野良ベーシストは運命と出会う   作:なんJお嬢様部

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続きました。
初ライブ編の後編1!

……ん? 「1」? 変だな、後編は1話だけのはずだから「1」をつける必要はないのに……(コナン君)

はい、案の定後編も複数構成になりました。しかも三話構成です(死)
前半はライブ開幕編、今回のトップバッターである《Poppin'Party》の演奏メインでいきます。中編がライバル《HS DM》の演奏。後編は《ハロハピ》のステージとライブのアフターの話になります。鳴瀬くん食べられちゃうね(微笑)

さて、いよいよライブ本番です!

後編での初の試みとして、視点人物を鳴瀬君意外に《ハロハピ》のメンバーなどの女性キャラなんかにもしてみようかと思っています(暴挙)

まぁ、わたくしもなんJお嬢様部で乙女心を学んだ身でございますので、視点人物が少女に変わっても大丈夫ですことよ?(暴論)

ただ、この話ではまだ投入しない模様。

ここが作品の第一の山場となります。

初の試みも投入するので、上手くいっているかどうか、ご意見・ご感想、そしてよろしければ評価などもいただけると励みになります!

そして、今までに評価を下さった皆様、ありがとうございます! 評価の目盛りが二つ目も赤く染まったこと、本当に嬉しく思います!

それでは長くなりましたが本編をどうぞ!



野良ベーシストは仲間を信じる(後編1)

 ライブ。

 

 それは俺たちバンドマンの一つの目標。

 

 俺たちはなんのために痛い思いをして指の皮を割きながら金属の弦を掻き鳴らすのか。

 

 俺たちはなんのために重たい死んだ木を抱えて、汗水を垂らさなければならないのか。

 

 その一つの答えがライブ(これ)だ。

 

 最高の、そこまでたどり着けなかったとしてもその時点で最良の演奏を人々の前で披露する。音楽に関わる者として至高の喜びの一つである。

 

 とりわけ初のライブともなると、それが今後の人生を左右してしまうほどの意味を持つ。

 

 観客たち(オーディエンス)に暖かく迎えられ、次に進む活力を得る者。

 あるいは冷たくあしらわれて、その後の音楽の道すらも断ってしまう者。

 

 今日もまた、ここに一つのガールズバンドが初ライブの時を迎える。

 

 彼女たちの名は、《ハロー、ハッピーワールド!》。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 『school band summer jam 14th』開演20分前。

 

 今日のライブを見にきた客のほとんどが、もう既に《STAR DUST(スターダスト)》の店内に入っているらしく、店内の熱気と密度は中々凄いことになっている。

 

 もちろん、ライブが始まってからの熱気は今の比ではないのだが、ライブが始まる前のこの「今日は何かが起こるような予感がする」といった、観客の期待でジリジリと焼き付くようなタイプの熱気も悪くないと俺は思う。

 

 そんな店内の光景を眺めて俺の隣のペグ子はご満悦といった表情だ。

 

「見て見て、鳴瀬! こんなにいーっぱい人が入ってるわ! これみんな今日のお客さんなのよね!」

 

 まだ開演前だというのに、ペグ子の興奮は最高潮らしく、おもちゃを買って貰えることが決まった子どものようにぴょんぴょんとその場で跳び跳ねている。

 

 いや、「子どものように」じゃなくてマジでただの子どもだな、うん。

 

「んだな。一応、《STAR DUST》のハコのキャパは少なめに見積もって公称350にしてあるんだけど、今日は本当の最大値の400……いや、もしかするとそれより数十人は多く入れてるかもしれんな」

 

 俺は、跳び跳ねているペグ子の頭を上から手で押さえつけながら返事をする。

 

 ライブハウスが客同士の安全面に配慮して、実際のキャパよりも少ない人数しか会場に入れないことはよくある話だ。

 しかし、安全面には十二分に配慮しているはずの老舗のライブハウスである《STAR DUST》が、今日ここまでの無茶をしているのはーー

 

「ーーやっぱり《ハニースイート デスメタル(HS DM)》のためだよな」

 

 俺は、俺たち《ハロハピ》の最大のライバルであるそのバンドの名前をぼそりと口の中で呟く。

 

 先程から店内を見回しながら観客の客層も同時に確かめていたのだが、今日の観客は上は黒のTシャツ、下はダメージジーンズとスニーカーといったラフな格好の人間が多い。これは、メタル系バンドのファンの典型的な正装だ。

 

 《HS DM》がメジャーデビューを成し遂げた理由の一つに、彼女たちの音作りへの拘りがある。

 彼女たちはポップスからメタルにジャンル転向する際に活動休止期間を設けて、メタルの奏法というものをガッツリと身に付けてからステージに舞い戻った。

 

 それに加え、特にボーカルのSAKIさんはデスメタルに欠かせない声の習得にも余念がなく、通常のデスボイスの他にも、グロウル、スクリーム、ガテラル、シャウトといった様々な声を技術から完璧に習得して、なおかつそれを使い分けることができるのだ。

 

 そうした真摯な姿勢が往年のメタルファンのハートをガッチリと掴み、それが《HS DM》の人気を支える原動力の一つになったのだ。

 

 メタル系というジャンルは今日の日本ではバンドのメインストリームから外れたジャンルであると言える。そのため、彼女たちの活躍にメタルバンドの復権を託すファンも多く、一部の熱心なファンたちの間では彼女たちの神格化が始まっているらしい。

 

 ……そんなんだからますます男が近寄らないんだろうけど。

 

 あらゆる事象で頂点を目指そうとすれば、その隣に並び立てる人間は限られてくる。

 

 つまり、デスメタルという狂暴な音楽でガールズバンドの頂点を目指す彼女たちの隣に並び立てる未来の彼氏や旦那は、彼女たちが売れれば売れるほど減っていくというジレンマを抱えているのだ。

 

 誰だって猛獣が隣にいる檻の中で眠りたくはないだろう? つまりそういうことさ。

 

 などと《ハロハピ》の誰かさんみたいな感じで、《HS DM》のことを考えていると。

 

「おーい!」

「あっ、奥沢さん。こっちこっち」

 

 両手に飲み物のカップを抱えた奥沢さんが俺たちに気付いて声をかけてきた。

 彼女はするすると人混みを巧みに抜けると俺たちの前に辿り着いた。

 

「いやー、凄い人になりましたね。あ、これ、頼まれてた飲み物です。鳴瀬さんがブラックのアイスコーヒー、こころがオレンジジュースね。おかわりはカップを持っていくと割引があるみたいなんで捨てないで下さいね」

 

 自分のものも合わせて三個のカップを器用に持っていた奥沢さんは、更に器用に俺とペグ子のカップだけをこちらに手渡してくれる。

 

「サンキュー奥沢さん」

「わーい! ありがとう美咲ー!」

「わっ!? こころダメだよ、飛び付かないで! 飲み物がこぼれちゃう!?」

「おっとあぶない」

 

 いつも通りのタックルで感謝を示そうとするペグ子が奥沢さんの腰に食らいつく寸前で襟首を掴む。

 抱きつこうとして空振りした腕を交差させて離れていくペグ子を見て、奥沢さんは額の汗を拭った。

 

「ふー、間一髪。鳴瀬さん、ありがとうございます」

 

 軽く頭を下げる奥沢さんにヒラヒラと手を振る。

 

「おうおう、気にしないでいいぞ。それより、他の3人はどうしたんだ?」

「あー、花音先輩たちは物販を見てからドリンク買うって言ってましたよ」

「そうか、確かに演奏途中で抜け出したくないなら、今しか行くタイミングはないわな」

 

 ライブではそのバンドのCDやグッズの物販会場が併設されていることが多い。ライブを聞いて「これだ!」と思ったバンドのアイテムをその場で買えたり、会場限定のグッズが販売されたりと有力なバンドが出演するときには大変な盛況となる。

 

 しかし、座席指定のないライブハウスでは演奏を聞いて物販に抜け出すと戻ってきたときによい場所が空いていないことはざらにあるし、先行組に買い荒らされてグッズが既に売り切れていたということもある。

 かといって最初に無名のバンドのグッズを買いに走ると演奏を聞いて大したことがなかったなんてハズレを引くリスクを抱えることになるため、物販に並ぶタイミングは中々シビアだ。

 

 特に、今回は《HS DM》の物販があることもあり、売り切れる前に多くの客が物販に殺到することをが想定された。

 そこで俺は敢えて物販を捨てることで、ライブを絶好のスポットで見ることを選んだのだが、その読みは見事に当たり、観客席の中央やや前よりというベストプレイスを確保することに成功した。

 

 客席は前に寄りすぎると全体像が見えず、かといって後ろに下がれば臨場感がない。ある程度全体が見渡せる中央、そして臨場感が味わえるやや前が理想的なポジションなのだ。

 

「しかし、物販に3人が並んだとなると合流して一緒に観るのは厳しいかな」

 

 そろそろ開演時間も迫り、客席は徐々にその密度を高めている。密集したハイテンションの客の中で自在に動くことは不可能に近い。

 

「あっ、その心配はないみたいですよ?」

「ん?」

 

 そう言って奥沢さんが指差した方を見ると、松原さんたち3人が手を振りながらこちらにやってくる。その手にはしっかりとドリンクも確保していた。

 

「お待たせしました~!」

「おーう、お疲れ。早かったな、目当てのものは買えたのか?」

 

 予想よりも早い合流に、買い物の成否が気になった俺が尋ねると、薫が首を横に振る。

 

「いや、実は私たちは物販には買い物に行った訳じゃないんだ」

「え、じゃあ何のために行ったんだ?」

 

 買い物以外に物販に行く意味などあるのかと首を傾げていると、その答えは北沢さんの口から飛び出した。

 

「それはね、物販でどんなグッズがあるのか確かめておいたら今度《ハロハピ》のグッズを作るときの参考になると思ったんだー!」

「ああ、私も子猫ちゃんたちが買い求めたくなるようなグッズのビジョンが浮かんだよ!」

 

 北沢さんは胸の前で力強く握り拳を作り、薫は天井を仰いで両手を広げる。どうやら二人とも収穫ありという感じらしい。

 

「はー、なるほどな」

 

 確かに、他のバンドの売れ筋のグッズやデザインなんかを見ておけば、今後自分たちがそれを参考にグッズを作ると無駄がないのかもしれない。

 

「凄いわみんな! そんな先のことまで考えてくれているなんて!」

「えへへ、はぐみ、ナイスアイデアでしょ!」

 

 北沢さんのアイデアに喜んだペグ子が彼女に駆け寄り、二人は手を取り合って楽しそうに笑い合う。

 

 ……みんな《ハロハピ》が絶対に売れると思ってるんだな。

 

 彼女たちは本当に一分の疑いもなく《ハロハピ》は成功すると信じている。その頭の中には輝かしい未来のビジョンが浮かんでいるのだろう。

 

 そして、それは俺の頭の中にもおぼろ気な輪郭を伴って見え始めている。

 

 その未来が幻想なのか。はたまた現実に訪れる未来なのか。

 

 その答えが出るときはもうすぐそこに迫っている。

 

 ーーブツン!

 

「わっ!? 何、何!?」

 

 会場の明かりが急に落ちて、はしゃいでいた北沢さんが驚きの声を上げる。

 

「Hey hey hey ! Ladies&gentleman, listen listen listen !」

 

 わずかなネオンの明かりのみが支配する薄暗闇の中、スピーカーからライブハウスのMCの声が流れる。声の主は間違いない、Mr.来夢来人こと横瀬さんだ。

 

「いよいよお待ちかね『school band summer jam 14th』の幕開けだ! みんなも知っての通り、このライブの参加資格は『フレッシュな学生であること』、ただそれだけだ!」

 

 《ハロハピ》のメンバーがMCの声に集中するのが気配でわかる。

 

「卵から孵ったばかりのひよっ子(しんじん)も、脂の乗り始めたブロイラー(セミプロ)も、ここでは等しくバンドマンだ!」

 

 そうだ、一度(ひとたび)ステージに上がってしまえば俺たちはみんな等しく「バンドマン」だ。そこには上座も下座もない。ただひたすら実力だけが支配する純然たる音楽の世界だ。

 

「青い春は一度きり、このライブは今日限り 血潮は滾る、手に汗握る ドンと来い若人ーー」

 

 チャンスは一度。全てを賭ける。

 

「ーー彼らの輝き Don't miss it(めにやきつけろ) !」

 

 さぁ、俺たちのステージを始めよう。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「始まったわ! 始まったわ! 始まったわよ、鳴瀬!」

「うっせぇ、3回も言わなくても分かってるよ。やずやですら2回しか言わねぇのに……まったく」

 

 演奏前だというのにはしゃいでいるペグ子を窘めつつも、俺も心がざわついているのがわかる。一度幕が開けたらノンストップ。ライブの高揚感とはそういうものだ。

 

 それに、ペグ子や俺だけじゃなくて他の《ハロー、ハッピーワールド!》のメンバーも同じ思いのようでみんなそわそわした様子だ。

 

 全員の浮わついた気分を紛らわすために、俺は演奏順が書かれたチラシをポケットから出してメンバーの前で広げる。

 

「オーケー、お前ら俺たちの順番は7番手、後半の頭だ。そこまでにはしゃぎすぎてステージでへばるなよ?」

 

 優しい俺の気遣いに、ペグ子は子ども扱いするなというようにほほを膨らませて怒る。そういうところが子どもっぽいんだが。

 

「そんなこと分かってるわ!」

「お前の元気は底無しなのは知ってるから。んで、準備も含めると、6番手のバンドがステージに上がるときには既に舞台袖で控えてないといけない」

「ということは、つまり《HS DM》の演奏はーー」

「ーーそう、舞台袖で聴くことになる。そして、そこに俺はいない。観客席からお前たちを見て、演奏後にアドバイスがいるからな。……いいか、くれぐれも呑まれるなよ(・・・・・・)?」

 

 薫の言葉を拾って続けた俺の言葉にみんなが頷く。

 

「さっきMCの来夢さんも言ってたが、ステージの上ではみんな「バンドマン」だ。上も下もない。だから、最高に楽しんで、最高に暴れてこい!」

 

 そう言って俺が拳を突き出すと、《ハロハピ》メンバーもみんな拳を突き出す。全員で拳を突き合わせ、俺たちは覚悟を決めた。

 

「んじゃ、とりあえずしばらくは観客としてライブを楽しみますか。最初のバンドは《Poppin'Party》だ。多分、実力的に同じぐらいのガールズバンドだろうから精一杯応援してやりな」

 

 俺の言葉にみんなが頷く。

 

「わかったわ!」

「そうだね、控え室では話しきれないこともあったから、その分はここで声援に変えて伝えようじゃないか!」

「うんうん、応援されると嬉しいもんね!」

「わ、私も頑張って声を出します!」

「私もライブって初めてだからちょっと楽しみかな~」

 

 それから少しワイワイと喋っていたところ、ステージに明かりが灯ってお揃いのコスチュームに身を包んだ五人の少女が現れた。

 

 やや、緊張した硬い動きが初々しい五人の中で、角が生えたような面白い髪型の少女、《Poppin'Party》のリーダー、戸山香澄さんがマイクへと一歩進み出る。

 

「皆さん、はじゅめまして! 《Poppin'Party》でしゅ!」

 

 ……噛んだ! しかも2回も噛んだ!

 

 暫しの沈黙がステージを支配したあと、再び戸山さんが口を開いた。

 

「すみません、噛みました!」(言わなくていいって!)

「あ! 有咲ちゃん、声拾っちゃってるよ!?」(だーかーらー、言わなくていいから!)

 

 戸山さんの素直すぎる発言に、後ろのツインテールのキーボード担当、市ヶ谷さんがツッコミを入れて、そのツッコミまでもマイクが拾う。

 

 ドッ! ワハハ! イイゾー、ガンバレー!

 

 いきなりの二人のコミカルなやり取りに、会場から笑い声と声援が飛ぶ。

 

 ……お、思ったより客のノリがいいな。『学生オンリー』だからその当たり理解してる客が多い感じか。

 

 ライブでは客の雰囲気で展開が大きく変わることがある。シビアな客が集まるライブでは、こんなもたついたMCなんてやってたら、総すかんを喰らうことだってあり得る。

 そう考えるとデビュー戦の《ハロハピ》にとって、今日の観客は厳しすぎない一般オーディエンスというベストな観客だと言えた。

 

 ステージ上では戸山さんがわたわたしながらもなんとかMCを続けている。

 

「ご声援ありがとうございます! こんな感じで私たち《Poppin'Party》は、まだまだ未熟なバンドです!(バンドじゃなくてお前がだろ!) でも未熟なりに毎日頑張って練習して、みんなでやれることを全部やりきってここに立ってます! 今日はその全部を出しにいきます。それでは聴いてください、《Poppin'Party》で曲は『夢を撃ち抜く瞬間に!』です!」

 

 なんとか戸山さんが上手くまとめて、いよいよ今日ライブの一曲目が始まった。

 

 対バンライブでは最初のバンドの一曲目はすごく重要な意味を持つ。

 この曲があまりにもヘタだと、後続のバンドと競わせる意味が無くなるし、上手すぎたらハコの盛り上がりが右肩下がりとなり消化不良のライブとなる。

 

 ……そういった点では「学生らしい程よい演奏」が欲しいんだが、さぁ、どう出る《Poppin'Party》?

 

 そんな俺の希望など露知らぬであろう《Poppin'Party》の演奏が始まる。

 

 先程までの私の部屋した様子とは一転、引き絞られた弓の弦のような表情で戸山さんがマイクに向かう。

 

 ……くるか。

 

 彼女の口が開き、静寂が支配するライブハウスに音が生まれる。

 

『夢 撃ち抜く瞬間に キミは何を思うの?』

 

 ……これは。

 

 実は、すごい音楽を聴いて鳥肌が立つという現象は全ての人間に起こることではない。俺自身、今まで凄い音楽を聴いて、感動で固まることはあっても鳥肌が立つことはなかった。

 

 しかし、戸山さんの歌声はそんな俺に鳥肌が立ったと錯覚させるほどの迫力(オーラ)があった。

 

 そして、コーラスが入ると同時に楽器の演奏も始まる。

 

 おお、こっちも悪くない。

 

 まだ全容は判らないが、とりあえずつかみとしては完璧な演奏だ。イントロは100点中90点以上の出来だと文句なしで言える。

 

 さぁ、いよいよAメロだ。今まではお試し期間、ここからが演奏の本番だぞ。

 

 イントロで上げるだけ上げて、中身がなければ意味がない。イントロで期待値が上がった分、その落差は大変なものになる。

 

 それでも、《Poppin'Party(このバンド)》ならやってくれる。

 

 俺には確信めいた予感があった。

 

『はしゃぎながら いつでも追いかけてた』

 

 Aメロに入り、最初の数小節を戸山さんが歌う。

 

 しかし、ここで戸山さんは後ろにスイッチ、入れ替わるようにもう一人のギター、花園たえさんがマイクの側に立つ。

 

『ほのかに光る 夢の欠片』

 

 うぉ、マジか。これ全員で歌っていくパターンの曲か!

 

 初心者バンドとは思えない凝った演出に心が震える。

 

 MCパフォーマンスの時に、マイクがキーボードの市ヶ谷さんの声を拾うほどに感度を上げていたのは、一人のボーカルがマイクに張り付くスタイルじゃなかったからなのだと気づかされる。

 

『きらめく 思い出たち 抱きしめ 踏み出す きみの背中 愛おしい』

 

 ボーカルが入れ替わっていくというスタイルの衝撃が冷めやらぬうちに、曲は最初の山場へ向かう。

 今ボーカルは最初の二人に牛込りみさんを加えた三人だ。しかし、マイクの側にはいないがドラムとキーボードの二人も間違いなく声を揃えて歌っている。

 

 これが《Poppin'Party》のスタイルか。ここはメンバーみんなのハーモニーで輝くバンドなんだな!

 

 一人一人は未だに細い湧水でも、それを縒り集めれば一つの大きな流れとなる。彼女たちはそれを俺たちに見せてくれる。

 

 それを示すようにステージの上で《Poppin'Party》のみんなが顔を見合わせる。それは、互いに信じ合った者たちでしか見せられない最高の笑顔。

 

 ……ああ、バンドに賭けた青春とは、なぜこんなにも美しいのだろう。

 

 イクヨー! セーノ!

 

『青い空に Yes! BanG! Dream! 風に揺れる勇気の歌 約束したあの場所と キミを繋いだメロディ』

 

 サビが終わって曲の一番が終わる。正直、見所しかない演奏だった。

 

 ……いいじゃないか、《Poppin'Party》! このバンドは俺たち《ハロハピ》の最高のライバルになる!

 

 善き強敵(とも)の存在が、自分という存在を更なる高みへ引き上げてくれることがある。彼女たちが《ハロハピ》にとっての強敵になる。そんな確信めいた予感が俺の胸の内に宿った。

 

 そんな新しいライバルの出現に胸を震わせている内に、彼女たちの演奏はもう終盤に差し掛かっていた。

 

『夢見たなら Yes! BanG! Dream!』(Yes!)

『続いていく 明日のうた』(ハイ!)

『約束したこの場所へ キミを届けたメロディ』(イェーイ!)

 

 うわ、すげぇな、即席でコールが入ってるよ。

 

 恐らく身内以外は聴いたことが無いだろう初めての曲。それでも会場の客たちは思い思いのコールを《Poppin'Party》へと送る。

 

 今日の客層がメタル系の人間寄りで、全体のノリが良いということもあるのだろう。

 

 しかし、それを引き出したのは紛れもなくステージの上の彼女たちだ。

 

 最後のコーラスが終わり、一瞬音が止む。

 

 そして、次の瞬間に割れんばかりの拍手がライブハウスに木霊した。もちろんその拍手には俺の、そして《ハロハピ》のものも含まれていた。

 

 拍手の渦がなり止まぬ内に、戸山さんがマイクへと一歩進み出る。2曲目との繋ぎのMCの時間だ。

 

「み、皆さん、大きな声援ありがとうございます! ほとんどの皆さんが私たちの曲なんて知らないのに即席でコールももらって、とっても嬉しいです!」

 

 戸山さんは、会場の声援に感無量といった表情だ。

 

「私たち《Poppin'Party》はこれからも頑張ります! 応援よろしくお願いします! 今日はありがとうございました!」

 

 そう言って戸山さんが頭を下げる。

 

 すると。

 

(香澄~! 何〆に入ってるんだよ! まだ1曲目! あと2曲あるから!)

 

 あきれた声の市ヶ谷さんのツッコミをマイクが拾った。

 

 戸山さんはばっと頭を上げて、市ヶ谷さんの方を「あ!」と叫んで振り返ると、再び観客席へと顔を向けた。

 

「すみません! まだあります! あ、2曲ですよ、2曲!」

 

 ドッ! ワハハ! シッカリヤレヨー! ガンバレー!

 

 慌てた様子の戸山さんに観客から暖かい声援が飛ぶ。

 

 彼女を見ているとドジをしても声援を送りたくなってしまうのは、彼女の人徳故か、あるいは彼女がバンドに賭ける熱意故か。

 恐らくは、その両方なのだろう。

 

 その後、《Poppin'Party》はしっかりと残る2曲を演奏して暖かい拍手に包まれながらステージをあとにしたのだった。

 

 

 

◇◇◇

 

 

《Poppin'Party》が袖に消えて、次のバンドの準備のために小休止の時間が入る。

 

 客席では観客たちが思い思いにバンドの感想を述べ、耳に入るその多くが好意的なものだった。

 

 実際、俺も《Poppin'Party》は想定よりもよかったと思う。青くまだ熟れきっていないガールズバンド特有の、爽やかさと輝き。彼女たちは正に今回のライブのテーマを体現したかのような存在だった。

 ライブハウスが狙って彼女たちをトップに据えたのかは判らないが、結果としてこれは大成功だ。

 

 そんなことを考えているとTシャツの袖がぐいっと引かれる。そちらを見ると何か言いたくてたまらないといった表情のペグ子と目が合った。

 

「すごいわ! すごいわ! すごいわ、鳴瀬! これがライブなのね!」

 

 目が合った瞬間に、散弾銃のような勢いで放たれるペグ子の言葉に曝される。

 

「うむ、これがライブだ」

 

 ペグ子の勢いを受け止めながら俺は首肯する。

 

 そして、それを見た他の《ハロハピ》メンバーも一斉に口を開く。

 

「ライブ……、なんて儚いんだ! 演劇の舞台にも儚さがあったが、ライブほどの客席との一体感はなかった。バンドと観客とが一体となって作る一回きりの芸術……! ああ、儚さで頭がくらくらする!」

「はぐみもびっくりしちゃった! ソフトボールの時の歓声と同じぐらいのパワーがあるんだもん!」

「うん、《Poppin'Party》もお客さんもすごいエネルギーだったね」

「ライブってこんなのだったんですねー、なんか思ったよりもすごいところに来ちゃってますね……」

 

 全員の饒舌さから、みんな(松原さんは違うかもしれないが)初めて肌で感じるライブのオーラに当てられているようだ。

 

 実際、俺も初めてのライブ参戦では興奮しすぎて終了後は何も覚えていなかった。

 

 しかし、彼女たちにはライブの熱に当てられているだけでは困るのだ。

 

「ああ、みんな理解したか。これがライブだ。しかし、みんなはまだライブの一側面しか見ていない。なぜなら、今からお前らは観客席(こっち)じゃなくて、舞台(あっち)に立つんだからな」

「……!」(×5)

 

 俺の言葉で、浮かれていた《ハロハピ》のメンバーに鋭い空気が流れたのがわかる。

 

「もちろんよ、鳴瀬! だって私たちはそのためにここに来たんだもの!」

 

 そんな中で相変わらずのペグ子が自信満々といった表情で頷く。

 

「へぇ、こころはもう《Poppin'Party》みたいに自分たちがステージに立ってる姿が見えたのか?」

「ええ、もちろん! 彼女たちよりも大きな声援をもらう私たちの姿が見えてるわよ!」

「ははっ、大きく出たなおい!」

 

 ペグ子の言葉に俺は思わず笑ってしまう。

 

 何の根拠もない大それた自信。

 

 それはいつでも若人だけに許された特権だ。

 

 或いは、本当に俺が教えたから自分たちは負けないと思ってくれているのか。

 

 いずれにしても、最高に気分がいいな。

 

 俺は最高の気分のまま、ペグ子の頭をぐしゃぐしゃと乱暴に撫でてやった。

 

「もう、鳴瀬ったら! レディの頭はもう少し優しく扱ってよね!」

「ははっ、悪い悪い! でも、その気持ちは最高にcoolだ。ステージに立つ瞬間まで、自分こそが最高だってことは忘れるなよ」

 

 俺の言葉にみんなが頷く。

 

「ま、今は観客としてライブを楽しもう。さぁ、そろそろ次のバンドが来るぞ」

 

 俺の言葉を聞いていたわけではないのだろうが、ちょうどその時拍手と共に舞台袖から次のバンドが姿を現す。

 

 煌めく光を浴びるそのバンドの姿の向こうに、俺はそれ以上に煌めく《ハロー、ハッピーワールド!》の姿が見える気がしていた。

 

 




3000文字ぐらい書いた辺りで、突然ブラウザが落ちて文章が飛んだのにはびっくりしちゃったな(白目)

ということで、トップバッター《Poppin'Party》のライブでした。彼女たちは既に何度かライブを経験した一歩先の存在といった設定にしてます。

《バンドリ》といえばやっぱり《ポピパ》は外せないので、最初にこの二次創作を考えたときから、《ポピパ》は絶対に出したかったバンドです。

 ただ、《ハロハピ》ほどに深く読み込んではいないので、もしかするとキャラがぶれてるかもしれません。そんな時は笑って許して(はぁと)

 次はオリジナルバンド《HS DM》のライブです。オリジナルバンドなんてどうでもええんや! という方もおられるとは思いますが、その次の《ハロハピ》の話のためにしばらくお付き合いくださぁい!


そして、私事ですがこれを書いている時点でUAが10000越えました!イェーイ! パフパフ!

本当に多くの人に読んでもらえて嬉しいです!島○卯月、頑張ります!

奥沢さんのサイドストーリー、読みたいのはどちら?

  • 結婚式場ルート。着ぐるみで疑似結婚式。
  • 田舎ルート。おばあちゃまの家でお泊まり。
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