野良ベーシストは運命と出会う   作:なんJお嬢様部

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予想外の後編。文章量を減らす努力がしたい。それか書くスピード上げたいマン。

お気に入り登録80名あじゃーっす!
わたくし、感激の涙が止まりませんことよ?


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アンケートはまだまだ募集してます。
現在次点の4倍近いスコアで恋愛ルートが1位、その次が友情ルートとなっております。

やっぱり、世の中ラブなんやなって。あれもラブ、これもラブ。

そして、黒服ルートにも票が入っている……(困惑)
メンインブラックになった鳴瀬君が見たい奇特な人が二人も!

とりあえず、一番じゃなかったからといってもそのルートをやらないというわけではないです。需要があれば書くので、見たいエンディングにどしどし投票してくださいな。


野良ベーシストはささやかな平穏を守りたい(後編)

 善は急げ。

 拙速は巧遅に勝る。

 兵は神速を尊ぶ。

 

 スピードが大切であるという格言は古来より枚挙に暇がないが、俺もその先例に倣うとしよう。

 

 ペグ子たち三人組と入れ替わりに部屋に入ってきた北沢さんと松原さんの姿を認めた俺は、早速口を開いた。

 

「よーし、お二人さん。それじゃあ手短に済ませようか!」

「えー!? はぐみ、もっと鳴瀬くんのお部屋見たーい!」

「だ、ダメだよぅ、はぐみちゃん。鳴瀬さん困ってるよ……」

 

 何としてもペグ子が何かする前に、リビングに帰りたい俺の気持ちなど露知らぬ北沢さんが口を尖らせて抗議をするも、それを松原さんが優しく嗜める。

 

 ああ、松原さん。君の優しさが身に染みるよ。

 

 しかし、普段なら大人しく従うであろう松原さんの言葉に、何故か今日は北沢さんが強固に反論する。

 

「ええー! だってこころちゃん、薫くん、美咲ちゃんたちは結構長く入っていたのにずるいよー!」

「いや、それは色々説明とかアドバイスする必要があってだね……?」

 

 慌てて訳を説明するが、北沢さんは頬をぷりぷり膨らませてご立腹だ。けれども、その姿はなんだかハムスターみたいで迫力はない。

 

「そんなー! 三人だけ色々アドバイス貰えるなんておーぼーだー! かのちゃん先輩も、鳴瀬くんのアドバイスたくさん欲しいよね?」

「ふぇっ!? そ、それは、私もアドバイスはしっかりして欲しいですけど……でも……」

「ほらー、かのちゃん先輩だってそう言ってるよ!」

「あ、あのっ、わ、私はその……」

 

 今のやり取りで松原さんを味方につけたと思った北沢さんが更に気炎を上げる。松原さんはそんな北沢さんと俺を交互に見ながらおろおろするばかりだ。

 

 ……ま、まずいな。思ったより北沢さんが食い下がってくるぞ。なんか、松原さんも積極的に止める雰囲気じゃないし。もしかして、みんなと平等じゃないのがダメなのか。

 

 ここに来て思わぬ伏兵の出現にあせる俺。

 

 そんなことを考えているうちにも時計の針は進んでいく。それは即ち、怪獣こころが枷から解き放たれるまでの時間が迫っていることを意味していた。

 

 ぐぬぬ……苦しいけどここは決断をしなければ! とにかくペグ子が動き回るリスクだけは絶対回避だ!

 

 北沢さん(と松原さん)の不公平感を無くすには、三人にかけたぐらいの時間をかけてあげる必要がある。

 しかし、今この場でこれ以上時間を取ることは不可能だ。

 ならば俺はどうするべきか?

 導き出される答えは一つしかなかった。

 

「分かった! 今日は無理だからさ、今度! 今度二人には特別にアドバイスの時間をとるよ。それでいいかな?」

「えっ、ほんとに!? それならはぐみはいいよー! かのちゃん先輩もそれでいい?」

「わ、私もそれでいいです……!」

 

 あぶねぇー! なんとかなった!

 

 とにかく俺にとっては今をなるはやで凌げれば後はいくらでも時間がとれる。そういったことを加味しての提案だったが、あっさりと二人が飲んでくれたのは僥倖という他ない。

 

 事態をなんとか切り抜けたことに俺はほっと胸を撫で下ろーー

 

「じゃあさ、鳴瀬くん。今度コロッケ買いに来たときにさ、家に上がってベースを教えてよ!」

「え゛」

「ふぇっ!?」

 

 ーーせなかった。

 

 いやいやいや、それは不味いでしょうよ北沢さん!

 

「えっ、でも流石に北沢さんのお家にまでお邪魔するのは……」

 

 正直、年頃の娘さんたちを自分の家に上げているという現状ですらかなりあれなのに、逆に娘さんの家に押しかけて二人きりになるなど、アウトどころか(社会から)退場処分ものである。

 

 それぐらいの分別は俺だって持ち合わせてますよ?

 

 しかし、戦略爆撃機HUG-M1はそんな俺に対して容赦のない絨毯爆撃攻勢をかける。

 

「大丈夫だよ! お母さんとお父さんには鳴瀬くんのこと話してあるし、お兄ちゃんも鳴瀬くんとは一度話してみたいって言ってるよ!」

「えっ? ま、マジで? 北沢さん家って俺のこと家族みんな知ってる感じなの?」

 

 北沢さんのご家族がみんな俺のことを知っている。そのとんでもない新事実に俺は激しく狼狽した。

 

「そうだよー! だからお母さん、時々鳴瀬くんにコロッケオマケしてたでしょ?『いつもありがとうねぇ』って」

 

 あ! あの「いつもありがとう」って「よく買いに来てくれて」じゃなくて「娘がバンドでお世話になって」ってことかよ!

 

「マジかー、そうかー……」

 

 衝撃の事実に思わず頭を抱える俺。

 

 そして、北沢さんはそんな俺ににこやかに話しかける。

 

「それじゃあよろしくね、鳴瀬くん! あっ、でももしかしたらソフトボールとかで空いてない日があるかもしれないから、来るときは連絡して欲しいな!」

「オーケー、んじゃ北沢さんにも俺のスマホのアドレス教えとくよ。むしろ、北沢さんから暇な日を連絡してくれてもいいぞ」

「はーい!」

 

 うーん、連絡先はあんまり交換する予定じゃなかったんだけどなぁ。これも必要経費と割り切るか。

 

 《ハロハピ》メンバーの内、俺が連絡先を交換していたのはペグ子(強制)と奥沢さん(合意)の二人だけだった。

 

 奥沢さんは活動開始後の割と早い段階で「私には作曲なんて無理ですよ~」と泣きついて来たので、その時に連絡先を交換してアドバイスを送っていたのだ。正直な話、今の俺の交友関係で一番密に連絡を取り合ってるのは間違いなく奥沢さんである。

 

 ちなみにペグ子への対応はウユニ塩湖並の塩対応である。一度メールに普通に返信したら、そこからの絨毯爆撃でフォルダがパンクしかけた。電話は声がうるさいのでそもそも取らない(無慈悲)。

 しかし、それでも時間的には奥沢さんの1/3ぐらいは対応している。しかも、こちらから連絡を取ったことは一切ないのにである。

 もしかしたら恐ろしいことにペグ子は隙有らば俺に連絡を入れてるのかもしれない。

 

 というわけで、これ以上連絡先を交換したら俺の一人時間がどんどん《ハロハピ》に侵食されると危惧した結果、連絡先を秘匿していたのだが、ついにその禁を破ることになったわけだ。

 

「よーし、北沢さんの連絡先は確認したよ」

「こっちもオッケー! それじゃあ、これから暇なときにバンバン連絡するね!」

「それはやめてね」

 

 さらりと恐ろしい発言を行う北沢さんを制すると、今度は松原さんの方へ顔を向ける。

 

「それじゃ、松原さんはどうする?」

「ふぇっ!? わ、私ですか……? ど、どうしましょう?」

「うーん、俺に聞かれてもねぇ……?」

 

 松原さんは俺に対して遠慮しているのか返答を決めかねている様子だ。慎み深い彼女らしい反応である。

 

 そんな松原さんに北沢さんがにこやかに声をかける。

 

「かのちゃん先輩は鳴瀬くんをいつ家に呼ぶのー?」

「えっ、家…………ふえぇぇぇ!? む、無理! 無理ですそんなの~!?」

 

 北沢さんの言葉で松原さんが残像が見えるような速さで首を左右に振る。

 

 そうだよなー。これが普通の反応だよなー。年頃の女の子がそんな簡単によく知らない男なんて家に上げないよ。

 

 俺は、いつの間にか世間の女性から貞淑という観念が失われていたのか? と思い始めていた自分が間違っていたことに安堵する。

 

 やはり、松原さんは《ハロハピ》の良心。ありがとう、そしてありがとう松原さん!

 

 心の中で松原さんに最大級の謝辞を述べつつ、それとは全く違うことを言うために俺は口を開く。

 

「うむ、松原さんは北沢さんと違って家で教えるのは無理だな」

「えっ?」(×2)

「だって、松原さんの家ってドラムセット無いだろ?」

「あっ……」

「あー、確かにー。簡単に持ち運びできるはぐみや鳴瀬くんのベースと違って、ドラムは家には簡単に置けないもんね」

 

 松原さんと北沢さんがそれぞれ納得といった表情を浮かべる。

 

 松原さんはスティックワークの練習用にスネアドラムは持っているみたいだが他には何もない。やはり、ちゃんと教えるならセットである方が望ましい。

 

「だから、松原さんは《arrows》での個別練習で対応させてもらうよ。親父さんに頼んで、ドラムがある少人数部屋押さえてもらってさ」

「えっ、わ、悪いですよそんなの……。私だけのために鳴瀬さんにお金を使わせるなんて……」

 

 スタジオを借りると告げた途端に松原さんは申し訳無さそうな表情になる。

 

「いーの、いーの。俺の都合で別日に時間取るんだからそれくらい奢らせてくれ。俺だって一応年上の男なんだから、後輩の女の子の面倒ぐらいみるさ」

「おー! 鳴瀬くんかっくいい~!」

「よせやい、照れるぜ」

 

 キラキラした表情で俺のことを誉める北沢さんに応えつつ、松原さんにお伺いの視線を注ぐ。

 

 松原さんはコロコロと可愛らしい百面相をして悩んだあと、ゆっくりと首を縦に振った。

 

「そ、それじゃあ、それでよろしくお願いします!」

 

 松原さんの返事に大きく頷く。

 

「あいよー、練習はいつにしようか?」

「そ、それなんですけど……」

「ん?」

 

 そう言った松原さんはしばらくスカートをもじもじといじってから、覚悟を決めた表情で口を開いた。

 

「そ、そのっ! 《ハロハピ》の練習や、お家の都合もあるので! わ、私も、はぐみちゃんみたいに、れ、れれ連絡先を聞いておいてもいいでしゅか!?」

 

 ……噛んだ。かわいい。

 

 ではなくて。

 

「あー、いいよいいよ。連絡先交換しとこう。スマホ出してね」

「あっ、は、はい!」

 

 松原さんに連絡先を教えるのは無問題(モーマンタイ)だ。彼女ならそこまで頻繁に無遠慮に連絡をしてくることは無いだろう。

 

 むしろ、ちょこちょここちらから気にかけてあげるぐらいがいいかもしれないな。

 

 そう考えると、ここで自然に連絡先を交換できたのは僥倖だったかもしれない。奥手な松原さんにこちらから踏み込んだら、逆に逃げられる可能性もあったからだ。

 

 ポチポチとスマホを操作してアドレス帳を交換。これで松原さんともスマホで繋がれるようになった。

 

「これでよし。また都合がいい日が決まったら連絡頂戴ね」

「は、はい!」

 

 うーむ、これで結局薫以外とは全員連絡先を交換してしまった。また俺の平穏がクラウチングスタートで遠退いていく気がする。トホホだな……。

 

 そんなことを考えながら心の中でガックリと肩を落とす俺は、この後あまり間を置かずに、北沢さん経由で薫が彼女だけが連絡先を交換していないことを知り、連絡先をなし崩し的に交換されることになろうとは夢にも思っていないのであった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「よっしゃー! これで必要なものは渡したからな! 二人ともちゃんと練習よろしく!」

「はーい! 鳴瀬くんありがとー! はぐみ、頑張るよ!」

「ありがとうございます……! 私ももっと練習します!」

 

 その後、俺はさくっと二人に必要なものを渡し終えた。

 

 北沢さんには、薫と同じように消耗品のセットをプレゼント。そして、ベース用の教本と特殊な奏法の練習DVDも添えた。今度の個別練習までに個人で練習をしてもらってできないところを付きっきりで教える算段だ。

 

 松原さんには、彼女が使っていないタイプのスティックの詰め合わせをプレゼントして、加えてドラムのフィルイン全集を渡した。

 既に基礎が固まっている彼女は、より自分の技の引き出しを増やすべきだという判断だ。

 松原さんにはぜひ自分らしさ(セルフィッシュ)を磨いていって欲しいものだ。

 

 そして、この二人にアイテムを渡し終えたということはーー

 

「よし、すぐにリビングに戻ろうか!」

 

 ーー野放しのペグ子の対応に向かうことができる訳である。

 

「うーん、やっぱりもう少しこの部屋に居たかったけど仕方ないなー」

「はい、ありがとうございました鳴瀬さん」

 

 未練がましい北沢さんと、丁寧にお辞儀をする松原さんを少し急かしつつ、俺は楽器部屋を後にする。

 

 ……万が一、渡した本を読み終わっていたとしても、ペグ子たちには奥沢さんがついているからな。

 

 いくら奥沢さんが別れ際に「ム・リ・デ・ス」とアイコンタクトを送ってきていたとしても、この短時間なら彼女がなんとか二人を抑えているはず!

 

 そんな俺の考えは。

 

「あ! CDデッキがあったわよ薫! 早速音楽を流しましょう!」

「少し待ってくれたまえ、こころ姫。私としてはこちらの本棚の本に興味がだね……」

「あー!もー! 二人とも、勝手に動いたらまずいですって!……あっ……」

「Oh…………」

 

 俺の勉強部屋をごそごそと漁る頭お花畑二人の姿で粉々に打ち砕かれた。

 

 ……まぁ、ちょっとはこうなることは想像してたけどさ。実際に目の前で暴挙に出られると一瞬固まっちゃうよな。うん。

 

 そんな風に半ば思考を放棄していた俺の脳ミソを叩き起こしてくれたのは、ペグ子が操作したCDデッキから流れ始めた《NILVANA》の『SMELLS LIKE TEEN SPIRIT』だった。

 

 ……!! この曲は『Smells』! やっぱりカートはいつだって俺に正しい道を示してくれる! ありがとうカート!

 

 心の中で俺のロックの神に感謝を述べつつ、俺はマイルームを蹂躙している侵略者(インベーダー)を止めに走る。

 

「お前ら、何勝手にやっt「あっ! 鳴瀬くんのお部屋、私も見たーい!」ぐふっ!?」

 

 しかし、俺の口から出そうになった制止の言葉は、後ろから脇目も振らずに駆け出した北沢さんの重戦車のごときタックルによって千切れ飛んだ。その勢いのままに言葉と共に吹き飛ばされ、リビングのフローリングを転がる俺。ひどい。

 

「わっー! 鳴瀬さん、大丈夫ですか!?」

「ねぇ、これが大丈夫に見える?」

「……なんか、もう、すみません」

 

 慌てて駆け寄ってくれた奥沢さんに、フローリングに力なく横たわったまま抗議の言葉を送る。

 

 その言葉に恐縮する奥沢さんを見てチクリと良心が痛んだ俺はすぐにフォローを入れる。

 

「あっ、いいよ気にしないで。最初にあいつらを止めるのは無理だってアイコンタクトしたもんな、うん」

「いや、それでも申し訳ないですよ」

「な、鳴瀬さん、体に痛いところはありませんか?」

「大丈夫だよ、ありがとな二人とも」

 

 フリーズ状態から解けた松原さんと奥沢さんの手を借りて、生まれたての小鹿のような頼りない動きで俺はヨロヨロと立ち上がる。

 

 そして、何とかマイルームの入り口に立つと、その枠にもたれ掛かって口を開いた。

 

「うぉい! なーに勝手に俺の部屋に入ってるんだよ!」

 

 俺の言葉に侵略者三名の顔がこちらを向き、ペグ子と薫がその口を開いた。

 

「あっ、鳴瀬! この曲すごく格好いいわね!」

「Mr.鳴瀬! これは何という曲なんだい? この特徴的なギターリフ、ああ、なんて儚いんだ!」

「おっ、お前らもこの曲の良さが判るか!? これは《NILVANA》の『Smells Like Teen Spirit』っていってな、グランジの歴史に名を刻む名曲なんだ……じゃなくて! まず謝罪の一言があって然るべきだろ!」

 

 ……危ない。《NILVANA》が褒められたから変な方向に話が行きそうになった。

 

 二人の発言に危うく(ほだ)されそうになった俺は何とか軌道修正を図る。腰に手を当てて仁王立ちすると、流石のお花畑たちも少しはまずいと思ったのか、顔を見合わせる。

 

「ごめんなさい、鳴瀬! わたし、鳴瀬から貸して貰った袋に入っていたCDが早く聴きたくて、デッキがあるあなたの部屋に入ってしまったの」

 

 真っ先に口を開いたペグ子が、両手を組んで少し神妙な様子で謝罪の言葉を口にする。今まで見せたことがないタイプの表情に、俺の溜飲も少し下がる。

 

「あー、そういえば音源持ってるスコアはそれも付けてたな……親切が裏目に出たか……って、ちょっと待った。こころ、お前何で俺の部屋にCDデッキがあったなんて知ってんの?」

「それは、黒服の人たちが『こころ様、どうやら成瀨様の私室にはCDデッキがあるようです』って教えてくれたのよ」

「うぉい! 何やってくれてるんだ黒服の人たち!」

 

 ペグ子の告白で、すぐに黒服たちの方を振り返ると、彼女たちは「どやぁ……」という効果音が流れそうな表情でリビングに佇んでいた。

 

「はい、鳴瀬様に行動を制限されたこころ様たちに代わって、鳴瀬様のお宅の構造は私達が確認しておきました」

「違げーよ! あの『勝手に動くな』にはあんたらも入ってるの!」

「なんと!?」

 

 俺の指摘に、黒服たちは想定外だといった表情を浮かべる。どうやら彼女たちは安全に悪意無く善意から行動をしたらしかった。

 

 ……まぁ、確かに自分が仕えているお嬢様が男の家に遊びに行くなんてなったら、部屋のリサーチぐらいはするか。

 

 兆に一つの危険も無いにせよ、その不測の事態を想定して動くのがプロフェッショナルというもの。そう考えると、黒服たちの行為もきつく責める訳にはいかないのかもしれない。

 

「鳴瀬様、申し訳ありません。私共の勝手な解釈で鳴瀬様の気分を害してしまいました」

「いや、いいよ。そちらはそちらで与えられた仕事を完璧にこなしてるだけなんだからさ。でも、今度こういうことがあったらちゃんと俺にも確認とってくれよ?」

 

 申し訳無さそうに深々と頭を下げる黒服たちを俺は手で制して顔を上げさせる。

 

「寛大なお言葉に感謝します、鳴瀬様。流石はこころお嬢様が認められたお方ですね。器の大きさが違います」

「いや、こころ基準で語られると俺の器の大きさがばがばなんだけど」

 

 ひとまず黒服の件が片付いたところで、俺は再び三人衆の方に顔を向ける。

 

「ということで、色々あったけど今回は大目に見てやる。なので速やかに俺の部屋から立ち退きなさい。CDは家に帰って聞きなさい」

「はーい!」(×3)

 

 俺の言葉に素直に従って三人はすたすたとマイルームから退出する。

 俺の横を通るとき、最後に並んでいた薫がスッと足を止めた。

 

「Mr.鳴瀬、ちょっといいかい?」

「ん? どうした、薫」

 

 俺が首を傾げると、薫は少し言いにくそうに視線を反らして口を開く。

 

「いや、実は先ほどの曲のことなんだが、私はあの曲に大きく感銘を受けてね、良ければCDを貸していただけないかと思ってね」

「おー、そんなに気に入ったか。待ってろ、曲の入ったアルバムの『NEVERMIND』を貸してやるよ」

「おお、感謝するよ!」

 

 薫の感謝の言葉を背に受けて、俺はCDを取りに部屋に入る。

 

 好みの音楽の布教ができるならば、それに越したことはない。感想を語り合える人間が増えるのはよいものだし、その人間が別の誰かに布教してファンの輪が広がっていけば最高だ。良いものは皆で共有するに限る。

 

「ほら、これな。ケースを壊さないでくれよ?」

「ありがとう、大切に扱うよ。むっ、このジャケットは私も知っているよ!」

「あー、確かにそのジャケットは洋楽の有名なジャケットベスト10に入るレベルで有名だからな。曲を知らなくてもジャケットだけは知ってる人間も多いよ」

 

 釣り針に付けられた1ドル札を泳いで追いかける赤ん坊というインパクト大なジャケットを持つこのアルバムは、世界で4000万枚を売ったモンスターレコードだ。ジャケットのパロディも数多く製作され、発売から30年近い今でもその栄光は色褪せることはない。

 

「んじゃ、CDも渡したことだし、さっさと行くぞ」

「ん、ああ、そうだね……」

 

 やるべきことをやってもう何もないはずなのだが、薫の言葉は相変わらず歯切れが悪い。

 

「……まだ何かあるのか?」

 

 俺が再び尋ねると、薫は先ほど以上にもじもじとした姿を見せる。普段の彼女からは想像もできないような動きだ。

 

「えっ。……ああ、Mr.鳴瀬。もしよければなんだがね? 本当にもしよければでいいんだが、その、Mr.鳴瀬の部屋の本棚にあった本を何冊か貸してもらえないかなと……」

「……ああ、そういうことな」

 

 確かにさっき、本がどうこう言ってたな。

 

 勉強部屋も兼ねる俺の部屋には、大学のゼミで使っているような研究用の本も多く置いてある。特に俺は欧米の古い文学を専門に研究しているので、革表紙の装丁のいかにもな本も数多く取り揃えてある。

 後れ馳せながら中二病に目覚めたような薫にとって、俺の本棚はさぞかし刺激的に見えたことだろう。

 

「……わかったよ。ゼミの教授から借りてたり、今使ってるのは無理だけど、解説書付のやつをいくつか見繕ってやるよ」

 

 そう言った瞬間、薫の顔がパッと輝く。それはいつものキザな感じの笑顔ではない、年頃の少女のそれに近い笑顔だ。

 

 不覚にも少しドキリとさせられた。

 

「ああ! 感謝するよMr.鳴瀬! 大切に読ませてもらうよ!」

「お、おう。とりあえず、少し選ぶからリビングで待っててくれよ」

「そうさせてもらうよ。本当に何から何まで、ありがとう。この礼は必ず返すよ」

「へいへい、期待せずに待ってるよ」

 

 心なしかルンルンとリビングに向かう薫を少し見送って、俺は本を見繕うために再び部屋に戻るのであった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「よっしゃ、これで無事(?)渡すもんは渡したな」

「はーい!」(×5)

 

 薫に本を手渡して、再びリビングに集った俺たちは忘れ物がないか確認してようやく解散の流れとなっていた。

 

 長かった……。でも、俺はついにやったんだ!

 

 制御不能な三人衆を抱えて、これだけの被害で済んだのは僥倖だ。なんとか想定内で済んでいる。

 

「ありがとね、鳴瀬! とっても楽しかったわ!」

「おう、そうかい」

 

 お礼の言葉を述べるペグ子に軽く手を振って返す。

 

「今度また来るときは、ちゃんと鳴瀬の言いつけを守るわね」

「ははは、今度とか二度とないから」

「どうして!?」

「どうしても何も、少し考えたらわかるだろ! 察せ!」

「むー」

 

 さらりと再度襲撃予告をしたペグ子に釘を刺す。

 

 ペグ子は今一つ納得いかない様子で頬を膨らませていたが、急に何かを思い付いたように目を輝かせた。

 

 ……何だろう、凄い嫌な予感がする。

 

「そうだわ! もう来れないなら最後にベランダから外の景色を眺めましょう! ここは8階建ての最上階なんだから、きっと景色も素敵なはずよ!」

「なっ、おい、ちょっと待った!」

 

 ……ヤバい! 今、ベランダにはアレ(・・)があるのに!

 

 慌ててペグ子を止めようとした俺だったが、ペグ子はその手を猫科の動物のようなしなやかさで掻い潜ると、カーテンの前に立った。

 

「もう、鳴瀬ったら減るもんじゃないんだから少しぐらいいいじゃないの」

「減るとかそういうんじゃなくてだな!」

「それじゃあ、オープン!」

「わっ、馬鹿、止めろ!」

 

 制止の声も虚しく、俺の目の前でカーテンが思いっきり開かれる。

 

 そこに見えたのは高層から眺めるこの街の街並み、ではなく。

 

 風にはためく、俺の下着たちだった。

 

「あら?」

「むむっ!?」

「わわわわっ!?」

「ふ、ふえぇぇ~!?」

「あちゃー、ドンマイ鳴瀬さん」

「……(絶句)」

 

 最後の最後でペグ子はとんでもない被害を俺に与えることに成功した。

 

《ハロー、ハッピーワールド!》の面々は、(こころを除いて)赤面しているが、その視線はみんなガッツリと俺の下着に注がれていた。気づけば黒服の面々も俺の下着を眺めてうんうんと首を縦に振っていた。

 

 ……どんな羞恥プレイだよ!?

 

 流石のペグ子も気まずいのか、少しぎこちない笑顔を浮かべてこちらを振り返った。

 

「えーっと、鳴瀬って、可愛らしいパンツを履いているのね!」

「フォローになってねぇんだよ! 今すぐに出ていけー!」

「わー!?」(×5)

 

 神経を逆撫でするペグ子の発言にキレた俺がひとしきり暴れ回った後、《ハロハピ》のメンバーと黒服たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出して、我が家を静寂が支配した。

 

 俺は家に誰も居ないことを確かめてから、ヨロヨロと窓を開けて下着を回収すると丁寧にそれを畳んで衣装ケースにしまった。

 

 そして、そのまま部屋のベッドにダイブすると枕に顔を埋めた。もう、今は少しも動きたくない。

 

 もし、次に女の子を家に呼ぶことがあるならば、必ず洗濯物は片付けてからにしよう。

 

 ベッドの上で微動だにせぬまま、俺は心に固く誓った。

 




鳴瀬くん可哀想。

ということでお宅訪問パート終わりです。

連絡先は全員に知られ、下着も全員に見られた鳴瀬くんの明日はどっちだ!?


【協力依頼】
アンケートのお願いなのですが、エンディングに関わるアンケートと別にもう一つアンケートを取らせていただきます。

それは、各キャラのサイドストーリーがいるかどうかについてです。

一応、今回鳴瀬くんの連絡先が全員に知られたということで、《ハロハピ》メンバーの連絡から発展するサイドストーリーみたいなものを書いてもいいかなと思ってみたり。

ただ、これをやると回り道になるので、当然本筋の話の完結は遅れます。

その事も踏まえて回答いただけたらと思います。よろしくお願いいたします。

奥沢さんのサイドストーリー、読みたいのはどちら?

  • 結婚式場ルート。着ぐるみで疑似結婚式。
  • 田舎ルート。おばあちゃまの家でお泊まり。
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