恋心は火属性   作:もぬ

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11話 雨下に燃え上がる①

 修学旅行が終わって数日が経つ。カレンダーはもう5月だ。

 あの夜の戦いから、いろいろなことが変わった。のどか、夕映さん、近衛さん、古菲さんにも魔法の存在が露見し、ネギ先生にとっての新たな協力者となった。

 そして彼は、古菲さんからカンフーを、エヴァンジェリンさんから魔法戦闘を教わり始めたようだ。フェイト・アーウェルンクスと自分との格の違いを思い知ったから、というのもあるだろう。

 また、サウザンドマスターの手がかりを京都で手に入れることもできたらしい。そのためにはドラゴンより強くならないといけないんだとか。なんだそれ。

 早朝に学校に行くと、世界樹前の広場で中国拳法の練習をしているのを見る。ああやって目標を持てば、あの子はどこまでも強くなるんだろうな。

 オレは中国拳法をいくら学んだってドラゴンに勝てる気はしないが。

 

 そして、変化があったのは彼らだけじゃない。

 オレもまた。以前のような自分では、いられなくなっていた。

 

「あ、っと。やりすぎた……」

 

 夜。魔法生徒としてのパトロールのバイト中――。

 振り抜いた拳は確かに魔物を捉え、吹き飛んだそいつは壁に激突。学園内の女子の下着を盗んでいたというその怨念の塊は、こうして我々にボコられ、成仏していった。あとには大量のブラ・ショーツだけが散乱していた。

 だが、加減が利かなかった。下着群に隠れてはいるが、西洋的な風情が綺麗だったレンガの壁は、オレが殴り飛ばした魔物と衝突事故を起こしたことで盛大にひび割れている。半分幽霊みたいなもののくせになー。壁くらいすり抜けろよ。

 ……どうも、修学旅行前よりさらにパワーが上がっている気がする。うまく物を壊さないようになってきてたのに、また怒られちゃうな。

 

「あーっ!! 宮崎さん、あなたまた……! 麻帆良学園の平和を守るべき我々が、美しい景観を破壊してどうするのですかっ!」

「す、すいませんー」

 

 やはりいち早く気づき説教をかましてきたのは、今夜の相棒、もといお目付け役。先輩の高音・D・グッドマンさんだ。聖ウルスラ女子に在籍する高校2年生で、立派な魔法使い(マギステル・マギ)を目指す正義の魔法生徒である。高校生だけあって佐倉愛衣さんより一段経験豊富、かつ強力な魔法使いで、頼りになる。影を操る魔法を使うというのがシブい。

 長い金髪の美人、小うるさい委員長気質なので、話しているとクラスメイトの雪広あやかさんを思い出す。いや、小うるさいというのは悪いな。この子の言っていることは正しいのだし。

 平謝りして、壁の修復をお願いする。

 

 自分はその間、戦闘中にそこらに散らかっていった女性下着を回収することにした。

 まあゴミ掃除というか、後片付けというか。もう持ち主には返せない憐れな布たちよ。

 ゴミ袋が無かったので、仕方なく、自分が普段持ち歩いている、部活少女っぽい肩掛けスポーツバックに入れていくことにした。戦闘中は放り投げていたそれを拾い、肩にかけ、布きれをしぶしぶ拾っていく。

 女性下着をかばんにしまっていくのは、自分がいかにもな性犯罪者になったかのようで、女に生まれて10余年といえど落ち着かない。

 そして、めんどくさい。ここから戦闘開始地点まで、まるでドスケベのヘンゼルとグレーテルが通った後のようになっている。まったくもう……。

 無駄に大立ち回りのアクションとかせずに、高音さんに戦いを任せるべきだったな。でしゃばってしまった。玄人はきっと、こういった無駄などはないスマートな戦いをするのだろう。相手を吹っ飛ばさずに、もっとこう。コンパクトなバトルを。

 作業の手を止め、いやに力んでいるような気がする、自分の拳を見つめる。

 うーん。

 

「……なんでまた、力加減間違えちゃうかな」

「そりゃきっとパクティオーの影響さ、マッチョの姐御」

「うお、何奴」

 

 声のしたほう、すなわち自分が肩に提げているバッグを見る。

 下着が詰め込まれたその中には、まるでパンツの布団に身を任せるようにしてくつろいだ様子の、イタチがいた。

 こいつ……。

 

「直接話すのは初めてだな。俺っちはオコジョ妖精のアルベール・カモミール! ネギの兄貴の相棒さ」

「この下着は処分するからあげないよ」

「えっ、勿体な……あ、いや」

 

 こやつ、人間のオスでもあるまいに、何故こうもスケベなんだろうか。冷静に考えると不思議だ。

 

「ともかく、パクティオー。仮契約の話をしに来たんだよ姐御。アンタがさらにマッチョになってるのは、契約した従者の潜在能力を引き出す効果が働いているのさ、多分」

「む……なるほど」

「それで、パクティオーは他にも健康改善、お肌ツルツル、肩こりが治るなどいいことずくめなんだが……」

 

 話しながら、オコジョの彼は腕をつたい、オレの肩までやってきた。

 無遠慮に人の身体に登ってくるやつだなと思ったが、見かけが可愛らしい小動物なので許せてしまう。

 だが、そこからの話は。こいつのキャラクターにしては、どうにも真剣な調子の声だった。

 

「悪かった、姐御。つい本能で仮契約をアシストしちまったが、あんたが契約した相手……。あいつはどう考えてもカタギじゃないヤバいやつだ。契約は破棄した方が良い。俺っちがなんとか、オコジョ魔法で契約の精霊にかけあって……」

「え?」

 

 ……契約を、破棄?

 

「そんなこと、できるのか?」

「手違いで向こうが主人(マスター)側になっちまったから、難しいかもしれねえ。けど事故で結ばれたようなもんで同意のない主従関係だし、そこを突けば……」

 

 ……ああ。

 あのときのことは、あんまり考えないようにしてたのに。

 大事にしまっていたカードを、ポケットから取り出す。そこに描かれている人物は自分。魔法使いの従者としての自分だ。

 主人は、あいつ……火のアーウェルンクス。名前は確か、クゥァルトゥムと呼ばれていた。セクストゥムちゃん以外の悪役の名前なんて覚えてなかったけど、この名前が単なる数字だというのは推測できる。

 そんな、名前もキャラもちゃんと覚えてなかったやつに、オレは。押し倒して、上に乗っかって、そのうえ――、

 なんであんなことしたかな。自分はこうも行動的なやつだっただろうか。

 いくらあの少年のことを、■きになってしまったからといって。

 ………。

 いや、ちがう。そんなんじゃない。この心は偽物だとわかっているはずだ。惑わされるな。

 神様もいらないことをする。ふつう、誰々と恋愛したいって願い事したら、向こうがこっちを好きになってくれるものなんじゃないのか。なんで、オレの方が……。

 

「姐御? ゴリラの姐御! ちゃんと聞いてるかい?」

 

 そうだ、契約を解いてもらえるのなら、これに悩まされることもない。なかったことにできる。

 こいつを、このカードを捨てて、これまでの自分に戻ればいい。

 このオコジョの言葉は、まさしくオレのための、最良の提案だ。

 そのはずだ。

 

「そのマスター用のカードも持ってない方がいいって。災いの種だ、俺っちが処分しとくよ。5万オコジョドルは惜しいが……あいや、なんでもない」

「け、契約は……」

 

 でも、このつながりを失ってしまったら、もう。

 オレは。わたしは――。

 

「破棄……しなくて、いい。別に」

 

 気が付くと。口が、脳みそが、勝手に言い訳を並べ立てていた。

 

「……ほ、ほら、これ持ってるだけでパワーアップできるんでしょ。だったら別に、持っててもいいかなって。向こうも学園の中まで襲いに来ることはないだろうし」

「それなら、ネギの兄貴と仮契約すればいいさあ。アンタが前衛に加わってくれりゃあ、兄貴のパーティーもさらに強くなる。うーん、我ながら会心のアイデアだぜ」

「それは……」

 

 それは、いやだ。だって……

 ええと、その。

 そう。

 今の自分はまあ、一応、女だ。別々の男どもに唇を許すなんて、その、はしたないだろうよ。自分の演じたい女性像から離れる。

 だから、ダメだ。

 そりゃあ、どんなアーティファクトが出るかとか、興味あるけどさ。

 

「他の人間とは、契約しない。もう話は終わりだ、カモさん」

「……姐御。あんたまさか、やっぱり……」

「なんだ」

「俺っちの好感度センサーによると、姐御はあの白髪のガキにマジ惚れ」

「噴ッッッ」

 

 掴んで投げた。

 

 

 

 まるで拳骨のような硬さを持った、視認しづらいエネルギーの塊が顔に飛んでくる。しかしそれは、腕を上げてきっちりとガードしてしまえば、大して痛くもなかった。

 貴重な手合せの日に、幸い力は有り余っている。いつの間にか高畑先生の攻撃も、避けるのは苦手だが、受け止めることに苦は感じなくなっていた。もちろん相手は女子だと思ってうんと手加減しているのだろうが。

 

「………」

 

 そのまま意を決して、離れた位置にいる、ポケットに手を突っ込んでただ立っているように見える高畑先生に突っ込んでいく。自分の頑丈さをあてにした特攻だ。

 先生は動かない。だが距離を詰めるほど、飛行する拳骨――「居合拳」の威力と手数が増していく。以前の自分なら怯んでしまう激しい攻撃。

 でも、進むことをやめはしなかった。顎などへのクリーンヒットに気を払えば、耐えられる……!

 腕の隙間から先生を見る。今、彼は無謀な特攻をする自分に呆れているはず。

 そしてこれまで通り、オレにスピードは無い、と思っている。その隙を突けば。

 足にぐっと力を入れる。地面をしっかりと捉え、そこに短距離走のスターティングブロックをイメージ。先生の様子を観察し――、今。

 魔力と筋肉を爆発させる。姿勢を低く、最速のスタートを切る。両腕を広げ、相手の足を刈り取るべくタックルを仕掛けた。

 そうしてオレの腕は――しかし、空を切った。

 

「―――クソッ」

 

 見上げると、先生はけっこうな高さにほぼ垂直のジャンプをしていた。ただ、その姿勢はさっきまで変わらない立ち姿で、まるで空中に二本の脚で立っているかのようだ。

 見下ろしてくる先生と目が合う。彼のポケットに突っ込んだ手が、これまでと違って、大きくぶれるのが見えた。

 すなわち、大技の予備動作。

 避けられるはずもなく。ただ、痛みへの覚悟を決めた。

 

「があっ!?」

 

 車に突っ込まれたらこういう感じなのかな、という衝撃。色々と景色がぐるぐる回った後、自分は地面に倒れていた。

 ぶっとばされたのか、地面に叩きつけられたのか。くらくらしてわからない。

 全身が痛い。痛い、が……

 ……立てないほどじゃない。オレは身体についた埃を払いながら、ゆっくりと立ち上がった。

 

「いてて」

「すまない、なごみ君。加減を誤った」

「いえ、平気ですよ。ほら」

 

 両手をあげてガッツポーズをしてみせる。高畑先生は、けっこう驚いた顔をしていた。

 

「すごいでしょ」

「新年度になってから急激に鍛えられてるね。何かあった?」

「え? え、ええ。ほら、先生の口利きで、パトロールのバイトとかしてますし。他の魔法使いの人を見て勉強してますよ」

 

 ……本当は、たぶん、エヴァンジェリンさんに操られたこととか、修学旅行のせいだと思うけど。

 今日の手合せは終わりだ。懐からメガネケースを取り出す。高畑先生から頂いたこれは異常なほどに頑丈であり、いったい何でできているのか謎だ。中にある無傷の眼鏡を取り出し、いつものように顔にかけた。

 

「少し見ないうちに強くなっていて、驚いたよ。“瞬動”に近い動きもできているようだし」

「しゅんどう?」

「瞬動術。クイックムーブ。一歩目からトップスピードで動き、常人の目には瞬間移動をしているようにすら見えるという、魔力や気の使い手の間ではメジャーな移動術さ」

「へえ~……」

 

 瞬間の瞬、に動くで、瞬動か。

 バトル漫画ってこういう高速移動スキルがありがちだけど、「ネギま」にもあったんだなあ。言われてみるとあった気がする。あった。多分。

 

「さらにそれを極めると、何も無い空中を蹴って空を飛ぶように移動したり、俗に言う二段ジャンプができる。これは“虚空瞬動”と呼ばれている」

「はあ~? ほんとですかそれ」

「本当だよ。ほら」

「うおおお!?」

 

 突然高畑先生がその場で無限にジャンプを始めたので、思わず素の男っぽいリアクションをしてしまった。

 リアリティラインがどんどんめちゃくちゃになりますね。「二重の極み」はなんだかできそうな気がしてくるけど「疾空刀勢」は無理でしょ、みたいなのが自分の中である。虚空瞬動とやらはそれだ。

 魔法と気のパワーの前には我々の良く知る物理世界のルールは脆い。あと、高畑先生の居合拳もオレは正直納得してないからな。

 

「瞬動術は前に出て戦うタイプの戦士は大抵身に着けている。なごみ君も能力的には足りているようだし、練習してみるといい。そうすれば……」

「そうすれば?」

「格上相手でも、逃げられる可能性が段違いに上がる」

「……!」

 

 この人、もしかして修学旅行で何があったか全部把握しているのかな。してるんだろうな……。

 

「……ごほん! じゃあ、まあその。次回はそれの指導を是非お願いします、高畑先生」

「………。ところで、話は変わるけど」

 

 ええー!

 これは、高畑先生は忙しくて教えてくれないパターンのやつだな。瞬動なるもの、果たして独学で得られるものなのかね。

 

「ネギくんがエヴァに弟子入りしたそうだね。君もよく知ってるだろ? クラスメイトのエヴァンジェリン」

「え? まあ、はい」

 

 やっぱネギ先生まわりのことはちゃんと把握してるな、この人……。

 あの子が3-Aの生徒たちに魔法をバレまくっているのも、学園長共々知っているのだろうか。あえて可愛い子には旅を……って感じなのかな。放任主義と言うか。

 

「彼はいい師匠を捕まえたものだよ。エヴァは修行に役立つ道具や知識をいっぱい持っている」

「そうですね。持ってそう」

「実は僕も若い頃、彼女に力を貸してもらったことがあってね。強くなれたのは彼女のおかげでもある」

「ふーん」

「君もそうしてもらうといい。さあ、挨拶に行こうじゃないか」

「……うん?」

 

 

 

 麻帆良学園都市の中にあって、人の気配やコンクリートの建物から離れた、ちょっとした森の中。そこにエヴァンジェリンさんの住む一軒家があるという。

 高畑先生は片手に、京都の呪術協会から彼女あてに送られた謝礼のお土産を持って、緑の中を進んでいく。

 なぜ自分がついていくことになっているのか、と聞くと、ネギ先生に便乗してエヴァの修行場を使わせてもらうといい、とのこと。

 

「そうしたらたぶん。彼女は見ているだけじゃイラついて、いずれ口出しをしてくるから、たくさん学ぶといい」

 

 あの人厳しそうだし怖いから、弟子入りとかはしたくないんですけどね。

 ……まあでも、この世界で腕っぷしを身につけたいのなら、やっぱりここに行きつくことになるのかな。当の主人公のネギ先生が、それを身をもって示すことになるのだし。

 うーん、気が進まない。生まれ変わってからは以前より努力を好きになってきたけれど、あまりつらいのはやだな。

 でも、もう、強くならないといけなくなったんだよな、オレは。もし高畑先生の仲介でエヴァンジェリンさんの修行場を借りられることになるなら、せっかくだ、精いっぱい頑張ってみよう。

 ………?

 強くならないと、いけなくなった。

 なぜ?

 

「……おや? ネギ君じゃないかい」

「あれっ、タカミチ! と、なごみさん? どうしてここに?」

 

 は、と気付くと、既に自分はこじゃれた木組みの家の前にいた。森の中にこんなものがあると、たしかに魔女でも住んでいそうだ。

 もう日が沈んでいる時間帯だが、ネギ先生もまた師匠に修行をつけてもらっていたのだろうか。ここで。先生の仕事もあるだろうに、大変だな。

 

「今日はエヴァにお土産を……何やってるんだい? それ」

「え? あ、これはその、アスナさんとケンカしちゃったので、謝ろうと思って……」

 

 ネギ先生のすぐそばに、小さな魔法陣が敷かれている。この模様は、前に見た気がする。

 先生はカードを一枚手にしていた。ああ、たぶん、従者を呼び出す魔法だな。修学旅行のときに見たが、魔法使いは仮契約を結んだ従者を、一方的に呼び出すことができるんだ。おそらく距離に制限があるのだろうが、なかなか強力な魔法だと思う。

 魔法陣が輝き出す。

 そして……

 すっぽんぽんのアスナが現れた。

 

「「あっ」」

「へっ!? たっ、たか!? せん……!」

 

 スッと高畑先生が目を逸らす。

 さすがネギ先生、エロハプニングを起こす運命を持っているらしい。

 時間帯的に、きっと風呂にでも入っていたんだろう。全裸で野外に放り出される心もとなさはオレも共有できるが、さらにそれを好きなオッサンに見られる気持ちはどのような思いだろうか。かわいそうに……。

 

「いやああああーーーっ!!??」

 

 アスナはネギ少年をボコボコにした。

 あー……。原作にあったエピソードなのかどうか知らないけれど、仲直りできるといいね。

 

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