愚直な軌跡   作:ネオニューンゴ

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割りと迷うヒロイン候補、ハイメには誰が合っているんだろうなーとか考えながら、なるべくⅦ組メンバー全員と交流をさせていきたい今日この頃、ちょっと長めですが3話目です。

※追記 改行等うまくいっていない部分があったため修正しました。


第三話 実技テストと戦術リンク~ハイメとⅦ組~

四月十八日 自由行動日

 

 入学式から二週間あまりの時間が過ぎた。

学校生活も少し慣れて部活に入り汗を流す者、友人という存在もできて学院生活を謳歌する者、勉学に真摯に打ち込む者もいる。

 この日は自由行動日、学生はそれぞれ思い思いの時間らを過ごす日。

 ハイメは学院の図書館の書庫で一人本の整理に勤しんでいた。

何故ハイメがいわゆる休日という日にこんな事をしているのか?

 それはハイメの進路が進学となったからである。

多くの人は七耀教会の学校で学んだ後そのまま何らかの職に就くのだが、その大多数の理由はやはり進学するにもお金がないからといった理由が多いだろう。

 もちろんハイメの家も一般家庭の平民中の平民、つまりお金がない状態で進学をしたのだ。ハイメの成績では奨学金など望める筈もなく、学院から斡旋された仕事をするかわりに学費を一部免除して貰っているというのが現実だ。仕事をする日は週5日、平日の学院が終わってからと自由行動日半日である。

幸いハイメは特に入りたい部活もないので何とか仕事に打ち込む事ができていた。少しホコリの舞う書庫で今日の分の整理を終わらせたハイメは一息つく。

 

「ん、やっと終わったか」

 

 軽く伸びをして、仕事が終わり他にやることはないか司書の人に確認すると今日はもういいとのことで予定より半刻ほど早く仕事が終わってしまった。何故終わってしまった、等と言ってしまうのか?それはハイメがⅦ組で孤立しがちであるからだ。初日のオリエンテーション以来ハイメは積極的にクラスメイトとは関わろとはせず、教室でも本を読んでいることが多かった。

 つまるところ自ら周りの人間に対して壁を作ってしまっているのである。

リィンやマキアスは心配してくれてか声を掛けてきたりご飯に誘ってくれたりするのだが初日以来クラスメイトに負い目を感じているハイメはやんわりと断る事が多い。それでなくても今Ⅶ組はリィンと金髪の女子アリサ、そしてマキアスと貴族の男子生徒ユーシスらの問題がある。リィンとアリサの仲は周りが何とか回復させようと頑張っているらしいが……

 

(自分が周りに壁を作っている状況ではないと分かってはいるんだがな)

 

 とは言えいかんせんまだ自分の中でも気持ちの整理ができておらず、仕事をこなす事で問題から思考を遠ざけている、このままズルズルといくと大変そうだ。まずは誰かと一回キチンと話してみるのもいいかもしれない。本来自分は他の人間に迷惑をかけてはいけない人種なのだから。

 

(となるとリィンかマキアスあたりか、リィンは確か生徒会の手伝いをしているのだったな、マキアスをお昼にでも誘ってみようか)

 

 気は重いがとりあえず行動せねば何も変わらない、ハイメは制服の内ポケットからARCUSを取りだしマキアスに通信をしてみる。

 3コール程でマキアスが出た。

 

「はい、マキアス・レーグニッツですが」

 

「自分だ、ハイメだ」

 

「ハイメ!?どうしたんだいいきなり?」

 

「いや良ければ昼ご飯を一緒に食べたいと思ってな、もう食べてしまっただろうか?」

 

「いや、まだだ、是非ご一緒させてもらおう、何処で食べる?」

 

「ん、ならば『キルシェ』でとろう、目の前のベンチが集合場所で」

 

 マキアスは了承し、一緒にお昼を食べる事となった。

財布の中身に余裕は無いが、お昼くらいなら何とかなるだろう、集合場所に着くとマキアスは既に到着しているようだった。

 

「すまない、誘ったのは自分なのに待たせてしまったな」

 

「ああ、僕は雑貨屋にいたからね、キミは学院からだろう?しょうがないさ」

 

 談笑しつつ宿泊・喫茶『キルシェ』へと入る。

昼近いからか店内は中々混んでおり、マスターは忙しそうにしていた。二人はクリスピーピザと焙煎珈琲を頼む、十分程で頼んだものは来たので二人で口にする。

 

「美味しいな」

 

「ああ、僕も初めて食べたけど味については同感だ」

 

 それからピザを食べつつ他愛ない談笑をする。学院での生活、授業の内容、はたまた帝都での最近の出来事等、ちょうどピザを食べ終えたタイミングでハイメは本題を切り出す。

 

「実は今日誘ったのは、謝りたくてな、オリエンテーションのガーゴイルに止めを刺すとき自分だけ動けなかった事、それ以来学院で心配してくれたのに自分は壁を作っていたこと、本当にすまなかった」

 

マキアスはそれを聞くと驚いたような表情をした後珈琲を一口すする。

 

(やはり許してもらうのは虫が良すぎるか)

 

「いや、僕達は友達だ、友達の心配をするのは当たり前だろ?」

 

「いや、しかし自分は」

 

「気にするなとは言わないさ、だけどキミはこうしてキチンと謝罪をした、なら僕はとやかくいうつもりはないさ」

 

「本当にすまない、それとありがとう」

 

 マキアスは快く許してくれた、どうやら自分は友人に恵まれたようだ。珈琲を飲み終え、会計を済ましとりあえず店を出た。

マキアスとは店で別れた、その後ハイメはブックストア

『ケインズ書房』に立ち寄り何かいい本はないかと探していると、今度はハイメのARCUSが鳴る、流石に店内で話す訳にはいかないので一度外へと出る、どうやら相手はリィンのようだ。

 

「もしもし、ハイメだが」

 

「ハイメか?リィンだ、今から時間はあるか?」

 

「ああ、大丈夫だが」

 

「良かった実はな……」

 

 話を聞くとどうやら学院長から旧校舎の探索を頼まれたらしい、何でも新しい階層が出来たとか、良ければ一緒に行かないかという誘いだった。二つ返事で了承し、学院へと向かう。

 旧校舎の前まで行くと、リィン、エリオット、ガイウスが待っているようだった。三人と合流し旧校舎内へ入る、前と特に変わった様子は見受けられないが昇降機には新たな文字が浮かんでいた。新しい階層へと降りると、オリエンテーションの時と同じようなダンジョンが眼前に広がる。

 

「む……まさか本当に新しい場所があるとは」

 

「びっくりだよね、大丈夫かなぁ?」

 

「ああ、慎重に進もう」

 

「そうだな、強い魔獣がいるかもしれない」

 

 早速進むと、前回同様に魔獣が行く手を阻む、それぞれ得物を構えて戦闘態勢へと移行する。

 

「よし!戦術リンクを使うぞ、ハイメは俺と、ガイウスはエリオットと頼む」

 

「ああ、分かった、よろしく頼むエリオット!」

 

「うん!頑張ろう!」

 

 ガイウスとエリオットは即座に戦術リンクを繋ぐ、だがハイメとリィンのリンクは繋がらない。ハイメは焦り繋げようとするがその努力も虚しく戦術リンクは一向に繋がらない。

 

(やはり……自分は……)

 

「っ俺とハイメは戦術リンクなしで行く!ガイウス、エリオットフォロー頼む!」

 

 リィンの素早い機転で何とかこの戦闘は乗り切ったが、続く戦闘をガイウス、エリオットとの戦術リンクを試したが、ハイメだけが誰とも戦術リンクを繋げず、やむなくハイメとリィンは戦術リンクを繋がずこの迷宮は進んだ。多少数で押され苦戦する事もあったがハイメ達は何とか最後の部屋の前とおぼしき所まで進んだ。

 

「ここの扉の向こうが最後の部屋っぽいな」

 

「えっじゃあまた強い魔獣がいるのかな?」

 

「フム、まぁいるのだろな」

 

「ハイメ大丈夫か?」

 

「ん、ああ」

 

 この中で唯一戦術リンクを繋げないハイメはやはり心配されてしまう、当然だろうこの先に強い魔獣がいるのだ、自分だけリンク出来ないなど論外だろう。

 

「リィンもう一度だけチャンスを貰えないだろうか?」

 

「ああ、あの時は出来たんだ、もう一度繋げるはずだ、ガイウスもエリオットもいいか?」

 

「当たり前だよ!頑張ろうハイメ」

 

「ああ、当然だハイメに風の導きがあらんことを」

 

 四人は結束を新たに、この迷宮の主が居るであろう最後の部屋へと向かう。

 最後の部屋はやはり広く造られており、程なくして予想通り魔獣が現れる。体は茶色の毛で覆われており、紫色の角と爪を持った獰猛そうな魔獣だ。先手を取ったのはガイウスとリィンだ、即座に槍と太刀で一閃する、それにより魔獣の体勢は崩れる。

その隙を狙いエリオットはあらかじめ唱えていたアーツでダメージを与え、ハイメも後ろへと回り込み蹴りをお見舞いし、いったん下がる。

 

「よし!ハイメいくぞ!」

 

「承知した!」

 

 二人のARCUSが輝きを放ちリンクが繋がる。

リンクが繋がった事を喜ぶ暇などなく、即座に左右に展開し、攻撃を入れる。

 

「八葉一刀流『紅葉切り!』」

 

 相手の魔獣はリィンの攻撃が苦手なのかまた体勢を崩す、相手に休ませる暇など与えず今度はハイメの渾身の蹴りが腹へと炸裂する。魔獣はうめき声を上げて大きく後退する。追撃をかけようとリィンとハイメは駆け出すがここで予想外の事態が起きる。突然ハイメとリィンのリンクが途切れてしまったのだ。二人は足を一旦止め、動揺してしまう。その隙を敵は見逃してはくれない、二人に向かい紫色のブレスを放ち、ハイメとリィンはまともにブレスを受けてしまう。体の表面に焼けるような痛みが走り、ハイメは体勢を崩す。さらに魔獣は追撃をハイメに加えハイメの体は壁へと吹き飛ばされる。

 

「ぐっ」

 

 尚もハイメに追い討ちをかけようとするのに対して、リィンとガイウスはハイメを助けようとするが魔獣から離れていたため、ハイメの方へと向かうが間に合いそうもない。

 

「僕が行く!」

 

 比較的近いエリオットが駆け寄り攻撃を与え、魔獣は一旦怯むが今度はエリオットの方に魔獣は攻撃を加えようとする。そこにガイウスが風を纏った槍を突き立て、リィンが切り込むが、魔獣は腕を払い三人を吹き飛ばす。

 

(自分のせいで他の人が傷付く……自分が戦術リンクを繋げないから?)

 

 改めて事実を再認識するとハイメの腸が煮えくりかえってくる、体の奥から何か熱いものが湧いてくるのを感じたハイメは魔獣を睨み付け、その場から駆け出す。

 

「くっ!」

 

 ハイメは痛みなど気にせず、魔獣の後頭部に飛び蹴りを食らわせる、後ろからの攻撃は想定していなかったのか、魔獣はそのまま前のめりに倒れた。

 

「好機!エリオット!」

 

「うん!」

 

 その瞬間ハイメとエリオットのリンクが繋がる。ハイメは震脚をするつもりで起き上がろうとする魔獣の体を踏みぬき、エリオットは導力杖の攻撃を加えると魔獣はたまらずのたうち回り、起き上がるが体勢は整えられていない。

 

「まだだ、ガイウス!」

 

「任せてくれ!」

 

 ガイウスとリンクが繋がり、お互いのしようとすることが頭に流れ込む、行動は迅速にガイウスの妨げにならないようハイメは動く。ガイウスの風属性のアーツが魔獣の胴体へと当たり仰け反った魔獣にハイメは三段蹴りを当てる。

 

「ハイメ!」

 

「決めよう!リィン!」

 

 最後にリィンとリンクが繋がり、繋がった瞬間ハイメは魔獣の懐に飛び込む、同じタイミングでリィンも懐に潜り同時に攻撃を放つ。

 

「『紅葉切り!』」

 

「攻めの型二番『列空穿』!」

 

 リィンの居合い切りとハイメの鋭い上段蹴りが同時に魔獣へと当たり、魔獣は眩い閃光を放ち消え去る。

 

「お、終わった……」

 

「ああ……俺達の勝ちだ!」

 

 全員満身創痍のためその場で座り込む、やがて興奮が覚めてくると疲労と痛みで体が悲鳴を上げた。

だがハイメの表情は明るい物だった。

 

(出来た、自分も戦術リンクが使えた)

 

 最後の連続攻撃を思いだし、自分が戦術リンクをに成功した嬉しさを噛み締める。ようやく自分も仲間と同じスタートラインに立てた、これで足手まといにならずにすむ、様々な感情がハイメの中でぐるぐると渦巻く。リィン達も自分の事のように祝福してくた。聞くとハイメを誘ったのは戦術リンクの練習をするためらしい。リィンは学院長への報告があるらしく、旧校舎を出たところで別れる。

既に時刻は夕方となっており夕陽が校舎をオレンジ色に染め上げている。高揚感も消え体の痛みと疲れが襲ってきたハイメはベンチを見つけるとそこへと座り込む。やはりブレスの後の追撃がかなり効いたようだ、リィン達の前ではなんとか誤魔化していたが、やはり痛いものは痛い。

 

(帰りに雑貨屋で薬でも買っていくかな)

 

 周りを見ると、部活動の終わった生徒達の姿がちらほらと目につく。

 この学院は運動系、文化系とわず盛んに部活動が行われており部活動に所属している生徒は多い。Ⅶ組でハイメが知っている限りではエリオットが吹奏楽部、ガイウスが美術部に所属していたはずだ。何気なしに部活帰りの生徒を眺めていると、見知った顔の生徒がいた。

 

「彼女は確か……ラウラ……だっただろうか」

 

 彼女も恐らく何かの部活に所属しているのだろう。

 彼女は『光の剣匠』の娘らしく、『アルセイド流』という剣術を使うらしい。

 

(まぁ、全てリィンから聞いた話だが)

 

 ハイメは彼女と話した事はない、入学から二週間以上経っているのに話した事のないクラスメイトがいるのもどうかとは思うが、ハイメは自分から他人に積極的に話しかけるタイプではないのし、あのアルゼイドだなのだから平民のハイメが気後れするのも仕方のない事だろう。それにハイメは女性となると拍車がかかって話せない、こういった時リィンはやはり凄いなと実感する。リィンは男性も女性も分け隔てなく接し、クラスメイト全員と話していた筈だ、もっともアリサとの会話は弾んでいないようだったが、あの二人の関係はそう遠くない内に良くなると思う。

 そんな事を考えているとラウラがハイメの近くまでやってくる、普段ならそそくさと退散するが生憎今日はそんな気力も体力もない。まぁ向こうから話しかけられる事などないだろう、そうハイメはたかを括っていたがそれが間違いだった。

 

「むっ、そなたは確か……ハイメと言ったか」

 

 ハイメの前を素通りすると思われていたラウラが話しかけてきたのだ。予想外の事態にハイメは慌てる、何を隠そうハイメは『お願い』の用件以外で女性と話したことはほとんどなく、同じ武術を学んでいた女性に対しても距離を取っていた節がある。

 つまるところがハイメは女性との日常会話など皆無に等しい。

 

「あ、えっと君はラウラさんだっただろうか?」

 

「さん付けはやめてほしい、そなたと私は同じ志を持つ学友なのだから」

 

(いきなり貴族を呼び捨てにしろと……難しい注文だな)

 

 ラウラの折角の気遣いを無下にするわけにもいかないのでハイメはラウラにさん付けする事を諦めたがどうしても声が上ずってしまう。

 

「ならば、ラ、ラウラ、どうかしたのか、自分などに話しかけて」

 

「いや、特に用件はないが、そなたとは話したことが無いと思ってな」

 

 それはそうだろう、あらかさまにとまではいかないがハイメは女性との会話をできるだけ避けてきたのだ。自分の心臓が早鐘を打っているのがもの凄くわかる。ハイメはとにかく相手の機嫌を損ねないようにせねばならないと心がける。

 

「そ、そうだったか」

 

「そなたとは一度話してみたかったのだ、同じ武の道を歩む者としてな」

 

「そ、そうなのか」

 

 ラウラが自分に興味を持っていたことに驚きつつも何となく話しかけてきた動機は分かる。とはいえハイメはラウラに興味を持たれる程の実力は無いと思っているので、折角声を掛けてくれたのに失望させてしまわないか気になるところではある。ラウラは自分の隣に腰を落とし、話をする姿勢となる。それからハイメの使う流派の事を聞いてきたり、ラウラの使うアルゼイド流の事を話してくれたりした。武術の話ならばハイメも饒舌に語り、気がつけば日は完全に傾いていた。ハイメは時間も時間だしそろそろ帰ると言うと、ラウラはどうせ帰る場所は同じなのだから一緒に帰ろうと言い、二人は一緒に帰ることとなった。その間ハイメが緊張でガチガチだったのは言うまでもない。

 寮につくとハイメはラウラと別れ、自室へと戻る。ハイメは疲れていたため着替えをしてベッドへと体を預ける。程なくして睡魔が襲ってきて、そのまま寝てしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

四月二十一日 実技テスト一回目

 

 コンコン、とドアをノックする音が聞こえ、ハイメは目を覚ます。

 

「ハイメ、起きているか?」

 

「ああ」

 

 時計を見ると何時もなら学院へと向かっている時間だった。このままでは遅刻してしまう、昨日よほど疲れていたのか夕食を摂るのも忘れ寝過ごしたらしい。ハイメはベッドから跳ね起き、急いで学院へ行く準備をし始める。

 

「は、ハイメ?大丈夫か?」

 

「大丈夫だ、リィンは先に学院へ向かっていてくれ!」

 

 リィンへ尚も心配してくれたが自分のせいで、リィンまで遅刻させる訳にも行かないので取り敢えず大丈夫と言っておく。急いで制服に着替え、髪型を治し、鞄を引っ付かんでドアを開け学院へ向かう。食堂にはハイメの分のサンドイッチが置いてありそれを口に加えながら学院へと急いだ。このままいくとSHRに間に合うか間に合わないかだ。ちょうど街の広場に差し掛かる所でハイメは見覚えのある生徒を見掛ける。名前はフィー・クラウゼル

ハイメのクラスメイトである彼女はベンチで眠っている。寝てる所を起こすのは悪いと思ったが、確か授業変更で一時間目はナイトハルト教官の講義だ。遅れでもしたら確実に雷が落ちるだろう。ハイメは仕方ないと呟き、フィーの近くまで行く。

 

「起きた方がいいぞ、このままでは遅刻してしまう」

 

 言葉を掛けるがフィーは起きる様子がない。やむおえず肩を揺らしてみるが、うんともすんとも言わない。

一瞬ハイメはこの子を置いていこうかと思ったが、自分が起こさなかったために彼女がナイトハルト教官に叱られてしまうかと思うと良心が痛むため、置いていくという選択肢は切り捨てた。肩を揺すってもフィーは起きる気配もなく気は引けるがフィーの頬をペチペチと叩くとようやく反応を見せ、瞼をゆっくりと開ける。

 

「ん、おはよ」

 

「いや、おはようではなくてだな、このままではSHRどころか一時間目にも遅刻するぞ」

 

「一時間目はサラでしょ、大丈夫大丈夫」

 

「授業変更でナイトハルト教官の講義になったことを忘れたのか?」

 

 そう言った瞬間フィーはハッとし、ベンチから立ち上がりその場から駆け出す。ハイメもすぐに追いかけ、フィーと肩を並べる。フィーは自分に、ハイメが追い付いたことに驚いたのか、やや瞳を大きくする。

 

「ん、やるね」

 

 そう言うとフィーは更に走る速度を上げ始めた。ハイメも負けじと速度を上げるがフィーは徐々に速度を上げる。やがて彼女の姿は遠くへと消えてしまった。ハイメは何とか校門へと着くがそこで体力が尽きて、肩で大きく息をする。

 

「ゼェッゼェッ、速いな、ゼェッ、彼女」

 

 時計をちらりと確認すると、既にナイトハルト教官の講義には間に合わない時刻だ。気を重くしながら教室へと向かう。

 予想通りナイトハルト教官の雷が落ち、罰として校庭を走る事となった。さらに不運が重なるらしく、二時間目もナイトハルト教官の講義であり、結局ハイメは昼休みまで走る事となった。疲労困憊で教室へと戻るとエリオットとマキアスが出迎えてきた。

 

「やっと……終わった……」

 

「お疲れ様、ハイメ、災難だったね二時間目もナイトハルト教官の講義に変わっちゃって」

 

「どうしたんだい、遅刻なんて君らしくもない」

 

「少し……な」

 

 ぐったりと机に突っ伏し、顔だけエリオットとマキアスの方に向ける。エリオットとマキアスは苦笑しながらお昼をどうするかと聞いてくるが、正直買いに行く体力も食べに行く気力もない。かといって食べなければ午後からの実技テストに差し支えてしまう。そんなハイメの様子を見かねたのかラウラがこちらにやってくる。

 

「事情はフィーから聞いた、そなたも災難だったなハイメ、取り敢えず紅茶を飲み落ち着くといい」

 

 そう言うとラウラは自分の水筒から紅茶を注ぎハイメに渡す。

 

「済まないラウラ、恩に着る」

 

「うん、気にする事はない」

 

 ハイメは紅茶を一口すすり、一息つく。紅茶の押さえられた甘味が疲れた体に心地よい。香りもよく風味もしっかりとしている、高い茶葉を使っているのだろう。そう思うとハイメは少し申し訳ない気持ちになる。

 

「ありがとう、美味しかった」

 

「うむ、それでは私は昼食を食べに行くので失礼する」

 

 ラウラは水筒をしまい、教室から出ていく。その様子をマキアスとエリオットは驚いた表情で見ていた。ラウラが居なくなった事により二人はハイメに詰め寄ってくる。

 

「驚いたな、いつの間にラウラ君と交友を深めたんだい?」

 

「そうだよ、僕ラウラが誰かに自分から話しかけてる所初めて見たよ!」

 

「いや、昨日少し話す機会があってな」

 

 それから二人は次々と質問攻めしてくる。

 結局二人から解放されたのは昼休み終了10分前くらいの時間だった。

 

(まいったな、今からでは昼御飯を食べに行けない)

 

 

 昼からは実技テストなので昼御飯はしっかりと食べたいと思っていたハイメは肩を落とす。意気消沈しているハイメの元に今度は委員長とフィーがやってきた。

 

「あの、ハイメさん少しよろしいでしょうか?フィーちゃんが謝りたい事があるらしくて」

 

「む、別に構わないが」

 

「今朝はゴメン、せっかく起こしてくれたのに置いていっちゃって、それに私のせいで午前中は散々みたいだったし」

 

「いや、気にする事はない、自分が寝過ごした事に大元の原因があるのでな」

 

「これ、お詫び」

 

 そう言うとフィーは学生食堂に売っているトマトサンドを渡してくる。昼食をとり損ねたハイメにとってはまさに願ってもない物だ。フィーにお礼を言いハイメはトマトサンドにかぶりつく。

厚く切られたトマトからは汁が溢れそれがドレッシングと絡み合い程よい酸味を生み出し、食欲をさらにそそる。ハイメはトマトサンドを数口で平らげてしまう。ハイメは気を良くし、フィーには今回の事はもう気にしないで欲しいと伝えた。フィーも許してもらえた事に安堵したようだ。昼休み終了が近かったのでハイメはフィーとエマ、教室に残っていたガイウスと共に実技テストをするグラウンドへと向かうのだった。

 

「それじゃあ、実技テストをはじめるわよ!まず初めての実技テストだから評価の説明をするわね、基本は戦闘だけど、闇雲に戦えばいいだけじゃないわ、仲間との連携や柔軟な適応力、毎回変わるメンバーの中で自分の役割を見つけ、それをキチンとこなして戦闘に貢献しているか、とまぁこんなものかしらね」

 

(なるほど、そこで戦術リンクが肝というをけか)

 

どうやら実技テストで重要になってくるのは戦術リンクらしく、横を見るとリィンも同じことを考えていたようで苦笑する。

 

「まずは、リィン、エリオット、ガイウス、ハイメ、前へでなさい!」

 

「いきなり出番か」

 

「頑張ろう皆!」

 

「む、このメンバーは……」

 

「成る程……な」

 

 戦術リンクが鍵となる実技テストで最初のメンバーの顔ぶれがこれとなるとサラ教官はハイメ達に連携の手本を他のクラスメイトに見せろという事らしい。程よい緊張感を感じながらもハイメは気を引き締める。

 

「それじゃあ、相手はこれよ!」

 

 サラ教官が指をパチンと鳴らすと、何も居なかった筈のそこに白い機械のような物体が姿を現す。人型より一回り小さい機械なのに浮遊しているのはどういう原理で出来ているのか、全員気にはなったがそれよりも実技テストに集中しなければいけない。

 

「知り合いから押し付けられちゃってね、名前は……そうねぇ戦術殻とでも言おうかしら、扱いに困ってたんだけど、良い機会だわ、今の貴方達の力を最大限引き出せば勝てなくはない程度の強さにしてあるから油断しちゃ駄目よ!それじゃあいくわよ!実技テスト開始!」

 

サラ教官の開始の合図と共にリィンはエリオットとハイメはガイウスとリンクを繋ぐ。まずはリィンが切り込み、敵の出方を見る。

 

「ハァッ!」

 

 リィンの上段からの袈裟斬りに対して戦術殻は防御体勢をとる、後ろからガイウスが追撃をかけるが、戦術殻はガイウスの槍の有効範囲から逃げ、アーツの駆動を始める。だがリィンとガイウスの狙いは戦術殻を後方に移動させる事にあった。あらかじめ後ろに回り込んでいたハイメは待ってましたと言わんばかりに構える。

 

「アーツは唱えさせん!震脚!」

 

 震脚による振動で戦術殻のアーツの駆動が解除される、驚いたように戦術殻は両手を振り回し、ハイメを攻撃の間合いから遠ざけようとするが、ハイメは既に防御の構えを取りガードに成功する。

 

「よし!いくよ『アクアブリード』!」

 

 初めからアーツの駆動をしていたエリオットのアクアブリードが戦術殻にそのまま直撃し、戦術殻は怯む。

 

「よし、いくぞハイメ!」

 

「了解した!」

 

 ガイウスが槍を横凪ぎにし、ハイメは踵落としを食らわせようとする。しかし戦術殻もやられっぱなしというわけにはいかないらしく、ガイウスの槍には当たったがハイメの踵落としは避けてみせた。そのまま避けた動きを利用してさらに追撃をかけようとしていたリィンを牽制する。

 

「む……一回仕切り直しか……」

 

「そのようだ、ハイメもう一度行くぞ!」

 

「二人とも攻めは任せた!俺は援護する!」

 

 リィンはその場でアーツの駆動を始め、エリオットはリィンに回復のアーツをかける。ガイウスと目を合わせ、今度はハイメから仕掛ける。

 

「間に合った!ハイメ!『メルティライズ』!」

 

「よし、これなら!列空穿!」

 

 ハイメの鋭い蹴りが戦術殻に当たり、ガイウスの槍が戦術殻を切りつける。戦術殻はハイメ達の攻撃を受けながらもアーツを駆動し始める。ハイメとガイウスは二人同時にアーツを食らうことを避けるため左右に展開する。戦術殻が放ったアーツ『グランドプレス』はガイウスの方に放たれガイウスは避けようとするも範囲があったためダメージを与えられてしまう。ハイメはガイウスのフォローをするべく戦術殻に攻撃を集中させるが、攻撃に集中しすぎたためか、戦術殻の重い一撃を貰い、体勢を崩す。

 追撃しようとする戦術殻にエリオットが前に出て注意を惹き付ける。

 

「ハイメ!ガイウス!立てるか!?」

 

 リィンはこちらに駆け寄り、ティアの薬を使う、徐々にに痛みが引き、ハイメとガイウスは立ち上がる。

 

「ガイウスはエリオットの援護を頼む!ハイメは俺とリンクを、攻めるぞ!」

 

「ああ、エリオットは任せてもらう!」

 

「了解した!」

 

 リィンとガイウスは戦術殻に向かっていき、ハイメはその場でアーツを駆動する。エリオットは戦術殻の攻撃の範囲外から攻撃していたようだが少しずつ距離を詰められていた。そこにリィンとガイウスは左右からの同時攻撃を仕掛け、即座にその場から離れる。

 

「よし!貰ったぞ『ソウルブラー』!」

 

 左右からの攻撃の直後にハイメのアーツが当たり、戦術殻は機能を停止させた。

 

「そこまで、良い連携だったわ四人共!やっぱり旧校舎での探索が良い経験になってるようね」

 

「やっぱり、だからこのメンバーだったんですね……」

 

「ま、そゆことよ♪、さぁ次いくわよ!」

 

 ハイメ達は実技テストが終わり、他の生徒達のテストの様子を見る事にした。次に呼ばれたのはラウラとアリサの二人、前衛と後衛の役割がはっきりとした組み合わせだった。ラウラが大剣で確実にダメージを蓄積させ、ラウラが体勢を整える際はアリサが弓で援護して、戦術殻の気を逸らす。最初は動きがぎこちない二人だったが戦術殻が機能停止するころには抜群の連携をとっていた。続いてはユーシス、マキアス、エマ、フィーの四人の組み合わせで試験が行われた。ユーシスが先手を取ろうと前へ出るが、マキアスは距離を取ってまずは牽制しようと言い、二人の言い合いが勃発。その間フィーが持ち前のスピードと巧みな戦術で戦術殻を翻弄し、エマがアーツでダメージを稼ぐという鮮やかな戦法を披露する。流石にユーシスとマキアスも焦ったのか戦いに参加するも、満足に連携を取れていない二人はフィーの妨げになってしまう事もあり、苦戦の末ようやく機能停止まで追い込んだようだ。これで全員の実技テストは終わり、サラ教官からら総評を貰った後実習先とメンバーが書いてある紙を渡される。

 

A班

 

リィン、エリオット、ハイメ、アリサ、ラウラ

 

目的地

交易都市ケルデイック

 

B班

 

ユーシス、マキアス、ガイウス、エマ、フィー

 

目的地

紡績町パルム

 

(B班の顔ぶれ、これは……仕組んでるなサラ教官)

 

その後マキアスとユーシスはサラ教官へと抗議していたが、サラ教官は全く取りつく島もなく、授業終了の鐘と同時に解散を命じ職員室へと帰ってしまう。ガイウスはその間リィンとハイメにずっと視線を送っていたが、頑張れとしか言えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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