~特別実習2日目~
ハイメは前日早くに目を覚ましたせいか実習2日目もかなり早く意識が覚醒してしまった。まだ他の三人は寝息をたてていたためもう一度眠ろうと目を閉じるが難しい。ハイメはため息を一つ吐き制服に袖を通して部屋を静かに出る。ロビーに出て朝の日差しを浴びつつ今日の新聞を開いて読んでいた。
「おはようございます、早いですね」
「おはよう、委員長も早いな」
しばらくするとエマが階段から降りてきて声を掛けてくる。時計を見るとまだ朝食の時間まで一時間程あった。
「フィーは……いつもの様子ならまだ寝てるか」
「はい、昨日頑張ってレポートをまとめていましたから」
「はは、フィーがレポートを書いている姿はちょっと想像できないな」
「ふふ、結構頑張ってるんですよ?」
二人はその後前回の実習について話し合う。ハイメは反省するべき点がありながらも他のメンバーに支えられてなんとか実習を終えられた事、エマは遠慮がちに気苦労が絶えなかったと話していた。
「そういえばルナリア自然公園はどこか普通の場所と雰囲気が違ったな」
ハイメがルナリア自然公園の話をするとやけに興味深く聞いてくるエマ、ハイメは覚えている限りの事を話す。
「それは……興味深いですねもしかしたら失われた属性の力が働いていたのかもしれません」
「失われた属性?」
「はい、詳しくは分かりませんがそれぞれの属性を複合したような属性だと」
本当にそんな物があったらきっとそれは強力な力になるのだろうなとハイメは考えるが失われているようなので結局それは絵空事なのだろうなと思考を切り上げる。そのまま委員長と談笑をしていると他のメンバーが起床してきて朝食を摂る。
2日目の依頼を確認し新たにレグラム方面に手配魔獣が確認されたようだ。出発前に突然マキアスがわざとらしく咳払いをする。
「ごほん!ユーシス=アルバレア、実習期間は明日の朝まで……戦術リンク、なんとしても物にするぞ!」
その言葉にユーシスはニヤリと笑いマキアスを揶揄する。
「単純な奴だ、盗み聞きが得意らしいな」
「べ、別に君達の事情など……あっ」
自分の落ち度に気付き顔を赤くするマキアス、それをフィーがからかうとマキアスはフィーの普段我関せずな態度を怒り、何故かエマに対しても次の試験では負けないと宣誓した。因みにハイメは自分は何と言われるのだろうとドキドキしていたが言及されず嬉しいやら悲しいやら微妙な気持ちになったのは内心だけの話だ
そしてこれから……という時に使用人か現れユーシスが本邸から呼び出しを受けた。ユーシスは後から行くと伝えろと言うが厳命と言われ断れない様子だ。表情には出さないが少し悔しそうにしているように見え、ユーシスにマキアスが水を向ける。
「戦術リンクの使い方は僕が先に掴んでおく、君には後から僕がコツを教えてあげよう」
「フン、丁度いいハンデだ……後から合流する必ずだ」
そう言い残すとユーシスはアルバレア邸へと歩みを進めた。気を取り直してハイメ達は実習を進める事にする。さてユーシスが居なくなり街の人に話を聞くと昨日とはかなり変わった意見が聞けた、露骨に税や軍備に対して不満を持つ者が多い、それでも子供等からは意外と好感を持たれている事が分かる。貴族や上流階級の中には庶子の出だと侮る者もいたが……。一行は準備を整えてレグラム方面へと足を運ぶ。その道中マキアスは戦術リンクのコツを聞いてくる。
「しかしどうすれば戦術リンクを使いこなせるんだ?」
「んー、勘?」
「相変わらず君は抽象的だな!」
「俺は相手に合わせる事が大事だと思うぞ」
「私もそうしています」
「自分も最初は上手くいかなかったがこのままでたまるかという強い気持ちが戦術リンクを成功させたな、抽象的ですまない」
各々のメンバーからコツを聞いたマキアスは礼を言う。道中戦闘をなるべく行い試してみるが簡単にはいかなかった。結局マキアスの戦術リンクは成功しないまま手配魔獣の元までたどり着いてしまった。
「リィン、改めて昨日はすまなかった」
「いや俺も昨日は怪我をして皆に迷惑を掛けた、ユーシスは居ないが昨日のリベンジを果たそう!」
五人は得物を構え三つ首の植物型魔術、ヴィナスマントラとの戦闘に入る。戦闘になるとヴィナスマントラを守るように小型の植物魔獣、トラップマントラが現れた。
「数が多いな、大型は俺とフィー、委員長が引き受ける!ハイメとマキアスは取り巻きを頼む!」
「任された、出るぞマキアス!」
「あぁ!」
リィン達がヴィナスマントラに集中出来るよう周辺のトラップマントラに向かっていく。マキアスは散弾をメインにしてなるべく多くのトラップマントラに攻撃を当ててこちらに引き付ける。
「来るぞハイメ!」
「承知した、参る!」
ハイメもなるべく多くのトラップマントラにダメージを与えるべく回し蹴りを放つ。その勢いのまま一体に狙いをつけて踵落としを当てる。一体は力無くその場でセピスへと姿を変えた。マキアスもハイメの攻撃範囲から逃れようとする何体かのトラップマントラを逃がすまいと追撃を掛けていた。それを見たハイメはARCUSを駆動する。
「よし『デモンサイズ』!」
死神の鎌がトラップマントラの命を刈り取り残りのトラップマントラは半数程となる。ちらりとリィン達の方を見ると三つの首から放たれる障気でフィーの機動力を封じムチでわざとリィンではなくエマを狙いリィンがカバーしている。どう見ても手数が足りてない事は明らかだった。アーツを放ったハイメを袋叩きにしようと残りの半数が近づいてくる。ハイメは待ってましたと言わんばかりに震脚を放つ。大地が揺れトラップマントラ達は体勢を崩す。
「よし!崩した……うおっしまった!」
だがハイメは焦るあまり戦術リンク前提の動きをしてしまい即座に追撃に移れない。被弾覚悟でハイメがもう一度震脚を放とうとした瞬間トラップマントラ達に銃弾が降り注ぐ。驚いて周りを見渡すとマキアスがハイメが射線に入らない位置から銃を構えていた。二人はお互いを見てさらに驚く、二人の体は淡い青い光に包まれており、そこから伸びる一本の線がお互いを結んでいた。
「凄い……これが戦術リンク」
「やったなマキアス、だがまだ戦いは終わっていない、行こう!」
一方のリィン達は状況がかなり悪くなっていた。リィンが障
気に体を侵され動きが鈍くなるとヴィナスマントラはリィンを集中的に攻撃し始めそれを庇うよう無理に前線に出たエマが戦闘不能になってしまう。フィーはなんとか自分で回復しつつ反撃に出ているが決定打にはなりえていなかった。
「まずいな……毒が……くっ」
リィンが膝を着く姿を横目でみたフィーは多少強引に攻勢に出る。跳躍し三つ首の一つに銃剣を突き立てるがすぐに振り払われ、攻撃を受けてしまう。なおも眼前にムチが迫ってきていた。
「やばっ」
「させん!」
フィーの前に立ちはだかりヴィナスマントラのムチを防御するハイメ。そのままムチを蹴りあげフィーを連れて一度距離を取る。
「すまない遅れてしまったが大丈夫か?」
「私はそこそこ、リィンと委員長が」
「あぁそれならマキアスが向かっている、二人が回復するまで時間を稼ぎたい、頼めるかフィー?」
「当然」
フィーは口角を少し吊り上げ銃剣を構える。二人はリンクを繋ぎ再びヴィナスマントラへと向かって行く。ヴィナスマントラは煩わしそうにムチをハイメとフィーに向かって振るうが回避に専念している二人を捉える事が出来ないやいなや今度は障気を吐き出そうと溜めを作る、その溜めをハイメは待っていた。
「烈空穿!」
下からヴィナスマントラを蹴りあげヴィナスマントラの首は上を向き障気を吐き出す。必然的にハイメとフィーに障気は当たらずフィーも好機とばかりに攻撃に移る。
「ナイスハイメ、やっ」
「加勢するぞ!」
リィンの声と共にマキアスとエマがアーツを放ちリィンが渾身の袈裟斬りを放つ。ヴィナスマントラは力無く地に倒れようやく手配魔獣の依頼を成功させた。皆が喜ぶ中マキアスは昨日ハイメに話した事を他のメンバーにも話し、貴族が苦手なのは変えられないが貴族相手にも柔軟に対応していく事、それから戦術リンクを成功させられたのは皆のおかげだと頭を下げ礼を述べた。
「今度はそれをユーシスに言ってやらないとな」
「奴は素で気に食わない!」
思わず苦笑するリィンとエマ、やれやれと肩をすくめるフィーとハイメ何はともあれ依頼を終えた一行はバリアハートに帰還する。職人通りのあたりでフィーがおもむろに警戒態勢を取る。前を見ると領邦軍の姿が見える、どうやらハイメ達の帰りを待っていたようだ。
「マキアス=レーグニッツ、貴様をクロイツェン州領邦軍の名において拘束させてもらう」
突然の事態に付いていけず困惑する一堂、マキアスはそのまま領邦軍に連れていかれてしまった。その様子を建物の陰から見ている金髪の青年がため息を吐きながら一人ごちる。
「アイツの嫌な勘が当たっちまったか、さてどうするかね」
そう言いつつ青年は姿を消すのだった。一方事態に納得できない一行はバリアハートの領邦軍詰所まで行き兵士に食い下がっていた。話を聞くとマキアスはどうやらオーロックス砦侵入の容疑で拘束されたらしい。
「そんなバカな!」
「彼は俺達と行動を共にしていたんです、ありえません!」
しかし兵士は聞く耳も持たず、最後に既に決まった事だ、ユーシス様に会おうとしても無駄だと締めくくりリィン達を追い返した。一行は状況を整理するため一旦カフェへと足を運ぶ。そこでマキアスの捕まった理由を推察していくと、昨日の貴族派と革新派の対立が浮かび上がる。マキアスの父である帝都の知事カール=レーグニッツは革新派として知られる人物だ。恐らくマキアスを使い取引を行うつもりだろうと結論が出る。
「人質を無闇に傷つけることは流石にないと思いたいが……」
「痛めつけるくらいの事はするかもね」
「そんな……でもあえりえますよね」
「いっそ煙幕で混乱させてその隙にさらっちゃう?」
「イヤイヤフィー、何で煙幕なんて持っているんだ」
「乙女の嗜み?」
「だが俺達が士官学院の生徒である以上下手に騒ぎを起こさない方が懸命だと思うぞ、ていうか乙女の嗜みとは一体?」
マキアスを取り返すならば市内で拘束されている今しかない。一行は頭を悩ませ方法を模索するが中々妙案が浮かばない。
「マスター、そういえば用水路は大丈夫かい?」
カウンターの方を見ると金髪の青年が用水路の魔獣について話している。彼は珈琲を飲み干しリィン達に目を向けると頑張れよと言い残し店を去って行く。青年が去った後マスターに話を聞くと彼は帝国ではあまり見かけない遊撃士らしく少し前にバリアハートの街の下に広がる地下水路に現れた魔獣を退治してくれたらしい、詳しく地下水路について聞くと地下水路は街全体に張り巡らされており、なんでも公爵の館にも繋がっているらしい、と冗談めかしに言うマスター。一行は店を出て頷き合う。
「地下水路、そこからならきっと領邦軍の詰所にも行ける筈だな」
「そうだね、軍が退路を確保するのは当然の事だし可能性は高いと思う」
「あぁ、とりあえず入り口を探そう」
「急ぎましょう」
一行は用水路脇を注意深く観察し橋の下に比較的新しい施錠がされた扉を見つける。どうやらここが地下水路への入り口のようだ。
「どうする、ルナリア自然公園の時のように俺が破壊するか?」
「いや、街の中だし昼間だ、人目につく可能性が高いぞ」
「ちょっと試してみますね」
エマはそう言うとポケットからヘアピンを取り出しピッキングを試みる。鍵穴にヘアピンを通した時エマは小言で何かを囁くとカチャリと音がして施錠が外れる。
「良かった前に本で読んだんですけど上手くいきました」
「委員長、何か囁いていたみたいだが」
「私も聞こえた」
「自分もだが」
「あ、あはは、さぁ時間もありませんし行きましょう」
はぐらかされた感じだがエマの言う事も事実のため深く追及せず一行は地下水路へと降りていく。所々陽の光が差し込み、地下水路とはいえどこか幻想的な作りをしている。一行は詰所を目指して足を進めるが魔獣も多く行く手を遮る。
「時間は掛けてられん仕掛けるぞリィン!」
「あぁ、ハイメ!」
リィンとハイメは戦術リンクを繋ぎ魔獣を蹴散らしていく。途中回り込む選択肢もあったが時を争うためなるべく速攻を掛け最短の道を突き進む。道程を考えちょうど中間地点に差し掛かった所で人の気配を感じ身構える。気配の方を見ると騎士剣を持ったユーシスが姿を表す。
「貴様ら……何故ここに」
「ユーシス!?」
「考える事は一緒のようだな」
ユーシスはリィン達が自分と同じ行動をしていると思わずかなり動揺しているようだ。咳払いを一つして「奴に恩を着せようと思っただけだ」とユーシスは言い放つ。素直に心配して来たと言えない所がユーシスらしいと一同は苦笑しつつユーシスをメンバーに加えて地下水路を進む。そうして恐らく領邦軍の詰所の真下であろう場所に到着した。
「位置的にここだと思うんだが……」
「これは……」
一行の前に立ち塞がるのは鉄製の固く閉ざされた巨大な扉。こちら側に鍵穴も存在せず解錠も不可能なため途方に暮れてしまう。
「くっマキアスは目と鼻の先にいるのに……」
「いっそアーツでも全員で放ってみるか……?」
さらなる問題が起き一行は頭を悩ませる。そんな中フィーは周辺の壁をペタペタと触り何かを探っていた。
「このくらいならなんとか……」
そう言うとフィーは白い粘土状の物体を取り出し扉の要所にセットしていく。「下がって」とフィーに促されると次の瞬間小さな閃光がはしり小さな爆発が起きる。枠を吹き飛ばされた扉はこちら側に傾き倒れる。その光景に呆気にとられる一同。
「フィー、今のは?」
「ただの樹脂製爆薬、使いやすいように調合してるけど?」
「それも乙女の嗜みか?」
どうやらⅦ組のメンバーが抱いていた疑問を確かめなければいけない時が来たようだ。リィン達よりも二歳年下で士官学院に入学し、どこか飄々としながらも手を抜き無難に訓練をこなし、あまつさえその戦闘能力はⅦ組でも三本指に入るであろう。リィンはフィーの素性を聞かずにはいられなかった。
「フィー、君は……いったい?」
「別に……ただ昔猟兵団に所属してただけ……」
「猟兵団……」
『猟兵団』ミラを受けとる事で仕事をこなす傭兵、その中でも優れた傭兵団に与えられる称号であり大陸に数多く存在する。プロフェッショナル、そこに所属していたというのならば彼女の能力の高さにも頷ける所がある。
「マキアス、助けに行かないの?」
言葉を失う一同だったがフィーの言葉で気を取り直し扉の先にある階段を上がって行く。階段を登りしばらく歩くと地下牢区画に到着する。程なくしてマキアスが捕らえられている拘置用の牢屋を発見する。
「君達どうやって!?」
マキアスが驚くのも束の間、騒ぎを聞きつけた領邦軍の兵士が現れる。帝国の兵士に刃を向けていいものか躊躇うもユーシスの「かまわん!落とせ!」という一言に覚悟を決める。
「貴様ら!こんな事が許されるとでも思っているのか!」
「無実の人間を不当な理由で拘束するとは貴様らこそ覚悟は出来ているんだろうな!」
「ユーシスの言う通りだ、こうなれば自棄だ!徹底的にやってやる!」
意外にも領邦軍との戦闘で活躍したのはユーシスとハイメの二人だった。流石の領邦軍もユーシスに手を上げるのを躊躇いユーシスは容赦なくその隙を突いて騎士剣を振るう。
「我が鳴神流は対人戦闘を想定されたもの!魔獣より幾分かはやりやすい!」
ハイメは鳴神流の真価を発揮し、魔獣相手には通用しない足の運び、視線の動きを読み取り攻撃を回避しながら攻撃を当て兵士を気絶させていく。程なくして兵士は全員気絶しその場に倒れる。兵士の一人から牢屋の鍵を拝借しマキアスを牢獄から解放する。近くにはマキアスの荷物も置いてあり回収する。
「君達!これからどうするんだ!」
「とりあえず引くぞ!」
リィンの号令で一行は地下水路まで引き返していく。所々夕陽が差し込んでおり時刻は夕方である事を実感させる。開けた場所に出た所でリィンとフィーが何かの気配を察知し急がせるもその努力も虚しく二体の獣の咆哮と共に道を一匹に塞がれてしまう。現れたのは大型の軍用獣、部分的に装甲を纏い紅蓮と漆黒のに二体の犬型魔獣だった。回避不可能と考えた六人は武器を構え魔獣を撃退する事に決める。
「トールズ士官学院Ⅶ組B班行くぞ!」
先手を取ったのは二体の魔獣の方で並外れた機動力とパワーで爪を突き立てようと前足を振り下ろしてくる。まともに食らえばひとたまりも無い事は容易に想像出来、フィーとリィンが各々攻撃の軌道をずらす。
「フィー、行くぞ!」
「了解」
そのままリィンとフィーはリンクを繋ぎ狙いを紅蓮の魔獣の方に絞り攻撃を仕掛けていく。
「委員長!自分達も!黒い方をやるぞ!」
「ええ!」
ハイメとエマがリンクを繋ぎエマはARCUSを駆動させる。ハイメはエマを守るべく漆黒の魔獣に肉薄していく。リィンとフィーはヒット&アウェイ戦法を取り少しずつではあるが確実にダメージを重ねていく。
「今回は特別に合わせてやる、僕達もいくぞ!」
「フン貴様の指図は受けん……と言いたい所だがいいだろう、合わせろマキアス=レーグニッツ!」
そしてユーシス、マキアスは戦術リンクを成功させ状況を見て二体の魔獣両方の相手を勤めていた。しかし二体の魔獣はこれまでの敵と違い互いをカバーしあいながら時には標的を変え巧みに立ち回っていく。
「ちっ、鬱陶しい!」
「巧い」
「あぁ連携しながら戦ってる厄介だな……」
幸い攻撃が直撃した者はいないが一行は確実に体力を消耗させていく。ハイメ、マキアス、エマは範囲攻撃の出来るアーツで二体同時にダメージを与えようとするが中々命中しない。
「ぐわっ」
二体に同時攻撃をされたリィンが大きく吹き飛ばされ前線はユーシス、フィーの二人となる。お世辞にも二人は打たれ強いとは言えず一体突破を許してしまう。
「しまった!そちらに行くぞ!」
ハイメはちらりとマキアスとエマを見ると二人は既にARCUSを駆動させている、今援護に行けるのはハイメしかいない。
「くっ」
二人を守るべくハイメは駆け出し漆黒の魔獣と相対する。
「通さん!」
ハイメは烈空穿を放つが漆黒の魔獣の勢いは止められず後衛の二人への攻撃を許してしまう。
「うわぁっ!」
「きゃあ!」
その間に紅蓮の魔獣も抜け目なく援護に向かおうとするユーシスとフィーをその場に釘付けにしマキアスとエマは窮地に立たされてしまう。マキアスをエマを守るように前へ出て防御態勢を取るがそれでは防ぎきれず地に倒れてしまう。
「マキアスさん!」
「マキアス!貴様ァ!」
リンクが途切れた事によりユーシス、フィーもかなり疲弊している様子、状況はかなり悪かった。リィンが意識を取り戻し救援に向かうもどちらも状況が悪くどちらを助けに行けばいいか判断がつかない。
「構わん!ユーシスとフィーの援護を!」
「でも!」
「構わんと言ったぞリィン!」
ハイメの言葉に頷きユーシスとフィーの救援に向かうリィン。一方ハイメの前に立つ漆黒の魔獣はこちらを侮るように対峙している。
「その余裕これで吹き飛ばす、ハァァァァァ!」
ハイメはある種の予感めいた物を感じていた。それは実習前にアンゼリカより教わった気のコントロール、それが今ならば出来るのではないかと。神経を集中させ体全体に気を張り巡らす。それを一気に解放するイメージで解き放つとハイメの体は青いオーラに包まれていた。
「剛龍招来(ドラゴンブースト)、出来ましたよアンゼリカ先輩!」
言葉と共に地を蹴り漆黒の魔獣の横顔に蹴りを入れる。魔獣は予想外の衝撃に頭を揺らされ意識を一時刈り取られる。ハイメはこれが自分の脚力かと驚きながらも攻撃の手を緩めない。ひたすら蹴りを放ち今度はハイメが漆黒の魔獣を釘付けにする。
「うおおおおおおお!」
ハイメの気迫に押されジリジリと体を後退させていく魔獣。
「行ける、このまま押しきッ……!?」
しかしハイメの猛攻も止まってしまう。元々ぶっつけ本番でこの技を敢行し全身の気をコントロールしながら猛攻を掛けるにはいささかハイメの実力的にも体力的にも難しかった。むしろよくここまで行えたと言えるべきなのだが状況はそうもいかない。魔獣はハイメから青いオーラが霧散したと見るや反撃に出る。爆発的な力を発揮した体は悲鳴を上げておりハイメは満足に防御もできないまま漆黒の魔獣の爪の餌食となってしまう。吹き飛ばされ地に転がるハイメ、その表情は悔しさと怒りを滲ませていた。
(クッ何故だ!何故自分はこうも肝心な時に役に立たない!力が……足りないのか、何もかもが!)
「ぐあっ!」
漆黒の魔獣は前足をハイメの背中に乗せ少しずつ体重を掛けていく。魔獣はハイメをなぶり殺す気だった。その口元には笑みが浮かんでおり少しずつハイメを痛め付けていく。
「ぐあああああ!」
あまりの痛みに苦悶の声を上げるハイメ、体が軋み嫌な音をたて始めている。徐々に強まる痛みで意識も手放す事も許されずただ襲ってくる痛みに声を上げるしか出来なかった。
「やめろぉぉぉぉぉぉ!」
ハイメが最後に目にした光景は炎を纏った太刀を構えこちらに走ってくるリィンの姿だった。体に掛かる体重が軽くなっていくのを感じながらハイメは意識を手放すのであった。
sideリィン
リィンは自分が意識を取り戻した時、状況は最悪といって差し支えなかった。エマ、マキアスは戦闘不能、2体の魔獣に対し片方はユーシスとフィーがもう片方はハイメが一人で対峙していた。普通ならば一人のハイメの方に加勢するべきだがユーシスとフィーも満身創痍、どちらも危うかった。迷うリィンにハイメは自分に構わず二人を助けに行けと言う。リィンはハイメの目に力がある事を確認し言われた通り二人の援護に向かう。魔獣も体力は削れていたらしくリィンが来たことにより形勢は逆転し程なくして魔獣は力なく倒れる。
(よし!これでハイメの方に援護に行ける!)
「ぐあああああ!」
リィンがそう思った矢先にハイメの声が地下水路中に木霊する。
「ハイメ!?」
声のする方を見るとハイメは苦悶の声を上げながら漆黒の魔獣に痛ぶられていた。
「リィン!こっちはもういいからハイメを!」
「クソ!行けシュヴァルツァー!」
フィーとユーシスの声が聞こえると同時にその場から反転し急いで漆黒の魔獣の元へと走り出す。マキアスも戦闘可能な程回復しておりこちらに駆けつけていた。マキアスの銃から弾丸が発射され仰け反る魔獣。
「やめろぉぉぉぉぉぉ!」
リィンは自身の最大の奥義である焔の太刀を放ち、漆黒の魔獣を切りつける。漆黒の魔獣は力無く体を横に倒す。後ろから大きな音が聞こえ紅蓮の魔獣も倒された事は確認するまでもなかった。一同は魔獣を倒した事を喜ぶ暇も無くハイメに駆け寄る。
「ハイメ!ハイメ!しっかりしろ!」
「下がってリィンさん早く手当てを!」
「くっ貴様!俺はまだ貴様に礼を言っていないのだ!死ぬなど許さんぞ!」
「バカ!何を言ってるんだ!ハイメが死ぬわけないだろう!」
「ハイメ……ごめん」
リィンがハイメを抱え起こすと体に力は入っておらず顔から血の気も引いていた。エマはARCUSを駆動し必死にハイメの治療に当たる。
「クソッ!俺があの時ハイメの方に向かっていれば!」
「でも……そしたらこうなってたのは私かユーシスかもしれない、体を張って……無茶しすぎだよ」
「クッ!僕が……僕が領邦軍に捕まりさえしなければ!」
「皆さん静かに!集中しています!」
「貴様ら!両手を頭の後ろに組め!貴様らは既に包囲されている!」
場違いな声と複数の足音が響きリィン達を包囲する。リィンは怒りに顔を滲ませながらゆらりと立ち上がる。
(コイツらが……!ハイメを守るためにもあの力を……)
「そこまでだ、君達は彼を急いで病院へ!」
凛とした声が響き領邦軍は明らかに取り乱している。それもそのはず帝都にいる筈のルーファス=アルバレアその人が目の前にいるのだから。領邦軍は泡を食ったように退散していく。
「済まない遅れてしまった」
「大丈夫アンタ達!?」
その後ろにはサラも控えており心配そうにこちらを見ている。
「教官、それにルーファスさんも何で……」
「私は学院の三人いる理事の内の一人でね、済まない諸君来るのが遅れてしまった」
「いえ、私の対応が遅れたわ本当にごめんなさい」
「とにかく父上に話は通しておいた、君達も撤収したまえ」
こうしてⅦ組B班の二日目の実習は終わりを迎える。しかしその表情は誰一人として晴れやかなものではなかった。
~翌日~
リィン達B班はリムジンに乗るルーファスに見送られバリアハート駅内へと入っていく。その中にハイメの姿は無かった。列車が到着し一行は乗り込み席につく。列車の走る音と乗客の話し声が響く中誰も口を開く事が出来ずにいた。
「とりあえず今回の実習の評価よ」
サラより手渡された封筒を開封し評価を見る。その評価はA判定であり皮肉にも減点対象はハイメの負傷だけであった。今回の実習はマキアスとユーシスの戦術リンクの成功、そして貴族の実態、そして市民の思惑と現状、来るべき革新派との対立、それにより進められる軍備と獲たものは大きかった。しかし仲間が負傷してしまっては……素直に評価を受けとる事が出来ない一同。
「ハイメの事は無理だろうけど気に病まないで、私達学院の見通しも甘かったわ、まさか貴族派がここまで追い詰められているとは……アンタ達は学生の実習の範囲でなら良くやったわ」
サラがフォローを入れるがリィン達の表情は晴れる事は無かった。こうして大きな成功と仲間の負傷という結果を持って彼等の二回目の実習は終了した。
色々な意味で現実って厳しいよねというお話でした。実は結末は少し悩んだりしました。このまま二回目の実習を無事で終わらせるか否か、悩んだ結果少し心の痛む展開となりました。
今後の展開で少し頭を悩ませているので次話投稿は少し期間が空いてしまうかもしれません。もしかしたら外伝という形でハイメ視点ではない誰かの視点から見たハイメのお話というのを挟むかもしれません。