【お礼と報告】
ドーモ、読者=サン。エンディングに向けてのアンケートへの多数のご協力ありがとうございます!
とりあえず、恋愛ルートが次点の友情ルートの四倍、友情ルートがノーマルルートの三倍、ノーマルルートが黒服ルートの二倍という結果でした。
ということで約束通り五人全員個別の恋愛ルート書きます。アババーー!?
ハーレムは特に希望コメントもなかったので無しでいきます。
あと、この作品の恋愛ルートにワイセツは一切ない。いいね?
この作品は健全重点!
そして、友情ルートもノーマルの三倍需要があるので書きます。ユウジョウは実際大事。古事記にもそう書いてある。ユウジョウ!!
黒服ルートは本当に余力があれば書きます。他にも書いている作品があるため、そちらをオタッシャ重点にしないためにも致し方ない配慮です。
流れ的にはノーマル→恋愛→友情で書かせてもらいます。恋愛や、友情ルートは一応ノーマル後の話という体なので。
また、新たなアンケートも実施しますので、またご協力よろしくお願いいたします。
そして、文中に混ざっていたよく分からない言葉の意味が判ったあなた、あなたは《ヘッズ》ですね?
いつも通りの《
「おっしゃー、それじゃあもっかい通しで演奏すんぞー!」
「はーい!」(×4)
元気の良い返事と共に、奥沢さんを除く《ハロー、ハッピーワールド!》の四人が楽器を構える。
《ハロハピ》メンバーによる俺の家への侵攻があった日から二週間、バンドの練習はそこから更に熾烈を極めた。彼女たちがいよいよライブに向けて本格的に舵を切ったということもあるが、そこにはペグ子によって全員の前でパンツを晒し者にされたという俺の私怨も多分に混ざっていた。
ともかく。
この苛烈なブートキャンプのごとき練習によって《ハロハピ》全体のスキルは間違いなく底上げされた。薫と北沢さんのテクニックはまだ発展途上といったところだが、正確さに磨きがかかった松原さんのドラムがそれを支えている。粗は目立つが演奏として全然聴けるレベルになっている。
更に、ボーカルのペグ子の成長も著しい。
今までのペグ子の歌は御意見無用の好き放題、言ってしまえば《無法》というレベルに近かったが、ここ最近はかなり楽器の音を聴いて歌うようになった。
《
……これは、マジにそろそろライブにぶちこんでも良いな。
《ハロハピ》の成長を眺めながら、俺は心の中で呟く。
季節はいよいよサマーシーズンに差し掛かり、夏休みがある学生バンドにとってこの時期はライブデビューにうってつけだ。ライブに向けての練習時間が確保しやすいこともあるし、何より集客力に乏しい学生でもこの時期なら暇な友人たちをライブに集めやすいのだ。
自前である程度観客を用意できれば
ふーむ、そろそろライブハウスに送る見本音源のレコーディングも考える頃だな。あとは、どこの
バンドをやる上で一番面倒なのが、この辺りの調整作業だ。音楽活動にあまり関係のないこの手の渉外行為ができるかどうかが、意外にバンドの明暗を分けたりするものだ。
そういった点では《ハロハピ》は俺がついた時点でかなり恵まれている。俺はこの手の活動は高校生の頃や《バックドロップ》時代にメンバーとの持ち回りでやっていたので慣れっこだ。
そして、バンドのマネジメントを担当する以上は、この手の活動には一切手を抜くことはない。「音楽に対するあらゆることに真摯に向き合う」のが俺の
こっちも本気なんだ。そっちも気張れよ《ハロー、ハッピーワールド!》……!
俺の熱い視線の先で、ペグ子たちの演奏はその熱が伝播したかのように白熱する。荒削りな、それでいてエネルギッシュな演奏で、彼女たちはそのまま一曲を駆け抜けた。
その音の残響がキャビネットを離れるのを待ってから両手を叩く。
「ハイハイお疲れさん! 演奏の講評は後で撮った動画を見ながらやるから少し休んでてくれ」
「はーい!」(×4)
4人は元気よく返事をしたものの、ペグ子以外の楽器担当の3人は流石に堪えたようで、すぐにぐでっとした体勢になる。演奏中の動きの激しい松原さんはもちろんのこと、スタミナのある薫と北沢さんも数キロのボディを抱えなければならないので疲労の程度は激しい。
俺は鞄からボトルを出すと一人一人に手渡していく。
「よーし、みんなよくやった。ドリンク淹れてきてるからしっかり飲みな、ほい松原さん」
「あ、ありがとうございます!」
「次は北沢さんな」
「わーい! 鳴瀬くんありがとね!」
「そしてこれが薫の分」
「ありがたくいただくよMr.鳴瀬」
3人は差し出したドリンクに一斉に口を付けて、
「……!? すっぱーい!?」(×3)
とこれまた一斉に叫んだ。
「……げほっ! み、Mr.鳴瀬? このドリンク、少し配合を間違えてはいないかね?」
いち早く立ち直った薫が、むせて涙目になりながら抗議の視線を俺に送る。
「いや、合ってるよ。みんなに渡したのはスポーツドリンクの一種で、クエン酸とかがかなり含まれてて疲れてるとめちゃくちゃ酸っぱく感じるんだよ」
「な、なるほどね。しかし、Mr.鳴瀬、それなら飲む前に一言ぐらい注意してくれてもよかったのでは?」
薫のこの指摘に、俺はハッとして後頭部をボリボリと掻いた。
「……完璧に言うの忘れてたわ。みんな注意して飲んでくれよ」
「もーう! 遅いよ鳴瀬くん!」
「ふぇぇ……鳴瀬さん、ひどいです……」
「ご、ごめんごめん。悪かったよ。とにかく、それが酸っぱく感じるということは疲労が溜まってるわけだ、ゆっくり休むんだぞ?」
気まずくなった俺は慌てて謝罪すると、残る一人にボトルを渡す。
「ほい、こころはこれな。お前はボーカルで喉使うからはちみつとかをブレンドした特別製だぞ、有り難がって飲めよ」
そう言って差し出されたボトルを見てペグ子の目がキラキラと輝いた。
「わーい! ごくごく…………ぷはっ、このドリンクすごく美味しいわ! ありがとう鳴瀬、また作ってね!」
「はいはい、気が向いたらな~」
ドリンクを一息で飲み干してボトルを返してくるペグ子に苦笑いを浮かべながら、設置してあったビデオカメラを回収する。
「じゃあ、俺はちょっと外でノートパソコン使って映像の確認してくるよ。録音ブースのレンタルの話も親父さんとしたいしな」
「録音?」
「おう、そろそろライブハウスに送るための音源を録っておかないといけないんでね。音源で演奏レベルを確認してもらわないとライブには出られないからな」
さらりと発した一言だったが、これに4人がぐいぐい食いついてきた。
「それってついにわたしたちのライブができるってこと!? わーい! やったわ!」
「おお! ついに私も役者以外の立場で舞台に立つときが来たようだね。ああ、最高に儚いステージが今から目に浮かぶよ」
「わー! ねぇ、いつライブするの!?」
「ふぇぇ……あんまり大きなステージじゃないといいなぁ……」
「うぉ!? 一斉に詰め寄ってくるなよ!? まだ決まった訳じゃないから!」
親鳥が餌を持ち帰ってきた時の燕の雛のように、群れて口をパクパク開くメンバーを制して、俺はスタジオのドアに手をかける。
「とにかく、詳細は決まってから連絡するから今は休んでろ! ちゃんと休むこともコンディション維持の大切な要素だからな」
「はーい!」(×4)
……まったく、やれやれだよ。
そうしてすっかり元気を取り戻して喋り始めた4人を残して、俺は《arrows》のラウンジへと向かうのだった。
◇◇◇
ラウンジへと向かう一階の廊下、ラウンジの入り口前で見慣れた背中を見つけた俺はピタリと足を止めた。
「あれ、親父さんじゃないですか。こんな微妙なところで何で突っ立ってるんです?」
「しっ、静かに!」
俺が声をかけた瞬間、《arrows》のオーナー、
その緊迫した様子を察した俺は無言で親父さんの後ろに近寄り、その肩越しからラウンジを眺めた。
そこにいたのはペグ子のお付きの黒服たちと奥沢さんだった。その様子から、口論とまではいかないものの、双方が何やら真剣な様子で話しているのが分かる。
「……はい、こちらで手配を……」
「それはちょっと…………」
「ですが…………」
「…………した、私が何とかします」
断片的にしか聞き取れなかったが、どうやら奥沢さんの今の言葉で話が一段落着いたらしい。黒服たちはスマホを取り出しながら店の外に向かって、奥沢さんはラウンジのソファに腰を下ろすと、放心したようなほけーっとした表情で天を仰いでいる。
「……何があったんすか、これ?」
事態をあまり飲み込めなかった俺が四方津さんに尋ねると、四方津さんはゆっくりと振り返ってトーンを落とした声で話し始めた。
「俺も便所から帰ってきたらこの有り様だったんで全部は分からないんだが、どうやらライブのことで少し揉めたみたいだな」
「マジっすか」
……おいおい、勝手なことしてくれんなよー?
黒服たちが何やらこそこそ動いていたのは知っていたが、ライブがらみのことだったとは。
ここで黒服の人たちに勝手に動かれてしまうとこちらの立てた計画がポシャることもあり得る。特にライブに向けての練習計画を狂わされるのは指導する側にとってきついものがある。
しかし、話の最後の流れからするとどうやら黒服の動きを奥沢さんが止めるかたちになったようだ。これはかなりのファインプレーだ。
とりあえず、奥沢さんに話を聞くか。
そう考えながらラウンジに向かおうとする俺の肩に四方津さんが手を載せる。
「どうしました、親父さん?」
怪訝な表情で俺が四方津さんの方を向くと、四方津さんは空いた手の親指をグッと立ててにやりとした笑みを浮かべた。
「鳴瀬、今かなりのチャンスだぞ。美咲ちゃん、今のやり取りでかなり弱ってるみたいだから、ここで優しく助けてやれば俺の経験上、間違いなくお前にぞっこんになるぞ」
わぁ……すごくどうでもいいです。
もっと建設的なアドバイスがもらえるのかと思ったら、全く関係のない恋愛指南で肩透かしを喰らった。
しかも、四方津さんの恋愛経験則ほど当てにならないものはないことは、今までのやり取りのなかで十二分に理解している。
「……とても参考にならないアドバイスありがとうございます親父さん。もう行っていいっすか?」
「ああ、頑張れよ、鳴瀬!」
俺の皮肉を全然意に介さない親父さんは、ニヤニヤとした笑みを崩さない。まったくバンドマンらしい神経の図太さである。
俺は肩に置かれた手をそっと外すと、今度こそラウンジへと踏み込んでいった。
「やっほー、奥沢さん。疲れてるみたいだね」
「あ゛ー……鳴瀬さん、お疲れ様です」
何も知らない体で、努めてリラックスした様子で俺が声をかけると、ゼンマイが切れかけたブリキのオモチャのような緩慢な動作で奥沢さんがそれに応えた。
俺はするりと奥沢さんの前の椅子に腰を下ろすと本題に入る。
「奥沢さん、めちゃくちゃ表情悪いよ。何かあった? 俺に相談できることがあれば言ってみなよ」
「な、鳴瀬さん……!」
まるで潤滑油を注入されたがごとく、先程までの緩慢な動きが嘘のように、奥沢さんが俺の方に顔を向ける。
「えーっと、鳴瀬さん」
「あいあい、なんでしょう」
「鳴瀬さんって、この辺りのライブハウスに詳しかったりします……?」
それから奥沢さんが語った話はこうだ。
奥沢さんが飲み物を買うためにラウンジに降りたところで、何やら黒服の人たちがスマートフォンであわただしくやり取りをしている。
気になった奥沢さんが何をしているのか尋ねたところ、なんと《ハロハピ》の初ライブをとんでもない大きなライブに突っ込むために主催者に連絡を入れている最中だという。
それを聞いた瞬間、それは言葉にできないけど何かが違うと思った奥沢さんは黒服の人たちを制して、色々と押し問答をしているうちに、自分がライブの手配をするとぶちあげてしまった訳である。
しかし、当然バンド素人の奥沢さんがライブハウスに
そこまでを一息に話した奥沢さんがガバッと頭を下げる。
「すみません! 勢いに任せて自分で蒔いた種なのに、鳴瀬さんに負担をお願いするようなことになって……」
「いやいや、そんなに頭を下げなくてもいいよ奥沢さん」
申し訳なさそうに頭を下げたままの奥沢さんを手で制するが、それでも彼女は顔を上げようとはしない。
「いえ、例のお宅訪問の一件以来、鳴瀬さんには一同多大なご負担を強いているので、本来ならこの程度の謝罪では足りないはずです!」
「…………」
ペグ子よ、今すぐ走ってきて奥沢さんのこの姿を見よ。これこそ正しい人の在り方というものだぞ。
俺は、奥沢さんの素晴らしい気配りに痛く感激し、奥沢さんの爪の垢を煎じて、1日3回3ヶ月コースでペグ子に服用させたい衝動に駆られた。
まぁ、今はそれよりも奥沢さんのケアを先にしておくか。
とりあえず、今ここにいないペグ子のことは置いておいて、俺は努めて優しい態度で奥沢さんに声をかける。
……別に四方津さんに優しくしろと言われたからではないが。
「いや、その件はそんなに気にしてなくはないけど、奥沢さんにあまり非は無いからな。それにライブハウスの件は丁度良かったよ」
「え……丁度いい、ですか?」
奥沢の顔が上がる。彼女と目を合わせてから、俺は大きく頷く。
「ああ、実は俺もそろそろライブに向けて、ライブハウスの選定をしようと思ってたんだよ。だから、奥沢さんが黒服の人たちに釘を刺してくれたのは、実にいいタイミングだった」
「なるほど……そうだったんですね」
「うん、なので奥沢さんがライブハウスを見つけるって言うなら俺は全力でサポートするよ。元々俺がやるはずだったことだし、それをやってくれるというのは正直ありがたいよ」
「ううう~、鳴瀬さん!」
「うぉ!?」
奥沢さんが感極まった様子で目尻に涙を溜めて俺の両手を握る。急に手を握られたことと、女の子の柔らかな手の感触に少しドキリとさせられる。
平常心、平常心だぞ、俺。
奥沢さんの前で実際に深呼吸はできないので、心の中で深呼吸をして仕切り直しを図る。
「そ、それじゃあ早速準備しようか。とりあえず俺がめぼしいライブハウスを教えるから、連絡先をメモしてくれるかな」
「はい、お願いします鳴瀬さん」
そう言って奥沢さんの手が俺の手から離れる。それでもまだ彼女の手の感触が残っている気がする。平常心、平常心。
「メモの準備できました!」
「よーし、それじゃあ軽くライブハウスの特徴も押さえつつ言うからよろしく頼むよ」
「はい!」
そして、俺の言葉に従って、奥沢さんのペンがノートを走り出した。
◇◇◇
「…………オッケー。ここのライブハウスは、ルーキー歓迎なんだけど、出演バンドはパンクやメタル系が多くて《ハロハピ》とは毛色が違うから、最後の選択肢ということで。一応、俺の顔が利くところだから審査は通りやすいとは思うけどね」
「なるほど、ありがとうございます!」
あれからしばらくして、奥沢さんのノートにはここの駅から二駅圏内にある小~中規模のライブハウスの一覧表が出来上がっていた。これだけ教えればどこかには引っ掛かってくれるはずであると信じたい。
「んで、次は電話かけるときに聞いて欲しいことなんだけど」
「ふむふむ……」
「ひとつ目は大体二週間後ぐらいに対バンライブがあるか、二つ目はバンドの音源は三日後ぐらいに送ることになるが大丈夫か、三つ目はライブデビューのルーキーでも構わないか。これは外さずに聞いてくれ」
俺の出した三つの条件は今回の初ライブをする上で必須とも言えるものだ。
二週間という期間は、今の《ハロハピ》を仕上げるために最低限欲しい時間であり、なおかつ、夏休みの半ばという理想的なタイミングでもある。
休みがギリギリになると、課題を溜め込んだ人間は家に缶詰になったり、真面目な人間は二学期に向けてコンディションを調えるので客を動員しにくい。
音源は現在存在しないので、なるべく短期間で用意する。これがないと選考の舞台にすら上がれないハコもある。
ライブハウスによっては現地で生演奏を聴いて判断するところもあるが、それは少数派だ。いずれにしても音源は作らねばならない。
そして、ルーキーをアピールすることはかなり重要だ。もし、共演者が上手いバンドだらけの場合はハコ側が対バンは厳しいと判断して断ってくれるので下手を打つリスクが下がる。
そんな俺の考えが伝わってはいないかもしれないが、奥沢さんは丁寧に俺の言葉をメモして頷く。
「分かりました、この条件で優先順位が高いライブハウスから片っ端から電話してみます! ありがとうございます、鳴瀬さん」
「頼んだよ奥沢さん。俺はライブに向けて他の四人を仕込んでおくから」
俺が椅子に座ったときよりも格段にいい表情をしている奥沢さんを残して、俺は椅子から立ち上がる。
スタジオに戻る俺の背中に、奥沢さんの声がかかる。
「鳴瀬さん、私はあまりバンドとか詳しくないので、これからもアドバイスお願いしますね」
「おう、俺が《ハロハピ》と契約している間は何でも聞いてくれよ」
「はい、同じ常識人枠で協力していきましょう」
「ハハハ、マジでよろしく頼むよ」
最後に乾いた笑い声を出しながら俺はラウンジをあとにした。
廊下に戻ると、なんとそこにはまだ四方津さんが立っていた。少し驚いた表情をする俺に、四方津さんが先程と同じニヤニヤした笑みを浮かべて右手を挙げる。
「よう、中々上手くやったじゃないか。美咲ちゃん、かなりお前にグッときてるぞ」
「……盗み見は品がないっすよ親父さん。それに、俺は彼女たちとはそういうんじゃないんで」
わざとらしくげんなりした表情を浮かべて見せるが、四方津さんは相変わらずのにやけ面だ。
「そんなこと言って、美咲ちゃんに手を握られたときは正直ドキッときたろ?」
「そ、そんなことはないっすよ……」
……目敏いな、四方津さん! これが年の功ってやつか?
俺の心を読んだかのような四方津さんの発言に内心ヒヤリとしつつ、平静を装って返事をする。
動揺を隠し通せたかは定かではないが、四方津さんはバシバシと俺の背中を叩く。
「まぁ、今日はそういうことにしておいてやるか。……でもな」
そこまで言って、四方津さんは真剣な表情を作る。
「美咲ちゃんにしろ他の誰かにしろ、本気で心にグッとくることがあるなら早めに行動に移せよ。何度も言ってるが、バンドマンの男は歳を食うごとにモテなくなる。女の子が将来の人生設計なんかの現実を見始めるからな。そうなると
「…………」
真面目な表情で語られる四方津さんの言葉にはすごい重みがある。
実際、四方津さんは奥さんも娘さんもいて、こんなスタジオのオーナーまでしている人生の成功者に見えるが、ここに至るまでには色々あったらしい。
特に、恋愛面ではバンドのせいで高校時代から何度も失恋を経験しているらしく、特に二十代前半の頃に結婚も視野に入れて同棲していた彼女に夜逃げ同然に逃げられたことは今でも四方津さんの中で尾を引いているらしい。
だから四方津さんは、俺のような20代のバンドマンを見ると、親心からどうしても気にかけてしまうらしかった。
「特に美咲ちゃんなんかすごく人気があるのは、今までのラウンジでのやり取りでお前ももう解ってるだろ。ああいう守ってあげたくなるタイプの女の子は、マジでコロッと他の男に持っていかれちまうからな。盗られるときはホントに一瞬だぞ」
「……そうかもしれないっすね」
確かに奥沢さんは、本人は気付いて無さそうだがかなりモテる。ラウンジで奥沢さんに群がるバンドマンの中には明らかに彼女を狙っている者もいる。
それに奥沢さんだけではなく、他の《ハロハピ》メンバーも《arrows》では人気者だ。客層が男寄りのここのスタジオでは彼女たちは一種の清涼剤のようになっていて、松原さんを除けば愛想もよく、初対面でも物怖じしないのでバンドマンたちと打ち解けている。
今のところ、俺と彼女たちが四方津さんが思っているようなことになる可能性は無いが、もし仮に他のバンドマンに彼女たちが引っ掛かることがあればその時が《ハロハピ》解散の時になるかもしれない。
……ま、そんなことは今考えてもしかたないんだけどな。
大きな溜め息を一つ吐いて、俺は四方津さんに軽く頭を下げる。
「まぁ、貴重な先輩の御意見として受け取っておきますよ」
俺の言葉に四方津さんは満足そうに頷く。
「おうおう、今は響かない言葉でもボディブローみたいに後々効いてくることもあるからな。とりあえず頭の片隅にでも入れとけ」
「あいあいさー。んじゃ、俺はスタジオに戻ります。そろそろ制御が利かなくなる連中がいるn……」
「あー! 見つけたわよ、鳴瀬!」
噂をすれば影とはまさにこの事か。制御不能の筆頭がいつの間にか俺の目の前に立っていた。
「遅いわ、鳴瀬! みんなもう待ちくたびれているから一緒にスタジオに行きましょう!」
ペグ子は腰に手を当てて仁王立ちしてぷりぷりと頬を膨らませている。その姿は余りにも迫力に欠けていた。
「はいはい、すぐ行くよ」
そう言ってゆるりと動き出した俺の手をいきなりペグ子が握り締めた。
「さぁ急いで、鳴瀬! 早く行きましょう! 四方津のおじ様、鳴瀬を借りていくわ!」
「うぉう!? 急に腕を引っ張るなよ! 親父さん、すんませんが失礼します!」
「おーう、頑張ってこいよー」
真面目な表情を再びニヤニヤとした笑みに変えた四方津さんを残して俺はペグ子に引き摺られるように廊下を駆ける。
前にのめり込むような体勢となった俺の視線の先にはペグ子に握りしめられた俺の右手があった。
……うーん、奥沢さんと違ってこいつとはあんまりドキドキしないなぁ。まぁ、ペグ子だしな。
「……!? 鳴瀬、今とーっても失礼なこと考えなかった?」
「…………全然」
「ならいいわ!」
あぶねぇ。エスパーかこいつは。
妙に察しがいいペグ子に驚かされて別の意味でドキドキしながら、俺たちは3人の待つスタジオに駆けていくのだった。
初ライブ編は後2話ぐらいでまとめます(まとめるとは言ってない)。
とりあえず、恋愛ルートにスムーズに入れるように当初のプロットを修正、少しフラグ立てつつ話を進めます。ただ、恋愛タグはないので恋愛はエンディングまでない模様。
お盆で少しは筆が早くならんかな(願望)
奥沢さんのサイドストーリー、読みたいのはどちら?
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結婚式場ルート。着ぐるみで疑似結婚式。
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田舎ルート。おばあちゃまの家でお泊まり。