったハイメを振り切る事は容易ではない。

 

「二人でやるぞ!」

 

「させるか! エマくん!」

 

「はい!」

 

 

 ユーシスがガイウスの加勢に入ろうとするがガイウスが退く選択肢をとった時点でマキアスとエマは既に援護の準備が整っている。エリオットも負けじとアーツを放つがエマがそれを相殺しマキアスはアーツを駆使してハイメの防御を上げる事に成功する。

 

「うおおおお!」

 

 攻撃、防御、そして速度を上げたハイメは止まらない。自分を鼓舞するように雄叫びを上げながらユーシスとガイウスの二人をジリジリと圧していく。ユーシスは苦虫を噛み潰した顔をしながら無理矢理ハイメの前へと躍り出るがハイメにとっては好機、騎士剣を掻い潜りユーシスの鳩尾へと鋭い蹴りを入れる。

 

「攻めすぎだよハイメ!」

 

 しかし相手の陣地に切り込むという事はエリオットの攻撃範囲にもはいるという事、エリオットの導力杖より放たれる一撃はハイメを捉えはしないもののガイウスの攻撃態勢が整い、自身の最大の一撃を放つ。

 

「下がれユーシス! おおお!」

 

 ガイウスのSクラフト、カラミティホークがハイメに炸裂する。いくらマキアスのアーツで防御を上げていたとしてもこれをまともに受ければ戦闘不能、もしくはそれに近い状態に陥ってしまう、ハイメは苦し紛れに両腕を交差させ防御の構えを取る……がガイウスのSクラフトの威力は想像以上で容赦なくハイメの防御を抜いてくる。

 

「うっ……まだ! まだだ!」

 

「逃さん!」

 

 ハイメはかろうじて戦闘不能は回避したがそれでも気力を振り絞ってどうにか構えをとっている状態、当然その好機をユーシスが見逃す筈もなくエリオットとリンクを繋ぎハイメに止めを誘うと突進してくる……がエマもマキアスも戦線を上げておりそれを許すまいと奮戦する。

 

「ハイメ! 今助けるぞ、エナジーシェル!」

 

「アーツでは間に合わない、でもクラフトなら! イセリアルエッジ!」

 

 マキアスは回復の弾丸を、そしてエマはクラフトで三人の進路を妨害する。その間にハイメも自身で回復を済ませ戦況は膠着状態となる。ガイウスチーム側はガイウス、ユーシスが肩で息をし始めておりハイメチーム側はいくら回復したとはいえハイメの消耗が大きい。ここまで戦いを見守ってきた見学組は戦況を分析し始める。

 

「この勝負、今のところ五分か……?」

 

「でもガイウスとユーシスが消耗してるならハイメ側の有利じゃない?」

 

「ふむ、だがハイメの消耗もかなりのものだ」

 

「今の時点じゃ断定出来そうにないね」

 

 四人はいずれにせよハイメ側は不利ではないと結論付けるがそこに待ったをかける人物が現れる、ヴァンダイクとサラだ。

 

「それはどうかのう? 消耗の激しいハイメ=コバルトが生命線のハイメ側に対してガイウス側はハイメを落とし、尚且つ二人以上残ればほぼ勝利は確定的じゃろう、どちらが有利かはおのずと見えてくる筈じゃが」

 

「それにユーシスはダメージがあるとはいえまだ余力を残しているわ、この状況をひっくり返すとっておきがまだ残っている……動くみたいよ」

 

 サラの言葉通り戦況は動き始め、ハイメがマキアスとリンクを敢行しガイウスを落としに掛かる。ガイウスはエリオットとリンクを行いこれを迎え撃つ。エリオットが範囲性のあるアーツを駆動しハイメとマキアスの二人を一網打尽にしようとするがマキアスが銃弾を撃ち込みエリオットのアーツの駆動を解除し大きな隙を作る事に成功する。

 

「よし! エリオットが崩れた、ハイメ!」

 

「承知した!」

 

 マキアスの指示に従いハイメは無防備なエリオットに向かい蹴りを放つ。既に剛龍生来は解けていたが打たれ強い方ではないエリオットはハイメの攻撃をまともに喰らえば只ではすまない。そしてユーシスはエマと、ガイウスの動きは遅れておりハイメは今ならばエリオットを戦闘不能に追い込めると確信する。

 

「これで! 列空穿!」

 

「うあっ……ゴメン、後は任せたよ二人とも!」

 

「よくやったエリオット! 頼むぞユーシス!」

 

「ああ……ゴバルト、レーグニッツ! これで終わりだ! ハァァァァ! クリスタルセイバー!」 

 

「クッ! 間に合えええええ!」

 

 マキアスはハイメに向かって散弾銃を撃ち無理矢理ハイメを動かす。マキアスの機転が功を奏しハイメはなんとかユーシスのSクラフトの攻撃範囲から逃れるがマキアスはユーシスのSクラフトの餌食となりその場に悔しそうに膝を着く。

 

「くっ……無念だ、エマ君後は頼むぞ!」

 

「はい! マキアスさんの行動を無駄にはしません!」

 

 勝負を掛けるためユーシスへ向かいエマは距離を詰め導力杖で攻撃をおこなっていく。ユーシスはエマが距離を詰めてくるという選択をした事に驚愕の表情を見せる。奇策を持って相手を出し抜いたエマだがそれで決着が着く程ユーシスは甘い相手ではない。

 

「舐めるな!」

 

「負けません!」

 

 間合いは完全にユーシスだが体力的にはエマが勝っている。ダメージレースはユーシスが優勢だがエマは一歩も譲らず懸命にユーシスにダメージを与え続ける。ハイメとガイウスは二人の援護に各々向かうが決着はすぐに訪れる。

 

「クッ! ここまでか……!」

 

「後は……お願いします!」

 

 相討ち……というよりはエマの粘り勝ちだろうか、二人は同時に膝を着き戦闘不能となってしまうがエマは単独でユーシスを撃破するという価千金の活躍を見せる。こうして勝負の行く末はハイメvsガイウスに委ねられる事になる、ハイメにとってこれは奇しくも先月行われたトーナメントのリベンジマッチとなる。それはどうやらガイウスも同じ事を考えたようで勝ち気に笑いながら槍の穂先をハイメへと向けてくる。

 

「フッ、先月の焼き直しとでも言うべきか、女神も粋な計らいをする」

 

「ここを乗り越え自分は証明しなければならない、行くぞガイウス!」

 

 構えを取るハイメの体がブルッと震える。これが武者震いなのか今のハイメにとってはどうでも良いことだ。すると水を差すようにもう一人の自分が語りかけてくる。

 

(おいおい、そろそろ交代してやろうか? その体じゃ剛龍生来も使えねぇだろ、それじゃあガイウスに勝ち目はないよなぁ?)

 

(この時間、この瞬間は自分のものだ! 貴様には譲らん)

 

(ああそうかい、後悔するなよ)

 

 確かにもう一人の自分が言うようにハイメはダメージを負いすぎて剛龍生来を使えない、だがそれでもガイウスに勝たなければいけない。自分が自分でいる間は止まらないそう決めたのだから……。二人はまるで示し会わせたかのように同時に動き出す。速度はハイメ、だが攻撃の鋭さはガイウスに軍配が上がる。ハイメの全てを出しきって勝てるかどうかの相手、もしかしたら今の時点で既に自分の進退は決まっているのかもしれない。そう思うと体がすくみそうになるがそれでもハイメは蹴りを繰り出す。

 

(今までこんな自分に師事してくれた人達から教わった事を全て出しきる!)

 

 視線、足運び、体の向き、タイミング、自分が思い付く限りの全てを使ってフェイントを掛けタイミングをずらなしながらハイメはガイウスへと蹴りこんでいく。ガイウスはそれを嫌うようにハイメとの距離を一度離すべく槍を大きく振るうがそれを姿勢を低くして避ける。そこから追撃を仕掛けようとするが一筋縄でいかないのがガイウス=ウォーゼルという男だった。

 

「信じていたぞハイメ、だがらこれで終わりだ!」

 

 ガイウスはハイメが自分の攻撃を避けると確信しきっていたようで槍を振るう途中で手を止め、そのまま片手に持ち替えて突きを繰り出す。

 

「自分も信じていたよガイウス! だから!」

 

 ハイメはニヤリと笑い膝を蹴りで槍の軌道を逸らす事に成功する。ハイメ自身振るわれた槍を避けた時点で勝負は決まると思っていなかった。だが……今度こそガイウスに致命的な隙が生まれる。ハイメは膝蹴りした足でそのまま地面を固く踏みしめ列空穿を放つ。ハイメの鋭い蹴りはガイウスのがら空きの胴に深く突き刺さる……が次の瞬間ハイメの……いやガイウスを除く全てのメンバーは驚愕に顔を染める事となる。

 

「これでも倒れないのか!?」

 

 ハイメは思わずそう叫ばずにはいられなかった。ハイメの中で会心といえる攻撃だった、しかしそれでもなお地に両足を着くガイウスの姿には驚きを飛び越え最早称賛する他ない。

 

「くっ……届かなかったか……」

 

 元々消耗の激しかったハイメは追撃をする事すら叶わない。終わった……その一言に全てが集約される。今のハイメではガイウスの槍の一突きで戦闘不能となるだろう。しかし……

 

「ふっ……届……いた……ぞ……お前の……勝ちだ……ハイメ」

 

「そこまで! 勝者ハイメチーム!」

 

 ガイウスはそう言いながらバタンと地に倒れ伏す。一瞬何が起きたか理解できず目を白黒させるハイメだったが勝ったと思ったのは周りが歓声に包まれてからだった。

 

「やった! やったぞハイメ!」

 

「信じてましたよ! ハイメさん!」

 

 マキアスとエマが自分の負ったダメージを気にしないかのようにハイメの元へと駆け寄ってくる。マキアスに勢いよく肩を組まれ思わずそのまま転びそうになるのをすんでの所で踏みとどまる。

 

「えっと……勝てた……本当に……自分は……ハハ、勝てたんだよな自分は!」

 

 口に出しても実感は湧いてこないが戦った三人からも称賛の声を受ける。

 

「フン、嫌味か貴様、現に勝者として立っているのは貴様だろう」

 

「負けて悔しいけど、それでもおめでとうハイメ」

 

「最後の一撃は見事だった」 

 

 どうやら自分は本当に勝ったようだ、ハイメ自身今の自分がどんな顔をしているのかすら分からない。笑っているのか、呆けているのか……そんな様子のハイメの前にヴァンダイクが現れる。

 

「ハイメ=コバルト、しかと見させて貰った、反省点は多い戦いじゃったがそれ以上に称賛点も多い戦いでもあった! これからもⅦ組で己を磨き続けると良い」

 

「と……いうことは」

 

「やったねハイメ」

 

「あぁ、あぁ! おめでうハイメ! またこれからも一緒に頑張れるな!」

 

「貴方の努力が身を結んだわねハイメ!」

 

 ハイメはⅦ組の仲間に揉みくちゃにされながらまだ自分はⅦ組の一員でいられるという事実を仲間と分かち合う。士官学院生としてあるまじき姿かもしれないがサラも今回ばかりは注意する気にはなれなかった。ひとしきり喜びを分かち合ったあとヴァンダイクは去っていきサラから次の実習地と班分けが発表される。

 

「これは……!」

 

 次の実習地とそのメンバーを見て驚愕する一同。どうやら次の実習も波乱の予感がする、そう感じさせる物のようだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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