愚直な軌跡   作:ネオニューンゴ

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 重ね重ねになりますがお気に入り登録、評価、感想を頂きありがとうございます。作者のモチベーションがとても上がっております。遂に特別実習波乱の二回目でございます、それではどうぞ

追記 報告頂いた誤字を修正しました。誤字報告ありがとうございます。


第八話 翡翠の都へ

~特別実習当日~

 

 前回の実習で寝不足に陥った経験を生かし前日かなり早めに就寝したハイメであったが今度は日が昇る前に目を覚ましてしまう。緊張や高揚もあっての事だろうが我ながら情けないとため息を吐く。せめてもの救いはそれでも十分に睡眠時間を確保出来ている事だろう。

 

「他の皆を起こしても悪いし、少し走ってくるか」

 

 ハイメは努めて静かに物音を立てないように服を寝巻きからトレーニングウェアに着替えて自室の扉を開ける。流石にこの時間に起きている者はいなさそうだ。階段を静かに降りて早朝のトリスタへと足を運ぶ。町の人も全然おらず静かなもので見えるのは配達員の人くらいなものだった気のせいかいつもより空気も澄んでいる気がする。ハイメは街道に向けて足を進める。整備された街道では魔獣もあまり出てこず、また街道脇にいつもは多く見かける魔獣の姿も一際少なく見えた。遠い故郷オルディスにいる両親は達者で暮らしているだろうかと考えつつ走っていく。

 5月の気温は心地よく吹き抜ける風が爽快感を与える。ある程度の距離を走り終えてUターンしトリスタへと戻るとちらほらと町の人の姿見見てとれた。学生寮へ戻りシャワーを浴びてラウンジへと降りる。そこにはマキアスとエリオットが談笑をしていた。

 

「あれ、ハイメ走って来たの?」

 

「あぁ、前回寝不足だったから今回は早めに就寝したんだが今度は逆に早く目が覚めてしまってな」

 

「まったく君らしいというかなんというか……改めてハイメ、僕は僕なりにこの実習に全力を尽くす、迷惑を掛けるかもしれないが宜しく頼むぞ」

 

 そう言うマキアスの目には偽りなくやる気に満ち溢れていた。彼も彼なりに今のままではいけないと分かっているようだ。後は何か切っ掛けがあればマキアスとユーシス、リィンとの確執は解決しそうだ。

 

「頑張ってね二人とも……って僕も頑張らなきゃだよね、正直昨日の四人の戦いには僕も思うところがあったよ」

 

「イヤ、まぁⅦ組きっての実力者揃いだったからな、自分もなんとか着いていくので精一杯だったよ」

 

「またまた謙遜して、そろそろ朝食を食べようか」

 

「そうだな、実習に向けて精をつけよう」

 

 三人は一旦談笑を切り上げて朝食を摂る。朝食を終えたエリオットとマキアスは最後の準備をすると部屋に戻っていった。まだ出発まで時間もあり手持ち無沙汰となるハイメ。

 

「うーむ、どうしたのものか」

 

 既にハイメは荷物を準備しラウンジに置いてあり、いつでも出発出来る状態だった。そうして迷っているとアリサとラウラがラウンジへと降りてくる。どうやらすぐに出発する様子だ。

 

「おはようハイメ」

 

「早いわねハイメ、おはよう」

 

「おはよう二人とも、A班はもう出発するのか?」

 

「えぇ、列車の時間もあるから集合も少し早めなの」

 

「色々大変だと思うが委員長やリィンをフォローしてあげてくれ、特に委員長は前回の実習で相当疲れていたみたいだからな」

 

「ははは、まぁ出来る事はやってみるさ、それに今回はリィンも居るんだ、頼りすぎかもしれないが……サポートくらいはさせて貰うよ」

 

 少し二人と談笑をして二人は駅へと出発する。ハイメは食堂でコーヒーを飲みながら時間を潰していると程なくしてB班のメンバーも集合し、駅へと出発する。先に着いていたA班ももう間もなく列車が来る時間のようだった。ガイウスとラウラはリィンにエールを送っておりそれに苦笑で答えるリィン。そんなリィンをアリサが励ましている。リィンは相変わらず顔が広いなと思いつつ時計を眺めているとユーシスから声が掛けられた。

 

「昨日は失態を見せたな。俺も昨日は流石に考えさせられた、迷惑を掛けるかもしれんが……」

 

 今朝マキアスに同じような事を言われたなと思いつつもユーシスの言葉に待ったをかけるハイメ……が中々次の言葉が出てこないユーシスを見て思わず苦笑するハイメは助け船を出すことにした。

 

「それ以上は言わなくても大丈夫だユーシス、俺達は同じ班の仲間なんだ、お互い目の前の実習に全力を尽くそう」

 

 プライドの高いユーシスからまさかこのような言葉が聞けるとは思わなかったが何はともあれ今回の実習は自分も含めて前回と同じようにいかないと改めて意気込み、ケルデイック行きの列車が到着したためそれに乗り込む。

 余談だがこうして男性陣が密かに意気込む中フィーはあくびを何回もしておりそれを甲斐甲斐しくエマが世話をしていた。

さて列車では六人のボックス席に座っているのだがその席は何とも言えない空気に満ちていた。何も言わず窓際で外を眺めるユーシス、反対の通路側の席でひたすら目を瞑り喋らないマキアス、ユーシス側の席にはリィンとエマが、マキアス側の席にはハイメとフィーが座っていた。会話はまばらにするものの長続きはしない。そんな状況を変えようとリィンはバリアハートについてユーシスに質問するがユーシスはあまり多くは語ろうとしなかった。その態度をみてマキアスが怒りの声を上げるがユーシスはとりつく島もなくただ黙って外を眺めるばかりだった。エマは困惑しておりフィーは自分は関係ないとばかりにどこ吹く風だ。ハイメとリィンは顔を見合せて頷き合う。

 

「いい加減にしてくれ二人とも俺達は考え方は違えど同じ士官学院の生徒だろう」

 

 どうやらリィンも昨日の戦いで思う所があったようだ。いつもは見せない剣幕に二人は驚いていた。

 

「そうだぞ、フォローするとは言ったが二人がその調子ではこちらもフォローしきれん」

 

「それに評価を気にする訳ではありませんが……」

 

 エマは躊躇いがちに口を開く。エマは前回のA班の結果を聞いたらしくその差はダブルスコアに近いようだった。その事実に二人は驚きを隠せないようで目を見開く。リィンは負けっぱなしでいいのか?と二人を上手く煽り今回の実習では休戦する事を約束した。ケルデイックに着いたらスムーズに電車を乗り換えバリアハートを目指す。列車内では先程のような険悪な雰囲気はなくユーシスも素っ気ないながらもバリアハートについて教えてくれ、マキアスもリィンと会話をしていた。

 

「後でリィンさんにもお礼を言いますがありがとうございました」

 

 エマは小声で先程の事について礼を言ってきた。ハイメも小声で返事をする。

 

「いや、ラウラにも頼まれたからな、それにクラスメイトだ、頼りないかもしれないが今回の実習は成功させたいな」

 

「二人だけで内緒話?」

 

「い、イヤそう言う訳では……」

 

「そうですよ、あははは」

 

「ふーん、まぁいいけど」

 

「それより昨日は正直驚いたぞ、フィーも強いと思っていたが教官もあれほどの実力者とは」

 

 とりあえず話題を変えるためフィーに話を振るハイメ。

 

「まぁサラはしょうがないよ、それより私は四人とはいえサラに少しは本気を出させた事に驚いたかな」

 

「昨日は凄かったですもんね……私も頑張らないと」

 

 と三人で話しているとリィンが助け船を出してくれと目で訴えていたためひとまずハイメはユーシスとマキアスと会話をする。そうこうしているうちにバリアハートに間もなく到着する旨が車内アナウンスで放送される。緑と白を基調とした駅が窓から見え、バリアハートに近づいている事を感じさせた。駅に到着すると順番に列車から降りる。流石に四大名門が統治する町だけあってケルデイックとは比較にならない程駅は大きかった。

 

「ユーシス様!お帰りなさいませ」

 

 声がする方を見ると執事とメイドが数人でユーシスを出迎えていた。

 

「実習で戻るだけだから迎えはいらんと連絡したはずだが……」

 

「いえいえ、これでも足りないくらいです、さあご学友様もお荷物をお預かりします」

 

 怪訝そうな表情をしながらこめかみを押さえるユーシス、彼があまりバリアハートについて語りたがらなかったのももしかしたら実家の事情があるからかもしれないとハイメは思う。

 

「そこまでにしたまえ、君達」

 

 長い金髪を纏め綺麗な服を纏った人物の一声で彼らは動きを止める。

 

「ルーファス様!?」

 

「兄上!?」

 

「こうなるだろうと思って来てみたら正解だったな、私は学院の関係者だ、後は私に任せたまえ」

 

「はっ、承知いたしました」

 

「さて、積もる話しもあるだろうが、車を待たせているそこで話そう」

 

 ルーファスに先導され駅前へと案内される。駅前には黒塗りのリムジンが停まっておりルーファスの付き人であろう人物から中へ入るよう促される。皆困惑しつつもリムジンに乗り込んだ。

 

「いや、先程は家の者がすまなかった、自己紹介させて貰おう、ルーファス=アルバレア、ユーシスの兄をさせてもらっている、弟が世話になっているね」

 

「き、恐縮です」

 

「さて、今回は父の代理で私から依頼を手渡す事になっている、受け取ってくれたまえ」

 

 手渡された依頼の封書をリィンが受けとるとそれをしまう。流石にここで見ては失礼だと思ったのだろう。ハイメは窓から街並みを見渡す。水路が良く整備されており街並みも緑を基調としており流石翡翠の都と呼ばれるだけあるなと思った。

 

「フフ、まさかシュバルツァー卿のご子息が弟の学友とは、女神の巡り合わせも面白い」

 

「父をご存じで!?」

 

 リィンの話では辺境の小さな貴族でそこまで有名ではないらしいが、四大名門の人間がまさか父の事を知っているとは思わなかったようでリィンは驚愕する。

 

「いや、前に鷹狩りをした時にご一緒させて貰ってね、テオ卿はお元気かな」

 

「は、ハイ、道楽ではありますが鷹狩りを楽しんでいます」

 

「それにレーグニッツ知事の息子さんだね、彼には私も良く世話になっている、弟と仲良くしてくれると嬉しい」

 

「は、前向きに検討させて頂きます」

 

 流石の貴族嫌いのマキアスもルーファス相手にはたじたじのようだ。

 

「フフ、そちらの三人も弟の学院生活を何かと助けてくれているだろう、これからも宜しく頼むよ」

 

「恐縮です」

 

「い、いえこちらこそ……です」

 

「それほどでも」

 

 畏まるハイメとエマにいつも通りのフィー。

 

「俺の事はいいでしょう、それより滞在先は……」

 

「今回は学院の実習だからね、ホテルをとってあるから安心してくれ、その方が実習にも打ち込めるだろう?」

 

「お心遣い感謝します兄上」

 

 ほっとしたように胸を撫で下ろすユーシス、確かにあの様子ではユーシスは実習どころではないだろう。それか余程家に帰りたくない理由があるのかもしれないがここで詮索するのは野暮だろう。

 

「さぁ滞在先のホテルが見えてきた、何でも頼って欲しいと言いたいが生憎私はこれから帝都に行かなくてはいけなくてね」

 

「いえ送って頂いただけでも十分ありがたいです」

 

「それでは着いたようだし、諸君の実習が上手くいく事を願っているよ」

 

 ホテル前で改めてルーファスに感謝をして滞在先のホテル『エスメラルダ』へと入っていくB班一行。受付ではスイートルームを取ってあるとホテルの支配人は言うがユーシスが断り男子が四人部屋、女子は二人部屋となり各々の荷物を置いてホテルのロビーに集合する。

 依頼の封書を開けると手配魔獣を始めとして様々な人からの依頼が書かれていた。彼等は街の散策も兼ねて依頼をこなしていく事にする。ユーシスの話では街は大きく貴族街、職人通り、平民が暮らす区画、そして大きな飛行場があるとの事。依頼をこなしつつ街の人の話しを聞いていくとユーシスの姿を見て恐縮する者、貴族に対して不満を持つ者等様々な人達がいる事が分かってくる。

 そんな中依頼の一つを受けるために職人通りにある宝飾店を訪れる。カウンターの前にいた男性と話していた店主とおぼしき人物がどうやら依頼人のようで話を聞くとどうやら目の前の男性は結婚を控えており結婚指輪を求めてバリアハートまで来たようだ。しかし手持ちが足りず七曜石等の宝石は手が出せず困っているらしい。そこで店主と話し合って決めたのが宝石としての価値は七曜石に劣るが見た目は劣らない半貴石『樹精の涙』に決めたようだ。しかし貴重な面のに変わりなくバリアハート北のクロイツェン街道に伸びる樹から採れるようだ。

 

「どうする?時間が掛かりそうだし後にするか?」

 

「出来る事なら早く届けてあげたいですけど……」

 

「失礼、『樹精の涙』なら見掛けたが……」

 

 そこで男爵を名乗る男ブルブランから樹精の涙を見たという情報を手に入れる。思わぬ形で目的の品にたどり着る形となりリィン達はお礼を言ってその場を立ち去る。その後ろ姿をブルブランは見つめていた。

 

「彼等がトールズの若き獅子達か……さて私も目当ての物を探さなければ、全くプライベートの時間だというのに忙しい」

 

 そう言いながらブルブランは街へと消えていった。

 

 

ーーーーーーーーーーー

 

 一行はブルブランの情報を頼りにクロイツェン街道へと足を運んでいた。

 

「で、戦闘になったらどうするの」

 

 フィーが歩きながら口を開く、確かに戦闘時の隊列等をまだ決めていなかった。リィンは少し考えた後、リィンとユーシス、マキアスとハイメ、フィーとエマが各々リンクを繋げる事を告げた。特に反対意見も出ずにその案に皆頷く。

 

「丁度あそこに魔獣がいるな……試してみるか」

 

 そう言って各自得物を抜き戦闘を始める。リィンとユーシスが基本的にアタッカーを務めフィーとハイメが 後衛の二人を守りつつ臨機応変に動く。

 

「そこっ、ハイメいったよ」

 

「承知した、ハァッ!」

 

 中でも一際動きが良かったのがハイメとフィーで実技テストの甲斐もあってか声を掛け合いながらエマとマキアスに迫る魔獣に対処していく。リンクを繋がずとも自然と二人はお互いをカバーしあっており難なく魔獣を倒す事に成功した。

 

「凄いな二人とも」

 

「やはり奴等の連携は抜きん出ているか……」

 

「全然こちらに魔獣が来ませんでしたよ」

 

「僕達も負けてはいられないな」

 

 四人は手放しに二人を称賛する。ハイメは自分が調子に乗らないよう顔を引き締めるも内心では喜んでいたと同時に何とか戦闘で足を引っ張らずに済みそうだと安堵する。しかしハイメの動きにフィーがカバーするように動いてくれているのも大きい、改めてハイメはフィーの戦闘力の高さに舌を巻くのだった。フィーはフィーでいつもの調子だ。途中何度か街道に出てきた魔獣を倒しつつ目的の樹精の涙を見つけバリアハートへと戻った。

 宝飾店に着くと貴族の男がリィンの手に持った樹精の涙を取るや口の中へ放り込んでしまう。あまりの事態についていけないがユーシスが睨みをきかせ貴族の男を問い詰めると、どうやら樹精の涙は滋養強壮の漢方にも用途があるらしくまた若返りの薬として知られていた。相当のミラを支払い彼から樹精の涙を譲って貰ったと言う。彼は不服そうながらもその事実を認めていた。何とも後味の悪い結果に終わったが一応この依頼は完遂した事になった。宝飾店を出るとマキアスが口を開く。

 

「名高き翡翠の公都でも色々あるみたいだな」

 

 先程の出来事に腹を立てているのだろう。若干八つ当たり気味にユーシスに言い放つ。

 

「……別に否定はしない」

 

 また言い合いが始まるのではと一同は思っていたがユーシスは否定もせずただ明後日の方向を見ていただけだった。思わぬ反応にマキアスも肩透かしを喰らい反応に困っているようだ。

 リィンがマキアスを嗜めつつ一行は一度昼食を摂る事にした。ユーシスの行きつけだという駅前のレストランで食事を食べ午後から依頼を再開する。残りの依頼は手配魔獣だった。一行は峡谷方面へと足を進める。手配書の情報通り甲殻類の魔獣が峡谷道を外れた開けた場所を陣取っていた。そこでユーシスとマキアスから戦術リンクを試したいと申し出がある。リィンは少し考えた後その提案を承諾した。

 

「念のためフィーとハイメでリンクをしてくれないか?何かあった時に備えて頼む」

 

 リィンは保険として高い連携能力を発揮する二人にリンクを頼む。こうして手配魔獣との戦闘はマキアスの銃弾によって開始された。そこにユーシスが切り込んでいくが硬い甲殻を貫けず後退を余儀なくされる。

 

「硬いな、委員長アーツを!」

 

「ハイ!」

 

 リィンとエマはお互いARCUSを起動しアーツの詠唱を始める。

 

「じゃいこっか」

 

「あぁ試したい事がある、援護を頼む」

 

「了解(ヤー)」

 

 フィーとハイメは二人で駆け出す。マキアスとユーシスが攻撃を加えるもこちらにくる二人を警戒し鋭利な爪を振るう。ハイメはそれを避ける事なくただ前を向いて走り続ける。ハイメに鋏が当たろうとする瞬間フィーの銃が火を吹き攻撃の軌道がずれる。ハイメは内心で流石だなと思いつつもその場で跳躍する。

 

「いくら甲殻が厚かろうと内部の衝撃までは殺せまい!震脚!」

 

 ハイメは踏みつけるように足を振り下ろす。ハイメの目論み通り内部までの衝撃は殺しきれないようでその場で魔獣は態勢を崩す。

 

「崩れた!」

 

「よっと」

 

「チャンスだ!」

 

 フィーがグレネードを投げつけマキアスのショットガンが魔獣を襲う。態勢を建て直せない魔獣は苦し紛れに爪を振るうが破れかぶれな攻撃は誰にも当たらない。ハイメ、フィー、マキアスはすかさず後退する。

 

「よしARCUS駆動!」

 

「いきます!」

 

「合わせるぞ!」

 

 リィン、エマ、ユーシスのアーツが魔獣に直撃し、決して少なくないダメージを与える。それを見てユーシスとマキアスが距離を詰め追撃を仕掛ける。

 

「好機!……!?」

 

「畳み掛けるぞ!……!?」

 

 しかし追撃を仕掛けようとしたその瞬間二人の戦術リンクが途切れる。それに動揺してしまった二人は隙をさらしてしまう。咄嗟に引こうとするユーシスがタイミング悪くマキアスの射線に入ってしまう。

 

「オイ!」

 

「貴様……!うおっ」

 

 これにより後退が遅れたユーシスが魔獣の攻撃の餌食となってしまう。マキアスもなんとかユーシスを助けようと試みるがユーシスがことごとく射線に入り上手くいかない。

 

「いかん!フィー!」

 

「分かってる」

 

 フィーが銃撃で魔獣の気を引きその間にユーシスが離脱、ユーシスと入れ替わるようにハイメが魔獣の真下に潜り込む。

 

「喰らえ烈空穿!とった!リィン!うわっ」

 

 ハイメが一撃を入れるものの大したダメージも与えられず魔獣は爪でハイメを吹き飛ばす。

 

「まかせろハァァァァァ、焔の太刀!」

 

 あらかじめ距離を詰めていたリィンの必殺の一撃が直撃し魔獣は沈黙する。勝つには勝ったが危ない勝利を収める。

 しかしこれで無事終了という訳には勿論いかない。

 

「どういう事だ!ユーシス=アルバレア!どうしてあんなタイミングで戦術リンクが途切れる!?結局僕を平民だと腹の底では見下しているのか!」

 

「阿呆が……!貴様のその考えと視野の狭さが戦術リンクを途切れさせたのだろう!」

 

ユーシスとマキアスは胸ぐらを掴み合い再び険悪になる。

 

「!危ない!」

 

 リィンが声を上げながら二人の前に割って入る。沈黙した筈の魔獣は二人に向かって爪を振るっておりリィンは咄嗟に太刀の幸で防御する。がその巨体から繰り出される攻撃の全てを防御しきれず肩に傷を負ってしまう。

 

「リィン!クソォ!」

 

「リィンさん!」

 

 ハイメとフィーが即座に魔獣に攻撃を加え今度こそ魔獣は完全に沈黙する。エマはリィンの元に駆け寄り傷の手当てを行っていた。その事態をマキアスとユーシスはただ呆然と見ているしかなかった。

 

「大丈夫か!?リィン!」

 

「あぁ……戦闘は厳しいが……それより二人とも怪我はないか」

 

「あ、あぁ」

 

「君は……」

 

「実習は2日あるんだ、リンクはまた試せばいいさ……くっ」

 

 リィンにそう言われれば二人も引き下がるしかなくこの場はなんとか収まった。いつもならば手配魔獣を倒して街へ帰れるのだがこの依頼は領邦軍からの依頼でこの先にある『オーロックス砦』にある領邦軍の詰所まで報告しに行かなければいけなかった。

 

「とりあえず砦につくまではリィンは戦闘に参加できそうにないな、委員長は戦闘になったらリィンを守ってあげてくれ、ユーシスは自分と、マキアスはフィーとそれぞれお互いをカバーしよう」

 

 一先ずの戦闘隊列を決め一行はオーロックス砦を目指す。途中ケルデイック方面に向かう装甲車等が見てとれ、マキアスやエマ曰く相当のミラが掛かっているのではないかとの事だった。砦に着く頃にはリィンの傷もかなり回復していた。

 

「しかしこれがオーロックス砦……砦というより要塞じゃないか」

 

「あぁ凄い数の装甲車だ」

 

 砦内には様々な兵器が配備されておりこれからの戦いを予感させるには十分過ぎた。一先ず詰所で報告を済ませ無事1日目の依頼は全て終了しオーロックス砦を後にする。

「待て!共和国側に面するクロスベル方面ならともかくこの軍備はどういう事だ!」

 

 明らかな戦力の異常さにマキアスがユーシスに言葉を投げ掛ける。いつもならマキアスを諌めている場面であったが確かにハイメ達も気にはなっていた。ユーシスは少し沈黙した後口を開く。

 

「貴様も分かっているのだろう、これが帝国の現状だ、四大名門の『貴族派』と鉄血宰相ギリアス=オズボーン率いる『革新派』水面下では対立が激化している、その一端だ」

 

 帝国の現状、ユーシスの言葉通り目で見て実感する事となった。帰り道途中でけたたましいサイレンが砦方面より鳴り響く。 一堂は何事かと思い周りを見渡す。フィーが何かに気付いたようで空を見上げると白い飛行物体が上空を飛んでいた。

 

「なんだ!?この辺にはあんな鳥が生息しているのか!?」

 

「おいおいマキアスいくらなんでもそれはないだろう」

 

「阿呆か貴様は」

 

 ハイメとユーシスがマキアスの言葉に突っ込みを入れる。自分でもあり得ないと思っていたのかマキアスは後頭部を書く掻きながら半笑いする。

 

「ですがあれは一体?」

 

「子供が乗っているように見えたが……」

 

 リィンの言葉にフィーが頷く。他のメンバーは驚きの表情を見せる。程なくして領邦軍の装甲車が出動しユーシスが事情を聞くとオーロックス砦に侵入者が入ったとの事だった。この事についてこの場で考えても仕方ないと思った一行はバリアハートへと帰還する。

 

「疲れたな、色々あった1日だった」

 

「あぁ……だが勉強になったな」

 

「レポートに纏める事が多くなりそうだな、それじゃあホテルに戻ろう」

 

 リィンに促されホテルまで戻る一行。ホテルの前まで来るとユーシスは何かに気がついたようで後ろを振り返る。そこには銀色の高級車が停まっておりユーシスが駆け寄ると窓からユーシスの父であるアルバレア公が顔を覗かせる。だがその会話はお世辞にも家族同士の物とは思えずアルバレア公はユーシスに家名に泥を塗らないようにとだけ強く言って去っていってしまう。一連の流れでユーシスは下を向いて沈黙してしまう。フィーが「なにあれ」と口を開きマキアスが皮肉を言うと憎まれ口が返ってくる。どうやらいつもの調子を取り戻したようだった。

 そこから各自部屋に荷物を置き一時間程休憩兼自由時間をとってから全員で夕食を摂る事にした。ハイメは工房に赴きクオーツ等を見直そうかとホテルの一階に降りるとマキアスが項垂れていた。流石に見て見ぬ振りをする訳にもいかずハイメはマキアスき声を掛ける。

 

「お疲れ様だマキアス」

 

「ハイメか……」

 

 その顔には疲労が見てとれた。少し話がしたいという事で場所を移し中央広場のベンチにやってきた二人。そこでマキアスから自分が貴族を嫌う理由を話された。マキアスの姉は貴族の男性と交際をしていたのだが、その貴族の男性に急にカイエン公の者との縁談が持ち上がったらしい。露骨にマキアスの姉とその男性を結ばせないためであり様々な嫌がらせもマキアスの姉は受けたようだ。それでもマキアスの姉は周りに迷惑をかけないため一人で耐えた、しかしその貴族の男性の愛妾でも大事にするからという一言が切欠で命を自ら絶ってしまった。

 

「本当は僕も分かっているんだ、貴族の人全てが悪い人ではない、でも……」

 

「心が認めない……か」

 

 マキアスの貴族嫌いの根底は想像を絶するものだった。

 

「それでもマキアスは前に進もうとしているじゃないか」

 

「!!」

 

「自分は昔前に進むための努力を諦めてしまった時期があってな……諦めるのは簡単だったが灰色の人生だったよ、だから偉そうな事は言えないが少しずつでいいんだ」

 

「あぁ……話したらスッキリしたよ、今日は本当に済まなかった」

 

「それはリィンに言ってやれ、さてそろそろ夕食の時間だ戻ろう」

 

 きっとマキアスが自分から貴族を嫌う切欠を話してくれたのも相当の勇気が必要だっだろう。ハイメはその事に感謝しながらホテルへと戻る。ロビーには既に他のメンバーが集まっていた。

 

「あ、来た」

 

「済まない待たせてしまった」

 

「自分も申し訳ない」

 

「いや、いいさ行こう」

 

 一行はバリアハート中央広場に店を構えるレストランで夕食を摂る。出てきた料理は豪勢過ぎる物ではなく素人目で見ても栄養バランスが考えられたものだと分かった。ユーシスもよく訪れていたらしく、ここの味で育てられたようなものと言うから相当気に入っているのだろう。マキアスも嫌味なく素直な称賛を送りハッとした顔をしていた。夕食を食べ終え、食後のコーヒーを楽しむ。

 

「今頃A班の皆はどうしてるかな」

 

「きっと上手くやっているのだろう、向こうはラウラもいるしな」

 

「現時点ではまだA班に負けているのでしょうね」

 

 話題は自然とセントアークで実習を行っているA班の話しになる。ただA班には穴という穴も無く恐らく順調に実習が進んでいるだろうと予想がつく。現時点ではA班に差が付けられているだろうとリィンは推測していた。

 それから話題に上がるのはやはりオーロックス砦の軍備と貴族派と革新派の対立だった。しかしどの話しも憶測の域を出ず確かな事は明日からの実習で学んでいくしかないと結論づけられたのだった。

 一行はホテルに戻り各自レポートを纏め就寝する。ハイメは疲れてはいたが中々寝つく事が出来ずにいた。そこでユーシスからリィンに語られるユーシスの家族の事、自分は平民の母から生まれた子である事が語られる。盗み聞きをしているようで申し訳ない気持ちになりながらもユーシスは確かな熱意を見せていた。明日からの実習はマキアスとユーシスきっと二人の戦術リンクが成功するであろうと確かな予感を胸に抱きつつハイメは静かに眠りに落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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