七曜歴1207年5月
ライノの花は散り、木々は新緑の葉を生い茂らせる季節。トールズ士官学院に入学してはや1ヶ月が経つ。その間に部活に所属する生徒、趣味を見つけそれに没頭する生徒、己を高めるため勉学に励み、武術の訓練をする生徒と各々学院生活を謳歌している。
今は貴族クラスと合同で体育の時間、女子は陸上競技、男子は修練場で機材を使いトレーニングを行っている。修練中に貴族クラスに所属するハイアームズ候嫡男のパトリック=ハイアームズが何処から聞き付けて来たのかリィンがパトリックに絡まれる事があったが意外にもユーシスが助け船を出した。どうやらこの前の実習での領邦軍の動きを気にしていたらしい。
さてリィンが自分が養子とはいえ貴族であると周りに明かした結果人間関係はどうなったかと言うと特に大きく変わってはいないのだ……そうただ一人を除いては。貴族を毛嫌いするマキアスとリィンの二人の間には確執が出来てしまった。最もマキアスがリィンを避けているという状況ではあるが。ラウラの事もどこか避けている節があるマキアスだ、彼の貴族嫌いは相当な物なのだろう。だが時間はクラスの人間関係がどうであろうと流れていく。
今日の1日のカリキュラムも終了しサラ教官によるSHRが始まる。来週には実技テストの二回目が行われるとの事、だからと言って勉学は疎かにしない事を伝えて学級副委員長のマキアスが号令をかけて放課後へとなる。マキアスとリィンの関係をなんとかしたいとハイメは思うが放課後は学院での仕事があるため生徒会室へと足を早める。5月に入り両親から多くはないが仕送りと手紙が届いた。生活が苦しい中仕送りをしてくれた両親に感謝しつつ早速トワ会長から仕事を貰いに行く。今日はそれぞれの部活動の物品の補充等がメインになりそうだ。まずは美術部の絵の具と筆の補充だそうだ。絵の具と筆の入った箱を両手に持ち美術室を訪れるハイメ、その中に見知った顔を見つける。
「おお、ハイメか仕事お疲れ様だ」
「そうかガイウスは美術部だったな」
ガイウスと話したい気持ちもあるが今は仕事中なので手早く絵の具と筆の補充を済ませていく。
「それではなガイウス今度描いた絵を見せてくれたら嬉しい」
「ああ、勿論だ」
次は音楽室の掃除物品の交換に行く。ここではエリオットがヴァイオリンを弾いておりせの旋律に聞き惚れながらも掃除物品を交換していく。その後もラクロス部、園芸部、馬術部と補充物品を補充していき、最後に各教室のチョークを補充していく。
「ふぅ、とりあえず物品の補充はこんな物か……」
「あっハイメ君お疲れ様ー」
一通りの仕事を終えてハイメが一息ついているとトワ会長に声を掛けられる。そのまま流れで生徒会室でお茶を頂く事になったのだが……
「あっいっけない、茶葉切らしてたっけ」
タイミングが悪く紅茶の茶葉が切れてしまっていたらしい。
「それなら自分が買ってきますよ」
「えっそんな、悪いよ」
「美味しい紅茶をご馳走になるお礼ですので、それでは行ってきます」
ハイメは生徒会室を後にして雑貨屋を目指す。校門近くまで繰ると見知った顔を見かける。
「おや?ハイメ君じゃないか?」
「アンゼリカ先輩、お疲れ様ですこれからツーリングですか」
「ああ、入り用も兼ねて少し帝都までね」
アンゼリカは自慢げに自らの横にある導力バイクを自慢げに叩く。この1ヶ月で分かった事なのだが彼女は自由奔放で時折こうして導力バイクを駆ってどこかへふらっと行く事がある。そのせいかは分からないが遅刻している姿をちらほらと見かけるが。
「君は学院での仕事中かい?」
「いえ、一段落つきまして今は生徒会室の茶葉が切れたので買いに行く途中です」
「ほう……という事は私のトワからお茶を淹れてもらうという事かな?」
「いやまあ……」
「フッ……そんなに縮こまる事はないさ、ほらあまりトワを待たせる物じゃないぞ」
「はい!それでは失礼します」
そこから早足で雑貨屋へと向かい茶葉を買って生徒会室へと戻る。トワの淹れた紅茶を楽しみつつ学院を後にする。ここからハイメはまっすぐ学生寮には帰らず雑貨屋に再度より夕食を買って街道へと足を運ぶ。少し開けた場所に出ると荷物を置いて修練を始める。第一実習以降ハイメはこうして修練を積んでいた。入学式のオリエンテーリング以降感じていたがⅦ組の戦闘力は高い。アルゼイド流を納めるラウラ、剣仙《ユン=カーファイ》から直に《八葉一刀流》を習ったリィン、どこか実戦慣れした動きをしⅦ組で一番の機動力を誇るフィーを筆頭に後衛もエマやガイウスを筆頭に粒揃いだ。そして自分はⅦのメンバーと比べると数段落ちているだろう。
まずは腕立て伏せ、腹筋、背筋、もも上げをして体を温めていく。次に一つ一つの型をゆっくりと行い体の調子を確かめる。そしてここからが本番、ハイメは身に付けていたARCUSを外して近くの魔獣を探す。これでハイメはマスタークオーツやクオーツの恩恵を受けずに魔獣と戦闘を行う、普通の努力ではⅦの皆には追い付けないと思ったハイメが編み出した苦肉の策だった。
「シッ!」
獣型の魔獣に囲まれながら闇夜の中どこから攻撃が飛んでくるか分からない状況で戦闘を行う。これが物語の英雄や武術の達人ならば華麗に避け反撃に移るのだろうが勿論ハイメはそうもいかない。
「うっ……このぉ!」
体にどんどんと傷が増えていく、だがこれも一つの狙いだ。前回の実習で露呈してしまったハイメの前衛としての能力の低さ、これを鍛えるためにダメージを受けてタフネスを鍛える。だがこんな事が長く続く筈も無く、20分程度で体に限界が来る。煙玉を使って魔獣を撒き手荷物を置いた所まで戻る。手荷物から傷薬を出して体に塗り、買ってきた夕食を食べる。そしてアーツで自身を回復させてまた魔獣との戦闘へと赴く。
「今日こそ30分持たせる……!」
始めた当初は5分持てば御の字だったハイメだがどうにもアーツが弱点らしくアーツを使ってくる魔獣と相対すると避けるのに意識が行き、四方の警戒が薄れてしまう事がわかっていた。そして今回もまたアーツを駆動する軟体生物型の魔獣が数匹紛れている。ハイメは出来る限りのスピードで魔獣に近づき震脚を放ってアーツの駆動を解除する。そこから攻撃に移り魔獣を撃破していく。だが飛行する甲虫型の魔獣がハイメの動きを阻害し上手くいかない。そんな苦戦を強いられるハイメの姿を遠くから見つめる一つの影があった。
「フフフ、やはりアーツを使う魔獣が紛れ込むと苦戦するようだね」
アンゼリカ=ログナーである。気づいたのは4月後半、たまたま導力バイクを走らせている時に気付いた。そこから毎日、ハイメの日課がこの修行ならハイメの修行風景を見るのがアンゼリカの日課となりつつあった。
「踏み込みが浅いな、だから脚に力を伝えきれず攻撃力も落ちている、あぁそんな中途半端な態勢から回し蹴りなんてしたら……言わんこっちゃない」
視線の先でハイメでは魔獣にカウンターを喰らって倒れこむハイメの姿がある。だがアンゼリカがハイメを助けに行く事はない。
「おっ今日はガイウス君か」
こうして度々ハイメがピンチになると必ずと言っても良いほどⅦ組メンバーの誰かしらが助けに入るのだ。まぁ大体がリィン、ラウラ、ガイウスの三人の内の誰かだったりするが。同じ教室に居て、同じ寮で暮らしていて日に日に体に傷や包帯、湿布が増えていくハイメを見て気づかない方がおかしいだろう。なんならトワでさえハイメが無理をしている事くらい察している。だが誰も彼を止める言葉出来ない、同じ武人として強くなりたいという気持ちが痛いほど理解出来るからだろう。一通りの魔獣を蹴散らしたハイメはガイウスに介抱され、そのまま学生寮への帰路へ着く。これがハイメの大体の1日の流れだった。
「仲間にここまでしてもらっているんだ……強くなれよハイメ=コバルト」
ハイメが帰って行くのを見届けてアンゼリカも寮へと帰る。その表情はどこか笑っているようだった。
幕間~『ハイメ=コバルトの印象』~Ⅶ組編①
リィン「そうだなハイメは努力家だと思うよ、アイツの努力してる姿を見てると俺も頑張らなきゃって思えるし、でもオーバーワーク気味で皆心配してるよ」
エリオット「なんかここ最近傷が増えてきてるよね……4月の後半なんてあんまり傷だらけで寮に帰って来てたからアリサとラウラが怒っちゃって……」
ガイウス「俺は故郷を守りたいと思いこの学院へと来た、俺も研鑽を積んでいるつもりだがハイメの努力を見ているとまだまだだなと思う、ただハイメは努力の一方でどこか危うい所もあるしな、そこをフォローしていきたいと思う」
アリサ「この前の実習ではハイメに助けられたわ、本当に感謝してる、クラスの中にハイメみたいに努力してくれる人がいると周りも良い刺激を受けるし、同じクラスになれた事を幸運に思わなきゃ」
ラウラ「多くは語らないが、彼の在り方こそ武人として目指す物だと思う、私も負けていられないな」
fin
自由行動日
時刻も正午を過ぎた頃、ハイメは学院内での仕事を終えて肩を回す。学院内の購買で昼食を摂り、午後からはどうしようかと迷っていた所にARCUSに着信が入る。
「もしもし、ハイメか?リィンだ今大丈夫か?」
「む、リィンかどうしたんだ?」
「実は先月探索した旧校舎に新たな階層が現れたらしくて探索を学院長から依頼されてるんだがハイメも力を貸してくれないか?ガイウスにエリオット、アリサとラウラも来るんだが」
(旧校舎探索……修練をするにはもってこいの場所だが……)
その時先月の実習での大型魔獣戦が頭をよぎる。今の自分の実力ではリィン達の足を引っ張ってしまうのではないか?と。幸い人数はいるようだし、ハイメは今回は辞退する事にした。残念そうにするリィンだがまた誘うと言い残して通話を切った。申し訳ない事をしたなと罪悪感が残るがあの四人ならきっとリィンの力になってくれると思い、トリスタの街を後にする。
いつもの場所に差し掛かると黒い導力バイクが停まっているのが目についた。視線の先にはアンゼリカ先輩が手をひらひらとさせている。
「やぁ来たね」
「自分に何かご用でしょうかアンゼリカ先輩」
「なぁに、迷える後輩のために一肌脱ごうかと思ってね、さぁ構えたまえ……」
(アンゼリカ先輩の纏う雰囲気が変わった……!?)
構えを取りアンゼリカ先輩の出方を伺う。先に仕掛けて来たのは向こうから。アンゼリカの拳が飛んでくる。
(なんの変哲もない正拳突き……?いや!?これは! )
ハイメはオーバーアクション気味にアンゼリカの正拳突きを回避する。耳に聴こえてくるのはゴウッという風切り音。攻撃自体は避けてり捉える事は出来るがその威力は桁違いのようだ。いくら手甲をしているにしてもこの威力はどこから出るのか……いや彼女の扱う武術は……
「フッ、ハイメ君私の拳の威力について疑問に思っているようだね?」
「!」
「なに簡単な事さ、私は体に流れる氣をコントロールしてこの威力を出している、君の戦闘スタイルは相手を崩して攻撃をクリーンヒットさせる、いわば私が力で君が技、動と静といった感じだがね、いかんせん君は力不足過ぎる、少しは体から氣を引き出す方法を身に付けた方が良い」
「ですが自分に氣等……」
「流れているよ、君のこの半月程の努力は嘘をつかない、どれ手本を見せてあげよう、ハァァァァァ『ドラゴンブースト』!」
瞬間アンゼリカの雰囲気がまた一段と変わる、今まで纏っていた物がどんどん体の中から引き出されていくような。
(待て、あの感じ、何処かで?……そうかあの技をしようとした時の!?)
ハイメは前の実習で未完成の技を出そうとした時に両足に蒼い光うっすらと纏わせたのを思い出す。
「スゥー……」
神経を足の方に集中させると確かに実習の時と同様足が蒼い光
に包まれる。
「!!」
「出来たようだね、なら後は持続させる練習だが……こればっかりは馴れていくしかない、さあいくよ!!」
アンゼリカ先輩が踏み込んだかと思うと拳が目の前に迫っていた、咄嗟に防御態勢を取り、防御するも想像通りアンゼリカ先輩の一撃は重たく、体が後ろに流される。
(重い……だが加減をしているのか!?これなら!)
「さあまだまだいくよ!」
再びアンゼリカ先輩の正拳突きが飛んで来る、それに合わせてハイメも蹴りを繰り出し、両者の拳と脚がぶつかり合う。しかしハイメの脚はアンゼリカの拳に圧される事なくしっかりと拳を捉えている。そこから十数回程アンゼリカの正拳突きに対応したハイメだがやがて纏っていた蒼い光が薄くなり、ダメージも蓄積した事により解除される。
「スタミナ切れかならもう少し氣の使い方を見せてあげよう、《レイザーバレット》!」
アンゼリカより繰り出された衝撃波がハイメに直撃しハイメは地に膝を着く。
「くっ……ハァハァ強いですね」
「フッ私も一応先輩だからね、この時期の一年生に遅れを取るわけにはいかないさ」
確かにハイメは呼吸を乱し、肩で息をしているがアンゼリカはどこ吹く風かいつものようにニヒルな笑みを浮かべハイメを見下ろしている。先程まで手合わせをしていたのにその差は歴然だ。
「しかし驚いたよ、まさか君がすぐに氣を使うなんてね」
「いえ、その、前回の実習で少しコツといいますか、そういった機会がありまして」
「成る程ね……精進したまえハイメ君、この私が仔猫ちゃん以外に胸を貸したんだ、それと行き詰まったらまた私に声を掛けるといい、相談に乗るしまた手合わせもしてあげよう」
「有難うございます!」
アンゼリカは手をひらひらと振り去っていく。その背中を見送りながらハイメは残りの休日をどう使うか思案する。流石に今日は修行する気にもなれずかといって遊ぶ程懐に余裕は無い。考えた結果ハイメはキルシェで軽食を摂りつつ、勉強をする事にした。ちょうどティータイムに時間が重なってしまったため思っていたよりも店内は混んでいた。
(む、流石に人が多い、今日はやめておくか?)
「ハイメさん、よかったら相席しますか?」
ハイメが店を出ようとしたその時、ちょうど店内に居たエマの一声によって止められた。一瞬女性と相席かと迷ったがせっかくの好意を無下にするのも申し訳ないと感じ同席させてもらう事にした。エマと一対一で話すのは初めてでどう話題を切り出したものかと思考を巡らせるハイメ。だがその心配は虚しく、エマの方から口を開く。
「午前中はお仕事でしたよね、お疲れ様です」
「いやそんなことは、これも学院側の好意だし、正直助かっているよ」
「すごいですね、ハイメさんは」
エマの言葉にハイメは思わず眉をひそめる。
「自分が?」
「はい、学費のためにお仕事もされて鍛練も怠らず、かといって授業態度も悪くない、すごく模範的な学生の姿だと思います」
「いや、ただただ目の前の事に精一杯なだけだ、それに自分は全てにおいて中途半端だしな……」
自嘲気味にハイメはそう呟く。それに自分は努力を止めてしまったら、またあの時のつまらない日々に逆戻りだ、それを許してくれるⅦ組ではないだろうしなにより自分が一番それを許したくない。両者の間に微妙な空気が流れてしまい、責任を感じたハイメが切り出す。
「せっかくの機会だ、授業で解らなかった所を聴いてもいいだろうか?」
「え、はい、私で解る所なら……」
そこから和気藹々と、とはいかなかったが折角の機会を有効活用出来たと言えるだろう。学生の本分は勉学に励む事だ。夕日も顔を出す頃には勉強を終えて学生寮へ帰路に就いた。玄関でエマと話しているとリィンが帰ってくる。
「ハイメとエマ……珍しい組み合わせだな」
「いやキルシェで会ってな、それよりリィン、今回は旧校舎の探索に付き合わずすまなかった」
「いやいや、いいって気にしないでくれ」
「今度は私にも声を掛けて下さい、力になれるかもしれないので……あれリィンさんその傷?」
「いや帰る時に美人の黒猫にやられてな」
「ごめんなさい!」
そう言って頭を下げるとエマは慌てて共用スペースから薬箱を持ってくる。ハイメとリィンは顔を見合わせて不思議に思いながらもエマはリィンの傷の手当てを終えるとそそくさと部屋にもどっていった。
「珍しいな、委員長があんなに取り乱すなんて……」
「ふむ、委員長の飼い猫なのだろうか……」
「それよりハイメ、夕食まで時間もあるし部屋に来ないか?」
(旧校舎の探索に付き合えなかったし……今日は鍛練は休みにするか)
「分かった付き合おう」
リィンの部屋へと案内されると特に変わった様子もなく、適当に座ってくれと促されたので椅子に腰かけさせて貰った。紅茶と軽く摘まめるお菓子を用意してくれ一息つく。先に口を開いたのはリィンだった。
「なあハイメ、最近無理な特訓を続けているみたいだが……」
内心ハイメはやはりその話題かと思う。Ⅶ組のメンバーには心配をさせてしまっているし、実際迷惑も掛けている。分かってはいるのだが……
「自分は皆に比べると実力が劣っている、それを先月の実習で思い知らされたんだ……」
「あれは!」
「自分には何もない、だから努力だけは辞める訳にはいかないんだ……」
「それでももっと俺達を頼ってくれ!」
「今でも十分頼っているさ……それで足りないのは……自分の力が不足しているからだ 」
リィンはまだ何か言いたそうな表情をしているがこの話をしても恐らく平行線だろう。これが切欠でハイメと仲違いしてもしょうがない、これからも注意していくしかないとリィンは結論付けこの話題は終了となる。
「それよりも問題なのはマキアスとユーシスだろう」
「あぁ……あの二人か」
リィンからマキアスにコンタクトは取っているのだがマキアスはとりつく島もない。一度見かねてハイメが仲介して話をさせようとしたが結果はお察しだ。エリオットとガイウスもなんとか二人の関係を改善しようとしてはいるがこれも結果は良くない。
「正直に言うと次の実技テストまでにはなんとかしたいな……あの二人と同じチームになったら実技テストはかなり苦戦しそうだし」
「リィンならば何とかしそうな気がするが……大きな怪我をしてからでは遅いからな」
「おいおい、俺はそんな大した器じゃないよ……せっかくだから夕食も一緒に食べるか」
その後リィンとハイメはエリオット、ガイウスも交えて夕食を摂った。夜の鍛練は休んでしまったがたしかな充実感を得てハイメは床に就くのであった。
~実技テスト2回目当日~
「そこまで!」
グラウンドで実技テストが行われており、相手はバージョンアップした戦術殻、初めにリィン、アリサ、ラウラの三人が呼ばれ先月の実習と先日の旧校舎での経験が活きているのだろう。見事に戦術リンクを駆使して戦闘を行っていた。
「三人共いい連携だったわ!流石ね、次ユーシス、マキアス、フィー、それからハイメ!」
「ハイ!」
「フン……」
「げっまたこの二人とか……」
「全力を尽くす……」
各々が戦闘態勢に入る、それらを見守る他のメンバーの表情はやはりというべきか優れない。ハイメもユーシスとマキアス、この二人の連携が破綻し戦力として数えられなければこの試験を突破するのは極めて難しい……そう考えるが時は待ってくれない。サラは試験開始の合図をする。
「はじめ!」
まず初めに動いたのはフィーだった、その機動力を駆使して戦術殻の懐に飛び込み銃剣で切りつける、続いてユーシスが回り込み鋭い突きを放つ、そこまではよかったのだが、マキアスのアーツがユーシスの足元に放たれ態勢を崩すユーシス、そこに戦術殻の一撃が入りユーシスは戦術殻との距離を離される。
「いけない!震脚!」
「!」
慌ててハイメが戦術殻を引き付けるため震脚を放つがフィーの機動力が損なわれてしまう。ともあれハイメの狙い通り戦術殻を引き付ける事に成功しユーシスは態勢を整える時間を得る。ここまではなんとかなっていたのだがここからことごとくユーシスとマキアスの行動が噛み合わず、遂に二人はその場で口論をはじめてしまう。必然的に戦術殻の相手はフィーとハイメで行う訳で……
「マキアス!ユーシス!戦闘中だそ!駄目か拙いな……フィー!リンクを!」
「わかった、いくよ」
逆転の一手をうつべくフィーとハイメでリンクを敢行しフィーがヒットアンドアウェイでダメージを蓄積させハイメが打たれ弱いフィーのカバーをする。必然的にハイメにダメージは溜まる。本当ならばマキアスかユーシスに回復をして欲しいのだが……と考えていると戦術殻の一撃がハイメにクリーンヒットする。
「ぐっ!」
「!でも隙は出来たよ」
持ち前の機動力を十二分に活かしフィーは戦術殻に銃剣による斬撃を叩き込む。だがフィーの斬撃では致命傷にならないらしく、構わず戦術殻はフィーに一撃、二撃と攻撃を当てフィーが戦闘不能になる程のダメージを負ってしまう。
「ちょっと……まずいかな……」
「フィー!ぬあっ!」
膝を着くフィーを気遣うあまり戦術殻の接近を許し攻撃をすんでのところで防御するハイメだが体勢が不十分だったためダメージを殺しきれず体勢を崩される。
「クソッマキアス!ユーシス!いつまでそうしているつもりだ!」
二人はハッとするもこちらの状況をすぐに理解し行動に移る。
「チッ俺はクラウゼルの回復に回る、貴様は奴を助けてやれ」
「僕に命令するな!」
マキアスが薬を手に持ちハイメに駆け寄る。銃で牽制を行い一旦戦術殻との距離を放しその間にハイメの回復を行う。
「助かったぞマキアス、さぁ詰めるぞ!」
「あぁ、僕達のコンビネーションを見せよう!」
ハイメとマキアスが戦術殻の前に躍り出る。マキアスの銃撃に仰け反った所をハイメの膝蹴りがクリーンヒットし戦術殻は機能を停止させる。
「ハァハァハァ、どうにか……なったな」
「済まない僕達が戦闘に参加していれば……」
「もう……こりごり……かな」
ハイメとフィーは息も絶え絶えで見るからに疲弊しておりマキアスとユーシスはばつの悪そうな顔をしている。そこでサラからの批評が入る。
「ハイメとフィーはよくあの状況を持たせたわ、そこの男子二人!言わなくても分かってるわよね?これが実戦だったら二人はどうなってたか分からないわよ」
「うっ……スマン苦労を掛けさせた」
「二人とも悪かった……」
「さぁ予想外に長引いたけど次!ガイウス、エリオット、エマ!行くわよ」
グラウンドの地面に腰を落ち着けながら三人の戦いを観戦する。しっかりとガイウスが前衛としての役割を果たしており、それを援護しつつダメージも与えていく、先程のハイメ達の戦闘とは雲泥の差であることは明白だった。そんな事を思っているとフィーが隣にやって来る。
「さっきはありがとう、ハイメがいなかったら危なかったかな」
「いや、自分は自分に出来る事をしただけだ……それにこちらもフィーが居てくれて助かったよ」
ハイメは少し照れ臭くなりながらも確かにフィーの言う通り良くあのあの状況から勝ちにまで持っていけたと心底思う。二人があのまま言い合いを続けていたらと思うと背筋が凍る。
「次の実習一緒になるか分からないけど一緒だったらいいね、リンク繋いだらやりやすかったし、まぁ改善点は幾つかあったけど」
「そうだな……ハハ、一緒の班になるといいな……」
因みにこの願いは叶う事になってしまう。それは三人の試験が終わり次の実習の班分けと実習地について書かれた紙を渡された時だった。
A班 アリサ、ラウラ、ガイウス、エリオット/目的地 セントアーク
B班 リィン、エマ、フィー、ユーシス、マキアス、ハイメ/目的地 バリアハート
「いい加減にして下さい!」
マキアスが堪忍袋の緒が切れたと言わんばかりに叫びを上げる。
「今回ばかりは同感だ……流石に我慢の限界だ……!」
ユーシスもサラを睨み付けており三人は一触即発だ。しかしサラはこれが狙いだったのか口角を上げる。
「あら?上官に逆らうの?なら力ずくで言うことを聞かせてみる?」
はたから見れば完全に見え透いた挑発だったがユーシスとマキアスは顔を見合せると得物を構える。そんな姿をみてますますサラは口角を上げる。
「ついでよリィン!付き合ってあげなさい!」
「えぇ!?いやこれはチャンスだ、俺の今の実力がどこまで教官に通じるか……参ります!」
リィンも太刀を抜き放ち臨戦態勢を取る。サラも得物を構えてこの戦いが始まった。余程二人は一緒の班が嫌だったのだろう。リンクを繋がないながらも見事な連携を取りそこにリィンが合わせる形で戦闘は形になっていた。それでもサラはものともせず絶妙に三人の陣形の穴を突きつつほぼダメージを負う事なく三人に勝利を納めてしまった。
「あら?もう少し粘ってくれると思ったんだけど?」
「ハァハァハァ……強い……」
「クッ!これではまた……!」
「馬鹿な……グッ」
三人は地面に膝を着き顔を上げる事すらままならなかった。
「うーん、ちょっと不完全燃焼ね、よし!私に挑みたいなら立候補しなさい!さぁ!」
「ならば私が行かせて貰おう」
「俺も立候補させてもらう……」
真っ先に立候補したのは予想通りラウラ、続いたのが少し意外であるがガイウスだった。残りのメンバーは顔を見合せ迷っている。
「へぇ、ラウラとガイウスか、悪くはないけど……ハイメ!貴方も来なさい!修行の成果を見せてみなさい!」
「!……わかりました、ハイメ・コバルト教官の胸をお借りします」
呼ばれたハイメは修行の事がバレていたのかと内心思いつつも構えをとる。
「あら?胸を借りるってセクハラ?」
「違います!」
「ん、ハイメが行くなら私も行こうかな……」
「あら?フィーどういう風の吹き回し?」
「別に、明日の実習に備えてもう少し連携の練習するのもいいかもって思っただけ」
さらに意外な人物、フィーが参戦する。見事に四人とも前衛寄りのメンバーが集まった。
「まぁ……いいわ、前衛四人なら作戦を立てた方がいいでしょう、三分あげるから作戦を立てて本気で勝ちにきなさい」
言われた通り四人は円を作り作戦会議を始める。
「フム、作戦……か、こういうのはリィンが得意そうではあるが」
「自分は教官に刃が届きそうなのはラウラとフィーだと思うが」
「俺も同感だ、ならば俺とハイメで二人の血路を開こう」
「イヤ、挟撃の方がいいと思う、二手に別れよう」
話し合いはスムーズに進み大まかな作戦は決まった。後は組分けだが……
「ならば私とハイメで行こう、前回の実習でも組んでいたしやり易い」
「ハイメ、さっきと一緒の感じでいいよね」
「む」
「……」
ハイメにとっては予想だにしない事態となる。まさか二人の方から誘われるとは思わなかったハイメは戸惑いながらも思案し、フィーと組む事にした。ラウラからの視線が少し痛かったがフィーの参戦理由は実習に向けた連携の練習だ。ガイウスは該当しないし、何より折角参戦してくれたフィーの想いを無下にはできなかった。
「そういう事なら……ガイウス頼む」
「頼まれた、血路は開いてみせる」
「フィー頼むぞ」
「ん、サラに一泡吹かせよ」
作戦会議は終わり各々戦闘態勢を取る。
「あら、てっきり男女で別れると思ったけど……へぇ、残りのメンバーは良く見ておきなさい、面白い戦いになるかもしれないわよ!特にマキアスとユーシス!」
リィン達もどうにか回復しサラの言葉に頷く。ハイメはハードルを上げないでくれと内心思ったがここまで来たらやるしかない。
「それでは……始め!」
まず先制をしたのはフィーだった。双銃剣が火を吹きサラを移動させる……がサラは負けじとラウラを牽制しラウラは動き出せない。
「良い位置だフィー!」
アーツを駆動していたハイメは戦術リンクの恩恵でフィーがサラをどこに動かそうとしているか分かったためそこに向けてソウルブラーを放つ。サラは片手剣を振りながはアーツをいなしさらに後退を余儀なくされる。そこにガイウスが走り込み突きを放つがサラは体を捻り最小限の動きで回避する。
「くっ流石に一筋縄ではいかないか!」
「ふふん、そう簡単には……あら?」
しかしハイメとフィーが二手に別れて回り込むようにサラとの距離を詰めている。ハイメの蹴りは外れるもののフィーの斬擊は避けきれずその場で鍔迫り合いとなった。
「くっ」
しかし非力なフィーは押し負けてしまいサラの銃撃を食らってしまう。
「ハァ!」
初動が遅れたラウラも三人がサラを釘付けにしたことにより戦闘に参加し大剣を振るう。その合間を縫うようにガイウスは槍を振るう。お互い被弾しながらもまだ戦況はサラに傾いていた。
「良いわね!予想以上よ!」
話しながらもサラはガイウスとラウラの攻撃を避けつつカウンターを決めていた。ラウラとガイウスは一度後退する事を余儀なくされる。そこにハイメが走りこんでいた。
「選手交代だ、二人とも態勢を!ハァッ!」
二人と入れ替わるようにハイメが蹴りを放つ。勿論その攻撃は虚しく空を切り変わりにハイメは斬擊を貰うが二人とサラの距離を離す事に成功。余裕の崩れないサラの表情に奥歯を噛みしめながら念のため震脚を放ちサラの追撃を防ぐ。
「仕切り直しってわけ?良いわよ!」
ハイメの思惑通りサラは大きく後ろに跳躍しハイメの震脚を回避する。
「ナイスハイメ」
フィーの言葉にハイメはニタリと笑みを浮かべる。サラの跳躍した先にはグレネードが転がっておりサラはやられたという表情をしながら防御の構えをとる。グレネードが炸裂しサラにダメージを与える。さらに煙が晴れないうちに四人は追撃を仕掛けよううと走り出す。
「あらら、本当によくやるわね、少し本気を出そうかしら」
四人とも一瞬サラの気迫に足を止めるが即座にサラに攻撃をさせてはいけないと悟り足を再び動かす。しかしサラの方が上手だった。
「大人気ないけど……ご褒美よ!オメガエクレール!」
閃光となったサラが縦横無尽に駆け回りハイメ達は防御を余儀なくされる。四人が足を止めた所にサラの強烈な斬擊が放たれ四人はその場に倒れ伏した。
「す、凄い」
始めに声を上げたのはエリオットだった。それ以外のメンバーも頷く。四人の連携にも驚いたが、一番の衝撃はサラのSクラフトにより瞬時に四人が戦闘不能に陥った事だった。同時にリィン、ユーシス、マキアスは自分達はかなり手を抜いて相手をされていた事実に打ちのめされる。
「む、無念だ……」
「体が動かない……よ」
「これが……教官の実力……」
「届かなかった……か」
四人とも意識だけはあるようだった。恐らくサラが威力を調整したのだろう。エマとエリオットはサラに促され四人の治療を始める。グラウンドにはサラの斬擊によりちょっとしたクレーターが出来ていた。
「いやーまさか手加減していたとはいえ追い込まれるとは思わなかったわ、アナタ達についてはあまり心配はいらなさそうね、励みなさい十分以上よ、残りのアナタ達も分かってるわよね」
サラは服のホコリを払いつつやってくる。サラの言葉に皆各自思い思い受け止めながらこうして実技テスト2回目は終了した。ハイメ達は肩を借りながらも寮へと帰り翌日の実習に備えるのであった。