恋心は火属性   作:もぬ

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5話

 バキッ。

 手の中から嫌な音。なにかというと、昼食を口に運ぶための二本一膳のお箸が、そろって真ん中から無残に折れた音だった。

 

「ヌウウッ! 軟弱な……」

「いやいま、もしかしてこいつ、指の力で……はっ!?」

 

 独り言のはずだったが、すぐ近くからツッコミが入った。見れば、クラスメイトの長谷川千雨さんが、こちらを見てなんとも味のある表情をしていた。

 彼女の席はすぐ前だし、2年以上同じクラスなのでそこそこ会話したことはある。が、仲の良い友人だというほどではない。向こうが壁をつくっているからだ。

 そんな彼女のあの表情。

 勝手に内心を予想してみよう。

 ――たまたま後ろの席のやつが視界に入ったが、プラスチックの箸を指の力で折っているようにみえ、思わずいつも心にしまっているツッコミの声が出てしまった。こんな細い体つきのやつがそんな握力を持っているはずはないが、クラスではゴリラと呼ばれているやつだ。もしかしたら……? いや、異常だ。関わりたくない。

 と、そんなところではなかろうか。この人の性格的に。

 

「長谷川さん……見て、しまいましたね」

「うっ……!? わ、私は、なにも」

「今のは手品です。わたしはゴリラではない」

「は?」

 

 そう。この華奢な美少女がゴリラであるはずがない。

 これは悲しい誤解だ。いつものオレはもっと儚く可憐。

 それがどうしてこんなことになっているかというと。この前エヴァンジェリンさんに下僕として働かされたときに、自分の中で何か急激な変化があったのか、常時使っている身体能力強化の加減がうまくいっていない。想定より大きな魔力を身体に回してしまう。

 それで、このようにお箸をポキッといったり、コップを粉々にしてしまったり、ドアノブを歪ませてしまう……といったような、日常生活への弊害が出ている。なんとか力をコントロールしなければ、例えば誰かと握手なんかしたとき、相手の手をバキバキに折ってしまうなんてことになるかもしれない……。

 魔法使いならぬグラップラーとして素晴らしいパワーアップだと捉えることも出来るが、日々の暮らしを考えるとまったく困ったことだ。

 

「ところで長谷川さん。クラスメイト同士、一緒にお昼食でもどうですか」

「い、いや。私は、これから学食だから」

「そうですか……」

 

 これを機にと声をかけてみたが、すげなく断られた。今のは自分なりに勇気を出してみたのだが、残念だ。

 そそくさと教室から出て、長谷川千雨さんは学食へ向かうべく、廊下を行ってしまった。

 その後をついていく。

 

「……!? な、なんでついてくる!?」

「いえ、別に……」

 

 青い顔をしながらスピードを上げていく彼女の後を、ぴったりついていく。

 というのも、自分も学生食堂に行こうとしているからだ。割りばしを大量に貰ってこようかなと思って。

 この人の後ろをついていくのは、まあ、クラスメイトってそういうものじゃない? どうせならこの機に仲良くなりたいのだ。漫画のキャラクターと仲良く!という浅ましい気持ちをさっぴいても、もう2年も同じ教室にいる人間だし。いわゆる陽キャラのグループの子たちよりも気が合いそうだし。

 目が合ったので、笑顔をつくって見つめ返した。これは姉のどかの可愛さにも負けないように練習したものだ。

 

「うっ、く、来るなーーっ!!」

 

 向こうは気が合いそうだとは思ってくれないらしい。

 学食に向かわない道へ折れ、長谷川さんは逃げてしまった。

 ショックだ……。

 これもあの夜、エヴァンジェリンさんがオレの身体を改造したせいだろう。まったく理不尽なことである。

 

「エヴァンジェリンさんのせいで、級友に距離を置かれた……」

「違うね、元々おまえにあった力が目覚めていっているだけだ。扱いきれないおまえが悪い」

「ゲッ」

 

 ゲッと言ってしまった。

 ちょうど今の独り言を聞いていたらしい。すぐそこの曲がり角から、茶々丸さんを伴ったエヴァンジェリンさんが現れた。

 この前やらかしたばかりだというのに、まったく相変わらずふてぶてしい態度で、とくに反省していないのがわかる。さすが大物だ。ネギ先生のことを多少気に入るという変化だけはあったようだが……。

 

「困っているのなら一度は助けてやらんでもないぞ、クラスメイトのよしみでな……って、な、なんだその顔は」

「いえ、別に困ってないんで」

「あっ、こ、コラ! 待て、話の途中で……!」

 

 今度は自分が逃げる側の人間になった。長谷川さんの気持ちが少し理解できたかもしれない。得体のしれない人というのは怖いものだ。

 漫画のキャラクターとしてはそりゃ可愛いと思っていたが、実際相手にするとやっぱ怖い。また血を吸われそうだし、あっさり操られたのもけっこうトラウマになりそうだ。

 ……一応、一度は助けてやらんでもない、という今の言葉は覚えておこう。元の物語では、主人公のネギ先生にとってもっとも頼りになる人物のひとりだったと思うし。

 

 そういうわけで。

 学食で箸を入手。飯食ったりトイレを済ませたりというルーチンワークの中で、あちこち破壊してしまうという苦労をしつつ、昼休みを終えた。

 そして、いざ午後の授業が始まると、長谷川さんもエヴァンジェリンさんも席がかなり近いため、たまに目が合ったりしてすごい変な雰囲気になった。

 

 

 

 放課後、高畑先生から連絡を受け、学園長室に呼び出される。なんだろう、エヴァンジェリンさんのやらかしに巻き込まれた件についてだろうか。

 そんなことを考えながら、妖怪っぽい学園長先生の前に立ったのだが。彼が口を開くと、用件は違うようだとわかった。

 

「そろそろ君に、他の魔法生徒たちがどんな風に学生生活を過ごしているのか、教えておきたくてのう」

 

 他の魔法生徒たち。たしか麻帆良には、我々3-Aのメンバー以外にも魔法に関わっている生徒がいるのだったか。はて、どんなキャラクターだったかな。

 まだ知り合ってはいない。というかこれまでに関わった魔法使い側の人間は、高畑先生や学園長くらいである。あとはまあネギ先生とか、エヴァンジェリンさんとか。つまり全然交流がない。

 他の生徒について話してくれるということは、今日はこの狭い世界を広げてくれるのだろうか?

 

「……ここ麻帆良学園都市は、広い地球の中でも最上級の霊地である。多くの魔法使いが教師や学生として身を置き、魔法使いとしての修行や治安維持につとめている……というのは、前にも話したか」

 

 そもそも魔法使いが建設段階で関わっている都市だ、というのも聞いた。

 魔法使いの社会では重要な地であり、自然と優秀な人物が集まることになる。土地柄的にも人脈的にも、魔法生徒にとっては自分を高める修行の場として最適なわけだ。ネギ先生だってこの麻帆良に来たのは修行のためだし。

 

「さて、ここで話したいのは“治安維持”についてじゃ。麻帆良は霊的、魔法的に重要な土地であるため、さまざまなトラブルが起こり得る。例えば……人を襲う怪異。必要以上の技術発展、外部からの侵入者、そして、魔法の存在の露呈……」

 

 ……なんか怒られている気がする。

 ほんの2年ほど前、高畑先生が魔法使いに関係していることを突き止めて、しつこく付きまとった、なんて生徒もいた。オレだ。

 

「こういった問題を放置するわけにはいかん。そして、そこに誰が対応しているのかというと、われわれ魔法使いの教員や生徒が出張っているというわけじゃ。特別な指令をこなしてもらうこともあれば、日常的に学園内をパトロールしてもらうこともある。これらは仕事でもあり、修行でもある」

 

 なるほど。

 魔法使いとしてのキャリアを積みたいのなら、そういう経験も大事そうだ。どんなトラブルが起こり得るのか、原作の外の話は知らないけど、魔法使いたちは人知れずこの学園の平和を守っているわけだ……。

 わくわくする話である。だから、気になった。

 

「君の他にも、何人かの魔法生徒がここで修行をしている。紹介しよう、いい友人となれるはずじゃ」

「あの。どうしてそんな話をしてくれるんでしょうか。もしかして……」

 

 ドキドキしながら訪ねる。もしかして、自分にもパトロールを任せたりとか、本格的な修行を積ませてくれるのだろうかと。

 そういう非日常への憧れが刺激される。「わたしにも……」という言葉が、口から漏れた。

 

「イヤ……」

 

 ところが、学園長は否定の言葉を呟き、眉尻をさげた。

 いや眉尻というのは言葉のアヤで、目元が見えないくらい眉毛が長いという仙人のような風貌なので、それが下がるも何もない。まあとにかく、決してポジティブではない表情をしたと思う。

 

「魔法生徒が出張るといっても、彼らは君と違って、各々が既に戦闘行為や魔物祓いのプロであったり、魔法学校で訓練を積んだ留学生だったりする。君とはキャリアが違うんじゃ。それに……ここは魔法使いの機関である以前に、学校である。危険のある仕事に、ご両親から預けられた大切な生徒を駆り出すことなど、通常はあり得ない。だが……」

 

 なんともままならない話に、興奮は冷め、落ち込んでいく。

 けれど。学園長は途中で、声の色を変えた。

 

「高畑君が、君にこのアルバイトをさせたいらしい」

「え……っ」

「ああ見えて君のことをよく考えている。学園の中という我々の手が届く場所で、なるべく経験を積ませたいと言っておったよ。いざというときに、自分で動けるようにと」

 

 ………。

 なんかイヤイヤ教えてる感じだったのに、すごい良い人だ。良い先生だ。

 実際3-Aの生徒はいろいろと巻き込まれることになるわけだし、素晴らしい提案なのでは。

 高畑先生の気持ちが嬉しい。このことは、オレにも他の魔法生徒と同じことをやらせても大丈夫だという、彼からのお墨付きでもあるように感じる。

 

「さて。そういうわけで、君にはときどきパトロールの仕事をお願いしたい。ふつうの警備員たちとは違ったできごとに直面することになるはずじゃ。バイト代は奮発するが、命の危険もありうる。こちらの世界のことであるため、君の家族にも秘密で働いてもらうことになる。日本の法や倫理だと儂は極悪人じゃの。

 ……やる?」

「……! はい、やってみたいです」

 

 保護者の許可もなく生徒を危険な場に出す……。そんなリスキーどころじゃないこと、絶対にオレにはやらせたくないはずだ。

 それでも機会をくれること、感謝しなければ。

 

「まーさんざん脅したが、麻帆良に現れる魔物・怨霊のたぐいは非常に弱い。結界が効いているからの。魔法生徒からしてみれば、ちょうどいい肩慣らしができて、おいしい小遣い稼ぎになるはずじゃ」

「なんだ……」

 

 結局、オレのためになる美味しい話だったわけだ。

 まあ他人が聞けば、生徒を警備員に動員する学園長はおおいに非難されることだろうが。

 

 

 

 後日、例のバイトについてのちょっとした講習を受けた。このとき先生役として時間を割いてくれたのは、中等部でよく見かける瀬流彦先生だった。新人のような印象を受ける若い教師だが、彼も魔法先生だったようだ。人当たりの良い方で、仲良くしてもらえそうだった。

 

 バイトの内容について。

 見回りは怪異や不審者が現れやすく人目に付きにくい夜に行われる。自分にとっては夜勤とすら呼べない楽な仕事だが、まあ中学生にやらせるには不健全かつ違法ではある。

 また、ワンマンではなく、魔法先生か生徒のうちの誰かと一緒に行動することになるらしい。

 ありがたいことだ。見回りがどうこうより、魔法使いと知り合えることが嬉しい。いろいろとアドバイスとか貰えるかもしれないし。

 まあ、ほぼ魔法使えないから、その辺は教わっても意味ないんだけど。

 

 夜。

 “学園都市”である麻帆良は、早い時間に人がいなくなる。ほとんどの生徒が在籍している学生寮には門限もあるし、夜の町をうろつくのは、そう多くはいない大人たちと不良くらい。人目が少なく、警察が出てこない程度のトラブルはある。そして、警察の手に負えないトラブルも。

 そんな特殊な状況だから、魔法少女によるパトロール、なんていう仕事が成り立つのかもしれない。

 オレは集合場所に辿り着く。事前に聞いたそこは、見知った女子校エリアの一角だったため、迷わず時間通りについた。

 

「こんばんは。宮崎さん、ですよね」

 

 そこには、一人の少女がいた。

 自分と同じ麻帆良女子中の制服の上から、いかにも魔法使いっぽい黒ローブを着ていて、なんだかハリーポッターに出てくる学生みたいでかわいらしい。

 容姿も3-Aの連中にひけを取らない美少女だった。二つ結びの髪型が中学生っぽくていい。

 

「2-Dの佐倉愛衣です。今日はよろしくお願いします」

「あ、は、はい。初めまして」

 

 同じ校舎で学ぶ生徒であるため、たぶんあちこちですれ違ったりはしているだろうけども、(というかこちらは彼女のことを一方的に知っていたけれど)直接話すのはこれが初めてだ。

 さて、可愛い女の子だが、魔法生徒としてはきっとうんと先達のはず。失礼のないよう振る舞おう。

 

「ご指導よろしくお願いします、先輩」

「いっ、いえ、私も修行中の身ですし。というか先輩はそちらですよね? 気軽に接してもらえれば……」

 

 良い子そう。

 

「ところで……」

 

 どんなルートを巡回するかなどの確認を済ませ、注意深く歩き始めたあと。

 静かな街並みの中で、彼女は口を開いた。

 

「高畑先生に師事している、というのは本当ですか? あの『紅き翼(アラルブラ)』の」

 

 適当に肯定する。

 しかしそれだけのことが、佐倉さんの表情をうるさいくらいに輝かせたのだった。

 

 

 

「それでですね、高畑先生といえば本国で雑誌の表紙も飾る有名人で――」

 

 疲れてきた。パトロールで、というより、同僚との終わりのない会話に。

 佐倉さんは大人しそうな感じだったが、実はなかなかのおしゃべりガールかつミーハーだったらしい。高畑先生がどんな師匠であるか、こちらがほんの一言ほどの情報を漏らすと、応じてそれ以上のあれこれをとめどなく語ってくるのであった。

 例えば、彼の必殺技である豪殺居合拳は、本気を出せば鬼神クラスの魔物や、陰湿な悪の野望を粉々に打ち砕くとか何とか。

 ああ、オレも最近くらったよそれ。あの人、どんどんオレに遠慮が無くなっていってる気がするんだよね。おかげで結構タフになったと思うけど……。

 うーん。

 こうして驚異的なスピードで同じ魔法生徒として打ち解けられたのは、こちらとしてはありがたかったが、これでパトロールの仕事は成り立っているんだろうか。

 そんなことを思い始めたとき。佐倉さんのおしゃべりと脚が、突然止まった。

 

「?」

「低級のゴーストがいますね。排除しましょう」

 

 切り替えが早い。きちっと実力のある女の子だったようだ。

 だが、佐倉さんが真剣なまなざしを向ける先には、オレの目には何も見えない。そうか、幽霊だから……。

 しかし慌てない。こういうときのためにと、実は高畑先生からあるプレゼントをもらったのだ。懐からそれを引っ張りだし、顔にかける。

 そのアイテム……霊的存在を視認しやすくするための眼鏡を通してみると。果たしてそこには、のっぺらぼうのような恐ろしいヒトガタがいた。

 

「こわっ」

『……じぇい、しー。じぇいしいいいいい!!! パンツウウウウウウウウ!!!』

「別の意味で怖い」

 

 やつは我々の姿を認めると、よたよたと二本の脚で走り向かってきた。

 何の怨念なんですかねいったい。やべーよ麻帆良。こんなのが出現するなら、たしかに見回りが必要だな。

 

「宮崎さん、最初はそこで見ていてください……『来たれ(アデアット)』」

「! それは……」

 

 佐倉さんが一枚のタロットカードのようなものを手にすると、どこからともなく一本の箒が現れた。いかにも魔法使いがまたがって空を飛びそうなやつだ。

 これがアーティファクト! さっきのはパクティオーカードってやつだ。あの箒が彼女の武器か……!

 

「あの程度の相手なら……」

 

 棒術使いのごとく脇と腕で箒を保持し、左手を油断なく敵に向けるさまは、なかなかにかっこいい。

 彼女を魔力の気配が取り巻いている。やがて宙に、3つの燃える光の球が出現した。

 あれが、魔法。精霊の手を借りて引き起こす超常現象。この前のネギ先生とエヴァンジェリンさんの戦いで見たものより距離が近く、迫力を肌で感じた。

 しかしこの子、魔法を呪文も無しに操るなんて。無詠唱の魔法は強者の証って色んな漫画で言うし、佐倉さんも才能ある魔法使いに違いない。

 

「やっ!」

 

 3つの光は矢となり、ゴーストに突き刺さって爆発した。

 すごい。これが現代の除霊か。箒をもって魔法を操る佐倉さんはまさに絵に描いたような魔法少女。憧れるぜ。

 鮮やかな手並みに思わず拍手する。彼女は照れた様子だったが、そういうところも可愛らしい。

 

「……ん?」

『カ……カ……』

 

 火の矢によって身体を傷つけながらも、やつはまだ消滅してはいなかった。佐倉さんともども再度身構える。

 しばし身もだえしたのち、敵は力の限り咆哮した。

 

『カワイイイイイイイイイイイイイイイイイイイ!!!!!!』

「な…!? パワーアップしたぞ!?」

「――“メイプル・ネイプル・アラモード”っ!!」

 

 細くて弱そうだったのが、突然マッチョになった。依然目も鼻もない容貌だが、存在感が増した。

 タフそうだぞ……!

 

「『ものみな焼き尽くす浄化の炎 破壊の主にして再生の徴よ 我が手に宿りて敵を喰らえ』」

 

 さっきよりも強い魔力が佐倉さんから出ている。何語か分からない言葉を早口で唱えていくと、それがさらに高まっていく!

 マンガの中では無詠唱魔法は強者の証だが、強者が呪文を言いきったなら威力がめっちゃすごいってのもセオリーだ。これなら……!

 

『紅き焔』(フラグランティア・ルビカンス)――!!」

 

 どん、という音。爆発の規模は大男くらいあるヤツの全身を爆炎に包み込む程で、さっきの魔法の射手(サギタ・マギカ)とは比べ物にならない。人のいないどこかの学校の校庭とはいえ、こんなものを使って一般生徒に魔法バレしないかという心配が、敵が倒せているかどうかという不安に勝った。

 ……だが。

 

『パンツ……パンツウウウウウウウウアアアアアアアアア!!!!』

「なっ!?」

「いっ、イヤーッ!!??」

 

 崩れかけの身体でやつはこちらへ突進してきた。反射的に飛びのいたが、大きな魔法を使った反動なのか、佐倉さんがその場に留まったままだ。

 やつは残った太い右腕を、佐倉さんに振るう――! まずい!!

 

『ウ、グオオオオ!! ス、スパッツウウウウウウウ~~~~ッ!!!』

「ふええっ!? な、なにー!?」

 

 太い腕で佐倉さんのスカートをめくったゴーストは、そこから苦しげな声をあげてうずくまった。ショーツが見えなかったのがお気に召さなかったようだ。

 アホらしくなってきたな。

 

「だっ!」

 

 眼鏡をしたまま運動するのは危なくて嫌だが、高畑先生なんかもそうだし慣れるしかないか。

 魔力を身体中に纏わせ、ダッシュ。勢いのままマッチョゴーストを蹴り飛ばした。魔力を纏った状態なら、幽霊にも触れて殴り蹴ることができるようだ。

 

「そんなにパンツが見てえなら見せてやらぁ」

 

 地面を思い切り蹴り、空高くまでジャンプする。落下予定地点はヤツのいる場所。

 飛び込み選手のごとく身体を回転させ、勢いをつける。地上に辿り着く前に、片足を思い切り振り上げた。

 目のないのっぺらぼうは、しかしそのとき、たしかにオレを見上げていた。

 とても良い位置から。

 

『シ……』

「悪霊退散!」

『シ……白―――』

 

 なんか最後に穏やかな声を出していた。

 成仏しろよ、という想いを込めて脳天に踵を叩き込む。勢い余ってコンクリートを割り砕いてしまったが、頭部を破壊された霊はそのまま全身を崩壊させ、ちりとなって霧散していった。

 周囲や消失点に警戒を向ける。……新たな敵の予兆はない。と思う。

 なんとかなったかな?

 

「佐倉さん、やったよ」

 

 我ながら身体能力だけは人間やめてきたかもしれないな。このまま目指せスーパーマンだ。

 力加減しなくていい場ならそこそこ活躍できるらしい。よかった。日常生活に弊害が出てるぶん、これくらいの恩恵はないとな。

 佐倉さんにブイサインを送る。

 

「……すごい。本当に高畑先生の弟子なんだ……」

 

 なんか褒めてくれているっぽい。しかし弟子というほどみっちり教えてもらってはいないと思うのだが……いいのかな、弟子を名乗っても。先生に聞いてみよう。

 それにしても、これほどのモンスターを相手にする機会があるとなると、たしかにいい経験になりそうだ。こんなやばいところで多くの生徒が学校生活を送っていたとは……。

 

「……ところで」

 

 華麗な勝利に酔いしれることができたのもつかの間。

 目の前の、自分が叩き割った無残な地面を眺める。明日になれば生徒たちがこれを見て、なんじゃこりゃあとなること間違いない。

 

「こういう場合、どうすれば……」

「修繕の得意な精霊を頼るしかないですね……。他の先生の手も借りたいです」

 

 もうしわけない。

 

 と、今夜は魔法使いの友人が一人増えた。瀬流彦先生とかも頼りになりそうで良かった。

 今後もこういう機会が増えていくといいな。

 

 

 

「あれー……、なごみー。目、悪かったっけ?」

 

 暇なので教室でハンドグリップを握り締めながら空気イスしつつ体内で魔力を流動させていると、のどかが声をかけてきた。

 眼鏡をしているのが気になったのだろう。これは、常日頃から悪霊とか精霊とか見えた方が良いのかなと思ってかけている……というのは理由の2割で。眼鏡の自分も可愛いなと思ったので、普段から身に着けることにしたのだ。イメチェンだ。人と殴り合いするときは外そうかなと思ってる。

 ちなみに、教室に入ったら朝倉の隣の席に幽霊の女の子が座っていたのが見えて、けっこうビビった。そういえば原作でもいたんだった……。

 

「……ああ、これはおしゃれ。今日からメガネキャラだよ」

「似合ってるじゃん、のどかより本屋っぽいんじゃなーい?」

「だってさ姉さん。ごめんね、きみのアイデンティティを奪ってしまったぜ……」

「え? 似合ってていいと思うよー」

「いや、眼鏡より、最近この人が本気でゴリラを目指そうとしているところにツッコむべきですよ」

 

 みたいな会話を、いつもの仲良し3人組とした。

 ゴリラじゃない。片目隠れ大人しい系眼鏡美少女だ。誰が何と言おうとオレは片目隠れ大人しい系眼鏡美少女なんだ。

 

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