恋心は火属性   作:もぬ

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7話 修学旅行②

 修学旅行二日目は、班ごとに奈良での自由見学だ。

 朝にはネギラブ勢が彼を取りあってひと悶着あったが、その争奪戦を勝ち抜いたのは我が姉、宮崎のどかであった。大きな声でハキハキと、一緒に回りませんか、と言えた彼女に、ネギくんは応えたのだ。

 実際のところは、のどかのいる5班に敵から狙われている近衛さんがいる、というのが、ネギくんがついていく理由なのかもしれない。しかしオレには、大人しいのどかが思いがけず見せた勇気に、ネギが感化された……というふうに見えた。クラスメイトたちもそうなんだろう。恋のライバルたちも感心していた様子だった。

 

 我々3班は東大寺などに立ち寄り、古都の空気を楽しんだ。

 そして、やはり修学旅行の班行動は親交を深めるチャンスだったようで、彼女たちとクラスメイトになって3年目にして、ようやく級友と呼べる程度には話せる仲になれたかなと思う。長谷川さん以外とはけっこうしゃべった。

 

 夕方になって旅館に戻ると、何やらネギ先生がぼうっとしていて、委員長や佐々木まき絵さんが心配していた。

 で、その理由と言うのが、どうやら誰かに告白されたらしいと。これまた女子の好きな話題だ、みんな騒いでいた。

 ……のどかが告白したのかな? こんな早く告白してたっけ。忘れた。でも5班のメンバーで誰がネギくんのことを好きかと言うと、まあ一択だろう。

 勇気のあるヤツだなあほんと。

 

 今夜も露店風呂にてクラスメイト達の女体を眺めながら極楽を楽しみ、そして部屋に戻る道すがら。

 なんと朝倉がネギ先生のオコジョを肩に乗せ、ネギ先生やアスナと会話している場面を見かけた。どうやら魔法が彼女にばれたらしい。

 よりによって一番ばれてはいけないやつにな~。ネギくんは魔法を隠すことに関してはてんでダメだな。

 見守っていると、会話の中でネギ先生は、困った様子から一転、明るい表情になった。どうやら朝倉は魔法を公表せずに協力者になってくれるようだ。

 ネギくんはオレが魔法生徒だっていうのも朝倉に話してしまっただろうか。彼女とは同じ班だし、あとで根掘り葉掘り聞かれそうで怖いな。

 

 そうして、夜も深くなり、就寝時間がやって来る頃。

 各々がバカ騒ぎをもくろむ3-Aの生徒たちに対し、生活指導の新田先生から直々に外出禁止のお達しが出た……はずなのだが。

 なにやら朝倉主催の怪しげなイベントが始まるらしい。

 昨日と同様に部屋でまったりしつつ長谷川さんあたりと仲良くなる機会をうかがっていると、みんなの風紀を守るべき委員長が、興奮した様子で部屋に戻ってきた。

 ハアハアと荒い息遣いで雪広さんが説明する「ゲーム」の内容を、だらっと横になりながら聞く。

 ルールは以下の様な感じ。

 各班から2名の選手が、武器となる枕を持って旅館内を徘徊。どこかにいるネギ先生を見つけ、唇を奪ったチームが優勝。豪華プレゼントあり。

 班同士の妨害あり。新田先生に見つかれば死あるのみ。

 

「ハハ。おもしろ」

「どこがだよ。ガキかよ……」

 

 漏れた呟きに、長谷川さんが反応した。なるほど、隙を見せるとツッコんでくれるのか……。覚えておこう。

 ところで、ガキっぽくいられるのは今がピークなんだし、オレはこういうの、楽しくて良いと思うな。

 先生の立場になると、とんだ問題児だらけのクラスでしんどいけど。

 

 ゲームの様子はなんと、館内各所に設置されたビデオカメラの映像が、部屋のテレビで見られるらしい。こりゃ盛り上がるわ。

 せいぜい我が班の委員長を応援してあげよう。今まさに、鼻息荒くウォーミングアップをしている。

 ……まあ、委員長には気の毒だが、たしか勝つのは、のどかじゃなかったかな? たぶんこれは朝倉とオコジョのたくらみで、キスをすればネギとの仮契約が結ばれる仕組みになっているんだろう。ここでのどかが勝てば、強力なアーティファクトである心を読む日記帳を手に入れることになるわけだ。原作のことを考えるととても大事なイベントだといえる。

 

「さあ!! 行きますよなごみさん!! ネギ先生の唇は、(わたくし)たちが死守しますッ!」

「ハハハ……は?」

 

 

 枕を両手に、館内をうろつく。

 まあたしかに、長谷川さん、那波さん、村上さんのうち、委員長が誰を相棒に選ぶかと言ったら、体育とかが得意なオレになってしまうのか……。彼女が一番信頼していそうな那波さんは、こういうのうまく逃げるし。

 すこし緊張する。ここでのどかが勝つという結果を変えてしまっては、先の話が見えなくなってしまう。それは避けなければならないが、のどかが勝つまでの細かい流れなんて覚えていない……。オレはどう立ち回るべきだろうか。

 うまい具合に敗北して抜けるか。とはいえ新田先生に見つかれば、朝までロビーで正座という一昔前の厳しい教育的指導が待っているので、それも避けたい。

 

「なごみさん、あなたの霊長類最強の身体能力、信頼していますわよ……!」

 

 委員長が小声で話しかけてくる。何その評価? 過大にもほどがある。

 委員長は知らんと思うけど、このクラスには忍者とか退魔の剣士とか吸血鬼とかいるんだぜ。オレなんて路傍の石だよ。

 

「―――っ」

「あ……」

 

 角を曲がったところで、ちょうど別の班とばったりはちあう。佐々木さんと明石さんの運動部ペアだ。強敵だね。

 ネギ先生目的で必死っぽい委員長と佐々木さんは互いに枕の殴打を浴びせ合い、静かに悶絶している。

 お祭り騒ぎが好きで参加しているだろう明石さんは、自然とオレを標的にして襲い掛かってきた。枕が顔面を打って眼鏡が割れないよう、インパクトの瞬間に顔の角度を変えて対応していく。まあ戦闘を想定した頑丈なものらしいから、枕攻撃でわれることはないだろうが……。

 その場で腕を組んで立ち、モフッモフッとボコられながらぼうっとする。

 枕で攻撃なんて、まっとうでかわいらしい安全ルールだよな。交戦状態に入っても永遠に決着がつかない。どうやらこのゲーム、新田先生に見つかる事だけが敗北の条件だな。

 どう逃げ出したものか……。

 

「うーん」

「ちょっ、なごみさ……! 何してますのーーっ!? 助力! 連携を!」

「チャイナピロートリプルアターック!」

「おごっ!?」

 

 突然の衝撃に頭をおさえ、立ち上がる。いつのまにか自分は床に膝をついていた。

 あらたな闖入者が現れたのだ。古菲(クーフェイ)さんによる枕投擲が我々に突き刺さり……、オレだけ1メートルほど吹っ飛ばされたようだ。

 

「チャイナピロー乱撃!」

「ぐっ……!」

 

 追撃。古菲さんの持つ枕は、まるでコンクリートブロックでも入っているかのように重く、ガードした腕に響く。これは、話に聞く気功というやつでは……!?

 腕の間から見た彼女の表情は、ギンギンに挑発的な笑みを浮かべている。

 こいつ……本気だ!

 

「ほう……今のを防いでぴんぴんしているとは。クラス1のマッチョの座を狙っているという噂は、どうやらホントだったアルな、本屋2号!」

 

 何その噂?

 

「いつか決着をつけようと思てたが、今がその時と見たネ。さあ、構えるアル!」

「……フッ」

 

 オレは眼鏡を外し、懐に仕舞った。

 

「いいんちょ……先に行きな」

「で、でも!」

「クーフェイさんはわたしが引きつけるッ! さあ!」

「……ご武運を!」

 

 委員長に明石さん、佐々木さんは、オレ達の異様な雰囲気を感じ取ったのか、この場から去っていった。

 ……よし! うまいこと雪広さんと別れられたぞ。あとは流れで抜け出して、部屋に戻ろう。

 

「ぼうっとしてる場合じゃないヨ!」

 

 枕を持った古菲さんがしかけてくる。このままガードを固めていれば、そこまでダメージは受けないはずだが……

 それは油断だったのだろう。古菲さんは、それこそ魔法使いを上回るスピードで一歩、こちらの懐に踏み込んできた。片腕が枕で弾かれ、防御に穴ができる。

 

「がっ……!?」

 

 腹部に衝撃。これ自体は悶絶するほどのものでもない。だが、一秒こちらが止まってしまえば、古菲さんの動きは止まらなくなる。

 まるで舞いのような型を見せつけられると同時に、あちこちに打撃が入れられていく。リズミカルに感じてしまうほどのテンポの良さ。

 これが中華の……! 身体能力のスペック差を埋める、技術!

 合理的な体技が構成する、流れるような連撃。ケンカを少しかじったくらいじゃ手も足も出ないな……!

 

「………!」

 

 反射的な、防衛行動だったのだろう。高畑先生にボコられているときのような感覚に陥ったオレの身体は、無意識に身体の内外に纏う魔力を強めていた。

 それで、古菲さんの動きが止まる。

 遊びのうちとして楽しんでいた表情が、すうっと真剣なものになっていった。

 

「……この威圧感……まさか同じクラスに、まだ強者がいたとはネ」

 

 そう言いながら、古菲さんは片手に残っていた枕を投げ捨てた。そのまま中国拳法のなにがしかの構えを静かに取る。

 

「すうーっ………」

 

 オレもまた、纏う魔力を強めて、半身を引いて彼女をにらむ。研ぎ澄まされた感覚の中で、じっと見守っていた長瀬さんがめずらしく汗を一滴流したのがわかった。オレ達が本気で拳を叩き合わせるようなことになれば、割って入ってくれるつもりなんだろう。

 集中が高まるにつれ、性能を上げていく五感。魔力のギアを上げるほど、目の前の古菲さんが緊張していくのがわかる。そして――、

 

「新田先生ーーっ!! また3-Aが騒いでますう~っ!!」

 

 英語教師のしずな先生を意識したセクシーな大人の声真似をして叫ぶ。なにーっ、と遠くから声がした。

 廊下の向こうからやってくる気配をとらえ、古菲さんが呆けた隙に階段を跳び、2階へ。

 そのまま3班の部屋へと戻り、ズシャア~ッと素早く布団に入った。

 この間6秒。我が全能力を投じた神業であった。しかも部屋のドアとか廊下の床とか全然壊してない。日々の訓練の成果だ……。

 

「うおおお!? な、なんだ、こいつ……」

「あら宮崎さん、おかえりなさい」

「いんちょー見捨ててきたんだね……」

 

 布団の中からテレビを見守っていた班員たちに出迎えられる。

 やれやれ、なんとかなったぜ。ここからは大人しく、のどかの勝ちを見守ろう。

 

 

 そのあと。

 ネギくんの偽物が数人あらわれ、各班の選手たちとキスし始めたときはもう、どれが本物か分からなくて怖かった。もし本物だったなら、全然原作と違うことになってしまう。

 しかし結果としては、どうやらネギ先生は外のパトロールをしていたらしく(冷静に考えたらそりゃそうだ)、生きのこったのどかはロビーにやって来た本物と何やら会話したあと、夕映さんにすっころばされてラッキースケベ的なキスを交わした。優勝者は無事オレの本命に決まったわけだ。

 オレ以外の参加者は全員新田先生に正座させられていた。若者たちよ……これも青春だ、かわいそうだが楽しんでほしい。だが汚い大人は、こうしてうまく逃げるものさ。

 

 しかし翌朝、委員長に死ぬほど怒られた。

 

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