恋心は火属性   作:もぬ

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3話

 新学期が始まり、我々は2年A組から3年A組になった。

 うーん、時の流れとは早いものだ。これからネギ先生を中心として、このクラスのみんなは一生忘れられない冒険の1年を過ごすことになるのだが、今はまだ誰も知らないだろう。

 さて、今日は身体測定からだそうだ。

 クラスメイトどもの成長具合を確かめるべく、聴覚を研ぎ澄ませる。下着姿を目に収めるのも忘れない。

 

「桜通りの吸血鬼のウワサ、聞いた?」

 

 教室内で誰かが言った言葉が耳をうち、オレは動きを止めた。

 

「出るんだって……満月の夜になると、寮の桜並木に……血まみれの吸血鬼が……!」

「ひ……ひいーッ!?」

 

 ひゅーどろどろと、柿崎さんが芝居がかった口ぶりで噂を広める。うちの姉や鳴滝姉妹ががたがたと震えていた。

 ついでにオレも震えていた。

 

「あれ? うそ、なごみちゃんも怖いのー?」

「べ、別に……?」

「あはは、なんか意外~」

 

 椎名さんにからかわれる。お化けと夜道は誰だって怖いだろうがよ。

 とはいえ、のどかや小さい双子のように震えあがるほどではない。みんなは知らんから平気なんだよね。オレが今怖いのは……

 

「ふふ……夜道には気を付けないとな」

「は、はひ……っ!?」

 

 耳元で囁かれ、全身が総毛立つ。

 後ろを振り返る。わざわざ椅子の上に立ち、オレを脅かしてふんぞり返っているのは、エヴァンジェリン・A・K・マクダウェルさんだ。

 ど、堂々としやがって。この人こそがウワサの吸血鬼本人なのだ。こんなところに犯人がいることを、クラスメイトたちは知るまい。

 たしか今は、ネギ先生を倒すために生徒を襲って血を蓄えているはずだ。そしてどうも、ここ最近自分が目をつけられている気がするんだ……。

 たまに視線を感じる。獲物を見るような眼でこっちを見ている。

 あとこうしてちょっかいを出してくることがある。

 

「先生ー! 大変やー、まき絵が……」

 

 背後の気配に戦々恐々としながら身長測定の順番待ちをしていると、誰かがどたどたと廊下を走りながら声をあげているのが聞こえた。廊下のネギ先生に話しかけているようだ。この声は……和泉亜子さんか。

 そういえば今日はまき絵さんがいない。まさか……。

 和泉さんの話によると、彼女は外で寝ているところを発見され、保健室に運ばれたそうだ。仲の良い人たちは大勢で様子を見に行ってしまった。

 オレは……行かなくとも、何があったかは想像がつく。エヴァンジェリンさんの仕業だ。

 

「ふむ、あらかた行ったか」

 

 仲間想いなことに、教室に残ったのは数人の生徒のみだ。

 当然のように居残っているエヴァンジェリンさんは、まっすぐオレに向けて話しかけてきた。

 

「宮崎なごみ、おまえ、私を疑っているだろう」

 

 ギクーッ!

 ここが漫画の世界だというならば、そんな効果音が自分の背後にでかでかと現れていることだろう。

 そんな、あっちから切り込んでくるとは。態度に出し過ぎたか。

 

「誰の入れ知恵か知らんが、それにしては不用心だな? わたしの前で無防備に肌を晒すとは」

 

 ま、まさかここでやる気なのか。他の生徒も何人かいるのに。

 だが日中はこの人もただの女の子のはず。身体能力を強化した自分なら――、

 

「やはり力まかせの脳筋か。もったいないことだ」

 

 気付けば尻もちをついていた。

 転ばされた? ただの女の子に。

 

「どうやって血を吸うか教えようか。ほら、こうするんだ……」

 

 エヴァンジェリンさんはオレにのしかかり、首筋に顔を寄せてきた。

 下着姿のまま押し倒された形の自分。ひ弱な女の子のようだ。情けなさがこみあげてきて、涙が目尻に溜まる。

 美しい金の髪が素肌を撫でるのがくすぐったい。甘い香りが嗅覚を刺激する。

 

「あ……」

 

 肩になにか当たる感触。彼女の歯だ。思わず漏れた声は、まるで自分のものじゃないようで――、

 

「……って皮膚、硬っ! 全然歯が立たんじゃないか!!」

「はっ?」

「エヴァンジェリンさん」

 

 誰かに声をかけられ、見上げる。

 黒髪をサイドでひとつ結びにした、鋭い目つきの少女……桜咲刹那さんだ。

 

「悪戯が過ぎます」

「フン、桜咲刹那か」

 

 エヴァンジェリンさんはオレの上から退いてくれた。

 た、助かったらしい。思わぬ助っ人だ。

 

「怖かったかな? 冗談だよ」

 

 エヴァンジェリンさんはむしろ自分が涙目になりながら、口元を押さえて去っていった。あ、まだ身体測定終わってないのでは……。

 なんか襲われても大丈夫な気がしてきた。

 

「立てますか?」

「あ、ありがとう。桜咲さん」

 

 差し伸べられた手を取り、立ち上がる。

 イケメンだ……。王子だ。なんだか恥ずかしくなって、脱いだ制服で自分の下着姿を隠した。

 いやなんだこの構図。オレはヒロインじゃなくてヒーローになる予定なんだが。

 

 

 放課後になった。

 今夜は満月。クラスに吸血鬼騒ぎの被害者が出た以上、そろそろネギ先生がエヴァンジェリンさんの正体をつきとめるはずだ。

 どうしよう。ほっとくべきかな。

 満月の夜出歩かないようにすれば、自分が彼女に襲撃されることはないだろう。たぶん。その方がお話も原作漫画通りに進み、何の問題もない。

 しかし……。

 見たいな……魔法使い同士のバトル……。

 魔法らしき魔法を見たことなんて、原作キャラになんとか魔法を教えてもらおうと夜中に血走った眼で麻帆良を歩き回っていたときに、同じ中等部の女の子が箒を振り回しながら火の魔法を練習していたのを目撃したくらいだ。

 もっとちゃんと見たい……。

 あわよくば弟子入りしてちゃんと学びたい。よく考えたら高畑先生の技って体術だし。何が魔法先生だよ。やつはストリートファイターか何かだ。

 ……陰から見守るくらいならいいんじゃないだろうか。

 よし、行ってしまおう。

 寮の一人部屋でそう決意し、すぐそこの桜通りへ移動することにした。

 

 堂々と通りの真ん中を歩いていたら格好の獲物なので、並木道の茂みへ身を隠す。

 しばらくまったりしていると、何やら声がした。そっと覗く。

 

「こ……こわくないです~~♪ ……こわくないかも~♪」

 

 アホみたいな歌を口ずさんでいるのはクラスの中で一番見慣れた顔。宮崎のどかである。

 あんな噂を聞いて一人でこの道を歩くとはまた、不用心な。いじらしく歌っているが、この人もつくづく巻き込まれる運命だな。自分が転生したのがあの人の立場じゃなく、あくまで妹で良かった。あっちはトラブル体質すぎる。

 ……ほら。来た。

 

「宮崎姉妹か……」

「ひ……」

「……うん?」

 

 街灯のてっぺんに降り立った黒い人影が、オレ達を見て笑う。

 あれ? バレてない?

 

「日中は歯が通らないが、夜はそうはいかんぞ」

 

 怪しげに笑う少女の口元からは、まさしく吸血鬼のものらしい牙が覗いている。

 彼女はおもむろに、懐から理科の実験なんかで使うフラスコや試験管を取り出し、こちらへ投げつけてきた。

 

「『氷結』……」

「ちょ! ちょちょちょ」

 

 たまらず茂みから転げ出る。

 立ち上がって振り返ると、さっきまで自分が隠れていた植え込みが氷漬けになっていた。

 やばい。

 姉は黒い人影に声をかけられる恐怖体験で目を回している。走りながらその身体を抱きかかえる。魔法バトルの見学は諦めて逃げよう。

 

「こら、ウロチョロするな、怪我するぞ! ちょっと血を貰うだけだ!」

「ぶへえーー!?」

 

 いだだだだ!?

 なにかに脚をとられる。どてんと顔面から地面にスライディングした。

 とっさに掲げた腕の中の姉は無事だ。

 足が氷に覆われている……動けない! いや、こんなもの叩き割って……、

 

「『氷結 武装解除』!」

「うわー!?」

 

 目の前でフラスコが爆発すると、着ていた服がかき氷にでもされるように削られていき、姉もろともすっぽんぽんにされた。

 こんな屋外で勘弁して!?

 

「まずはお前からだ、宮崎なごみ」

「ひゃうんっ」

 

 有無を言わさず抱きつかれ、首筋に噛みつかれる。

 痛みはない。この人の性格を考えると殺されたりはしないだろう。

 そうだ、血を吸われること自体は別にいい。問題は、それによって話の本筋が変わってしまわないだろうかということだ。

 もしも自分の血を吸ってパワーアップしたエヴァンジェリンさんが、ネギ先生を打ち負かしてしまうようなことになったら……?

 力を取り戻した彼女は、この学園を出ていってしまうかもしれない。そんなことになったら一大事だ。

 今のはまったくの想像でしかないしそうはならないと思うが、可能性がないとは言い切れない。

 やっぱり見学しにノコノコ出てきたオレの失敗だ。

 だが……こんなところで原作を大きく逸らすわけには……!

 

「うーん、大人のあじわい」

 

 気合を入れて、血を嗜み中で油断したエヴァンジェリンさんの腰を掴む。

 

「ん?」

「お……おりゃああああーーー!!!」

「オアーーー!!??」

 

 思い切り投げ飛ばした。怪我はしないだろう、多分……吸血鬼なんだし……。

 すこしふらつく。しかし逃げなければ……。

 

「こらー! 僕の生徒に何を……ほわっ!?」

 

 どこからか駆けつけてきたネギ先生に素っ裸を見られる。

 助けに来てくれたか。良かった……。

 ……ところでエヴァンジェリンさん、我々姉妹の制服をどーしてくれるんだろうか。二人して親に買ってもらったやつだぞ、弁償してくれ。

 

 先生に、彼女をどの方向に投げ飛ばしたか伝える。

 後からやって来た近衛さんとアスナにオレ達を任せ、少年は猛ダッシュしていった。

 速いな。彼が走ったあとにつむじ風が巻いている。単純な身体強化以外にもスピードを上げる方法があるのだろうか……。

 ……ものすごく気になるが、ちょっと疲れた。今夜はもう帰ろう。

 

「このか、私ちょっとネギを追いかけてみる」

「うん、気をつけてなー」

 

 アスナは先生を追うようだ。そうだ、エヴァンジェリンさんには従者の茶々丸さんがいる。ひとりではやられてしまうだろう。

 大丈夫かな。血を吸ってパワーアップ、してないかな。

 心配だがついていっても足手まといだろう。近衛さんの手を借り、寮に戻ることにした。

 ……今日の自分は本当に、余計なことをしてしまったもんだ。セクストゥムちゃんに無事見えられる女になれる日は、遠い。

 のどかが二人の部屋で介抱されるのを見て、自分の部屋へと戻る。

 すっぽんぽんで。

 

 

 

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